二十七之巻『荒れる少女』
私、天美あきらは師匠のイブキさんの下で鬼になるための修行を積んでいました。
最近は魔化魍の異常な発生に他の鬼の方々と協力して対処に追われる日々。
でもそんな私達の前に現れたのは謎の鎧を着こなす怪しい男、大地。
修行も積まずに鬼と同等の力を持つあの鎧を見ているうちに、気付けば私は彼の黒いバックルを握っていました。
*
イブキ達が拠点としていたキャンプ地から程なく離れた場所にくぐもった厳つい声と甲高い鳴き声が入り混じっては自然の中に溶けていく。
生い茂る自然の地に相応しく鳥や蛇、狼、蛙に蝙蝠といった多種多様な動物が飛び交う光景はいささか現実離れしたゲームのようでもあったが、問題なのはその体色がどれもカラフルすぎるということだ。
「ぬぐぐ…てめえらいい加減失せろ! なんだってディスクアニマルが俺を標的にする!?」
その中で唯一人語を介する白い蝙蝠、レイキバットが自身に纏わり付いてくるアカネタカ達を氷結弾で牽制するも、次から次へとやってくるのでキリがない。
しかもセイジガエル、ルリオオカミ、ニビイロヘビなどの様々なディスクアニマルまでもが大挙してレイキバットを取り囲むのだから、今朝から一向にこの状況から抜け出せずにいるのだ。
今朝がたに大地と合流しようとしていたら寝床としていた止まり木の周囲をディスクアニマルの大群に包囲されていて、全く身に覚えのない襲撃を受ける羽目になってしまったのだが、今はその理由を考えている余裕もない。
一体一体はレイキバットより貧弱でもこれだけの数が揃えば話は別。拘束してこようとしてくる群を躱し続けるのがやっとだ。
なんとかしてこの包囲網を脱出した後に大地との合流を果たすべきなのだろうが、レイキバットだけではそれすらも厳しい。
「ちいいっ!」
啄んでくるアカネタカを羽で弾くも、見た目からは想像もつかない跳躍力で飛び掛かってくるニビイロヘビの噛み付きはギリギリ躱しきれない。
咄嗟に身を捻ったおかげで羽のほんの一部に傷を付けられるだけで済んだが、こんな調子ではすぐに限界がくるのは目に見えている。
「やべえ!?」
真下から跳躍してきたセイジガエルに対して少しでも牽制になればと苦し紛れに氷結弾を放とうとした瞬間、レイキバットの目の前で青い風がディスクアニマルごと駆け抜けた。
*
深い霧に紛れない荘厳な天馬の姿に言葉を失っていた仮面ライダー威吹鬼、轟鬼、裁鬼。
これまでの妖怪然とした魔化魍とは一線を画す神秘的な外見はとても魔化魍と呼ぶのも憚られてしまう。
だが、彼らの背後から耳朶を叩く電子音声と地を蹴る音、そして霧の中に飛び込んでいく黒い戦士、仮面ライダーダークディケイドの影に鬼の一同は我に返る。
明らかに格の違う相手にも怯まずに挑むという勇敢な背中は鬼達を奮い立たせ、それぞれが得意とする武器を手にしてダークディケイドに続かせる。
「新入りに任せていられねえ! 俺達も行くぞ!」
「はいっす!」
「…は、はい」
唯一威吹鬼だけはそのダークディケイドに違和感を覚えたのだが、何故そう感じるのかまではわからぬままに烈風を構えて突き進んで行く。
視界を奪う濃さの霧を掻き分けた先では天馬が前脚を振り上げて鬼達を迎え撃とうとしていた。
音撃棒や音撃弦での近距離戦に挑もうとしていた裁鬼、轟鬼は天馬の横に素早く回り込んで踏みつけの範囲外に至るが、天馬の真下に佇むダークディケイドは回避に移るにはいささか遅過ぎた。
「大地君っ! 離れて!」
少しでも気を引くために烈風の射撃を白い巨体に満遍なくばら撒いても意に介した様子はない。
あれだけの巨体に踏み潰されては一撃で戦闘不能になってもおかしくないのだが、それを恐れているようにも見えないダークディケイドはいつの間にかカードを装填していた。
FINALATTACKRIDE DE DE DE DECADE
