仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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デッドリベレーションって名前つい最近知りました


仮面ライダーとはなにか

 

「詩島剛……いや、仮面ライダーマッハ! お前を逮捕する!」

 

 進ノ介が言い放った言葉に剛はらしくもなく呆然とする。

 最初は何かの冗談ではないかと疑ったが、進ノ介の表情は真剣そのもの。彼は本気でこの仮面ライダーマッハを逮捕する気なのだと理解した時、剛は内心の動揺を隠すために不敵に笑う。

 

「あれだけの情報でここを突き止めたのには感心するけどさ、進兄さんはひとつ大きな見落としをしてるよ」

 

 答えを直接言ってのける代わりに、剛はその手でシグナルマッハをチラつかせる。

 無言でシグナルマッハを凝視する進ノ介に、そういえば詳しくは知らなかったなと思い出してドライバーを巻く。

 

「変身」

 

 シグナルバイク! ライダー! マッハ! 

 

 剛が変身した仮面ライダーマッハ、その青い複眼が発光しマフラーがたなびく。

 初めて見る変身のその瞬間に圧倒される進ノ介。対する剛の表情は白い仮面に隠れて窺い知ることはできない。

 

 そしてマッハが行ったのは……たった一つの機能を発動させることだけ。

 

「リミッター解除」

 

「うわッ──────ー!?」

 

 マッハのシステムにかけられていた制限を解除することで不可視の衝撃がマッハピット全体に伝播する。

 進ノ介とりんなの動きを彼らの意思とは無関係に緩徐なものとし、この空間で自由に動けるのはマッハのみとなる。

 これこそがロイミュードの出現と同時にマッハが特状課に放っていた重加速の正体にして、進ノ介がマッハを逮捕できない要因であった。

 

「悪いね進兄さん。俺はまだ止まるわけにはいかないんだ。ロイミュードを全て殲滅するその時まで」

 

 しかしいくら重加速が使えても居場所がバレてしまっては今後の活動に支障をきたす可能性はある。充実した設備がある拠点を手放すのは痛いが、新たな居場所を探さなくてはならないだろうと考えたマッハはライドマッハーに跨った。

 これまで世話になった拠点に名残惜しげに振り返ったマッハは小さく頭を下げる。これが剛なりのりんなと進ノ介、そしてマッハピットに向けた詫びのつもりだった。

 そしてライドマッハーのエンジンをスタートさせようとした時、聞き慣れた男の声が耳に届いた。

 

「剛、お前を行かせはしない」

 

 それは別段驚くような現象ではなく、重加速の影響下にあっても音は通常と同じように伝播するとマッハは知っていた。

 たった今聞こえた進ノ介の声も重加速の衝撃によろめきながら発した苦し紛れのものに違いないからだ。

 

 しかしそれにしてはやけに堂々としている声音であり、自信に満ちたそれを聞いたマッハに決してあり得ない展開を連想させてしまう。

 恐る恐る進ノ介へと振り返るマッハの仕草はまるでブリキの玩具のようにぎこちなく、それこそ重加速にかかっているかのようだ。

 

「……嘘だろ、おい」

 

 

 重加速は問題なく作動していた。やるせない様子をスローモーションで表現しているりんな、ゆっくりと映り変わっていくモニターの映像……どこを見てもそれは明らかだ。

 

 ならばどうしてこの男────泊進ノ介は通常と変わらぬ速度で歩みを進めているというのだ? 

