色々とやばい
息吹く世界
二十五之巻 『息吹く世界』
マッハの世界を後にした大地達が次に足を踏み入れた世界。
毎度のことながら異世界であっても何か変わったところがあるわけでもなく、地道な情報収集から活動が始まる。
大地は足で、瑠美はネットや新聞から仮面ライダーの情報を探すのだが、残念ながら結果は芳しくない。
未だ仮面ライダーへの手掛かりの一つも得られないまま、この世界に来てから3日が経過していた。
今日も大地は瑠美とレイキバットを連れて街を歩いているが、いつも通りの退屈なほどに平和な光景が広がるばかりで異形の影なんてどこにもいやしない。
あてもなく歩き続けて、いい加減足が棒になりかけた頃には会話も自然と減ってくる。
「レイキバさん…何か見つかりましたかぁ?」
「……駄目だ。また飽きて寝てるよ」
大地のポーチの隙間から微かに洩れているいびきを聞くとレイキバットの待遇が無性に羨ましくなる。
この世界のそろそろ冬に差し掛かろうかという気候はレイキバットにとって快適な環境らしい。飽きれば寝るを繰り返して、完全にポーチの重りと化していた。
大衆の目から隠れる必要があるのは重々承知の上だが、それにしてもこの羽は飾りかと言ってやりたくもなる。
行く先も決めずにぶらぶら練り歩く一行はいつの間にか街の中心部から離れた場所にまで来てしまった。
気づけば日も沈みかけ、今日もまた成果無しで徒労だけを残して終わるのか。
そこでふと目に留まったのは老舗の雰囲気がある和菓子屋。妙にそそられるのは疲れ切った身体が癒しを求めた結果なのかもしれない。
「「……休みませんか?」」
同時に言い出したからには肯定の返事を声に出す必要もない。
無言で頷いた二人は半ば早足気味に「たちばな」と書かれた暖簾をくぐるのだった。
*
甘味処 たちばな。
中の雰囲気はまあまあ落ち着いてて、暖かい空気だけでもほっと一息つけそうだ。
混み具合はちょうど全体の半分くらいの席が埋まっているというところで、茶を飲むにはやや外れた時間だと考慮すると結構な人気店なのかもしれない。
「みたらしだんごを一つ、お願いします」
「僕はこのきびだんご紅ってやつを」
「あー、ごめんなさい! これちょうど昨日終わっちゃってて! 」
「えっと…じゃあ僕もみたらしだんごで」
きびだんご紅はなんでも夏季限定らしかった。昨日の時点でも夏というより秋な気がするが、それはそれとして大地はちょっぴり残念な気分になった。
気を取り直して運ばれて来たお茶で喉を潤すと、幾分か気も紛れた。
「んんー? なんだここは。喫茶店か何かか」
「レイキバットさんのは無いよ。働かざる者食うべからずってやつ……使い方これで合ってますか?」
「多分平気ですよ」
記憶喪失だとこういう知識を口にするのも一々不安になって確認しまう。
そんな心境を察してか、瑠美も苦笑いでポーチから顔を出したレイキバットの頭(というより身体?)を撫でている。
まあこんなふうに一休みはできたが、全く進展のないのが現実だ。
せめて何かしらの情報を掴んでいたならばこの茶も、これから運ばれてくる団子も心配事を抱えずに美味しく味わえたかと思うと勿体無い気持ちになってくる。
そうして厳つい顔のコウモリと麗しの女子大生の奇妙な絡みを眺めながら茶を啜っていると、一瞬吹いた外の冷たい空気が肌を撫でた。
入ってきた30代くらいの男性が両手を摩りながら大地達の隣の席に着いて、女性店員と親しげに会話を弾ませている。
「おーおー寒くなってきたね〜。ここであったまらないとおちおち外も出歩けないよ。もう歳かねえ」
「やだ〜、日高さんまだまだそんな歳じゃないでしょう。この前だって山登りしてきたのに」
「いや〜それがさあ、その時に変なもん見ちゃって。てっきり妖怪か何かかと驚いてすぐ降りちゃったんだよね。ちょっと勿体無いことしたかなあ」
「あー……日高さん。しばらく山登りは控えた方がいいかもしれませんね」
(妖怪?)
