ネガ電王の登場により一変した戦場。
その場にいる視線を総取りにしたネガ電王はすこぶる上機嫌であった。
「ネガ電王か……はん、お前も所詮は偽者。この数を相手にできるとでも?」
「こんな雑魚どもと俺様を一緒にすんじゃねえよ。強さは……別格だ!」
「……やれ」
その言葉が新たな戦いの火蓋を切って落とすこととなった。
セイヴァーの偽ライダー軍団が一斉に群がり、殺意を載せた攻撃を叩き込もうとしてくる。
ネガ電王が醸し出す威圧感こそ偽ライダー達を震え上がらせたが、数の優位性が彼らの背中を後押ししていた。
レイを圧倒したように、このネガ電王も四方八方からズタズタにできるのだと彼らは高を括ってしまった。
ネガ電王は動じない。むしろ突き刺さる殺意は彼にとって心地よくすら感じさせた。
「まずは準備運動だ」
ネガ電王は自身のベルトに付いている四つのパーツのうち、まず二つを取り外す。
そしてすぐさま左右に投げ付け、空いた手でまた別のパーツを二つ持った。
左右に投げられたパーツは左でデストロンライダーマンに、右でニセアマゾンにぶつかり、再びネガ電王の元に跳ね返ってくる。
跳ね返ってきたパーツはちょうど目の前で組み合わさり、さらに手に持っていた二つを合体させることで専用武器、ネガデンガッシャーのソードモードが完成した。
愛剣を手にした時、四人が四方から迫って来ていた。ネガ電王の顔面を打ち砕こうとするは四つの拳。
「甘いッ!」
その寸前でネガ電王はしゃがみ、前方に身体を滑らせた。
殴られるギリギリの瀬戸際を見極めていたために、偽ライダー達は腕を突き出した後になってようやく「ネガ電王に躱された」と認識する。
だが、ショッカーライダーNo2だけはそれだけでは済まなかった。
彼はネガ電王の前方から迫り、ネガ電王が下を潜り抜けた瞬間に剣を振り抜かれていたのだ。
ゴトリ、と重い音を立ててショッカーライダーNo2の両脚が綺麗に寸断された。
「ギィィイッ!? 俺の、俺の、脚! よ、よくも!」
「耳障りだ。とっとと消えろ」
身動きもできない無様な達磨など見るに堪えない。
喚き散らしている首をネガデンガッシャーで手早く刎ねると、ショートを起こしたらしい断面部から火花を上げたショッカーライダーNo2の残骸は爆発した。
「馬鹿な……! ショッカーライダーが!?」
「こんな玩具の花火じゃ物足りねえな。質が駄目なら量で盛り上げろ」
FULL CHARGE
軍団の中でも随一の強さを誇るショッカーライダーがあっさりと撃破されてしまったことに戦慄する偽ライダー達。
さっきまでの威勢は何処へやら、フルチャージを終えたネガ電王を恐れ慄いて後退していくも、射出された剣先は彼等を逃がしはしない。
「デェイヤァッ!」
そのままネガデンガッシャーを横に振るえば、つられて剣先も扇状に薙ぎ払われる。その斬撃でショッカーライダーNo1の胴体が両断された。
返す刀でニセRXの両脚を切断し、さらに流れるように振り上げた腕をニセXライダーに向かって落とす。
ニセXライダーの頭上から落とされた剣先はその身体を突き抜けて地面に落ち、彼の身体を左右泣き別れとした。
結果としてその必殺技、ネガエクストリームスラッシュの強烈な斬撃は偽ライダー三人を瞬く間に燃え盛る爆炎へと変えてしまったのだった。
「クハハハハハッ! さあ祝え! ネガタロス様復活の狼煙は今上がった!」
「バケモノが!」
生き残りのデストロンライダーマン、ニセアマゾンライダーを特攻させ、自身も弓を引き絞るセイヴァー。
ネガ電王は放たれた紅い矢を一刀両断し、ソードモードからロッドモードへとネガデンガッシャーを組み替える。自身の身長にも届く長さの槍を片手で軽々と操り、その穂先を偽ライダー二人の足を掬い上げた。
セイヴァーがザクロロックシードをセイヴァーアローにセットするのと、ネガ電王がデストロンライダーマンの腹部に槍を突き刺して自身の元に手繰り寄せるのはほぼ同時だった。
ザクロチャージ!
