仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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今年最後の更新


繋がる心

 

 

 絶対絶命の危機に大地を助けたライダー、それはかつて記録した仮面ライダーイクサであった。

「イクサの世界」でまだまだ未熟だった大地を鍛え、ライダーとしての心構えを教えてくれた師匠が何故この「威吹鬼の世界」にいるというのか?

 

「名護さん…どうして、貴方が…!?」

 

「ハァッ!」

 

 挨拶は不要とでも言うのか、イクサは大地に一瞥もくれずセイヴァーに斬りかかる。

 セイヴァーからしても異世界のライダーからの介入を受けるのは完全に想定外であったようで、その動きにはメイジを追い詰めたキレもない。

 

「イクサだと……!? まさか、貴様はーーー」

 

「ブゥワー!」

 

 サイタンクの仲間を助けようとする突進でイクサはセイヴァーから引き剥がされる。

 思わぬ救援ではあったが、あのままにしておいてはイクサまで2対1に追い込まれてしまう。

 痛む身体に鞭打って、メイジドライバーを巻き付けようとした大地の元にまた別の救援を知らせる羽の音がやってきた。

 

「大地ー! どうやら俺の力が必要らしいなぁ!」

 

「レイキバットさん!」

 

 ディスクアニマル達から解放されて駆け付けたレイキバットは大地にとって待ち望んだ仲間。

 メイジドライバーと指輪をポーチにしまい、相棒とのパワーに優れた変身を選択する。

 

「「変身!!」」

 

 濃霧をも掻き消す吹雪に乗って、イクサの脇腹を突き上げようとしているサイタンクの肩をハイキックが突き飛ばす。

 イクサと同じ世界の白いライダー、レイは続けざまにセイヴァーにもキックを食らわせてイクサをフォローする形となる。

 

 タッグを組んで戦う際には互いのフォローを忘れない。名護から教わった通りにしたのだが、イクサは何も言うことなくセイヴァーに突き進んで行く。

 

「名護さん……?」

 

 無言で駆け出したイクサの背中を見ていると、先ほどからレイの中でずっと感じている違和感がより強く、より大きくなっていく。

 突然やって来たかと思えば、ひたすら敵を倒すためだけに戦う姿が微妙に名護と重ならないというか…最初に聞こえた声からして名護なのは間違いないのだが。

 

「ぼさっとすんな! 来るぞ!」

 

「ブゥワー!!」

 

 ベルトから響く警告で我に返ったレイは頭上から飛びかかってきた巨体が自身を潰そうと目論んでいることに気付き、危ういところで回避に成功した。

 着地の衝撃で土塊を巻き上げるほどの重量には戦慄せざるを得ないが、それでもレイの鎧を身に纏った今の大地ならテクニカルなメイジよりも幾分かまともに戦える筈だ。

 

「おのれぇ! ちょこまかと逃げ回るとは…これならどうだ!」

 

 一体何をするつもりかと警戒しているレイに向けてサイタンクは両肩の角を張って、どこか突き出すような態勢になる。

 その行動を疑問に思う間も無く、突如としてその両肩の角がまるでミサイルのごとく射出された。

 

「うわっ!?」

 

 ずっと肉弾戦に徹してきた相手が急に飛び道具なんて使ってきたら、大半の者は大地と同じく驚愕の叫びを漏らしていたことだろう。

 事実、もしメイジのままだったならあっさりと刺し貫かれていたことは容易く予想できる。

 しかし、メイジではなくレイであれば大地よりも注意深く敵を観察しているレイキバットと彼がある程度システムを操れる武装がある。

 

 濃霧を裂く威力抜群の角がレイに迫っている途中、レイの両肩にある巨大な爪、ブロウニングショルダーが大地の意思とは関係なく伸縮する。

 レイキバットが操作することでこれまで装飾品でしか無かった鉤爪は槍として前方に伸びて、その過程で激突して角のミサイルは粉々に砕け散った。

 ブロウニングショルダーの伸縮はそれだけに終わらず、サイタンクにまで到達した爪は先ほどまで角を備えていた両肩に突き刺さる。

 

「ブゥワー!? 馬鹿な、この俺にこんな爪が刺さるはずがない!?」

 

「馬鹿はお前だ! 確かに体表は硬いんだろうが、身体の器官である角が剥がれた部位まで同じ硬さではないらしいな! さあ、凍っちまいな!!」

 

「ぬ、ヌワアアアー………!?」

 

