後編。果たして勝つのは誰かな?
夕暮れ時から始まったこの激戦も、気づけば時間は夜になっていた。
通報のあったロイミュードや突如現れた異形の怪物達の追跡にフルスロットルで挑んでいた進ノ介であったが、いくら彼の運転技術が優れていたとしても普通のパトカーで怪物達のレースに追いつくのは無理がある。
時折爆発が見えることはあっても、具体的に何が起こっているのかはわからぬまま、道端に転がるオートバイの残骸を辿って行くしかなかった。
そんな残骸を常に避け続ける運転に集中している進ノ介を気遣ってか、霧子もレイキバットも口数は少ない。
やがてオートバイの残骸も減っていき、爆発の頻度も減ってきたかと思えば、工業地帯の方から今までで最大の爆発が目視できた。
何が起こっているのか、その答えを確かめるためにパトカーは走る。
その途中で周囲に大きな変化が起こった。
「………ッ! 泊さん、重加速が!」
「ああ、どうやらゴールは近いみたいだ」
重加速の解除はつまりこの先の戦いに何らかの決着がついたということ。できる限りのスピードで飛ばし、やがて辿り着いた場には進ノ介と霧子にとって衝撃の展開が待ち受けていた。
「あれは!?」
✳︎
少し時は遡る。
人間で例えるなら息も絶え絶えといった状態のアイアンロイミュードのすぐ後ろを、マッハが乗っているライドマッハーが疾走していた。
この何度も逃す羽目になった憎き敵も、とうとう年貢の納め時が来たらしい。
ダークディケイドがギャリドを撃破し、魔進チェイサーとバダーが小競り合いをしている今こそ、邪魔なしでアイアンロイミュードにトドメをくれてやるチャンスだ。
今度こそ確実に仕留めるというその決意が、マッハの持つ最大の切り札を握らせた。
その赤いシグナルバイクをマッハドライバー炎に装填、ボディとベルトから微かに走った電流も無視して、勢いよく発動する。
シグナルバイク! ライダー! デッドヒート!
シグナルコウリンのみの変化だった他のシグナルバイクと違い、そのシグナルデッドヒートがもたらしたのはマッハそのものの変化だ。
上半身の装甲とマスクに、灼熱の炎を連想させる赤の追加装甲を纏う。シグナルコウリンは稼働エネルギーと熱量を表すパラメーターのDH-コウリンとなり、全身から溢れ出す余剰熱の蒸気からマッハの強化形態が姿を現した。
仮面ライダーデッドヒートマッハ。
変身者の負担と引き換えに、マッハのさらなるパワーアップを目的として開発された強化形態である。
「さあ、速攻で決めてやるよ!」
シグナルコウカン! キケーン!
バースト! キケーン!
シグナルキケーンの能力で呼び出した巨大な顔の付いた弾丸、魔獣が逃げるアイアンに迫る。
もはやまともな回避動作もできないアイアンは呆気なく魔獣の牙にかかり、ガリガリと機械を削る嫌な音が悲鳴と共に響く。
その不条理な攻撃でついに逃げる気力すら失ったアイアンが地面に落下していく途中、その機を逃さずにデッドヒートマッハは跳躍した。
ヒッサツ! バースト! フルスロットル! キケーン!
目にも留まらぬ速度で回転するマッハの空中スピンで生成される膨大な熱エネルギーが、スピンに沿って幻視させ、さらにそれを魔獣のエネルギーが包む。
最大になったエネルギーがマッハを急降下させ、大気を焦がす熱を纏った跳び蹴りを繰り出した。
「でゃやああああああああッッ!!」
必殺技、キケンヒートキックマッハーの足先に捉えられたアイアンのボディ。
防御の構えすら取れず、一瞬の拮抗の後に圧倒的な威力と熱量で融解し、砕かれる。
足先からエネルギーを全て放出する勢いで貫いたマッハが地面に着地した時には、崩壊が全身に伝播したアイアンは木っ端微塵に爆発していた。
「うわあああああっ!?」
「よし、これでまた1体……!」
アイアンの完全なる消滅を示す、爆炎の中で砕け散った029のコア。勝利を噛み締めて、しかし余韻に浸ることもなく、マッハは次なる標的に意識を向ける。
「死神……、次はお前だ!」
今も魔進チェイサーと戦っているあのバッタ怪人含め、突如乱入してきた怪物達が何者か、という疑問が浮かばないわけではない。
だが、あの乱入者達がいなければ、ダークディケイドとかいう信用できない味方と共に、ロイミュード4人を一挙に相手取らなければいけなかったのだ。
正直に言って敗色が濃厚だった状況を彼らのおかげで覆せたとも思えるし、ロイミュードより優先して倒す必要はないというのが、剛の考えだったーーー無論放置する気もないが。
バースト! キュウニデッドヒート!
