仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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先週分です。大幅な遅刻、申し訳ありませんでした。これからは二週間に1話のペースになるやもしれません。


凍拳の野獣

 

 

「駄目だったみたいですね。その記録というのは」

 

「ええ、やっぱりライダーとして活動していないと記録にはならないようです」

 

 G3システム一式が収納されていた格納庫からの帰り道で、大地が取り出した「カメンライド G3」のカードは相変わらずブランク状態のままであった。

 そこまで期待していなかったとはいえ、この世界のライダーが判明したぐらいしか収穫がないとなると気落ちもしてしまう。

 

「大地くんはこれからどうするつもり? 流石にG3を動かすのは私の独断じゃ無理よ」

 

「うーん……一応あの北條さんを記録してみようかと思ってます。カードになれば戦力にはなるので」

 

 記録する、とは簡単に言っているが、どういう条件でカードになるのかは未だに大地にもよくわかっていない。

 メイジやレイは自分自身が変身したから、で説明はつくけれど、他のライダーはいつの間にかカードに記録されたとしか言いようがないのだ。特にリヴォルのカードなんて何故手に入ったのか、皆目見当もつかない。

 

「やめておいた方がいいわよ。話を聞く限りだと、貴方がこれまで見てきたライダーはどれも私達の世界と比べて、技術的に大きな差があるもの。開発者として認めるのは悔しいけど、G3もV2も貴方にとっては大した戦力にならないと思っていい」

 

「小沢さん、何もそこまで言わなくても」

 

「実際に戦ってるところを見た氷川くんならより実感できてるんじゃない? 元装着員の貴方から見て、大地くんはG3より弱いと思う?」

 

「それは………! そうは思いませんが……」

 

 不思議な世界だと大地は思う。

 イクサ、マッハも人間が作り上げたライダーではあったが、魔法を使いこなすビースト、肉体を変化させた威吹鬼と遜色ない性能を誇っていた。

 直接戦っている光景を見てない大地には断言できずとも、製作者である小沢は大地の話だけでG3が劣っていると判断した。そんな性能だったからこそV2に席を譲る形になったのかもしれない。

 

「アンノウンに対抗するにはG3では性能が足りなかった。それは紛れも無い事実。だからこそG3を超えるG3-Xの開発が進められていたのよ」

 

「G3……X?」

 

「その強化されたG3なら貴方の見てきたライダー達にもそれなりに匹敵するんじゃないかしら。ま、どのみち試しようがないけどね」

 

 大地が所持しているカードの中でも滅多にお目にかかれない強化形態には興味があるが、小沢の言う通り見るのは難しいだろう。

 だが仕事をこなすためにはG3の記録は必要不可欠。鎧だけを見ても駄目ならアプローチを変えて中身を記録してみるというのはどうか。

 

「氷川さん。G3そのものを見ても駄目だった以上、貴方に付いていくわけにはいきませんか?」

 

「えぇっ!? 僕にですか!?」

 

「駄目元って言ったらちょっと失礼なんですが……この世界のライダーだった人と一緒にいた方が何かと都合が良さそうで」

 

「と言われましても、僕はこの後捜査もあるんですが……一般人を連れていくのは流石にどうかと」

 

「別にいいじゃない。変身できる大地くんが一緒ならアンノウンが出ても安心でしょう?」

 

 小沢の後押しも手伝って、氷川は渋々といった様子ではあるが了承してくれた。

 一応マッハの世界にて警察官との面識はあったが、捜査というものを間近で見るのは大地にとって初めての経験となる。それが良い方向に転がってくれればいいのだが。

 

(とはいえ、これで駄目だったら本当に打つ手が無くなる。良い方向に転がってくれなきゃむしろ困るんだよなぁ……瑠美さんのこともあるし)

 

 大樹の言うことを信じれば、この世界のライダーと共に行動することで瑠美達と再会できるということになる。

 この世界のライダーとは氷川のことか、北條か、それともまた別のライダーを指すのかは不明だが、今は氷川であると仮定して行動するしかなさそうだ。

 