天馬と比べるとちっぽけなダークディケイドの身体が体重を掛けた前脚の踏み付けに潰される直前、幾つも重なった金色のカードがバリアとしてその進行を食い止めることに成功した。
ビキビキと徐々にひび割れていくカードはバリアとしては不十分にも見えたが、ダークディケイドが向けたライドブッカーの照準を定める時間稼ぎには十分過ぎた。
「はぁッ!」
数枚のカードを破壊した前脚でもディメンションブラストというエネルギーの奔流を押し返すことなど到底不可能。
脚先を焼かれた天馬はバランスを崩し、転倒しかかって隙が生まれようとしたところへすかさず裁鬼と轟鬼が接近していく。
詳しいデータが存在しない相手なのだから早期に決着を着けようとするのは決して間違いとは言えないのだが、それはつまり敵の反撃が予測し辛いということでもあった。
「ーーーうおっ!?」
「突風…あの翼か!」
崩れ掛けた天馬のバランスは、なんと翼を大きく羽ばたくことで踏みとどまったのだ。
副次的に巻き起こる突風で二人の鬼は逆に吹っ飛ばされてしまい、あまりの強風にダークディケイド、威吹鬼までもがその被害に遭ってしまう。
しかし歴戦の鬼がなすすべもなく吹っ飛ぶような状況にあろうとも、ダークディケイドには対処する方法がある。
FORMRIDE SASWORD MASKED
紫の重装甲を身に纏うマスクドフォームに直接フォームライドしたDDサソードはその重量と装甲の各部から伸ばしたチューブ、ブラッドベセルを周囲の障害物に巻き付けることで飛ばされそうになる身体をその場に留める。
やがて翼からの強風が止むと同時にDDサソードはキャストオフ、身軽なライダーフォームとなって瞬く間に接近し、大木のような脚を斬りつけていく。
痛々しい悲鳴が降りかかろうと剣を振るう腕が止まることはなく、それどころか次のカードを握らせていた。
KAMENRIDE DRAKE
ATTACKRIDE CLOCK UP
斬撃を得意とするDDサソードから銃撃を得意とするDDドレイクへのフォームチェンジから即座にクロックアップを発動する。
敵を捕捉できなくなった天馬の各所から次々と吹き上がる血液や火花はドレイクゼクターによる一方的な射撃であり、規格外であったはずの魔化魍は早くも翻弄されつつあった。
*
大地の目の前で繰り広げられるのはライダー達と怪人の激戦。
それ自体は何度も見てきた、ある意味では(認めたくはないが)日常的な光景だった。
大地が目を見張っている理由はそこにいるライダー、本来なら大地が変身しているはずのダークディケイドがいることだ。
それも変身している人物はあのイブキの弟子である天美あきらなのだから。
(ダークディケイド……僕はあんな圧倒的なライダーに変身していたのか…)
大地が変身できるメイジもレイも他のライダーに匹敵しうる能力を秘めており、制限がある代わりにさらに強力なのがダークディケイドだ。
しかし、こうして戦っている光景を直接目にしてみるとその認識は甘かったのだと改めざるを得ない。
ラウズカード、クロックアップ、魔法……あらゆるライダーの強力な能力を自由自在に使いこなし、例え力負けしている相手であっても戦局を容易に覆すことが可能なダークディケイドの特異性が少し強いというだけのはずがない。
体力の消費と少なくとも数時間の変身制限だけで済んでいることだってよくよく考えてみれば異常なのだ。
しかもあきらが変身したということはつまり、ダークディケイドライバーは大地以外にも使用できることになる。
もしも悪人の手に渡ったりでもすればーーー
「いや、それよりもあのまま使わせるわけにはーーー」
「別にいいじゃないか。少なくともお前よりは上手く使ってくれるだろうよ」
濃霧から漂う聞き覚えのない声。
言葉の内容そのものよりもねっとりと纏わりつくような嫌な口調は大地を咄嗟にその場から飛び退かせた。
現れたのは邪悪な笑みを浮かべた黒いコートの男で、魔化魍が闊歩するこんな場所にいることからただの不審者でないのは明らかだ。
