深夜、光写真館。
明かりが点いていないリビングで、マッチの火に照らされたガイドの顔が闇に浮かぶ。
テーブルの上に置かれた、細く小さな蝋燭が炎を灯し、ガイドと大地の顔を仄かに照らす。
「はい、ココア」
「ありがとうございます」
大地はふーふー冷ましてから夜の闇に溶け込む色の液体を飲む。口の中に残る濃厚な甘みはそこまでしつこさを感じない。
正面に座ったガイドはグラスに入った液体とアイスクリームを一緒に食べている。
「一口どうだ? 話しやすくなるぞ」
「未成年にお酒勧めちゃ駄目でしょう」
「自分の年齢なんか知らないくせに」
これぐらいの時間帯にガイドが一人で酒を嗜んでいることは知っていた。あのアルコール臭漂うグラスの中身も酒の一種だろう。
しかし断ったものの、酒とアイスクリームを一緒に食すという趣向と味にはちょっぴり興味があったりする。
「それで、相談ってのは何だい?」
「……最近、変身している時にカッとなって、見境なしに暴れそうになるんです」
「最初の頃にあった暴走とは違うのか?」
「似てるけど、ちょっと違う。前のは悪い記憶に取り込まれるって感じで、最近のは……こう、僕が悪くなる感じ」
「うん……?」
ガイドはイマイチわかっていない。
大地の言葉選びが曖昧なのがその原因だ。
大地はもっと具体的に伝えようと改めて努力する。
「以前の暴走は僕自身が悪い記憶に取り込まれて、僕が消されそうになってました。でも最近の方は、僕が僕のままで増悪とか、殺意とか、負の感情に染められそうになります」
「うぅん……そうかそうか」
輪をかけて難解な説明になってしまった気がしたが、ガイドは合点がいった顔でうんうんと頷いてくれた。
「つまりだ。最近の大地は暴走というよりも、悪堕ちしそうになってるわけだ。いや、闇落ちの方が合ってるかな? いっそ
「名称はどうでも良くて、どうすればいいのか教えて欲しいんですけど」
「って言われてもなあ」
珍しくガイドが考え込んでいる様子を見るに、これはかなり解決が難しい問題になりそうだ。
そう考えた大地であったが、実際のところは違っていた。
「大地はどうしたいんだ?」
「えっ……どうって?」
「別に悪堕ちしても、仕事さえこなしてもらえるなら俺は一向に構わないんだよ。どの世界で何をして、どんな旅をするのかは大地の自由なんだ。続行が困難と俺が判断したら、その時点で取り消しになるがね」
「……ドウマみたいに?」
「そういうこと。それと、原因について言うなら……ダークディケイドライバーには悪人ライダーの記録も多いから、大地の中にあったそういう負の感情が刺激された、とかかね。心当たりは?」
「あるには、あります」
心当たりと言われれば、すぐに浮かぶのはやはり「G3の世界」で見た入山とアギトのことだった。始まりとなるのはあの醜い人間と哀れなライダーの末路を見たあの時を置いて他にない。
あれ以来人間相手でも殺意を、怪人にはさらに過剰な殺意を抱く自分が怖かった。
負の感情を抱いてしまう自分を克服すべきなのだと考えた。
だが、ガイドはそんな自分を肯定も否定もしてくれない。
いつぞやの名護に従えば、自分は正しくあるべきなのだ。悪に染まってはいけないのだ。
そうならないための明確な答えが知りたい。
ふとした拍子に残酷になろうとする自分を、明確に間違いだと否定してくれる言葉が欲しい。
「でも一つだけアドバイスを贈るとすれば……君はそろそろ自分を見つけるべきだな。どんな相手でも曲げない、確固たる意志として」
「意志ならありますよ。僕はみんなを護りたい、そのために戦う」
みんな、というのがどこまでを指すのかは大地自身にもよくわかっていなかった。
「足りない! あともう一声! ってやつだな。そんなに曖昧じゃあいつか潰れちゃうぞ? 」
ガイドはそう言うと、アイスの最後の一口を食べた。
大地が思い出したように向いた下には半分以上残ったココア。
大分冷めてしまったそれを一気に飲み干した。コップの底に溜まった濃い目の液は甘過ぎて、少し顔をしかめた。
相談内容とさの重さとイマイチ噛み合わないその仕草にガイドはフッと笑みを浮かべる。
「歯磨いてから寝ろよ」
ガイドが吹いた息で、蝋燭の炎が消えた。
*
侑斗にカードを使わせたくない。その一心で大地は戦い続けていた。
────2006年 11月 29日
「お勤めご苦労さん。フシュ!」
オフィス街で暴れている二体のトータスイマジン。
内気なカメ型が口から発射した甲羅型の弾丸でビルを破壊し、陽気なウサギ型が跳躍して人々に襲いかかる。
しかし、現れたダークディケイドが弾丸を撃ち落として、ウサギを蹴り飛ばした。
「おぉん? ダークディケイドか〜。ゼロノスはいないのか?」
「お前達の相手は僕だけで充分だ!」
ウサギの身体を斬り裂こうとしたダークディケイドの斬撃はするりと躱され、身軽な跳躍で翻弄される。
しかし、そういった類の敵の経験があるため、その対処も心得ていた。
KAMEN RIDE SAGA
銀の蛇を意匠とした運命の鎧を纏う戦士、DDサガは鞭状の武器、ジャコーダービュートを振るう。
自身を中心に、ジャコーダーが渦巻きを描くように回せば、周囲を飛び跳ねていたウサギは打たれ、弾き飛ばされた。
「たしか、カードを使うとコロコロ変われるんだったな〜。じゃあ使わせなければいいのか〜」
アタックライドのカードを装填しようとしていたDDサガを狙う弾丸が連続で着弾する。
ダークキバにも迫る勢いの防御力を持つサガの鎧には大した痛手にはならなかったが、もたらされた衝撃によってカードは落としてしまった。
どうやらカード装填を阻止するという戦術は既にイマジン達の間では共有済みらしく、カードを使おうとすれば弾丸が飛んでくる。ウサギの方もDDサガから距離を取って、カメの側で待機している。
(そうだろうな、とは予想してた。僕だって馬鹿じゃない。それなりに対策は考えてある!)
