仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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サブタイはもうちょっと上手くつけたい


人々の時間を止めていたのは誰か

 

 閑静な住宅街の一角で息を切らせながら、大地は微かに聞こえる戦闘音を頼りに全力疾走していた。

 事情を知らない者が見れば運動しているだけの青年としか思われないだろうが、切羽詰まった顔でダッシュする大地とすれ違った者はギョッとしたように振り返る。

 恐らくは大地の並外れた脚力に驚いているのかもしれない。しかし、誰も気が付かないほど非常に小さい戦闘音が聞こえていることも含めてダークディケイドライバーの影響か何かだろうと雑に決め付けた後、思考を放棄した。無駄な考え事をしている余裕もない。

 

『どうした霧子…何だって!? 剛に化けたロイミュードが!?』

 

 ついさっき進ノ介の携帯にかかってきた会話を聞いた大地は事の重大性をすぐに悟った。

 あのスピードをマッハ一人で相手にするのは非常に危険だと判断した大地は進ノ介から霧子の病室の位置関係から凡その目星がついた場所を教えてもらい、そこを目指して駆けている。

 

 そして数分の全力疾走の果てに辿り着いた先では地に伏しているデッドヒートマッハと魔進チェイサー、彼等を痛めつけて高笑いする二人のロイミュード。

 取り出したダークディケイドのカードには未だ色は無い。ならば、と代わりに構えたリングをメイジドライバーに翳した。

 

「変身!」

 

  チェンジ! ナウ

 

「セヤッ!」

 

 大地が変身した魔法の戦士、仮面ライダーメイジの飛び蹴りがロイミュード 051の横っ面に向けて突き出される。

 魔進チェイサーを踏みつける行為に夢中になっていた051はそれを躱すどころか、足裏に視界の半分を遮られた時点でようやく自身が攻撃されたという事実に気付いた。

 

「むわぁぁあッ!? な、な、なんだお前!?」

 

 突然の襲撃に泡を食ったような慌てぶりの051は下から抉らんとするスクラッチネイルのアッパーにも情けない悲鳴しか上げられない。

 さらにメイジが新たに構えたライドブッカーを鼻先に突きつければ、腰を抜かして後ずさって行く。

 

 これで片方への奇襲は手早く成功したが、もう片方の強敵がいることを忘れてはならない。

 メイジの身体を削り取る直前だったスピードの車輪をライドブッカーとスクラッチネイルの交差で阻み、その瞬間にかかる凄まじい衝撃が腕の痺れとしてメイジに伝わった。

 

「おいおい、今いいとこなんだから邪魔するなよ」

 

「仲間をあんな風に傷付けることが良いって言うんですか!?」

 

 昨日の乱戦の際にも魔進チェイサーは仲間のロイミュードを守る使命に終始徹していた。仮面ライダーチェイサーの件を抜きにしても、あの戦いでの彼はロイミュードの番人という肩書きに相応しい強敵であった。

 そんな彼がどうして仲間からこのような扱いを受けるのだろうか。

 

「仲間ァ? グローバルフリーズの日に俺達のボディを破壊しておきながら、ロイミュードの番人なんて名乗ってる裏切り者なんざ、こうしてボロクズにされるのがお似合いなんだよ!」

 

「な…!? それってどういう…!」

 

「これ以上話すことなんてないね!」

 

 継続して圧をかけてくる車輪を両手で受け止めるのがやっとなメイジはその膝を折る勢いの前蹴りを食らって反射的に悲鳴を上げた。

 そうして弱まった防御の構えを弾いたスピードの車輪が胸部から腰にかけて一気に斬り裂き、刻まれた傷からは火花が散った。

 メイジが苦し紛れに振るった爪も勢いを削がれ、逆に叩き込まれたハイキックで大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

 予感はしていたが、やはり姿が似ているだけあってスピードロイミュードの戦法、性能はマッハと同等どころか、その上を行っている。ダークディケイドに変身できればまだやり様はあったかもしれなかったが、このメイジでは魔法無しで勝ち目はないと大地は即座に判断を下した。

 

 そして魔法を発動するためのリングを構えたその時、戦場に響いたのは心を震わせる増悪に満ちた叫び声。

 

 その出所を理解していても、それでもメイジは振り返らずにはいられなかった。

 

 立ち上がったデッドヒートマッハの喉から絞られたその声の中にあまりにも痛ましいものを感じ取ってしまったから。

 

「詩島さん……!?」

 

「ゥゥァアアアアアアアアーッッ!! 消えろォォォォ!! ロイミュードォ!!」

 

 その場にいる全ての者が一瞬圧倒されるほどの覇気がマッハの叫びから放たれていた。

 そこに飛来した黄色いシフトカー、ランブルダンプが荒々しい動作でマッハドライバー炎に装填された。

 

  シフトカー! シグナルコウカン! アラブール!

