長い、長いぞ。しかも駆け足気味
激しい戦闘の後、静寂が戻った廃遊園地の一角。
最も欲していた物は去り、戦う理由を失ったドウマは戦闘の余波で崩壊した遊具の破片に寄りかかって身体を休めていた。
少し離れた場所で退屈そうにしている大樹とは敵同士ではあるものの、今すぐ倒さなければならないというほどでもない。ディエンドの能力はドウマにとって非常に厄介であったし、戦わずに済むならそれに越したことはないのだ。少なくとも強力な手札を切った後で喧嘩を売るのは得策ではない。
だからこそ、彼の狙いはここではっきりさせておくべきだろう。
「お前、ダークディケイドライバーは狙いの一つなのか? さっきは奴のポーチも持ち去ろうとしていたが」
「別に。あれはほんのついでってところかな。あくまで僕が狙っていたのはG4とV2さ」
「だったら今後は邪魔しない……そう解釈してもいいんだな?」
「さてね。僕個人としてあの坊やが気に食わないから、ちょっかいはかけるかもね。その過程で彼のベルトが手に入ったなら、それは僕のものってことだよ」
「……それを俺に渡す気は」
「欲しければ自分で獲りなよ」
人を小馬鹿にしている大樹を衝動的に襲いそうになる自分を辛うじて抑えて、ドウマは浮きかけた腰を戻す。
ドウマは自身の消耗具合を鑑みて、ここは身体を労って次の世界に備えることにする。この忌々しいコソ泥ともまた改めて対峙する時は来るだろう。
そうと決まればもうここに用はないとして立ち去ろうとしたドウマに、思い出したかのように大樹が声をかけてきた。
「ああ、そういえばガイドだっけ? さっきの様子だと君は一杯食わされたらしいじゃないか」
「……奴に踊らされるのは今に始まったことではない。ライダーハンターシルバのカードを俺に渡してきたのも、大方俺とお前を潰し合わせて大地を救出するため、か。どっちにしろ、あんな奴を頼ったのが間違いだった」
「ふぅん」
話は済んだ。友達でもない男に別れを告げる気もなく、ドウマは煙のごとく消えていく。
だが、なんだかんだで「お宝」と称するターゲットを手に入れた大樹の興味は既にドウマから失せており、V2のマスクを愛おしげに撫でていた。
「今回は豊作だったね」
これだからトレジャーハンターはやめられない。
そんな誰にも理解されない思いを抱いて、大樹とV2の装備一式はオーロラの彼方へ消えていった。
*
警視庁内部は地獄という表現がこれ以上無いくらい似合っていた。
青い顔で溺死した死体、全身がぐにゃぐにゃに曲がった死体、黒焦げでほぼ炭化した死体。どこを見ても死体、死体、死体の山。
目を覆いたくなる死に様の人達は恐らく皆警官であり、最後まで果敢に戦っていたのかもしれない。そんな勇敢な人々を虫ケラのように殺すアンノウンのどこに正義があるというのか。
「ハアアッ!」
ダークディケイドは今まさに警官の首をへし折ろうとしていたアントロードにタックルを仕掛けて引き剥がす。突然攻撃されて混乱している様子のアントロードを全力で何度も、何度も斬り付けて、動かなくなるまでライドブッカーを振るった。
斬り刻まれて爆散した敵を思考から切り捨て、次の標的と救う対象を探す。倒す敵について一々考えている余裕と気力は今の大地には残っていないのだ。
FINAL ATTACKRIDE DE DE DE DECADE
「ッラアアッ!」
いつもより三割減のスピードで以って放ったディメンションスラッシュはマンティスロードの腹部を真っ二つに裂いたが、剣を振り抜くには若干苦労した。
ダークディケイドの姿に恐れ慄いたのか、顔を引きつらせて逃げ出した警官を見送った次に見据えたのは鞭で警官の首を締めあげているスネークロードだった。
だらんと下がった腕を持ち上げて、ライドブッカーから金色のカードをまた一枚取り出す。
FINAL ATTACKRIDE DE DE DE DECADE
艶めかしく笑っていたスネークロードは今更ダークディケイドに気付いたようだが、ガンモードに変えたライドブッカーの狙いは定まった後だった。放ったエネルギーの濁流がスネークロードを飲み込み、獲物の首から離れ、焼け焦げた鞭だけが残された。
「次……」
カメンライドはなるべく温存しておかないと途中で限界が来るのは自明だ。油断すればすぐに意識を手放してしまいそうで、エターナルやダークキバのような負担の大きいライダーを使った時には敵を倒す前にぶっ倒れるだろうという確信すらある。
少しでも多くの人を救うため、ダークディケイドはさらに奥へと進み、剣を振るう。
*
警視庁本部はシンプルに言えば広く、大きい。
内部に進行しているアンノウンをダークディケイドが追い、外部ではギルスがクレイフィッシュロードと戦っているが、それでも取り零しは発生する。その数は少ないものの、警官達の脅威となることに変わりはない。
「撃て! 撃てぇ!」
勇ましい声が長い廊下に響き渡る。
突如出現したアンノウンの群れに必死に応戦する警官達が一人、また一人と倒れていく。
蠍の模様が入った盾と斧を構えるスコーピオンロード、強固な外殻に身を包んだクラブロードは飛来する銃弾の嵐に怯まず、悠々と歩みを進めている。彼らの足元で倒れている警官達はピクリとも動かない。
効かぬと理解していながら発砲を続ける人間はアンノウン達にはさぞかし滑稽に見えていることだろう。彼らが息を吐く仕草にも嘲りが含まれているようだ。
だが、彼らの背後から新たに響いた銃声と背中に広がる熱には振り返らざるを得なかった。
「……?」
普通の人間が扱う銃火器ではアンノウンにダメージを与えることは叶わない。しかし、スコーピオンロード達の背中に着弾したそれは確かなダメージを与えていた。
そして彼らの背後で構えていたのは、青と銀のパワードスーツを装着した戦士。胸のエンブレムに恥じない誇りを抱き、再び戦場に舞い戻った男──氷川誠。
またの名を──仮面ライダーG3。
「おおおおッ!!」
G3は右腕に装備している高周波振動ソード『GS-03 デストロイヤー』を待機状態のままで、左手に持つ銃『GM-01 スコーピオン』と共に構えて突撃する。
GM-01は生身の人間ではとても扱えない威力を発揮して、怯ませたスコーピオンロードとクラブロードの足をその場に縫い付ける。銃の威力もさることながら、G3の──氷川のかつてない気迫もその勢いを後押ししていた。
同僚達とアンノウン達の間に転がるようにして滑り込んだG3はさらにGM-01を連射する。他のアンノウンよりも強固な外殻の彼らにはそこまで目立ったダメージにはならずとも、確かな効果は実感できている。