DDサガはライドブッカーからカードを抜き取る。その瞬間に、カメの放った弾丸が飛んでくる。
単純な答えだ。
弾丸が飛んでくるのがわかってるなら、避ければいい。
カードを装填する暇がないのなら、しなければいい。
ライドブッカーからカードを取り出すふりをして、横に転がったDDサガは弾丸を回避した。
再び弾丸が飛来する前に、DDサガはジャコーダーを思い切り振るった。
「むぁん!?」
顔面を勢い良く打たれたカメは思わずその箇所を抑えて蹲る。
それは、隙を狙う故に生まれた隙。
FINAL ATTACK RIDE SA SA SA SAGA
魔皇力を込めたジャコーダーがしなり、二体のトータスイマジンの身体ををまとめて刺し貫く。溢れ出した魔皇力は上空に夜を誘い、サガの紋章を映し出す。
確かな手応えを感じたDDサガはジャコーダーを握ったまま跳躍、紋章の中を通って着地する。
紋章を支点にして宙吊りにされたトータスイマジン達がジタバタ暴れるも、時すでに遅し。彼らを貫いたジャコーダーの赤い光は、紋章の中からDDサガの手元からしっかりと伸びていた。
「フンッッ!」
敵から流れ出した鮮血のようにも見えるその光をDDサガがなぞれば、彼らは鞭を通して体内に注入された魔皇力によって爆散。
DDサガの必殺技、スネーキングデスブレイクが生み出した爆炎の光は運命の鎧を美しく演出していた。
イマジンが行った破壊の痕跡は程なく元通りに修復され、人々は何ごとも無かったかのように日常を送る。
誰もDDサガの活躍には気付かない。しかし、ただ平和に過ごす人々を見て、それでいいとDDサガは思った。
身体に溜まった疲労感から、肩を落としたDDサガは不意に視線を感じて振り返る。
そこには懐中時計を持った、探偵風の格好をした男が立っていた。
彼はDDサガと意味深な視線を交わした後、まるで最初からそこにいなかったかのように、そそくさと立ち去った。
*
────2006年 10月 15日
海中を素早く泳ぐクラブイマジンの背後に、それを更に上回る恐るべきスピードで追いかける影があった。
KAMEN RIDE POSEIDON
サメ・クジラ・オオカミウオの特性を宿した戦士、DDポセイドンはカニ型イマジンという見るからに水中戦が得意そうな敵にも余裕で追い付き、手にしている槍──ディーペストハープーンを首筋に突き立てた。
「ぐわぁ!? 貴様、まだ俺の邪魔をするつもりか!」
「これで最後にしますよ!」
硬い甲殻に覆われているためか、槍の穂先は首の表皮を斬り裂いたのみで終わり、クラストイマジンは未だピンピンしている。
だが、仮面ライダーオーズのシャウタコンボをも圧倒したDDポセイドンはまさしく水中戦のスペシャリスト。多少硬い程度では張り合える道理がない。
DDポセイドンはクラストイマジンの攻撃を優れた機動力で躱し、ディーペストハープーンを一度振るえば、生じた衝撃波がクラストイマジンを海底に叩きつけた。
叩きつけられた衝撃から泥が巻き上がり、クラストイマジンの身体を覆い尽くす。
(しめた! これで泥に隠れて逃げられる!)