再び噴き上がる蒸気は、デッドヒートのスピードとパワーが一時的に底上げされたことを示す。
湧き上がる力を溜め込むように深く腰を落としーーーその残像を残して消えるマッハ。
今にもボディから溢れ出しそうなパワーによる跳躍と、驚異的な加速で走行中のライドチェイサーのすぐ真横にまで、赤い閃光が駆け抜ける。
第三者の視点から見れば、ライドチェイサーまで瞬間移動したようにも見えるほどのスピードが今のマッハにはあり、魔進チェイサーといえども、これには狼狽してしまう。
そこへ高熱のエネルギーを纏った拳を思い切りぶつけてやれば、魔進チェイサーはバイクから引きずり降ろされることになる。
「ぐっ!? なんというスピードだ!」
「オラオラオラオラオラ! お前もここで終わらせてやるよ!」
赤い稲妻が迸る怒涛のパンチラッシュ、ボディを削り取るゼンリンストライカーの回転………通常のマッハを上回る勢いで放たれる数々の技で一気に畳み掛けていく。
しかし、若干押されつつはあるものの、魔進チェイサーとて黙ってやられるような戦士ではない。
マッハの猛攻を辛うじて捌きながら、近接戦用の武装を呼び出した。
TUNE CHASER! SPIDER!
巨大なクロー、ファングスパイディーの爪先がゼンリンシューターの打撃を受け止めた。
火花を散らす武器同士の激突から生まれた衝撃で両者は弾き飛ばされ、次の激突にほんの一瞬だけ猶予が生じた。
獲物を横から取られた形になったバダーにはそれを黙って見守る気などさらさらないようで、当然その猶予に割り込もうとするのだが。
「邪魔をするな」
「邪魔しにきたのはそっちでしょう!?」
そこに割り込もうとするバギブソンの行く手を、マシンに乗ったダークディケイドが慌てて遮る。
邪魔者がいないことを確認できたマッハの攻勢はさらに勢いを増して、魔進チェイサーに殴りかかっていく。
*
縦横無尽に駆け巡るバギブソンになんとか食らいついて、その行く手を阻むダークディケイド。
長い乱戦の末にようやく1対1の状況まで持ち込めたのだから、ここでマッハの邪魔をさせるわけにはいかないと意気込む大地は、早くも頭の中でドライバーが指し示すカードを確認しつつ、次の一手を考える。
バイクを自在に乗りこなし、バッタの俊敏性も兼ね備えているだろうという推測を加味すると、候補としてはドレイク、エターナルなどが妥当か。
「フンッッ!!」
「くっ、じゃあこれで!」
すでに3回カメンライドを使用している自身のスタミナを考慮すれば、ここは慎重に選択すべき場面であるはずなのだが、バギブソンの唸りを目前にして、悠長にカードを選んでいる暇はない。
咄嗟に抜き取ったカードを叩き込み、4度目のフォームチェンジを実行に移す。
その時大地がこのライダーを選んだのは偶然か、それとも必然だったのか。それは誰にもわからない。
KAMENRIDE CHASER
青みがかかったシルバーで煌めくそのライダーには機械的なパーツが散見され、同じ技術が使われているだけあって、マッハと類似する部分がいくつかある。
このDDチェイサーへのフォームチェンジはバイクのテクニックと俊敏性に対応できる能力があるライダーとして選ばれただけに過ぎない。
りんなが気になる反応を見せたのは覚えていたが、その意味について考えている暇は大地には無かったのだ。
しかし、忘れてはならないのがダークディケイドはバイクに乗っていたという点だ。
これまでと同様にマシンディケイダーもチェイサーに対応した変化を遂げるのだが、問題はそこにある。
「ッ!? 同じバイク!?」
どういうわけか、DDチェイサーが乗っているのは魔進チェイサーのライドチェイサーと全く同じ外見であり、召喚した武器までもがあのブレイクガンナーとくれば、驚かずにはいられない。
その困惑が戦いの場において致命的な隙を晒しているのは当然のことで、迫り来るバギブソンの前輪を見てようやく我に返っても、すでに避けられる距離ではなかった。
「ギベ!(死ね!)」
しまった、と焦るDDチェイサー。仕方ないとはいえ、犯したミスを悔いてももう遅い。
DDチェイサーにはこれから来るであろう衝撃に備え、胸部の前で両腕を交差させて防御の構えを取ることしか残されていなかったのだ。
仮面の奥でぐっと歯を食いしばって、大地はこのチェイサーの装甲がバギブソンの一撃をできるだけ軽減してくれることを祈る。
そしてその空気を引き裂く回転がついに衝突しようとした直前、異変は起こった。
「………え?」
伝わるはずだった衝撃がいつまで経ってもやってこない。
見渡しても、そこには1人で防御の構えをとるDDチェイサーしかいない。
そう、前輪の突撃が命中する直前にバダーとバギブソンの姿は綺麗さっぱり消え去ったのだ。
透明になって奇襲を狙っている、違う場所にワープしたなど候補はいくつか浮かんでもその理由がわからない。不利だったのは明らかにこちら側だったのに。
気配もなく、まるで最初からそこにいなかったかのようにも思えてくる。
あまりにも理解を超えた状況に置かれ、思考も纏まらない。
逃げた、ではなく消えたのだ。攻撃の手段としてでもなく、本当にただ消えただけ。
漂う排気ガスの臭いがなければ、白昼夢だと錯覚してしまってもおかしくはない。
「………今はあっちをやろう」
