仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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マッハの世界、完結です。次の世界はどこかな?


次の世界はどこか

 

 デッドヒートマッハと魔進チェイサーが対決をしている横で四人の異形が各々の武器を振るっては互いに傷つけ合っていた。

 その実3対1でかつ重加速に制限されているというハンデを負いながらもDDイクサの劣勢はそこまで深刻なものでもなかった。

 

「ハァッ!」

 

 顔面で金色に輝くクロスシールドが開かれて、バーストモードを解放したDDイクサの周囲に高熱を伴う風圧が広がり、重加速の空間における小規模のバリアとなる。

 本来なら一瞬敵を吹き飛ばす程度の効果しか期待出来ないものだが、重加速が適用されればそれは敵から身を守る手段として残り続けるのだ。

 

「おい、一旦止めろ!」

 

 スピードが出した指示は重加速の解除。

 DDイクサを囲っていた風圧のバリアは通常の時間の流れを取り戻した途端、大気中に飛散して無防備な状態で敵の目前に投げ出される形となった。

 その一瞬を見逃さないスピードによる音速のホイールがDDイクサに正面から叩き付けられ、白い装甲の大きな凹みに押し出されるように血が混じった唾を吐く。

 

「ああ…! この感触やっぱたまんねえわ! 重加速で一方的に痛ぶるのも悪かねえけどよ、そういう苦しんでるところをリアルタイムの一瞬で味わうって方が趣があっていいよな!」

 

「そんな悪趣味も、今日で終わりですよ…! 僕達があんた達を倒す!」

 

「トロいお前らが? ハハハハ! 面白いジョークだね、だったら追い付いてみろよ!」

 

 恐らくスピードにはDDイクサの言っていることなんて強がりにしか聞こえていないだろうし、実際奴が言うように追い付くなんて芸当はクロックアップぐらいしかない。

 ザビーのカードをすでに使ってしまったからには残されたドレイクとサソードで対応する他ないのだが、連日の戦闘で蓄積された疲労も回復しきらない内にクロックアップを一度使用した大地の体力の消耗は軽視できない。

 

(クロックアップは確実にトドメを刺す時まで使えない…なら!)

 

 あらゆる方向から叩き付けられる衝撃を堪えつつ、DDイクサはドライバーが示したカードを無理矢理選び取る。

 

  KAMENRIDE ZOLDA

 

 オーバーラップする虚像がダークディケイドを緑の騎士、DDゾルダの姿を形作る。

 だが彼の慢心がそうさせるのか、スピードは新たな変身を遂げたダークディケイド相手にも警戒を抱かずに攻撃は続けられ、それを受けたDDゾルダは火花を散らしながら転がっていく。

 スピードの下品な笑い声が耳を過ぎったかと思えば、次の瞬間には鈍い痛みを味わう連鎖が三度ほど繰り返されてもスピードには反撃の一つも与えられていない。

 

 見るからに鈍重なDDゾルダはスピードに動きに全く捕捉できておらず、ロイミュード達によってできた瓦礫の山をキョロキョロと見渡す様は自分の死に場所を探しているようでもあり、あまりに滑稽だとスピードは鼻を鳴らす。

 

「やっぱりさっきのはハッタリかあ…どうやらその手品もネタ切れらしいね」

 

「…あった」

 

 スピードには目もくれずに瓦礫の山に走って行くDDゾルダ。

 無視されたスピードは苛立ちを込めて無言で光輪を飛ばし、DDゾルダがいた場所を瓦礫ごと切り裂いた。

 光輪が描いた軌跡は一瞬の静寂の後に爆発を起こし、邪魔者の最後を彩る花火としてロイミュード達に暫しの愉悦を齎した。

 あれだけの攻撃を受ければ少なくとも戦闘続行不可能な程度には傷付いているに違いない。

 

「おい、あいつの身体持ってこいよ」

 

「チッ、わかったよ」

 

「ヒヒヒ…さぁて、俺達が楽しむ余裕はまだあるかなぁ?」

 

 スピードが蹂躙する光景を黙って見ていただけの下級ロイミュード二人は顎で使われることへの不満を覚えながらも、散々自分達を邪魔してくれたダークディケイドをこれから痛めつけられる快楽の方が勝っていた。

 聞こえるようにわざと大きな音をたててDDゾルダが倒れているであろう場所の瓦礫を押し退けるが、そこでロイミュードは首を傾げた。

 