 とりあえず氷川について行くのはまた明日から、ということになってこの場はお開きとなった。

 大地はそれから日が暮れるまで瑠美達を探してあちこちを彷徨ったが、何の手掛かりも得られずに大地の一日は終わった。

 

 

 *

 

 

 不良に間違えられてもおかしくない風貌の男が隣にいる。

 それだけならまだしも、サングラスに全身黒ずくめの男と対面しているのだから、今の瑠美は場違いもいいところだった。

 ここが喫茶店であるというのが瑠美の唯一の心の救いだ。

 

「貴方達ですか、私と話がしたいというのは」

 

「はい、俺は葦原涼。こっちはちょっとした連れです」

 

 このサングラスの怪しい男は木野薫。涼が探しているあかつき号の乗船メンバーの一人。

 しかし、なんというか、纏う雰囲気が常人のそれではない。

 一見紳士的ではあるものの、サングラスの奥に潜む眼からは覗いた者に鳥肌を立たせるような冷たさがある。

 涼もそれを察したからこそ瑠美の素性を明かさないのかもしれない。

 

「……まあいいでしょう。こんな私から何を聞きたいと?」

 

「あかつき号事件について。あの船で何があったのか、それを知りたい」

 

 あかつき号という言葉を涼が口にした時、木野の眉が微かに動いた。

 だが、それは見間違いであったと言われれば納得してしまうほどに一瞬のことで、すぐに微笑を浮かべてコーヒーを飲んでいる。

 

「なるほど。しかし、話すようなことは何もありませんよ。突然船が嵐に襲われて、勇気ある警官に救われた。ただそれだけのことです」

 

「ですが、俺の父はあの事件以来衰弱死するほどに人が変わってしまった。貴方達、あかつき号の乗船客のリストだけを残してだ! 何かがあったはずなんだ……!

 

「葦原……ああ、君は葦原和雄さんの息子でしたか。亡くなったとは、お悔やみ申し上げます。しかし、本当に何もなかったんですよ。少なくとも、わざわざ話すようなことは」

 

 木野が何かを隠していると瑠美の直感が告げている。

 それは瑠美に人を見る目が備わっているのは勿論のこと、相手側も隠し事をしていること自体は隠すつもりがないらしい。

 その上で木野は言っているのだ。「それを話すつもりはない」と。

 

 この会合の直前、涼は以前にも何人かのあかつき号乗船客から話を聞こうとしていたが、いずれの場合も怪人に殺されてしまったのだという。

 それが偶然か必然かは定かではないが、ここではいそうですかと引き下がるつもりは二人にはない。

 

「あの、ちょっといいですか? 木野さん」

 

「なんでしょう? お嬢さん、私はこう見えて多忙の身でしてね。あまり下らない用件ならご遠慮していただきたいのですが」

 

 涼に代わって瑠美が会話を続ける。

 レイキバットのおかげで馬鹿正直に話すだけではいけないとわかっている。

 

「木野さんがあかつき号のことを喋りたくないのは理解しました。だったら、私達が木野さんの望む何かをすれば話してくれませんか?」

 

「交換条件というわけですか……しかしね、そんなことを申されましても話すようなことはないし、やってもらうようなことも………いや」

 

 そこで木野の言葉は途切れる。

 何かを思案する顔で暫し考え込み、表情を変えぬまま口を開いた。

 

「いいでしょう。貴方達は私の依頼を代わりにやっていただけると言うようなお人好しのようだ。さっきも言った通り、私は多忙の身です。その依頼の報酬としてなら、それ相応のものも用意できるかもしれません」

 

「その依頼を受ければ、あかつき号について話してくれるんですか?」

 

「さて、それはわかりませんが。別にやってもらえなくても、私としては構いません。その頃には私が心変わりしているかもしれませんが」

 