『氷川くん、今のG3の装備はG3-Xのために強化改良していたものよ。反動は増しているけど、その分威力は抜群だから思う存分暴れてやりなさい』
「了解! ──ここは僕が引き受けます。貴方達は負傷者を連れて避難を!」
「わ、わかった!」
小沢の通信内容を把握すると同時に、G3はアンノウン二体にしがみついて壁に叩きつける。
G3がアンノウンを食い止めたおかげで、その場にいた警官達はその脇を通って避難する。G3のパワーではアンノウン二体を食い止めておける時間などたかが知れていたが、それでも生存者が避難できるだけは稼げていた。
G3は鬱陶しいと言わんばかりに突き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。
これで周囲への被害を心配する必要も無くなり、GS-03を振るうことができる。
『GS-03 アクティブ! ……くぅ〜! 一度言ってみたかったんだよこれ!』
小沢とは違う間の抜けた通信(何故かガイドがオペレーターを手伝っている)がGS-03の安全装置解除を告げる。
展開したブレードがアンノウン達を切り裂くべく唸りを上げ、G3は自身の右腕を一気に振り下ろす。
触れる物全てを切り裂く高周波ブレードならば強固な外殻であろうと問題なく斬れるはずだ────当たればの話ではあるが。
「ぐああっ!?」
そんな大振りの一撃が命中するほどアンノウンは甘くないのだ。
GS-03は難なく回避され、逆にスコーピオンロードの斧が胸部装甲に叩きつけられてしまう。
たった一撃、それだけを食らっただけだというのに、その衝撃は装甲を超えて氷川の全身に激痛を与えて意識すら刈り取ろうとしてくる。
しかし、そんな痛みは慣れっこでもある。このG3を装着した氷川は数え切れない痛みを味わいながらも、一度として逃げたことはない。この身体が生きている限り、G3は立ち上がり続けるのだ。
G3は一瞬倒れかけた足に再び力を込め、頭部に振り下ろされた斧を辛うじて構えたG3-03で防ぐ。しかし、鈍い輝きを放つ斧の刃は留まることを知らず、少しでも力を抜けばG3のマスクを叩き割るに違いない。
武装が強化されていても出力はG3のままで、アンノウンとの鍔迫り合いに真っ向から打ち勝てるだけのパワーは無いが、そんな事実に今更悲観するほど楽観的でもなかった。
「食らえっ!」
GS-03は斧を防ぐのに精一杯であるが、GM-01はまだ使える。
G3はスコーピオンロードのガラ空きになっていた腹部に向けたGM-01を超近距離で連射、怯ませたところへ渾身の蹴りを浴びせた。
敵を蹴った勢いを利用して後方に転がり、距離を取ってからさらにGM-01を連射してアンノウン二体を的確に撃ち抜く。
『さっきの一撃で胸部ユニットに軽度の損傷。まあこれくらいなら問題ないぞ?』
『あんた、余計なことは言わなくていいわ。氷川くん、もっと根性見せなさい!』
「はい!」
懐かしい激励を受けて、さらに激しさを増す銃撃。
その大部分が盾に弾かれているとはいえ、防戦一方のアンノウン達は壁を突き破って逃走する。
ラチがあかぬと見たか、はたまた別の目標のためか……いずれにせよ、見逃す手はない。
G3は瓦礫を押し退けて、アンノウンを追う。彼らが消えた先はさらに奥へと続いていた。
*
警視庁内部に侵入した多数のアンノウン達はとある一点を目指して侵攻していた。
主が憎む悪しき力を糧に動く人形を誘き寄せ、そしてその力の在り処をついに突き止めたのだ。邪魔をする者は全て捩伏せ、そして悪しき力を滅するために彼らは突き進む。
「ヒイッ、ハヒィ! ア、アギト! アギト! 私を助けてくれ! アギト!」
避難命令が勧告された警視庁内部にはもはやほとんどの人員が残っておらず、逃げ遅れた者達もライダー達の活躍で退避していた。
しかし、この息を切らせて走る男──入山照は警視庁から退避するどころか、逆にその奥へと向かっていた。時折すれ違う警官が何事か叫んでいても、一切見向きもせずに。
足をもつれさせて、すっかり息が上がった彼が辿り着いた先はV2の動力源が保管されている部屋。鍵を持つ手が震えるせいで何度も差し損ねて、転がりこむように部屋に入った彼は中央で鎮座する水槽に縋り付く。
一定の間隔で点滅している水槽の中には人影らしきものが浮いており、数えるのが億劫になるほどのコードが繋がれていた。
「アギト! た、た、頼む! 私は死にたくない!」
みっともなく泣き叫んでも、何度叩いても、水槽に変化はない。入山がどんな呼びかけをしようと、光の点滅以外の反応は返ってこない。
そうやって鼻水と涙でぬかるんだガラスを叩くうちに、いつの間にか自分以外の者がそこに映りこんでいることに入山は気付く。
長い牙、マントのごとき巨大な羽、人間を容易く引き裂けるであろう鋭い爪────コウモリの姿をしたアンノウン、バットロード。
その背後にはG3が交戦していたスコーピオンロード、クラブロードも従えている。
「あ、ああ……! よ、よせ、やめて、やめてください! 私は何も喋っていない!」
「キキキ……」
届く物を手当たり次第に投げつけても、バットロード達が意に介した様子は無い。入山の土下座混じりの命乞いを聞き入れすらせず、ただ目的を達成するためだけに歩みを進める。
そしてギラリと煌めく爪が水槽にしがみ付いている入山の喉笛を────
FINAL ATTACKRIDE DE DE DE DECADE
「ツァァァァァ!!」
────引き裂く前に、黄金のゲートを貫通してきたダークディケイドの蹴りがクラブロードに突き刺さった。
不意打ちとして決まったディメンションキックは正面から受け止めたならいざ知らず、無防備な状態で受けるには余りに強力で、クラブロードは断末魔すら上げられずにあえなく爆散してしまった。
着地したダークディケイドは突然の出来事に言葉を失っていた入山を守るように立ちはだかり、そこにもう一人の戦士も駆け付けた。
「しっかりしてください入山さん! 早くここから逃げて!」
「その声は、ひ、氷川さん……!?」
スコーピオンロード達を追ってきたG3に揺さぶられて微かに落ち着きを取り戻した入山であったが、未だにしがみついている水槽から離れる素振りは見せない。
「はぁ、はぁ……! お前達を倒せば、多分、全部……!」
「キィィー!」
ダークディケイドはここに着くまでの道中で多くのアンノウンを撃破してきた。もう大地自身のキャパシティはとうにオーバーしているし、いつ倒れてもおかしくなかった。カメンライドも後2回が限度といった具合か。
(使うなら確実に倒せる場面だ。もしかしたら他にいるかも……いや、今は考えない!)
