仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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G3編 機械仕掛けの魂
謎への岐路


 

 これは3人の仮面ライダーの物語。

 

 すでに仮面ライダーである男 大地、仮面ライダーダークディケイド。

 記憶喪失の青年。ガイドという謎の男から渡されたドライバーで仮面ライダーを記録する旅に出る。

 状況に合わせて三十を超える数のライダーに変身できる世界の理を捻じ曲げかねないその特異性は様々な敵を引き寄せ、大地を激闘へと誘う。

 

 

 仮面ライダーになろうとする男 氷川誠、G3。

 G3とは、未知なる敵に対抗するために警視庁の小沢澄子の開発した戦闘強化服である。しかし未確認生命体を超える敵を相手に目立った戦果を上げられないG3に対して上層部はとある決断を下す。

 

 

 仮面ライダーになってしまった男 葦原涼、仮面ライダーギルス。

 ある日突然ギルスに変身する能力を得る。しかし、変身する度に涼の身体はダメージを受ける。

 制御不能のその力の由来は涼本人にもわかってはいない。

 

 

 未知なる敵、アンノウン

 科学では説明のつかない犯行を繰り返す彼等の正体は未だ不明。

 警視庁では狙う対象になんらかの法則があると考えられている。

 

 些細な出来事から捻じ曲がった運命に翻弄される彼らの戦いは今、さらなる局面を迎えようとしていたーーー。

 

 

 *

 

 

 早朝のコンビニには様々な客がいる。

 出勤中に食べる朝食を買う者であったり、学校で読む漫画を買う者であったり。

 しかし、ありとあらゆる雑誌や新聞を買い漁る女子大生はそう見られはしないだろう。

 

「これと……あとはあれも」

 

 積み重なる紙の重さに負けじと買い物カゴを持ち上げる瑠美の細腕がぷるぷると震えている。

 新しい世界に来てから情報収集を行うのは自分の役目だと思い込んでいる瑠美は、こうして早起きするのもちっとも苦に感じていない。

 時代のズレがある関係か、この世界ではインターネットに接続できなかったのだが、だからこそ新聞に載ったニュースは何一つ見逃せない。

 

 戦えない瑠美が大地の役に立つためにも、もっと頑張らなければないらない。

 

 いい加減カゴから溢れ出しそうになってようやく最後の新聞を取ろうとした瑠美の手が、別の方向から伸びてきた手と重なった。

 

「「あ」」

 

 伸ばしかけていた手を思わず引っ込めてしまった。

 冷静になってみればあらゆる新聞を一部ずつ取っていくのはかなり非常識だったかもしれない。瑠美は途端に自分が恥ずかしくなった。

 見ればその新聞はあと一部しか残っていない。

 しかし、同じく新聞を手に取ろうとしていた男性は怒るどころか、温和に笑っている。

 

「いやーごめんごめん。俺、普段は新聞とかそんなに読まないんだけど、ちょっと必要になっちゃってさ。けどそんなに勉強熱心なら俺よりも君の方が欲しいよね」

 

「あの、そういうわけじゃないんですけど……私は大丈夫ですから、どうぞ」

 

「そう? なんか悪いねー」

 

 特に遠慮することもなく、ひょいと新聞を取った男性はそのままレジへ行く。

 しばし呆気にとられていた瑠美も腕を引っ張る重みを思い出して、後を追うようにレジに向かった。

 

 それらの買った物を持ち帰るのに苦労したのは言うまでもない。

 

 

 *

 

 

 カラッと乾いた空気に晒されてジワジワ浮かんでくる汗。いくら拭っても首筋を伝って降りてくるそれに大地は抵抗を諦めた。

 照り付ける日差しの暑さにネイビーの半袖シャツをパタパタと扇いでいると、先日までの山籠りしていた時に感じた肌寒さが嘘のように思える。

 これで通算5つ目の世界になるが、季節感のズレだけはどうしても慣れない。寒風が吹き抜ける秋の空気から一夜で蒸し暑い夏の朝になっているのだから服装だって一々調整しなければやってられない。