DDポセイドンに悟られないよう、ゆっくりゆっくり泳ぐクラストイマジンの真上で黄色い複眼が輝いた。
「逃がしません!」
鮫には隠れた獲物を見つけ出すための、極小の電位差すら感知するロレンチーニ器官がある。
つまり、サメの能力を宿すDDポセイドンからは泥に紛れた程度では逃げられないということだ。
「ツァアアアア!!」
ディーペストハープーンの一撃に貫かれたクラストイマジンは泥混じりの爆発に消える。
一仕事終えたDDポセイドンは海面から上がる際、イマジンに破壊されずに済んだ街並みを見て胸を撫で下ろした。
*
────2007年 9月 23日
大地は一人(とポーチに入った一羽)でとある場所に向かっていた。
連日のイマジン退治に駆けずり回っており、昨日も戦っていた大地の身体はだいぶ疲労が蓄積していた。
だが、侑斗と連携してイマジンを追跡する合間にはデネブが写真館で料理を振る舞ったり、瑠美達も交えて談笑したりする日々は溜まる疲労よりも楽しさの方が上回っていた。
それでも今日くらいはゆっくり休むべきだったのだろう。にも関わらず、大地が外をほっつき歩いている理由は無視できない呼び出しを受けたからである。
「あ、大地くん。ごめんね、急に呼び出したりして」
大きな川に架かる橋の上で、大地に手を振る人物──野上良太郎がいた。
アントホッパーイマジンの事件による傷はもう癒えており、本人も平気そうにしている。
侑斗に釘を刺されている手前、良太郎とはなるべく会話をしないよう心がけていたのだが、こうして直接呼び出されたとあっては行かないわけにも行かなかった。
「いえ、良太郎さんこそ傷の方は平気でしたか?」
「うん、あの時はありがとうね。救急車呼んでもらっただけじゃなく、姉さんまで連れ戻してくれて」
「当然のことをしたまでですから。……それで、話っていうのは?」
「うん……侑斗のことなんだけど」
「戦いに巻き込みたくない」と言われていた良太郎がいきなり侑斗の名前を口にしたので、大地は思わずギョッとしてしまう。
下手なことは口走らないよう気をつけなければならない。
「あー……もしかして、侑斗さんと会ったことを僕が忘れてたっていうことですか? よくよく思い出したら、あれは僕の勘違いみたいで……」
「それもあるんだけど、侑斗には他にも気になることがあるんだ。今日呼んだのも、大地くんが侑斗から何か聞いてないかと思って」
「他に気になること……? あっ」
しまった、と自身の失態を悟る大地。良太郎を誤魔化すならば、ここは聞き返してはいけない場面だったし、下手に声をあげても怪しまれる。
しかし、大地の中で侑斗の意思を尊重しようとする心と侑斗をもっと知ろうとする心で揺れ動く。その迷いが導き出したのは、続きを促す仕草。
単純に「友達」だと思いたい男に関する事柄をもっと知りたいという気持ちを抑えられなかったからだ。
「桜井侑斗……この名前は姉さんの婚約者のものでもあるんだ」
「婚約者……? 侑斗さんと愛理さんが?」
侑斗と愛理が互いに寄り添う姿を想像してみる。
歳の差はあるが、意外とお似合いのカップルかもしれない。
……そうではなくて!
「えぇ!? あの二人って婚約してたんですか!?」
「やっぱりそういう反応になるよね。でも違うんだ。姉さんと婚約したのは侑斗じゃなくて、桜井さんなんだ」
大地の脳内では、浮かんだクエスチョンマークが絡み合ってこんがらがっていた。
それから数十分。
大地は良太郎から事の顛末を聞き終えた。
彼の話によって点と点が結ばれて、おかげで以前から感じていた侑斗に関する疑問、ゼロノスに関する疑問の大部分が解消された。
しかし、それでも大地の顔は曇りを増していく。
(桜井侑斗、あの緑のカード……そういうことだったんですね)
「大地くん? 顔色悪いけど、平気?」
「……はい」
良太郎が話した内容を侑斗は知っていたに違いない。
そして侑斗は大地にそのことを話してくれなかった。今すぐにでも問い詰めたい気分だが、まずは良太郎にどう返答したものか。
「それで、次は大地くんの話を聞かせてほしいんだ。多分その様子だと何か知ってるんだよね」
「それは……」
普段はおっとりしている風に見えるが、この良太郎という男は大地が思っているよりも優れた観察眼の持ち主らしい。
恐らく大地の様子の変化にも気付いていたに違いない。
いよいよ誤魔化すのが困難になってきた、と思った瞬間に幸運の女神は大地の味方をした。
いや、正しくは不幸の女神と言うべきだろう。
「ッ! 良太郎さん!」
「ふぇ? ってうわぁぁ!?」
突如落下してきた鳥の糞が良太郎の頭に直撃、さらに風で飛んできたチラシがその顔面を覆い尽くした。しかも驚いて後ずさった彼の足元に転がってきた空き缶があり、見事に足を滑らしてしまった。
その結果、良太郎は橋の上から落下した。
「落ちるぅぅぅ!?」
「うわぁあ!? 危なーい!」
悲鳴を上げて落ちる良太郎。咄嗟に腕を伸ばす大地。