 

 マッハの右腕に装備されたのはドリル型の武器、ランブルスマッシャー。

 最も破壊力に優れたシフトカーの力を具現化したドリルを構え、絶叫と共に突貫するマッハ。

 その狙いはスピードロイミュードであったが、勢い任せでランブルスマッシャーを滅茶苦茶に振るうなんて戦法がそう簡単に通じるような相手ではない。煽るように飄々と回避されればされるほどマッハの動きも荒くなっていく。

 助けに行こうとするメイジにもあんな風にドリルが振るわれては近づくこともできやしない。

 

「ちょっと落ち着いてください! 二人で協力しましょうよ!」

 

「うるせえ! 余計な手出しなんかいらねえ、こいつは俺がぶっ潰す!!」

 

「え? え? 自分の姉を宿敵に守ってもらうような間抜けがどうやって俺を倒すって? ちゃんと頭使えよなあ、父さん!」

 

「黙れぇぇぇぇッッ!!」

 

 心底馬鹿にしていると傍目から見てもわかるスピードの仕草と口調がさらにマッハの神経を逆撫でし、それに伴ってランブルスマッシャーが回転する勢いもますます増しているように見える。

 だがどんなにドリルを突き出そうとも、当たらなければ意味はない。結局はマッハのスタミナを徒らに消費させるだけなのだ。

 

 チェインの魔法で拘束すればマッハの攻撃も命中するかもしれない、と考えていたメイジの背中を痛みと熱を伴う衝撃が幾度かに渡って叩いた。

 スピードの攻撃に比べれば軽い、しかし確かなダメージになり得るその攻撃の主はロイミュード051。

 

「てめぇぇぇ〜! よくも俺をコケにしてくれたなぁ!? 死ねぇ!」

 

 正直存在を忘れかけていたとは口を滑らせても言えないが、この051がいたのではスピードの対処はできない。先に051を片付ける必要があるが、あんな状態のマッハ一人にスピードを押し付けてしまうのは些か不安が残る。故にできるだけ早く援護に向かうべきだと結論付ける。

 

「ちょこまか動くんじゃねえ! 死神も、お前も、俺をコケにする奴は全員死ねばいいんだよぉ!」

 

(……ああ、あのスピードってロイミュードの仲間も魔進チェイサーを恨んでるから、協力してるんだな)

 

 限られた数しかいない仲間の間での同士討ちなんてことに協力している理由は詰まる所彼等の怨恨によるものなのだろう。高性能ロボットの割には随分と感情的な動機だとは思うし、冷静さを失った敵の動作はかなり大振りで躱しやすい。もしかすると先の奇襲攻撃も051を直情的にさせている一因になっているかもしれない。

 剥き出しの感情をぶつけてこようとする相手に旅を始めた頃ならいざ知らず、仁藤や名護の背中を追いかけ、規格外の強敵達との戦闘を乗り越えた今の大地ならば、そのような相手に臆することなどない。

 

「ハアッ!」

 

「ああああああ!? 痛ええええっ!!」

 

 すれ違いざまに滑らせたライドブッカーの刃に斬りつけられ、その痛みが051の憎しみをさらに燃え上がらせる。

 もはや形振り構わずに腕を振るってメイジに叩きつけようとしてくる拳をスクラッチネイルでしっかりとガードし、もう片方の拳が飛んでくる前に剣を振り下ろす。

 こうしてメイジはスクラッチネイルを盾として扱い、ライドブッカーで堅実に051へのダメージを稼いでいく。

 051が度重なる損傷に耐えきれずに膝を着いた瞬間を見計らって、メイジは一旦剣を地面に突き刺し、すぐさまリングを右手に嵌めた。

 

  ヒート! ナウ!

