仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

ほんの少しのアンチヘイト要素かもしれない。


美女と野獣?

 

 

 力で技を捩じ伏せる。技で力を受け流す。

 仮面ライダーギルスと仮面ライダーセイヴァーの攻防を簡潔に表現すればそうなる。

 

 理性を感じさせない暴力の体現者であるギルス。抉るようなボディブローでセイヴァーを叩き、赤黒い装甲を凹ませる。

 セイヴァーアローと大橙丸による二重の防御を容易く崩してみせたのも、その圧倒的なパワーによるもの。

 二つのロックシードが形成するセイヴァーの鎧は戦極ドライバーを拡張させた強化形態、ジンバーアームズにも匹敵する性能を誇っている。

 しかし、その防御力をさらに凌駕するギルスもまた、パワーだけならば他のライダーの強化形態にも劣らない。

 

(こいつが何なのかは知らん。だが、人間に刃を向けるような奴は、誰であろうとぶっ潰す!)

 

「ゥヴヴォアアアー!!」

 

 ギルスの変身者、葦原涼が抱いた闘志は獣性によって叫びに変わり、内包する感情を乗せた拳が、今またセイヴァーを吹き飛ばした。

 加減を知らない獣が倒れた相手の復帰を悠長に待つ、なんてことはなく、二度と立ち上がれなくするかのような勢いのギルスがセイヴァーを追撃せんとする。

 並みの相手であれば、ギルスの猛攻に為すすべもなく身体を沈めていたかもしれないが、前述を忘れてはいけない。

 

 ギルスが力の戦士とするなら、セイヴァーは技の戦士。パワーで劣っていても、その差はテクニックで埋められるのだ。

 

「化物風情が、力任せで勝てると思うな!」

 

 鎧を着込んでいることなど感じさせない身軽な動きで、瞬時に立ち上がったセイヴァーに捩じ込まれる深緑の拳。しかし、意外にもセイヴァーは回避行動の前動作すら取らず、その一撃を甘んじて受け入れた。

 

(何ーーーーッ!?)

 

 敵の不自然な行動に眉をひそめたその直後、ギルスの胸部から火花が散った。

 攻撃を仕掛けた側であるはずのギルスが何故傷つくのか、理由を探ろうとする思考は胸部から広がる激痛と、それに刺激された闘争本能が阻害した。

 

「ガアァッ!?」

 

「力自慢の野郎を相手にするのは怪人どもで手馴れている。エクシードですらない、馬鹿力に優れるだけの脆いライダーが、この俺に勝てるはずがない!」

 

 ギルスを斬り裂いたセイヴァーアローをチラつかせ、ドウマは仮面の奥で歪に笑う。セイヴァーが実際に行ったのは至極単純な、ギルスの勢いを利用しただけの、ただのカウンターである。

 そんな単純な技が通じるのも、ギルスが戦闘衝動に身を任せている故。

 パワーに優れている代わり、ギルスの防御力は拳銃のような通常兵器でもダメージを与えられるほどに、皆無といっていい。反対に、鎧で身を包んだセイヴァーはギルスの拳を受け止めるだけの堅さがある。

 

 そしてたった一度のカウンターで攻めの姿勢を崩されたギルスに、セイヴァーの乱舞による逆襲が開始された。

 

「どうした、威勢が良いのは最初だけか? せめて惨めに喚いてみるがいい!」

 

「グッ、ガッ…!?」

 

 セイヴァーが繰り出す乱舞は暴風雨と言って等しい。

 弓と刀の奇天烈な二刀流でありながら、それを使いこなすセイヴァーの卓越した技量の前には、ギルスも反撃すらままならない。

 時折、自身へのダメージを無視した強引な反撃にギルスが転じようとしても、その拳は届く前に跳ね除けられる。

 流れは完全にセイヴァーの方に傾きかけていたが、そこに一石を投じる者がいた。

 

「レイキバさん、お願いします!」

 