「俺はドウマ。こうして顔を合わせるのは初めてだな、大地………いやダークディケイド」
「貴方は一体……?」
「なに、大した者じゃない。そうだな……これなら心当たりがあるだろ」
ドウマと名乗る男は懐から取り出したカードを大地の目前に見せ付けてくる。
それはダークディケイドと同じ規格のカードというだけでも驚きだが、その絵柄もまた大地には見覚えのあるものーーー「マッハの世界」で戦ったバッタ種怪人、ゴ・バダー・ゴーーーだったのだから開いた口が塞がらない。
あのバダーも確かガイドが「ビジター」と呼んでいた怪人、他の世界に迷い込んだ存在に分類されるはずだ。
「あの怪人は貴方が変身していたんですか…!?」
「変身…? 違うな、こういう使い方をするんだよ」
そう言ったドウマはバダーのカードの裏に隠していたもう一枚のカードを瞬時に左腕の機械にスラッシュした。
KAIJINRIDE SAITANK
黒いモザイクが人型の影を形作り、この世界に異物となる新たな怪人を出現させる。
赤い体表と黒光りする角のデストロン怪人、サイタンクは出現するや否や腹の底にまで響く唸り声を上げた。
「ブゥワー!! 何だここはぁ〜! V3は何処に行った!?」
「やあ、ヨロイ一族のサイタンク。奴は少年ライダー隊、V3の仲間だぞ」
「何! ならば死ねぇ!」
ドウマの言葉をあっさりと信じたサイタンクは大地に巨大な角を向けて猛然と突進してくる。
大地から見ても鈍そうな見た目のくせして割かし速い突進には肝を冷やしたが、済んでのところで横に転がって回避には成功した。
「そ、そんな短絡的でいいんですか!? ってかV3って何!?」
「ブゥワー! しらばっくれても無駄だぁ! 我らデストロンの邪魔をする者は皆死ぬのだ!」
「そういう台詞、いい加減聞き飽きましたよ!」
チェンジ! ナウ
また突撃される前に、大地は急いでポーチから取り出したメイジドライバーを巻いて指輪をかざす。
メイジへと変身して一直線に向かってくるサイタンクの角をスクラッチネイルで受け止めようとしたところ、信じられない衝撃が全身を貫いた。
直撃してもいないのに左腕ごと千切れてしまいそうな威力の突進だなんて、このサイタンクは相当馬鹿げた怪力の持ち主らしい。
お返しにと回し蹴りを横っ面に叩き込んでみるも、サイタンクはビクともしない。
「ブゥワー! 軽い軽い、V3の足元にも及ばんな!」
「だったら……!」
ジャイアント! ナウ
メイジは胸板を叩いて挑発してくるサイタンクに力を込めた前蹴りを放つ。
それだけなら大した痛みにはならないだろうが、両者の間に出現させた魔法陣を通過したキックは何倍も大きくなって、サイタンクを踏み潰す勢いで弾き飛ばした。
宙に飛ばされたサイタンクにドウマも感心したような声を漏らす。
「ブゥワー!?」
「ほう、ダークディケイドでなくても中々やるようだ。ならばこうしよう」
ブラッドオレンジ! ザクロ!
ドウマの腰にドライバー、両手にはロックシード。
たったそれだけでメイジにはこの男が何をするのか、嫌でも察してしまう。
「変身」
ハッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!
案の定ドウマの身体は赤黒い鎧武者を彷彿とさせるライダー、セイヴァーの装甲に包まれた。
セイヴァーは右手にセイヴァーアロー、左手に大橙丸を構えた変則的な二刀流でメイジに接近してくる。
今のメイジにはライドブッカーもないため、スクラッチネイルで迎え撃つしかないのだが、セイヴァーのスピードはその予想を遥かに超えていた。
胸部に突き出された大橙丸を弾こうとして構えたスクラッチネイルは爪先の合間を縫うような太刀筋で逆に弾かれてしまった。
(こっちの防御を予測して、その上で防御が完了し切る前に先手を打たれたーーー!?)