答えの問いについて考えるぐらいなら、無理矢理にでも思考を切り替えるしかない。
消えたならそれでいい、最後に残った敵を倒せばいいだけだから。
デッドヒートマッハと互角の戦いを繰り広げる魔進チェイサーへブレイクガンナーの銃口を向けかけて……放り捨てる。
敵と同じ武器を使えば、要らぬ疑いを持たれるかもしれない。
普段だったら思いつかないこの考えもマッハからの懐疑的な態度があればこそ。
信頼を得られない、という結果を無意識の内に恐れている大地は放り捨てたブレイクガンナーの代わりの武器を召喚する。
ATTACKRIDE SHINGOU AX
信号機がそのまま斧になった奇抜なデザインの武器、シンゴウアックスの召喚をドライバーが告げた。
こんな奇妙な外見の武器なら帰って疑われる可能性は低いかもしれない、なんて根拠の無い考えすら思い浮かべて、DDチェイサーは疾走を開始した。
✳︎
マッハと魔進チェイサーの戦いを見る者がいれば、その誰しもが「互角」と評するだろう。
デッドヒートとなってパワーアップを遂げたマッハであっても、魔進チェイサーは押し切れない。
逆に魔進チェイサーもデッドヒートマッハのパワーとスピードには手を焼いている。
先ほどまではお互いマシンに乗っていた他、多くの乱入者もいたために実力以外の要素が多かったが、今は完全に1対1だ。
実力が拮抗している現状が続けば、不利になるのはデッドヒートの時間制限を控えたマッハの方で間違いなく、それを自覚しているが故の焦りが、スペックで圧倒しているはずの魔進チェイサーと互角の勝負をさせているのだ。
「詩島さん、今行きます!」
そこへ、この勝敗を左右させる存在、DDチェイサーが駆けつけた。
振り上げたシンゴウアックスが下りる先は、ファングスパイディーの爪先。
「ハアッ!」
気合の一撃が魔進チェイサーの体勢を崩し、ガラ空きになった箇所へマッハが打撃を叩き込む。
後ずさり、悶える魔進チェイサー。
このDDチェイサーとデッドヒートマッハのパワーを合わせれば、この相手を倒すのにも大した苦戦はしないだろう。
しかし、油断は禁物と芽生えかけた慢心を律して、魔進チェイサーを見据えた直後、大地の頭に微かな頭痛が響いた。
『俺はもう一度やり直す』
「うっ………今のは」
一瞬だけ脳内に映し出された、見覚えのある男のビジョン。
それがダークディケイドライバーから送られた記録だとは理解できるのだが、何故こんな状況で送るというのか。
疑問に思う間も無く、またしても脳内に広がるビジョン。しかもその数はさっきの比ではない。
『逮捕しろ。それが人間のルールだ』
『人間を護るのが、仮面ライダーの使命ではないのか!?』
『俺は、生きとし生けるもの全ての自由のために戦う戦士、仮面ライダーチェイサーだ……!』
それは人間を愛し、使命と誇りを胸に戦う偉大な戦士の記録。
時に苦悩し、傷つくその戦士の顔は目の前の敵の人間態と同じであるばかりか、魔進チェイサーに変身している映像すらある。
「これって、仮面ライダーチェイサーの……魔進チェイサーってまさか……!?」
仮面ライダーチェイサーと魔進チェイサー。
同じ顔、同じ装備、同じ名前の人物が変身しているとは、つまり同じ存在、所謂フォームチェンジのような関係が両者の間にあるとするなら………。
目の前の魔進チェイサーとは、本当に敵なのか?
戦意を覆い被さる疑惑が武器を握る力を徐々に弱めていく。
あの映像にいた人間を愛する戦士が、魔進チェイサーと重なって見えてくる。
実際に受けてきた行為は人間に対する敵意が込められていたにも関わらず。
そんな自問自答を繰り返すDDチェイサーなどお構いなしに戦局は進行していく。
「死神ィ! お前もこれで最後だな!」
「ぐぅ……黙れぇ!」
DDチェイサーのたった一回の横槍がマッハと魔進チェイサーの均衡を崩し、場の流れはマッハに傾きかけていた。
デッドヒートのブーストがかかったゼンリンシューターの一撃はファングスパイディーよりも微かに重く、勢いだって上だ。
これも大凡互角だった両者の戦闘にDDチェイサーの一撃、デッドヒートの上乗せなどの要素が絡み合った結果に過ぎない。
これ以上近接戦をしても不利であると悟った魔進チェイサーは一旦距離を取ろうとする。
恐らくは武装を変える気だろうが、距離を離したのはマッハにとって大きなチャンスでもあった。
チェイサーバイラルコアをセットする時間とマッハドライバー炎を操作する時間はほぼ同じとするなら、有利なのは必殺技の準備動作であるマッハの方だ。
ヒッサツ! バースト! フルスロットル! デッドヒート!
「ッ! しまった!?」
ゼンリンシューターに収束する膨大なエネルギーに気づき、魔進チェイサーは慌てて換装を中止するが、すでに遅い。
シグナルデッドヒートのエネルギーを充填して放った一撃はまずファングスパイディーに激突し、粉々に粉砕する。
その威力は武装の破壊だけに留まらず、魔進チェイサーの装甲にも大きな衝撃と爆発を与えた。
「グアアアッ!?」
「あっ……!」
魔進チェイサーの痛々しい悲鳴につい反応を漏らす大地。
撃破には至らずとも、戦闘続行が困難になる程度の損傷がその紫のボディには刻まれている。
「いよいよ年貢の納め時ってわけだ」
バースト! デッドヒート! ゼンリン!
