デンライナーか存在せず、野上良太郎か電王にならなかった世界。
若き日の桜井侑斗がイマジンと戦っているが、残るカードは少ない。
なお、ハナはターミナルに回収されている。
時の列車、ゼロライナー。次の駅は過去か、未来か。
*
ミルクディッパーに赴こうとした大地はその直前で野上良太郎に言われた言葉によってしばし硬直せざるを得なかった。
大地と桜井侑斗は2ヶ月前から面識がある。
良太郎が言ったことを要約すればそうなる。だが、大地には数日前より以前に侑斗と出会った記憶はまるでない。
良太郎の言葉と大地の記憶に生じた矛盾。
良太郎が嘘を言っている可能性もあるが、彼がそんな無意味な嘘を吐く男ではないと確信を持って言える。
だからこそ、この矛盾は不気味で恐ろしく感じる。
「やっぱり……大地くんも侑斗のこと、忘れてるんだね」
「……『も』? ってことは?」
「うん、うちの常連さんに姉さん。僕以外の人達はみんな、侑斗のことを忘れてる。今の侑斗は『数日前からお店に来るようになったお客さん』としか認識されてなくて、でも本当は何ヶ月も前からうちに来てる常連客なんだ」
「そんな、僕にはそんな記憶全然……」
「おかしいよね。僕以外の誰もが侑斗のことを忘れるなんて。でも僕は侑斗が何度もお店に来ていることも、大地くんと色々話し込んでいたことも全部覚えてる」
良太郎が話せば話すほど、頭を抱えたくなる内容がポンポン飛び出してくる。
大地はその一つ一つを脳内で咀嚼しながら、少しずつ事実を浮き彫りにしていく。
「もしかして僕がイマジンのことを聞いたのも、あの桜井さんからだったから……だからそれを忘れてた。でも忘れていたとすら認識できてなかったなんて」
「あの、僕にはイマジンがなんなのかわかんないんだけど、でもこのままでいいとは思えないんだ。みんなが侑斗を何度も忘れていることも、それを平気な顔して受け入れてる侑斗のことも。それに、侑斗については他にも──ッ!?」
そこで良太郎の口は止まる。
何かを言おうと開いた口のまま、良太郎は白眼を剥いてしまった。
突然のことに大地も言葉を失っていると、ようやく良太郎が次の言葉を発した。
「……ふにゅうううん」
だが、それは言葉というよりも溜まっていた息を吐き出すような音。
良太郎は白眼のままへにゃへにゃと座り込み、なんとその場で眠り始めてしまった。それもスヤスヤと気持ち良さそうに、笑顔で。
しばし呆気に取られていた大地だったが、どこか身体でも悪くしたんじゃないかと思って彼の身体を揺する。何も無かったとして、こんなにも気持ち良さそうに寝ている人を起こすのは気が引けるが、道端で寝ていては風邪を患ってしまう。
「あ、あの良太郎さん? こんなとこで寝ちゃダメですよ? 良太郎さん? ……あれ、なにこれ?」
よく見ると良太郎の背中には小さな矢が刺さっていた。
恐る恐る抜いてみたが、特に出血した後も見られず、命に別状はなさそうである。
誰の仕業なのかと思った途端に、誰かが小走りで駆けてくる足音が聞こえてきた。
「あ、あー! の、野上じゃないか! こんなところで寝てると風邪を引くぞぉー!?」
ドタドタと慌ただしい様子で駆け付けてきた茶髪の男はやたら大袈裟に良太郎を介抱し始めた。
その男は良太郎を抱き抱えてからミルクディッパーに入っていき、店の中から「あら良ちゃん、また倒れちゃったの?」だの、「いえ、当然のことをしたまでです! 何せ良太郎くんと僕、桜井侑斗は友達ですから!」だの聞こえてくる。
あまりに矢継ぎ早に起こる出来事に大地の思考回路もかなりの高熱を放ちそうだ。
「今の人って……」
「桜井侑斗だよな……?」
大地の見間違いでなければ、良太郎を介抱した男は紛れもなくあの桜井侑斗だった。ただし、あのやけに甲斐甲斐しく世話を焼いているところと、言葉が棒読みなのに目を瞑ればの話だが。
眠ってしまった良太郎を預けた侑斗は腰が折れるんじゃないかと思う勢いでお辞儀を繰り返してから、店を出てきた。