「フン!」
無防備となったメイジの身体をセイヴァーアローの刃が切り刻む。
あれだけの鎧を着込んでおきながら装甲の薄いメイジを遥かに超えた反応速度は偏にドウマ自身の能力があってこそなのだろう。
焼け付くような切り傷の痛みに耐えながら、メイジは相手の脅威度に内心舌を巻く。
しかも厄介なのはセイヴァーに加えて、これまた強敵間違いなしのサイタンクまでいることだ。
「貴様ァァァ!」
「ゴフッッ!?」
セイヴァーの対処に手を焼いている間に突進してきたサイタンクの突きをもろに食らったメイジはそのあまりの衝撃に仮面の奥で血混じりの唾を吐いてしまう。
これには耐えきれずに膝を着き、完全な隙を晒してしまうメイジ。
幸いしたのはサイタンクの狙いがメイジから新たに現れたライダーのセイヴァーに向いたことだった。
「貴様も仮面ライダーか!」
「チッ、相変わらず扱いにくい。記憶からそのまま再現した弊害か」
忌々しげに呟きながら、セイヴァーは剣と弓を巧みに操ってサイタンクの猛攻を上手く捌いている。
メイジはこの間にあらゆる激痛がひしめき合う身体を無理矢理引きずって態勢の立て直しを図ろうとするが、ライドブッカーもないメイジにできることなど限られ過ぎており、現状ではどちらか片方を倒すのだって厳しい。
だからと言ってメイジがこの場から離脱すれば彼等の標的が今も天馬相手に奮闘しているあきらのダークディケイドや、威吹鬼達に向けられることは十分に予想されるため逃げるわけにはいかないのだ。
「落ち着け。俺は偉大なるデストロンのヨロイ一族、ヨロイ元帥の部下……そう言えばわかるかな? お前を手助けしに来た」
「ぬう、そうだったのか。言われてみれば確かに鎧を……すまない」
「構わん。奴を倒すぞ」
(もう和解してるし……手馴れてるな)
まともに休息すら取れなかったメイジに再度二人の強敵が迫ってくる。
打開策も編み出さぬまま、腹を括ったメイジは絶望的な戦闘へと突入した。
*
一方その頃、ダークディケイドと鬼達による天馬討伐も佳境を迎えつつあった。
最初はあれほど気高くすら見えた幻獣に近い魔化魍も今や身体の至る箇所に決して浅くはない傷を負っており、完全な討伐も時間の問題だった。
これが鬼達だけだったなら恐らく苦戦は強いられたであろうが、強力な能力で天馬を翻弄するダークディケイドのおかげで彼等には少しの傷くらいしかない。
そして今この瞬間もダークディケイドがカメンライドした姿、DD王蛇の必殺技が炸裂しようとしていた。
FINALATTACKRIDE O O O OUJA
「はぁーッ!!」
エビルダイバーに乗ったDD王蛇が高速で体当たりする必殺技、ハイドベノンが天馬の顔面を潰す勢いで激突する。
だが、やはり規格外の魔化魍だけあって必殺の一撃でも微かに悲鳴を上げて倒れ込ませた以上の効果は実感できなかった。
ダークディケイドがいかに強力であろうと、相手が魔化魍である以上は音撃が何よりも有効なのだ。ならばと次に切ったカードはまさしくその音撃を繰り出せるライダーだった。
KAMENRIDE ZANKI
「ええっ!? ザ、ザンキさん!? ザンキさんが何でいるんすか!!?」
「鬼にも変われるとは…なんでもありってわけか」
自分達もよく知る斬鬼と同じ姿にまで変身したダークディケイドに、特に斬鬼の弟子である轟鬼は思わず攻撃の手を緩めてしまうほど驚く。
そんな彼等には脇目も振らずに音撃弦・列斬を掲げて駆け出すDD斬鬼をやはり懐疑の目を送り続ける威吹鬼。
だがそれぞれの心境はどうあれ、天馬を討伐するまたとないチャンスなのだ。鬼達は音撃を放つ準備態勢に入る。
音撃打、音撃射、音撃斬を合計4つも食らえばどんな魔化魍であっても撃破は可能なはずであったが、それらを放つ前に状況は一変する。
野生の勘が働いたか、己に降りかかろうとしているかつてない危機は天馬を瞬時に立ち上がらせ、白い翼が鬼達の視界を埋め尽くした。
またしても突風を出すつもりかと思いきや、今度の翼の用途はそれだけではなかったのだと鬼達は身を以て知る羽目になる。
「「「ぐああああっっ!?」」」
白い翼をまるで巨大な刃のように振るえば、羽の一枚一枚がカミソリの如く鬼達の身体を切り裂いていく。
最も後方にいた威吹鬼はそこまで大きな傷には至らなかったが、接近の途中だった他の三人は身体から赤黒い出血をしてしまうほどの裂傷を負ってしまう。