耳に入ってきた気になるフレーズを脳内で反芻する大地。
妖怪を見た、というのが本当ならその正体は怪人かもしれない。どちらにせよ確かめに行く価値はあるだろう。
初対面の相手に変なことを聞くのは慣れっこであるため、大地は臆することなくその男性の肩を叩いた。
「ん? どうした青年……いや、少年? どっちかな?」
「えーと、多分青年ですかね……じゃなくて! その妖怪が出たっていう山がどこにあるか教えてもらえませんか?」
「別にいいけど…肝試しか何かなら辞めといた方がいいよ。なんか最近山での失踪事件とか増えてるみたいだしさ。山ってのはその自然そのものが怖い一面もあるもんだ」
「大丈夫です。それなりに鍛えてるので」
その言われたマイペースな男性は感心したように大地を見つめて、「ならいっか!」と快く場所を教えてくれた。
わざわざ妖怪を発見した場所を示した地図まで譲ってくれたおかげで正確な位置も大体把握はできた。
すぐにでも向かいたいのは山々だが、もう時間も時間だし妖怪捜索はまた明日からにするしかない。
どうやらこの世界も一筋縄ではいかなそうだ、と思考を纏めた大地は注文した団子を頬張って、その素朴な美味に目を丸くするのだった。
*
翌日、山を散策するための準備をしっかりと整えた大地達は早朝から目的地へ向けて出発した。
ネックとなるのはその山までの道程がそれなりに遠いこと。
マシンディケイダーは変身しなければ使えず、例の妖怪が怪人だった場合は戦闘に発展する可能性がある以上ダークディケイドの変身を移動手段だけには使いたくなかった。
故に少々面倒ではあるが、電車を乗り継いでから徒歩で向かおうとしていたのだが…。
「こうして全員で出掛けるのは初めてじゃないか? なんか、家族みたいでいいもんだなあ」
「父親にしては放任主義が過ぎる気もします…」
瑠美の言い分には大地もレイキバット同意見だった。
今朝出発しようとしていたところへガイドがいつの間にか調達してきた車に乗って待機しており、今もこうして彼の運転で目的地に向かっている。
大地達の動向を把握しているのは今に始まったものではないが、そんな得体の知れなさを隠そうともしないのには大地も呆れてしまいそうだった。
「だからこうして車出してやってるんじゃないか。君達も魔化魍を探すのに苦労してるみたいだしな」
「まか…もう?」
「それがこの世界の怪人ってことですか…。でもなんで毎回最初から教えてくれないんです? ガイドからの仕事だってその方が早く終わるのに」
「早く終わればいいってもんじゃない。それに何から何まで俺が教えたら君達の旅も面白くならないし」
などと言うが、毎度ピンチに陥ってばかりの大地にはちっとも面白くない話だ。
仮面ライダーと出会い、彼等の戦いを記録したり、誰かを助ける旅にやり甲斐こそあれどできることなら一刻も早く瑠美を元の世界に返してやりたいし、記憶だって取り戻したい。
マッハを記録して残るブランク状態のカードはこの世界の分も入れて14枚。つまりはあと14の世界を巡らなければならないことになる。
(…やめよう。先の事考えると頭痛くなる)
なるべく違うことを考えようと努めて窓の向こう側を眺めていると、車の往来も段々疎らになって景色も緑が占める割合が増えていった。
快晴の空模様とは裏腹に近付いてくる目的地は微かに霧が出ていて、なんだかおどろおどろしくも見える。
いよいよ気を引き締めねば、と大地は意気込むがーーー
「お弁当はどこで食べますか?」
「あの辺りとか景色良さそうじゃない?」
ドライバーを握っていた手の力みは瑠美達の呑気とも思える会話に自然と抜けていった。
*
山の麓からそう遠くない原っぱ。他に登山客も見られないその場で花柄のレジャーシートが広がる。
その上にこれまた広がるのは華やかでコンパクトに纏まった弁当箱の数々。時間的に早めの昼食という具合で、中身もそれ相応のものに仕上がっていた。
朝早く起きて、男性が食べる量に悩みながら作った瑠美の自信作にそれまで緊張気味だった大地の喉がごくり、と音を鳴らす。