「チッ、仕方ねえ!」

 

 瑠美の懇願を受けたレイキバットは氷結弾を乱れ撃ちしながら、セイヴァーを翻弄しようする。

 

 そもそもの話、ギルスが来た時点で即座に逃走を選ぶべきだった瑠美がこの場に残っていること自体おかしな話だが、「見ず知らずの人に助けてもらい、自身は一目散に逃げる」という情けない行動は今の彼女には躊躇してしまうものであった。

 ギルスが来た直後に合流したレイキバットも、瑠美に逃走を促したが、微かでも戦闘手段を有する彼を連れてはいけない、ギルスを援護してほしい、と瑠美は何度も頼み込んだ。

 そしてギルスが徐々に追い込まれていく光景に悩む暇は無いと、レイキバットは半ばヤケクソ気味に突貫したのだ。

 

「オラオラァ! とっとと凍っちまえよ、怪人ハーレムストーカー野郎!」

 

「邪魔だ!」

 

 だが、レイキバットの攻撃程度ではセイヴァーに効くはずもなく。

 むしろレイキバットの方が叩き斬られぬように飛び回るのが精一杯だ。

 そうやってウロチョロと目障りな存在を早々に潰すべく、セイヴァーは一旦セイヴァーアローを放り捨て、怪人のカードを取り出した。

 

「貴様はこいつと遊んでいろ」

 

 そのカードを左腕の機械に読み込ませようとした瞬間、セイヴァーの腕に強烈な圧力がかかった。

 

「む?」

 

 思わずカードを手放しそうになるほどの圧力をセイヴァーにかけていたのは、彼の腕を絡め取った茶色の触手。

 それを放った主、ギルスがそのギルスフィーラーという触手を左腕から咄嗟に伸ばし、セイヴァーの行動を阻害しようとした。

 しかし、いくらギルスが力に優れていても、こんな片腕だけの拘束ならセイヴァーが大橙丸を一振りするだけで千切れ飛ぶだろう。

 

「させるかっ!」

 

 それを理解しているが故に、レイキバットは大橙丸の刀身に噛み付き、全力で取り上げようとする。

 それはセイヴァーが少し力を込めるだけで済むような、悲しいほどに非力な拘束であったのだが、そのほんの一瞬に生まれた隙をギルスは見逃さない。

 あるいは隙などなくとも特攻したのかもしれないが、結果的には右腕から生やした巨大な金色の爪、ギルスクロウがセイヴァーのベルトを一閃する。

 仮面ライダーの命とも言えるベルトを攻撃したのは、特に考えがあったわけでもなく、我武者羅に腕を振るった末の偶然以上の意味はない。

 

 だが、それが幸いとなった。

 

「なっーーーーガハッ!?」

 

 セイヴァーのベルトに一筋の浅い亀裂が入ったその瞬間、彼の身体全体から火花が散り、悲痛な声が漏らした。

 ギルスにしてみれば、あんな浅い攻撃でここまでダメージを与えられたことが逆に動揺を生み、その隙にレイキバットを弾き飛ばしたセイヴァーは背後に出現させたオーロラに潜る。

 我に帰ったギルスが追跡しようとするも、一枚の薄いオーロラは彼を決して通しはしなかった。

 

「命拾いしたな……」

 

 オーロラの向こうに映るセイヴァーの姿はまるで幽鬼のように揺らめき、消滅する。

 

 突然の撤退が腑に落ちないとはいえ、一応危機は去った。

 ギルスという獣性は戦闘衝動と共に鳴りを潜め、人間としての葦原涼に戻る。

 全身を斬り付けられた痛みに顔をしかめながら、しかしそれを極力抑えて振り返り、襲われていた女に「無事か」と聞こうとする。

 

 そう、聞こうとしただけだ。実際に開いた口から出たのは弱々しい呻き声。

 

(ーーーーまたか)

 