そんな状態で這い蹲る宿敵を見逃すはずもなく、マッハは再びドライバーを叩く。
マッハドライバー炎の音声を聞いた瞬間、居ても立っても居られなくなったDDチェイサーはついに駆け出した。
ATTACKRIDE CHASER!
瞬間的な加速を発動し、マッハの前に躍り出るDDチェイサー。
その際、マッハに背中を向けることで背部の高速回転するホイーラーダイナミクスがゼンリンシューターの打撃を弾き飛ばした。
完全に威力を殺しきれたわけではなかったが、それでも受けた衝撃は些細なものだ。
「お前! どういうつもりだ! なんで死神を庇う!?」
「貴様は一体……それに、その姿は?」
敵対している相手を突然庇うなんて暴挙に出たDDチェイサーに、両者が疑問をぶつけるのは至極当然のもの。
大地だって衝動的に飛び出してしまったわけで、納得してもらうのは難しいだろう。
目の前の敵が実は人類の味方、仮面ライダーになるかもしれない、なんて今でも信じられないくらいだ。
それでもここは落ち着いて事情を説明するしかない。
(鬼塚さん……貴女みたいに救えたはずの人を見捨てるのは、もうしませんから)
わかりあえるはずなのに、殺しあうなんて悲し過ぎる結果を生む前に。
「落ち着いて聞いてください。えっと、この死神ってロイミュードは実は」
「わけわかんねーこと言いやがって! いいからとっとどけ!」
大地の話に耳も貸さず、どこか焦った様子のマッハはDDチェイサーを押し退けて行こうとする。
それでもDDチェイサーは再度立ち塞がる。
客観的に見ておかしいのが自分であることは重々承知しているが、大地にだって退けない理由がある。
もし何かの誤解で争っているのだとしたら、話し合って欲しい、命を奪いあわないで欲しいという我儘がDDチェイサーを突き動かす意志であり、理由であるのだ。
「落ち着いて、話をしてくれませんか。あの魔進チェイサーは悪い人じゃないかもしれません」
「お前……ロイミュードに肩入れするってのか!? だったら!」
しかし、残念ながらマッハにはそんな事情知ったことではない。
元々信用を寄せていなかった相手が邪魔をするというのなら、彼の取る手段はただ一つ、強制的な排除だ。
その意志を示すゼンリンシューターの一撃を紙一重のところで回避するも、続く高熱のフックが白銀の装甲に沈むのは防げなかった。
「ぐっ!? そ、そういうつもりじゃなくて、あくまで話をして欲しいだけで!」
「じゃあそこを退けって言ってるだろ! 死神をぶっ倒した後に聞いてやるよ!」
話は平行線のまま、始まったマッハの猛攻をDDチェイサーはひたすら躱すしかない。
隙を見て説得の言葉を投げかけようとしても、今のマッハに聞く耳はなく、少しでも気を抜けば攻撃を叩き込まれてしまう。
しかも、回避に徹していてもその思い通りにはならず、銃撃と打撃の変則的なラッシュが次第にDDチェイサーに当たり始めた。
適切な手段を講じようとしても、マッハの姿が大鎌を持った別のライダーと重なり、思考を掻き乱されてしまう。
同じところなんてどこにもないのに、それでも幻視してしまうその姿は大地の心を揺さぶった。
(これじゃあ鬼塚さんの時と同じじゃないか!)
リヴォルの幻影を振り払おうとするほどに苦しみが増していく。
そしてその苦しみはDDチェイサーの動きを鈍らせ、結果的にマッハの攻撃が命中させる要因になる。
どうしようもないこの悪循環は意外な形で幕を降ろすこととなる。
「ガァッ!? こんなところで限界かよ……!」
必殺技を連発し、さらにはデッドヒートまで使用したマッハの活動限界がついに訪れる。
異常なまでの熱を放出するデッドヒートの装甲に合わせて、マッハドライバー炎からも警告音が鳴り響く。
DH-コウリンのメーターが限界値まで振り切った瞬間には、マッハの変身は解除されていた。
これ以上の争いには一応発展せずに済んだわけだが、変身が解けてなお激しい感情を宿した瞳で睨まれるせいで、DDチェイサーの戸惑いは晴れない。
「何でだ……何で俺の邪魔をした!? 死神をぶっ倒す絶好のチャンスだったんだぞ!」
「あの人は人間の味方に、仮面ライダーになれるかもしれないんです! もしかしたらわかりあえるかもしれない」
「そんなわけあるか! ロイミュードは全部憎むべき悪なんだよ! 横からしゃしゃり出てきて勝手なこと言ってんじゃねえ!」
剛の言い分は最もかもしれない。あの記録で見えた魔進チェイサー、仮面ライダーチェイサーが正義のライダーだからってこの世界でもそうとは限らないとは、大地も理解している。
しかし、あの人間を愛する機械の戦士の記録を垣間見た時点で身体が勝手に動いてしまっていた。
衝動の赴くままに行動してしまった故、言葉を詰まらせるDDチェイサーに対しさらに食ってかかろうとする剛だったが、突然その動きは止まる。
「剛……まさか、お前が」
「仮面、ライダー……?」
戦闘に集中していた自分達が気付かない間に来ていたらしきパトカー。
そこから聞こえてきた声に剛の表情は驚愕に染まっていた。
「姉ちゃん……進兄さん……!?」
大地は、そのパトカーに乗っていた女性警官、霧子を姉と呼ぶのを確かに聞いた。
*
最愛の姉とそのパートナーに仮面ライダーマッハである自分の正体を知られた。