 やたらと回りくどい言い方だが、要は瑠美達が木野の代わりにその依頼とやらをこなせば報酬を用意するということ。

 だが、その報酬があかつき号の話かどうかは不明である。随分と木野に都合のいい話だ。

 

「そんな不確定な要素を信じて、俺達に何をやらせようって言うんだ!?」

 

「そこまで難しいものではありません。とある人を探してもらいたい」

 

 木野が取り出したのは一人の若い男性が写った顔写真。

 イマイチ表情に覇気がない、のような見た目の情報は置いておいて、至って普通の学生のようだが、木野との接点は如何様なものか。

 

「彼の名前は真島浩二。数ヶ月前から連絡が取れなくなっています。彼の行方を調べてもらいたい」

 

「でも、私達は探偵じゃありません。名前と顔だけで探せなんて、流石に無茶だとは思いませんか? せめて行き先に心当たりとかは……」

 

「彼が失踪する直前まで、入山照という男と頻繁に連絡を取り合っていたことまではわかっています。しかしその入山は私との接触を拒んでいましてね……原因は不明ですが」

 

 入山照、というと瑠美達には聞き覚えのある名だ。

 あのおっちょこちょいな店員とチケットを取り違えたという男で、やはりあかつき号の乗船客。

 ここまで来るとあかつき号事件が何の変哲も無い海難事故であったとするには無理があり過ぎる。

 

「真島浩二……」

 

「ええ、彼もまたあかつき号の乗船客ですよ。いやはや、偶然とは恐ろしい」

 

「……ああわかった。その依頼、受けよう」

 

 半ば睨んでいるような涼の目付きにも怯むことなく、木野は不敵に笑った。

 

 

 *

 

 

 喫茶店を後にした一同。

 ここで木野と別れるのが道理であろうが、どういうわけか涼は木野から離れようとしない。

 木野も涼も互いに無言のまま、同じ道を歩み続ける。首を傾げながらも、瑠美もその後ろに続く。

 

「……葦原さん?」

 

 いくらなんでもこれは不自然ではないか。

 神妙な顔の涼にその意を込めた呼び掛けをしても、彼等はその答えを返さない。

 もう一度きちんとした問いかけを投げ掛けようとすると、瑠美のリュックに潜んでいたレイキバットが耳打ちをしてきた。

 

(瑠美、どうやらお前らは何者かに後をつけられているらようだ)

 

「えっ!?」

 

(葦原達の様子からそう推測したまでだ。俺のセンサーには一切反応がないが、葦原と木野には察知できているらしい。そういう類の者となると……もうわかるな?)

 

「避けろ!」

 

 瑠美がレイキバットの言う存在が何なのか。その答えを示す刺突がアスファルトに突き刺さった。

 そこにあるのは白い象牙を模したような槍。もしも涼が木野を突き飛ばさなければ、今頃串刺しにされていたことだろう。

 槍が刺さった場所はたちまちのうちに凍てつき、ガラス細工の如く砕け散った。

 

「後ろだ!」

 

 リュックから響く警告などなくとも、瑠美は咄嗟に振り返ることができた。

 大木から顔を覗かせるは、木野を狙って投合されたと思わしき槍と同じ牙と、長い鼻を持つ象の怪人。

 見た者が寒気を催す何らかのサイン、怪人の頭上に浮かぶ光の輪、そこから出現する先ほどと同じ槍。

 

 ここまでの行程の間に木野は立ち上がり、それを庇う形で涼は構えをとっている。だというのに瑠美はただ怯え、呆けているだけだった。

 

「ぼさっとすんな瑠美! とっとと木野を連れて逃げろ!」

 

「は、はい!!」

 

「それには及びません。早くここを離れましょう」

 

 レイキバットの怒声でようやく我に帰り、瑠美は木野を連れて離れようとするも、彼は瑠美よりも迅速に動いていた。

 むしろ瑠美の方が木野に気遣われる始末で、彼の方がよほど怪人慣れしているかのようにも見えてしまう。

 