バットロードも目標を入山達から同胞を一瞬で消し去った脅威へとシフトし、即座にダークディケイドに襲いかかる。援護しようとしたG3にはスコーピオンロードが行く手を阻む。
どちらも手早く片付けるべく剣を振るうのだが、バットロードは他のアンノウンよりも中々に手強く、極度の疲労を相まってダークディケイドは苦戦を強いられる。元よりスペック不足のG3は言わずもがなである。
少しずつ劣勢になっていくライダー達の傍らで相変わらず水槽にしがみついて震えている入山。
足がすくんでしまったのか、一向に逃げ出さない彼をこの場から連れ出すにはあともう一人誰かが必要となる。
そしてその助けは意外と早くやって来た。
「入山さん!……この部屋は確かV2の動力源があったはずでは?」
「北條さん!?」
目撃した入山を追っていち早く警視庁に突入していた北條の登場はダークディケイド達にしてみればまさに最高のタイミングであった。
彼が入山を連れ出してくれれば、ひとまず周囲の被害を考えずともよくなる。
「北條さん、あの人を!……北條さん?」
「これは……これは一体?」
しかし、その肝心の北條は水槽に目を奪われている。
水槽の中身が気になると言えばその通りではあるが、優先すべきは避難のはずだ。それがわからない北條でもないはずだが……。
「あの海東大樹なる人物が言っていたことが正しいとするなら……これが、アギトだということですか……入山さん、答えてもらいますよ」
「わ、私は……だ、だめだ! 何も話しちゃいけないんだ!」
ここにきてまさかの押し問答まで始まるというのか。
思わず頭を抱えたくなったダークディケイドは苛立ちを乗せた前蹴りでバットロードを吹き飛ばした。すると、バットロードがぶつかった衝撃で奇しくも机の中身が散乱することとなり、様々な資料が飛散した。その内にあった一枚の写真が偶然足元に舞い落ちて、ダークディケイドの目に留まった。
「ん?…………これって人、なのか」
人間とライダーが入り混じった、怪物じみた外観の男が写った写真など目に留まらないはずがない。
大地が知るどのライダーにも該当しない禍々しさには思わず目を背けたくなる。
そして散らばった資料は北條の足元にも散らばり、彼はそこに目を通す。本当に読んだのかと疑いたくなるぐらいに速読であったが、彼の青ざめた顔がその真実を物語っている。
北條が握り締めた資料には「被験者 真島浩二」との記載があった。
「この資料で疑う余地は残念ながら無くなりました……V2の動力源はアギトであり、アギトとは人間が進化した存在であると。入山さん、貴方は不法な人体実験でV2を作り、そしてその動力源にしていた」
「人体実験……? 一体、どういうことですか!?」
「その答えは私よりも、彼に聞いた方が正確でしょう」
北條に詰め寄られた入山はそれでも頑なな態度を崩さない。
駄々をこねるように首を振って、しかし再びダークディケイドに襲いかかったバットロードを見ていよいよ感極まったか、枯れた叫びを絞り出した。
「し、仕方が無かったんだ!! アンノウンから私の身を守るためには、浩二君に犠牲になってもらうしかなかったんだ!! 最初はアギトとなった浩二君のデータだけで作ろうとして、それでも、それでも足りなかった!!」
真っ赤に充血した眼で獣が吠えるように喚き散らす入山はとても以前の気弱そうな彼とは思えない。
だがそれより衝撃的なのは彼が語る内容にあった。
「だから、だから彼にはV2のパーツになってもらうしかなかった!! 事実それでV2は完成したし、G3なんかよりも戦果を上げてきた!!私は何も間違ったことはしてない!! ほ、北條さんだってそう思うでしょう!?」
ここまで言われれば察しの悪い大地にも理解はできた。
つまりこの入山はV2システムを作りあげるために仮面ライダーアギトをそのまんま利用したということだ。それもデータを基に、なんて生半可なことではなく、正真正銘の人体実験と動力源として。
仮面ライダーは人間が変身する戦士。アギトに変身していた人物が今どのような状態にあるのか、その謎もあの水槽の中で眠っている。アンノウン達が狙っているのもその中身なのだろう。
だがどんな形であれ、人間を、ライダーを部品のように扱うシステムが認められるものだろうか。そう思えば小沢が言っていた言葉の意味も自ずと理解できる。
「パーツだって……!? そんなシステムがこの世界では許されるんですか!? その真島って人はどうなるんです!?」
「許されるかどうかなんて知るもんか!! 浩二君だって理解してくれたし、大体君のように力を持っている奴に私をどうこう言う資格は無い! なんなら君がV2の代わりにずっと私を守ってくれるのか!? できないだろう!! 役立たずはもう黙っていてくれ!!」
入山が何故ここまでアンノウンを恐れているのかまではわからない。言っていることだって支離滅裂で、そうやって喚いてなお水槽から離れない姿は逆に哀れに思えてくる。
惨めな姿に言葉を失ったダークディケイドに代わって静かに口を開いたのは先ほど肯定を求められた北條であった。
「……確かに、V2は素晴らしいシステムです。アンノウン対策としてあれ以上の物は私には考えられない」
「な、北條さん!?」
北條がV2を肯定する言葉を吐いたのはダークディケイドには意外であった。嫌な人ではあるが、ここで入山を支持するとまでは思わなかったのだ。
そんな北條に詰め寄ろうとしたダークディケイドであったが、起き上がったバットロードを抑える役目を放り出すわけにもいかず、歯痒い思いで入山に非難の視線を向けることしかできない。
「や、やっぱり北條さんは理解してくれましたか!」
「ええ、経緯はどうあれV2が撃破してきたアンノウンは多い。今までの行いを否定する気にはなれない。……いえ、一つだけ正さなければならないことはありましたね」
「? そ、それは一体──」
もし変身していなければ、目で追えないくらい北條の動きは速かった。
拳銃を構え、安全装置を解除して引き金を引く。その行程が恐ろしく速く、気付けば数発の弾丸が飛んでいた。
銃弾は入山が疑問を浮かべたポカンとした表情を崩す前に、彼へと──彼の背後へと撃ち込まれた。
────ピシリッ!
