仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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更新予定すら守れないから駄目なんだよ


プロジェクトの真実

 

 

 

 最初に目覚めた時、すなわちガイドにダークディケイドライバーを渡された時から以前の記憶が大地には無い。食器の使い方だとか、公共施設の存在など最低限の日常生活を送れる程度の知識は頭の中に残っていたが、サブカル方面などでは今でも苦労することが多い。瑠美が持っているパソコンみたいな電子機器の扱いすらままならない。ちょっとした興味本位で弄ってみたはいいものの、知らない文字の羅列に怖気付いてすぐに閉じたことだってあった。

 

 異世界に来てから行う探索で見かける建物も大体知識として知っていた。図書館、飲食店、デパート等々…………だが、今自分がいる場所は珍しく何の知識もない場所であった。

 

 たくさん置かれてる巨大なティーカップ、連結したトロッコが配置された巨大なレール、人が数人入りそうな箱を一定間隔でぶら下げた巨大鉄骨車輪。そしてその至るところにファンシーな動物の絵が描かれているが、所々錆びていたり、塗装が剥げているところがちょっぴり不気味でもあった。さらによく見ると、怪人が出て来そうな雰囲気のこじんまりした屋敷まである。

 

「まさか、ここは敵の秘密基地……?」

 

「私には廃れた遊園地にしか見えませんね」

 

 北條の言う通り、ここは都市部からそう遠くない場所にある廃墟と化した遊園地。来場者達に現時刻を教える役割を終え、ただの柱となっている時計に大地と北條は縛りつけられていた。目覚めた当初からこの縄を解けないものかと悪戦苦闘しているのだが、一向に緩む気配はない。

 大地が変身できれば、あるいは北條がV2システムを装着すればこんな拘束など数秒かからずに引きちぎれるというのに、それらの道具は全て取り上げられてしまっていた。

 

「へぇ……これが遊園地なんですね。実際に見るのは初めて、かなあ?」

 

「このような状況でも冗談をかましていられるなんて、君はつくづく頼もしい。そんな余裕があるのなら一刻も早く脱出してほしいのですが」

 

「すみません、ベルト無いとどうにもならなくて。ポーチまで盗られちゃってるし」

 

「……皮肉が通じないというのも考えものですね」

 

 ここで目覚めてからすでに数時間が経過しており、その間に大地は自身の大まかな事情は北條に説明していた。異世界という荒唐無稽な話に最初は鼻で笑われ、紆余曲折の末に一応納得はしてもらえた。周囲の建造物を眺めた素直な感想にすら棘のある発言を飛ばしてくるので、半信半疑ではあるようだが。

 しかし対人経験に乏しい大地には皮肉の発言も通じず、キョトンとした表情を浮かべるばかり。そんな大地に北條は小さく溜息を吐いた。

 

「君の話が正しいと仮定すれば、あの海東大樹なる人物も異世界から来たライダーと呼ばれる戦士ということになる。まったく、異世界のライダーとやらは変わり者ばかりなのか……」

 

「そんなことは……あるかもしれませんね」

 

 極度のマヨラーとか、犯罪者のボタンをコレクションしてる人を思い浮かべてしまうとあながち否定できない。そもそも客観的に見たら北條も十分変わり者に分類されるはずなのだが、そこに言及する者はここにはいない。

 

「僕を変わり者呼ばわりするのはやめてもらいたいね。これでも常識人で通ってるつもりなんだけど」

 

 声がした方向、すなわち自分達を縛り付けた張本人に二人は視線を向ける。北條から剥ぎ取ったV2システムを品定めするかの如く眺める海東大樹へと。

 

「流石に泥棒を普通扱いするのは無理がありますよ。突然攻撃してきたのだってかなりヤバいです。すっごく変です」

 

「この世界のお宝のためさ。むしろ当然のことだと思うといい」

 

「失礼、価値観が違い過ぎる犯罪者を変わり者で済ますのは確かに不適切でした。理解不能である分、アンノウンに近いらしい」

 