 

 シフトカーは全て出払っているし、シグナルバイクはマッハの手の中、重加速低減装置だってあんな大きい物を背負っていれば隠しようもない。

 

 

「やっぱりこれがあれば重加速の影響は受けないみたいだな」

 

「それは……!?」

 

 進ノ介が見せつけてきたのはマッハにも見覚えのあるものに酷似している、恐らく同規格のカード。

 先日ダークディケイドが奇怪な能力を発現する際に使用していたのを目撃しており、その時はシグナルバイクやシフトカーのような役割のアイテムだと認識していたが、持っているだけでも能力を発揮するところまで同じであったようだ。

 

 マッハには知る由もないが、進ノ介と会話を交わした喫茶店にて大地はダークドライブのカードを彼に渡していたのだ。勿論特状課を制限していた重加速の発生源がマッハであった事実など大地が気づいていたわけではなく、無力に打ちひしがれる進ノ介のためにせめて重加速でも活動できるようにと思って渡しただけに過ぎない。

 

「あの野郎、また俺の邪魔をするってのかよ……!」

 

「それは違うな。お前の邪魔をするのは大地君じゃない、俺だ」

 

 進ノ介がダークドライブのカードを持つ限りは重加速は通用せず、目眩しに使えそうなシフトカーも今はいない。

 基本的に戦闘に特化したシグナルバイクの能力では進ノ介を必要以上に傷付けてしまう可能性が高く、それはマッハの望むところではないため逃げるのならばこの身一つで進ノ介を突破しなければならない。

 

 そうなると最適な手段となるのはシグナルマッハの加速能力を以って進ノ介の傍を駆け抜けて逃げることだろう。

 

「させるかっ!!」

 

 だがマッハがドライバーのブーストイグナイターを叩くよりも先に駆け出していた進ノ介がその腕にしがみ付いた。

 進ノ介がどんなに鍛えられた者であっても所詮は生身の人間、それ故にマッハには強引に振り解く手段は取れない。

 なんとか加減して進ノ介を引き剥がそうとするが、猟犬が獲物を咥え込むが如くガッチリとホールドしてくる彼は生半可な力ではビクともしなかった。

 

「離せよ……離してくれよッ進兄さん!」

 

「絶対に離さない! お前にこれ以上の過ちはさせない!」

 

 またか、とマッハは心の奥底で毒づいた。

 何食わぬ顔をして邪魔をする大地、剛を差し置いて姉を庇う元仮面ライダーのチェイス、自身をコピーして嘲笑うスピード、どいつもこいつもが剛の戦いを否定する。

 そして姉の同僚である進ノ介までもが邪魔をしてくる現状への苛立ちが意図せずしてマッハの力を強めた。

 

「ぐああっ!?」

 

 ほんのわずかに力が増しただけで進ノ介の身体は簡単に吹っ飛んでいき、背後にあった機材にその背中を強かに打ち付けた。

 常人ならば気絶してもおかしくはない激痛に顔を歪めるが、それでも進ノ介は立ち上がって再びマッハにしがみ付いてくる。

 

「剛、今のお前を野放しにはできない! 警察官として、霧子のバディとして!」

 

「何だと……!?」

 

「お前が重加速を出しているのは俺達を、霧子をロイミュードから守る為だとしても、お前のその勝手な行いは市民を不安にさせて生活を脅かす! 俺にはそれが見過ごせない!」

 

「俺だってやりたくてやってるわけじゃねえよ! ロイミュードを殲滅するために必要だから……だから! 俺はあの時に戦うって決めたんだ!」

 

 アメリカでマッハになるための訓練を積んでいた頃に見てしまったロイミュードの開発者とクリムの死、そしてグローバルフリーズで起こった姉の危機。

 訪れた苦悩の果てに剛は決意したのだ──ー姉をこの戦いに巻き込みはしないと。

 この決意が剛を止まれないレースへと誘い、走らせるのだ。

 

「お前が心の奥底に潜めているもの……不器用で自分勝手な優しさは悪いことじゃない。

 だけどな、私情に任せて市民を不安にさせる重加速を出している今のお前は霧子が信じている仮面ライダーか? 違うな、それはロイミュードと何も変わらない。お前がそうある限り、俺は仮面ライダーマッハを……逮捕する!」

 

「は……? 俺が、ロイミュードと……同じ?」

 