 涼を襲った身体中の水分が無くなりそうな脱力感も、ありとあらゆる筋肉が千切れそうな激痛も初めてのことではない。

 この症状はギルスに変身した後に決まって出る後遺症で、しかも今回のは中々に酷い部類だ。

 慣れることのない苦痛を味わう状況に慣れるなど些か奇妙ではあるが、そんな矛盾に割く思考は涼にはもう残っていない。

 身体を支えきれなくなった脚が折れ、崩れ落ちる最中、夜までに目が覚めれば身体が冷えずに済むのだが、と最後に涼は憂いた。

 

 

 *

 

 

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 

「どうやら気絶してるだけのようだな。命に別状はあるまい」

 

「ーーー良かった……」

 

 突然倒れ伏した男に駆け寄り、その安否を確かめる。

 もしも死んでしまっていたら、あるいは命が危険な状態になってしまっていたらーーー。

 大粒の汗を浮かべて悶え苦しむ男の表情を見た瑠美の不安が募っていき、レイキバットの冷静な指摘がなければいつまでも慌てふためいていたことだろう。

 もしも先ほど警官達の死を目にしていなければ、すぐに冷静な対処をすることもできたであろうに、しかしそれはあくまで仮定でしかない話。

 

 応急処置をするには必要な道具が一切足りず、仮に道具があってもこんな道端に寝転がせたままでは難儀なことに違いない。

 救急車を呼ぼうにも、異世界では瑠美の携帯電話は機能せず、また近くには公衆電話も人の影も見当たらない。

 こうなったら騒ぎになることを承知で、レイキバットに人を探してきてもらうしかないのかもしれない、と無理を言って頼もうとした。

 

「レイキバさーーー」

 

「ーーーむっ!?」

 

 そうしようとした時、確かに瑠美は人がいないことを確認していたはずだ。だからこそ、音も無く現れた一人の男に声を失った。

 思わぬ助け船を瑠美は素直に喜べない。

 紫のTシャツの上に白のジャケット、ダメージジーンズーーー外見は普通にも関わらず、男から滲み出る得体の知れない雰囲気が微かに感じられる。

 

「お困りのようだね。よければ力になろうか?」

 

「え……ーーーぁ、ああ、あの」

 

 本当に何の気配も無かった。その男が目の前に立っているという事実が一瞬受け入れられないほどに。

 表情に浮かんでいるのも好意だとか、善意というものではなく、ただ相手を品定めするだけのような視線が向けられるだけ。

 だが、その視線には悪意らしきものも含まれていないために、瑠美が完全な警戒を抱かせるには至らなかった。

 

「お願いします! この人を助けたくて、今すぐ救急車を」

 

「なるほどね。そういうことなら、良い場所がある。付いてきたまえ」

 

 男は倒れていた涼の腕を取り、肩に回す。

 自分と同じくらいの背丈である涼を軽々と背負う男は細い痩せ型にはとても見えない。

 

「良い場所……? 病院じゃないんですか?」

 

「彼を普通の医療機関に連れて行っても全く……とまでは言わないけど、まあそんなに意味はないだろうね。ここから目を覚ますまでには変身の反動が治るのを待つしかない。それに、身体を調べられて一番困るのは彼自身じゃないかな」

 

「っ……確かに、そうかもしれません」

 

 見ず知らずの自分を助けてくれたライダーをさらなる厄介ごとに放り込む訳にもいくまい。

 少し冷静になればわかりそうなものを、と瑠美は反省した。

 

(言ってることはまともだが……俺を見て驚かないことといい、信用し過ぎるのも危険だな)

 

 男の言い分にはレイキバットも反論はないが、目の前の状況に一杯一杯の瑠美に代わってどう見ても怪しいこの男に警戒の眼を光らせることは決して忘れてはいない。

 

 そしてその男ーーー海東大樹は自身に突き刺さる警戒の念に臆するどころか、心地好さそうに笑みを深めた。

 

 

 *

 

 