 

 オフィス街の道を並んで歩く大地と瑠美は傍から見ればカップルのようでもあろうが、当人達にはそんな気は全くない。

 特に何も見落としはしまい、と視界の全てに気を張り巡らしている瑠美の様子を見れば、そうは思えないだろう。暑さにだれている大地は微妙だが。

 

「こうして歩き続けるのもいい加減飽き飽きしてきます……いっそのこと、世界に着いた瞬間に仮面ライダーに関係する職業になってる、とかだと楽なのになぁ」

 

「そんな都合の良い話があるか。それに前回と違ってライダーの居場所がある程度見当が付いてるだけマシだろ」

 

 大地がふと思い付いたおとぎ話に近い愚痴は、ポーチの中からピシャリと切り捨てられた。

 愚痴を言いたくなる原因の一つはポーチの重さにもあるのだが、前にそれを言ったら明らかに不機嫌になったのでやめておこうと心の奥底に封じ込めた。

 

「あ、あそこにありましたよ。警視庁」

 

 瑠美が指差した先に佇むのは警視庁。後ろめたいことは何もなくても、正門の前に立つ警察官を見ると自然と背筋が伸びる。

 

 

 大地達がわざわざ警視庁にまでやってきたのには訳があった。

 早朝から新聞などを買い漁って、ライダーと怪人に関する調査をしてくれていた瑠美によると、どうやらこの世界は怪人とライダーの存在がある程度公表されているらしかった。

 

 世間一般に認識されているというのは「マッハの世界」を思い出すが、この世界では警察がより関わっている。

 どう考えても人間には実行不可能な殺人を繰り返す怪人・アンノウンと、それに対抗するべく警察で開発された戦闘強化服ーーー恐らくはそれを装着した者がこの世界のライダーなのだろう。

 

 しかし、限られらた紙面からわかった情報はこれまで。それ以上はこうやって足で集める他ない。

 

「でも正面から入ってライダーについて教えてください! って言っても無理ですよね……。私じゃあ門前払いになっちゃいます」

 

「ならどうする。インビジブルなりで手っ取り早くデータを頂戴するか?」

 

「かと言って忍び込むのもなあ。こんなことにダークディケイド使うのはおかしい気がします」

 

 レイキバットにコッソリ侵入してもらうこともできなくはないだろうが、中にいるかもしれないライダーと遭遇した時にレイキバットだけでは非常に不安だ。最悪捕獲されて解体処分されるなんてこともありうる。

 ダークディケイドの力を使ったとして、あんなに広くて大きい警視庁の建物の中をくまなく探そうとすれば先に大地の体力が無くなるのは火を見るよりも明らかである。

 

「いいじゃねえかよぉ。俺様もいるんだから制限は問題ねえし、最悪マッハとかクロックアップでトンズラすりゃあいい」

 

「僕がそんな風に使うには危なすぎるってば……しょうがない。ここで突っ立てても不自然だし、どこか座って話し合いましょうか」

 

「そうですね。折角ここまで来たんですし、帰るなんて勿体無いですよ」

 

 どこか喫茶店にでも入って知恵を絞るのが最適と考えた一向が踵を返したその時、彼等の耳を聞き慣れない音が刺激した。

 特殊なサイレンらしきその音の出所を探って振り返ると、ちょうど警視庁から一台の大型トラックが発進していくところだった。

 

 日差しを反射して眩ゆい光沢を放つ銀色の車体に真っ赤なパトライトを付けた、嫌でも目立ってしまう外装の大型トラックは他の一般車両を次々と追い越して走り去っていく。

 これだけなら珍しいトラック程度だと感想を言う程度で終わったのかもしれないが、彼等にはそれだけでは済まない理由があった。

 