 ロイミュードと仮面ライダーは同じ技術で作られていると知っていればそれらを同一視するのはあながち間違いとは言い切れないし、剛だって自覚はしていた。

 だが、それでも面と向かって言われてしまうと中々に堪えるものだった。それが親しい者なら尚更だ。

 

 そして幻視する、姉に危害を加えるスピードが仮面ライダーマッハの姿に重なる光景を。

 

「今だッ!」

 

 そうして一瞬だけでも硬直してしまえばマッハの力は途端に緩み、拘束しようとしていた進ノ介はするりとその腕から抜け出してしまった。そこから進ノ介は再びマッハの懐に潜り込み、そのドライバーを勢い良く跳ね上げた。

 

(しまった!?)

 

 全身に漲っていた力が消失していく感覚でようやく我に帰ったマッハはほとんど無意識に進ノ介を引き剥がそうときて腕を突き出し、その先が当たった彼の身体を吹っ飛ばした。

 消えかけであろうが人知を超えた力であることに変わりはなく、しかも手加減を忘れた今の一撃は進ノ介にとって相当な激痛を与えたはずだ。

 

 オツカーレ

 

 変身の解除と共に重加速も消失し、二人だけの世界は終わりを告げた。

 消え失せたマッハのスーツから現れた剛の顔には悲哀、困惑と様々な感情が出ては消えていく。

 しかし、顔を歪めて咳き込みながらそれでも立ち上がる進ノ介を見た瞬間にそれらは全て畏怖へと塗り替わる。

 ただ鍛えただけの人間が何故ここまで喰らいつけるのか、常人を遥かに超えた身体能力の持ち主である剛にも理解できないその姿勢は、どんなロイミュードにも感じたことのない恐れを植え付けるほどだった。

 

「まだだ……俺のエンジンはまだ止まっちゃいない。独り善がりの戦いを続けるお前のブレーキとして……俺はお前を止める……!」

 

「し、進兄さんは何もわかってねえ! 俺にはこうするしかないんだよ! 俺の戦いにみんなを巻き込むわけにはいかないんだって、どうしてわかってくれないんだ!?」

 

「そうやって一人で抱え込もうとした結果、何を見てきた? 重加速に怯える人々の不安を煽るやり方なんて認められるはずがない! お前だって本当はそう思ってるんじゃないのか?」

 

 剛がこれまで何度も目にしてきた、マッハやロイミュードが出す重加速に囚われた人々は皆恐怖と不安に染まりきった顔をしていた。

 カメラマンでもあり、人の笑顔を好む剛にとってそれらは幾度となく自らの行いに伴うはずの自信を奪い、常に自問自答を重ねて無理矢理にでも己を納得させてきた。

 

 しかし、マッハの正体を知った霧子から向けられた信頼は剛の心を蝕み、その内で密かに育まれていた揺らぎをより大きなものへと変えた。いっそ批難してくれれば楽だったかもしれないが、詳しい事情を知らない霧子は剛が誰かを傷付けているとは思いもしていないだろう。

 

 それは彼女の知る詩島剛とは人々の不安と引き換えに戦う事を選ぶような人ではないと信じていたからに他ならない。

 だが真実はグローバルフリーズの恐怖から人々を救った戦士の名でその恐怖を再現していただけだった。

 

「ちくしょう……俺は何やってんだよ。誰も巻き込まない、傷付けないって決めてたのに……どうすりゃ良かったんだよ」

 

 脆い土台から成り立っていた決意が静かに崩れ去っていく。

 守ると誓った笑顔を汚しているのは自分自身だと気付いてしまったから、気付かない振りをしていたけどもうできないから。

 膝から崩れ落ちて項垂れる剛の肩に進ノ介とりんなが優しく手を掛けた。

 

「剛くん、もうこんなことはやめて。コア・ドライビアがこんな風に使われるなんてきっとクリムも望んでない」

 