 ブロウニングショルダーを伝ってサイタンクの内部に凄まじい冷気が直接注ぎ込まれる。

 レイの凍結能力を内側からぶち込まれてしまえば、いくら堅牢を誇るサイタンクであろうと抗う術はない。

 あっという間に悲鳴すら凍てつかせ、デストロンの強豪怪人は見事な氷のオブジェへと早変わりした。

 

 並みの怪人ならこれで終わりなのだが、驚いたことにサイタンクの氷は徐々にヒビ割れ始めているのだ。あのパワーは伊達ではないということか。

 

「しぶとい野郎だ! 決めろ大地!」

 

「華麗に、激しく、やってみます!」

 

「ウェイクアップ!」

 

 レイの両腕に巻かれた鎖からギガンティッククローが解放される。

 ブロウニングショルダーが刺さった先に自身の身体を手繰り寄せるようにしてサイタンクに急接近、レイは冷気を帯びた爪を振り上げる。

 

「ッツアァァ!!」

 

 ブロウニングショルダーが刺さっていた、凍結の薄い肩の部分にできた傷口をレイのブリザードクロー・エクスキュージョンが貫き、確かな手応えを爪先に感じさせた。

 急接近の勢いを乗せた一撃はサイタンクの身体を両肩から外側に、パキパキと氷が割れる小気味の良い音を立てて切り開く。

 

 氷のオブジェと化したサイタンクにはもはや断末魔を上げることすらできず、かつて怪人だった破片を踏み砕いて、レイの勝利は確定したのだった。

 

「サイタンクが……!? チッ、想定外だな」

 

「フンッ!!」

 

 レイが勝利を収めたことで形勢は完全に逆転した。

 自慢の怪人がこんなにも早く撃破されてしまったセイヴァーは舌打ちと共にセイヴァーアローの高エネルギーでできた矢を頭上に放ち、数本に分裂して落下した周囲を爆炎に染める。

 すぐにブリザードミストで炎を全て搔き消したのだが、すでにセイヴァーの姿はどこにもいなかった。

 

「逃げられた、と見ていいな」

 

「……? 名護さんもいない」

 

 レイとしてはセイヴァーはともかく、至近距離で斬り合っていたイクサまで姿を消していたのが気掛かりではあった。

 まさかあんな撹乱程度でやられるはずもないし、だが姿を隠す理由だってわからない。

 まるで狐に化かされたとでもいうようなこの感覚、あのイクサは幻覚だったと言われても信じてしまいそうだ。

 

「この世界だとカシャ*1に化かされたっていうのかな…」

 

「何言ってんだお前」

 

 凍える風が吹いた。

 

 

 *

 

 

 変身を解いた大地は程なくしてイブキと合流できた。

 彼から受け取って、ダークディケイドライバーとライドブッカーもこの手に戻ってきたが、内心ではやるせなさで満ちていた。

 

「やっぱり暴走を……僕がもっとしっかりしていれば天美さんは…」

 

「君のせいじゃない。あきらが人の物を盗んで、しかもあんな風になるまで追い詰められていたなんて僕は気が付きもしなかった。師匠失格だ」

 

 二人の男は自身の不甲斐なさに項垂れている。

 大地がドライバーを取られなければあきらが暴走して連れ去られることはなかったかもしれない。

 イブキがもっとあきらに気を使っていれば、彼女がドライバーを盗むこともなかったかもしれない。

 

 意味のない仮定だと理解していても、後悔せずにはいられない。だが、それも一瞬だけのこと。

 すぐに頭を持ち上げた二人の顔にあるのはあきらを救い出すという決意の表情だった。

 

「もしこれが僕達の責任だとすれば、僕達には天美さんを救い出す義務があるはずです」

 

「大地くんの言う通りだよ。それに普通ならその場で獲物を捕食する魔化魍がわざわざ連れ去るような真似をしたんだ。通常とは異なる生態なのもあるけど、きっとあきらはまだ生きているはずだ」

 

 トドロキ、サバキは酷い怪我ですでに山を下ろされ、あきら救出のために天馬に対抗できるのはイブキと大地だけ。

 それでも二人に戦力の低下を恐れる様子は微塵も無く、己にできることを模索して必死に話し合っている最中にいくつかの甲高い鳴き声が山中に木霊した。

 それが索敵のためにイブキの放ったアカネタカの声だと瞬時に理解した二人はディスクアニマルの映像確認を行うと、そこに映っていたのはかなり奇妙な光景であった。

 

「これは……!?」

 

