定期投稿すら難しくなる無能です
寒い。
目を覚ました涼が一番初めに思ったことがそれだった。
「どうやらくたばってはいなかったな。あれで死なれちゃ俺の面目丸つぶれなんだが」
「お前……たしか、レイキバットだったか」
涼が感じた冷たさの正体はレイキバットが口から吹いている冷気だったようだ。変身の後遺症で起こった高熱を和らげようとしてくれたのはわかるが、本音を言えばもう少し加減してほしい。しかし、力を貸してもらい、何度もフォローしてもらった相手に言えることではないので、涼は黙ったままにしておいた。
本来の変身を行なった時間は極めて短かったおかげか、身体はほとんど回復していた。立ち上がって自身の状態を確認した涼は、そこで初めてここが自分の部屋であることを知る。
「ここは俺の部屋か? お前が運んでくれたのか?」
「瑠美と二人掛かりでな。どうせ詳しい検査は受けられないんだろう? かなり苦労させられたんだ。その服のことは大目に見ろ」
レイキバットが指しているのは涼の衣服らしい。言われて気付いたが、かなりボロボロに傷んでしまっている。倒れた場所からこの部屋まで運んで来るのにこんな小さい蝙蝠と、女性一人だけとは想像するだけで汗が出てきそうだ。
「それと、タクシー代は後で請求するからな」
「タクシー?」
「当然だろう? 俺と瑠美だけでお前みたいな野郎をあの距離は運べん。バイクで出かけなかっただけ幸運に思え」
そこまで言うほどの距離を移動したタクシー代など、お世辞にも裕福とは言えない涼には中々痛い出費になることは間違いない。だが、助けてもらったことを考えれば安いものだ。
「それで、その花崎はどこだ」
「フン、瑠美なら今朝から探偵ごっこに励んでいるぞ。入山という男を調べるとか言っていたな」
入山照ーーー涼が木野から話を聞き出すための手掛かりとなる男の名前。だが、それはあくまで涼がやるべきことであって、瑠美が率先してやるべきものじゃない。
僅かな交流だけでも彼女が悪い人間でないことは理解している。詳しい目的は未だに明かしていないが、涼を利用しようと目論んでいる気配もない。
ならばどうして彼女は涼の手伝いまでしようとしているのか。
「なあ、なんであいつはそこまでする? 俺の観察をすることと、何か関係があるのか?」
「厳密に言えば関係はあるだろうが……その理由のあるなしに関係なく、瑠美はお前を手伝おうとするだろうな。どうしてそこまで拘るのか、理解に苦しむ」
「そう言いつつ、花崎に付き添うお前も変わり者じゃないのか」
「変わり者なのはお互い様だろう? 俺が観測してきたライダー達の例に漏れず、お前も相当変な奴だ」
こんな顔面蝙蝠に言われる筋合いだけは無い、と涼は思った。
だが、そんな悪態を吐く存在でも不思議と涼はこの蝙蝠を嫌いになれなかった。
*
警視庁、とある会議室。
今ここで行われているのは、連日発生している不可能犯罪への対策会議。特にここ最近では複数のアンノウンが昼夜を問わず暗躍しており、この対策会議の雰囲気もかなりピリついている。
「つい2時間ほど前、永田町1丁目の公園付近で土の中から30代男性の遺体が発見された。被害者の名前はーーー」
「今回の被害者もまた殺害方法が異なり、以前の被害者との血縁関係も無いことから別のアンノウンによる犯行と考えられておりーーー」
(また警視庁の近辺での犯行か……。アンノウンの活動頻度が増してることといい、敵の狙いは一体なんなんだ?)