「ギャァアアアアーッ!?」
ネガ電王を撃破すべく放たれたセイヴァー必殺の一撃は、盾にされたデストロンライダーマンを爆発させるのみに終わる。
「撃たれっぱなしってのも癪に触るなぁ、ええ?」
ネガ電王は爆風を掻き分け、セイヴァーとの距離を瞬時に詰めていく。そうはさせじと乱れ撃たれる弾幕を、途中で拾い上げたニセアマゾンライダーを盾にして防ぐ。
ニセアマゾンライダーが穴だらけになって朽ち果てた頃には、両者のは槍がギリギリ届く距離にまでなっていた。
「残るはテメエだけだ! 命が惜しくば言えよ? 特別にしたっぱとしてこき使ってやるか考えてやってもいい!」
「ほざけ! 存在すら危ういイマジン風情が!」
「なら貴様の存在を今すぐ消してやるよ!」
セイヴァーの武器は弓と剣、ネガ電王の武器は槍。中距離ならば分があるのはネガ電王の方だった。剣は届かず、かといって弓矢を引き絞る隙は与えない。
それはセイヴァーの防御の隙間に槍を捻じ込み、コツコツとダメージを稼いでいくという地味な戦法であったが、苛立ちを募らせるには有効に過ぎる戦法だ。冷静さを失えば不利になると理解はしていても、苛立ちが増せば増すほどその影響は動きに出てくる。
そうして生まれた隙こそネガ電王が欲する瞬間であった。
ネガ電王はセイヴァーの斬撃をひらりと躱し、背後に回り込んでから槍で首を絞める。
「このままジワジワと絞め殺されるか、一瞬で殺されるか。どっちが好みだ?」
「チッ!」
槍を持つ手に力を込めて、セイヴァーから酸素を奪う。その苦痛はセイヴァーの正常な判断能力をも奪うはずだったが、その予想に反してセイヴァーは軽く舌打ちしただけ。
セイヴァーは即座に大橙丸を放り捨てて、セイヴァーアローを自身の背後──ネガ電王の顔面を撃つ。これには堪らず後退ったネガ電王の腕から槍が離れた。
「馬鹿めっ!」
武器が失せたことを好機と見たセイヴァーはさらに追撃を試みるも、その装甲に一筋の裂傷を刻まれてしまった。
得物が無いはずのネガ電王の手には何故か一振りの剣がある。
「ライドブッカー……!」
「使える物は何でも使う。勝つ悪の基本だ!」
ネガデンガッシャーを拾ったネガ電王は剣と槍の変則的な二刀流となって、セイヴァーに更なる攻撃を仕掛けていく。
*
ゼロライナーが盗まれ、大破した。青いライダーが緑と赤のライダーを召喚して、大地を襲わせた。大地が謎のライダー集団に助けられ、襲われた。大地が謎のイマジンに憑依されて、紫のライダーに変身した。
事情が全くわからぬうちにこんな出来事が立て続けに起こったのだ。
侑斗でなくとも頭を抱えたくなるだろう。
「侑斗、大地くんに憑いてるあのイマジン、かなり強い!」
「っぽいな。てか、あの姿はなんなんだよ。ゼロノスに似てるけど」
あの姿、とはネガ電王のことを指してるのは言うまでもない。
大地──否、大地に取り憑いたイマジンはデネブが言う通り化け物地味た実力で偽ライダー達を瞬殺。さらにボスと思わしきセイヴァーすら圧倒している。
しかし、彼の口ぶりからして侑斗達の味方であると考えるのはあまりに楽観的だろう。セイヴァーを倒した後に「次は貴様らの番だ」とかなんとか言って襲いかかってくるのは目に見えている。
普通に考えるなら、変身もできない侑斗は逃げるべきだ。
「行くぞデネブ、あいつからイマジンを叩き出す」