「多分、天馬の童子と姫だ。それにこれは…天馬の卵?」

 

 

 西洋の騎士を連想させる奇妙な二人組みの男女が我が子を慈しむように天馬を撫でて、その背後にある古い家屋には人間より一回り大きいくらいの卵が数個置かれている。

 そして一番注目すべきは卵が置かれている中央部に横たわる少女。それは言うまでもなく攫われたあきらだ。

 微かに身動ぎしていることから生きているのは間違いなく、目立った外傷も見られない。

 だがこのままで無事に済むというのはあまりにも楽観的過ぎる憶測になるだろう。

 

「急ぎましょう、イブキさん。本当に取り返しがつかなくなる前に!」

 

「地図と照らし合わせると、恐らくあの小屋があるのはここから南西の方角だ。天馬に加えて童子と姫もいるし、サバキさん達だっていない。正真正銘僕達二人だけの危険な戦いになる……それでも来てくれるかい?」

 

「危険なのは百も承知です。それもいつものことですから!」

 

 

 これ以上の問答は時間の無駄だと互いに理解していた。

 二人は必要最低限の準備だけ整えてからイブキの駆る竜巻に乗って出発した。

 

 

 *

 

 

 人気もなく、薄暗い森の奥に漂う濃霧。

 仮に人が来たとしてもその末路はほぼ決まっているであろうその場所には湿度の高い環境に身を潜める天馬とその傍に立つ男女。

 彼らは格好こそ従来の者達とは異なれど、魔化魍を育てる親とも言うべき童子と姫である。

 

「「……」」

 

 彼らは言葉を交わさずにとある一点を見つめ続けていた。

 この日本から遠く離れた異国の地こそ彼らの暮らすべき環境であり、この国で誕生したのも偶然と悪意が重なっただけであった。

 実際天馬と共に本来の生息地に戻るつもりではあったし、幼体だって日本で育てる予定ではなかった。

 彼らをこの地に留まらせたのは、その視線が向く一点からまもなくやってくるであろう人物……というよりも道具に引き寄せられていたからなのだ。

 

 天馬の寄生虫との共生によるエネルギーの供給量は莫大なもので、細々と人間を襲っているだけでは賄えなくなり、時代が移り変わると同時にほぼ絶滅していた。

 この天馬だって例外に非ず、幼体の餌もまともに調達できないまま緩やかに飢餓を迎えるはずだったが、とてつもないエネルギーを秘めた道具ーーー実際に使用できるかはともかくーーー彼らを引き寄せるには十分なものがあきらを誘拐した理由でもある。

 

 彼らが求める物、ダークディケイドライバーという高エネルギー物質がもうすぐやってくるとほくそ笑む。獲物を前に舌舐めずりをする獣とは彼らのことを指すのかもしれない。

 

 やがて訪れるバイクの排気音とそれに乗る鬼。

 鬼に殺されるリスクは大いにあれど、得られるリターンの方が遥かに大きい。だが、鬼を早々に始末しておくに越したことはない。

 

 バイクの運転手、イブキの首を刈り取る一撃が戦闘形態に変異した怪童子から繰り出された。

 普段ならいざ知らず、運転中にこの速さの攻撃を咄嗟に躱すのはいかに鬼であろうと不可能に近い。ほくそ笑む怪童子であったが、しかしその目論見は甘かったと思い知る羽目になる。

 

 鬼の温かな血を滴らせているはずの剣先には人肌としてはいささか白すぎるものにしっかりと食い止められており、鬼の式神らしきその蝙蝠はニヤリと苛立たしげに笑う。

 

「残念だったな」

 

「ヌゥ…!」

 

 無防備になった怪童子はそのまま竜巻に跳ね飛ばされ、しかし即座に立ち上がってバイクから降り立った二人の男を戦闘形態と化した妖姫と共に睨む。

 さらにその背後からは傷を回復させていた天馬までもが不気味に嘶き、現れた外敵への敵意を露わにした。

 

 皮膚を突き刺すプレッシャーにも怯まず、大地はダークディケイドライバーを、イブキは鬼笛を構えて臨戦態勢を取る。

 あきらが使ったばかりにも関わらず、何故かもうすでに変身可能になっているのは気になるが今はむしろ好都合だ。

 

「変身!」

 

  KAMENRIDE DECADE

 

 飢えた獣が変身完了を律儀に待つなんて道理があるわけもなく、威吹鬼を変身させる疾風ごと引き裂くようにして迫る怪童子と妖姫の剣先を間一髪のところでライドブッカーが弾いた。