 

 メイジの全身に立ち昇るのは魔力で構成された紅蓮の炎。激しく燃え上がるその炎は掴み取ったライドブッカーに右腕を通して伝播し、メイジの全身を包んでいた炎が全て刀身に移される。

 燃え盛る刃を頭上に掲げたメイジは突如火を灯した剣に恐怖の声を漏らしている051に向かって肉薄し、思い切り振り下ろした。

 

「ッッツアア!」

 

「ヒギャァアアアアッッ!?」

 

 メイジスラッシュとも呼ぶべき必殺の斬撃を受けて、051のボディは斬り裂かれ、焼き払われる。断末魔の後に爆発したその残骸から這い出てきた「051」の形をした彼のコアも溶けるようにして消滅した。

 

 これで残る敵はスピードのみ。しかし強敵だ。

 メイジが051の相手をしていたのは、時間にしてみれば数分にも満たないはずだが、その僅かな時が流れていた合間にもマッハはスピードに蹂躙されていた。

 弄ぶかの如く高速移動でマッハを翻弄するスピードの姿はメイジにも目視できない。あの速度で移動しているスピードには拘束魔法の効果は期待できそうもないが、それでもメイジはチェインのリングをドライバーに翳した。

 

  チェイン! ナウ

 

 地面に出現した魔法陣から射出された数本の鎖が宙へと伸びる。

 チェインの魔法とはこの鎖を相手に巻きつけて拘束するという効果であるが、今回メイジが構想した用途はそれとは少々異なっている。

 自身のイメージを鎖に送れば、根元の魔法陣を支点としてそれぞれの鎖が周囲を薙ぎ払うように回転を始めた。

 さらにメイジはガンモードに変形させたライドブッカーでスピードに射撃を行い、命中こそしないにせよ、その注意をマッハからこちらに向けさせた。

 

「ん? 051の奴もうやられたのか、使えねえなぁ」

 

「食らえ!」

 

 すでに散った仲間になんの感慨も抱いていないと伺える呟きをするスピードに向けて回転する鎖を魔法陣ごと浮かせた、さながら円盤のような鎖の束を放った。

 伸縮をある程度まで調整でき、遠心力が加わったこの回転する鎖が命中すれば普通の人間には恐ろしい威力を発揮するだろう。

 だが、スピードロイミュードには些細なダメージを与えられるのかどうかも怪しい。何せ魔法の産物とはいえ、所詮は鎖に過ぎないのだから。

 

(でも、当たりさえすれば!)

 

 先も述べた通りチェインは拘束魔法である。伸縮自在な鎖が微かにでもスピードに触れた途端、全ての鎖が巻き付くように念じておいたのだ。

 普通に発動していればスピードには難なく回避されるのは目に見えていたからこそ、こんな風に鎖を操っているのだ。

 

 咄嗟の思い付きにしては悪くない発想だった。それは間違いない。

 しかし、メイジはマッハすら超えるスピードの能力を侮っていたわけではないが、それでも見積もりは甘かったのだ。

 

 スピードは自身に放たれた鎖の円盤に敢えて飛び込み、一切触れることなくその全てを回避していたのだから。

 

「は、速ーーーガハッ!?」

 

 驚愕の台詞を最後まで言い切らぬ内に、腹部を襲った衝撃がメイジを貫いた。それが常識外れの加速によって上乗せされた威力の蹴りであるとわかったのは、吹っ飛びながら見えたスピードが足を突き出した姿勢であったからだ。

 さらなる追撃を覚悟したメイジだったが、スピードの標的はあくまでもマッハであり、その逆もまた言える。

 

「貴様の相手はこの俺だって言ってるだろ!!」

 

  シフトカー! シグナルコウカン! ピカール!

 

  ヒッサツ! フルスロットル! モエール! バースト! ピカール!

 

 マッハは二台のシフトカー、バーニングソーラーとマックスフレアをドライバーと武器にそれぞれ装填していた。

 バーニングソーラーで集めた太陽光の熱光線は、マックスフレアの火炎が威力と熱を上昇させ、さらにデッドヒートの出力で底上げされる。熱に関連したシフトカーとシグナルバイク三つ分のエネルギーを内包した灼熱のレーザー光線、ヒートヒットマッハーが発射された瞬間、限界以上の熱量に曝されたマッハの装甲から白いスーツを赤く染めるほどの蒸気が噴出した。

 

「消えろォォーッ!!」

 