「でも侑斗! 生身じゃ危険過ぎる! 俺が行く!」
「あんなの相手にするにはお前一人でもヤバいだろ。カードが切れたらどうせ同じことするんだ。予行演習みたいなもんと思えばいい」
侑斗はデネブの制止に聞く耳を持たない。
ゼロフォームすら軽く凌駕するであろうライダーに対して、拳一つで挑むことがどんなに危険かなど言われるまでもなく理解している。
せめてここにゼロノスベルトがあれば……と思ってはしまうのだが。
「せめて変身できれば……なんて考えてるのかい」
侑斗の思考はその声に遮断される。
見上げれば、土手の上にはあのゼロライナーを盗んだ憎たらしい男──海東大樹、仮面ライダーディエンドの変身者。消えたと思ったが、近くで見ていたらしい。
考えるよりも先に手が出た。
「てめぇ、さっきはよくもやってくれたな! さっさと──」
「お望みの品はこれだろう?」
大樹の胸倉を掴んで、思い切り殴りつけようとした拳はその寸前で止まった。
大樹の顔と侑斗の拳の間にあるのはゼロノスベルト。まさに侑斗が今一番欲しているものである。
侑斗は反射的に奪い取り、カードホルダーの中身が減っていないことも確認した。
「……何のつもりだ。こうもあっさり返すなんて、何を企んでやがる」
「僕の狙いはあくまでお宝、ゼロライナー。でもあんなになっちゃったら僕にはどうしようもなくてね」
顎で示されたのは、相変わらず炎上しているゼロライナー。
あんなにしたのはお前の責任だろう、と侑斗は強く抗議の目線を送る。
大樹には華麗にスルーされた。
「お宝……なら俺がこっそり集めてるフータロくんシールでなんとか手伝ってくれ!」
「黙ってろデネブ! ……お前そんなもん集めてたのか!?」
「だってえ、可愛いし、もしかしたら共通の話題になって侑斗の新しいお友達になってくれる人がいるかも────」
「デーネーブゥゥ!!」
侑斗は渾身の頭突きをデネブにぶちかまし、湧き上がる文句と振り上げた拳はとりあえず納めた。
続きは後回しだからな、忘れるなよデネブ────侑斗の睨みに込められた意思を察したデネブはヒイッと首を竦めた。
「お前が何を企もうが構わない。邪魔だけはするなよ」
侑斗はゼロノスベルトを巻き、カードホルダーに手をかける。
「侑斗!」
言葉がなくとも、相棒の言わんとすることはわかった。
「デネブ、お前は少しでも大地を引き留めようとしてるな。だから豪勢な飯作ったり、服買ったりしてんだろ」
「それは……」
「確かに大地がいれば、俺がカードを使う機会はぐっと減る。俺も少なからず感謝してた。だが、あいつは特異点じゃない。それでもイマジンと戦うってことは、常に憑かれる危険性と隣り合わせ……あいつがああなったのは俺達の責任でもあるんだ」
一瞬だけ思索────大地を救う強さをとるなら赤を、大地の記憶を残すなら緑を。
そして侑斗が抜き取ったのは緑のカードだった。
これでこの時間に生きた未来の自分、『桜井侑斗』の記憶はほぼ消える。しかし、あのネガ電王の仮面に隠れた大地を救えるのなら後腐れはない。
「大地はこの世界でもう十分戦った。俺達であいつを送り出す」
「侑斗……わかった! 俺も戦う!」
侑斗は頷き、ゼロノスベルトにカードを装填する。
「行くぞデネブ────変身」
ALTAIR FORM