「あのトラック、背景ロールに写ってたのとどことなく似てませんか?」

 

 無言で頷いて肯定する大地の頭でこれまでの記憶が掘り起こされる。

 ビーストの世界はビーストキマイラ、マッハの世界はライドマッハーという風にその世界のライダーに関係の深いものや、イクサの世界のステンドグラスと十字架のような抽象的な背景もあった。

 共通していたのはいずれも仮面ライダーを象徴していたということ。色こそ違うにせよ、背景ロールの物と酷似しているあの銀色のトラックが、この世界の仮面ライダーに何かしらの関係があると大地が勘付くのにそう時間は掛からなかった。

 

「あれ、追ってみよう。多分手掛かりにはなるはずです」

 

「えーっと……バスとかタクシーで、ですか?」

 

 そう言われて初めて自分が失念していたことーーー変身しなければバイクを使えないことに気付く。

 だが近くにタクシーなどが見当たらない上、こうしている間にもトラックはどんどん遠ざかっていく一方だった。

 

「……仕方ない、よね?」

 

 大地は誰かに言い訳するようにベルトを巻く。別に誰に責められるわけでもないのだが。

 

  KAMENRIDE DECADE

 

  ATTACKRIDE MACHINEDECADER

 

 人目もはばからず変身したダークディケイドはマシンディケイダーを召喚し、トラックを追いかけるべく搭乗した。

 そしてエンジンをかけたところで、駆け寄ってきた瑠美に帰っているように言おうとしたが、その言葉を先読みしたかのように腕を掴まれる。

 

「私も一緒に行きます!」

 

「え、でも危険ですよ!? この先に怪人でもいたら……」

 

「ここに残っても、それはそれで面倒そうだぞ」

 

 レイキバットの指摘は最もであった。

 忘れてはならないのが、ここは警視庁の前だということ。つまり正門に立っていた警官達が突如変身したダークディケイドに驚愕し、こちらに近付いてきている。

 こんな怪しい鎧を纏った男に何をしようとするのか、大体の予想はつくし、その男の関係者と思われるであろう瑠美をここに残していくのは確かに面倒なことになる。

 

 限られた時間の中で出せた結論は一つだけ。瑠美にヘルメットを差し出すことだ。

 

「本当に危なくなったら絶対に逃げて。いいですか?」

 

「はい!」

 

 警官から飛んでくる制止の叫びを振り切って、二人(とついでにレイキバット)を乗せたマシンディケイダーはトラックの後を追跡して行った。

 

 

 *

 

 

 生身の人間を後ろに乗せたタンデムは初めての経験で、スピードの加減具合に苦戦したせいでトラックを何度も見失いかけた。

 交差点をどちらに曲がればいいのか悩む場面になった時、騒音に近いサイレンを頼りに道を疾走して、マシンディケイダーはようやく住宅街に停車しているトラックの付近にまで辿り着くことができた。

 

 さらにその周辺には数台のパトカーも路駐されており、ダークディケイドは瑠美を伴って辺りを見回す。

 

 

 特に不自然な事象は存在していないーーー視界の中心にある樹木から人間の腕が生えている光景が自然過ぎて気付くのが遅れただけだったが。

 

 

 何の変哲もない樹木からまるで枝のように垂れ下がるそれが、事切れた警官の腕だと最初は受け入れることができなかった。

 あまりに凄惨な光景にショックを受けた瑠美は言葉を失い、人の死に慣れていないのだと今更ながら大地は気付き、連れて来たことを後悔する。

 だが、もう遅い。それに最初は瞳孔を開ききっていた瑠美もキッと口を結んで目の前の遺体の一部に落ち着いて向き合い始めた。足の震えは未だ収まっていないが、錯乱しないだけ彼女は充分すぎるほどに強い。

 

 この中で最も衝撃の少ない、というよりも受けていないレイキバットはその奇妙な樹木を観察するように飛翔し、そして疑問を口にする。

 