「もう一人だけで背負い込もうとするな。お前の肩にある大いなる責任は一人じゃ重過ぎるぞ。だから変身できなくても、俺も警察官として一緒に戦う。

 霧子だってロイミュードにそう簡単にやられるほど柔じゃないって弟であるお前がよく知ってることだろ?」

 

 もう彼等には剛を責める気持ちは無かった。

 何もかも1人で終わらせようとしてきた故に暴走して、挙げ句の果てにはこうして慰められている気恥ずかしさを誤魔化すように口を尖らせて、微かに滲んだ涙を腕で拭う。

 

 りんなはずっとマッハのサポートしてくれていた、当たり前だけど実感はしていなかった。守る対象として見ていた進ノ介も一緒に戦うという対等な関係を申し出てくれた。

 一人じゃない、そう認識するだけで剛の沈んでいた心は少しだけ軽くなる気がした。

 

「──ッ!?」

 

 張り詰めていた緊張の糸が少しだけ解れたその時、神経を騒つかせるサイレンがマッハピットに響き、3人の意識は音の出所である隅のモニターに向けられる。

 サイレンが意味するのはシフトカー達からのSOSシグナルであると同時に重加速粒子反応の検出でもあった。

 

 その発生源は両方とも市街地のど真ん中。

 

 剛の瞳に再燃した決意の炎、その色模様は先ほどまでとは異なっており、憎しみの色は確実に薄れつつあった。

 ライドマッハーのハンドルを握る彼に、進ノ介はもう何も言わない。

 

「……サンキューな、進兄さん」

 

 その一言だけで十分だった。

 

 

 *

 

 

 銃弾が飛び交い、各所から悲鳴が上がる。

 かつて平和だった市街地の中心部は阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。

 この戦場と何ら変わりない現場を創り上げた張本人達は逃げ回る人々には目もくれずに争い傷付け合い、戦闘の余波で街を破壊していく。

 

「壊れろ! 貴様らは全員破壊する!!」

 

「ヒャハハハハハハ! どーやら完全にイカレちまったみてえだなあ、死神ィ!!」

 

 メディックによって破壊衝動を最大限にまで増幅された魔進チェイサーの暴走、それを仕留めんとするスピードロイミュード一派の抗争は激化の一途を辿り、その過程で生じた流れ弾が人々に直撃しようとしていた。

 

 ATTACKRIDE CLOCK UP

 

 そこに駆け抜ける鮮黄色の影が今まさに子供を撃ち抜こうとしていた銃弾を叩き落とし、泣き喚く子供を狙っていた055を弾き飛ばした。

 

「お母さ〜ん!! どこぉ!? どこにいるのぉー!? うわぁああん!」

 

「大丈夫だから! 落ち着いて、ね?」

 

 クロックアップの世界から帰還したDDザビーは、親とはぐれたらしく一向に泣き止まない子供を抱き抱えてなんとか落ち着かせようとする。

 親元に送り届けてあげたいのは山々だが、他にも逃げ遅れた人々が山ほどいるこの状況では一人の子供にだけ構ってはいられない。大地自身の体力を鑑みればクロックアップだってそう何度も使えない。

 

 必要なのは避難誘導する人手と人々の盾となる存在。

 

「なら、このカードだ!」

 

 ATTACKRIDE ZECTLOOPERS

 

 虚空より召喚された無数の人影の正体は戦闘部隊、ゼクトルーパー。彼等は仮面ライダーザビーが率いていたエリート部隊のシャドウと呼ばれる集団であり、DDザビーの操り人形として召喚されたのだ。

 

「Aチームは全員で逃げ遅れた人達を守ってください! Bチームは避難誘導、Cチームは敵を撃って!」

 

「「「了解!!」」」

 