 バチバチと激しく飛び散る火花を幻視しそうな空間。このギスギスした雰囲気というのが大地はどうにも苦手であった。大樹が何を企んでいるにせよ、早いとこ抜け出さなければ気分まで悪くなってきそうだ。

 

「と、とにかく! 泥棒は良くないと思いますけど、そろそろ本当の目的を話してくれませんか? 僕に手伝えることなら協力だってしますよ!」

 

「だからお宝のためだと言っているじゃないか。それに、君如きの協力なんて無くとも欲しいものはもう手に入れたさ」

 

 大地にとって海東大樹という男は怪しい点は多々あれど、そこまで悪い人物ではないと思っていた。今回の襲撃にしたって、てっきり何か思惑があるのでは、と深読みしていたのだがそれは大外れらしい。やや呆れ気味にV2のマスクを見せつけてくる辺り、本気で泥棒のために撃ってきたようだ。

 

「それだけで……それだけの理由で僕達を撃って、こんなところに攫ってきたって言うんですか……!? 海東さんは仮面ライダーじゃないんですか!? 正義のために戦う仮面ライダーがこんなこと──ー」

 

「やれやれ、自分の価値観と違うってだけで大袈裟過ぎないかい? 君にとっては()()()()()でも僕にとっては命を賭けるに相応しい理由なのさ。それに君の言い分だと僕以外のライダーは皆大層ご立派な正義とやらを掲げてたみたいだけど、仮面ライダーサガや……えっと、リヴォルだっけ? 少なくとも彼らが君の言う正義のライダーには見えないなあ」

 

「それは……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。他のライダーと完全な敵対をした経験がほとんど無い故に忘れがちだが、人間に仇なすライダーはいないわけではない。むしろダークディケイドライバーの記録を辿ればそういった悪のライダーはそう珍しい存在ですらない。

 

「……鬼塚さんには彼女なりの事情がありました。あのキングも人間の友達がいました。海東さんみたいな軽い理由じゃありません」

 

「軽いとは心外だなあ。君が言うようにライダーだってそれぞれの事情で戦っている。正義のために戦う奴がいれば、僕のように特別な信念を持っている奴もいる。それは怪人だって同じだね。そんな各々の事情に一々口出ししていたらきりがない」

 

 最後に「ま、どうでもいいことさ」とだけ付け足して、大樹はどこかへふらりと立ち去ってしまった。

 言いたいことだけ言われて、大地に残されたのは微妙に嫌なモヤモヤ感。仮面ライダーとは正義の味方であるという認識はただの偏見でしかない。悪のライダーの存在を心のどこかで見て見ぬ振りをしていたのも、正直その通りであった。

 

 別にそこまで衝撃的な事実ではないはずだ。悪のライダーがいるのなら、怪人と一緒に倒すだけ。

 

「あまり顔色がよろしくないようですが、あの男の言う事はそこまで気にする必要はありません。私のように善い人間がいれば、あの男のような悪い人間もいる。それだけのことでしょう。さっさとここから抜け出す算段を立てますよ」

 

 そうやって切り捨てられるのも刑事として培ってきた人生経験があるからこそ。精神の根底部分が未だ不安定な大地には無いものだ。

 そういう風に自分を自信満々に善いと言い切れる北條に心底感心しながら、大地は曖昧な表情で頷いた。

 

 

 *

 

 

 突如として出現した謎の青年によってV2システムが強奪され、装着者まで拉致されてしまった。

 ただでさえ連日のアンノウンへの対応に追われているというのに、そんな非常事態まで起これば警視庁がパニック同然になるのは誰でも予想がつく。

 そんな誰もが慌ただしく駆け回る警視庁でもかつてない怒りのオーラを漂わせて早足で歩く小沢には例え上司であろうとも道を開けざるを得ない。そしてそのすぐ後ろでペコペコと頭を下げる氷川には誰もが同情の視線を送った。

 