間一髪のところで大地が良太郎の片足を掴み、その落下を阻止できた。
だが安心するのはまだ早い。
「か、風が!」
突然勢いを増した風が宙吊り状態の良太郎を右へ左へと揺らす。
ピタゴラスイッチみたいな展開に気が抜けそうになっても、手を離せば良太郎はタダでは済まないこと確実。
さっきの出来事といい、作為的なものを感じてしまうレベルの不幸体質を実感すると、良太郎が今日まで生きてこれてるのが不思議に思えてしまう。
大地が頭の片隅でそんなことを考えながら踏ん張って、徐々に良太郎を引っ張り上げる。
一応こうして助ける人がいる分、幸運の星はまだ良太郎を見放していないのかもしれない。
「あ! う、後ろ後ろ〜!!」
その考えは甘かった。やはり良太郎は不幸の塊だ。
風で飛ばされたチラシに視界を奪われた自転車が突っ込んできて、良太郎と一緒に橋から落とされた大地は、そう思いながら近付く水面を見つめていた。
*
「へくちっ!」
「チクショウ、俺まで濡れちまった!」
あの後、大地と、ついでにレイキバットはずぶ濡れになった身体で良太郎を病院まで運んだ。
水面に激突する寸前でレイに変身して彼らのクッションになったが、衝撃を殺しきることはできず、良太郎は気絶してしまったのだ。
だがヒゲの男の方は普通にピンピンしており、大地はその丈夫さに驚きつつ、良太郎の搬送を手伝ってもらったというわけだ。
「しっかしあの野上良太郎とか言ったか? まさかドクターに顔覚えられてるとは……」
「開口一番に『今日はカツアゲ? それとも転びましたか?』ですからね……。レイキバットさん、手伝ってもらってありがとうございました」
「お前に礼を言われるのも飽き飽きだ。俺が防水性にした鬼塚に感謝しとけよ!」
「……はは」
レイキバットをポーチにしまった大地はしばらく歩いていたが、その途中で立ち止まった。
良太郎が入院した旨をミルクディッパーに伝えに行くか、写真館に帰って着替えるかで迷っているのだ。
普通に考えれば前者が先なのだが、川の水で濡れた上に悪臭まで付いた服であの店に行くのは
大地がそう悩みながら立ち止まっている最中、見覚えのある人物が目に入った。
「あ、侑斗さーん!」
「ん? ……ああ、お前か────って臭っ!? お前なんなんだよその臭い!」
「さっき良太郎さんと川に落ちちゃいまして。濡れてるのも気持ち悪いですね」
「野上……あいつ、よく生きてこれたな────っておわっ!?」
侑斗が何かに突き飛ばされたような仕草をしたかと思えば、彼の雰囲気が一変した。
人の良さそうな、しかし侑斗の性格には全く合わない笑顔を浮かべているのを見て、「ああ、いつものか」と大地は納得した。
「本当かい、大地くん! なら早く服を乾かさないと……いや! いっそおニューの服を買いに行こう!」
「急にどうしたんですか、デネブさん」
「い、いやいや。僕はデネブなんかじゃなくて、侑斗だよぉ。ほらこの通り!」
会った当初はともかく、イマジンの憑依を知った今なら侑斗がデネブに憑依されたのだと大地でもわかる。
しかも嘘がヘタクソというか、良くも悪くも正直なデネブは憑依してもバレバレだ。
だから侑斗の口に指を突っ込んでまで笑顔を作るのは本人が不憫でならないので、やめてあげて欲しい。
「さ、そうと決まればしゅっぱーつ!」
「何も決まってないですよ!?」
大地の抗議の声も虚しく、D侑斗の尋常ならざる力でショッピングモールへと引っ張られていった。
*
基本的にガイドか瑠美がチョイスしたものを着ている大地にとって、自分で服を選ぶのは初めての体験だった。
どういったものを着ればいいのかと悩む大地の隣で自信満々といった様子のD侑斗がドン、と胸を叩く。
「俺に任せてくれ!」
『おい! なんでこいつの買い物に付き合わなきゃなんねーんだよ!』
「いつも助けてもらってるんだからこれぐらいしなきゃ! 侑斗にも新しい服買ってあげるから、頼む!」
『……しょうがねーな。ただし! 俺の服は俺に選ばせろよ!』
「それは……うーん、侑斗だと高いやつにしそうだし……」
店の中で表情をコロコロ変えながら独り言を呟くD侑斗に店員や客は不審な目を向けており、隣の大地までいたたまれなくなってきた。
なるべく周囲の視線を気にしないように、展示されているマネキンと睨めっこしたりしていると、肩を強く掴まれた。
「行こうか! 大地くん!」
「結局デネブさんなんですね……」
それから試着室にいくつかの服と共に放り込まれた大地のプチファションショーが幕を開けた。
まずは赤シャツの上に革ジャン、革ズボンのワイルドスタイル。
「漢らしくてカッコいい!」
「チンピラっぽいです……」
次に青シャツに黒スーツのスタイリッシュスタイル(何故かメガネも付属)。
「クール!」
「ちょっと堅苦しい……詐欺師みたいです」
まさかの黄色い着物に番傘まで持たされた和風スタイル。
「風情がある!」
「スースーして涼しいけど、歩き難いなあこれ」
キャップとヘッドホン付きのDJスタイル。
「お洒落な感じ!」