 このまさしくデッドヒートというフォームの危険性をまんま表現した閃光は目にも留まらぬ速度でスピードに到達すると同時に、ほんの一瞬だけ相手の硬直させる。

 

「ーーーーーッ!」

 

 静寂に溶けて消えた息を呑む声は誰のものか、それが判明する前に巻き起こった大爆発にスピードは包まれていた。

 

 

 *

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

  オツカーレ

 

 ダメージの蓄積か、もしくはあの射撃の反動によるものか定かではないが、マッハの赤い装甲は強制的に解除されており、剛は膝を着いている。だがマッハの仮面を脱いだ剛の視線は未だに鋭く、立ち込める黒煙の先を睨み続けている。

 生身の剛を庇うように位置を改めるメイジも剣を構えたまま油断なく気配を探っている。あれほどの攻撃を受けても五体満足でいられる可能性は限りなく低いとわかっていても、あの煙の奥では今もスピードが嘲笑っているのではないかと疑ってしまう。

 

 予感は的中し、焦げた空気を突き破って姿を見せたスピードにもはや驚くこともない。

 

「いや、今のは危なかったな! 一瞬ヒヤッとしちまったね。捨て身の一撃ってやつだろうけど、当たんなきゃ意味ないよな?」

 

「そう言う割には完全に避けられたってわけでもなさそうですね」

 

 大地の指摘は正しかった。事実直撃こそしなかったようだが、スピードの白いボディには焼け焦げたような跡がいくつか散見できるし、微かに火花も散っている。

 

「まあね。051もやられちまったし、得体の知れないあんたの相手はまた今度にさせてもらうよ。あいつにも逃げられたからな」

 

 ほら、と指さされた場所には先ほどまで魔進チェイサーが倒れていたはずだが、そこには黒い薔薇の花びらが舞っているだけだった。

 そうやってメイジが気を取られている隙にアイドリング音と突風が吹き、剛の静止を命じる声に気付いた時にはもうスピードはどこかに走り去っていた。

 

 逃げられたと言うにはこちら側のダメージは大きすぎるが、剛を助けるという目的を一応は達成できたのでよしとするしかない。

 メイジの変身を解いた大地は膝をついている剛に手を差し伸べる。数舜の迷いを巡らせた後、剛は無言でその手を握って立ち上がった。

 

「遅くなってすいません、詩島さん」

 

「…別にお前が謝ることはねえよ」

 

 申し訳なさそうに謝る大地を見て、剛はばつが悪そうに視線を反らした。散々怪しんだ挙句、足を引っ張ってしまった自分に向けられた大地の謝罪の言葉はむしろ居心地が悪く感じる。

 アイアンから霧子達を守ったのも、昨日の混戦でも戦いに大きく貢献したのもどう考えてもダークディケイドだった。そして憎しみのままに突っ走った自分はスピードという進化態を誕生させてしまった。今だってメイジがいなかったらどうなっていたかなんて嫌でもわかる。

 

「でも…元はといえば昨日僕が剛さんの邪魔をしてしまったからこうなってしまったかもしれないんです。あの魔進チェイサーが仮面ライダーなんて、そんな確証どこにもないのに」

 

「…知ってたのか。あいつがプロトドライブだって」

 

「え?」

 

 何気なく言われた衝撃の事実に大地の声は思わず上擦った。

 それはコミュニケーションの不足と情報の違いから生じた互いの認識のズレによるものだったが、仮面ライダーチェイサーの存在を欠片も知らない剛は大地の反応を気にすることなく続ける。

 

「確かにチェイスが直接人を殺してる場面には出くわしたことがなかった。あいつが姉ちゃんを庇ったっていうのもクリムがインストールしていた、人間を守るプログラムがまだ機能してるっていうんなら頷ける」

 

「それなら、やっぱりあの魔進チェイサーとは協力できるんじゃーーーー」

 

「でもそれがなんだよ!! あいつが元仮面ライダーで、誰を守っていようと関係ない。今のあいつは敵で、ただのロイミュードでしかないんだよ!」

 

 そう、過去がどうであろうと魔進チェイサーはロイミュードの番人にして人類の敵なのだ。にも関わらず、奴は姉の命を二度も救った。その事実が剛の心を無性に掻き毟る。

 ロイミュードとは憎むべき敵であり、人間社会の崩壊を企む悪魔の存在という剛のこれまでの認識は変わらないし、変えるつもりもない。そんな奴らを野放しにしてはおけない。

 だが、そう頑なに思えば思うほど姉を庇う魔進チェイサーが、他者を守ろうと必死なダークディケイドがーーーーーー同じ憎しみで暴れるスピードの存在が、剛の憎しみを否定する。