 指令を受けたシャドウ達はそれぞれの持ち場に向かい、DDザビーは残ったCチームに援護させながら066、055を相手取って戦闘を再開する。

 多数の人間を率いるなんて経験が全く無い大地ではシャドウの統率をとるのは困難に思われるが、ダークドライブのように大地の意のままに動く操り人形として召喚されたのだから当然そのコンビネーションも抜群だ。

 シャドウの援護射撃がDDザビーの隙を埋め、ザビーの記憶を頼りにワンツーの要領で二体のロイミュードのボディへと的確に拳を沈めていく。

 

 だが、訳の分からぬ存在達に良いように弄ばれたロイミュード達からは与えたダメージ以上の怒りを買ってしまった。

 

「図に乗るのもいい加減にしろォ!!」

 

「キィエエエエエエッ!!」

 

 二体のロイミュードが溜まった鬱憤を晴らすかの如く周囲一帯にエネルギー弾を乱れ打ちしたことでDDザビーやシャドウ部隊のペースが乱れ、被害を被った何人かのゼクトルーパーは消滅してしまった。

 

 さらに気紛れか、それとも確信の上でか、055が振った腕から放たれた重加速にゼクトルーパー、一般人、そして次のカードを装填しようとしていたDDザビーまでもがどんよりの中に引き摺り込まれてしまう。

 

「ありゃあ? こいつ重加速効くじゃねえか!」

 

「ヒャァ〜! こいつはいいぜぇ、これまでのお返しといこうか!」

 

 敵はダークディケイドがチェイサーとダークドライブのカードを手放しており、重加速に対応できずにいる事情など知らないが、彼等には厄介だった相手がそこらにいる獲物と同じ無力な存在に成り果てたというだけで十分であった。

 DDザビーが急いでカードを装填しようとしても重加速には抗えず、襲いかかるロイミュード達の剛腕を防ぐことすら叶わない。わざわざ接近して打撃をしてくるのは今までの屈辱を晴らす意味合いも含めているのだろうが、余計にカードの装填行程を阻害されていた。

 

 装填を一時中断してガードに徹しようにも、それすら重加速に囚われては思うように動けない。

 下級ロイミュードごとき重加速さえなければザビーの能力でどうにでもなるのに、と歯噛みするDDザビーの耳朶を猛スピードで迫る爆音が叩いた。

 首を回すこともままならないDDザビーには音の正体など確認のしようがないが、視界の横から飛び込んできた何かに衝突されて吹っ飛んでいく055の姿だけは視認することができた。

 相方が襲撃されて狼狽していた066も軽快なアイドリング音を響かせる色鮮やかな閃光に包まれ、火花を散らして倒れていく。

 

 066を奇襲した閃光の内、白い流星を描くシグナルマッハが055を撥ね飛ばしたライドマッハーの搭乗者である剛の手の中にするりと収まった。

 

「悪い、待たせたみたいだな」

 

 不敵に笑みを浮かべている剛は一見すればあのスピードと同じ表情にも思えるが、他人を小馬鹿にする見下したような態度ではない。

 昨日までの危うさも感じさせない、はっきりとした自信に満ち溢れている剛の頼もしさに、DDザビーは痛む身体を押して立ち上がった。

 

「そりゃあもう、ボコボコにされるぐらい待ちましたよ。でも詩島さんがいないと始まりませんから」

 

「だったら、ここからはマッハで終わらせようぜ。俺と大地の最強タッグでな!」

 

 

 シグナルバイク! ライダー! 