「はえ?」
発砲した音も、水槽に刻まれた亀裂の音も入山には理解できていないようだった。
入山に一切当てず、後ろの水槽のみを狙った弾丸は亀裂をどんどん広げ、やがて決壊する。
肉が腐ったような臭いの液体が滝のごとく流れ出し、呆然としている入山をずぶ濡れにしていく。
人とライダーをごちゃ混ぜにした軟体動物っぽい何かが散らばったガラス片に混じって、生々しい音と共に地面に流れ出る。
「
「……あ、あ、アギト……?」
予期せぬ形で人目に晒されることとなったアギトにダークディケイドも、G3も、アンノウンでさえも視線を釘付けにされる。
曲がりくねったアギトはしばし痙攣を続けていたが、それも収まると変化が訪れ始めた。粘度を感じさせる白い身体は透き通っていき、溶けていく。人間の名残があった顔なども例外なく、骨を残さず液体として流れ落ちる。
「あ、ああ、駄目だ……駄目だぁぁぁ!? アギト! 駄目だ!」
そう叫んだ入山は人型(と呼べるかも怪しいが)の形態を少しでも残そうとして、未だ悪臭漂う液体に身を投げ出した。
自身が汚れるのを全く気にせず、早口で何事か唱えながらアギトであった液体を掬い上げようとするのは狂気としか言えない。
そして大地は入山のそんな姿を見て、咄嗟にこう思ってしまった。
醜い、と。
「フシー……シッ!」
「ひぎぃ!?」
場の沈黙を破ったスコーピオンロードは自身と組み合っていたG3を突き飛ばし、頭部にある触手を伸ばして入山の首筋に突き立てられた。
そんな彼の悲鳴でダークディケイドはようやく我に返るも、時すでに遅し。
天井の壁を砕いたバットロードはその足に捕まったスコーピオンロードを連れて飛び去って行く。どうやら目的は達成したようだが、逃がすつもりない。
FORMRIDE GARREN JACK
金色のゲートを越えて、ジャックフォームに直接変身したDDギャレンはバットロードを追って彼等が開けた穴に飛翔する。
その直前、未だに液体に塗れて悶えている入山を一瞥してから、無言でアンノウンの後を追う。
残されたのはG3と北條、そして入山。
ここは北條に任せてアンノウンを追うのが定石なのは百も承知だが、いくら氷川とてあの衝撃的な光景を目にすれば動揺もしていた。
『氷川くん、アンノウン達は建物の外に逃げるつもりよ』
「小沢さん……しかし、今のは」
『言いたいことがあるのは私も同じよ。でも大地くんを助けたいと言ったのは他ならぬ貴方のはず。違ったかしら』
「……はい!」
頷き、自身もまた部屋を後にしようとするG3。
だがその際にどうしても言っておきたいことが氷川にはあった。
「入山さん、僕は北條さん違って人をパーツにしたV2が正しいとは微塵も思えません。だからこそ、僕はこのG3でアンノウンを倒して証明してみせます。人間は自らの力で守れると」
「……アギト、アギトが」
呼びかけても、入山には返事をするだけの気力が残っていないようだ。
「北條さん、この場をお願いします」
「ええ、氷川さんも頑張ってください!」
「はい!」
G3は珍しい激励に力強く答え、部屋から飛び出して行った。
己の職務と課した使命を全うするために。
*
戦いは警視庁の内部だけではない。
ジャックフォームとなったDDギャレンがバットロードとの激しい空中戦を繰り広げている下で、仮面ライダーギルスとクレイフィッシュロードの戦闘は続いていた。
それはスタイリッシュとは程遠い、泥臭い殴り合いであったが、勝負はパワーに勝るギルスの方に分があった。
「ウォォア!」
腕から生やしたギルスクロウでクレイフィッシュロードの鋏を弾き、裏拳を顔面に叩き込む。さらに回し蹴り、膝蹴りと連続で浴びせればクレイフィッシュロードは呻き声を残して吹っ飛んだ。
その見た目通りの硬さはギルスの圧倒的なパワーをも凌ぐかに思われたが、ギルスには優れた俊敏性もある。一発で足りなければそれ以上の攻撃を叩き込めばいいのだ。
口から吹く発火性の泡も厄介な武器ではあるが、それはすでに見た技に過ぎない。ギルスフィーラーを振り回した風圧で吹き飛ばせば、大した被害は被らずに済む。
こんな調子で戦っているせいで戦闘時間だけが長引いていくものの、ダメージ自体は着実に溜まっている。
しかし今は優勢でも長期戦に縺れこまれれば体力面からギルスが不利になるのは確実。故にそろそろ決着をつけておきたいのだ。
「オォォォーッ!!」
ギルスの雄叫びに呼応して、彼の踵から鋭い爪が生やされる。
そのまま高く跳躍したギルスは必殺の踵落とし、ギルスヒールクロウを炸裂させようとするが──
「シィーッ!」
ここにきて、己の危機を悟ったクレイフィッシュロードはついに奥の手を使ってきた。
背中の甲羅を宙に放り投げたかと思えば、なんとバラバラに砕け散ったのだ。それだけなら何ということはないが、砕け散った破片は意思を持っているかのように浮かび、その一つ一つがミサイルの如くギルスに飛来したではないか。
「ウォアアアッ!?」
絵面だけなら何とも間抜けな技だが、その威力は侮るべからず。
今まさに必殺技を炸裂させようとしていたギルスに殺到した甲羅のミサイルはその全身に裂傷を刻んだ。血液が沸騰する高熱と耐え難い激痛のあまりに墜落してしまい、ギルスヒールクロウは中断という形で終わってしまう。
自身の装甲の一部を犠牲にしただけあって、クレイフィッシュロードの切り札は見事にギルスへの逆襲に成功してしまったのだ。しかも甲羅の破片はまだまだ残存しており、クレイフィッシュロードの頭上でいつでも飛ばせる状態になっている。
これにて風向きは変わり、戦局は再び振り出しどころか、クレイフィッシュロードに形勢が傾きかけてさえいる。それだけ遠距離武器の有無は大きいということだ。
しかし、それもギルスがこのまま手をこまねいていたら、という前提付きの話。孤独が似合う彼にもいつも付き添ってくれた味方はいるのだ。
「ウォォォォォァア!!」
どこまでも高く響く咆哮はギルスのただ一つの相棒を呼び覚ます。
咆哮に応えるのもまた咆哮。相棒の元に一秒でも早く駆けつけようとする常識離れしたスピードを出すそのバイクには搭乗者がいなかった。
それこそが意思を持ったマシン、涼のバイクがギルスの能力で姿を変えたその名はギルスレイダー。
爆速でやってきたギルスレイダーはギルスを乗せると、さらにスピードを上げる。すかさず甲羅の破片が飛来するが、稲妻よりも速く駆け抜けるギルスレイダーには掠りもしなかった。
葦原涼が培ってきた運転技術とギルスとしての能力が合わさったことで本領を発揮したギルスレイダーに追い縋れる者などほぼいないと言っていいだろう。
クレイフィッシュロードを翻弄するべく周囲を駆け巡っていたギルスは破片の残弾が僅かと見るや、方向を転換して真っ直ぐ敵へと向かう。迎撃しようとする破片など脅威になり得ない。
「ガァァッ!?」
時速360kmの猛スピードで激突されたクレイフィッシュロードは吹き飛び、残っていた破片は全て跳ね上げた前輪で蹴散らす。これにてお膳立ては整った。