「あぁん? どこにもいねえぞ」

 

「木っ端微塵になっちまったかなぁ?」

 

 そこにあるのは瓦礫の破片や、()()()()()()()ぐらいでDDゾルダは影も形もない。

 特に何の気もなく、おもむろにその窓ガラスを覗き込んだ066は自身を反射しているそれの中心が徐々に歪んでいく奇妙な光景を目にする。

 刹那、066の全身を包む爆炎と身を焦がす熱によって彼が上げた疑問の声も掻き消された。

 

「ギャアア!?」

 

 066を焼いた爆発の出所は窓ガラスの破片から射出された砲弾。それは比喩でも何でもなく、本当に窓ガラスから砲弾が飛んで来たのだ。

 一体何事だ、と066に近寄る他の二体にも次々と砲弾が飛来し、055も爆炎に呑まれた。

 間一髪のところでスピードが放った重加速で砲弾は鈍足の爆弾となるが、それでも窓ガラスから飛び出す砲弾は止まるところを知らない。

 その周囲はさながら地雷原の様相を呈していた。

 

「速さじゃ追い付けないけど、そっちも僕の居場所には来れないよね!」

 

 スピードには届かないDDゾルダの声は誰もいないミラーワールドで虚しく木霊した。

 ゾルダの大砲、ギガランチャーの照準を現実世界にいるロイミュード達に合わせ、発射する。

 半分賭けに近かったが、どうやら重加速はミラーワールドにまでは効果を成さないようだ。鏡の世界に侵入できるゾルダの力でミラーワールドからの一方的な砲撃を浴びせるという一見卑劣極まりない戦法ではあるものの、最初から多彩な能力を持たされて様々な敵と戦ってきた大地には正々堂々なんて概念は持ち合わせていなかった。

 そもそもあんなスピードのような下衆が相手なら元より手段を選ぶつもりもないのだが。

 

 ロイミュード達の周囲は重加速で弾速が遅くなった砲弾で溢れ返り、既に身体を焼かれた066は恐怖に慄いて後退る。

 下手に食らえば一撃でボディを破壊されてもおかしくない砲撃をいきなり浴びせられてしまえば戦意を失うのも無理はない。

 そうして鏡に注意を払いながら逃げ惑う066はその背後にある噴水、踊り流れる水から伸びる砲身に気付くことができなかった。

 

「これなら、重加速は関係ない!」

 

「ヒギャァアァッ!?」

 

 重加速の影響を受ける前に、零距離から放たれた砲弾は見事に066を撃ち抜き、そのコアを完全に破壊して焼き尽くした。

 ミラーワールドのライダーがその出入り口として利用できるのは窓ガラスなどの鏡に限らず、水面を初めとした反射物であれば可能であるのだ。

 

「み、水から…!? ハッ!?」

 

  カクサーン!

 

 突如として破壊された仲間に気を取られていた055の頭上から降り注いだ拡散弾が周囲の砲弾ごと撃ち抜いていく。

 そうなれば地雷原と化していた場所が辿る末路はただ一つ。次々と誘爆が連鎖し、巻き起こった激しい大爆発によって押し潰された055はそのコアごと消滅した。

 いち早く爆発から逃れていたスピードは拡散弾の射主を即座に見抜き、迫っていたマッハのハイキックは右腕で弾かれる。

 

 瞬く間に仲間二人を撃破されたにも関わらず、一切焦ることすらしないスピードは大したものだが、それについてはマッハも同様だ。

 制限の関係で既にデッドヒートから通常形態にパワーダウンしてしまっているが、地面に着地したマッハはどこか自信満々という風にもDDゾルダの目には映る。

 

「あらら、死神倒しちゃったの? 困るよなぁ、あいつは俺がギタギタにするつもりだったのによお」

 

「だったらあの世で好きなだけ小競り合いしてな! つっても、お前はチェイスよりも深い地獄行きだろうがな!」

 

「言ってくれるねえ。いつまでその減らず口が叩けるかな?」

 

 何度目になるかもわからない超加速でスピードの姿が消えたかと思えば、マッハの腹部に音速の拳が潜り込む。

 スーツ越しに肉を捻る感触がスピードには快楽を、マッハには苦痛を齎し、そこまでの過程は昨日と同じだ。

 

 異なるのはスピードの拳がマッハにしっかりとホールドされているという点。

 