「あんまり多く食べちゃうと動くのも辛いから、この量は最適だったんですけど…一人増えちゃいましたし、少ないかもしれません」
「お構いなくー。自分のぶんはちゃんと用意してあるからさ」
そう言って広げたガイドの弁当箱には大盛りの白飯、野菜の煮物、唐揚げなどなど所狭しと敷き詰められている。
中身の彩りや栄養バランスもかなり整っており、瑠美の弁当もその点には気を使ってはいるが、ガイドのそれと比べればどうしても見劣りしてしまう。
「えー、凄く美味しそう! ガイドさんに最初から全員分作ってもらえば良かったのに…」
「何をするにもまずは食事だからね。どんな時にもちゃんと飯食えるようにしとけばきっと大丈夫。二人とも忘れるなよ〜?」
「じゃあなおさら作っておいてくださいよ〜」
弁当に関しては何もしていない大地は口出しすることもないと考えているのか、黙って弁当を見つめている。
失礼とは思いつつも、それがお預けされた愛玩動物のようにも見えてしまった瑠美の口からクスリ、と笑いが漏れた。
一緒に情報収集しているとは言っても結局戦えるのは大地だけ。
命を救われて、それから「イクサの世界」で再会してからも大地に助けられてばかりの現状を瑠美は決して快く思ってなどいない。
だからこそこういった戦闘以外の面で少しでも力になろうとはしているのだが、どうにもこんな些細なことでは役に立ってる気もしない。
今だって大地の緊張をほぐそうといつも以上に明るく振舞っているくらいで、内心ではこんなことでしか命の恩人に報いれない不甲斐なさで一杯なのだ。
「「「いただきます」」」
箸を持つ手が交差し、目当てのおかずを掴んで食べる。
この一般的なピクニックの光景でも記憶喪失の大地には初めての経験。スイスイと箸が進むにつれて彼の表情も幾分か和らいできた。
その様子に安堵した瑠美も大地を気遣っていることを悟られぬように「もらいますねー!」なんて無邪気っぽくガイドの唐揚げを口に放り込んだものの、大地の様子ばかり気にしているせいか折角の味もよくわからなかった。
「あ! 俺の唐揚げ…せめて味わって食ってくれー!」
「え、ええ。勿論美味しいですよ」
それから表面上は楽しいピクニックが続いて、弁当箱が空になって三人の腹が膨れる頃には大地が纏っていた緊張感も大分解けてきたようだった。
大地は満足げに食後の麦茶を飲んでおり、彼の緩んだ頰を見れば作った甲斐もあるというもの。
さて、これからはいよいよ本格的な探索に入るわけだ。
薄ぼんやりと思考をシフトしつつある最中にもはや聞き慣れた小さな羽ばたき音が徐々に近付いて来た。
「レイキバさん! どこに行ってたんですか? もうご飯食べちゃいましたよ?」
「俺は飯など食わん。大地に頼まれて周囲を偵察してきたんだが、途中で気になる奴がいたぞ」
「「気になる奴?」」
「ああ、俺を見た途端に吠えてきやがった犬だ」
沈黙。レイキバットの羽ばたく音だけがその場に木霊する。
皆が無言になったことに不思議そうなレイキバットだったが、その理由が当の本人には理解できていないらしい。
「どうした? もしかして心当たりがあるのか」
「いや……僕の知識だと犬って普通に吠えると思ってるんだけど、もしかして違ったりするのかな?」
「私も同じですし、レイキバさんなら大抵の犬は吠えるでしょう」
大方登山客が連れてきたペットか、それとも野犬か。どちらにしてもそんなに珍しい存在とは思えない。
しかし、レイキバットは呆れたように溜息を吐いて大地達の認識を訂正する。
「違う! 普通の犬だったら一々報告なんかするか! 俺が見たっていうのは……お、どうやら追って来たらしいぞ」
耳をすますと、確かに何かが駆けてくるような足音が段々近付いてきている。
よほど珍しい犬種なのだろうか、と若干期待に似た心境で瑠美は音の出所を探すが、突然表情を険しくさせた大地は瑠美よりもさらに熱心に探り始めた。
まさか犬が苦手なのか、なんて瑠美の呑気な考えは現れた足音の主を目撃して即座に消えることになる。
それはーーー想像していた犬とは全く違う、青い小型の狼。
その小さな体躯からは想像もつかないスピードで野原を駆けてくる姿に驚きと困惑が同時に押し寄せてくる。