「なんか付属品が多くなってる……でも悪くはない、かな?」
白い羽根のストールを巻いて、全体的にフワフワした貴族(?)スタイル。
「優雅!」
「羽根が鼻にチクチクして……へくちっ」
青鬼の着ぐるみ。何故こんなものまで置いているのか、店員を小一時間問い詰めたくなる。
「それ、最近人気のアレクサンドルビッチくんって言うらしい。みんなの人気者間違いなし!」
「これ着て街中歩けばほんとに人気者になれるんですか……?」
「もうばっちし! ……侑斗用にもう一着買おうかな」
『デネブゥ!』
それからキレた侑斗とデネブがプロレスモドキを始めてしまうなどのトラブルはあったものの、無事に買い物は済んだ。
大地は、まあ何かしら用途はあるだろうと選んだ青シャツとスーツを着ていた。素材の顔がそこそこ整っているので、一応形にはなっている。多彩な能力を操る戦士の中身には思えない、シュッとしたスタイルのおかげで大体の服装は似合うのが幸いした。
しかし、やはりネクタイのせいで妙に息苦しく感じてしまうとは、金を出してもらった手前、口が裂けても言えそうにない。
「色々と悪いな、デネブも悪気はないんだ」
「わかってますよ」
今話しているのは侑斗本人だと口調だけで理解している。
彼の言葉の隅には、ほんの少しの罪悪感がある。
「気にしていませんよ」と言って、自販機で購入した缶コーヒーを差し出す(ちゃんと甘いやつを買った)。
カシュ、と小気味の良い音が鳴って、侑斗は一口飲んだが、あまりお気に召さなかったようだった。
「デネブはお前になるべく長く、この世界に残ってもらいたいと思ってる。だからこうして服を買ったり、飯を作ったりしてる。あいつらしい浅知恵だ」
「それも侑斗さんにカードを使ってほしくないから、ですよね。僕もその気持ちは同じです。だから僕は……」
その後に「この世界に残って戦い続ける」と大地は付け足したかった。
できなかった。閉じた口の中から奥歯を噛み締める音がした。
「同情なんかすんな。これは俺の世界の問題で、お前にはお前の戦いがあるんだろ。早く記録ってやつ済ませろよ」
「僕にもはっきりした条件はわからないんです。このままじゃいけないとも理解してます。でも……未来の自分に関する記憶、その婚約者の記憶を消してまで戦え、なんて僕には言えませんよ」
そこまで言ってから、缶コーヒーと一緒に購入していたジュースで大地も喉を潤す。
「普通にそれを2本買えよ」という侑斗の視線がとても痛かった。
「……野上から聞いたのか」
「はい。偶々だったんですけど」
あの橋の上で良太郎が話してくれたこと。それは彼の姉である野上愛理が記憶喪失であるという事実と、その失われた記憶というのが愛理の婚約者に関するものだということ。
そして、その婚約者の名前が「桜井侑斗」だということ。
良太郎が知る婚約者の桜井侑斗────彼に倣って呼ぶなら、その「桜井さん」は30代後半の男性らしいが、時間を超えるゼロライナーの存在を知る大地にはそれだけでもなんとなく察してしまった。
「侑斗さんがあの姉弟を戦いに巻き込みたくなかったのも、それが理由なんですね。ゼロライナーに乗って、過去からやってきた侑斗さんは未来の婚約者とその家族を守ろうとした」
「お前、一番嫌なところで察しが良いんだな」
空になったコーヒー缶を投げ捨てる侑斗。
弧を描いて飛ぶ空き缶は、かなり離れたところにあったゴミ箱へ見事に入った。
真似してみたいが、失敗する確信が大地にはあったのでやめておいた。
「『俺』は数十年前の過去から来た。『
侑斗は「未来の桜井侑斗」をわざわざ強調して説明した。
この2007年に存在した桜井侑斗という男が、青年期であった頃の自分────今、大地の隣に立つ「過去の桜井侑斗」をゼロノスにしたのだと。
「あの緑のカードは『現在の俺』に関する記憶を消す。だからあの時、お前の記憶は消えなかった」
「じゃあ赤のカードは……その『桜井さん』でなく、『侑斗さん』に関する記憶を消すもの?」
「そういうことだ」
ぶらぶら歩いていた二人は街中から出て、オフィス街が一望できる河川敷に来ていた。
侑斗は手頃な小石を拾い上げ、水面に向かって投げた。
5回跳ねた小石が水流に消えていく。
「そんな大切なこと、黙ってるなんて。良太郎さんが探ってくるのもわかりますよ。姉の婚約者と同じ名前の人が来たら、僕だってそうするかも」
「不幸自慢がしたいわけじゃねーよ。どうせ忘れるのに、話したってしょうがないだろ」
「忘れないかもしれないじゃないですか」
「二回忘れた奴の言葉とは思えないな」
そこを突かれると非常に痛い。
大地は誤魔化すように小石を投げる。風を切ったそれは小さく飛沫を上げて沈んだ。
「だからって、将来の婚約者になる人にも忘れられたままでいいんでしょうか。他に何か戦う手段はないんでしょうか」
「コロコロ変われるお前と一緒にすんなよな。俺にはこれしか無い。ゼロノスじゃないと時の運行は守れない。だったら俺はやる……デネブと会った時から変わらない、俺の決意だ」