「解せんな……この木に人が入るとは考えられん。一体どういう理屈だ?」

 

「わからないけど、少なくとも人間の仕業ではなさそうですねーーーー!?」

 

 耳から脳天に向けて一直線に轟く激しい音。ダークディケイドで強化された聴覚でなくとも拾える大きさのそれは、住宅街では響くはずもない銃声。それが立て続けに起これば、誰だってそこに異常があると察しはつく。

 

 瑠美を気遣うことを忘れずに、しかしなるべく急いで銃声の出所と思われる場所に向かう。

 

 半ば予想はしていた通り、そこには大勢の警官がいた。

 その大半が地面に横たわっており、内何人かは恐らくもうその目が開かれることもないだろう。

 彼らをそんな風にしたと思われる下手人ーーー豹の姿をした怪人が何かを守るように寄り集まっている警官達に歩みを進めていた。

 

 あのままでは横たわっている同僚達と同じ末路を辿るであろう彼らは恐怖に慄くか、もしくは職務に準ずる覚悟を決めた表情をしているかに思われる。

 しかし、そのどちらでもない安堵を示した――そしてダークディケイドが助けに入る足を思わず止めた要因は、警官達を守るように立ち塞がった銀色の戦士であった。

 

「あれがこの世界の?」

 

「見たこともないライダーだ……」

 

 追跡していたトラックと同じ銀色で全身を染め上げ、仮面にある複眼や角ですらも例外ではない。

 全体的に人工で作られたのだと見受けられる戦士は大腿部から引き抜いた警棒らしき武器を構え、対峙している豹の怪人ーーージャガーロードも臨戦態勢をとる。

 

 警官、瑠美、ダークディケイドが固唾を飲んで見守る中、戦いの火蓋を切ったのは銀色の戦士が呟いた一言であった。

 

一三〇二(ひとさんまるにー)。V2システム、戦闘を開始します」

 

 

 *

 

 

 銀色の戦士、V2システムとジャガーロードの激突が始まって数秒が経過した。

 たった数回の打ち合いだけで何故警官達がV2を見て安堵したのか、あの圧倒的な戦闘能力を見れば自ずと理解できた。

 

「強いですね、あのライダー」

 

「うん、なんというか、動きにあんまり無駄がないって感じです」

 

 最低限のフットワークで敵の攻撃を避け、代わりに手痛い一撃を食らわせるV2。

 彼の前では警官達を恐怖に陥れた怪人が今や赤子のように弄ばれている。

 ジャガーロードの眼を見張る瞬発力、こちらにまで風圧が届くぐらいのパワーからするに決して弱い怪人ではないとわかるのだが、V2の性能と張り合うには役者不足もいいところだ。

 

 これなら加勢する必要もないだろうと結論付けたダークディケイドは横たわる警官達を見回して、カードを取り出した。

 

  KAMENRIDE BEAST

 

  ATTACKRIDE DOLPHI

 

「ハッ!」

 

 DDビーストはドルフィマントを翻し、横たわっている警官達に回復魔法をかける。

 大地の体力を大幅に奪うのと引き換えに発動した癒しの魔法は勇敢に立ち向かったであろう警官達の傷を和らげ、今すぐ命に関わるレベルの傷を負った者はいなくなった。

 残念ながらすでに息絶えた者達には効果を為さなかったが、それでもDDビーストのおかげで助かった者は数多くいるはずだ。

 

 しかしこぼれ落としてしまった命、間に合ったかもしれない命をこうして目の前に突きつけられるのはかなり堪えるものがあった。

 力を失ったように曲がった膝が地に着いたのも疲労だけではない、精神的な負担によるもの。隣で手を合わせて彼らの冥福を祈る瑠美がいなければ情けない言葉の一つや二つ漏らしていただろうし、そうならないためにもDDビーストは己への無力感と嘆きを噛み殺した。

 