 

 KAMENRIDE

 

 シグナルマッハを装填したマッハドライバー炎からはもはや聞き飽きた待機音が絶えず鳴り響き、その自身を鼓舞させるファンファーレは微かに燻る不安と緊張を残らず燃焼させる。

 大きく腕を回しながら、その横でカードをセットしているDDザビーを横目に見て、剛は一瞬息を吸い込んだ。

 

 睡眠時間を削ってでも一人でマッハやシフトカーのメンテナンスに勤しんでくれているりんな。

 自分の素性すら知らないはずなのに文句の一つも言わず戦い、姉を守ってくれた大地。

 真っ向から向き合って否定し、剛の抱えていた苦悩を正しい方向へと導いてくれた進ノ介。

 ハーレー博士、霧子、シフトカーとシグナルバイク、これまで自分を支えてくれてきた存在が剛の新たな決意を後押ししてくれる。

 

 身勝手な独善と憎しみだけで突っ走るのはもう終わりだ。共に戦う人々のために、その想いも背負って一緒に戦うのだ。

 

「────レッツ! 変身ッ!!」

 

 マッハ!

 

 IXA! 

 

 仮面ライダーマッハと仮面ライダーDDイクサ セーブモード。

 人類の守護を目的として異なる技術で設計された二つの白き装甲が同じ想いを背負って並び立つ。

 それぞれが持つ武器を掲げ、彼等は未だに戦場に取り残されている人々を救うべく駆け出した。

 

 

 *

 

 

 ズーットマッハ! 

 

 怪物への恐怖から避難の足を止めていた者達は白き旋風となったマッハが瞬く間に救出し、その他の人々もDDイクサが盾としてその身を捧げる。

 先にゼクトルーパー達が避難誘導していたお陰もあって、戦闘区域に残された人々をすぐにその場を離脱させることに成功した。

 

 最後の一人が安全な場所に駆けていくのを見届けてから振り返ったマッハは、闘争心を激しく燃やして衝突しているスピードと魔進チェイサーに向かって行く。

 その接近に気づいた両者は即座に遠距離攻撃によるマッハの迎撃を目論むが、軽やかなステップでそれらは回避される。

 そして接近する勢いを活かした膝蹴りをスピードのボディに叩き込み、マッハに向けて放たれた魔進チェイサーの蹴りをゼンリンシューターで受け止め、その足裏をなぞって振り上げることで回転したゼンリンストライカーが魔進チェイサーとスピードのそれぞれを切り裂いた。

 それも一度限りではなく、軸足を地に縫い付けたマッハが身体ごと回転することでその攻撃は何度も繰り返されるのだ。

 

「邪魔するんじゃねえよカスがァァッ!!」

 

 横槍を入れられた怒りの叫びを轟かせるスピードは自慢の超加速によって邪魔者の排除に駆け出そうとするが、その背中に突き刺さった無数の弾丸が行動を阻害した。

 

「あなたこそ、邪魔しないでください! その代わり僕が相手をする!」

 

「ほざけ! てめえみてえなノロマ、一瞬で片付けてやるよ!」

 

 DDイクサの誘いに乗ったスピードはすぐさま突っ込んで行き、これでマッハは魔進チェイサーの相手に専念できるようになる。

 破壊衝動に呑まれたチェイサーからすれば相手に拘りはなく、目の前にいる存在を倒す以外の思考は持ち合わせていない。

 

「これまであんたのことは強えロイミュードとしか思ってなかったよ。元仮面ライダーだって知っても同じだった。そもそも仮面ライダーなんて名前もロイミュードを倒す戦士以外の意味は無い、なんてさ」

 

「ウオオオッ!」

 

 マッハは目前に迫ったファングスパイディーをゼンリンシューターで打ち上げ、がら空きになった敵の腹部に鋭い前蹴りを打ち込む。

 蹴られた箇所を押さえて前屈みになった魔進チェイサーの頭部に踵落としを浴びせるが、すんでのところで鋼鉄の爪がその足先を阻んでしまった。

 身体をばねのようにして立ち上がった魔進チェイサーのファングスパイディーとゼンリンシューターの強烈な一撃がほぼ同時に激突し、吹き飛んだ両者の間に微かな距離が生まれる。

 

「けど今は違う。俺はもう一度やり直す! 姉ちゃんが信じる仮面ライダーの本当の意味がわかったからこそ、あんたが元仮面ライダーであるからこそ、あんたがこれ以上の罪を重ねる前に俺がぶっ倒す!」

 

「グゥゥ……ヌアアアアアア!!」

 

 進ノ介や大地との問答を経てついに至ったその答えを高らかに宣言し、知性の欠片も感じさせない魔進チェイサーの咆哮に少しも臆することなくマッハは駆け出した。

 そしてその手に握るシグナルデッドヒートを装填したマッハのボディに赤熱の稲妻が駆け巡る。

 

 シグナルバイク! ライダー! デッドヒート! 