血の気が引く、という状態をここまで実感したのは剛にとって初めてだった。
驚きで言葉が出ないのは進ノ介、霧子も一緒のようで、しかし進ノ介の表情は険しくもあった。
何か弁明の台詞を言わなければいけない。そう理解していても、その口はまるで金魚のように、小刻みにパクパクと動くばかり。
「剛……どうして、どうしてあなたが!?」
「姉ちゃん…いや、これは……」
反応からして恐らく2人はマッハの変身が解ける瞬間を目撃したのだろう。
口の上手さには自信があれど、ここから完璧に誤魔化せるなんてできるわけがない。
ずっと黙ったまま、隠し通すつもりだったのに。
「あーあ、とうとうばれちまったなぁ。これで今までの努力もパー、ってわけだ」
「なっ……!?」
その刹那、木霊した声に剛は己の耳を疑った。
その主は状況を飲み込めずに混乱していたDDチェイサー、魔進チェイサーのものでないのは明らかだ。
愉悦を滲ませながらも、隠しきれない陰を帯びたその声には聞き覚えがある、なんてレベルじゃない。
同じ声ながら、異なる性質の声が同時に聞こえる。そんな現象の正体を剛は知っている。
だとしても、この詩島剛と同じ顔をした人物を実際に目にした時、驚かずにはいられなかった。
「剛が、2人……?」
「やあ、詩島霧子……いや、姉ちゃんって呼んだ方がいいかな?」
現れたのはもう1人の詩島剛。
その正体がオカルトチックなものではなく、ロイミュードの擬態であることはこの場にいる誰もが理解している。
「てめえ、ロイミュードか! 俺をコピーしやがるとは、覚悟はできてんだろうな!」
「おお、怖い。流石は俺、変身してなくても迫力満点だね」
下衆な笑みを浮かべていたそいつは詩島剛の皮を破って本来の姿を見せた。
蜘蛛型の下級ロイミュード、胸のプレートには「019」と刻まれている。
「それじゃ、とっととやらせてもらうよ」
「何だと……がぁッ!?」
剛を容赦無く蹴り飛ばし、踏みつける019の腕がマッハドライバー炎に伸びる。
何をするつもりかと思えば、触れた腕を通してマッハドライバー炎と何らかのやりとりをしている光景が見えた。
可視化されたデータの奔流が019のボディに流れ込んでいくにつれて、徐々に変異が始まっていく。
「詩島さん!」
「剛!」
「あんたらは俺の仲間と遊んでてよ」
駆け寄ろうとしたDDチェイサーや進ノ介達にどこからともなく現れた下級ロイミュード達が襲いかかっていく。
助けに行こうとしても、足蹴にされている状態では身動きも満足に取れない。辛うじてわかるのはその下級ロイミュード達がそれぞれ「066」、「020」、「055」、「051」のナンバーを持っているということだけだ。
変身しているDDチェイサーはともかく、進ノ介と霧子は鍛えているだけの人間だ。
相手が下級というのもあって今はまだ躱せているが、いつやられてしまってもおかしくはない。
「くそっ! どけ! どけよ!」
「言われなくてもどいてやるよ。もう用は済んだから、さッ!!」
またしても蹴り飛ばされる剛。
苦痛に耐えながら、なんとか立ち上がった時には019のボディはすでに見慣れた下級ロイミュードのものから完全に変異していた。
機械的な白いボディの所々に燃え上がるファイアパターン。
フルフェイスヘルメットに酷似した頭部には歯が剥き出しの口部と、くすんだ青の瞳。
首元に巻かれているマフラーはボロボロに穴の開いた布切れのようでもあった。
そして最も異質なのは、まるごとバイクになっているかのような右腕。付属している刺々しいタイヤからは攻撃的な印象が与えられる。
この姿こそがロイミュード019の進化態、スピードロイミュード。
まるでマッハのようだ、と剛は息を呑んだ。
「はは、ハハハハハ!! わかるぞ、これが俺の進化した姿! 今から俺はスピードだ!」
「その姿...マッハドライバーのデータを取り込んだっていうのか!?」
「ご明察。いやあ、アイアンには感謝しないとなあ? あのノロマのおかげで上手く事が運んだんだから」
「まさか......あの通報をしたのは...」
スピードの下衆な笑いこそが答えだろう。
仲間を売り渡し、あまつさえ自分とマッハの両方をコピーしたこの憎き敵を一刻も早く消してしまいたい、そんな想いとは裏腹に身体は思うように動かない。
必殺技を何度も発動し、さらにデッドヒートまで使用したのだからまともに動ける方がおかしいのだ。
そんな条理を無視して足掻こうとする剛の無様な姿が、より一層スピードの愉悦の笑いを誘う。
「いや、無理無理無理! あんだけ暴れた後なんだから当然でしょ!? ま、気持ちはわかるけどね」
「うるせえ...! お前らロイミュードは俺が倒す...! 倒さなきゃいけないんだ!」
「おお、いい顔してるねえ! 一枚撮っておきたいところだけど、その前にっと」
スピードの右腕にあるタイヤが回転し、青白いエネルギーが集まっていく。
チェーンソーのようにも見える回転が向けられた先には020、051を相手に奮闘するDDチェイサー。
ゼンリンシューターという武器を使っている剛にはその行為の意味が嫌でも察してしまう。
「そぉら!」
回転が生み出した円形状のエネルギーの光輪が猛烈な勢いで地面を走り、DDチェイサーまで到達する。