仮面ライダーゼロノスとなった侑斗の緑の複眼が輝いた。
ゼロノスは大樹を一瞥した後、戦闘態勢になったデネブと共に駆けていく。
フィンガーミサイルがネガ電王の背中で弾け、振り返ったところへゼロガッシャーの刃を叩きつけた。
手加減抜きの全力の一撃はネガ電王にもそれなりのダメージになったようで、苦しげに呻き声を上げている。この調子で大地の身体からイマジンを叩き出すのが得策だろうとゼロノスは踏んでいた。
「ぐっ……!? てめえ、ゼロノスか……!」
「その身体、返してもらうぞ!」
サーベルモードのゼロガッシャーとアックスモードのネガデンガッシャーが火花を散らしあった。
ネガ電王の斧から加えられる圧の強さに押し負けかけたゼロノスは思わず膝をつく。
「丁度いい。俺様の復讐優先ランキング第3位のてめえはここでぶっ潰す!」
「伏せて侑斗!」
サーベルごと叩き折られかけているゼロノスを助けようとするデネブが再びフィンガーミサイルを放つ。
ゼロノスは微かに怯んだネガ電王の腹部を蹴り飛ばし、さらにセイヴァーアローの矢までもが迫るが、斧に防がれてしまった。
「潰されるのはそっちの方かもよ?」
「ガァッ!?」
だが、いくらネガ電王の技量が優れていても弓矢と同時に、しかも不意に放たれた弾丸までは防げなかった。
ゼロノス、セイヴァーが振り返った先にはネオディエンドライバーを構える仮面ライダーディエンドの姿があった。
ゼロノス、ディエンド、セイヴァー。三人のライダーが抱く思惑はバラバラだとしても、この瞬間だけ目的は一致していた。
「お前ら、力を貸せ! あのネガタロスとかいうイマジンを倒せるなら損はないだろ!」
「……いいだろう。ダークディケイドライバーは俺がもらう」
「その方が楽に済みそうだしね」
互いに利用し利用される仮初めの共同戦線が張られ、三人のライダー達は動き出す。
ゼロノスのボウガンとセイヴァーのアローによる同時射撃でネガ電王を足止めしている間、ディエンドは三枚のライダーカードを装填していた。
KAMEN RIDE RYUGA DARK KABUTO BUJIN GAIMU
「似た者同士、仲良くしなよ」
黒の竜騎士、仮面ライダーリュウガ。
黒の甲殻戦士、仮面ライダーダークカブト。
紅の鎧武者、仮面ライダー武神鎧武。
ネガ電王とはまさしく『似た者同士』の関係である。
そんなディエンドが呼び出した傀儡のライダー達は壁役として、ネガ電王に真っ向から立ち向かう。召喚ライダー三人が前衛兼壁役、ゼロノス達三人が後衛に専念するフォーメーションに自然となった。一人を相手にするには過剰にも思える戦力だが、それはネガ電王には当て嵌まらない評価。
「おいおい……こんな操り人形で俺をどうにかできると本気で考えてるのか? これだから最近の正義の味方ってやつは……」
「お生憎様。僕はそんなお行儀のいい者じゃない」
リュウガ、武神鎧武の剣を軽くいなし、呆れるネガ電王にディエンドは軽口を叩きながら発砲する。
さらにゼロノス、セイヴァーも続いて射撃するが、ネガ電王は再び剣に組み替えた武器で弾丸、矢を斬り裂いた。
「奴には並大抵の攻撃は通じない。量より質を高めろ」
「どっちもやればいいだろ! デネブ、お前も撃て!」
「了解!」
ATTACK RIDE BLAST
ブラッドオレンジチャージ!