 自慢の速さを活かした一撃がこんなにもあっさりと見切られ、受け止められたなど認められずーーーそれがスピードの判断を遅らせる原因となる。

 

「は?」

 

「ワンパターンなんだよ、お前。俺をコピーしたならもうちょい頭使えよなッとお!」

 

 お返しと言わんばかりにゼンリンシューターを腹部に叩き込まれてはスピードも地を転がるしかない。

 だが彼の心中には与えられたダメージからくる苦痛よりも、自慢の速さを見切られた屈辱が占める割合の方が遥かに大きかった。

 

「おいおい……おいおいおい! たった一回ガードできたくらいで調子に乗ってんじゃねえよ!! それに何だ? 頭を使え? 一人で勝手に憎んで突っ走るお前をコピーしたんだぜ? 短絡的なのは元が悪いからだよ!」

 

 正面が駄目なら背後から、と回り込んだスピードはその首を叩き折る勢いで右腕を振るうが、叩くどころか空を切っただけに終わった。

 

  ズーットマッハ!

 

「へっ、もうそんな俺はとっくの昔に置いてきたさ。今ここにいるのはーーー!」

 

 背後から聞こえた声に振り向いたスピードの顔面をマッハの足先が蹴り抜く。

 

「追跡!」

 

 もう犠牲者を出さないために市民を脅かす悪を速やかに追い詰める。

 その宣言と同時に、宙に浮いたその白いボディへと渾身のアッパーが続けさまに叩き込まれた。

 

「撲滅!」

 

 もう誰も不安にさせないために人間を傷付ける悪を速攻で殲滅する。

 その決意が込められた裏拳でヘルメットのような頭部を横殴りに揺らす。

 

「いずれも……マッハ! 仮面ライダー、マッハァ!!」

 

 最後に、左手に合わせた拳は愚かだった己への自戒として。

 

 焦りとストレスから見失いかけていた目的を改めて確認した上で、詩島剛が本来持ち合わせていた自信を取り戻し、今ここに真の意味で仮面ライダーマッハとしての戦いが始まったことを宣言したのだ。

 

「それは何の冗談ーーガハッ!?」

 

 高らかに名乗りを上げたマッハに殴りかかろうとしたスピードへ殺到する実弾の嵐とそれに伴ってボディから噴き上がる火花。

 スピードの口から漏れる情けない悲鳴にはもはや先までの余裕はどこにもない。

 窓ガラスから現れたDDゾルダは重加速をものともしない様子でマグナバイザーでの発砲を続けながらマッハの隣にまで歩み寄り、語りかけた。

 

「詩島さん、あの、チェイサーは……?」

 

「倒したよ。あいつがただの殺戮者に堕ちる前に、元仮面ライダーである内に、な」

 

「……そうですか。残念ですけど、今の詩島さんがそう判断したなら僕もこれで良かったと信じます」

 

 記憶を垣間見た仮面ライダーと瓜二つだったチェイスが結局死んでしまったことに対して思うところがないと言えば嘘になるが、隣に並ぶ剛は昨日までのどこか不安定にも見えた男などではない。

 自信と余裕を取り戻した今の剛なら名護達と同じ信じるべき仮面ライダーとしての判断を下したと言えるだろう。

 

 その証拠こそDDゾルダの手に収まっている、記録の色を刻み込んだ「カメンライド マッハ」のカードである。

 

 こうしてマッハのカードを手に入れた今、重加速に対抗できるようにはなったが、それでもスピードが誇る脅威の超加速は健在だ。

 烈火の如く怒り、激昂の叫びを轟かせるスピードの威圧も相当なもので照準が合わせてあるマグナバイザーの引き金を引くのに一瞬躊躇ってしまった。

 

「ざけんじゃねえええーッ!! どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって! もう手加減はしねえ、てめえらの命なんざ速攻で終わらせてやるよ!!」

 

 その一瞬が命取り。視界から消え、風が過ぎ去った感触を味わう。

 背後に気配を感じ取り、慌ててマグナバイザーを向けようとしたその手からポロッと落ちてから硬い音を立てる。

 手を滑らせたかと思って拾おうとするが、その意思とは関係無しに膝から崩れ落ちたDDゾルダは地に伏す羽目になる。

 そこで漸く自身の腕、背中、脚ーーー全身を隈なく打たれた激痛を自覚した。

 

「「ぐああああッ!?」」

 