到達した光輪はDDチェイサーの足先から肩部にかけて一気に駆け抜け、その跡からは夥しい量の火花が散った。
「ぐああああああああッッ!?」
「もういっちょ!」
血飛沫のごとく火花を噴き上げて倒れるDDチェイサーには目もくれず、スピードは再びタイヤにエネルギーを溜める。
大きなダメージを食らったDDチェイサーに止めを刺すつもりかと思いきや、スピードの視線は全く別のところへ向いていた。
この場でDDチェイサーの他にスピードの脅威に成り得る者などいないはずだが、あの口から微かに漏れる喉を詰まらせたような笑いを聞いた瞬間、信じたくはない嫌な予感がよぎる。
仲間を平気で犠牲にして、こんな悪趣味な笑い方をするような奴が果たしてそんな効率だけで動くだろうかと、どこか冷静に考えてしまった故に。
そしてその見つめている対象に気づいてしまった時、剛は力の限り叫んだ。
襲い来る055を必死にいなす霧子へ向けて。
「逃げろ姉ちゃん!! 早く!!」
「もう遅い!」
「やめろぉぉぉぉーーッッ!!?」
放たれた光輪が霧子の立つ地を目指して駆け抜けていく、その光景に剛は叫ぶしかない。
剛の叫びで、霧子もようやく自身に迫る危機を理解したようだが、卓越した身体能力を持つ彼女であっても、スピードの光輪を避けるにはその動きは余りにも遅い。
霧子を救わんと走るシフトカー達ですら追いつけない。
いつもなら重加速を放って誰かを遅くすることも、誰よりも速く動くこともできるのに、一番速く走るべき瞬間に這い蹲るしかないこの無力さに。
絶対に喪ってはならない者を喪おうとしている絶望に。
多くの人を脅かし、大切な家族を奪おうとする、自分と同じ姿をした敵への天井知らずに膨れ上がる増悪に。
そんな風に入り混じった負の感情も、光輪が起こした爆発に消えていく霧子を見た瞬間には全て悲哀の慟哭に塗り潰されていた。
「ね、姉ちゃぁぁーーんっっ!?」
認めたくない光景、知りたくない事実の衝撃に頭がガツンと殴られた感覚を最後に詩島剛の意識は闇に落ちていく。
辛うじて最後に見えたのは、呻きながら膝をつく漆黒の追跡者が揺らめく陽炎だった。
*
剛の悲鳴にも近い絶叫はDDチェイサーにも届いていた。
しかし、それは文字通り払い除けられた虫のように、すぐにDDチェイサーに飛びかかってくるのだから、大した意味はなかった。
マッハの変身が解けた以上、ここで戦えるのは自分一人しかいない。
その焦りが無駄な力みを生み、判断力を鈍らせる。
優れた破壊力を持つ武器に強固な装甲のDDチェイサーの能力を完璧に扱えていれば、今頃はあの警官達を含めた4人で離脱だってできていてもおかしくはなかった。
彼等をこうして危険に晒しているのはこの自分の落ち度に他ならない。
「どいてください! あの人達まで巻き込む必要はないでしょう!」
「そういうわけにはいかねえんだよ。あんたこそ退場願おうか!」
答えたのはマッハに酷似しているロイミュード、スピード。
剛と同じ声だとはとてもじゃないが思えないほどに、邪悪さを秘めたその声と態度がスピード本来の性格なのだろう。
そんな奴らの元にいつまでも生身の人間を置いておくわけにはいかない。
シンゴウアックスを握る力をさらに強めたその時、思わぬ救援を知らせる軽快なメロディが聞こえてきた。
020、051の背後からやってきた彼等は火炎、目眩し、体当たり等様々な攻撃を仕掛け、敵の注意を引いてくれている。
その小さな体躯に見合わぬ勇敢さでDDチェイサーから引き剥がす彼等の名前など、間違えようがない。
「シフトカー! 助かります!」
統制者たるクリム・スタイン・ベルトを喪い、ロイミュード殲滅の使命を帯びたシフトカー達はそれぞれ独自の意志を持って活動している。
クリムの意志を継いで、マッハのサポートに徹している彼等からしても、大地は警戒すべき人物であった。
だが、不審な行動はあったものの、剛や霧子を守ろうと必死に戦っている大地は、まさしくシフトカー達が援護すべき仮面ライダーそのものだ。
その時点でシフトカー達の意向は決まり、DDチェイサーの援護に駆けつけるに至ったのである。
全く交流のない上、物言わぬシフトカー達の考えていることはDDチェイサーには詳しく知ることはできないが、こちらを助けようとしていることはなんとなく理解できた。
その隙を逃すまいと、下級ロイミュード達の間を抜けて、悲鳴が聞こえた方へ駆けつける。
スピードの攻撃などのせいで、剛が叫んだ理由は知らずに駆けつけたDDチェイサーの視界に映るのは下級ロイミュード相手に悪戦苦闘する進ノ介と、気絶している霧子。
「あ、貴方は……!?」
そして、倒れている霧子の前で、膝をついて呻く魔進チェイサー。
一見すると魔進チェイサーが霧子を襲ったように見えなくもないが、背を向けて膝をつくその姿勢はむしろ彼女を庇っているようでもある。
気絶してこそいるが、目立った外傷も彼女にはないという点も、魔進チェイサーが他の攻撃から霧子を庇ったという推測を後押ししている。
その推測は実際正しく、光輪が当たる直前に割り込んだ魔進チェイサーが霧子を庇ったのだが、巻き起こった爆発までは防ぎきれず、爆風に煽られた霧子はそのまま気絶してしまった、というのが事の顛末だった。
だが、ロイミュードの番人が人間を庇うなんておかしなことがどうして起こったのか?