 

「イブキさん、手筈通りにいきましょう!」

 

「こんな役回りを押し付けてごめん。すぐに助け出してくるよ!」

 

 ダークディケイドが怪童子と妖姫を抑えている隙に威吹鬼があきらの救出に向かう。それが道中に決めていた作戦だった。

 勿論これは天馬や操られた魔化魍が邪魔に入る可能性を考慮した末の結論であり、卵が眠る小屋に足を踏み入れようとする威吹鬼を突き飛ばそうと天馬がその腰を上げる前に、ダークディケイドはカードを装填していた。

 

  ATTACKRIDE ILLUSION

 

 怪童子を切り裂く斬撃、妖姫を吹っ飛ばすフック、天馬を怯ませる三方向からの銃撃。その全てが同時に行われ、イリュージョンの効果で五人に分身したダークディケイドの技であった。

 幸運にも天馬が操る魔化魍はいないようで、威吹鬼の邪魔をする存在はもういないかと思われた瞬間ーーー

 

「……ハッ!?」

 

 小屋の入口付近で不穏な気配を察知した威吹鬼は咄嗟にその場から飛び退き、その直後に立っていた足場に巨大な穴が開く瞬間を目撃する。

 自然にできたにしては不自然なこの落とし穴、威吹鬼にはその犯人に心当たりがあった。

 天馬が操る魔化魍がこの場にいないのではなく、単に目視できなかっただけだとしたら?ーーー当たって欲しくはない予感が見事的中したことを示す地鳴りが周囲に響き渡った。

 

「オオアリか……!」

 

「ギギギ……ギギギギギ!!」

 

 蟻と蜘蛛を掛け合わせた外見の巨大魔化魍、オオアリ。

 地中から獲物を襲う、強力な蟻酸を放つなどの能力はあるがそこまで強敵と言うほどでもないこの魔化魍であっても、この時間勝負な状況ではひたすら厄介な相手と言えよう。

 

  FINALATTACKRIDE DE DE DE DECADE

 

 威吹鬼がそうして手をこまねいている内に怪童子と妖姫がディメンションキックによって撃破され、手の空いた分身も天馬の足止めに加わる。

 そして四人の分身に天馬の相手を任せて、地中からの襲撃に手を焼いている威吹鬼を心配したダークディケイド本体が駆け寄ろうとしたところ、「来るな!」という鋭い叫びがその歩みを止めた。

 

「このオオアリは僕を標的にしてる。今、小屋に入れるのは大地くんだけだ! あきらを頼んだよ!」

 

「ええっ!? ちょ……いえ、わかりました!!」

 

「よし……ハッ!」

 

 ダークディケイドの了承を得るや否や威吹鬼は足元を踏み荒すように激しく動き回る。恐らくオオアリの注意を引くためだろう。

 師匠であるイブキが弟子の救出に自ら向かえない心苦しさは大地の想像を超えるであろうし、だからこそ一刻も早く為すべきことを為すしかない。

 

「なるべく気配を消していくなら……このライダーで!」

 

  KAMENRIDE DARK GHOST

 

 白い仮面、黒い装束、仮面ライダーダークゴーストの姿を借りたDDダークゴーストがフードを脱ぐ音が喧騒の中に消えていく。

 全身の輪郭が揺らぎ、低空に浮いた浮遊状態で威吹鬼の位置から回り込む経路で気配を消したまま小屋への進入に成功する。

 

 埃っぽい空気が充満している小屋の湿っぽさとは真逆な神秘性を放つ、青白い卵の上に横たわる少女という光景にもDDダークゴーストは一切動揺せずに近寄る。

 アカネタカの映像で見た時と変わらずに意識を失ったままのあきらの顔は悪夢にうなされているのでないかと思うほど歪んでいた。

 

「天美さん、天美さん!」

 

 年齢不相応にガッチリしたその肩を少し強めに揺さぶって起こそうと試みるが、反応はない。

 むしろ汗でできた細かい水滴がどんどん浮かび、微かだった呼吸まで激しくなってくる。

 どれだけ揺さぶっても一向に目を覚まさないあきらはどう見ても放置していれば不味いのだが、対処法がわからないDDダークゴーストは狼狽えるばかり。

 それでも駄目元で回復魔法を施してみようとビーストのカードを取り出した瞬間、あきらの様子はさらに一変した。

 

「うぅうう…ぅああああーっ!!」

 