「こんな時に雲隠れするなんて、入山照はいい度胸してるじゃない。人間相手でこんなにムカムカするのは本当に久し振りだわ。彼にとっては民間人と同僚の命よりも、自分の発明の方が大事だってことよね!」

 

「し、しかし入山さんは何処へ行ってしまったんでしょうか。彼がいなければV2の設計図が手に入らないなんて」

 

「ええ! あの狸、このままノコノコ顔を見せたらどうしてくれようかしら」

 

 それだとどの道出てこないのでは、と言いかけた氷川はその言葉をグッと飲み込む。今の小沢に余計なことを言えば、すぐさまその逆鱗の餌食になるとわかっているからだ。

 そもそも小沢がここまでイラついているのは、彼女が手に持っているハードディスクのせいでもあるだろう。

 

 これは氷川も知らされていなかったことであるが、小沢はG3の開発前後に「G4システム」なるものを開発していたというのだ。しかし、G4は装着者の命に関わる深刻な負担を齎すことが発覚し、小沢はG4の開発を凍結した。何故あの男がG4を知っているのかは不明だが、自身の発明が悪用されるかもしれないのが小沢には気が気じゃないのだ。

 

「北條透なんかのために私がここまでしなきゃならないのも腹立たしいわね。大地君がいなければ拒否できたのに」

 

 そう口では言っているが、小沢なら散々嫌味を言いながらも結局は同じことをするに違いない。当然これも氷川の心の内に留めておく。

 

「V2ユニットでも設計に関わった者はほとんどいないようで、システムの詳細な設計の7割が入山さん個人によるものだそうです。一体どうすれば……」

 

 V2システムはV1システムを大幅に強化改良されたものであり、基本的な構造は同一である。問題なのはV2をV2たらしめる動力源などについて、把握している人物がV2ユニットに誰一人としていない点だ。

 

 そして解せないのは入山が姿を隠す動機である。V2そのものを渡せと言われたならまだしも、要求されているのは設計図。しかも人質になっているのは装着者とシステムそのものだというのに。

 

「役に立たない人について考えても仕方ないわね……。一つ思い当たるところがあるわ。これから向かうわよ」

 

「はい! ……どこに?」

 

「城北大学よ」

 

 

 *

 

 

 昨日帰ってきた瑠美から城北大学の名を聞いた時は思わず聞き返してしまった。

 ただの偶然であると自身に言い聞かせても、かつて在籍していた大学の門を通る時、涼は複雑な心境であった。

 自分がいた頃となんら変わらない光景を目にするだけで様々な記憶が蘇ってくるが、それらは必ずしも良いものとは限らない。

 水泳選手として将来を期待され、恋人や友人と過ごしてきた日々はある日突然終わりを告げられた。誰もが涼を避け、気付けば独りになっていた。

 

(裏切られたのもここが最初だったのかもな)

 

「葦原さん? 具合でも悪いんですか?」

 

「何でもない。行くぞ」

 

 だが、今はもう仕方のないことだと割り切っているのも事実。異形となった涼を恐れるのは至極当然のことだと思うし、それを恨むつもりもない。一緒に来てくれた瑠美に余計な詮索をさせても面倒だと思い、ここに在籍していたことは伏せてある。

 ギョッとした顔ですれ違う知人にも軽い会釈をするだけに留めておく涼に、何となく察した瑠美も言及せずに目的の研究室まで案内する。涼を励ますつもりでもあるのか、いつも以上に明るく振る舞っている瑠美をお節介な奴だと思いつつも、悪い気はしなかった。

 

「その高村って教授が入山照と親交があったんだな」

 

「親交と言っても、そこまで良好な関係というわけでもなかったそうです。言い争ってる光景も珍しくないって学生の方が言ってました」

 

「むしろ仲が悪いんじゃないのか、それは」

 

「それが不思議なんですが、喧嘩はしてもなんだかんだで一緒にいたとか。喧嘩するほど仲が良いって感じなのかもしれませんね」

 

「そんな可愛げのあるものならいいがな」

 

 そんな会話をしているといつの間にか「高村研究室教授室」と札がかけられた部屋の前に着いた。顔見知りの教授で無かったことは涼には幸いであった。

 