その疑問を一番感じているのは他ならぬ魔進チェイサー本人だった。
「何故、俺は……クッ!」
「あっ、待って!」
自分のしたことが信じられないという風にわなわなと震える腕を見つめていたが、すぐに呼び寄せたライドチェイサーに乗って行ってしまった。
仮面ライダーチェイサーの件といい、やはり謎多き存在なのは間違いないが、それよりも怪我人の女性を病院に連れていがなければならない。
気絶している剛、ロイミュードに襲われているあの刑事を助けられるのは自分だけしかいないのだから。
手始めにまず刑事から助けに行こうとしたDDチェイサーにぶつかる勢いで、何かが飛んできた。
「大地ー! どうやらとんでもねえことになってんな!」
「レイキバットさん!」
瑠美と一緒にいるはずのレイキバットがどうしてこんなところにいるのか。
そう考えるより先に、小さな羽が持っているカードに目が行った。
瞬時に読み込まれる記憶、未来の技術で作られたライダーの記録がこの場における最適解を示してくれた。
「それ、借ります!」
KAMENRIDE DARK DRIVE
ドライバーがカメンライドカードを認識すると共に、仮面ライダーチェイサーへのカメンライドも解除される。
しかし、そこにいるのはDDダークドライブではなく、ただのダークディケイド。
これをドライバーの誤作動とは思わない。むしろ予定通りの現象だ。
通算5度目のカメンライド、それも強力なダークドライブのカードを使ったのだから、のしかかる負担もいよいよ無視できなくなってくる。
だが、それ以上に怪我人や剛の救出と離脱、スピード達の足止めを同時にこなすにはこのダークドライブというライダーはうってつけであった。
ダークディケイドの隣に並び立った仮面ライダーダークドライブを見れば、その理由も察することができるだろう。
「僕達が逃げ切るまで、ロイミュード達の足止めをお願いします!」
「OK. Start Our Misson」
未来の仮面ライダーであるダークドライブは直接変身しても充分過ぎる、それこそ所有するライダーの中でもトップクラスの性能を発揮するはずだ。
しかし、今回使用したのはダークドライブに備わっている「遠隔操作機能」であり、ある程度ならオートで戦えるという破格の機能である。
対象となるライダーの能力を使えるようになるカメンライドを利用したこのダークドライブの召喚であれば、大地が果たしたい目的は全て達成される。そう考えた故の選択なのだ。
その目論見通りにダークドライブがブレイクガンナーと同型の銃剣、ブレードガンナーを手にスピード達へ挑むのを見届けたダークディケイドはすぐに次の行動に移る。
全速力で駆け抜け、その先にいる刑事の首に掴みかかっているロイミュード066を引っぺがした。
標的を変更した機械の腕を難なく躱し、お返しに拳を見舞ってやれば、066は吹き飛んでいった。
拳に残る硬い感触はどうということもないが、たった1回のパンチを放っただけで身体の怠さが増したのは、決して気のせいではないだろう。
「大丈夫ですか!? 刑事さん!」
「その声…君はさっきの仮面ライダーレイなのか?」
襲われていたというのに、刑事が特に何ともなさそうなのは職業柄鍛えているためか、それとも元々頑丈なのか。
何にせよ、ここで冷静に接してくれるのはありがたい。
ATTACKRIDE NEXT TRIDORON
「く、車!? どっから出てきたんだよ!」
「刑事さん、あの女の人をお願いできますか? この車で逃げます」
「…わかった。剛は任せたぞ!」
呼び出したダークドライブの専用マシンである四輪車、ネクストトライドロンで離脱する旨を伝え、刑事もそれを了承してくれた。
ダークドライブやシフトカー達が敵を足止めしている今なら女性と剛を救出するのも容易なはず、逆にこの機を逃せば全滅は必須だ。
ダークディケイドは気絶して倒れている剛を背負い、ネクストトライドロンへ駆ける。
「逃すかぁッ!」
020が放った光弾の掃射に一瞬だけ怯まされたが、シフトカー達の援護のおかげで無事にネクストトライドロンまで辿り着くことができた。
なおも懲りずに追撃を試みようとする020に、本来ならディケイドブラストを浴びせているところだが、主の危機を察知してそのすぐ背後に迫る戦士の存在がある限り、大地も剛を座席に入れることを優先できる。
今まさに光弾が放たれようとしている鋼鉄の両腕に振り下ろされるブレードガンナーの刃。
両者の間に広がる気が遠くなるようなスペック差により、その腕はただ斬り伏せられるだけに終わらず、内部のパーツが露出する損傷すら生み出した。
耳が痛くなるような悲鳴を上げようと、オートで動くダークドライブには何の感情も湧かせない。
脆くなった両腕の切り込みに沿って、再び剣を振り下ろせば、機械の部品と化したそれが呆気なく地面に転がった。
「アアアアアアアアッ!? 腕が、腕がぁぁーーッ!!」
いかに機械生命体であろうと、腕を失えばそれ相応の苦痛を味わい、行動と思考を著しく阻害されるのは当然のことだ。
激痛にのたうち回る020を見下ろして、必要最低限の動作で必殺の準備に移るダークドライブは魔進チェイサーなんかよりもよっぽど死神らしく見えていることだろう。
ネクスト!