大地に真っ直ぐ向かってくる侑斗の顔には普段の彼からは想像もつかないような満面の笑みが張り付いており、そのアンバランスな感じが奇妙を通り越して戦慄すら抱かせる。
「やあ大地くん! 僕は桜井侑斗! いやあ、こんなところで会うなんて奇遇だなあ!」
「さ、桜井さん……?」
「やだなあ、僕のことは侑斗って呼んで! 友達っぽく!」
「じゃ、じゃあ侑斗さんで」
この男は本当に桜井侑斗なのか。
ひょっとするとロイミュードの擬態か、ドウマの卑劣な罠、イマジンの仕業なのではと大地は疑わざるを得ない。それほどまでに態度が激変していた。
それこそぶつけるつもりであった質問を忘却してしまうほどに。
「これ、僕が作ったデネブキャンディー。お近づきの印にどうぞ! だから、だから、どうか侑斗をよろしく……!」
「ありがとうございます……ん、美味い」
「本当に!? 良かった! 沢山あるからいっぱい食べてくれ!!」
大地は知らないキャラの包装がされたキャンディーを侑斗にごっそりと渡され、その手をガッチリと握られる。
手作りキャンディーを渡され、涙ぐんで自分自身を紹介されて、正直困惑しかできなかったが、ここまでされると怪しむのも馬鹿らしくなってきてしまう。むしろ普段の不機嫌そうな態度は偶々そうだっただけで、この人当たりの良い好青年こそが本来の彼の姿なのかもと徐々に思い込み始めた。
「……よし! せっかくだし今夜は僕が夕飯をご馳走しよう! 勿論瑠美ちゃんにも──」
「────花崎さんのことを知ってる……?」
「……あ!? いや、ぜーんぜん知らない! あは、ははははは!」
前言撤回、やはりこの侑斗は大分怪しい。
誤魔化すように頭を掻く侑斗の背中から、吹き矢らしき筒がコロンと落ちた。
*
あれよあれよという間にスーパーにやってきた大地と侑斗。
侑斗は店内を隅々まで巡っては、ニコニコ笑顔で買い物カゴいっぱいに食品を詰め込んでいた。肉のパックに貼られた値段シールを比較して悩んでいたり、目を輝かせながらタイムセールに参加する様は主婦のようである。
「これと、これと……あ、これも安い! 大地くん、食べられないものはあるかな?」
「い、いえ、特には」
「偉いなぁ〜! 侑斗も椎茸食べてくれれば……いてっ、いてて! ごめん侑斗〜!」
突然自分で自分の頰にグリグリ拳を当て始める奇行を始めたりして、もはや大地にはどこからツッコめばいいのかわからなくなってきていた。
だが未だに怪しい点は多々あるものの、この侑斗から悪意は感じられない。当初大地が抱きかけた警戒心も大分薄れかけていた。
さながら母親の買い物に同行する子供の気分で侑斗の後を歩いていると、大地の肩が背後から軽く叩かれた。
「大地、何してるんだこんなとこで」
「大地くんもお買い物ですか?」
「瑠美さん、それにガイドまで」
二人で買い物途中らしき瑠美とガイドが珍しいものを見る目をしていた。
確かに大地が一人でスーパーに来るというのも二人からしたら不思議に思えるだろう。
どう説明したものかと悩み始めた矢先に、凄まじい速度でやってきた侑斗がペコペコ頭を下げ始めた。
「どうも! 大地くんの友達の桜井侑斗です! 大地くんには是非僕の手料理をご馳走したくって、買い物に来たんです!」
「そうだったんですか! はじめまして、花崎瑠美です。私も訳あって大地くんと同じところに住んでるんです。その、変な意味じゃありませんよ!? あくまで同居人ですっ」
「……」
「……どうかしましたか?」
侑斗は瑠美に挨拶された途端に神妙な顔つきで黙りこくってしまった。
怪訝に感じた瑠美に見つめられ、侑斗は我に返ったように首を振る。
「なんでもないよ。はじめまして瑠美ちゃん! これ、お近づきのキャンディー」
「わ! 可愛い包装ですね! ありがとうございます」
「そ、そんな可愛いだなんて〜」
(なんで侑斗さんが照れてるんだろう)
そんな取り留めのない考えをしながら、大地は通算4個目のキャンディーを口に放り込んだ。