 同じく手を合わせて祈ろうとして、今の自分がビーストの姿なのを思い出して、通常のダークディケイドに戻ってから祈りを送った。

 

『ごっつぁん!』

 

(さすがに不謹慎だよね……)

 

 

 そんなこんなで気が付けばV2とジャガーロードの戦闘も決着が近付いていた。

 時間にしてみれば1分ちょっとくらいしか経っていないものの、すでにジャガーロードはだいぶグロッキーで、見立てではアタックライドの一つでも当てればたちまち爆散するに違いない。

 そろそろ戦闘終了後の接触を考えるべきだろうか、と顎を手に乗せる仕草をしていると警官達の方に動きがあった。

 

「北條さん! アンノウンの方はお願いします!」

 

 雰囲気や外見から一般人と思われる女性を連れた数人の警官がパトカーに乗り込み、現場から離れていく。未だ変身を解かない大地のように念のため、というやつなのだろう。

 

 それだけなら気にも留めなかったが、ダークディケイドの複眼は大木の影からパトカーを見つめる存在を逃しはしなかった。

 目の前で叩きのめされているジャガーロードと類似した、黒い体色だけが異なるもう一体の怪人が常人では捉えきれない速度で跳躍し、次の瞬間には疾走するパトカーのすぐ後ろにまで迫っている。

 

 大地には知るよしもないその怪人はパンテラス・トリスティスという個体名の怪人であり、V2と戦闘中のパンテラス・ルテウスと同じ種族である。

 

「レイキバットさん! 瑠美さんのことよろしく!」

 

「お、おい!?」

 

 ダークディケイドは返事も待たずに跳躍し、呼び寄せたマシンディケイダーのアクセルを振り絞る。

 ライダーへの接触の機会を失うのは痛手ではあるが、あの怪人を見て見ぬフリをすることなんて大地には決してできない。

 マシンの爆音で周囲の警官達に気付かれたかもしれないが、そんなことは二の次だ。

 

 追いかけているトリスティスは背後のマシンディケイダーをちらりと一瞥したかと思えば、忌々しそうに鼻を鳴らして大きく地を蹴った。

 こちらに襲いかかってくるのではなく、標的が乗るパトカーのボンネットの上に飛び乗って運転手の視界を塞ぐ手段に出ていた。

 危ない、と声をかける間も無く、パトカーは電柱に激突して煙を上げる。

 這うようにして降りて、それでもなお女性を守ろうとする警官達を足蹴にし、車内で震えている標的に手を掛けようとするトリスティス。

 その際にトリスティスの手が何らかのサインを描いているのを目にするが、もはやダークディケイドにとってはどうでもいいことである。

 

「やめろぉぉ!」

 

「グゥッ!?」

 

 地に伏せる警官達を轢きかねないバイクは虚空に消えさり、宙に投げ出される形となったダークディケイドの鋭い飛び蹴りがトリスティスの肩を捉えた。

 

「ここは僕に任せて、逃げてください!」

 

 怯えてはいるものの、女性の命に別状はないことを確認して、周囲に倒れている警官達に叫ぶ。

 ダークディケイド以外の誰もが謎の乱入者に驚いてはいたが、すぐに我に帰った警官の一人が動き出したのをきっかけにして迅速な対応がなされた。

 ダークディケイドはそんな彼等をトリスティスから守るために立ち塞がってライドブッカーを構えたが、敵の不気味に光る瞳は女性ではなくダークディケイドを正面に捉えていた。どうやら標的は変わったようである。

 

「グルルルル……!」

 

「喋るタイプじゃないか……どっちにしろ戦うんだろうけど!」

 

 トリスティスの頭上に白く光る輪っかが浮かび、そこに突っ込んだ手には槍が握られている。

 魔化魍よりかは明確な意思を感じるこの敵は意思相通こそできなくても、武器を使う知能はあるようだ。

 

 シャッ、と空気を裂く音が響けば、次の瞬間には目前に槍の穂先が迫っている。

 

(速いッ!?……けどこのくらいなら!)