ギルスレイダーを急停車させ、その勢いのままにギルスは跳躍。無論踵には爪を生やした状態で、だ。
ギルスはそのまま、フラつきながら立ち上がったクレイフィッシュロードの肩へとギルスヒールクロウを振り下ろした。バイクの勢いも上乗せさせた踵落としの一撃を防ぐ手立ては敵には無い。
「オオオオーッ!!」
ズブリ、と嫌な音と肉を貫く感触が足先から伝わり、勝利を確信したギルスの勝鬨が轟く。肩口から心臓を貫かれたクレイフィッシュロードには抗うこともできず、苦悶の声を細々と漏らしながら最後の瞬間を待つのみ。
そして蹴り飛ばされたクレイフィッシュロードの頭上には彼の死を告げる白い輪が浮かんだ。
「シ……シシ……ジェァァアッ!?」
その肉体は跡形もなく爆発四散するという末路を遂げ、勝者となったギルスは崩れ落ちるように変身を解いた。
まだアンノウンがいることはわかっている。しかし、万全でもない涼ではここが限界だった。
涼は全身から噴き出る汗と疲労に身を任せ、冷たいアスファルトの上に寝転ぶ。
空を仰ぎ見る彼の視界には金色の翼を広げて戦う赤い戦士がいた。根拠は無いが、あれが瑠美の言っていた人物なのだと理解できた。
「……負けるなよ」
聞こえるはずがなくとも、そう言わずにはいられない。
せめて少しでも届くように、握り拳を力無く空に向けた。
*
仮面ライダーギャレンの強化形態であるジャックフォーム。
それと同じ姿になることで、飛行能力を身に付けたDDギャレンならばバットロードとも互角以上に戦えるはずであった。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
しかし、現実はそう単純にはならない。
ジャックフォームは体力も残り僅かで変身するには些か負担が大きく、武器が使いづらい銃剣という理由も重なって苦しい戦いを強いられていた。
理由はそれだけではなく、大地の脳裏に焼き付いたとある光景が酷い頭痛によってギャレンラウザーの照準をぶれさせるのだ。
────アギト、人間、水槽……醜い男
────実験室、鎖、苦痛……そして……
(クソッ、クソッ! 集中しろ僕! 戦いの真っ最中だ! 空の上なんだ!)
ATTACKRIDE FIRE
縦横無尽に飛び回るバットロード目掛けて火炎弾を放つが、集中力を欠いた今の大地では当たるものも当たらない。冷静さを取り戻そうと頭を振っても、頭痛は増すばかりだ。
あれが衝撃的であったというのもそうだが、何故だかさっき見た光景が大地の頭に刺すような痛みを与えてくる。同調して思い浮かべるのは一切見覚えのない情景……いや。
(これは……僕の記憶、なのか?)
一つの可能性に思い至った時、DDギャレンは硬直してしまう。それは大空を自由に駆けるバットロードには致命的な隙としか言いようがない。
その刹那、膨れ上がった殺気と風圧は大地の意識を即座に現実へと引き戻すほどで、DDギャレンの首筋をすれ違い様に掻っ切ろうとした爪を辛うじて防げた。
だが、防げたのはその初撃のみ。即座に身を翻し、態勢を整えないうちに背中を斬り付けられてしまった。
「うあっ、ああああっ!?」
背中を裂かれた痛みに顔を歪めてしまい、次の瞬間には自身の身体が錐揉み回転しながら落下していることを自覚する。
視界の隅に映った一枚の羽から、先の一撃で羽を捥ぎ取られてしまったのだとわかったが、それだけでは解決策は浮かばない。
なんとか踠いて飛行を維持しようとしても、敵は大人しく待たないのだ。落ちていくDDギャレンを次々と斬り付け、それに伴って羽が一枚、また一枚と欠けていく。
これも不慣れな武器に体力を大幅に消費する強化形態という選択ミスが招いたこと。そもそもバットロードが逃走した際にダークディケイドライバーが脳裏に啓示したライダーはギャレンでは無かったのだが、あの時は突発的にジャックフォームのカードを叩き込んでしまっていた。
冷静さを欠いていたから、なんて都合の良い言い訳。既に後の祭りだ。
(宝の持ち腐れってのは今の僕のことを言うんだな……)
地面に激突した衝撃でジャックフォーム、さらにはギャレンの変身も解けて通常のダークディケイドに戻ってしまっていた。
打撲と裂傷、極度の疲労で身体を起こすだけでも億劫に感じてしまう。しかもそれに加えてネガティブな感情までふつふつと湧いてくる始末。
(僕は……僕は)
震える入山は特別な力を持たない、怪人に怯える哀れな一般人であった。
そして同時に人間を、ライダーをあんな姿になるまで犠牲にして、あまつさえ「自分は悪くない」と宣う男でもあった。
彼は哀れだ。
────だが、それ以上に、とても醜い。
(だから、かな)
大地は一瞬でも思ってしまったのだ。
────アンノウンに殺されてしまえばいい、と。アンノウンが正しいのでないか、と。
そんなドス黒く、モヤモヤした感情に折り合いをつけようとしても、今が戦闘の真っ最中ということを忘れてはならない。
現在進行形で全身を高速回転させながら、ダークディケイド目掛けて突っ込んでくるバットロードをなんとかしなければ最悪死ぬことだってあり得る。
立たねばならない。しかし、芽生えた黒い感情は大地を深い闇に誘おうとしている。
『後悔するがいい……! ライダーになったことを!』
『恐怖に怯えながら、絶望して死ぬがいい!』
『へぇ〜気持ち良いんだね、ベルトの力って……!』
大地を誘う声は次第に増え、大きくなる。気に入らない奴は纏めて殺してしまえ、と囁きかけてくる。
振り払おうとしても纏わりついてくる闇はさらに食い込んで、ダークディケイドを殺意と悪意、そして憎しみで染め上げる。
(まずはあの気色悪い蝙蝠を八つ裂きにして、次は未だ震えていること間違いなしの愚かな男を────)
ライドブッカーを握る手に知らず知らずのうちに尋常ならざる力が込もる。
大地の心が完全に食い潰されれば、ダークディケイドは暴走し、悪の記憶に飲み込まれた怪物となるだろう。
しかし、そうはならない。何故ならこの時、彼を呼びかける声が、呼び止める声があったから。
「……ちくん! 大地くん! 起きてください!」
「……瑠美さん?」
黒く染まって、硬く閉ざされようとしていた心に暖かな光が射した。
首を少しずらした先にいたのは、こちらに向かって必死に呼びかける瑠美であった。
数日ぶりに聞いた瑠美の声は随分久しぶりに思えて、彼女の優しさと暖かさが余計に感じられる。
だからだろうか。大地の心も急速に引き戻されたのは。
「……ぅああああーッ!」
ATTACKRIDE BLAST
無我夢中でカードを装填して、目と鼻の先に迫っていたバットロードを間一髪迎撃できた。
こちらの狙いが甘かったこと、敵が咄嗟に躱したことでディケイドブラストはまともに命中こそしなかったが、命を拾うことはできた。
だが、もし瑠美の声が無ければ今頃は……と考えると思わずゾッとしてしまう。
(そうだ……僕が戦わなきゃ、アンノウンは瑠美さんを殺すかもしれない。それだけは絶対に許さない!)