買い物カゴ片手に瑠美やガイドと談笑に興じる姿はますます主婦と化していて、その輪から離れた大地は少しだけ疎外感を覚える。
だが、こっちまで釣られて頰を緩めそうになる侑斗の笑顔を見ていると、別の考えがぼんやり浮かんできた。
(友達、かあ……)
*
結局色々あって、その日の夕飯は侑斗が振る舞うということになった。
大地、瑠美にガイド、レイキバットといういつもの食卓の面子に侑斗を加えて囲む。侑斗が作ったメニューは和食中心で、太刀魚の塩焼き、ひじきの煮物、出汁巻卵、ほうれん草のお浸し、茶碗蒸し、かぶの浅漬け……その他盛りだくさん。あさりの味噌汁に炊き込みご飯も忘れない。
この短時間に、それも一人でどうやって作ったのかと首を傾げたくなる量の食事は食欲を刺激されるよりも先に圧倒されてしまう。
「張り切りすぎちゃいました! あはははは!」
「作り過ぎだろ、明らかに」
「ご、ごめんなさい! 友達とご飯を食べられるのが嬉しくてつい……そうだ、レイコウモリくんにもこのトマト味キャンディーを」
「いらんわ! それに俺はレイキバットだ!! 二度と間違えるなタコ助が!!」
「ヒィッ! ごめんなさいごめんなさい! あとタコ助じゃなくてデネ……じゃなくて! 桜井侑斗ですごめんなさい!」
トマト味のキャンディーがすごく気になるが、それはそれとして両手を合わせる。侑斗とレイキバットの漫才地味たやりとりは見ていて飽きないが、こんなご馳走を冷ましてしまっては作った本人にも悪いだろう。
食前の号令の直後、それぞれの持つ箸が別々の目標に向かう。
皆が最初に口に運んだ料理はそれぞれ違ったが、飛び出した感想は寸分違わぬものだった。
「「「美味しい……!」」」
舌の上でほろりと溶ける魚の身、程よい塩気の味噌汁、具沢山の茶碗蒸し……どれも素朴でほっこりする味わいが身体に染み渡る。今自分の舌に残る味こそが庶民感というのだろうな、と大地は心で頷いてから炊き込みご飯を一口一口噛み締める。
箸の進み具合もどんどん早まっていき、そんな大地達を見て侑斗も嬉しそうに、それでいて照れ臭そうに食卓に混じった。
「この太刀魚すげえなあ、高かったんじゃないか?」
「出汁巻卵もふんわりしててたまりません。ん〜!」
「んぐんぐ……ん、この炊き込みご飯は椎茸も入ってるんですね」
それは初めて食す炊き込みご飯の具を一つ一つ確認していた大地の何気ない呟きであった。
何の他意もない一言。しかし、その一言が侑斗の顔色を瞬時に変貌させた。
「んな!? だ、大地くん! やだなあ、それは椎茸じゃないよ〜、しめじだよ。し、め、じ」
「え! そうだったんですか!? これ椎茸じゃなかったんだ……あれ? でも前に食べたしめじとちょっと違う?」
「あわわわ……! あ、あ、ちょ、ちょっと失礼〜!」
大地が椎茸と睨めっこしていると、歯を鳴らして震える侑斗の右腕が不自然に挙げられた。
その右腕に引っ張られるようにしてリビングのドアから退室していく侑斗を不思議に思い、大地がその後を追ってみると、彼が消えたドアの向こうから何やらドタンバタンと音が聞こえる。恐る恐る覗いた先には二人分の影。
大地はそっと扉を開けてみた。
「デェ〜ネェ〜ブゥー!! お前ー! また椎茸入れやがってぇ! いつになったら懲りるんだよぉぉぉ!!」
「痛い〜! 侑斗ごめんなさい〜!」
ぱたん、ドアを静かに閉めた。
深呼吸をして、もう一度開ける。
「だいたいなんだよ太刀魚って! 普段あんだけ俺に無駄遣いすんなって言っといて!」
「友達にご馳走するんのは無駄遣いなんかじゃない! それにあんな豪勢に振る舞えば、きっと侑斗とも仲良くなってくれる!」
「目的を履き違えんな! 俺は仲良しこよしをやりに来たんじゃねー! 大地達にデネブの姿を見られちゃ面倒だからって調子に乗りやがってぇ!」
侑斗が叫びながら、黒衣の怪人にテレビで前見た技────キャメルクラッチを決めている。