警視庁の近辺で犯行をするということは、アンノウンがそれだけ警察を甘く見ているということになる。刑事達がピリついた空気を醸し出すのも無理はなく、事件の概要を説明する幹部達もまた例外ではない。
その刑事達には氷川も含まれていたが、周囲の同僚達に比べてその顔は苛立ちや憤りというよりも、疑問に満ちていた。
(これまでのアンノウンは超能力者と、その血縁関係者を狙っていた……。それがつい1ヶ月ほど前から出現頻度が増して、狙う対象もバラバラになった。しかも犯行は警視庁付近で起こるものばかりだ)
警視庁から近ければ近いほど、それだけ警官に妨害される確率が高いばかりか、V2システムの到着だって早い。
異常発生してきたアンノウンは全てV2システムによって撃破されているし、敵だってV2システムが自分達に匹敵するとは理解しているはずだ。それにも関わらず、何故アンノウンは警視庁近辺での犯行を続けるというのか?
(このままじゃ被害者は増える一方だ。せめて敵の狙いだけでもわかれば……)
これは自分がG3の装着員から外れてから間を置かずに起こり始めた事件だ。もし自分がG3の装着員のままだったら、さらなる被害者を生み出していた可能性はある。北條との仲は良好とは言い難いが、彼とV2の働きには氷川は素直に認めていた。
アンノウンと対等に渡りあえずとも、氷川には刑事として彼をサポートするつもりであった。
*
意気込みは十分であっても、結果が伴うとは限らない。
被害者からの聞き込み、目撃情報の整理、血縁関係の調査。どれも目新しい発見には繋がらなかった。
連日大勢の刑事が捜査を重ねているのだ。そう簡単に手掛かりが見つかるはずがないとは氷川もわかっている。
次に狙われる対象を絞り込もうにも、それに当てはまると思われる人物があまりにも曖昧過ぎる。
氷川の見立てだと、これまでのアンノウンは超能力者もしくはその血縁関係者を狙っていた。しかし、今回の異常発生しているアンノウンは超能力者であるということ以外、全く関係性がない。そのどれもが警視庁近辺での犯行なのも不可解である。
「………僕、怪人の被害者からちゃんと話を聞いたことはほとんどありませんでした。こんなにも……やるせないものなんですね」
「大地さん……」
今回の捜査では前日に約束した通り、氷川は大地を伴っていた。しかし、その表情はとても暗い。
異世界を巡ってきた仮面ライダーだという大地ならば刑事とは違った観点から手掛かりを発見できるのでは、という淡い期待もあったのだが、アンノウンへの恐怖に憔悴した被害者を見るのは思いの外堪えてしまったようだ。
その感情は氷川にとって慣れたものでも無く、むしろいつも感じている。刑事としてそれを表に出さないだけだ。
「突然わけもわからず殺されて、助かったとしてもまた狙われるかもしれない……たとえ怪人を倒しても、ダークディケイドではあの怯えを消し去ることはできないかもしれません。どのライダーの力を使ったとしても」
「それは僕も同じです。それどころか、G3の装着員であった頃から、僕には守れなかった人が大勢いた。だけど、僕はG3であろうと、刑事であろうと誰かを守ることに限界を設けたくはありません」
何度アンノウンに打ちのめされようと、どんなに絶望的な状況でも決して逃げない。氷川にとってはその精神こそが力の源であり、だからこそG3がなくとも氷川は刑事として戦い続けている。
だが、そんな精神性を(一応)一般人の大地に求めるのも酷というもの。
ひとまず休息が必要だ。そう思い、氷川は大地を連れ立って歩き出した。
「氷川さん? 一体どこに行くんですか? 次の聞き込みとか……?」
「いいえ、そろそろお昼にしましょう。な、なんだかお腹が空いてしまって!」
「………そうですね」
大地への気遣いを悟られぬようにしたつもりだったが、氷川の不器用な態度は大地でもあっさり察してしまう。だが大地はそれを口に出すことなく、控えめに微笑んで氷川の後に続いた。