 

 その並大抵ではない瞬発力に舌を巻きながらも、眉間に突き刺さる前にライドブッカーで右に弾き、槍を持っていた敵も微かにその方向を向く。

 加えられたベクトルをそのまま押し出すように、左から回し蹴りをねじ込んだことでトリスティスの身体は悲鳴を置き去りにして吹っ飛んでいく。

 回し蹴りで生まれた遠心力を殺しつつ、ダークディケイドはライドブッカーを腰に戻してカードを取り出した。

 

  KAMENRIDE ANOTHER AGITO

 

 生々しく変容した深緑の身体は見る者にバッタを想起させ、両肩から出ているマフラーはさながら羽のようでもあった。

 DDアナザーアギトという名称を授かっているこの形態は専用の武器はないが、それを補って余りあるほどのパワーなど、身体能力が格段に上昇している。

 だが、大地が違和感を覚えたのはその特異な外見でもなければ、漲るパワーでもない。

 

 かなりの力を発揮すると確信できる姿でありながら、ほとんどの疲労も感じないことだ。

 

「アギト……!?」

 

「このライダー、ギルスと同じ感覚だ……あんまり厳しくない。いける!」

 

 理由は不明だとしても、その恩恵にあやからない手はない。

 脚に込めた力を地面にぶつけ、強靭な脚力を発揮したDDアナザーアギトは凄まじい勢いで直進する。

 馬鹿正直に正面から突っ込めば槍の餌食になるのは必須ーーーただし、通常のダークディケイドであればの話だが。

 目で追うだけでも困難であるはずのDDアナザーアギトにすらトリスティスの眼光はしっかりと捕捉していたのだが、カメンライドによって研ぎ澄まされた感覚は槍の一突きを容易く跳ね除けさせた。

 

 槍というものはリーチに優れる分、懐に潜りこめば対処はし易くなる。無論、柄で打ってくることもあるが、そうされる前に槍そのものを奪い取ってしまえばいい。

 

「フンッッ!」

 

「アグゥ!?」

 

 力任せに奪取した槍を回転させ、丸腰となってしまった相手に連続で突きを繰り出していく。

 長物の心得はなくとも、圧倒的な身体能力を活かして振るう槍はそれだけで脅威になり得た。

 瞬発力だけならDDアナザーアギトに勝るとも劣らないトリスティスであっても、全ての突きを躱し続けるのは叶わず、ついにその穂先が腹部を貫く。

 

「ーーっ……ッツア!」

 

 何度やっても慣れない肉を裂く感覚に仮面の奥で表情を歪めながらも、そんな素振りはおくびにも出さずに槍を投擲。貫かれている者もまた行き先は同じ。

 トリスティスをぶら下げた槍が樹木に突き刺さるのと、DDアナザーアギトがカードを装填するのは同じ瞬間であった。

 

  FINAL ATTACKRIDE A A A ANOTHER AGITO

 

 クラッシャー展開、高まる闘気、地面に浮かぶアギトの紋章、脚先に集まるエネルギー……全ての動作が緩慢にも見え、しかしトリスティス目掛けて跳躍するのはそれまでが嘘のように素早かった。

 

「ッツァァアァァッ!!」

 

 DDアナザーアギトの必殺技、40tもの威力を誇るアサルトキックがトリスティスに炸裂し、槍と樹木を木っ端微塵にする。

 これでトリスティスは自由の身になったわけだが、その末路が槍や樹木とは異なる道理もなく、辛うじて立ち上がった彼の頭上に槍を取り出した時と同じ輪っかが浮かぶ。

 

「アギト……ッ!? グアアァァーッ!?」

 

 それこそがトリスティスの限界を示すサインであり、怨恨の叫びを上げて、その身体を爆炎の中に飛散させた。

 

「ふぅ、大丈……もういないか」

 