 小さく、そして埃っぽい廃工場の一角に涼は横たわっていた。

 体調不良の人間が身を休めるには不適切としか言いようのない環境に置いてしまったことを憂い、せめて少しでも楽になるようにと作業をする者がいる。

 

「タオルは冷やして、飲み物はいつでも飲めるようにして……」

 

 大急ぎで買い集めたタオルや、飲料水などを使った看病の準備を迅速に行う瑠美。

 先ほどの慌てようが嘘のような要領の良さは大したものだ、と大樹は内心呟くが、微塵の興味も湧いてこない。

 この人気が一切ない寂れた廃工場まで涼を運んだまではいいが、その後の看病を手伝う気もなく、ただ退屈そうに瑠美を見守るだけ。

 

(初対面相手にここまで一生懸命になれるとは、見上げた精神だね。僕としてもその方が都合がいい)

 

 この海東大樹という男は世界に眠る「お宝」のためならば、手段は選ばない。味方と認めた仲間ならいざ知らず、誰も彼もを助けるために奔走するような性格でないことは確かである。ギルス、葦原涼と瑠美に手を貸したのだって彼なりの目論見があってのこと。この場所に連れて来た時点で彼の目的は達成されている。

 しかし、常に打算的な考えで動いているとも言えず、「別に看病を手伝ってやってもいいか」という風に気まぐれ程度には思っていた。

 

「そうおっかない顔で睨まないでくれ。僕は君達に害を与えるつもりはない」

 

 こちらを未だに睨み続ける白い蝙蝠の相手をする方が大樹にとっては楽しめそうだとも思っていた。

 そんなレイキバットだって傍で程良く調整した冷気の息をタオルに吹きかけているのだから、お笑い種だ。

 

「口ではなんとでも言えるがよ、そうやって油断したところを狙う腹積もりなんじゃねえのか?」

 

「フフッーーーあいや、失礼。君ごときが警戒したところで僕には脅威にも何にもならないからね。思わず笑ってしまったよ。許してくれたまえ」

 

「ぁあぁん!? 貴様、凍らされてぇのか!?」

 

「だからその怖い顔はやめた方がいいって。あんまり下品だと、青空の会の名が泣くよ?」

 

「ッ!?………チッ」

 

 レイキバットが青空の会で作られたことも、本来なら「3WA」という組織で開発されていたことも大樹は知っている。

 数々の世界を巡ってきた大樹には膨大な量の知識があり、それだけで情報のアドバンテージがあった。

 自身の出生をあっさりと言い当てられたレイキバットはより一層警戒心を深めると同時に口をつぐんでしまい、勝利した舌戦はやや物足りない結果といったところか。

 

 如何に高度なAIを搭載されていようと所詮は掌サイズの機械。大樹の相手には不足であった。

 

「まあ、本命のお喋りは後にとっておくとしよう。君達も精々頑張りたまえ」

 

 まるで励ましの篭っていない手の一振りだけ残し、呼び止める声にも応じずに大樹はその場を去る。

 

 状況は彼にとって極めて都合の良い流れを成し初めていた。

 

 

 *

 

 

 大樹が去った後も瑠美は看病を続けていた。

 太陽が沈み、夜が更けても涼が目を覚ますことはなく、瑠美もまた写真館には帰宅していない。

 大地やガイドに心配させてしまうのは心苦しく、そんな自分が嫌になる。

 

「俺が瑠美の元を離れるわけにもいかん。あの変態ストーカーがまた来るとも限らんからな」

 

「それもそうですね……はぁ」

 

 もうどうしようもないと諦める他ない。

 たかが一日だけの音信不通と思っても、あの心優しい恩人は心配してくれるだろう。その光景が容易に想像できてしまうからこそ、瑠美の心のささくれがチクチクと胸を刺す。

 

 自身を傷付ける終わりの見えない責め苦がどれほど続いたことだろうか。気付けば夜が明けて、割れた窓の隙間から一際強く、暖かい陽の光が廃工場を照らす。

 それから数分も経たぬ間に汗粒を乗せた涼の瞼が開かれた。

 