 

「憎んで何が悪いんだよ…俺はただ多くの人々の幸せを理不尽に奪う悪を、ロイミュードを速攻で殲滅しようとしただけだ!なのになんで、なんで…どいつもこいつも…俺が間違ってるっていうのか……?」

 

 強かった語調が弱弱しくなって消え入りそうな呟きに変わる剛。こういう時の相手にどんな言葉をかければいいのか、大地にはその最適解は浮かばない。

 しかし、進ノ介が言っていた深いものーーーーーそれがこのロイミュードへの憎しみだというのなら言えるものはある。

 種族を背負った憎しみと歪んだ愛に生きたライダーの記録を持っている大地だからこそ、だ。剛が何故そこまでの激しい感情を持つに至ったのかまではわからないが、このまま彼を放っておくという選択肢などありえない。

 

「一概に悪いとは言えません。詩島さんがロイミュードを許せないと思う気持ちは僕にも理解できるから。だけど憎しみだけで戦い続けたら、貴方はきっと大切なことを忘れて…最後には失ってしまうかもしれません」

 

「一丁前に説教かよ…記憶喪失の奴がそんな曖昧なこと語っても何の説得力もねえぞ」

 

 少々痛いところを突かれたが、説得力を伴った物言いなんて元よりできるとも大地は思っていない。

 もしもこの場に名護がいればまた違った語りかけをしてくれたのかもしれないが、無いものねだりをしても仕方がない。どんなに曖昧であろうと、ただ黙っているよりかは何倍もマシのはずだ。

 

「はは…確かにそうですよね。僕にはたった一か月前の記憶すらないけど、でもだからこそ忘れたくない、ちゃんとした意思で初めて変身したあの時に抱いた想いがあります。目の前で消されそうな命を救いたい、そのためなら僕はどんなに怖くても絶対に逃げません。詩島さんにはそんな想いはありませんか?」

 

 思いの丈を綴られ、問いかけられた剛の目はどこか遠い場所を見つめるように細くなった。

 死者に想いを馳せるような、そんな目さえも鬼塚と重なるが、彼女よりもさらに複雑な心境が窺える点だろうか。

 

「俺は……あるさ、最初の決意が。ロイミュードの正体を知ったあの日から決して忘れない使命がな……。助けてくれたことには感謝するけど、もう首は突っ込むなよ。これは俺の戦いなんだ」

 

 剛はそう告げるとトボトボと歩き去っていく。

 重加速がかかっているわけでもないのに、大地にはその足取りが非常にゆっくりとした動きに見えた。

 

 

 *

 

 

 大地と別れた進ノ介はロイミュードの襲撃を短期間で二度も受けた霧子の護衛のため、彼女の病室に来ていた。

 直接狙われたとあっては連絡しないわけにもいかず、特状課に応援を要請した結果として本願寺が進ノ介に同行し、病院の外には捜査一課を連れた現八郎が見回っている。流石に剛のことは教えていないが。

 

「はぁ〜……」

 

 病室全体の雰囲気を暗くするような進ノ介の深い溜息が木霊した。

 ひとやすミルクを頬張ってはまた溜息を繰り返す彼と同じ空間にいるだけでこっちの気まで沈んできそうだと霧子は心の中で愚痴を零す。

 

「もお〜泊ちゃんは護衛として来てるんだからモヤモヤするのもほどほどにしてもらいたいですよ〜。ねー、霧子ちゃん」

 

「は、はい…そういえば珍しいですね。課長がわざわざ出てくるなんて」

 

 話題を切り替えようとする霧子。

 普段から滅多に現場には赴かない本願寺がわざわざ出向いてきた理由を霧子が知りたかったというのもあるのだが。

 

「いや〜それがですね、今日の私のラッキーカラーが白だったんですよ。病院なんて真っ白けっけだからちょうど良かったんですよ!」

 

「はぁ…」

 

 しかし返ってきた答えは予想以上にしょうもないものだった。

 進ノ介も微かに苦笑を漏らしはしたが、表情の曇りは一向に晴れないままでまたしても溜息をついては新しいひとやすミルクの箱を開ける。

 