 ーーーなどと感心してばかりいられない。今この瞬間にも迫り来る怪人が冷気を纏わせた槍を突き出してきている。

 

「この程度ッ!」

 

 レイキバットの全力で繰り出した体当たりがその矛先をずらしたことで事なきを得たが、あの槍に貫かれればあのアスファルトのように砕け散ってしまうに違いない。

 邪魔をされたことに対して、当然煩わしそうにする怪人はさらに涼のタックルに突き飛ばされた。

 象に似ているだけあって、見るからに頑丈そうなその怪人は涼のタックルでもビクともしなかったが、続けて放たれたレイキバットの氷結弾には微かに怯む。

 

「今だ! 葦原!」

 

「変身!」

 

 いくら頑丈であっても、顔面に前蹴りをのめり込まされたらひとたまりも無い。それが仮面ライダーギルスとなった涼の一撃なら尚更のこと。

 起こすのにも一苦労しそうな巨体を揺らして倒れた怪人ーーーマンモスロードを踏み付けたギルスの雄叫びが周囲に轟いた。

 

 

 *

 

 

 人間には実行不可能な犯罪を繰り返す異形の怪人、アンノウン。

 彼等は無差別に人を襲うわけではない。狙われるのは超能力者や、それに近しい人物、それらの血縁関係にある者。

 瑠美達の前に現れたこのマンモスロードもまた例外ではない。

 マンモスロードが狙うのは木野と、そしてギルスである涼だ。しかし、人間の言葉による意思疎通を行おうとしないアンノウンの行動原理など瑠美達が知るはずもない。

 人を襲う怪人が現れた。認識はそれ以上でもそれ以下でもないし、この時においては必要もなかった。

 

 そんな拳のやり取りを始めたギルスとマンモスロードの戦いに巻き込まれぬよう、瑠美はゆっくりと後退しつつ、ギルスに目を奪われている木野を横目で見やる。

 突然の襲撃に加え、木野に涼の変身とレイキバットを見られてしまった。

 これが普通の人間だったら「あの蝙蝠は何か」とか、「葦原涼とは何者なのか」などと質問を繰り返し、混乱しているはずだ。しかし、意外にも木野は突如始まってしまった異形の戦いを冷静に見物している。

 その肝の座り具合は大したものではあるものの、今すぐ逃げるべきこの場面ではむしろ事態を悪化させかねない。

 

「葦原涼……フフ、なるほど」

 

「き、木野さん!? 早く逃げてください」

 

 今度は不気味に笑い出す木野。

 何が可笑しいのかは知る由もないが、ああいった怪人に狙われる時は碌なことにならないと瑠美の経験が告げていた。

 大声で叫んでも反応が得られない。そんな他者からは呆けてしまったようにも見える木野の右腕を掴んで揺らす。

 瑠美からすればただ木野に警告しているだけであったが、返ってきた反応は実に冷たいものだった。

 

(ッッ! この目……!)

 

 瑠美が右腕を掴んだ瞬間、木野から送られた視線は不機嫌なんて言葉には収まらないほどに強烈で。

 彼の怒りすら感じさせる視線に、心臓を鷲掴みされたかのような感覚に陥った瑠美は言葉を失った。

 

 しかし、それもほんの一瞬のこと。木野はすぐに表情を少し和らげた。

 

「……これは失礼しました。お嬢さんのおっしゃるように、ここは危険なようです。すぐに逃げましょう」

 

「……いえ、逃げるのは木野さんだけです。私はここに残ります」

 

「おい瑠美」

 

 レイキバットの咎める声もあえて聞こえない振りをする。

 瑠美が残ると言うのなら自分も、というのが(実に命知らずな)紳士的な発言ではあるが、木野は余計な会話も交わすことなくさっさとその場を立ち去った。

 色々と気になる人物とはいえ、今の瑠美には雄叫びを上げながら戦うギルスの観察が最優先であり、そんな彼女を見たレイキバットも舌打ち一つで済ませてくれた。

 

「フゥン!」

 

「ウォォァアッ!?」

 