ダークディケイドは闇を辛うじて心の隅に追いやり、代わりに喝を入れて立ち上がる。
己を掬い上げてくれた瑠美に心中で感謝を述べながら、恐らく最後となるであろうカメンライドカードを取り出した。
KAMENRIDE MACH
「はぁ……! 僕は、僕だぁぁ!!」
白いスーツと装甲のDDマッハとなって、ダークディケイドは闇夜に羽ばたくバットロードにゼンリンシューターの光弾を放った。
その際に叫んだ言葉はほとんど無意識で、震えが混じった叫びであった。
*
バットロードと共に逃げ出した筈のスコーピオンロード。
DDギャレンに追跡された時、迎撃を選んだバットロードに一旦地面に降ろされた彼はそのまま警視庁を立ち去るつもりであった。
だが、死屍累々となっていた正面ゲートを潜ろうとした彼の背中にまたもや銃弾の雨が突き刺さる。
「ここまでやっておいて、逃がしはしないぞ!」
「フシー……!」
スコーピオンロードはその煩わしい攻撃の主を振り返る前から知っていた。
その銀色の戦士の名をG3と知っていたのか定かではないが、収納していた武器を再び取り出した時点でG3への敵意は十分であった。
対するG3も自身が乗っていた専用マシン、ガードチェイサーから降りて敵と対峙する。
斧と盾、それに加えて凄まじい殺気まで放つスコーピオンロードに氷川はG3のマスクの下で冷や汗を垂らす。
恐怖はあるが、全身に漲る戦意ほどではない。
『GG-02 アクティブ!』
アンノウンを追跡する途中、G3はガードチェイサーで武器の交換と補給を終えていた。
効果が見込めないと判断したGS-03を外しており、代わりにGM-01の拡張パーツである『GG-02 デストロイヤー』を装備している。これらを連結させることで、グレネードランチャーとして活用できるようになるのだ。
「ハァーッ!!」
撃ち出したのは20tの砲弾と裂帛の気合。
並み居るアンノウン達に大ダメージを、あわよくば撃破せしめたことだってあった砲撃は氷川にとっても信頼できる一撃だ。
そして舞い上がった爆煙に淡い期待を寄せるも、敵の健在を示す影が揺らめいていた。
「効かない……そんな!?」
スコーピオンロードには蚊に刺された痛みほども感じていないようだった。それもそのはず、GG-02の一撃は彼の持つ盾が完全に殺していたのだから。
あの盾がある限り、GG-02は効かない上、他に有効打もない。
だが、この程度の苦難は現役時代では日常茶飯事だった。そしてその頃から氷川は諦めるということを知らない。
『GA-04 アクティブ』
一旦GG-02を外したGM-01で牽制しつつ、G3は先端にアンカーユニットを付けた鋼鉄製のワイヤーで拘束する武器『GA-04 アンタレス』を装備する。
左腕に装備したGA-04をいつでも使用できるようにしておいて、あらゆる箇所へ弾丸を浴びせる。敵はGM-01の弾丸全てを盾で防いでいるが、G3の狙いはダメージを与えることにあらず。
スコーピオンロードの盾は見えない障壁を広げているらしく、いくら撃ち込んでも盾が傷付く前兆すらない。
しかし、敵の足元に撃ち込んだ弾丸は弾かれず、小さな火花が散るのをG3は目敏く目撃していた。つまり、今あの足元には障壁が存在していないのだ。
「そこだっ!」
勝機を見出したG3は足元へ向けてアンカーユニットを射出する。
勢い良く伸ばされたワイヤーが障壁の無い箇所を通り、スコーピオンロードの足首を引っ掛けた。G3が咄嗟に左腕を引けば、結果起こる事象はただ一つ。
スコーピオンロードの転倒である。
「おおおおーっ!!」
GA-04を放り捨て、拾い上げたGG-02を再び連結させて。
G3はそれらの行程を全力で駆けながら行い、倒れているスコーピオンロードに覆い被さるように組み伏せる。
邪魔な盾を使えぬよう抑えつけ、GG-02の銃口をスコーピオンロードの腹部に押し当てた。
「今度は外さない!」
「グゥ……!?」
瞬間、両者を包み込んだのは凄まじい爆炎と衝撃。
零距離で砲撃されたスコーピオンロードの末路など言うに及ばず、その反動をモロに受けたG3もまた少なくないダメージを負うこととなった。
だが、勝ったのだ。
『氷川くん!? 氷川くん! 無事なの!?』
「はい……アンノウン一体の撃破に成功しました……はぁ、次に向かいます!」
『待ちなさい、もう弾も残ってないでしょ。試作品がガードチェイサーに積んであるわ』
言われてようやく気付いたのだが、確かにガードチェイサーの後部には見慣れないアタッシュケースらしき物が積んである。
『番号は132よ。威力は折り紙付きだけど、今のG3には暴れ馬もいいところだから気を付けてちょうだい』
「了解!」
G3はガードチェイサーから取り外したアタッシュケースとGM-01だけ持って、激しい戦闘が未だ続いている場所へ急行する。
空中を自在に舞うバットロードと、地上を右往左往しながら必死に射撃するDDマッハの下へと。
*
ATTACKRIDE KAKSARN
「当たれぇぇ!!」
DDマッハは叫び、拡散弾を放ってバットロードを地上に落とそうと試みる。
視界いっぱいを埋め尽くす拡散弾であれば、と思ったがバットロードは器用にも弾と弾の間をすり抜けて自身の被弾を最小限に抑えている。
空中の敵に対しては有効な手段と思い、放ったまではいいが、やはり一筋縄ではいかないようだ。
「ならこっち!」
ATTACKRIDE MAGARL
マッハの能力の一つとして、多種多様な射撃がある。
今選んだシグナルマガールで弾道そのものを曲げた弾丸は大きく旋回しているバットロードの背後にピッタリ付いて、やがて追い付く。
敵が悲鳴と火花をあげながら墜落しかけたところまではガッツポーズをとりかけたが、すぐに態勢を整えて再び大空に飛ばれてしまった。
当たりはしても威力が足りない。あの大きな翼を撃ち抜くしかなさそうだ。
そこまでは判断がついても、今のDDマッハでは実行するまでは厳しいかもしれない。
「ああもう、ジャックフォームにさえならなければ……」
済んだことは仕方ないと割り切ろうにも、こうも辛いと愚痴りたくもなる。相手が自分自身なのだから別に許されるとは思ってもいる。