「ーーーッッ!! はぁ!はぁ……」

 

 突然覚醒した意識に身体が付いてこないのか、涼は苦しげに呼吸を荒げるばかり。

 あいにく医学方面に精通もしていない瑠美には彼の身体をさすって、回復するのを待つしかない。

 やがて呼吸も落ち着き、ようやく身体を起こすことができた。

 

「目が覚めましたか? はい、お水です」

 

 瑠美は飲みやすいようにストローを刺したペットボトルを差し出す。(レイキバットのおかげで適度に冷やされている)

 引ったくるようにして取られたペットボトルの中身は見る見る間に減っていき、あっという間に底をついてしまった。

 あんなに汗をかいていたのだから、さぞ喉が渇いていたのだろうが、そんなに一気に飲み干しては腹を下さないだろうか? 瑠美はちょっぴり不安に思ったが、一応お代わりの水を差し出してみる。

 

「いや、もういい。大丈夫だ」

 

 今度はやんわりと断られた。意識もだいぶはっきりしてきたようだ。

 

「じゃあお腹は空いてないですか? 色々なおにぎりがあるんで好きな具材を……って、それよりも身体の汗を拭きたいですよね。ここに濡れタオルが」

 

「そうじゃない……世話になったことには感謝する。じゃあな」

 

 そう言うや否や立ち上がり、去ろうとする涼。

 だが身体の内側から蝕む痛みがそれを許しはしない。少し脚を動かしただけで、顔をしかめてうずくまってしまう。

 長年積もった土埃で汚れた床にくっきりと手形を残す涼の手は変身する前とは比べものにならないほど老化してしまっている。そんな風に変わり果ててゆく自身の身体を見るのが嫌で、なんとか立ち上がろうと上を仰ぎ見れば、そこには心配そうに見つめてくる女。

 

(こんな目で見られるのは、いつ以来だろうな)

 

 何故だかそれがとても懐かしくて、そこでふと思いついた疑問を口にする。

 

「あんた、どうして逃げなかった。俺が変わるところは見ただろう」

 

「へ? ……そうでしたね。ごめんなさい、あの場にいたら私邪魔でしたよね」

 

「違う」

 

 涼が言わんとするところが、瑠美にはイマイチ理解できていない。

 調子の狂う女だ、と軽く溜息が漏れた。

 

「俺のあの姿を見て、なんとも思わなかったのか? 今だってこんな調子だ。怯えて逃げ去るのが普通だろ」

 

「えぇ……? いや、私はああいうの少しだけ見慣れてますし、助けてくれた人を放っておくことなんてできませんよ」

 

「ーーーあんた、変わった奴だな」

 

 涼の口角がほんの少しだけ吊り上がり、それに伴って声の調子も柔らかくなった。(あくまで瑠美の主観である)

 むしろこんな汚い場所に寝かされていたのだから、文句の一つでも言われるのだと瑠美は予想していたのだがら、涼の反応もまた彼女には不思議に見える。

 

 涼がきちんと動けるようになり、置き去りになっていたバイクを回収しに行った頃にはすでに正午を迎えようとしていた。

 涼が住むアパートにまで着いてくる瑠美とレイキバット(涼から見てもかなり奇怪な存在ではあるものの、特に害はなさそうなので気にしていない)には流石に困惑したが、それを言葉に出すこともしない。

 

 そして例え何か言われても、瑠美は涼から離れるつもりは毛頭なかった。言うなれば、ようやく見つけた手掛かりなのだから。

 

(葦原涼さん……仮面ライダーギルス。この人について調べれば、何か大地さんの助けになる手掛かりになるかもしれません)

 

 かなり後になって、瑠美はこの時一旦写真館に帰るべきだったと後悔する羽目になる。

 大地の助けになればと思って集中するあまり、その行動が結果的に彼の不安を買ってしまっていることに瑠美はまだ気付いていなかった。

 