「へえ…この世界の犬ってあんな感じなんですね」
「違う! 多分あれはレイキバットさんと同じ感じの…僕達が探していたものです!」
大地の叫びで瞬時に場の空気が張り詰めたかと思えばーーー
「アラララララララ!! 待てぇぇぇぇ! 」
これまた奇妙なナマズ型の化け物が狼の後ろから野を駆けてきたのだった。
*
今まで巡ったどの世界でも大地はシフトカーやレイキバットを初めとする仮面ライダーのサポートをこなす存在を目撃してきた。
これといった敵意が感じられないあの青い狼もそれに準ずる存在ではないかと推測し、早くも仮面ライダーに至る手掛かりを発見したかと最初は喜んだのだが。
「アララララララララ!! ぬぅ、何だ貴様らは!? 俺の姿を見た者は死ねぇ!」
「じ、自分から来ておいてそれは理不尽過ぎませんか!?」
「黙れぇ!」
詳しい経緯は不明だが、あの小さい狼を追ってきたらしいナマズ怪人。
あんな物騒な言動の怪人が友好的なはずもなく、あの小さい狼が仮面ライダー側だという推測もかなり信憑性を帯びてくる。
まあどうせ襲いかかってくる以上は戦う他なく、金切り声と共に向かってくる怪人の腕を躱して、大地はダークディケイドライバーを腰に巻いた。
「変身!」
KAMENRIDE DECADE
ガイドと瑠美を守りながらの戦闘になるため、大地は確実性を取ってダークディケイドの変身を選択した。
怪人の不気味に光る巨大な目玉に睨まれるのは少々恐ろしいが、背後に瑠美達がいるなら怖がってる場合ではない。
ATTACKRIDE SLASH
重複する斬撃を先手必勝と言わんばかりに振るい、そのナマズ怪人に無数の切り傷を生じさせる。
これだけでも中々に強力な攻撃なのだが、ナマズ怪人には決定打なり得ない。
とりあえずは瑠美達を逃がすのが先決かと振り返ると、こちらをニヤニヤしながら眺めているガイドが視界に入る。
あれは恐らく何か知ってる顔だ。
「はあ〜、やっぱりショッカーの怪人は迫力満点だねえ。この世界でも『ビジター』はいるんだねえ」
「ビジター? というかショッカーって確かこの前にも…」
「ああ、本来その世界には存在しないはずの者が迷い込んでくることがある。あのナマズ怪人ーーー確かナマズギラーだったかな?ーーーもこの世界に迷い込んでしまったんだろうな」
「そんな大事なことなんで今まで黙ってたんですか!?」
「お! ほら、来たぞ来たぞ!」
ビジター、迷い込んだ存在。問いただしたいことは山ほどある。
だがこのナマズギラーという怪人を放っておくことなどできやしない。
「ガイド! 瑠美さんを安全な場所へ! こいつは僕が倒す!」
「ちょこざいな! 仮面ライダー、俺の電気ムチを受けてみろ!」
ナマズギラーが振るう二本の鞭、伴って迸る電流。奴の言葉通り、鞭には電気が流れているのだろう。
鞭による攻撃は軌道の読み辛く、直撃は回避しても絡めとられたライドブッカーの刀身を伝ってダークディケイドの全身を強烈な痺れが襲いかかってくる。
10万ボルトもの放電を食らえばさしものダークディケイドも反撃すらままならない。
慌ててライドブッカーを手放すものの、放電ムチはすぐさまダークディケイドの両手に巻き付くので武器だけを失う結果になってしまった。
「アラララララララ! どうだライダー! 俺の力に手も足も出まい!」
「た、確かにこれは強烈…!」
最初はヘンテコな鳴き声の怪人と侮っていたが、ダークディケイドの装甲でもこの電撃はかなり厄介だった。
ダークディケイドがその能力のほぼ全てをカードに頼っているのは言うまでもなく、こうして電撃を浴びせられては全身の痺れで満足に行動もできない。つまりはカードの装填も厳しい。
「アララララ! 貴様はこのままじわじわと感電死させてやろう!」
ナマズギラーもムチを放す気はないようだが、逆に敵の動きもまた制限されるこの状況なら銃撃くらいは当てられるかもしれない。
だが、足下に落ちたライドブッカーからカードを取り出すことはおろか、ガンモードにして撃つことも今の自分にはーーー
(いや、手足が動かせないならそれ以外で…!)