何度も瞬きして、目をゴシゴシと拭ってみた。
「侑斗、参った! 参った〜!」
「どーだこの野郎〜! ────あっ……」
侑斗と怪人と目が合ってしまった。
どうやら大地の幻覚というわけではなさそうである。
*
写真館から出て、少し歩いた場所にある小さな橋の上。
夜になっても残暑は激しく、シャツの下にはうっすらと汗が浮かぶ。都会の排気ガスで曇った夜空には微かに星が見えるぐらいで、大地が本の中で期待していた光景とは程遠い。
「それで、今度こそ説明してくれますよね。あの列車のこととか、そこのイマジンのこととか」
侑斗の横で何故か正座中の黒衣のイマジン──デネブをチラリと見やる大地。あれから終始申し訳なさそうにしているが、横の侑斗は特に気にしていない。
「お前も薄々勘付いてるんだろ。自分の記憶が抜け落ちてること」
そう語りだした侑斗はミルクディッパーでよく見るいつもの仏頂面と、ぶすっとした態度に戻っていた。
「野上が言ってたことは正しいよ。俺達は2ヶ月前に出会って、何度か一緒に戦ってる」
「一緒に……ってことはつまり」
「ああ、俺はお前達で言うところの仮面ライダー……ゼロノスだ。時の運行を守るために、イマジンと戦ってる────この説明ももう三度目になる。正直うんざりなんだよ」
やはり桜井侑斗こそが仮面ライダーゼロノスであった。
記憶を失っていることには未だ実感は無いが、大地がイマジンについて中途半端に知っていたのも、彼から教えてもらっていたのだとすれば頷ける。
しかし、その事実よりも大地の胸を打ったのはこの桜井侑斗という青年を二度も忘却していたことそのものだった。
そして、そのことを何でもない風に語る侑斗の姿も。
「僕は二回も侑斗さんのことを忘れてたなんて、全然信じられません……。でもどうして」
「お前達の知るライダーと違って、ゼロノスには変身回数に限りがある。カード一枚につき一回、それも変身の度に俺の……『桜井侑斗』の記憶が他の人間から消える代償付きでだ」
そう言って侑斗が取り出したのは三枚の黒いカード。内約は緑の模様が入った物が二枚、赤の模様が入った物が一枚。
カードで変身するという共通点だけでなく、そのカードに記憶が内包されていることまでダークディケイドと同じとは驚くしかない。
否、ダークディケイドのカードは記憶を刻み込んで記録するのに対し、ゼロノスのカードは刻み込まれた記憶を消費する。そのたったひとつの違いがあまりに残酷で、大地は二の句が継げなくなった。
瑠美、レイキバット、ガイドが自分を初対面の人間として扱ってきたら。再会した時に仁藤が、名護が、剛が、イブキが、氷川が大地を覚えていなかったとしたら。
それを想像するだけでも心が凍てついて、堪らなく辛くて、息が詰まりそうになった。
「お前の事情は大体知ってる。記憶喪失のことも、この世界には仮面ライダーゼロノスを記録しに来たことも。……ったく、せっかく協力してやったのにお前まだ記録できてないんだろ? いちいち説明する身にもなれ」
「確かに、ゼロノスのカードはまだブランクのままです……。でもそれより、ゼロノスに変身できるのがあと三回なら」
「そう。あと三回のうちにお前が記録できなきゃお前のゼロノスのカードは永久に手に入らない」
「そういうことじゃありませんよ! 変身できなきゃ、イマジンと戦うことだってできないじゃないですか! この世界に他にライダーはいないんですか!?」
「少なくとも俺の知る限りじゃ、時の運行を守るライダーは他にいない。でも、関係ない。デネブがいればお前が昨日倒した奴みたいな雑魚は変身しなくても何とかなるし、仮にカードを全部使い切ったとしても俺はやる」
侑斗の表情に迷いはない。
変身できずとも戦うことの危険性は大地よりも遥かに理解しているはずなのに、彼には怯えすらない。
恐らくは年齢もそう変わらないはずのこの青年がどんな経緯でこんな強い意志を目に宿したのか、大地には想像も及ばなかった。