 突然の絶叫に伴ってあきらの顔に灰色の模様らしきものが張り付く。

 無機質なそれが少女の潤った柔肌に浮かんでいる様はグロテスクにすら見え、やがてあきらの全身に広がることで飲み込んでいく。

 あきらの身体が完全に見えなくなった時ーーーそれはライオンのような怪人の外皮に成り代わっていた。

 

『ついでに力を欲するヤミーも寄生させておいたが』

 

「これはーーーそうか、これがヤミー!」

 

 脳裏によぎったのはドウマが口走った言葉。

 さらにいえばプロトバースにカメンライドした時にも似たようなものを垣間見た気がする。

 このヤミーという怪人ーーーライオンヤミーは魔化魍に匹敵する圧を叫びに乗せて解き放ち、DDダークゴーストは防ぐ間も無く余波の衝撃に曝された。

 

「チカラ……そのチカラを、もっとォォォォ!」

 

「天美さん! ……駄目か、ならどうすればいい!?」

 

 DDダークゴーストにーーというよりもダークディケイドライバー目掛けて突っ込んでくるライオンヤミーに呼びかけてみても期待した反応は返ってこない。

 プロトバースから得られた記録は本当に断片的な情報だけで、このライオンヤミーを倒せばあきらが元に戻るという保証もないため反撃に転じるといったこともできない。

 こういう時限っていつも頼りになっていたドライバーからのカメンライドの指示は何も無く、仕方無しに召喚したガンガンセイバーでライオンヤミーの強靭な顎を受け止めたその時だった。

 

「……ん? 何、これ?」

 

 ライオンヤミーの常識外れなパワーに今にも押し切られそうになりながら、しかしDDダークゴーストは自身の胸部に刻まれた紋章がいつの間にか発光していることに気付く。

 ブレストクレストと呼ばれるその紋章には強い意志をエネルギーに変換する能力が備わっており、その強い意志はDDダークゴーストにも流れ込む。

 そして感じ取ったのは大地とは違う人物ーーーあきらが抱えていた感情だった。

 

 

 力が欲しい。

 

 憎き魔化魍を討ち滅ぼせる力、一刻も早く鬼になりたい。そのためにずっと訓練をしてきた。

 なのにあの男はただ道具を手に入れただけで鬼と同等か、それ以上の力を操っている。不公平だ、私の方が長い間努力してきたのに。

 

 私が未だにやってもいない実戦訓練をイブキさんと一緒にしているのもどこか気に食わなかった。

 こんな妬みを抱えてもしょうがないと割り切ろうとしても、私の中から聞こえる声がそれを否定してくる。もっと欲望を解放しろ、力を手に入れろと。

 そうだ、碌に鍛錬しなかった男が使うよりは私が使った方がずっと良いに違いない。

 

 きっとイブキさん達も認めてーーー

 

 

「違う!!」

 

 伝わってきた感情の濁流を断ち切る否定の叫び。

 それはライオンヤミーを突き飛ばしたDDダークゴーストが発した声だった。

 

「確かにこの力は強いし、特別な訓練だって必要ないよ。でもそれと同時に得体の知れないーー暴走するかもしれない危険な力でもあるんだ。天美さんはそんな力に頼らなくても、正しい心と強い信念で人を守れるライダーにきっとなれる!」

 

 ライオンヤミーの動きが止まる。

 狼狽しているように、あるいは耳を傾けているように。

 

「この短い交流だけでもこの世界のライダーである鬼達、イブキさん達はみんな正しい心を持ってると感じた。天美さんはイブキさんに認められた弟子なんだからもっと自信を持って、そんな奴にも負けちゃ駄目だよ!」

 

 再び動きだすライオンヤミー。

 だがどこか苦しげでしきりに頭を押さえて振っている。

 今ならあきらを助け出せるかもしれない。DDダークゴーストは一か八かの賭けに出る。

 

  FORMRIDE DARK GHOST IKKYU

 

 水色のパーカー、一休魂へのゴーストチェンジ。

 ハテナマークの仮面を付けたこの一休魂には直接的な戦闘に秀でた能力は持たない。

 だがこのライオンヤミーからあきらを救い出すにはうってつけと言えるかもしれないフォームでもある。

 

「トラもライオンも似たようなものでしょ!」

 

 屏風から虎を追い出す、なんてとんちの逸話がある一休の魂ならばあるいは。

 ライオンにも効果があるのかはわからないが、試してみる価値はあるだろう。

 