「葦原さん!?」

 

 戦闘の行方はというと、まだ始まったばかりなのにも関わらず、ギルスが劣勢に追い込まれていた。

 瑠美は戦闘に関しては素人と呼ぶのもおこがましいほどだが、そんな素人目でも今のギルスからは昨日ほどのパワフルさが感じられない。

 戦闘が始まってからまだ数分も経っていないというのに、ギルスはすでに肩で息をしている。マンモスロードの攻撃をまともに防御することも、反撃もできていない。

 

「どうしたんでしょうか、何だかすごく苦しそうですけど……」

 

「あれは少し調子が悪いなんてもんじゃないレベルで弱体化してやがる。それに角だって短い」

 

 レイキバットに言われてようやく気付いたが、今のギルスは昨日と比べて角が短くなっているという違いがあった。

 やたらと弱々しいのもそれが原因かもしれない。

 

「葦原の口ぶりだと、変身した直後はいつも倒れていると言っていたな。その疲労が回復しきっていなかったとしたら……」

 

「そんな!? このままじゃ葦原さんが負けちゃいますよ!」

 

 だが、それが判明したところでギルスを手助けできることなどできるものか。

 マンモスロードに通用すらしない攻撃を何度も繰り返すギルスも、程なくして倒れてしまうに違いない。

 仮に昨日変身していなければ、こうして劣勢になることは無かっただろう。

 つまるところ、今のギルスが苦戦している原因とはーーー。

 

「私の、所為……?」

 

 ああ、またこうなるのか。誰かを助けようとして空回りするだけなら、これまで数え切れないぐらいあった。

 大地の助けになりたくて、そのために行動したら情報を得るどころか、涼をこんな目に遭わせてしまっている。

 

 もう何もしない方がいいのではないか。せめて涼だけでも助かるよう、自分が囮になってーーー。

 

「フン、酷えツラしてるぞ瑠美。馬鹿なことを考えてるならやめておくこったな」

 

「でも、このままじゃ葦原さんがーーあ! レ、レイキバさん! この方法はどうですか!?」

 

「うん? ーーーーなるほどな。確かに手段としてはアリだ」

 

 瑠美は咄嗟に思いついた考えをそのままレイキバットに伝える。

 特に難しい話でもないはずだが、言葉とは裏腹にレイキバットはかなり渋っている様子だ。

 だが、ここで無駄にできる時間は一秒たりとも存在しない。すぐに己の中で妥協を決めた。

 

「仕方ない。最後の手段だ」

 

 そう言うやいなや、レイキバットは勢い良く飛翔した。

 連続で氷結弾を乱射し、ギルスの首を締め上げられていたマンモスロードを怯ませる。

 そのお陰でギルスは辛うじて敵の腕から逃れることができたが、すでに戦闘を続行するだけの気力はないようで、膝を折って倒れてしまった。

 そんな涼を仕留めようとするマンモスロードの顔面目掛けて、果敢に体当たりを敢行して翻弄しつつ、レイキバットは叫んだ。

 

「起きろ葦原! 俺が助けてやったんだから、ここで倒れるだなんて許さんぞ!」

 

「くっ……いいから、早くあいつを連れて……」

 

「逃げろってか!? どいつもこいつも同じことばっか言いやがって! いいか葦原、あの怪人を倒す気がまだあるなら手を貸してやる!」

 

「何……!?」

 

「とっとと答えろ! 俺の力を使うか、それともここで仲良く御陀仏といくか!?」

 

 一方的に捲し立てられて、意味がわからない二択を押し付けられる。

 まともに会話を交わしたこともない奇妙な蝙蝠の言うことなど眉唾ものではあるが、今は時間がない。

 考えるよりも先に、涼は力強く頷いた。

 

「よぉし! 期間限定タッグの結成だ! なるべくサポートはしてやるよ! そぉら!」

 