「ヒギャァアアアアッ!?」
ダークドライブの強烈な斬撃を背後からまともに食らった020のボディはその身から溢れんばかりのエネルギーの奔流にスパークし、コアごと爆散した。
それと同時に刑事と彼が背負う女性警官、それにレイキバットもネクストトライドロンに乗り込んだ。若干狭いのは勘弁してもらいたい。
全員の搭乗を確認したダークディケイドはさらなる追撃が来ないうちにマシンを急発進させ、最高速でその場を離脱していく。
逃がすまいと放たれた、ロイミュード達の一斉掃射もダークドライブ自身がその身をもって受け止め、生じた隙を埋めるようにシフトカーが飛来する。
シフトカー、ネクストトライドロンが揃っていればアタックライドを使用せずとも能力の行使は可能であり、それを知ってか知らずかダークドライブはデコトラベラーをシフトブレスに装填した。
タイヤコウカーン! デコトラベラー!
「へえ、シフトカーまで使えるとはねぇ!」
スピードの関心したような声も独特なメロディの歌曲に埋もれて消える。
シフトカー デコトラベラーの協力によって、場違いにもほどがある大音量で流れる演歌、フラッシュによる妨害でスピードの追跡も防ぎ、おかげで大地も慣れない運転に集中することができる。
シフトカー、ダークドライブの連携は見事なものだが、ダークドライブを召喚している自身のスタミナがどこまで持つのかわからないことを鑑みて最速で病院に行かねばならない。
その焦りが自然とハンドルを握る腕に力が篭り、ネクストトライドロンは青い軌跡を描いて疾走して行った。
*
それからしばらくして。
10を超える戦士達が集い、イレギュラーまで巻き込んで、長く続いた戦闘も足止めという任務を達成したダークドライブの消滅によってようやく終わりを迎えた。
ダークディケイド達にはまんまと逃げられ、020という仲間まで失ったこの戦闘、有り体に言えばロイミュードの勝利と呼べる結果ではなかった。
「019! 貴様の口車にまんまと乗せられたよ! なんだこの有様は!」
ダークドライブの強力な力とぶつかったロイミュード達は少なからず損傷もした。
損失ばかりの集団で唯一進化態を得たスピードに不満が出るのもなんらおかしいものはない。
激昂している055に同調するかのように他の2体もスピードに詰めよっていく。殺気すら感じさせる圧力をかけてくる仲間達に囲まれたスピードが洩らしたのは恐怖からくる怯えではなく、余裕たっぷりの笑い声だった。
「まあ落ち着けって。俺が進化態になるっていう最低限の目標は達成されたんだ。これからじっくりやっていこうぜ? な?」
言葉だけなら穏やかなものだが、055達に自慢の右腕をチラつかせるその行為は脅迫そのもの。
例え3対1になったとして、進化態であるスピードには下級ロイミュードでは敵うはずもない。
それを理解しているからこそ、押し黙って引き退る憐れな055の姿に堪え切れず吹き出すスピードロイミュード。
その姿はすでに詩島剛を擬態した人間態に戻しており、元の人物を知る者ならば目を疑うような邪悪な笑みを浮かべている。
「そう、このレースはまだ始まったばかりなんだから……お楽しみは俺からさ」
可笑しくて仕方がないという風に笑う彼を見て、それがこの激戦を制した勝者だとは誰も思わないだろう。
仮面ライダーデッドヒートマッハ
ドライブとの兼用だった本編の形状とやや異なる他、タイヤコウカンしない、暴走しないという特徴もある。後者については仮にデッドゾーンという暴走状態に陥った場合誰もマッハを止められなくなるので、強制変身解除になるよう設計されている。
強さ自体は本編とそう変わりはしない。
ダークドライブ限定ですが、召喚のカメンライドやってみました。
当時劇場で観た時からあの遠隔操作の設定はかなり気に入ってたので、こういった形で活躍させられて嬉しいですね。
スピードロイミュードはアナザーマッハ、もしくは汚い超デッドヒートマッハのイメージです。その目的は次回以降明らかになります。
次回の更新は7日です。感想、質問はいつでもどうぞ