 隣にいるマッハもまたDDゾルダと同じく全身を打たれたようで、片膝を着いてしまっている。

 この攻撃はスピードの超加速で為されたのは間違いないだろうが、いくらなんでも速すぎる。以前とは段違いであるとしか言いようがない。

 

「ははぁぁ〜…! どうだよ、誰も俺に追いつけねえ。もう誰も俺を見下させねえ!」

 

「チッ、俺の声でそんな下らねえ理由タラタラ言ってんじゃねえよ」

 

「ほざけノロマがぁ!」

 

 例えどんなに下らない劣等感であろうと、スピードを進化させる憎しみの大元たる感情が増せば増すほど彼は強くなる。

 剛が自信を取り戻してマッハが強くなったように、スピードも模倣したその感情で速さを増すのだ。

 こうしてさらなる高みへと進化したスピードを追い付くのは、悔しいが生半可な能力では難しい。

 

「ーーーん?」

 

 スピードが再び駆け出して一方的な蹂躙が始まろうとした時だった。

 後ろめたいことのある者には警戒を、善良な市民には安心を齎すサイレンの音が少しずつその場に近付いて来たのは。

 この音の正体はまさしく…。

 

「「進兄(泊)さん!?」」

 

「剛! これを受け取れ!」

 

 そう、パトカーを猛スピードで走らせて来た進ノ介だ。

 車を急停止させてマッハに何かを投げ渡しただけでなく、ドアを盾にして拳銃を構えながら説明する。

 

「それはりんなさんからだ。プロトドライブのデータから作ったとかなんとか…とにかく使ってみろ!」

 

 渡されたのは見たこともない赤いシフトカー。どうやらかなりの急造品らしくAIすらまだ搭載されていないようだが、使えるなら文句はない。

 

「OK、それじゃあ遠慮なく初乗りさせてもらうよ」

 

  シフトカー! シグナルコウカン! ハヤーイ!

 

 そのシフトカー、シフトスピードをマッハドライバー炎に装填した途端にマッハの新たなる能力が引き出される。

 いや、新たなるという表現は正しくない。これは最も多い頻度で使われて慣れ親しんだ能力の強化発展型とも言うべき力。

 マッハが纏う赤いオーラ、その奥で青い複眼の発光とブーストイグナイターの連打が音速を超える世界の始まりを告げた。

 

  トテモハヤーイ!

 

「さぁ、トップスピードで行くぜぇぇ!!」

 

 

 *

 

 

 赤い影と白い影、マッハとスピードがこれまでの比ではない速度で激突する。

 あの赤いシフトカーはマッハの高速移動能力をさらに強化させる代物であったらしく、あのスピードとも互角に戦えているようだ。

 だが、DDゾルダではとてもじゃないが目で追うことすら出来ないこの状況でできることはかなり限られてしまっている。

 つまり今こそ温存していたカードを使う時だと、DDゾルダは迷わずそのカードをバックルに差し込んだ。

 

  KAMENRIDE SASWORD

 

 カメンライド先に指定したのは蠍を模した外見のどこか毒々しい印象を与える鎧の仮面ライダーサソード。

 身軽なライダーフォームに備えられた能力、クロックアップの有効性は先に実証済みではあるが、大きく体力を消費する等のデメリットもある。一応仮面ライダードレイクのカードもまだ残ってはいるが、クロックアップを使えるのはこれで最後と考えた方が良いだろう。

 

 もしもあの音速の激突で敗北したらその時は…。

 

「…よし、一か八かだ。クロックアップ!」

 

  ATTACKRIDE CLOCK UP

 

 不安を募らせるビジョンを気合の叫びで打ち消して、DDサソードはタキオン粒子が導く超高速の世界に突入する。

 重加速にも似た奇妙な空間でまともに動いているのはマッハとスピードのみ。

 だが、異なる時間流にその身を置くクロックアップの前ではマッハやスピードの脅威的な加速もそれほどの速度には至らない。

 

 DDサソードがその時間流にシフトした丁度その時ーーーマッハによる拳のラッシュがスピードを突き飛ばしている瞬間であった。

 

「詩島さん!」

 

 歓喜の声を上げて駆け寄ろうとして、マッハから一切の反応が返ってこないことに気付く。

 例えほぼ同速になっていようと時間流が異なればその声は届かない。理屈はともかく、何となく自身の声がマッハには聞こえておらず、マッハの声も自身の耳には届かないことをDDサソードは悟る。

 

 いかに優勢でも、お互いに意思疎通が取らなければ連携は困難だ。

 下手に攻め込んでいけばマッハの邪魔をしてしまうかもしれない、と二の足を踏んでいると、マッハの視線がこちらに向いていることに気付いた。

 視線と微かな頷き、そこから感じ取った確かな信頼に覚悟は固まった。

 

「ーーーーーーーッ!!」

 

  ヒッサツ! フルスロットル! ハヤーイ!