「レイキバットさん! ネクロムのカードを!」
そこまで考えたところで耳朶を叩く羽ばたきで、ダークディケイドは振り返らずに叫んだ。
援護のために残ってくれていたらしいレイキバットはダークディケイドが言わんとしていることをすぐに理解し、氷結弾での牽制と並行して足下のライドブッカーから目当てのカードを引き抜く。
そして現在進行系で電撃に苦しむダークディケイドの代わりにドライバーに装填した。
FORMRIDE NECROM GRIM
「むおっ!? な、何だこいつは!?」
音声を発するドライバーからグリムゴーストが飛び出し、ダークディケイドを縛るナマズギラーに突貫していく。
パーカー型の存在に唐突な襲撃をされて狼狽するなというのは無理な話であり、仰天して武器を手放してしまったナマズギラーを愚か者だと責められる者はそういないであろう。
だが、結局はその行為が彼にとっての命取りになる。
グリム魂への直接フォームチェンジを果たしたDDネクロムは未だ痺れが残る手足ではなく、肩のニブショルダーに脳内で命令を送って操る。
これなら全身の状態に関係なく動かすことができるので、苦しめられた放電ムチも鋭利なニブショルダーによって細切れにされた。
「お、俺のムチを!? 貴様ただでは済まさんぞ!」
「そういうの、自業自得っていうんですよ!」
昼間であっても目立つ大きな二つの目玉目掛けて飛ばしたニブショルダーの先端は見事に突き刺さって、耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げさせた。
吹き出す血飛沫の雨で染められた黒いパーカーもそれを着るDDネクロムもモザイクの粒子に呑み込まれ、通常形態のダークディケイドに戻る。
ライドブッカーをガンモードに変形させながら選んだのは金色の紋章が描かれたカード。
「これなら当たるよね!」
FINALATTACKRIDE DE DE DE DECADE
金色の巨大なカードが悶えているナマズギラーとダークディケイドの合間を埋め、カードの先にいる怪人に照準を合わせる。
ライドブッカーを構える腕が痺れで震えてしまい、もう片方の腕で押さえることで何とか最低限の狙いは定めて引き金を引くことができた。
銃口から発射されたエネルギー弾はカードを通過する度に威力と太さ、そして輝きを増していく。
必殺技、ディメンションブラストが織り成す膨大な熱量が手始めに血の雨を蒸発させ、ナマズギラーの身体も残らず包み込んだ。
「ギィエエエッ!?」
焼き尽くされたその身体が起こした大爆発。
緑に溢れていた草原すらも焼き払う勢いの爆発を眺めるダークディケイドの心中は自然への罪悪感とダメージ以上の疲れで色褪せていた。
山火事にならぬよう炎を踏んで搔き消してから一旦休もうか。未だ痺れの取れない身体を労わる休息が必要だろう。
ーーーここで変身を解除しなかったのは大地にとって幸運としか言い様がない。
「大地! 後ろだ!」
背後から不意に感じた妙な気配。レイキバットの警告。
ダークディケイドはその双方を認識できたにも関わらず、麻痺した身体では背後から迫り来る何かを横っ飛びで回避するのが精一杯だった。
「フギャーァオ!!」
「ギギギ、ギギギギギ!!」
果たしてダークディケイドの目の前に現れた新たな異形の数は二体。
片や人型の猫、片や人型の蝉の姿をした怪物でそれぞれが唸り声を上げながら再びダークディケイドに襲いかかって来る。
タイミングがタイミングなだけに先のナマズギラーの仲間かと思われたが、知性の欠片も感じさせないこの妖怪然とした怪物達にはそれよりも相応しい呼び名が当てはまりそうだ。