「ここですか…?」
「ここのラーメンはけっこういけるんですよ。それにちょっとした名物もあるんです」
そして辿り着いたのは昔ながらの屋台のラーメン。
先輩の刑事から教えてもらって以来、氷川は何度か足を運んでいる。
赤い暖簾をくぐって、二人分のラーメンを注文する。暇そうに新聞を眺めていた親父がテキパキと調理していく様を大地は興味深そうに見守っていた。
「僕、屋台のラーメン食べるの初めてかもしれません。他の世界でも見かけなかったので」
「そうですか! きっと気に入りますよ」
そんな他愛のない会話をしていると、すぐに二人分のラーメンが置かれた。なかなかの速さだ。
目を輝かせてありつこうとする大地を見て、氷川はふとしたことを思い出す。
「大地さん、どうですか。ナルト占いをやってみませんか?」
「ナルト占いぃ?」
疑問符を浮かべるのも無理はない。
ナルト占いなんて、他じゃまず聞かない言葉だ。氷川も最初はそんな反応だった覚えがある。
大地がまじまじとナルトを眺めていると、氷川が呼ぶまでもなくラーメン屋の親父がひょっこり顔を出してきた。
彼によると、どんぶりにあるナルトを見ればその人の運勢がわかるのだという。まずはじめに氷川のナルトを覗き込んだ。
「どれどれ……? あ〜、あんた相変わらずだねぇ。こんな悪い運勢中々ないよ」
「そんなぁ〜!?」
やたら大袈裟に落ち込み、テーブルに突っ伏す氷川。
自分から勧めておいて、この反応だと大地も困った顔をするしかない。だが断る間も無く、親父は大地のどんぶりにも目を向ける。
氷川と大地はゴクリ、と無意識のうちに喉を鳴らして親父の判定を待つが、彼は神妙な顔で無言を貫いている。
まさか、氷川を下回るほどに最悪な運勢なのでは、と二人は顔を見合わせる。
親父が言葉を絞り出すまで、ラーメンがお預けなのが辛い。
「………こんなナルトは初めてだなあ。渦巻き具合が絶妙というか、こんなナルトは50年に一度お目にかかれるかどうか」
「えっと、それってつまり僕の運勢がとんでもなく悪いんですか?」
「そういうわけでもなくて……良い悪いと一概には言えないかな。あえて言うなら……お客さん、近々悪い出逢いがあるかもしれません。というか、こんなナルトを見れた私の方が運が良いかもしれない。はっはっはっ!」
「…………」
ラーメンの味そのものには大変満足できたのだが、なんとなく引っかかる昼食になってしまった。
ここのナルト占いは的中率が高いと思い込んでいるだけに、氷川は店選びを失敗したかなと内心後悔するも後の祭りなのであった。
*
午後になっても氷川達のやることは変わらず、主に地道な聞き込みなどで占められる。
それが悪いとは言えないが、しかし折角大地を連れ立っているのにこのまま終わらせてしまってはいけない気がしてしまう。
そこで氷川は一旦足を止めて、喫茶店に立ち寄った。別に休憩をとろうと思い付いたわけでも、ましてや聞き込みのためでもない。
「アイスコーヒーで大丈夫ですか?」
「あ、できればアイスティーでお願いします」
「ではそれを二つ」
チェーン店にしてはそこそこのアイスティーで喉を潤し、職業柄故かなんとなく店内を見渡す。ほんの目と鼻の先で不可解な殺人事件が起ころうと、こうして平和な日常を謳歌している市民にとっては関係のないことと思われているのだろう。
しかし、氷川はそれを悪いとは思わないし、できれば平和なままでいて欲しいとも思う。
そんな感じでふとした拍子に感傷に浸ってしまったが、先ほど思い付いた案を忘れてはならない。氷川は大地にとあることを訪ねた。
「大地さん、貴方はいくつもの世界を渡り、その数だけアンノウンや未確認生命体のような存在と遭遇してきたはずだ。その怪人達とアンノウンに何か共通点があれば、敵の狙いについても何か見えてくるものがあるかもしれません。どうか、僕と一緒に考えてはもらえませんか? お願いします!」