だが、そんな侑斗に既視感も覚えた。
(同じなんだ、この人も)
生身で敵に立ち向かった名護のように。
自分にできることをやり遂げようとした氷川のように。
信じるものを貫いた進ノ介のように。
この桜井侑斗もまた仮面ライダーなのだ。
知らぬ間に立ち上がっていたデネブも隠しきれない後ろめたさを見せながら、侑斗の横で強く頷く。彼もまた侑斗の相棒として決意を固め、共に戦ってきたことが察せられた。
「僕に……僕に何かできることは」
「無いな。とっとと記録を済ませて、この世界から出て行け────────って言いたいところだけど……流石に昨日みたいな雑魚にカードは使うつもりはない。悪いが、カードを使わなきゃいけない場面になるまで付き合ってもらうぞ」
「……わかりました。侑斗さんがカードを使わなくてもいいように、僕頑張ります!」
「あのなぁ……それじゃあ、いつまで経ってもこの世界に居座る羽目になるんだぞ! ちゃんと考えてものを言えよ──ッ!? ムグムグ!」
「侑斗! 友達にそんな意地悪く言うのは良くない!」
侑斗が最後まで言い切る前に、デネブがその口を塞いでしまった。
ジタバタと暴れる侑斗を他所に、デネブは困惑している大地に何度も頭を下げる。
もしも腕が空いていたら、また大量のキャンディーを渡してきそうな勢いである。
「ありがとう大地くん! ありがとう! 君に大変な苦労をかけちゃうけど、侑斗も心ではカードを使いたくないって思ってるし、君と友達になれて嬉しいと思ってる! だからどうか、今後とも侑斗をよろしく……!」
「は、はい! デネブさんも、今後ともよろしくお願いします!」
「ッ! ──うぅ! 侑斗ぉ! 良かったなあ! こんなに優しくていい子が友達になってくれて……俺も……うぅ、ううぅ、うわーん!!」
まさかの号泣。デネブの烏天狗っぽい顔からとんでもない量の涙が溢れ出してえらいことになっていた。
大地がハンカチを渡しても涙が止まる気配は無く、そんな彼を見ていると本当に侑斗の事を心配しているのがわかる。鼻水をかむのはやめて欲しかったが。
しかし、勝手に代弁された侑斗にとっては堪ったものではない。
「デネブゥ! 適当なこと言ってんじゃねええ!! 俺がいつそんなこと言った!」
「俺にはちゃんとわかってる! でも侑斗はもっと素直になった方がいい!」
顔を真っ赤にして怒る侑斗はどこか子供っぽくて、デネブにプロレス技を仕掛ける光景も本気の喧嘩というよりかは、戯れに見える。
きっとこれが彼らなりのスキンシップなのだろうと大地は微笑ましくもあり、同時に羨ましくもあった。
(僕にも、こんな感じで遊べる兄弟は、家族はいなかったのかな……)
「ほら、暴力は止しましょうよ! 侑斗さんも怒ってばかりいないで、さっきみたいににこやかに、ね?」
「あれは俺じゃねえええーッ!!」
*
深夜、住人が寝静まった写真館の自室のベッドで大地は寝転がっていた。その目は開けたまま、暗闇に溶けた天井を見上げている。
時計は午前一時を回った頃で、ベッドに入ってからすでに二時間が経過していた。
「……眠れないなぁ」
暑さで寝苦しいとか、そういうわけではない。
胸の奥に芽生えたモヤモヤとした感情が眠りを妨げて、大地の目を閉じさせてくれないのだ。
「レイキバットさん、起きてますか」
「今ので起きた」
部屋の隅にある止まり木から厳つい声が響く。大地の部屋の隅に止まり木と、傍らにスノードームを置いてカーテンで仕切っただけの即席の空間がレイキバットの部屋である。
スリープモードを邪魔されたレイキバットは特に不機嫌になった様子もない。
「どうした、眠れないのか」
「うん……レイキバットさん、一つ聞いてもいいですか」
返事はない。
その沈黙を大地は肯定と受け取った。
「僕とレイキバットさんは友達ですか」
「……友達の定義によるな。俺達の関係を最も適切に表現すると『仲間』ということになると思うが」
当然ながら大地には面と向かって友達だと言ってくれる人間はいなかった。