こうなったら駄目元でシグナルトマーレを使うべきか、と考えたところでバットロードがまたもや錐揉み回転しながら、こちらに向かってきている事に気付く。
「くっ……っつう!?」
DDマッハは慌てて回避しようとしたが、疲労が溜まったせいか、こんなタイミングで足がもつれてしまった。
転倒まではいかずとも、よろめいたDDマッハはバットロードにとって絶好の獲物なのは確かである。
「ああ、本当に今日は踏んだり蹴ったりだな……!」
こうなったら相打ち覚悟でトマーレをぶち込むだけぶち込んで、あわよくばファイナルアタックライドを食らわせるしかない。
そう考えてカードを装填しようとしたDDマッハの前に、白いボディを暗く染める影が立った。
それはまさしく駆けつけたG3であり、アタッシュモードから変形させたガトリング銃『GX-05 ケルベロス』を構えている。
「氷川さん!」
毎秒30発もの勢いで発射された特殊徹甲弾がバットロードを真正面から迎え撃つ。
その凶悪な面が風穴まみれになるかと思われたが、肝心の弾道がブレブレでバットロードに命中したのは放たれた弾の3割にも満たない数であった。
GX-05は通常のG3が使うにはあまりに高火力過ぎて、安定した姿勢で撃てなかったのだ。
しかし、絶大な威力を発揮したことに変わりはなく、面食らったバットロードは三度翻して空中に逃げていった。
強過ぎた反動に銃を取り落としそうになっているG3は疲労困憊のDDマッハから見てもかなり辛そうであったが、弱音を吐く気配も無い。
「大地さん、戦いましょう! 一緒に!」
差し伸べられた硬い手が一瞬眩しく見えて、それでもDDマッハは掴み、強く握り返した。
彼の真っ直ぐな正義感には自分では釣り合わないかもしれない。しかし、今は共に並び立って戦う時だ。
そして氷川から伝わった熱意に呼応するように、ライドブッカーから出たG3のカードに色が戻った。
「……はい!」
お互いボロボロでも、力を合わせればバットロードを倒せるはずだ。
一人ではできなくても、二人ならできる。いつもそうやって勝利してきたではないか。
G3が持っている銃ならバットロードの翼をズタズタにしてやれるだろう。流石に相手も警戒しているだろうし、確実に命中させるには同じ土俵で戦う必要がある。
「氷川さん、僕に考えがあります。信じて、くれますか?」
躊躇なく頷いてくれたG3を見てから、DDマッハは即席のプランを実行する。
まずは、空に行く。
ATTACKRIDE RIDE CROSSER
ATTACKRIDE RIDE BOOSTER
召喚したのは、合体マシンのライドクロッサーと飛行用マシンのライドブースター。
高機動のライドクロッサーにライドブースターを連結させたブースターライドクロッサーとなることで安定した飛行をも可能とし、しかもDDマッハとG3の両名が同時に搭乗もできる。
DDマッハはライドクロッサーの搭乗席に、G3はライドブースター ブルーの座席に乗り込み、ブースターライドクロッサーは天高く上昇を開始した。
突然現れた大型マシンに目を丸くしているバットロードに迫ったブースターライドクロッサーは射撃武装を解放。ワイヤーなども駆使して狙うが、バットロードは中々補足できない。
こうして空に上がっても、もうマシンから出て戦うだけの余裕はDDマッハには無い。
正真正銘のラストチャンスを不意にしないように、氷川の正義に応えられるように、そして、何より側にいてくれる瑠美のために、全力を尽くす。
「氷川さん!」
ATTACKRIDE TOMARLE
コックピットを展開し、中から身を乗り出したDDマッハは横のライドブースターに立っているG3に一発の弾丸を撃ち込んだ。その効力は拘束、停止。
シグナルトマーレの効果を受けたG3はライドブースターの上で完全に固定される。
「これは……!」
「それなら撃てます!」
ここまでされれば言われずともG3は理解できた。
G3はGX-05を構え、バットロードに狙いを定める。
反動による姿勢のブレを極力排除した今なら狙い通りに撃てるはずだ。
「ハッ!!」
火を噴くガトリングの反動が殺されず、全てG3の装甲にのしかかってくるが、氷川は歯を食いしばって耐える。
その大きい代償と引き換えに、形成されるのは圧倒的な弾丸の嵐。
途轍もない弾幕に曝されたバットロードの翼は瞬く間に穴だらけとなり、奇声を上げて墜落していく。今度こそ飛ぶことは叶わないはずだ。
FINAL ATTACKRIDE MA MA MA MACH
「ツァァアアアアーッ!!」
DDマッハはコックピットから跳躍し、虹色の光を纏って回転する。
ブースターライドクロッサーから飛び出た白い流星が、バットロードに架けた虹の橋──キックマッハー。
まともに飛ぶこともできないバットロードの胴体に突き刺さった一撃が虹のピリオドを打つ。
その果てで起こった大爆発から降り立ったDDマッハは危うげに着地した。
「も、もう無理……かな」
ダークディケイドの変身は自動的に解除され、身体ももう立つこともできそうにないほど疲れ切っていた。
心身揃ってこんなに疲れたのはいつ以来だろうか。いや、割とある気がした。
そうしてひたすら酸素を貪っていると、駆け寄ってきた瑠美と、ついでにレイキバットが恐る恐る覗き込んでいた。
「……その、ずっと無断外泊しててごめんなさい。誠心誠意謝ります!」
「瑠美の謝罪と看病、どっちが先がいい?」
数日ぶりとはいえ、久しぶりに会って言いたいことは山ほどあった。
だが、浮かんだどの言葉も喉をから出てこない。
「悪いんですけど、起きた、後で…………あと」
「「あと?」」
「お、おかえりなさい……それから、さっきは傍にいてくれて、ありがとう」
それだけは言っておかなければならない気がした。
大地はそう絞り出してから、ゆっくりと目を閉じる。
「……こちらこそありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます……!」
冷たい雫が大地の顔に落ちる。
ちょっとずつ滴るので、妙にこそばゆい感じがした。
────なんで瑠美さんが泣いているんですか?