「怪人の共通点か……わかりました、知っている限り捻り出してみます!」
大地が思い出しながら告げる断片的な情報の数々を、氷川が纏め直して手帳に記していく。そんな作業をすること数十分。
各世界の怪人について要約した手帳という門外不出のトンデモ資料は完成したのだった。
「アンノウンの他にもこんな怪人がいるなんて……つくづく貴方の話には驚かされます」
「やっぱり重要なのは彼らが人を狙う条件ではないでしょうか?」
ここでは「無差別に人を襲う怪人」と「何らかの条件に従って人を襲う怪人」の2種類に大別される。アンノウンが該当するのも後者である。
他に該当すると思われるのはファントムと一部のファンガイアくらいであろうか。
「氷川さんの話や、僕が対面した感覚だとアンノウンからは明確な理性があるようでした。魔化魍のように本能で人を食ったり、ロイミュードのようにただ暴れてる風には見えません。だけど、ファンガイアも無差別に襲う者と条件に沿う者がそれぞれいますから……」
「中々同一視できるような怪人はいませんね……」
「個性的な怪人が多かったので、余計にそれぞれの特徴が際立ってるのかもしれません。でもーーー」
愉悦、復讐、憎悪……大地の脳裏によぎるのは人を脅かす怪人達の、黒い感情。一口に怪人と言っても、彼らの内面や動機は人間とそう違わない。
アンノウン達の動機も理解不能なものではなくて、案外感情的な動機から犯行をしていることもありえる。
「警視庁周辺での犯行ぐらいしか共通点は無い、か……でもどうして急にそんなことを? アンノウンが規則性を捨てたのには何か理由が……?」
「わかりません……むしろその直前にV2が配備されているので、アンノウンの撃破率自体は上昇傾向にありますし、死傷者の数も減ってはいるんです。それが余計に解せない」
警察が混乱している大元の理由はそのあたりだ。元々正体不明だった相手が唯一わかっていた規則性を崩されたら、その時点で後手に回るしか無くなる。
悩む両者の沈黙を破ったのは、氷川が零した何気無い一言。
「もしかして、アンノウンの狙いはV2システム?」
特に決め手となる根拠を思い付いたわけでもない。氷川はふと、大地が以前「マッハの世界」にて仮面ライダーを誘き寄せるために策を弄したスピードロイミュードがいた、と言っていたを思い出しただけだ。仮面ライダーそのものを狙う怪人はそう珍しくもないと言っていたし、可能性としてありえなくもない。
しかし、大地の脳裏には閃くものがあった。
「……そうか! アンノウンが警視庁周辺での犯行に拘っていたのはV2を誘き寄せるためだとしたら辻褄も合う! アンノウンと互角に渡り合えるV2を破壊できれば、彼らを止められる者もいなくなる!」
「確かに、辻褄は合うかもしれません。ですが、そんな単純な理由で彼らがこれまでの法則を崩すというのか……?」
それらしい答えを導き出したと思い込む大地と未だに浮かない顔の氷川。
「はい氷川………えっ!? アンノウンが!?」
そんなタイミングで鳴り響いた氷川の携帯から伝えられた内容は、まるで彼らを誘うようでもあった。
その中身とは、アンノウンが出現し、市民に襲いかかったこと。そしてたまたま近くを巡回していた警官に保護され、迎撃のためにV2が出動したこと。
「アンノウンが狙っているのはV2……! いきましょう氷川さん!」
「は、はい……」
大地の言うことには一理無い訳でもない。
だが、これまで何度もアンノウンと相対してきた氷川には彼らがそんな風に行動するだろうか? という新たな疑問が脳内にこびりついてしまっていた。
あくまで怪人の一種としてしか認識していない大地と、色んな意味で人間離れしていたアンノウンの特異性を見ている氷川の間にできた齟齬は解消されぬまま、二人は店を飛び出した。