 

  FINALATTACKRIDE SA SA SA SASWORD

 

 聞こえない叫びを上げるスピード、必殺の準備動作を終えるDDサソードとマッハ。感覚を狂わせる空間でいよいよ最後の激突が始まった。

 

 怒りと憎しみに染まった感情を剥き出しにして正面から突っ込んでくるスピードの速度といえばクロックアップにも迫るかと思われたが、突如として横から割り込んできた物体がその白い体躯を跳ね飛ばす。

 

 魔進チェイサーが遺したライドチェイサーとライドマッハーが合体し、敵として猛威を振るった四輪車両のライドクロッサー。

 それが今度はマッハの指令に従って合体を果たしたのだ。

 さらに指令を受けたライドクロッサーが吹っ飛んだスピードの背後に猛スピードで回り込むと同時に、足先に赤色のエネルギーが吹き荒れるマッハのキックが猛然と放たれた。

 

 大型ロイミュードのパワーにも負けない馬力による体当たりを直に喰らってグロッキー状態のスピードを、そのキックが貫いたかと思えば、マッハを追うように駆け出していたDDサソードの毒液を纏う斬撃、ライダースラッシュも白い脇腹を切り裂く。

 

 敵を貫いたキックを放った体勢のまま、マッハの足先はその先にいたライドクロッサーに触れて、車体を足場として思い切り蹴った反動で反転。またしてもキックを繰り出した。

 そうしてキックがスピードを通過すれば、またサソードヤイバーの斬撃もその軌跡を辿る。

 超高速で放たれるその連携攻撃は常人からすれば紫と白の線が入り乱れる幻想的な光景になっていたことだろう。

 

「グガガガガガガガガガガガガッ!!!!?」

 

 蹴り抜かれ、切り裂かれ、溶かされ、破壊されて。

 憐憫の情すら湧いてきそうな状態で同じ一点に固定されて蹂躙され続けるスピードの無惨な悲鳴は誰にも聞こえずに消えていく。

 自慢の速さどころか光輪だって使えやしないーー相手が速過ぎるために。

 

「でぃやああああああああーッ!!」

 

「ツアアアアアアアアアアーッ!!」

 

 決して重なることない両者の叫びが一つになる幻聴を響かせて、ライダー達の最後の一撃がスピードを通過した。

 シフトスピード、ライドクロッサーによる連携必殺技、ドロップマッハーとライダースラッシュの全てを叩き込まれたボディは途中からすでに崩壊を始めており、最後の一撃が効果を為す頃には半分以上が溶解しきっていた。

 

「ユル……さ、ネエ……オレを、ミクだすヤつは……!」

 

「確かにあなたは速かった……でも憎しみだけなら、そこが限界なんでしょうね」

 

 ドロップマッハー発動後に着地した地面と足の摩擦から出る煙を払うマッハの背中に手を伸ばしてくるスピードに憐れみの感情をほんの少しだけDDサソードは声に出した。

 しかし、もはや聞こえてくるのは機械の部品が溢れ落ちる硬質音だけで、怨念を込めた恨み節すら返ってこない。

 代わりに返ってきたのはスピードの型番を示すコアが地面に落ちる音と、一瞬遅れて響いた爆発音だけだった。

 

 

 *

 

 

 瓦礫の撤去に残り火の鎮火作業、さらには現場検証で様々な制服が忙しく働いている光景を横目に少し離れた場所で大地は地べたに、剛はライドマッハーに座って一息つく。

 進ノ介の忠告に従ってそそくさと去ったのは正解だったらしい。

 

 互いに無言で、しかしなんとなく以前のような険悪さはどこにもない不思議な雰囲気で最初に口を開いたのは剛の方だった。

 後頭部をぽりぽりと掻いている様はなんだか相対しているこちらまで気恥ずかしさを覚えてしまう。

 

「なんつーか…礼を言わせてくれ。一緒に戦えて良かったよ」

 