 

 *

 

 

 少し時は巻き戻って。

 瑠美達が廃工場で一夜を過ごしていたとは露ほども知らず、史上最大規模に慌てふためく大地の姿が夜の街にあった。

 

 あてもなく彷徨うのは慣れっこだと思っていた。

 

 しかしこんなにも焦燥感に駆られながら走るのはまるで違う。何度経験したところで、大地が慣れることは決してないだろう。

 

「瑠美さん、レイキバットさん……どこに行っちゃったんだ…!」

 

 大地は光写真館を飛び出して、あちこちの暗い夜道を駆け抜けていた。

 息を切らせて、暗闇に目を凝らしてはすれ違う人の顔を凝視する度に落胆する。

 

 氷川誠と名乗った刑事から詳しい話を聞かせてもらいたいと頼まれ、大地もその頼みを快諾した。

 しかし、瑠美とレイキバットを置いてきてしまったので、また翌日に時間を設けるということにしてもらい、氷川の連絡先だけ頂戴してその場で別れた。

 

 問題が起こったのはそれからだ。

 

 瑠美達と別れた場所に戻っても、そこにいるのは事態の収拾にあたる警官達のみ。あの銀色の戦士はおろか、瑠美もレイキバットもいない。

 最初は先に写真館に帰っただけなのだと楽観視してしまい、のんびりと帰宅したのだが、思い直せばその時点で大地がどれだけ危機感に欠けていたのかがわかる。

 

 ビジターである怪人、それを召喚する元ダークディケイドのドウマ。警戒すべき理由はいくら挙げてもきりがない。

 写真館にてガイドから未だに瑠美達が帰っていないこと、そして何の連絡もないことーーーこれは由々しき事態だ。

 

 街はずれにある港の近くにまで来て足を止めたところで、今まで無視して来た疲れがドッと押し寄せてきて息を切らせた。写真館を出てから一切の休みなく走り続けたそのスタミナはかなり驚異的であったのだが、あいにく大地は気付かない。

 

「どこに行っちゃったんだ……くっ、やっぱり離れるべきじゃなかったんだ!」

 

 それからさらに数時間は彷徨い続けたが、探し人は一向に見つからない。まさかあの後に仮面ライダーと遭遇して、今は廃工場でつきっきりで看病しているとは知る由もない。

 いくら探しても足跡一つ見当たらず、結局は来た道をなるべく別のルートを辿って戻ることになった。諦め半分、入れ違いで帰っているという期待半分で、だ。

 

(レイキバットさんが付いているとはいえ、もし本当にドウマの仕業だったら……せめてダークディケイドライバーが使えれば探し出すこともできたかもしれないのに)

 

 無い物ねだりをしていても仕方がない。ここはレイキバットを信じて、ガイドから提案を仰ぐ他あるまい。

 大地がそう考えて写真館の扉に向かおうとしたところで、ふと明かりが漏れる窓を一瞥する。

 

 そこには二人分の影が映っていた。

 

「! 帰ってきた!」

 

 片方はガイドだとして、もう片方は間違いなく瑠美だ。

 一応客という可能性もあるが、なにせ「写真館」と宣いながら、今まで客が訪れたことも、その形跡だってありはしなかったほどだ。今回に限ってただの客だなんて不幸があるはずがーーー。

 

「おかえーーーぇえ〜……」

 

「おう、おかえり」

 

 大地が浮かべていた安堵の笑みが、扉を開けた途端に落胆に変わる。

 初対面の相手に見せる表情としては不適切に思えるかもしれないが、そこに座っていたのが待ち望んだ女性ではなく、足を組んでコーヒーを啜る男だったら誰だってそうなる。

 それでも一瞬で笑顔を作って挨拶しようとする大地は案外客商売に向いているのかもしれない。

 

「あ、いらっしゃいませ〜。すいません、知人と勘違いしてしまって」

 