その疑問を口に出す前に、大地の意識は完全に堕ちていった。
*
世間を賑わせた警視庁襲撃事件から数日が経過した頃。
事件の後処理や責任の追及に追われた元G3ユニットの面々がこうして久方振りに顔を合わせた時、その表情には隠し切れない疲労や苛立ちがあった。
行きつけの焼肉屋に着ているというのに、宴会という雰囲気ではない。
食欲をそそる香りが鼻腔に流れ込んできても、氷川の橋は網の上で静止している。
「結局、不明な点が多い事件でしたね……入山さんはアンノウンの毒で死亡、あのアギトという生命体の痕跡もほとんど残らず……。アンノウンの活動が沈静化したことだけが救い……と言えるかどうか」
「そうね……アギトをどうやってあの部屋に運んだのか、誰にも知られなかったのが偶然とも思えないわね。せめて入山照が生きていれば、ね」
小沢の生ビールを飲むペースもいつもより遅い。
未だに半分しか空かないグラスが彼女のやるせなさを物語っているようだ。
しかし、そんな暗い雰囲気を払拭するかのごとくひたすら肉を貪る男が一人。
牛タン、特上カルビ、ハツにピーマン、焼いては食う、焼いては食うの繰り返しだ。
「まったく……どうしてこういう時に限って僕だけ除け者になってるんですか。アギト? ダークディケイド? 僕には何一つ知らされてないっていうのに」
「仕方ないでしょ、あんたはG3ユニットが解散になった後もちゃっかりV2ユニットに居座ったんだから。ほら、黙って肉食ってなさい」
小沢に盛られた肉の山をばくばく頬張ってなお不満げな態度を崩さないその男は尾室隆弘。小沢には究極の凡人と称される彼は今回の事件では蚊帳の外であったことをかなり根に持っているようだ。
顔の知った同僚達が亡くなって日も浅いのに、あれだけ食えるのは大した肝の座りようだと氷川は内心思いつつ、彼も牛タンを一枚だけ食べた。
「北條さんはどうしたんでしょうか? それにV2システムは」
「どうしたもこうしたも、V2プロジェクトは凍結よ。高村教授も戻る気は無いと言っていたから、上はまたG3に働いてもらうつもりみたいね」
一口だけビールを飲んで、小沢は続ける。
「北條くんは……何か想うところがあったのかしら。しばらくは刑事としてまたやっていくみたい。ま、大人しくなるならそれに越したことはないわ」
「そう、ですか……」
またG3として働いていけるとしても、後味が悪い終幕のせいで氷川には素直に喜べない。
普段ならサバサバしてそうな小沢もそれは同様なのか、その日は結局ビールをおかわりしなかった。
「V2システム、それにアギト……か」
*
あの戦いの後、大地は丸一日眠りこけた。
眠りから覚めても身体の節々の痛みとか、怠さは抜けなかったが、それも時期に治ると思って流している。
むしろ目が覚めた時、隣で座って船を漕いでいた瑠美が風邪をひいていやしないかと心配になった。
色んなことはあったが、帰ってきた瑠美とレイキバット、それにあんなことがあったのに何食わぬ顔で帰ってきていたガイド。光写真館の賑やかなメンバーは無事に戻ってこれたのだ。
リビングに集っていつもの面々でワイワイガヤガヤするだけでも、大地の心は随分と和らいだ。
「戻って早々にこのザマとは……大地には俺がついてないと駄目みたいだな?」
「大地くん、ガイドさん、心配かけてすみませんでした」
「いやー、いいって、いいって。まあ大地の慌てっぷりを見せられなかったのは残念だけどねえ。瑠美さんはどこだ〜ってさあ」
「ちょ、ガイド! しーっ! しーっ!」
久々に見た瑠美の笑顔は心なしか、前よりも晴れやかだった。
吊られた大地も、自分がいつもより朗らかに笑えている気がした。
特別なことは何もしていなくても、彼女達と一緒ならとても楽しい。
(……でも、あの時の嫌な感情も紛れも無い僕の本心だった)
無論、そんな思いとは真逆の黒い想いを忘れたとは言わない。寝て起きてからも、あのアギトと入山の姿はずっとこびりついたままだ。
忘れられない記録がまた一つ。
(良い怪人がいれば、悪い怪人もいる。良いライダーがいれば、悪いライダーも。良い人間がいれば……悪い人間も)
あの一瞬だけはアンノウンが正義で、入山が悪に見えた。
きっとこれからもああいう人間を沢山見るのだろう。
(……当たり前のことだよ。僕がものを知らないだけ)
これから先のことはわからない。
ただ彼女の笑顔を見ていれば、最初に抱いた決意を胸にしていれば戦えるはずだ。
大地は重い溜息をゆっくりと吐き出して、今日の献立について話し合う面々を眺める。
そこでトンチンカンな発言をしたレイキバットがガイドに叩かれ、背景ロールの鎖にぶつかった。
目を回しているレイキバットの上から落ちる新たな背景ロールには、広い砂漠を走る緑色の牛を象った列車が描かれていた。
バットロード
警視庁を襲撃したアンノウンのリーダー格と思われる、コウモリ型のアンノウン。武器は爪だけで、飛行以外に目立った能力は無いが、侮れないのはジャックフォームにも匹敵しうるそのフィジカルである。
入山が隠していたアギトを抹殺することが真の目的であったようだ。
不穏な気配を残しつつ、G3編はこれにて終了となります。
今回は割と小ネタも多く、事件の真相についても不透明な部分があるので続きは活動報告に書きたいと思います。例によって仮面ライダーアギト本編の重大なネタバレを含むので、自己責任でお願いします。
次回の世界の主役は最近TVにも出ましたね。
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