 座禅を組んで集中力を上げ、思い描いた光景として念を送る。

 するとライオンヤミーはさらにもがき苦しみ、身体からセルメダルが溢れ落ちてくる。

 そのセルメダルがヤミーの身体を構成しているのだとDDダークゴーストは直感的に理解していた。そして、崩れた身体の隙間から覗いたあきらの顔も当然見逃しはしない。

 ライオンヤミーを引き剥がす、というよりもあきらをライオンヤミーから引き剥がす形として念を送り続けた結果、周囲には数え切れないほど膨大な量のメダルが散らばり、そのぶんだけヤミーの身体にもあきらに通じる穴が開く。

 

 あともう一踏ん張り。最大限まで気力を高める。

 

「天美さんーーー起きるんだ!あきらさん!!」

 

「ウウウウ……ウウウぅあああー!!」

 

 ついに臨界を超え、メダルのダムは崩壊する。

 血飛沫のごとく噴出されたセルメダルに混じって、絶叫と共に目を覚ましたあきらがライオンヤミーから飛び出してきた。

 そう、自らの力でだ。

 

 失った宿主を取り戻すべく手を伸ばすライオンヤミーだったが、そうはさせまいとDDダークゴーストもカードを手に取っていた。

 

  FORMRIDE DARK GHOST PHYTHAGORAS

 

  FINALATTACKRIDE DA DA DA DARK GHOST

 

「もう、天美さんにはお前なんか必要ない!」

 

「ガアァァァァッ!?」

 

 ピタゴラス魂へとゴーストチェンジしたDDダークゴーストから発生した三角形状の無数のエネルギーは瞬時に拡散。

 あきらを傷付けないように角度をつけて曲がり、全てライオンヤミーに直撃した。

 セルメダルを撒き散らして卵のそばに倒れるが、それでもライオンヤミーは健在だ。すでに大量のメダルを吐き出しておきながらタフな怪人としか言いようがない。

 

  FORMRIDE DARK GHOST NAPOLEON

 

  FINALATTACKRIDE DA DA DA DARK GHOST

 

「でもこれで終わりだ……! ッツァァァァ!!」

 

 踏み出したDDダークゴーストの姿はナポレオン魂となり、左肩のマントがあきらを庇うようになびく。

 ガンガンセイバーに帯びた凄まじいエネルギーの刃を一気に振り抜き、ダークゴースト最大の必殺技が炸裂する。

 ライオンヤミー、天馬の卵、何であろうとオメガドライブの斬撃を妨げることは叶わない。

 

「チカラ……チカーーギャァァァッ!?」

 

 天馬の卵も残らず焼却され、無事に救い出されたあきらの目に映るのは眩しい英雄の背中だけであった。

 

 

 *

 

 

 その同時刻、小屋の外ではやはり威吹鬼は孤軍奮闘を続けていた。

 ダークディケイドがダークゴーストにカメンライドした時点でイリュージョンの効果は消失し、天馬とオオアリの二体の魔化魍を相手にしなければならなくなるという不利な状況でもなお奮闘した威吹鬼によってなんとかオオアリだけは倒すことができた。

 

 しかし天馬は四人がかりでも苦戦したかなりの強敵。威吹鬼のスタミナも限界に達しつつある。

 

「くうっ……あとは、あとはこいつだけなのに…!」

 

 限界が近いのは天馬とて同じのはず。それでも未だに激しく抵抗してくるのは生きようとする命の力なのか。

 だが威吹鬼だってここで折れることは許されない。

 

 弟子の悩みを見抜けなかった不甲斐ない師匠としても、異世界の若き青年にその救出を押し付けてしまった責任を取るためにもーーーそしてなによりも宗家の鬼としてここでは負けられない!

 

「「イブキさん!」」

 

 そんな意に反して折れそうになった威吹鬼の足は、背を向けていた小屋から届いた二つの声に支えられた。

 そして駆け寄ってくる足音に立ち上がる力を貰い、威吹鬼とダークディケイドは共に疾走していった。

 

 

*1
狐の魔化魍




ライオンヤミー
小説版仮面ライダーオーズ アンクの章に登場したヤミー。
800年前のオーズに寄生したが、即脱出された。力を求める欲望から生まれたせいか、完全態グリードに匹敵する強さだったが、ガタキリバコンボに呆気なく倒された。
多分そのまま戦えばクッソ強いはず。

年末更新! 次回、イブキ編完結です。
では皆様、良いお年を。
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