「入りたまえ」

 

 ノックから返ってきた返答は若干厳つい雰囲気だった。

 

「失礼します」

 

 部屋の中にいたのは高村光介と思わしき教授と、スーツを着た一組の男女。男性の方は入室してきた涼達に軽く会釈をしてきたが、気の強そうな女性の方は高村から目を離さない。着こなしなどからして学生では無さそうで、おまけに男性の方はどこかで見たような記憶が涼にはあるものの、それ以上思い出せなかった。

 

 部屋の中に漂う険悪な雰囲気。特に高村と女性との間には会話をせずともわかるほどであり、何でこんなことになっているのか困惑してしまう。

 

「花崎瑠美だったかね? 私に話があると先日ここに訪ねてきたのは」

 

「は、はい。でも今お取り込み中のようなので、また出直します! はい」

 

 あまりの居心地の悪さに瑠美ですら踵を返そうするも、高村は気にしなくていいと手を振ってソファーを指差した。座れと言いたいのだろうが、立ちっぱなしの先客がいるので気楽にはしずらい。

 だが瑠美とは違い、涼は他人の込み入った事情に一々気を遣っていられるほどお人好しではなく、ここは黙って従うことにした。瑠美も恐る恐る腰をかける。

 

「教授、まだ話は終わってません! 入山照の交友であり、V1プロジェクトにも参加していた貴方ならV2に関する資料も持っているはずです」

 

「持っていたらとっくに渡している。小沢くん、君なら私がV2システムから降りていることは知っているだろう」

 

 入山照、探している情報が藪から棒に出てきた。思わず顔を見合わせる涼と瑠美。

 尚も食ってかかろうとする女性を手で諌め、語り出す高村。

 

「そもそも私と入山君は友と言えるような関係では無かった。彼と私では専門も異なるし、性格もまるで合わない。談笑よりも口論の方が多かったぐらいだ。だが彼の革新的な発想、多角的な視点は大いに価値があった。彼がいなければV1システムの未来はまた違ったものになっていたはずだ」

 

 高村はそこまで一息に語ると、冷蔵庫からミネラルウォーターとグラスをいくつか取り出した。

 

「あれは……ちょうど3年ほど前だったか。高松への出張から戻った彼は酷く取り乱していた。あかつき号事件という海難事故に巻き込まれたと言っていたが、あの乱れ様はそれだけではない。その海難事故で何があったのか……以来彼は取り憑かれたように研究に明け暮れた」

 

「あかつき号」というワードが出たことよりも、黙って話を聞いていた男性が顔を驚愕に染めている方が涼には気になった。

 

「自分の専門分野以外にも手を広げ、私にもロボット工学について頻繁に尋ねてきた。研究熱心、と見なすのは簡単でもあの時の彼を実際に目にすればそんな生易しいものでないと誰しもが理解できる。V1プロジェクトへのお呼びがかかった時こそ、その最たる瞬間だった」

 

 高村は目を細め、在りし日の自分達を記憶から引っ張り出す。

 彼が見つめている、誰もいない空間には過去の入山が映っているのだろう。

 

「私がV1プロジェクトに参加したのは多くの人命を救うためだった。しかし、入山君がそんな動機だったとは私には思えない。彼が主導となって設計したV1の強化改良機体──ーV2の設計図からも入山君の狂気に近い感情が溢れ出しているようだった」

 

「それが教授がプロジェクトから抜けた理由だとおっしゃるんですか?」

 

「信じられないかね? 確かにあのV2は研究者として大いに唆られる。だがね小沢くん、私にはそれ以上にあのV2が薄気味悪く見えるのだよ」

 

 そう語る高村の目に涼は既視感を覚えた。

 それは忌避感、怖気、警戒──ー変身した涼が恩師や恋人だった者達から幾度となく向けられたもの。

 それらと同じ目を高村はしていた。

 