現場に向かう道中でダークディケイドへの変身に氷川が驚いたり、瞬時に現れたマシンディケイダーに半信半疑の様子であったりとちょっとした騒動があったが、これから起こる戦闘に比べれば些細な事象である。
*
警視庁から近く、噴水が中央に位置するとある広場。
平時の昼間なら人で賑わいそうなそこでも、今は平和を謳歌する一般人など一人もいない。
その場に立っているのは亀に酷似した銅色のアンノウン、トータスロードと相対する銀色の戦士、V2。
トータスロードに狙われた人物は駆けつけた警官に保護され、V2が到着すると同時に他の警官達も避難した。これでV2は気兼ねなく敵を叩きのめせる。
「V2システム、戦闘オペレーションを開始します」
『了解。北條さん、お気をつけて』
元G3ユニット所属のオペレーターがこんな風に話しかけてくるのも毎度のことだ。他の二人と違って一線に残るその度胸は大したものだと北條も認めているが、なんというか印象に残りにくい男だとも思ってしまう。
そんなオペレーターからの気遣いは有難いが、北條には余計な心配でしかないと思える。ただでさえ強力だったV1を強化改良したこのV2システムを身に纏った北條は連戦連勝。アンノウンに負ける確率など万に一つもありはしないのだから。
V2を警戒しているのか、一定の距離を保って構えているトータスロードがいい証拠だ。
距離を詰めないのはむしろ好都合であり、V2は即座にショットガンを構えて発射する。
V1のメインウェポンであった時から、幾多のアンノウンを葬り去ってきたそれはトータスロード相手でも問題無く通用するかに思われた。
しかし、トータスロードは咄嗟にV2に背を向けて飛来した弾丸を甲羅で受け止めてしまった。
耳をつんざくような轟音が鳴り響いても、甲羅に微かな傷が付いたのみ。トータスロードには一切のダメージがない。
(大した硬さですが……そのまま背を向けて私に勝てるとでも?)
トータスロードはV2に背を向けたまま、一向に攻める姿勢を見せない。このまま膠着状態になっても敵には何の利点も無く、あれは攻めあぐねた末に行動を制限されたのだと結論付けたV2はさらに弾丸をお見舞いしようと引き金に指をかける。
北條のこれまでの経験からすれば、アンノウンとはそんなにも御しやすい相手で無いと勘づきそうなものだが、彼に巣食う慢心はあっさりと油断を招いてしまっていた。
「ーーー下かッ!?」
ボコッ、と自身の足元が揺らぐ感覚に照準を直そうとしても、時すでに遅し。
アスファルトを突き破って出現したもう一体の銀色のトータスロードによって、足元を掬われたV2は受け身すら取れずに転倒してしまう。
それは今朝の被害者が地中深くから発見されたことを念頭に入れておけば、回避できたかもしれない奇襲であった。
防御の姿勢を保っていた銅色のトータスロードも奇襲が成功したと見るや、すぐに飛びかかってV2を二体がかりで組み敷いていく。
一見するとV2の大ピンチであり、北條の耳元では喧しい声がひっきりなしに響く。大方このままやられてしまうのでは、と不安になっているのだろうが、北條にはそんなもの微塵も無い。
少し力を込めれば、それで済む話なのだから。
「フンッッ!!」
「「ギィッ!?」」
トータスロード達が驚くのも無理はない。
ただの人間が強化服を装着しているだけにも関わらず、アンノウン二体を纏めて投げ飛ばせる者など到底考えられないからだ。
投げられたトータスロード達を尻目に、V2は自身の専用バイクから新たに武装を取り出した。
G3のガードチェイサーと同じく、その専用バイクにもV2の豊富な武装が収納されており、左腕に装着したドリルもまたその一つである。
(まずはその甲羅から砕きましょうか)
V2はショットガンを連射しつつ、トータスロードに接近する。