「泊さん、やる気がないなら帰ってもらって結構です! 全く…今度は何にモヤモヤしてるっていうんですか」

 

 どんどん重くなる空気に耐えかねた霧子がむすっとして文句を言いだしても進ノ介の様子に変化は見られない。

 

「……霧子さ、仮面ライダーってどうやったらなれるのかな」

 

「急にどうしたんです。そんなこと知ってたらとっくになってますよ」

 

「だよなぁ」

 

 大地と話をしてからというもの、進ノ介のモヤモヤはいよいよ最高潮に達しようとしていた。

 仮面ライダーマッハは何故戦うのか、どうすればロイミュードに対抗できるのか、答えの見つからない思考は泥沼に囚われて沈んでいく。

 

 もしも進ノ介自身が仮面ライダーに変身できたならばこのモヤモヤも晴れるのだろうか。

 

「おや、泊ちゃんは仮面ライダーになりたいんですか。それはまたどうして?」

 

「仮面ライダーになれば俺自身の手でロイミュードを倒せる……からなのかなあ。なんかこう、仮面ライダーとロイミュードのことを聞いてると俺達は蚊帳の外って感じがしてならなくて、でももし仮面ライダーになれたとしてスッキリするかと言われると、それもはっきりしないんです」

 

「そうですねぇ。確かに我々警察はロイミュードに太刀打ちできる立場ではないのかもしれません。事件の犯人を暴いたとしても、最後には仮面ライダーが倒してしまう」

 

 けれどね、と本願寺は付け加える。

 

「警察官の本分はロイミュードを倒すことじゃないんです。善良な市民を守ることこそが我々のすべき使命であると私は考えていますよ。泊ちゃんが本当にしたいのは果たしてどちらなのか、少なくとも仮面ライダーであろうとなかろうと貴方のしたいことは変わらないはずです」

 

 いつになく真剣な眼差しで語る本願寺に進ノ介は一瞬だけ面食らってしまうが、彼の言葉にはそれ以上に確固たる信念があった。

 感嘆して聴き入る進ノ介の背筋を自然と伸び、本願寺の次の言葉を待つ。

 

「課長…」

 

「……でもそれはそれとして、泊ちゃんが仮面ライダーだったら良かったなぁ〜。もしそうだったなら特状課の評価だってうなぎ登りでしたよ〜。こぉんな肩の狭い思いだってしなくて済んだのにぃ…くぅ〜!」

 

 が、肝心なところでおちゃらけてしまうのは相変わらずだった。これには進ノ介も期待した分余計に落胆してしまう。

 この本願寺という上司はさっきのような真剣な顔を極たまに見せたかと思えば、すぐに今のような態度になる掴み所のない男だとは前から知っていたが、今回ばかりは本気で期待してしまった。

 

「そりゃないですよ課長〜…途中まではカッコよかったのに」

 

「と言われましてもねぇ。泊ちゃんだってわかるでしょう? 特状課に仮面ライダーがいれば警察の捜査情報を仕入れて素早く相手を追えるんですから、とぉっても便利だもん」

 

「まあ、そりゃそうだろうけど」

 

 仮面ライダーとなった進ノ介が特状課での捜査を経て怪物を追い詰める。色々苦労は絶えないだろうが、魅力的な仮定だと進ノ介にも思えてしまった。

 一般人の仮面ライダーよりかはスムーズに活動できるのかもしれないが……。

 

(待てよ)

 

 そこで進ノ介の思考は引っ掛かりを覚える。

 

(剛は俺達より早く怪物に辿り着いてる……昨日だってそうだった)

 

 仮面ライダーはいつも犯人に特状課とほぼ同時に辿り着き、殲滅している。その理由が本願寺の言っていたように……特状課に仮面ライダーがいるとしたら?