「何故あんな物が動いているのか、装着者が五体満足でいられるのは何故か。入山くんはどうやってあんな物を創り上げたのか……彼は人間が手を出してはいけない禁忌に触れてしまったのではないか。研究者らしからぬ言葉だと笑われても仕方のないことだ。ただしあの設計図を見ても私を笑える者がいるなら、の話だがね」

 

 一瞬の静寂。

 高村が吐いた息は迷いを吐き出すかのようでもあり、何かを諦めるかのようでもあり。一息にグラスの中身を飲み干すと、高村は膨大なファイルが収納された棚から丁重にファイルを取り出し、その奥に眠る金庫を操作する。

 そして出てきたのは数枚の紙束。

 

「V2の試作段階の設計図だ。現在のシステムとは大幅に仕様が異なるだろうが、基本骨格はほぼ同じで間違いない。私にできるのはここまでだ」

 

「教授……」

 

「臭いものには蓋をしろ、とは言われるが、君以上に適した蓋を私は知らない。返却はしなくて結構」

 

 最初の険悪な雰囲気は何処へやら、一応丸く収まったことで一部の者はほっと安堵の息を吐く。本題に入る前に面倒を避けられて安心しているのは涼も同じである。

 

 小沢と呼ばれていた女性は軽く、男性は深く一礼だけして部屋から退室していった。

 

「お待たせして申し訳ない。君たちにとっては退屈な話だったろう。それで、君たちの要件は」

 

 言葉の割には謝罪されている感じがしないのは高村の厳つい顔のせいだろうか。

 

「入山さんと関係があったという、ある人を探しているんです。この写真に見覚えは?」

 

 まずは駄目元で木野から受け取った真島浩二の顔写真を見せてみる。精々一緒にいたところを見たことがあれば、ぐらいにしか涼は期待しておらず、本命は入山の連絡先ないしは居場所を聞き出すつもりだった。

 しかし、高村は写真を一目見ただけで顔色を変える。

 

「彼は……ああ、思い出したよ。先ほど話していた入山くんが変わり始めた時から頻繁に面会していた青年だね。確か名前は真島浩二だったか。ここの学生では無いようだったが、入山くんとは日夜を問わず話し込んでいた」

 

「! そ、それで今彼の居場所に心当たりは?」

 

「いや、あれは数ヶ月前か……それまで頻繁に会っていたのが嘘のように顔を見せなくなった。私の記憶が正しければ、最後に見かけた彼は何やら嬉々とした様子だったが……」

 

 そこまで言いかけた高村は引っかかりを覚え、顎に手を当てる。小声でブツブツと何か呟き、やがて絞り出した記憶を頼りにメモを書き始めた。

 

 

 *

 

 

 高村との面会から数時間が経過した頃。

 

 相変わらず拘束されている大地と北條はかなり疲弊していた。

 激しい戦闘から今に至るまで飲まず食わずどころかまともな休息だって取れておらず、しかも直射日光にずっと晒されているのだ。刑事として普段から体力を使っている北條はともかく、威吹鬼の世界で鍛えていなかったら大地は今頃へばっていただろうなと異世界の師匠に心の中で感謝した。

 

 とはいえいつまでも耐えられるとは限らない。時間の経過によって太陽は徐々に沈み始めているが、今度は冷気に悩まされることになる。いい加減脱出しなければならないとわかってはいても、結局今に至るまでどうにもできなかった。

 

 やることも無く、体力を温存すべきとの発案でなるべくじっとしていた二人の間では必然的に会話で時間を消費する。

 主な内容は大地が見てきたライダーと怪人達について。アンノウンに対抗する手がかりになるでは、とのことだったが、同じ発想を氷川もしていた。良好な関係でなくとも似た者同士なのか、それとも刑事としての性なのかまではわからなかった。

 

「──というわけでスピードロイミュードは仮面ライダーマッハに倒されたんです」

 

「人間に擬態する機械生命体と、科学者が作り上げた戦闘システム、それに警察組織……どの世界でも細部はそこまで変わらないとは興味深い。重加速なる技術が我々にも扱えればアンノウンによる被害は激減させられるでしょう」