 DDアナザーアギトは周囲に敵は残っていないことと、ついでに警官と女性の安否も確認しようしたが、いつの間にやら避難していたようで、既に誰もいなかった。

 英雄的行為に感謝する者が誰もいないのは少々寂しいかもしれないが、大地自身は特に何とも思わずバイクを呼び寄せようとする。

 

 ーーーここで自身を呼びかける声に気付かずに走り去っていたならば、また違った運命を迎えていたことだろう。

 

「ま、待ってください! 貴方は一体……何者なんですか!」

 

「へ?」

 

 隠れていたらしい物陰から慌てたように出てきた一人の警官がDDアナザーアギトを呼び止めた。

 敵意も感じられなかったので、DDアナザーアギトもバイクを停止させて警官に向き直る。

 

 それがこの男、氷川誠と大地の出会いだった。

 

 

 *

 

 

 ほんの少しだけ時を遡る。

 一人取り残される形になった瑠美は敵を圧倒し続けているV2の戦闘を物陰から見守っていた。

 当の本人が何処かに行ってしまったとはいえ、この世界のライダーから話は聞いておくべきだろうと判断し、戦闘終了のタイミングを見計らって話しかけるつもりであった。

 

「一人っつーか、俺もいるだろう」

 

「それはそうですけど」

 

 どうやって話を切り出すべきか、未だに思い浮かばないのだが、瑠美にはこのまますごすごと帰るわけにもいかない。

 最低でも何かしらの情報の一つでも掴んでからでないとーーー知らず知らずのうちに自分を追い詰める意気込みが袖を握らせる。

 

『V2ショット、使用許可』

 

「了解」

 

 V2は腰のホルスターから銃を引き抜き、連続で発砲する。

 その正確無比な狙いから放たれた弾丸は鼓膜を震わせる轟音と共にジャガーロードに命中し、おびただしい量の火花が散った。

 撃たれた箇所を押さえて苦しむジャガーロードの頭部に白い輪っかが浮かび、断末魔を上げて爆発した。

 

 その場に漂っていた緊張状態がほぐされ、戦闘終了の空気の中でマスクを脱いだV2。

 仮面の下から現れたのはやけに自信に満ちた男の顔。

 

「アンノウン一体の撃破を確認。北條透、これより帰還します」

 

「待ってーーーっ!?」

 

 その男に駆け寄ろうとした瑠美の視界が突如として真っ赤に染まる。

 言葉を紡ごうとしていた口が塞がれた息苦しさに伴い、程なくして身体の自由も効かなくなる。

 

「貴様!? 何しやがる!」

 

「黙ってろ」

 

 レイキバットの怒鳴る声も何かがぶつかる金属音によって掻き消された。

 その時になってようやく自分の顔が何者の手に塞がれているのだと気付いた時にはもう遅い。心地の悪い浮遊感に身体が揺らされる。

 

 奇妙な喧騒を耳にしたV2の装着者、北條透が怪訝に思って目を向けても、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 *

 

 

 アンノウンとV2が戦闘していた地点からそう遠くない場所に赤い影が降り立った。

 その正体はドウマが変じた仮面ライダーセイヴァーであり、彼の腕の先にはグッタリとしている瑠美の姿もある。

 先ほど瑠美を攫ったセイヴァーは彼女を掴んだまま跳躍し、人目のつかない場所を選んで着地したのだ。

 アスファルトの上に乱雑に投げられて、咳き込む瑠美。拉致されて、その上生身でジェットコースター並の風圧を受けてしまった彼女にはセイヴァーから逃げる気力もない。

 

「初めまして、ということになるかな? 手荒い手段を取ってしまって申し訳ない、花崎瑠美」

 

「こふっ、こふっ……もしかして、ドウマ…?」

 

「話が早くて助かるね。早速で悪いが、面倒なコソ泥のせいで君には役目を果たしてもらうことになった。ダークディケイドライバーとの交換品という役目を、ね。心配せずとも、少しの間眠っていればいいだけだ」