さらに突風まで加わるのだから、彼等は血液の軌跡を描いて離れた場所にまで飛ばされた。幸いにも鬼は治癒能力に秀でているので出血がすぐに収まっている。
「くうぅっ!」
「大丈夫!? ………まさか」
足元に吹っ飛んできて悲鳴を上げたダークディケイドに手を貸そうとするも、その悲鳴がやや甲高く、聞き慣れた弟子の声であったために彼の疑惑は一気に膨れ上がる。
戦い方からしてこの数日間で見てきた大地のそれとは微妙に異なり、さらにはこの声だ。
今が戦闘中だと理解していても威吹鬼はDD斬鬼に問わずにはいられなかった。
「あきら……だよね」
「…………」
その沈黙が答えのようなものだった。
何故彼女が大地のベルトで変身しているのか、大地はどうしているのか、問うべきことはまだあるが、今は天馬討伐が先だ。
とりあえずは質問を保留にした威吹鬼は弟子の手を取ろうとするが、彼女の手が小刻みに震えていることに気付く。
耳を澄ませてみると何やらぶつぶつと呟いているのも聞こえてくる。
「フゥゥ………! これを使っても、こんなに強くても、倒せない……! まだ、まだ、まだまだ!!」
「あきら……?」
「大丈夫っすか!? あいつ、まだあんな技隠し持ってたなんて…あれ?」
駆け寄ってきた轟鬼、裁鬼もダークディケイドの異常に気付いたようだ。
今の今まで大地と一緒に戦っているのだと思っていた二人は座り込んでいる黒い戦士から女性の声が出てくることに困惑もしているらしい。
「はぁ、はぁ、はぁ……うああああああっ!!!」
ATTACKRIDE SLASH
「っっ!?」
重複する斬撃がダークディケイドの周囲で乱れる。
当然ながらそこに立っていた三人の鬼も皆例外なく斬り裂かれた。
完全に味方だと認識していた相手からの不意打ちを防げるはずもなく、ディケイドスラッシュの直撃を許して傷口を押さえる鬼達を尻目にダークディケイドは先ほどまでの寡黙な印象が嘘のように咆哮する。
「倒す…絶対に! 魔化魍を!」
「待つんだ! 錯乱しちゃダメだ!」
「黙っててください!」
ダークディケイドを落ち着かせようと近寄ってきた威吹鬼の身体はまたしてもライドブッカーによってより深く斬り付けられた。
*
あきらの咆哮はセイヴァー達に苦戦中のメイジの耳にも届いていた。
あいにくの濃霧で威吹鬼達がどんな戦闘を繰り広げているのか、細部まではわかりかねるが、彼女の全身から発せられているような叫びだけで何か異常が起こったのだと察するには十分だった。
「おや、やっと暴走したか。思ってたより時間がかかったな」
「何……? 暴走って一体どういうーーー」
「お前も覚えはあるんじゃないか? ダークディケイドライバーに内包されたドス黒い記憶に呑まれるあの感覚を」
そう言われてメイジはハッとなる。
まだ変身したてだったあの頃ーーー自分が自分じゃなくなるあの胸糞悪い感覚は忘れようもない。
彼女の助けに向かうべきかと迷い、一旦距離を取るメイジに対してだらんと構えを解いたセイヴァーは己の目的を話し始めた。
「あの天美あきらに教えてやったんだよ。『あの鎧は誰にでも使える』ってな。お前みたいに克服されると面倒だから、ついでに力を欲するヤミーも寄生させておいたが、それでもだいぶ待つ羽目になるとは……腐っても鬼の弟子ってことか」
「どうしてそんな、彼女を唆すような真似を……? あなたは何がしたいんです」
「そうだな……失ったものを取り戻すと言えばわかるかな?」
ここまでセイヴァーがやってきた所業ーーーわざわざ一人の少女を唆してベルトを奪わせるなんて一見回りくどいことまでして、取り戻したいもの。
ここまで揃えばメイジにも彼が求めるものがなんなのか、答えに行き着いた。
「ーーーダークディケイドライバー、ですか」
「ああ。あれの本来の持ち主はこの俺だ。あの女を暴走させれば勝手に自滅して、後に残ったドライバーだけ頂戴するという寸法よ。我ながら中々いい作戦だろう? 後は邪魔なお前を始末するだけーーーサイタンク!」
「ブゥワー!」
セイヴァーの背後から突っ込んできたサイタンクの鋭い突き上げがメイジを容赦なく打ち上げ、宙に投げ出されたメイジは自身に向けて引き絞られる弓矢の輝きを目にする。
ロックオン! ザクロチャージ!