侑斗が再び小石を投げる。4回跳ねた。
「悲しいじゃないですか。誰からも覚えてもらえない、一人ぼっちになるなんて」
「記憶喪失の奴が言うか?」
「忘れる辛さだけは侑斗さんよりも知ってますから」
ポーチの中で溜息を吐く音がした。
大地は力加減に気にしながら、もう一度小石を投げる。2回跳ねた。嬉しかった。
「お前も俺のことばっかじゃなくて、もっと自分のこと心配しろよ。後2回でゼロノスを記録できなきゃアウトなんだろ?」
ゼロノスを記録できないということは、すなわち仕事の失敗ということになる。
そうなればガイドは大地からダークディケイドライバーを取り上げて、写真館からも追い出される。
もう永遠に失った自分を取り戻すことができなくなるのだ。
そうなった時を想像するだけでも背筋が冷えてゾッとする。裸で知らない場所に放り出されてしまえば、待つのは孤独と死だ。
そうわかっているのに……なおも胸中を大きく占めるのは「侑斗が忘れられないで欲しい」という願いであった。
「ゼロノスは記録したい、けど侑斗さんにカードは使って欲しくない……矛盾してますよね。どっちも叶える方法はないんでしょうか」
「そういう欲張りが許される世界じゃないってことだ」
侑斗は水切りするには、明らかに大き過ぎる石を思い切り投合した。
大きな水飛沫を満足したのか、彼は帰路への道を促す。
大地も彼に従って川に背を向けようとしたその時、耳によく馴染んだ音が聞こえてきた。
ゼロノスの変身音によく似た和風の音楽。つまり、この音はゼロライナーの汽笛のような音か。
「ゼロライナーで帰るんですね」
定住地を持たないらしい侑斗達には確かにゼロライナーこそが帰る家だ。
ならここでお別れだな、という大地の考えは侑斗の動揺によって否定された。
「違う、俺は呼んでない……ゼロライナーが勝手に来た……!?」
侑斗が言い終えると同時に、彼等の目の前までやって来たゼロライナーはその速度をゆっくりとしたものに落とした。
開いた乗車口には一人の男がおり、呆気にとられている大地達を見下ろしていた。
「やぁ、お二人さん。このゼロライナーとゼロノスのベルトは僕が貰ったよ」
「海東さん!?」
世界を股にかけるトレジャーハンター、海東大樹。
彼の今回のターゲットは既にその手中に納まっていた。
*
ゼロライナーのコックピットにて、海東大樹は今回の成果を眺めていた。
ニヤつきを抑えられないといった様子で、誰に言うわけでもなく、ただ呟く。
「時を超える列車、ゼロライナーとそれを操るライダー、ゼロノスのベルト。こんな最高のお宝をこうもあっさり手に入るなんて!」
一般人に変装し、すれ違った瞬間にゼロノスベルトとゼロライナーのパスをこっそり奪う。
手口としては古典的過ぎる気もしないが、それを鮮やかに遂行できるのが海東大樹という男であった。
「ゼロノスのカードもまだ2枚あるね。ゼロノスがこの世界から失われる前に奪えたのも好都合かな」
この列車さえあれば、好きな時間に飛んで、好きなお宝を奪える。一石二鳥とはまさにこのこと。
あの大地にもそれなりに警戒はしていたが、まさかこんなにも上手く事が運んでしまうと些か拍子抜けもしてしまう。
だが、もはや大樹の興味はゼロライナーでどこの時間に飛ぶかに占められていた。過ぎたことは気にしない主義なのだ。
「さて、まずは……!?」
その瞬間、ゼロライナーに凄まじい衝撃が走った。
*
「変身!」
KAMEN RIDE DECADE
大樹にゼロライナーが奪われたと知った大地はすぐさまダークディケイドへと変身を遂げていた。
ゼロライナーが消えた時の砂漠へ追跡するには、ダークディケイドの力が必要不可欠だからだ。
「おい大地! あいつはなんなんだ!?」
「海東大樹、仮面ライダーディエンド。一言で言うなら、強盗です!」
「はぁ!? ったく! イマジンだけでも手一杯だってのに、そんな奴までいるのかよ!」
地団駄踏んで悪態を吐く侑斗。
それも当然だと大地は思う。よりにもよってとんでもない物を盗まれたのだから。
怪しいけど悪い人ではなさそう、という大樹の第一印象が見るも無残に崩れ去っていった。
「僕がゼロライナーを取り返します! 侑斗さんはここで待っていてください!」
ダークディケイドは「カメンライド NEW電王」のカードを取り出した。
デンライナーを召喚すれば、ゼロライナーの追跡および奪取は可能なはずと考えた故の行動であったのだが。
『侑斗! ゼロライナー戻ってきたぞ!?』
「何!?」
侑斗達が空を見上げれば、時空の穴に消えたはずのゼロライナーが再び出現していた。
しかも車体の至る部分が炎上しており、その走行も見ていてハラハラするほどに危なかっしい。
そのゼロライナーが出てきた穴の隣にもう一つの穴が開いたかと思えば、見たこともない列車が侑斗達の前に現れた。
「なんだよあれ……」
『あんな時の列車見たことない!』
(デンライナーに似てる……?)