 邪魔な小蝿を叩き落とすがごとく振るわれる槍を紙一重で回避し、レイキバットはそのまま涼の手元に着地した。

 するとその腰に突如として黒いベルトが出現し、涼を困惑させる。

 

「お、おい!?」

 

「黙れ! さあ行こうか、華麗に! 激しく! 変身!」

 

 レイキバットが自力でベルトのバックルに収まり、涼の周囲を吹雪が包み込む。全く寒さを感じないことに違和感を感じる間も無く、変身は完了した。

 生物的な質感溢れるギルスとは全く異なる、白い鎧と黒いスーツの戦士ーーー仮面ライダーレイへと。

 

「これは……!」

 

「その姿なら少しはマシに戦えるはずだ! この俺の出血大サービス、無駄にするなよ!」

 

「……ああ!」

 

 ギルスの変身が涼に負担をかけてまともに戦えないのならば、ギルス以外に変身すればいい。それは普段から複数の変身手段を使う大地を見てきた瑠美だからこそ思い付けた手段と言えるだろう。

 

 そして涼の躊躇いは一瞬。要は戦えばいいのだ、と涼はーーー否、レイは再び気力を漲らせた。

 

「ゥヴォアアアアーッ!!」

 

「良い激しさだ! さあ行くぞ、葦原!」

 

 鎧の重みで多少の違和感はあるものの、さして問題はない。雄叫び上げて、レイはマンモスロードと対峙する。

 

 先手を打ったのはマンモスロード。槍を持つぶん、リーチは敵の方に分があった。

 しかし、リーチで負けていようと、レイのスペックと涼の戦闘経験を組み合わせれば対処は容易である。

 胸を狙った鋭い突きを難なく掴み取り、槍を引っ張ることでマンモスロードごと引き寄せようとする。

 

(重いッ!?)

 

 だが、敵の重量も侮れない。レイの力を以ってしても、マンモスロードはビクともしない。ならばと、レイは矛先を引っ張る力をさらに強める。

 ギルスとして戦っている時も強引な力比べでは負けることなど殆ど無かった故に、こうした手段に出た訳なのだが、今回のマンモスロードが相手では少々分が悪い。逆にマンモスロードがレイを引き寄せ始める始末だ。

 

 そしてこんな時こそ、自身が出張るタイミングであることを熟知している小さな戦士がいる。

 

「任せろ、ガブリ!」

 

 レイキバットはレイのベルトから瞬時に飛び出し、マンモスロードの槍を持つ手に噛み付いた。

 いくらレイキバットの牙が頑丈と言っても、マンモスロードの強固な皮膚を貫くことは叶わなかったが、それでも槍を手放してしまうほどの痛みを与えることには成功した。

 

「グアァッ!?」

 

「ざまあみろ!」

 

 持ち主の手から離れた槍はレイに奪い取られ、その矛先は主人へと向けられる。

 自慢の武器を奪われたマンモスロードは流石に動揺した様子を見せ、そこへすかさずレイが突撃する。

 長物という扱った経験の無い武器でありながら、マンモスロードが回避に専念せざるを得ないほどに激しい刺突を繰り出せるのは、ひとえに涼本人のセンスが優れているからに他ならない。

 

 巨体であるが故に、マンモスロードがいつまでも回避できるはずもなく、レイの繰り出す刺突が次第にその身体へと刺さり始めた。

 

(凄い……! 槍をあんなに素早く扱うなんて、これならあの怪人も……)

 

 瑠美の期待とは裏腹に、レイが掌握しつつあった戦闘の流れはまたもや一変することとなる。

 

「ムゥン!」

 

 マンモスロードの大きな頭部を貫こうとした槍の一撃は、レイの意思とは関係なくピタリと止まる。マンモスロードの腕が止めたわけでもない。

 念力でも使われたのかと思いきや、実際はもっと簡単なーー物理的に止められたのだ。

 

 その長い鼻を伸ばしたことで、槍の矛先を絡め取ることによって。

 

「は、鼻が伸びただと!?」

 

「あの鼻って武器なんですか……!?」

 