予想通り背中の甲羅で防いでおり、北條はマスクの奥でほくそ笑む。トータスロードにはダメージが無くとも、照準は一切の乱れを許さない。
ダメージが無いと言っても、微かな傷は入ったのだ。そこを撃ち続ければーーー。
「ーーーグッ!?」
防御に徹していた銅色のトータスロードから苦痛の声が漏れる。
それもそのはず、鉄壁を誇っていた甲羅にとうとうヒビが入り、V2から撃たれるたびにそのヒビが広がっていくのだ。
相棒のピンチを見て、すかさず銀色のトータスロードがV2の射撃を阻止せんと向かってくるが、その程度はお見通しだ。
「あいにくと」
「ガァッ!?」
軽く足払いをかけ、あっさりと転倒した銀色のトータスロード。その頭部にショットガンの銃口を突き付ける。
「私は無駄弾を撃たない主義でして」
防御が高いのはあくまで甲羅だけ。
顔面を次々と撃ち抜かれた銀色のトータスロードはあっさりと爆発四散する。
そこで手を休ませず、残った敵へショットガンを撃ちながら距離を詰めることも忘れない。
結局ショットガンだけで甲羅を砕くには至らなかったが、甲羅全体に広がるヒビを見て十分だろうと判断する。
「ハアアッ!!」
V2は深く踏み込み、すでに起動させておいたドリルの先を何度も撃ち続けた箇所に突き刺す。手応えはかなり硬かったが、回転するドリルによってかなりの勢いで削られる甲羅の破片に比例して、手応えも柔らかくなっていった。
やがてその硬さも完全に失せ、肉を貫く感覚が左腕に伝わった時、トータスロードの断末魔と爆発する音が響き渡った。
「ーーーアンノウン二体の殲滅を確認。これより帰還します」
これで今日もまたV2としての北條の仕事は終わった。
連日のアンノウンの動きは不自然極まりないが、だとしてもこのV2と北條徹が揃っていれば何の問題もあるまい。
今まで刑事として働いてきた時には得られなかった充実感を胸に帰投しようとしたその時、オペレーターの焦った声が北條を引き止めた。
『ーーーッ!? ほ、北條さん! 背後です!!』
ブラッドオレンジチャージ!
まず認識できたのは、妙なテンションの電子音声。無論、V2の装備にそんな機能も音声もない。
そしてその次はーーー凄まじい熱と衝撃。
「うわあああッ!?」
アンノウンとの戦闘時には感じたことのない衝撃に貫かれ、V2は倒れる。不意の一撃にぐらついた視界のせいで、若干のパニック状態に陥りかけた北條であったが、耳元で喧しく吠えるオペレーターのおかげでギリギリ冷静を保つことができた。
一時乱れたマスクのカメラも復旧し、V2はそこでようやく自身を攻撃した張本人を捉えた。
「ふむ、今の一撃に耐えるとは予想外だな。奴らが血眼になるのも理解できる」
「言葉……鎧武者……アンノウンではない……?」
それは紅い鎧武者と言う他ない存在。
アンノウンともまた違う異質な雰囲気を放つ目の前の存在はどちらかと言うとG3やV2に近い気がする。
いずれにせよ、言語を話せるのなら対話の余地はあるかもしれない。
問題があるとすれば、その相手から殺気しか感じられないことぐらいか。
「お前は……?」
「別に恨みはないのだがな。俺の探し物のためにも、お前を痛めつけておいた方が都合がいいということさ」
V2を斬りつけた凶器の正体であろう刃の付いた弓矢、そして小刀を構えた仮面ライダーセイヴァーとV2による異色の戦闘が今、幕を開けた。
*
大地が変身したダークディケイドと氷川が現場に到着した時点で、すでに彼らの予想を上回る事態へと発展していた。
氷川が受けた連絡だとV2がアンノウンと戦っているとのことだったが、目の前でV2を斬りつけているアレはどう見てもアンノウンではない……というか、以前見たことがある。
「あのアンノウン、今までとは少し違う……!?」
「っていうか! あれアンノウンじゃないです! 仮面ライダーセイヴァーです!」