 

(悪用はしないと思うけど……この人が言うとなんか不安になるのはどうしてかな)

 

 そんな風に会話に興じていると、どこからともなく現れた、というより戻ってきた海東が呆れ気味に横槍を入れてきた。

 

「しばらく目を離した隙に随分と仲良くしているね」

 

「どこ行ってたんです。せめてお水だけでもくれませんか……?」

 

「お宝は自分の手で掴み取るものだよ?」

 

 まあ元から海東には期待していなかったので、意味不明な返答にも口をすぼめるだけに留めた。それに、隣の北條に浮いている青筋の方が大地には恐ろしい。

 海東はこれ見よがしにミネラルウォーターを美味そうに飲むし、そんな風にされると余計に喉が渇く。

 

「さっきこれを通して連絡が取れてね、もうすぐ君達のお仲間が来てくれるってさ」

 

 これ、と指し示しているのはV2のマスク。ピーピーと規則的に音が鳴っているだけでなく、音に連なって赤い光が複眼の奥に点滅している。V2の通信機能を利用したということだろう。

 

「僕の要求通りに事が済めば解放してあげるから、そうしたら好きなだけ水でも何でも飲むといい。そうしたらこの世界とはおさらばさ」

 

「要求……? てっきり貴方の目的はV2システムかと思っていましたが」

 

「もう一つ。警視庁の小沢澄子が開発したG4システムの設計図もターゲットさ。できれば実物が欲しかったけど、無い物ねだりをしてもね」

 

 G4とはまた聞き覚えのないシステムである。単純に考えればG3に関連したシステムなのだろうが、北條ですら思い当たる節がなさそうな様子で、存在するのかどうかも怪しく思える。

 そんな懐疑的な考えが表情に出たのか、海東は嬉々としてG4について語り出す。新しい玩具を自慢する子供とは、こんな感じなのかと思わせるように。

 

「G4システムはG3の強化発展系にして、AI制御によって装着者の限界以上の力を常に発揮する素晴らしいお宝だよ。装着者すらも部品の一部でしかない、あまりの危険性に封印されたっていう曰く付きなのもイイよね♪」

 

「そ、そんなシステムを……あの小沢さんが……!? 本当に?」

 

「まさか……」

 

 小沢という人間はどこかサバサバしてて、それでいて優しさと熱さを秘める女性だと思っていた。ビールと焼肉で豪快にガブガブ飲み食いする姿、北條と舌戦を繰り広げる姿、落ち込む大地の背中を押してくれた良い人──ーどの記憶を辿っても、G4なんて恐ろしい兵器を作った人物とはどうやっても結び付かない。

 

 海東の言葉を偽りだと叫ぼうとは思っても、奇襲と拉致までしたライダーがそんな嘘をつく理由がどこにある。信じたくないが故に否定をしようとして、事実をより強固な真実へと塗り固めてしまう。

 

 そして最後の一押しは最も聞きたくない相手からだった。

 

「そんな男に同意するのは心底癪に触るけど、全て本当のことよ。大地くん」

 

 その凛とした声はひっそりとした廃遊園地にはよく響く。例え耳を塞いでいたとしても、この声はこじ開けて聴覚を刺激されたに違いない。

 

「小沢さん、氷川さんも……」

 

 アタッシュケースを提げて現れた小沢と氷川がゆっくりと歩いてくる。ニヤついている海東からして、二人が来たのは想定内であるように見える。

 

「大地さん、北條さん、無事ですか!?」

 

 縛られた大地達に駆け寄ろうとした氷川の足元へ、次々と光弾が着弾して強制的に足を止めさせる。ネオディエンドライバーを手元で回す海東と氷川、小沢の視線がぶつかった。

 

「思ったよりも早い到着だね。じゃ、まずはそっちから差し出してもらえるかな?」

 

「貴方が約束を守る保証はあるのかしら? 貰うだけ貰って、後は一網打尽だなんて洒落にならないわ」

 