 マンモスロードの反撃は止まらない。

 その巨大な牙もまた単なる飾りに非ず。ミサイルのように射出され、直撃したレイを勢い良く跳ね飛ばしたのだ。

 レイが悲痛な叫びを上げて吹っ飛ばされ、持っていた槍もマンモスロードの鼻で器用に奪い取られてしまった。

 これにて形成は再び逆転し、慣れないレイの鎧を扱う涼の勝利はますます遠のいていく。

 

 せめてこちらにも使い慣れた武器ーーー爪か、鞭でもあれば。

 

 そんな涼の考えを読み取ったのか定かではないが、レイが立ち上がった時にはすでにレイキバットの口にはフエッスルが噛まれていた。

 

「ウェイクアップ!」

 

 両腕の鎖が解放され、巨大な爪がレイに装備される。

 涼が望んだ形とは少々異なるが、槍よりは数倍マシなのは間違いなく、覚える違和感を払拭するかのごとく腕を振り上げて叫ぶレイ。

 先ほどの槍よりもさらに素早く、正確に振るわれたギガンティッククローは再び放たれたマンモスロードの牙ミサイルを木っ端微塵に粉砕した。

 見れば牙を失ったはずのマンモスロードの口元には瞬時に新しい牙が生えており、何の冗談かと目を疑いかけるも、そんなこともお構いなしに牙ミサイルの追撃は続く。

 

「チィィッ! こっちにも何かないのか! 銃とか!」

 

「無い!」

 

 イクサの後継機のくせして、まともな遠距離攻撃がない理不尽さにはレイキバット本人が最も疑問に思っている。

 

「だったら突撃するしかないな……!」

 

「その前にこれでも食らわせておけ!」

 

 通算五発目の牙ミサイルを砕いた直後、レイの両肩にあるブロウニングショルダーがレイキバットの指令に応じて伸縮し、ちょうど新たな牙を生やそうとしていたマンモスロードの口内に突き刺さった。

 

「ギャァァァッ!?」

 

「よし、これでフィニッシュだ!」

 

「ウォォァァーッ!!」

 

 激痛に悶えるマンモスロード目掛けて、ひと飛びで一気に接近するレイ。

 敵は慌てて伸ばした鼻で下から迎撃しようとするが、その行動すら読んでいたかのようにレイは予め右脚を振り上げていた。

 鞭のようにしなる鼻がレイを叩き落とすよりも先に、レイの踵落としが思い切り鼻を踏み付ける。

 これもやはり痛いのか、マンモスロードから絶叫が洩れているが、それでもなお槍は突き出してくる。

 

 だが、口内を刺され、鼻を踏み躙られた状態で放った一撃などギガンティッククローの一振りで呆気なく弾かれてしまう。

 

「隙あり!」

 

 マンモスロードの手元を狙った氷結弾によってまたもや槍は持ち主の手から離れた。

 

 これでマンモスロードは牙、鼻、槍と三つの武器を失ったことになる。目の前で構えるレイの巨大な爪には、マンモスロードすら凍てつかせるであろう圧倒的な冷気が集約していた。

 

「ウォォオオーッ!!!」

 

 レイの必殺技、ブリザードクロー・エクスキュージョンは最後の悪足掻きとして迫るマンモスロードの剛腕によるパンチごと全身凍らせ、氷のオブジェとなって粉々に砕け散る。

 断末魔も上げず、代わりに白い輪っかが浮かんだことで、かつてマンモスロードであった氷の破片は跡形もなく爆発四散するのであった。

 

 

 *

 

 

 戦いは誰がどう見ても仮面ライダーレイの完全勝利に終わった。

 変身を解いた涼に感謝と労わり、そして見てるだけだった罪悪感から来る謝罪の言葉を述べるため、瑠美は駆け寄る。

 

「や、やった……! やりましたね! あしは……ら……?」

 