「おや、もう来たのか。意外と早い、なっ!!」
まるで知り合いに会ったとでも言うような親しい雰囲気で挨拶してくるが、あのライダーがそんな奴でないことなど分かりきっている。
現在進行形でV2を攻撃しているのが良い証拠だ。故に氷川もセイヴァーが悪人であるとすぐに納得してもらえた。
だが、セイヴァーは目的であるはずのダークディケイドが来たというのにV2への執拗な攻撃を一向に止めようとしない。V2の方も時折抵抗しようと試みているのはわかるが、セイヴァーには通じていない。
氷川に目配せしてマシンから降りてもらい、ダークディケイドは剣を構えて突撃を開始する。
ATTACKRIDE SLASH
「やめろーッ!」
「おっと」
マシンの勢いとエネルギーを上乗せした斬撃はあっさり回避されたものの、V2とセイヴァーの間に割って入ることには成功した。
銀色の装甲にはかなり痛々しい損傷が刻まれているし、その原因が元を辿れば自身であることもあって申し訳なさを感じてしまうが、今はセイヴァーへの対処が最優先だろう。
「ドウマ、貴方の目的はこのダークディケイドライバーでしょう!? どうして北條さんを……!」
「ふむ……いや、そんな大層な理由でもない。そのV2を放置していると、アンノウンの動きも読めなくてね。向こうとしても俺のような存在は排除対象だろうからな」
「……? アンノウンは貴方も狙っているんですか」
「あくまで推測だが……こうしてお喋りするのもそろそろ終いにしようか!」
弓を引くセイヴァー。
ダークディケイドは放たれた矢を回避しようとするも、背後のV2のことを考えて剣で弾く。その防御の姿勢を好機と見たか、さらに弓を引こうとするセイヴァーの胸部から火花が噴き出した。
「ぐっ……」
「貴方達が何者かは知りませんが、私を攻撃した時点で完全に傷害罪と公務執行妨害が適用されます。まさか知らなかったとは言わせませんよ?」
一瞬氷川が援護してくれたのかと思ったが、その答えはマシンディケイダーの背後から飛び出していたV2であった。
今の状況からダークディケイドが味方であるとも察してくれたらしく、軽く頷いてくれた。
「聞きたいことは山ほどあります。しかし、ここは共通の敵を拘束する方が得策と判断しましたが」
「はい、援護をお願いします! 北條さん!」
「何故私の名前を……? いや、後にしておきます」
先の銃撃は大したダメージにはなっていないが、セイヴァーからの一方的な遠距離攻撃を牽制する目的は十分に果たせた。
こうなってしまえばセイヴァーにできる手段は限られてきそうなものの、向こうにはこちらの数の優位を崩せる能力があることを忘れてはならない。
案の定怪人が描かれたカードを取り出しており、それをみすみす見逃す手はなかった。
「させるかっ!」
FINALATTACKRIDE DE DE DE DECADE
離れた相手の手にあるカードを撃ち抜くだけの技量はダークディケイドにはまだない。多分。
なのでここで選択したのは自身が今放てる最速の攻撃、ディメンションブレイクである。マシンに搭乗した状態から即放てる上、あわよくばセイヴァーの撃破だってできるかもしれない。
金色に輝くカードのエネルギーを潜って迫るマシンディケイダーに、このままでは不味いと悟ったセイヴァーはカードを捨て、迎撃に移る。
「私を忘れてもらっては困りますね」
そこで光るのがV2の援護射撃だ。
セイヴァーの鎧を砕く威力は無くとも、動きを阻害するぐらいはできる。
手始めにショットガンでセイヴァーを仰け反らせ、さらに腰のホルスターから取り出した小銃によって、弓矢の狙いも逸らす。北條の銃の扱いに関してはセイヴァーやダークディケイド以上と見て間違いないだろう。
「オオオオーッ!!」
「こうなることを防ぐために動いたんだがな……!」
ザクロスカッシュ! ブラッドオレンジスカッシュ!