「なるほど。でもどの道君達に交渉の余地はないはずだけど?」

 

 横薙ぎに振るわれた海東の腕の先、放たれた光弾は大地と北條の靴先から数センチ先に着弾した。突然の発砲とはいえ、非常に情けない悲鳴を上げてしまう。似たような声が隣からも上がったことまで気を払う余裕すらない。

 

「やめろ!! それ以上撃つならこちらも……!」

 

「氷川くん! ……降参よ。持って行きなさい」

 

 小沢は今にも発砲しそうな氷川を諌め、アタッシュケースを海東に投げた。かなり雑な投合だったが、やたらとアクロバティックな動きでキャッチした海東には関係なさそうである。

 その中から出てきたのは一枚のディスクと数枚の紙束。

 海東は紙束の中身に瞬時に目を通し、満足げに頷いた。

 

「うん。かなり初期型みたいだけど、まあこんなもんかな。交渉成立ってことで、そこの人質達も返してあげよう」

 

 海東が言い終わる前に駆け寄ってきた氷川が縄を解き始めてくれていた。

 結局海東の思惑通りに事が運んでしまったのが気掛かりではあるが、ひとまず当面の危機は去ったと考えてもいいのだろうか。

 

「今すぐ解きますから!」

 

「ちょ、氷川さん! 絡まってます! い、痛ててて!?」

 

 しかし焦っているせいか、氷川が解こうとしている結び目が何故か余計にキツく締まってしまい、北條とまとめて締め付けられた。

 慌てて戻そうとしているのはわかるが、それでも縛られる痛みは増すばかり。というか、もう縄を切ってもらった方が早い気がしてきた。

 アイコンタクトで助けを求めた相手である小沢は未だに海東を睨んでいた。

 

「待ちなさい。逃げる前に一ついいかしら」

 

「何かな? こう見えて忙しいんだ。手短に頼むよ」

 

「貴方、V2システムそのものを奪っておきながら、その設計図まで要求するのはどういう訳なの? 研究職って風には見えないけれど」

 

「なんだ、そんなことか────ねえ小沢さん。貴女の眼にこのV2の設計図はどう映った?」

 

 海東がV2の設計図をヒラヒラとチラつかせた瞬間、小沢の顔に微かな怖気が走ったように見えた。

 

「貴女の作ったG3に似ていると思ったんじゃないかな?」

 

「似てる、か。確かに否定はしないわ。けれど同じ装甲服である以上似るのは当然よ」

 

「とぼける気かい? 僕が言ってるのはコンセプトの方だよ。G3はクウガ──いや、未確認生命体第4号をモデルにして製作された」

 

 この場にいる人間の中で唯一大地のみが知り得ぬことだが、G3システムはクウガというライダーを人工的に再現するべく開発された経緯がある。

 

「つまりV2システムも4号をモデルにしている。そう解釈していいのかしら」

 

「まさか、そんなチャチなもの、お宝とは呼べない。G3はあくまで4号の映像記録から再現を試みただけ。V2はそれを上回り、だからこそアンノウンもV2を狙う」

 

「回りくどい言い回しはそれまでにしてちょうだい。時間がないと言ったのはそっちでしょ」

 

「ふう、つれないね。ならお望み通り単刀直入にお答えしよう」

 

 

「V2システムの正体。それは──」

 

 

 *

 

 

 同時刻、涼と瑠美は高村から渡されたメモを頼りにとある林道に来ていた。

 

「メモに書かれているのはこの辺りですね」

 

 日も沈んで暗くなってきたので、読み辛くなったメモをレイキバットがライトで照らしてくれた。有り難くもあり、両目が光り輝いているのは不気味でもある。

 

「足元に気をつけろ。何が飛び出すかわかったもんじゃない」

 

「いざとなったらお前達はすぐに逃げろ。嫌な予感がする」

 

 涼は具体的に何が、とまでは言えずともここに来てからずっと肌を刺すような感覚がしていた。身体全体がこの周囲を警戒しているのがわかる。

 