 

 不安を打ち消した今のデッドヒートマッハから放出される熱はこれまでの比ではない。

 それは見つけ出した正義への自信がデッドヒートの燃料となっているかのようで、ただの蒸気ですらも魔進チェイサーを怯ませた。

 

 そうして顔を背けた一瞬の後に────魔進チェイサーとマッハの距離は無くなっていた。

 

「オラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

 爆発的な加速と攻撃力から放たれる拳のラッシュ。その攻撃自体はこれまでと同じだが、速度と威力の両方が過去のそれを遥かに凌駕していた。

 装着者の精神状態に大きく左右されるコア・ドライビアの出力が自信をつけた剛という要素のおかげで大幅に上昇していることが最たる理由であるが、むしろ不安定だった今までの剛がマッハの本当の性能を引き出せていなかったとも言えるのかもしれない。

 

 だが、詳しい理由を突き詰めていく必要はない。一発一発を繰り出す度にその拳の速度と威力はさらに上昇し、それを繰り返すだけで魔進チェイサーの装甲を粉々のスクラップにしてしまう勢いである──────それさえわかっていればいいのだ。

 

「ヌゥゥ……! ハアァッ!」

 

「うおっ!? こ、これは……重加速!?」

 

 魔進チェイサーに一際強い一撃を叩き込もうとした直前に、紫の波動がその進行速度をマッハの意思とは関係無しに鈍くさせてしまう。

 まるで重加速のようだ、と思い至った頃には全身が波動に覆われており、マッハの動きは先程の速度が嘘みたいに遅くなっていた。

 

 メディックの改造は魔進チェイサーに新たな能力を付与させており、通常の重加速を上回りライダーをも制限させるこの超重加速もその一つだった。

 

「超重加速……まさかお前などに使わされるとはな。だがこれで終わりだ」

 

 TUNE! CHASER! SPIDER! BAT! COBRA! 

 

「トリプルチューン!!」

 

 魔進チェイサーの全ての武装を一つに合体させた武器、デッドリベレーションに膨大なエネルギーがチャージされていく。

 強化改造を遂げて、ただでさえパワーアップしている魔進チェイサーの最強武装を喰らえばマッハにも命の保証はない。ましてや超重加速で停滞した身体では避けるのも不可能だ。

 

 芽生えたのは身動きの取れない状態で敵に狙われるのをゆっくりと待つ恐怖、だがそれ以上に実感するのはその感情を数え切れないほどの人々に自分も与えてきたという憤り。

 直接的な危害を加えなければいいのだと自分にしてきた言い訳がどんなに愚かで無知であったのか、この恐怖を享受せずに暮らせることがどれだけ尊いことなのか、後悔の念は噴水のごとく湧き上がり、しかしそれすらも剛を燃え上がらせる燃料と化した。

 

「そうだよな……こりゃあ怖えよ。進兄さんが怒るのも当然だ。でもだからこそ、俺はもう止まれねえんだよ!!」

 

 バースト! キュウニデッドヒート! 