「ぐわああーッ!?」
セイヴァーアローから解き放たれた深紅の矢になすすべなく撃墜されたメイジの身体はザクロロックシードのエネルギーに身を焼かれ、爆炎に包まれた。
地面に落下し、激突した頃にはもう限界を迎えたメイジのスーツは大地の身を守ってはくれなかった。
冷たい地面と霧に火照った身体は冷やされていく感覚が死んでいくようで、しかしそれとは反対に大地の怒りの感情はどんどん熱を帯びていく。
憎悪、恐怖、言葉では言い表せない数々の負の感情が支配する渦に意識が取り込まれるあの感覚を大地が忘れるはずもない。
何の罪もない少女を意図的にあの暴走状態にまで追い込むように唆した目の前の男を大地は許しはしない。
「さて、これでようやくダークディケイドは俺の手に戻る。どうだ? 命乞いするなら見逃してやってもいいが」
ここで命乞いすれば可能性は低くとも助かる見込みはある。
だが、こんな下衆に下げる頭など生憎持ち合わせてはいない。
「それだけの……それだけのために、天美さんを利用するなんて…!あなたは…いや! お前は僕が倒す!!」
「ふぁー…もう少し賢い選択をすると思ってたよ。メイジごときでこの俺に勝てるはずがないのに、その頑張りだけは褒めてやろう」
例え1対1でも勝てないのは明らかだと頭では理解している。
しかし、それはここで逃げていい理由にはならない。
自身の頭上で輝きを増していくセイヴァーアローに抗うため、大地はメイジドライバーを鷲掴みにして輝きを真っ向から睨み付ける。
このままいけば殺されるのは確実。セイヴァーとサイタンクの身体から火花を吹かせる無数の銃弾がなければ、の話だったが。
「ブゥワー!?」
「くっ……何者だ?」
その正確無比な射撃から威吹鬼がこちらに気付いて駆けつけてくれたのか、と考えたが、銃弾が飛来した方向にいたのは真逆の白い装甲のライダー。仮面には金色の十字架とその合間から覗く赤い複眼。
それは大地も知っている姿で、しかし何故彼がここにいるのかという疑問が湧き上がってくる。
「何故…貴方が?」
「何故、お前がここに」
そのライダーはセイヴァー、大地の両者からの疑問に答えず、ただいつもの調子でお馴染みの台詞を静かに言い放つのだった。
「その命、神に返しなさい!」
*
「ッつつ……」
ダークディケイド、あきらの暴走で身体の至る所に裂傷を刻まれた苦痛に威吹鬼は暫しの間行動を制限されていた。
錯乱したダークディケイドを取り抑えようとして、逆に強烈な攻撃に身を晒す羽目になり、裁鬼や轟鬼に至っては気絶してしまっていた。
威吹鬼だけがまだ意識を保っていられる程度に済んでいるのは師匠を傷付けまいとするあきらの意識がまだ残っている証拠か。
ダークディケイドは自分達を痛めつけた後に再び天馬に立ち向かっていき、その戦いは濃霧に遮られて見えなくなっていた。
しばらくは電子音声や叫び声が聞こえていたのだが、唐突にピタリと止んでしまった。
果たしてあきらは天馬を討伐できたのか、その結果を確かめるために威吹鬼は怪我をおして霧の中に歩みを進める。
烈風を構えて油断なく霧の中を探り歩く威吹鬼の視界は空気の冷え込みを境に霧の薄い、比較的視界の晴れた場所にやってきた。
「ーーーっ! あきら!!」
そこにはスタミナを枯らして倒れ伏すあきらと、彼女を背負う天馬。
可憐な少女を背に乗せた白馬、なんて童話のような不思議な光景に一瞬呆気に取られた時には天馬は翼を広げて大空に羽ばたいていた。
切羽詰まった様子でディスクアニマルを放つ威吹鬼が天馬がいた場所にダークディケイドライバーとライドブッカーが落ちていることに気付くのはまだ後の出来事だった。
サイタンク
仮面ライダーV3に登場した(個人的には)最強怪人。モチーフはサイ。
番組後半の強いV3をタイマンでボコボコ、マッハキックも効かない、と正直上司のヨロイ元帥より強そう。てかデストロン最強では?
角を折られると弱体化する設定があり、ライダーマンとの連携でようやく倒された。
今回はあんまり進展なし。でもイブキ編はそろそろ終了かな。
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