唸りを上げるセイヴァーアロー、銃口が分身するネオディエンドライバー、フィンガーミサイルの掃射。それにクナイガンや無双セイバーの射撃までもが連なる。
だが、そんな並の怪人なら肉片も残さず消滅させられること間違いなしの光景を前にしてもネガ電王は全く臆さない。
「いいだろう。正面からブチ抜く!」
FULL CHARGE
弾幕の嵐は厄介だが、それを形成しているのは即席の集団。ネガ電王にはそこに生じた穴を瞬時に見抜き、被弾を最低限まで減らすのは容易いこと。
そしてそれでも回避できないものは、またも発動されたネガエクストリームスラッシュで強引に食い破る。
必殺技を迎撃のみに終わらせるとは中々贅沢な使い方だが、ネガ電王はパスを翳せば何度でも使えるのだ。もう一度フルチャージをすればライダー達を屠れる……ネガ電王はそう考えた。
爆煙に紛れ、三度目のネガエクストリームスラッシュを発動しようとした瞬間、煙の向こう側に緑色の輝きを目撃した。
FULL CHARGE
「何っ!?」
その音声はネガ電王のベルトから発せられたものではない。
パスは未だ翳しておらず、ネガ電王の必殺技は未発動のまま。
ならば必然的にフルチャージを完了していたのはネガ電王に向けられた緑の光に他ならない。
「我慢しろよ大地っ!!」
ゼロノスが放った必殺技、グランドストライクは爆煙を払って豪速で突き進む。
いくらネガ電王でもその速度で迫る技を回避、もしくは必殺技無しで迎撃などできない。
「クソがぁあぁぁ!!」
ネガ電王がライドブッカーとネガデンガッシャーを交差して防御の構えを取るが、それもほんの悪足掻きにしかならず。
紫のアーマーに刻まれるAの紋章。それこそがゼロノスによってネガ電王に付けられた、確かな敗北の刻印であった。
*
大地は夢を見ている気分だった。
自分の身体を操る意思が消失し、他の何かが大地の身体を動かしている。
ダークディケイドの時とも明確に違う、所謂乗っ取られる感覚を味わっている間、自分の身体が動いている様を第三者視点で眺めているようだ。
見たこともないライダーに変身し、巧みなテクニックで集団を圧倒するその姿は記憶の中にあるライダー達の中でも最上位に至れると言ってもいい。
スペックは平凡、特筆すべき能力もない。優れているのは状況に適した武器を瞬時に選び、操る技量。
正直に白状すれば────そんな自分が気持ちが良かった。これこそが求めていた力なのでないかと思うほどに。
闘いに溺れて、次第に意識は曖昧になっていく。誰と戦っているのかすらわからない。
だが、この力を手放したくはないと心の奥底で願ってしまう。
────その願い、叶えてやるよ。
闇の中で囁いてきた甘い声に、大地は安堵する。
なんだかとっても楽に感じて、暗闇のゆりかごに意識を墜としていった。
*
「やったか!?」
ゼロノスのグランドストライクは確かに直撃していた。
ゼロノス達はネガ電王が消えた爆発を見つめ、そろりそろりと近付いていく。
しかし、煙が晴れると同時に膨れ上がったプレッシャーが半ば強制的に彼らを飛び退かせた。
煙を晴らしたのは、幾つも出現した灰色のビジョン。
それが炎の中に佇む一つの影に集約し、重なっていく。
KAMEN RIDE DECADE
そしてその音声が何を意味するのか、全員が理解していた。
だが、納得できるかどうかはまた別の話だ。
ネガ電王の出現以降、離れた場所に退避していたレイキバットが驚愕の声を上げる。
「どうなってる!? 大地はまだ変身を解除したばかりだろうが! あいつがまた変身できるようになるまで数時間はかかるはずだぞ!」
最も警戒心を深めていた人物、セイヴァーがその疑問に答える。
「ダークディケイドライバーの変身は個人ごとにかかる。例え奴が変身したばかりであっても、他の人物ならすぐに変身が可能……そう言えばわかるかな?」
「それがおかしいっつってんだよ! 今変身してるのはその大地本人じゃねえか!」
「それが間違っている。今変身しているのは確かに奴の身体だが、ダークディケイドライバーは奴の精神で判定した」
その影は足元の炎を踏み潰し、一同の前にその全貌を露わにする。