 やがて一行は今にも崩れてしまいそうな小屋を発見した。カーテンの隙間から僅かな光が漏れていることから、誰かしらが中にいるのかもしれない。

 

「ここ……みたいですね」

 

「ああ、上空から見渡した時にも他にそれらしいものは見つからなかった」

 

「入るぞ」

 

 涼はドアに手を伸ばす。鍵がかかっていたが、少し力を込めただけであっさりと開いてしまった。

 その際に大きな音が鳴り、小屋の中から悲鳴に近い叫びが飛び出してくる。

 

「ッッ!!? だ、だ、誰だ!?」

 

 中に居たのは一人の男性で、酷く慌てた様子だった。事前に高村から教えられた外見とも一致するし、彼が入山照であると涼達は判断する。

 

「驚かせてすまない。高村教授からこの場所を聞いたんだ」

 

「た、高村だって!?」

 

「別に強盗しに来たわけでもないから落ち着いてくれ。俺達は人を探している。真島浩二という男だ」

 

 涼が名前を言った瞬間、明らかに入山が青ざめた。

 どうなんだと言葉に出す代わりに一歩ずつ詰め寄れば、入山も同じだけ後ずさる。背中が壁に当たるまでそれは続いた。

 追い詰められた入山はその場に蹲り、ブルブルと震えだした。

 

「し、知らない、私は何も言ってない、教えてない! 私は知らない!」

 

「おいおい、これはちと怯え過ぎじゃねえか? 葦原の顔がそんなに恐ろしいのか?」

 

 瑠美のリュックから顔を出したレイキバットが涼の疑問の一部を代弁してくれた。これはどう見ても異常だ。

 一旦落ち着かせるべく、丸まった背中に手を置こうとした矢先に瑠美から声をかけられた。

 

「葦原さん、これ」

 

 振り返ると、瑠美は床に散乱していた写真を指差している。その指は震えており、息を吐き出すのにも苦労しているように見える。

 耐えきれなくなったのか、倒れかかった瑠美を涼が咄嗟に受け止め、介抱をレイキバットに任せて彼女が指し示していた写真を拾い上げる。

 

 そこに写っていたのは見覚えのある顔。紛れもなく真島浩二その人であった。

 

「これは……!」

 

 ただの顔写真だったなら瑠美が気分を害することはない。

 写真の中にいる真島浩二の顔には夥しい量の血が付着しており、皮膚の一部が剥がれているせいで歯や筋肉が露出していた。

 それだけでも十分グロテスクな内容なのだが、一番目を引くのは左眼が赤い複眼のように変質していることである。

 

 自身が変身した姿に酷似したその眼に驚き、散乱していた他の写真を拾い集める最中で涼の表情はさらに驚愕の色に染まっていく。

 

 いずれの写真も浩二が写っているばかりか、写真に記された日付が進むごとに浩二の異変も大きくなっていく。

 左眼と同様の変質を遂げた右眼から始まり、剥き出しになっていた歯は鋭利に尖った牙となり。額を突き破って出てきたと思われる紫の角は日を追うごとに巨大となって、顔の上半分を覆い隠した。

 それらの変質の途中でも肌の血の気はどんどん失われていき、ある時を境にその白さはある種の神秘性すら感じさせた。やがて肌全体が白く染まった頃には、肌質そのものが生々しく、そして神秘的に変わった。

 ギルスとは異なり、髪や耳などの身体の一部が人間のままであるせいで変質した浩二のその姿はより禍々しく見えてしまう。

 

 しばらく呼吸することも忘れ、力が抜けた手から写真の束がヒラヒラと舞い落ちた。

 

 

 *

 

 

 同じ頃に海東が暴露した内容は、すなわち涼達が目にした真実。

 

「V2システムの正体。それは──」

 

 そしてこの世界に生まれ落ちたIFの存在。

 

「──アギトだ」

 

 




真島浩二 仮面ライダーアギト

津上翔一の代わりに覚醒していたこの世界のアギト。かなり歪な姿をしているようだ。
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