不協和音を奏でるその列車は炎上しているゼロライナーに向けて、さらに砲撃をかましてくる。
そのあまりに執拗な攻撃はゼロライナーが炎上している原因もあの列車なのだとわかってしまうほどだ。
奪われたとはいえ、自身の根城とも言うべき列車が破壊されていく様を侑斗は悲痛な面持ちで眺めることしかできない。
だが、記録の片隅にそれと類似した存在を認識していたダークディケイドだけは手に持っていたNEW電王のカードと、その歪な模様の列車を見比べていた。
『こっちに落ちてくる!』
「侑斗さん!」
墜落してきたゼロライナーを見て、ダークディケイドは咄嗟に侑斗を抱き抱えて飛び退こうとしたが、河川敷には他にも人がいた。
列車が川に落下したことで起こると予想される小規模の津波が被害を生み出してしまうかもしれない。
KAMEN RIDE SORCERER
ATTACK RIDE BLIZZARD
ダークディケイドは瞬時にDDソーサラーとなり、河川敷に覆い被さろうとしていた波をブリザードで凍結させた。
河川敷にいたのが数人であったことや、波がそこまで大きくなかったのですぐに避難は完了し、ダークディケイドも通常形態に戻った。
ゼロライナーの方はというと、車両の各部が炎上を通り越してあちこちで爆発まで連鎖していた。一際大きい爆発の後、その連鎖は収まったが、あの様子では走行も厳しそうだ。
そしてゼロライナーを攻撃していたデンライナー似の列車もいつのまにか消えていた。
「けほっ、けほっ……やれやれ、とんだ目に遭ったよ」
コックピットの部分から若干フラついて這い出てきたのは、仮面ライダーディエンド。
その手にはゼロノスベルトがしっかりと握られている。
「お前! それを返せ!」
「参ったなあ、これじゃあゼロライナーは諦めるしかないね。しかし、さっきの列車は……」
「話を聞けー!」
ディエンドは悩ましげにゼロライナーを評定しながらも、拳を振り上げて走る侑斗を見ずに銃口だけ向けて射撃した。
侑斗の足元に火花が散るだけの威嚇射撃ではあったが、ディエンドの危険性を認識させるにはそれだけで充分だった。
そうしてたたらを踏み、睨む侑斗に代わって前に出るはダークディケイド。
「そのベルトは確かにお宝かもしれません。でも、海東さんのものじゃない」
「今は僕の手にあるこのベルトを見てごらんよ。それが答えさ」
「だったら! 力尽くでも取り返します!」
もはやダークディケイドに遠慮する気などサラサラ無かった。
以前は不意打ち同然の襲撃や、大樹の人となりを知らなかった故に囚われてしまったが、今回はそうはいかない。
もっとも、その心中は「大樹が許せない」という怒りよりも、「侑斗に早くゼロノスを戻さなければ」という焦りが大きく占めているばかりか、「侑斗にゼロノスが戻らなければ変身せずに済むのでは」なんて馬鹿げた思い付きまで去来したせいで、幾分か冷静ではいられた。
KAMEN RIDE GILS
最初に選んだのは体力の消費が少なく、大地も使いやすいと感じるDDギルス。
臨機応変に対応できるライダーに変身するほどやる気に溢れたダークディケイドとは対照的に、ディエンドは退屈そうにカードを装填していた。
「野生児には野生児を、ってね」
KAMEN RIDE AMAZON OMEGA
KAMEN RIDE AMAZON ALPHA
「「ガァァァァアッ!!」」
ディエンドが召喚した二人のライダーはとても人間とは思えない咆哮を轟かせ、DDギルスへと踊りかかる。
そこらの怪人よりもよっぽどバケモノ然とした動きで吠える緑のライダー、アマゾンオメガがとんでもない瞬発力でDDギルスに組み付いた。
さらにアマゾンオメガよりかはいくらか理性的な、しかしやはり獣同然の咆哮を上げる赤のライダー、アマゾンアルファまでもがDDギルスの首を腕のカッターで掻っ切ろうとしてくる。
「ゥォオオオッ!」
DDギルスも記憶に合わせて、野生の本能を爆発させたような荒々しさで二人のアマゾンズを振り払い、それぞれに蹴りを叩き込んだ。
威嚇の見合いの刹那、そこから繰り広げられるは生々しい暴力のぶつけ合い。
噛み付き、引っ掻き、斬り裂き、絞め技……ひたすら相手を殺すためだけに身体を動かす。
VIOLENT BREAK
アマゾンオメガの鞭とギルスフィーラーが絡み合い、互いの腕ごともぎ取ろうと力を込める。
そしてアマゾンオメガに意識が集中した一瞬を突いたアマゾンアルファが瞬く間にDDギルスに迫り、鋭いカッターが目前にまで来ていた。
あわやカッターの刃がDDギルスの視力を奪わんとしたその時────
「待てーッ!」