仲間はいた。師匠もいた。では友達はどうだろう。
多分記憶を失ってから一番同じ時間を過ごしてきたレイキバットは仲間ではないと言う。
ならは瑠美は友達に該当するのかと言うと、これまた微妙である。さっき彼女は大地との関係性を「同居人」と言っていたのだから。
同居人と友達はイコールで結ばれるのか、それすらもわからない。
だが、侑斗は────正確に言えば侑斗に憑依していたデネブは大地を友達だとはっきり言ってくれた。
真意はどうあれ、大地はそれは嬉しく思う。
「友達……ふふ」
「なーに笑ってんだ。気持ち悪いぞ……てか寝ろ!」
*
深夜の公園で一人ブランコを漕ぐ青年がいた。
黒を基調とした服装に肩からストールを掛けた男が、独り言を呟きながら深夜の公園の遊具で遊ぶ。この明らかな不審者に声をかけようとした、巡回中の警官がピクリとも動かない状態になって、彼の側に転がっていた。
「あーあ……そろそろウザくなってきたな。ア〜レ……えっと、何て言ったっけ」
ブランコを漕ぎながら溜息を吐いている男────カイの顔は晴れない。彼には今、大きな悩みがあるのだ。
イマジンを操って、現在を手に入れようと画策する自分を邪魔する厄介な存在を如何にして始末するのか、という悩みが。
「ダークディケイドだ」
本気で忘却していたカイに、その名前を教える異形の存在が音も無く現れる。
カイは金色の獅子を連想させる怪人──レオイマジンを一瞥もせずに、にへらと笑った。
「そうそう、それだよそーれ。どっから湧いてきたのか知んないけど、いい加減ウザったいよなぁ。そろそろ本格的に潰さないとなあ……そう思うだろ?」
問いかけられたレオイマジンは小さく頷いた。
だが、カイはレオイマジンの反応を見もせずに夜空を見上げて、もう一度「なあ?」と言った。
すると、彼が見上げる夜空に輝く無数の星の内の二つが彼らの元に舞い降りて来る。
いや、訂正しよう。それは星などではなく──イマジンの精神体が宿った光球であった。
「とっととやってこい。アレが消えれば俺達の邪魔をする奴はいない」
「ゼロノスがまだいるだろう」
「…………」
レオイマジンのもっともなツッコミをされて、カイは笑顔を浮かべたままフリーズしてしまった。
二つの光球も困惑したようにカイの周囲をフワフワと浮遊していたが、やがて気味の悪い笑い声を上げ始めた彼から慌てて離れる。
「あー、そういえばいたなそんな奴。うん」
「お前……」
「できればどっちも潰してこいよ。最悪片方だけでもいいや」
了解の返事の代わりとしてか、二つの光球は上下に小さく動くと夜の街に向かって飛んで行った。
その行方すらも、カイはやはり目で追うことなくブランコから飛び降りた。それから砂場まで歩いていき、しゃがみ込んでから人差し指で「2007」と描く。
その数字の列を愛おしそうに撫でる姿を見て、レオイマジンは素直に気持ち悪いなという感想を抱いた。
「あれで駄目ならちゃんと考えないとなー。俺達の時間にあーいうのはいらないし……もうすぐこの時間が手に入るかもしれないって時に水を差されて、最っ高にムカつくって感じがするよ」
そして、カイは「2007」と掘られた砂を掴み、跡形も無く握りつぶす。
「俺、そういう顔してるだろ?」
振り返ってそう言い放ったカイはレオイマジンの方を向いていない。
カイの視線が貫いたのは、公園に隣接する茂みの向こう、闇の中から目を光らせる赤黒い鎧武者。
「多分な」
そう返した仮面ライダーセイヴァーの背後には、無数の影が蠢いていた。
レオイマジン
声が烏丸所長のカッコいいイマジンさん。電王37話、38話に登場し、電王やゼロノスと激戦を繰り広げた。アルタイルフォームの必殺技を二連続で耐え切るほどの実力者であったが、電車斬りにはあえなく爆散した。レオソルジャーというどう見てもゼクトルーパーな配下を持っている。
次回更新は多分7月中。感想、質問、評価はいつでもお待ちしております。