「そんな、こっちこそ何度も助けられましたし……でも少しは僕も胸を張れる気がします。なんたって、仮面ライダーである詩島さんにお礼を言われたんですから」

 

「なーに言ってんだよ、お前だって立派な仮面ライダーだろ! このこの!」

 

「ちょ、くすぐったいですよ! ハハハ!」

 

 髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくる剛の笑顔に釣られて大地も思わず笑顔を浮かべたのだが、ふと思い出したかのように剛はライドマッハーから何かを取り出した。

 一体なんだろうと覗き込めば、激しいフラッシュが視界を白く濁らせた。

 

「おい! 目ぇ瞑っちゃ駄目だろ! 久々に良い画撮れるかと思ったのに」

 

「え? え?」

 

「ほら笑えってーーー大地!」

 

 剛にとってそれは何気ない一言に過ぎなかった。

 成り行きじゃない、確かな信頼を寄せた相手の名前を呼ぶなんて当たり前の行為。

 先の戦闘中で呼ばれた時は気を張り詰めていたために気にも留めなかったが、こうして面と向かって言われて初めて気付く。

 

(認めてもらいたい相手に名前を呼んでもらえるって……こんなに嬉しいんだ)

 

 りんな、進ノ介、瑠美、皆が大地の名を呼んでくれている。

 

『でも確かに同じくらいの歳で一緒に暮らす仲間にいつまでも苗字にさん付けは他人行儀な気がするよなあ。大地も呼び方変えてみたら?』

 

 なんとなく気後れして、誰でもずっと苗字呼びしてきた。その意味を考えた事もなかった。

 だけど親しくなろうと思うなら、それはとても大切な事だったのだ。

 

 その結論に至ってようやく、大地の顔は綻んだ。

 

「お、笑った」

 

 パシャリ。乾いたシャッター音が響いた。

 

 

 *

 

 

「ただいま」

 

 2日ぶりの写真館帰宅が随分久しぶりに感じる。

 公園で寝泊まりしてからというもの、硬いベンチで寝た背中が痛いわ風が冷たいわで部屋のベッドが恋しくて仕方がなかった。

 写真館の暖かな空気を胸いっぱいに吸い込んでから野太い声とか、高い声とか聞こえるリビングへ顔を出す。

 

「あ! 大地くんやっと帰ってきましたね! もう、ここで缶詰めにするなんて酷いじゃないですか」

 

「す、すいません。その………()()()()が危ない目に遭ったらいけないと思っちゃって」

 

「「「え?」」」

 

 ただ名前を呼ぶ行為がこんなにも勇気がいることには内心驚いた。

 だからなるべく自然体を心掛けて、サラッと呼んでみたつもりでも瑠美達は聞き逃しはしなかった。

 大地が苗字のある相手を名前で呼んだことがそれだけ衝撃的な出来事だということだ。

 

「大地、どういう心境の変化だ?」

 

「いや〜、ついに大地が色気付いたかぁ。良かった良かった」

 

「そ、そんなんじゃないですよ。ガイドもレイキバットさんも大袈裟なんだから……前に言われたみたいに名前を呼んだだけじゃないですか」

 

 別に邪な感情は断じてない……はずだ。

 というか割と勇気を出して言ったのだからそんなに茶化さないで欲しい、なんて言い出した暁にはもっと食い付いてきそうだから(主にガイドが)やめておく。

 

「ふふ…でも前は何でもいいなんて言っちゃいましたけど、やっぱり名前で呼び合える仲って良いものですね。それだからってわけじゃないんですけど……大地くん、これからもよろしくお願いします」

 

 瑠美はぺこりとお辞儀をした後、リビングに置いてあったらしい紙袋を持ってきた。

 それ自体は見た事もないブランド名が刻まれて、それ相応の質を予想させる綺麗な紙袋に入った白い細腕が掴んだ何かを大地に差し出してくる。

 透明なビニールで丁重に包装されていたそれは、少し大きめの青いウエストポーチ。

 

 さほどお洒落に気を回さない大地からしても、そのシックな色使いは好感触であったが、ふとポーチの端の黒い刺繍に目が付いた。

 少々輪郭が歪んではいるもののーーーそれは紛れもなくダークディケイドの紋章を模しているのだとすぐにわかった。

 瑠美の左手の人差し指に巻かれた絆創膏も見て、不意に目頭が熱くなる。

 