 

 人の死を目の当たりにして揺らいでいた精神に追い打ちをかけるように酷い目に遭わされて、瑠美にはセイヴァーの言葉の半分も理解できていない。ただ今の自分が絶体絶命の危機に晒されているのだと、漠然と理解できているだけ。

 砂利を踏みしめるセイヴァーの足音が近付いてくるが、瑠美には逃げることもままならない。

 

 あんなに意気込んでいたのに、結局何もできないばかりか、今もこうしてピンチになって大地に迷惑をかける羽目になってしまう。

 どうして自分はこんなにも無力なのだ、どうして迷惑をかけることしかできないのだーーー渦巻くネガティヴな感情は瑠美の身動ぎすらも止めてしまった。

 

 いっそあの時に絶望して死んでいれば、もう誰かに迷惑をかけずに済んでいたのに。

 

「抵抗すらしない……こちらとしても無駄な時間を省けるのは大いに結構。せめて痛みは感じないよう注意を払おうーーーむ?」

 

 人気のないその場所にバイクの音が響いた。

 徐々に大きくなる爆音に注意を向けたセイヴァーの足が止める。

 一瞬大地が助けに来たのかと両者は考えたが、セイヴァーと瑠美の間に滑り込んできたそれは、マシンディケイダーとは異なるオフロードバイク。

 乗っていた人物はヘルメットを脱ぎ捨て、その素顔を露わにする。

 

 向けられる野生的にギラついた眼光にセイヴァーはたじろぐ。

 向かい風に抗う金のメッシュが入った黒髪が瑠美には獅子の鬣のようにも映った。

 

 只者ではない雰囲気。しかし、その程度ではセイヴァーは止まらない。

 その男の首を搔き切るべく空気を水平に裂いていくセイヴァーアローの前で、その男は両腕をクロスする。

 そんな柔な防壁など、セイヴァーアローを止められる可能性は万に一つもない。逃げて、という瑠美の叫びは削られた気力によって呟きと言って差し支えない声量で、男が逃げ出す様子は一切見られない。

 

 だが、予想に反して銀の刃はガッチリと受け止められていた。

 

「何…ッ!?」

 

 男の目前で静止させられたセイヴァーアローを受け止めた主は、真横から突如出現した緑の腕。

 いや、腕だけではない。瑠美が瞬きした合間に、虚空から現れた深緑の背中、脚、頭部。カミキリムシに類似したその存在が凶刃を受け止めているのだ。

 何の偶然か、あの緑の背中をこうして見るのも、瑠美には初めてではなかった。

 

「変身!」

 

 腕のクロスを解き放った男の掛け声が合図となって、男とそれがゆっくりと重なる。

 まるで異なる風貌でありながら、初めから一つのものであったかのように二人は融合し、一人の戦士となった。

 

 そして重なったものがもう一つ。異なる感情を秘めたセイヴァーと瑠美の呟きもまた同じ音を重ねる。

 

「「仮面ライダー、ギルス……!」」

 

「ヴォァァアアアーッッ!!」

 

 ギルスの人間離れした咆哮がビリビリと大気を振動させ、次の瞬間には深緑の拳を捻じ込まれたセイヴァーが後方に吹っ飛ぶ。

 宙を舞う敵が地面に落下するのを待たずに、獲物を求める猛獣が身体を躍らせた。

 

 これがこの男、葦原涼と花崎瑠美との出会いだった。

 

 




V2システム
V1システムの強化発展型。仮面ライダーアギトが存在しないため、アンノウンをまともに撃破できないG3に代わって、本来の歴史よりも早く表舞台にV1システムが登場した結果、開発された。
しかしその見た目はV1とは大きく異なっているようで…?


一番驚くべき要素なのに、空気になった北條さん。ファンの方は次回以降をお待ちください。

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