「まさか、こいつらが魔化魍!?」
「ニャオオッ!」
誰も肯定してくれるはずもないダークディケイドの推測は、やはり的中していた。
猫型の魔化魍、バケネコと蝉型の魔化魍、ウワン 成虫。
探していた者達に考えうる限り最悪のタイミングで出くわしてしまった己の運の悪さを呪うも、本能に従って動くような相手はそんな事情を考慮などしてくれない。
倒れ込んでいるダークディケイドに食らいついてくるバケネコを跳ね除けて、ウワンの鋭い嘴を間一髪で回避する。
思うように動かない身体を引き摺って距離を取りながらダークディケイドは一枚のカードをドライバーに放り込んだ。
KAMENRIDE MEIJI
追撃してきたバケネコの爪は魔法陣に阻まれ、その体躯を蹴り飛ばした足先からDDメイジとなる。
これだけで警戒してくれるはずもなく、すぐさまウワンの嘴が迫って来るが、それが突き刺さる前にDDメイジの身体から着火した身を守る炎がウワンの身を自発的に引かせた。
ATTACKRIDE HEAT
バダー戦でも有効だったヒートの魔法による防御は、野生動物に近い敵に対してより警戒を促すことに成功しているようだった。
あんなにも執拗に仕掛けてきた二匹の化け物が今や睨みを利かせる以外何もしてこないのだ。無論隙を伺っているだけだとは思うが。
やはり炎に対する恐れは他より強いのだろうか、と思考する余裕はまだない。間髪入れずにビーストへのカメンライドとドルフィマントの回復を試みようとした時、バケネコ達の視線が唐突に逸れた。
「えっ?」
未だにヒートの魔法は継続中にも関わらず、何が連中の気を惹いたのかーーーその答えはこちらに駆けてくる楽器を彷彿とさせる武器を持った複数の異形であった。
新手の怪人が駆け付けてきたのだとしたら、これは非常に不味い状況ということになる。気は進まないが、逃げの選択肢も視野に入れなければならないほどに。
身体の麻痺にも逃走を後押しされたダークディケイドがレイキバットと一緒に逃げられる方法を模索している最中にも怪人たちはもうそこまで迫ってきている。
予想以上の進行速度に歯噛みするも、その異形の一人が二対の棒を振り上げたので咄嗟にライドブッカーを構える。
しかし、その行動は徒労に終わる羽目になる。武器が振り下ろされた先はダークディケイドではなく、警戒の唸りを上げていたバケネコなのだから。
「フギャア!」
目を見張るほどの俊敏性で打撃そのものは回避されてしまったが、駆け付けてきた二人の異形はダークディケイドを守る立ち位置で並び立った。
両者ともに主に黒い体色でそこに青の縁取りがされており、大きな違いは頭部にある角の本数。その姿はまさしく鬼と形容するに相応しい。
「威吹鬼! そいつの様子みてやれ!」
「はい! 弾鬼さん!」
バケネコに攻撃を仕掛けた一本角の鬼、弾鬼が気合の叫びと共にバケネコ達へ挑みかかっていった。
呆然と尻餅を着いているダークディケイドは威吹鬼と呼ばれた三本角の鬼に差し伸べられた手を取って立ち上がる。
立て続けに襲撃を受けて気が立っていたせいで気付くのが遅れてしまったが、魔化魍と思われる怪物と敵対していることといい、どうやらこの鬼達こそがこの世界の仮面ライダーらしい。
他の世界のライダーと比較してもやや異端とも言える外見や、「カメンライド 斬鬼」などを使用した経験がないのもその一因となったのだが、それよりも今は感謝の意や事情を伝える方が先だ。
「あ、ありがとうございます! そ、その僕は...!」
「落ち着いて。君が味方なのはルリオオカミを通してわかったから。あの魔化魍は僕らに任せて」