 その瞬間、涼の身体は地面に崩れ落ちた。

 それは支えを失ったかのように、という表現がこれ以上無いくらいに適切な表現だ。何せ涼は戦いで張り詰めていた気力という支えを本当に失った状態になってしまっているのだから。

 

「葦原さん!? そんな、レイでも駄目だったんですか!?」

 

「……ちょっと違うな。レイの鎧による負担と、短時間だけのギルスへの変身ーーそれらが3対7くらいの割合で極度の疲労をもたらした原因になってる」

 

 そう答えるレイキバットはどこか沈んだ物言いであった。

 それは「レイの鎧」が少なからず装着者に害をもたらした結果に多少なりとも感じるところがあるのかもしれない。

 そんなレイキバットを見て、思わず非難するような言い方になってしまった自身を瑠美は恥じた。そもそもレイに変身する提案をしたのは自分なのだ。戦闘のフォローまでしてくれたレイキバットと何もできなかった瑠美ーーどちらが非難されるべきかは言うまでもない。

 

「とりあえずまた何処かに運ぶぞ。まあしばらくすればまた回復するはずだ。だからそう気に病むな」

 

「……はい」

 

 こんな小さな身体で立派に気遣いもできるし、瑠美の何倍も人の役に立つ。

 幼い頃に両親から授かり、自分がやるべき「人助け」は全てレイキバットがいれば事足りてしまう。

 人を助けられない自分に何の価値があるというのだ?

 

 だが、レイキバットは瑠美が思うほど万能ではない。

 静かに崩壊し始めた瑠美のアイデンティティー、揺らぎ始める精神を敏感に感じ取り、慰めることが彼にはできないのだから……。

 

 

 *

 

 

 某所。深夜。

 

 そこは真っ暗な部屋で、明かりの一つも点けられていない。

 

 そこに立っているのが入山照だと辛うじてわかるのは、部屋を薄く照らしている幻想的な青白い光のおかげである。

 そんな光が照らす入山の表情は相変わらず何かに怯えているかのようだ。この部屋には彼以外の人間はいないというのに。

 

「わ、私はい、嫌だ……あいつらに、あんな……や、奴らに……!」

 

 入山は脂汗を垂らし、歯をガチガチと鳴らせている。

 ふうふうと何とか呼吸を整えようとしても、それを上回る震えのせいで今の彼は過呼吸に近い状態になりかけていた。

 おぼつかない指先で錠剤を取り出し、何粒も地面に落としながら、やっとのことでそれを吞み下す。

 すると先ほどまでの様子が嘘のように落ち着き、自身を照らすそのら幻想的な光をーーーその出所である何かを視界に収めた途端、染み付いていた怯えは完全に鳴りを潜めた。

 

 それは怯えを塗り潰す喜び、狂気、崇拝。

 そして今の入山の目は氷川と接している時に似ていた。

 だが、その視界にあるものは当然氷川などではない。

 

「ああ……ずっと私を守ってくれーーー

 

 

 ーーーアギト……」

 

 






木野薫

あかつき号の乗船客であり、優秀な医者。
瑠美が触れた右腕はかつて雪山での遭難事故で亡くなった弟の腕が移植されている。そのため医師免許を剥奪されているが、今も闇医者として数々のオペを行なっている。
涼の達に捜索を依頼した真島浩二からはかなり慕われていたようだが……?


真島浩二

同じくあかつき号の乗船客。16歳。
船に乗った当時はやんちゃ坊主といった風体であったが、そこで木野と出会ってからは多少まともになっていた。多くの人々を救う木野に憧れている。
だが現在は失踪中。入山とは何らかの関係があるようだ。


マンモスロード

伸縮自在の鼻、何度も射出可能な牙、巨大な槍と多彩な武器を持つマンマス型アンノウン。
槍の矛先に冷気を纏わせ、それで刺した対象を凍死させる不可能犯罪を起こす。
木野薫を狙っていたが、遭遇した相手が悪かった。



マンモスロードはオリジナル怪人です。木野さんのことがもっと知りたい人はアギト本編を見よう!
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