「その安っぽい作り笑いはやめたまえ。見てて寒気がしてくる」

 

 残念、不評らしい。しかし、いくら客といえどその態度はいかがなものかと思ってしまう。

 大地の顔に貼り付いていた笑顔がちょこっと険しくなる。それと対照的に、男が愉快そうに笑う。

 

「うん、そういう表情の方が似合っているよ。今後も精進するといい」

 

「はい……?」

 

 今度は褒められたので、いよいよ困惑が極まってきた。

 というか、そもそもこの男は本当に「写真館」の客なのかと今更思う大地。テーブルには男が食したと思われる料理の皿があるし、ガイドとも親しげに談笑している。正直大地や瑠美よりもここの住人としてしっくりくるのは何故だろうか。

 

「ーーーま、そういうわけで僕は戦隊とライダーの頂点に立ったというわけだ。あの時の茶番は今思い出しても腹ただしい限りだよ」

 

「いやぁ〜、それで頂点ってのは無理がないかねぇ。君が癇癪起こしたようにしか聞こえないんだけど」

 

「さてね、どうだか。それに僕がその気になればヒーロー諸君は簡単に出し抜けるというのに、油断しきっていた彼らにも問題はあるよ。全く、()()()も脇が甘いよねぇ」

 

 

「………えっと」

 

 大地を置いてけぼりにして会話を弾まれて、下手したら存在を忘れられてないか不安になってくる。

 霞むような声を上げてようやく、というよりもわざとらしく「そういえば君もいたねぇ、忘れていたよ」みたいな顔で男は大地に向き直った。

 

「おや、何か質問でもあるのかい?」

 

「お客さんって感じじゃなさそうですけど、もしかしてガイドの友人だったりしますか?」

 

「友人? まさか、僕は海東大樹、通りすがりの仮面ライダーさ。覚えておきたまえ。じゃ、中々イケるディナーもいただいたことだし、僕はそろそろお暇させてもらうよ。ご馳走さま」

 

「は?」

 

 何か今、聞き捨てならないとんでもないことを言った気がする。

 彼の言葉を脳内で反芻して思わず硬直してしまっている大地の横をすり抜けて、大樹と名乗った男は出口に歩を進めている。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! つまり貴方がこの世界のライダーってことなんですか!?」

 

「僕をあんなのと一緒にしないで欲しいな。まあ、君みたいな紛い物、憐れな実験動物よりかはマシだろうけどね」

 

「……え? え?」

 

「それと、君が探している娘ーーー瑠美って言ったっけ? 彼女は無事だよ。この世界のライダーと行動していれば、すぐに見つかるんじゃないかな」

 

 男から与えられた情報量の多さに、処理が追いつかない。

 混乱の極地に立たされた大地に嫌な感じの笑みだけ見せて、大樹は写真館を出て行った。慌てて追い掛けても、もう周囲に人影はない。

 

「海東大樹、通りすがりの仮面ライダー……」

 

 その名を口にしてみても、意味はさっぱりわからない。通りすがりの仮面ライダーとは一体どういうことか。この世界のライダーではないとは、つまり彼も「ビジター」の類なのか。

 説明されたようで、余計にわからなくなる。大樹との数分にも満たない会話は大地の疲労をさらに深めた気がした。

 

 前に知った「煙に巻かれる」という表現は今の自分のことを言うのだろうな、と妙なところで納得しながら、大地は肩をガックシと落として写真館へと踵を返したのだった。

 

 

 海東大樹、仮面ライダーディエンドとの邂逅は実に奇妙な形で迎えた。

 次に出会う時、それが苛烈な戦いの中であることを大地はまだ知らない。

 

 





アンチヘイト要素=ヒーロー大戦dis
スーパーヒーロー大戦を観たことない人は……別に観なくても大丈夫です。

はい、今回の世界は瑠美と葦原さんペア、大地と氷川さんペアの同時進行となります。あれ、北條さんは……?

質問、感想はいつでもお待ちしております。
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