「この前買ってきたんです。ベルトを入れるのに便利かなって思ったんですけど、そんなので大丈夫でしたか?」

 

「そんなのどころか……これすっごく嬉しいです! 便利だし、それに……僕、誰かからこうして贈り物を貰うなんて初めてだから」

 

 利便性の高さも去ることながら、今までの旅路が闘いに明け暮れる日々であったからこそ余計に瑠美の心遣いをありがたく思ってしまう。

 こんな状況で涙を出すのは恥ずかしいので頑張って引っ込めて、感謝の意を笑顔にして伝えた。

 

「そうですか! 気に入ってくれたなら良かったです。それと、レイキバさんとガイドさんにも買ってきてありますよ」

 

「俺にも、か?」

 

「これから一緒に暮らす相手への、ほんの気持ちですから」

 

 そう言ってガイドには黒いエプロンを、レイキバットには小さいスノードームを贈った。

 小さく振ったスノードームの中でミニチュアサイズの村に雪が降り始め、その不思議な置物の仕掛けに初めて見るレイキバットも大地も興味深々といった様子で眺める。

 心なしかレイキバットの羽ばたきがいつもより忙しく、もしかすると興奮でもしているのかもしれない。

 

「うんうん、瑠美ちゃんは良いセンスしてるし、ほんとに良い娘だよ。てか大地、君が最初に貰った贈り物は俺からのダークディケイドライバーだろ!? 忘れるなんて酷いねえ」

 

 瑠美からの贈り物をあんな物騒極まりないベルトと一緒にしないでもらいたい。

 不満げな表情をわかりやすく前面に出すと、ツボにでも入ったか、腹を押さえて笑うガイド。

 やや大袈裟に笑って仰け反ったその背中が背後にあった背景ロールの鎖に当たり、新たなロールが不自然に降りてくる。

 

 もはやお馴染みとなりつつある、次なる世界を示すこのイベント。

 描かれていたのはーーー深緑の森の中に佇む黒い戦士の背中と、その手に握るトランペットだった。

 

 

 *

 

 

「なんだか笑顔が固いんだよなあ」

 

 不意打ち気味に撮った大地の笑顔はどことなくぎこちない。

 時間としては短か過ぎた交流でも、交わした想いは時間で測れるようなものでもない。

 それにこうして写真を持っていれば、今も違う空の下にいる彼と一緒に戦っているとも言えるのだ。

 

「さて、お呼びみたいだし行くか」

 

 事件を知らせるシグナルバイク達に急かされてその写真を財布に仕舞い、剛はライドマッハーに跨った。

 走り去って行くバイクの道の先は未だはっきりしないが、少なくとも一つわかっていることがある。

 

 詩島剛は、仮面ライダーマッハはこれからも走り続ける。

 

 

 *

 

 

「今回も失敗、か」

 

 どこかの時間、どこかの世界。

 ここに黒いコートに身を包んだ一人の男が立っていた。

 痩せ型、と言うには些かこけ過ぎた頰や身体つきでも、病的なまでの細さはあらゆる物を切り裂くナイフのようである。

 そして何よりも異質なのは彼の手の中にあるカードと、左腕にあるカードリーダーのような機械の存在だった。

 

 ダークディケイドのそれと同じ規格らしきデザインだが、描かれているのは仮面ライダーではない。

 より邪悪なる存在を刻んだそれには「カイジンライド ゴ・バダー・バ」と読み取れる。

 

「わざわざバイラルコアを使ったのにこの有様とは……今のユーザーは中々やるようだ」

 

 彼が取り出したカードの束、「カイジンライド ハンミョウ獣人」や「カイジンライド ジャガーマン」のカードも含まれているそこにバダーのカードを潜り込ませて仕舞う。

 

「まあいい、あの力をもう一度手にするチャンスはまだある。鬼の世界でも精々楽しませてもらおうか。ゲームはまだ、始まったばかりだ」

 

 どこからともなく出現したオーロラを通って、歪な笑みを浮かべたその男は消えていった。

 

 

 彼の名はドウマ。大地達が出会う時はすぐそこまで迫っていた。

 

 




怪人のカードを持つ男 ドウマ

様々な怪人を召喚する「カイジンライド」のカードを持っている。世界を渡る力を持ち、これまでの異質な怪人を召喚していたのも彼のようだが……?
その目的、正体は不明。


次の世界は…わかりますよね?
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