そこに響き渡った野太い叫びは、アマゾンズやDDギルスのそれではない。
そしてアマゾンアルファのカッターを食い止めた腕も。
DDギルスを救ったその戦士は奇しくもアマゾンズに酷似した姿をしたライダーであった。
「ライダーキィィックッ!」
次に聞こえた勇ましい声がDDギルスの頭上を飛び越えて、流星のごときキックがアマゾンオメガを吹っ飛ばした。
DDギルスの前に着地したその戦士はバッタによく似たライダーだった。
「RXキック!」
アマゾンアルファを横から蹴っ飛ばしたライダーはそれよりもさらにバッタっぽい見た目の黒いボディ、真っ赤な目をしていた。
動揺して唖然としていたDDギルスの背後からまだまだやって来る戦士達は合計7人。
彼等は横一列に並び立ち、勇ましく名乗りを上げた。
「仮面ライダー1号!」
「仮面ライダー2号!」
「ライダーマン!」
「仮面ライダーX!」
「仮面ライダーアマゾン!」
「スカイライダー!」
「仮面ライダーBLACK RX!」
背後に爆発でも幻視しそうな見事な名乗りに、DDギルスや侑斗は開いた口が塞がらない。あのディエンドですら困惑を隠せない様子である。
「……何故君達がこの世界に?」
「黙れ! 仮面ライダーディエンド! 俺達は貴様の息の根を止めるため、この可愛い後輩を助けるためにはるばるやって来たのだ!」
「貴様の悪行、もはや見逃してはおけん! 覚悟しろ!」
1号、2号と名乗ったライダーがディエンドを指差して糾弾した。
なおも困惑しているディエンドはとりあえず配下のアマゾンズを差し向けるが、始まったのは7対2という結果を聞くまでもない戦い。
あんなにヒーローっぽく登場しておいて、やってることは悪役じみてるな、とDDギルスは感想を洩らした。
「大地、なんなんだあいつらは」
「さぁ……とりあえず味方のようですし、手伝ってきます」
戦況は正直DDギルスが加勢するまでもなかった。
アマゾンアルファはすでに消滅、アマゾンオメガも虫の息、7人ライダーはピンピンしている。
寄ってたかってライダー達に殴られているアマゾンオメガを見ていると、この前の自分を見ているようでDDギルスは少しだけ同情した。
「偽ライダーめ! これでも食らえ!」
1号ライダーが口から火を噴いて(!?)、燃やされたアマゾンオメガは断末魔と共に消滅した。
するとライダー達はDDギルスの周囲に集まって、ディエンドに向き直る。駆け寄ってくる光景がかなり怖かったDDギルスはライダー軍団の中央で少し縮こまっている。
「……なるほど。彼も随分と手の込んだ小細工をするね。ここは退散しておこうかな」
「彼? それって」
「じゃあね」
ATTACK RIDE INVISBLE
何やら合点がいったらしいディエンドはゼロノスベルトを持ったまま、さっさと逃走してしまった。
その手際が鮮やか過ぎて、一人で逃げる時は真似しようと大地は心に留めておいた。
かくして唐突な救援とリンチを経て、勝利はした。ゼロノスベルトを取り返さなければならないという課題は残しているものの、ひとまずお礼を言わねばならない。
「助かりました。僕一人じゃ、かなり苦戦してたと思います」
ライダー達を代表するように一歩前に出た1号がDDギルスに手を差し出す。
求められた握手をDDギルスは強く握り返した。
「君がダークディケイドだね? 俺達は君を助けるためにやって来たんだ」
「と言うと……他の世界から?」
「うむ、これからも平和のために共に戦おう!」
先ほどまで困惑に染まっていた大地の胸中が感動に変わっていく。
我ながらチョロい自覚はあったが、1号を初めとするライダー達に囲まれて激励を受ければ誰だって今の自分と同じ気持ちになるに決まっている。
これだけの人数がいるのだ。ゼロノスベルトの奪還、侑斗のカード問題にもきっと協力してくれるはずだ。
「ディエンドの追跡も我々が行おう。君は休んでいるといい」
「そんな、僕も一緒にやりますよ」
「そのベルトは体力の消費が激しいと聞く。今は俺達に任せろ」
「……じゃあお言葉に甘えて」
ダークディケイドがバックルに手をかけた時、ライダー達はその複眼を一斉に向けた。
無言でひたすら見つめてくる姿が少し怖かった。
だが、「少し怖い」程度しか思わなかったので、変身解除は続行される。
そして変身を解いた瞬間、大地の顔面に
口から血を吐きながら、大地は自嘲気味に呟く。
ああ、また騙された。
倒れながら、口から吐き出した液体に大地の顔が映る。赤透明の水溜まりに映る、酷く歪んだそれが自分の表情だと何故だかすんなり納得できた。
次回は明日の夜更新します。短いです。
怪人紹介も次回にまとめてやります。