聴いているだけで安らぐような、柔らかい声音だった。
鬼なんて野蛮な形容をしてしまったが、初対面の自身にこんな優しく接してくれるこのライダーは随分と温和な人物のようだと察せられる。
本来なら援護を名乗り出るべきだとは承知しているものの、一度気が抜けてしまったダークディケイドの身体は存外に重く、ついつい彼の好意に甘える選択肢を取ってしまう。
「あぅ...それじゃあ、お願いしちゃっても大丈夫ですか...?」
「うん。お願いしちゃって。これでも、僕は鬼だから」
そう言って立ち上がった彼もトランペットを模した金色の銃を携えて、空中から弾鬼を翻弄しているウワンへ的確に発砲する。
かくして大地はこの世界を代表するライダー、仮面ライダー威吹鬼との遭遇を果たしたのだった。
*
この世界のライダー、鬼達はとある組織に所属しており、多くの者が魔化魍探索におけるサポーターや弟子を伴っている。
木々の合間に身を隠している少女、天美 あきらもまた威吹鬼を師匠と仰ぐ弟子として彼らの戦いを見守っていた。
決して短くはない期間彼の下で修業を重ねた彼女は変身はできなくても、すでに多数の知識や技術を身に付けている。先ほど大地達の目の前に現れたルリオオカミも彼女が偵察用に放ったディスクアニマルと呼ばれる式神の一つだ。
今、師匠達が退治している最中の魔化魍だって対処を間違えなければそこまで厄介な相手でないことも知っている。
では何故彼女はこんなにも不安な面持ちでいるというのか?
「そりゃ警戒もするよなあ。あんな奇妙な鬼」
「ッ誰!?」
情けない態勢で座り込んでいるダークディケイドに向けていた警戒の視線を背後からズバリ言い当てられて、あきらは咄嗟に振り向いてバックステップを取る。
その声の主と思われる男はあきらの年齢不相応な身のこなしに微塵も驚くことなく、見る者を不快にさせる嫌な薄ら笑いを浮かべているだけだ。鬼になるための厳しい訓練を積んできたあきらに気配を悟られることなく背後を取るだけでもこの男が只者でない証拠。
しかし、あきらが腰の鬼笛とディスクに手を伸ばしかけた時点で男はやや慌てたように態度を崩した。
「待て待て、俺は怪しいもんじゃない。そうだな...これを見せれば納得してもらえるかな」
男は身に纏っている黒いコートをめくり、その下に巻かれている窪みの空いたベルトをあきらに見せつけた。
そこだけ切り取れば変質者に間違えられても可笑しくない行為だが、そう思わせないのは男が漂わせる雰囲気の賜物か。
さらにポケットに突っ込んでいた両手には赤い錠前が一つずつ。
ブラッドオレンジ! ザクロ!
開錠したそれらをベルトにセットし、横にある小刀を下げた。
玩具にしか見えない物を組み合わせたそれらの工程が完了した時、男の周囲に赤黒い粒子が纏わりついて装甲を形作る。
ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!
見る者に悍ましい印象を与える赤黒いアーマーにこれまた毒々しい赤黒さを内包する仮面を前にしてあきらは絶句せざるを得ない。
鬼笛に伸びていた手もだらんと垂れ下がり、目を見開いて停止してしまっている少女の目前で男ーーードウマが変じた仮面ライダーセイヴァーは音声に違わぬ邪悪な笑みを漏らした。
仮面ライダーセイヴァー
ドウマが変身した仮面ライダー。鎧武外伝2に登場したものとほぼ同じ外見をしている。唯一異なるのは変身前にも装備していた左腕のカードリーダーが付いている点である。
武器もセイヴァーアローとブラッド大橙丸。実力は未だ未知数。