 

 

『仮面ライダーはロイミュードと同じテクノロジーで作られた、コア・ドライビアを持つ戦士のことです。だから重加速の中でも自由に活動できる……みたいです』

 

『………マッハってライダーのことは私はよく知りません。でもおまわりさん達が見た仮面ライダーレイは怪物に襲われる人々を守るために必死に戦っています』

 

『……え? 特状課全体を?』

 

 

 脳内で渦巻く記憶の群からキーワードが抜き出されて重なっていく。進ノ介が抱いていたモヤモヤのぼやけた輪郭が明確な形を成してその全体像を徐々に表していく。

 

 一般人であるはずの詩島剛が何故ロイミュードを追えるのか。

 何故特状課を狙って重加速が起こるのか。

 

 その全てを解き明かした時、進ノ介はどこか悟ったような様子でネクタイを締め直した。

 

「繋がった……そういうことだったのか」

 

 

 *

 

 

 人っ子一人いない寂れた廃病院の一室。

 そこで人ではない存在が目を覚ましていた。

 

「……ここは」

 

 起き上がったチェイスは何故自分がこんな場所にいるのかと記憶を整理する。

 突如として進化態となった019の奇襲に遭い、ひたすら嬲られていた。そして朦朧とした意識の中で最後に目撃したのは……。

 

 そこまで思い出してからチェイスは自身の損傷箇所が修復されていることに気付く。完全な修復とまではいかないが、万全にかなり近い状態だ。

 チェイス自身の能力でこんなにも早く自己修復できるとは考え難く、誰かが治してくれたと考えるのが妥当なところであろう。恐らくは最後に見えたあの人物のおかげだ。

 それを裏付けるかのように現れた気配に気付き、チェイスは振り返った。

 

「助かった。メディック」

 

「礼には及びませんわ。これが私の仕事ですもの」

 

 やはりチェイスの救出及び身体を修復してくれたのはメディックだった。

 無愛想に礼を述べるチェイスに対し、にこやかに応じるメディック。その笑顔に何か含むものがあるように見えるが、チェイスは別段気にしない。

 

「それにしてもあの019には困りましたわね。まさか死神である貴方に牙を剥くなんて」

 

「奴が何を企もうと関係ない……だがあの時、奴は何と言っていた?」

 

 051にいたぶられた過度なダメージで苦しんでいる最中、スピードは何か重要な事を言っていた記憶がある。しかし、チェイスにはそれを思い出すことが出来ない。

 

 仮面ライダー、あの女性、グローバルフリーズ、雨……脳内を探ろうとすればするほど記憶にかかった霞は深くなる。

 

「何も考える必要はないですことよ、チェイス。貴方はただ死神として反逆者達を粛清すればいい」

 

 メディックの甘い囁きがチェイスを侵食していく。

 

 抗わなければならない。しかし何の為に? 彼女の言う通りに全てを破壊してしまえばいいのに。

 

 人間を守った? ありえない、自分には守るものなどない。何もかも壊してしまいたい。

 

 破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊!!

 

「貴方は精々019と潰しあいなさい。人間を庇った出来損ないのロイミュードへの最後の仕事は私の実験台になることと、裏切り者との相打ち。でも安心なさい、死神の仕事は私が引き継ぐわ……愛するハート様のために」

 

 愛慕と野心に染まったメディックの言葉はもうチェイスには届いていない。

 彼は損傷箇所の修復と並行して洗脳と強化のプログラム、そして極限まで高まった破壊衝動を彼女に植えつけられていたのだから。

 

 つまり今のチェイスとは抑えきれぬ闘争心に満ちた狂戦士であり、そこにはかつての誇り高き追跡者の面影は影も形もなかった。

 

 

 *

 

 

 翌日。マッハピット。

 

 スピード追跡のためにシフトカー達は出払っており、今このマッハピットにいるのは剛とりんなだけだった。

 そして彼等は表示されている大型モニターを食い入るように見つめている。

 その内容とはプロトゼロとプロトドライブに関連する情報の一部。

 

「クリムが遺していたデータから見つけたの。000のナンバーとか、昨日剛君が知った事をキーワードにして検索してね」

 

「りんなさんは知ってたのかよ、プロトドライブの正体」

 

「いいえ、私だって初耳よ。まさかあの魔進チェイサーがなんて……今でも信じられない」

 

 昨日ピットに帰還した剛から話を聞かされたりんなは今に至るまでずっとデータベースを調べてくれていたらしい。

 目の下に隈を浮かべるりんなからして作業はかなり難航していたようで申し訳なさは感じるものの、剛にとっては彼女に感謝するよりもこのデータから魔進チェイサーの弱点を探る方が優先だった。

 

「でもこれはあくまでもプロトドライブだった頃のデータでしかない。改造を施された魔進チェイサーの対策までには使えないと思う」

 

「何も無いよりマシだ。アイツも、019達も速攻で殲滅しなきゃいけないんだ。この俺が……俺がやらなきゃいけないんだよ!」

 