セイヴァーアローに充填される毒々しい赤のエネルギーも、ディメンションブレイクの勢いの前では見劣りしている。
このまま押し切るべく、ダークディケイドはフルスロットルで突撃を続ける。
倒せはしなくとも、絶大なダメージは与えられるはず。
そんな予感を胸に飛び込んでいく中、エネルギーが激突する爆発音よりも先に聞こえたのは嘲るような呟きと電子音声だった。
「お楽しみの途中すまないね。僕も混ぜてくれないかい?」
ATTACKRIDE BARRIER
*
「城北大学は向こうですね? わざわざありがとうごさいます! それでは!」
瑠美は質問に答えてくれた男子学生に丁重にお礼を言って、足早に立ち去っていく。相手が鼻の下を伸ばしていたことは見て見ぬフリをしておいた。
客観的に見ても瑠美の容姿は平均より上というくらいで、男性からそうした反応をされるのにも彼女は慣れていた。特定の異性と付き合った経験はなく、また誰からの頼み事にも快く頷く彼女は不特定多数から顰蹙を買わなかった。
そんな性格のおかげか、こうして調べものをする際には道行く人に尋ねることが意外と上手くいくのだ。
(入山照さん。それなりに有名な人で助かりました。大体は図書館で調べられましたから)
ここまで得られた情報をまとめてみると、以下のようになる。
・入山照、46歳男性。
・それなりに名の知れた生物学者で、あかつき号事件の直前までは城北大学で研究していた。
・今は警視庁で何らかの仕事をしており、詳細は不明。
「城北大学で仲の良かった人から連絡先とか聞ければいいんですけど………」
道中すれ違った学生に入山と交流のあった人物についても尋ね、今も大学に在籍している人がいることもついでに教えてもらえた。
「ありがとうございます!」
「あの! よければこのあとお茶ーーー」
「ごめんなさい!」
こうしてついに瑠美は入山の連絡先を知っていそうな人物がいる部屋の前にやってくることができた。
すぅ、と深呼吸をして瑠美は「高村研究室教授室」と札の下がったドアをノックしたのだった。
*
氷川はダークディケイドがV2の救出に向かう瞬間を黙って見ているしかなかった。
アンノウンに連戦連勝を誇っていたV2がいいように痛ぶられているのも、自分達の常識を笑い飛ばすような超常能力を使いこなすセイヴァー、そしてダークディケイドには驚くことしかできない。
仮に自分がG3を装着していたとしても、あの戦いに割って入るなど自殺行為に等しい。
そうわかっているのに、何故自分の脚は今にも飛び出していこうとしているのだ?
「……ここは大地さんに任せるしかない。そうするしかないんだ」
もう忘れたのか自分はG3ではなく刑事なのだと言い聞かせ、何か自分にできることはないかと見渡してーーーそして発見してしまう。
ダークディケイド達を観察している、奇妙な青い銃を持つ青年の姿を。
氷川はすぐに駆け寄り、避難のために連れ出そうとする。
それが刑事としてするべきことだと認識していたし、実際その行動は間違いなどではない。
「警視庁の者です! ここは危険だから早くーーー」
「確かに危険だね。でも、これからもっと危険になる」
ただ相手が悪かったのだ。
青年は持っていた青い銃にカードを装填、スライドして頭上に銃口を向ける。その行動の意味が氷川にはわからない。
だが、銃から聞こえた電子音声には心当たりがあった。
KAMENRIDE
「貴方は……まさか!?」
「変身!」
DIEND
青年ーーー海東大樹に三つの虚像が重なり、奇妙な銃ーーーネオディエンドライバーから放たれた十枚ほどのプレートがマスクに刺さる。
その瞬間、大樹を包んだスーツの一部がネオディエンドライバーと同じシアンに染まり、彼の変身が完了した。
「さてと」
隣で目を見張っている氷川のことなど、すでにこの仮面ライダーディエンドの眼中にはない。
ディエンドはさらにもう一枚のカードを装填し、今まさにセイヴァーへと激突しようとしていたダークディケイドに引き金を引く。
ATTACKRIDE BARRIER
「お楽しみの途中すまないね。僕も混ぜてくれないかい?」
トータスロード
アギトの3話、4話に登場した怪人。恐らく「仮面ライダーV3」に登場したカメバズーカのオマージュ。
背中の甲羅はアギトのライダーキックすら防ぐほどの強度だったが、それ以外はG3のサラマンダーで爆発四散するくらいなのでそんなに強くない。
通常のG3が唯一撃破できたアンノウンであり、それよりも強いV2ならば負ける道理はないのだ!……北條さんでもね!
泥棒さんがテレビに出てくれるので、こっちでも同じ色にしてみました。矛盾がない限りはジオウに登場する前だと思ってください。
DXネオディエンドライバー買えば大地くんの旅も終わるのでは……?(付属カード)