 

 ブーストイグナイターを力の限り叩き、デッドヒートマッハは一時的なバースト状態に突入する。

 だがベルトを叩く腕はそこで止まることはなく、デッドヒートの出力は限界以上の値に到達したことで赤熱した装甲も大量の蒸気を噴き出すばかりか融解寸前にまで熱せられていた。

 DH-コウリンのメーターも装着者の体力を著しく奪う危険な領域を突破して振り切った時、ついに変化は訪れた。

 

 剛の心に宿す炎をそのまま刻んだようなファイアパターンがデッドヒートの装甲に浮かび、半ば暴走しかかっていた熱も極限状態で安定に至る。今のマッハは強制変身解除の制限を超えて最大のバーストを制御することに成功したのだ。

 

「パワー……全開だぁぁぁぁっっ!!」

 

「馬鹿なっ!?」

 

 ライダーさえも縛る超重加速を弾き飛ばす勢いで駆け抜けるマッハの姿を魔進チェイサーには捉え切れず、デッドリベレーションの一撃もあらぬ方向へと消えた。

 

 超重加速がデッドヒートをも止めるのならば、それ以上の出力で走ればいい。失敗すれば命を落としかねない賭けではあったが、成功させる自信はあった。ここで成功させずして、どうして仮面ライダーを名乗ることができようか。

 

「行くぜ、スパイク!」

 

 シフトカー! シグナルコウカン! ササール! 

 

 ゼンリン! 

 

 回転するゼンリンストライカーが蓄えたエネルギーにファンキースパイクのニードルが加わり、刺々しい見た目通りの威力を発揮する光輪が生成される。

 その光輪を保持した状態で殴りつければ、魔進チェイサー自慢のデッドリベレーションは白銀の装甲に歪な傷を与えてられ、本人にも少なからずダメージとなる。限界突破したデッドヒートのスペックでのゴリ押しに近い乱打を完全に捌ききれるはずもなく、まともな抵抗もできぬままついに魔進チェイサーは地に膝を着く。

 

「なんなんだ……このパワーは!? これが、仮面ライダー……!」

 

「かつてお前が誇っていた正義の力だよ。仮面ライダーの名も、力も俺が確かに受け継いでやる。だから安心して眠れよ、チェイス」

 

 ヒッサツ! バースト! フルスロットル! デッドヒート! 

 

「クッ……トリプルチューン!」

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーっっ!!」

 

 激突するヒートキックマッハーとデッドリベレーションの最大の一撃。死力を尽くした必殺技の光はどちらも相手を食らわんとせめぎ合い、行き場を失った余剰エネルギーが彼等の周囲に小規模の爆発すら起こした。

 

 だがそんな均衡もほんの一瞬の出来事に過ぎない。

 

 ファンキースパイクを用いた乱打ですでに損傷していたデッドリベレーションではヒートキックマッハーを押し返せるだけの出力に耐え切れず、マッハを撃ち抜くよりも早く自壊を起こす。

 そうなればエネルギーは弱まり、灼熱の蹴りが魔進チェイサーに到達するのは当然の道理である。

 それでも崩壊したデッドリベレーションの残骸で最後に抵抗を試みたのは彼に微かに残っていた追跡者の誇りがそうさせたのか、単なる破壊衝動に身を任せた結果だったのか……定かではない。

 

 はっきりしているのは、魔進チェイサーから生じた爆炎の中に立っているのは仮面ライダーマッハただ一人ということだけだった。

 

 

「……おつかれ。チェイス」

 

 

 ポツリと呟いたそれは数奇な生涯を歩んだ戦士に送る、剛なりの手向け言葉。

 ついさっきまで存在していたその場所を一瞥して、ほんの少し──本人にしかわからないほど小さく頭を下げて、マッハは次の戦場に足を進めて行った。

 




次回でマッハ編終了です……長えよ。

デッドヒートマッハのアレは中盤からやってたタイヤバーストさせてるパワーアップですね。見た目は変わりますが、まあ概ね同じです。

魔進チェイサーvsマッハの展開は一番最初に決めてたことでした。魔進チェイサーの時代だとあの2人全然絡みないんですよねえ、進兄さん主役だから当たり前なんですが。

次回、スピードロイミュードとの決着です。速いアイツをどう攻略するかな
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