 どんなに些細な情報も見逃すまいと並んでいる文字群の一つ一つに集中する剛。

 

 だからであろうか。ピットの戸が開いた音にも最初は気づかなかった。聞き慣れたその声を耳にして、剛は漸く振り返る。

 

「思った通り、やっぱりこの施設にあったんだな。仮面ライダーの拠点は。虱潰しに探した甲斐があったよ」

 

「……進兄さん!?」

 

「進ノ介君!?」

 

 

 その男は刑事ーーー泊進ノ介。

 マッハピットにはいるはずのない、しかし確かに彼はこの場に足を踏み入れている。

 進ノ介はピットの内装を一瞥した後、驚愕の表情で凝視している剛達に口を開いた。

 

「ずっと考えてた。どうして仮面ライダーはいつも特状課より先に犯人のロイミュードに辿り着いているのか……現状では機械生命体犯罪の捜査は特状課に一任されているはずだ。つまり、仮面ライダーは特状課の捜査情報を得ている可能性があった。ここにりんなさんがいるのは驚いたけど、同時に納得もいったよ」

 

 進ノ介の言っていることは正しかった。独自の捜査で突き止める場合もあったが、多くの場合ではりんなから得た特状課の捜査情報で彼等よりも先回りしていたのだ。

 しかし剛にとって解せない点は他にある。

 

「その顔はどうやってこの場所がわかったのか、そう言いたいんだろ。剛」

 

「ッ!」

 

 思わず顔を隠すように押さえてしまう。

 進ノ介の言い方も相まって、これではまるで自分が追い詰められる犯人ではないか。

 

「疑問は他にもあった。事件が起こると同時に特状課には重加速がかかっていた。何度も、だ。俺は最初ロイミュードがここを狙っているものだと思ってたけど、何故ロイミュードに太刀打ちできない特状課を警戒しているのか理解できなかった」

 

 進ノ介は核心に至っていると、もはや疑う余地もない。

 自然と動悸が激しくなり、剛の頬から汗が滴り落ちた。平静を装おうとしても声が上擦って震えてしまう。

 

「それがなんだっていうのさ」

 

「大地君が言っていたよ。仮面ライダーとロイミュードは同じ技術から作られたと。つまり仮面ライダーも重加速は使えるってことだ………剛、お前が特状課に重加速を出していたんだろーーー

 

ーーーこの久瑠間運転免許試験場の地下にあるここで!」

 

 

 特状課の情報を掠め取り、ロイミュード出現の報を受ければマッハとなって重加速を発動して特状課が現場に向かう前にその行動を制限する。

 先日のアイアンを追跡していた混戦の際にも重加速を出していたのはアイアンではなく、マッハだった。

 彼が破壊された後も重加速が解除されていないのが動かぬ証拠だ。

 

 誰にも知られずに、誰も傷つかないために出していたーーーまさかバレるとは思っていなかったが。

 ここまで暴かれては言い逃れはできまい。

 

 

「……ねえ、剛君。やっぱりもうこんなことはーーー」

 

「さっすが進兄さん! 名推理炸裂だね。それで? 一体どうしようってわけ?」

 

 表向きは余裕を崩さないようにしている剛の笑みは誰がどうみてもぎこちない。

 それは進ノ介がここに来た理由を薄々察してしまったからか、しかし問わずにはいられなかった。

 対する進ノ介もこれから言わんとする内容に一瞬躊躇しーーーそして覚悟を決めた。

 

「詩島剛…いや、仮面ライダーマッハ! お前がこれ以上重加速を発生させるというのなら…俺はお前を逮捕する」

 

 






長いぞマッハ編。

一応解説しておくと、詩島剛はりんなさん以外には正体は隠したままでかつ霧子達を戦いに巻き込まないためにロイミュードの出現に合わせて特状課に重加速を発生させていたんですね。
アイアンロイミュード追跡の時も、現場に向かってくる警察のことを考えてマッハが重加速を発生させていましたので、アイアン撃破時にはまだ重加速解除されてません。マッハの変身解除でようやく解除されてます。
これは本編でどんより強盗団を捕まえる際にマッハが重加速を使ったことから「剛ならこうするかなあ」と考えた展開でした。

次回更新は28日を予定してます。1週空くけどごめんなさい…今月中にマッハ編は終わらせたいなあ
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