先ほど変身解除したばかりの大地が再び同じ装甲を身に纏い、しかし溢れ出るプレッシャーは比にならない。
そしてその青藍の複眼が黒く瞬いたのも、きっと見間違いではない。
仮面ライダーダークディケイド────ゼロノスにとって頼れる味方であったはずが、最悪の敵となった。
「今ダークディケイドに変身しているのは大地であって大地ではない……
らしくなく焦燥を含んだ声のセイヴァーはゼロノスやディエンドにも今の自分達がどれだけ危険なのかを認識させた。
仮面ライダー六人にもほぼ互角に立ち回った強さの人物がダークディケイドに変身する。凡そ考え得る限り、最悪の組み合わせだ。
「フハハハハハハ! 最高の気分だ……さあ、第2ラウンドの開幕といこうじゃないか!」
ダークディケイドに変身した大地は──否、ネガタロスはたっぷりの邪悪さを曝け出して高らかに笑う。ダークライダーの名に恥じないその姿にゼロノス達はより一層警戒を深め、そして再度激突した。
*
平和な風景だったはずの河川敷に次々と巻き起こる爆発。
その中心で炎や土塊に混じって吹き飛ばされたゼロノスが悲痛な叫びを上げていた。
「うぁぁああっ!?」
ゼロノスの姿は基本のアルタイルからベガへと変わっていたが、そんな強化を嘲笑うかの如く蹂躙される。
あらゆる方向に発生する大規模な爆発に何度も吹っ飛ばされ、前後感覚すら見失いかけていたゼロノスには反撃どころか敵がいる方角すら判別がつかない。
ようやく爆発が止んだ時、ゼロノスに見えたのは愉悦の笑いを洩らす金色の魔法使いの姿であった。
「こいつぁいい! 俺様好みの演出だ」
「ぐぅ……つ、強過ぎる。これに勝てる気がしない……」
先手必勝という言葉が正しければ、この戦いはゼロノス達の負けだ。
ダークディケイドとの戦いが始まってまだ数十秒も経っていないにも関わらず、ゼロノスも含めたライダー達は皆地面に転がっている光景を見れば素人でもそう察せるだろう。
ダークディケイドがカメンライドした形態、DDソーサラーのエクスプロージョンという大規模爆発魔法を発動しただけでこの有様。ゼロノスに憑いたデネブが弱音を吐く気持ちもわかる。
(クソッ、野上の不幸が移ったのかと思っちまうぜ)
「本当にそうかも……」
当たりどころか悪かったらしく、武神鎧武は今の爆発に飲まれて消滅しており、これでゼロノス側の戦力は五人になってしまっていた。
リュウガ、ダークカブトもそう長くは保たないだろう。
「さぁて、次はどれを試すか」
這い蹲っているライダー達を悠々と眺めていたDDソーサラーはこれ見よがしにライドブッカーを広げている。
しかし彼がカードを使えば使うほどに勝利は遠のくと理解していても、爆発のダメージが立ち上がることを許してはくれない。
「こんなに悩むのはいつ以来か……。おい、要望はあるか?」
「黙れェ!」
尋ねられたライダー──セイヴァーは激昂して矢を放つ。
「そのベルトは元々俺のものだ! ぽっと出のイマジン風情が使っていいシロモノじゃない!」
豪族で迫る矢を冷静に弾いたDDソーサラーはこれまた愉快そうに肩を揺らして笑った。
その手には既に一枚のカードが選ばれている。
「わかったわかった、そんなに駄々をこねるんだったら仕方ねえ。このベルトをたっぷり堪能させてやるよ────こいつでな!」
ATTACK RIDE ILLUSION
DDソーサラーはその姿を通常形態に戻すと同時、自身の輪郭をぼやけさせる。
ディケイドイリュージョンによって生み出された分身の数は四人。
本体と合わせて五人のダークディケイドはそれぞれ別のカードを装填した。
KAMEN RIDE DARK KIVA
KAMEN RIDE ETERNAL
KAMEN RIDE DARK DRIVE
KAMEN RIDE DARK GHOST
KAMEN RIDE NEGA DEN-O
並び立つはDDダークキバ、DDエターナル、DDダークドライブ、DDダークゴースト。そしてそれらを統括するは本体であるDDネガ電王。
これにはセイヴァーやディエンドまでもが絶句してしまう。
ただでさえ最強クラスのライダー達が一斉に並び、その全てをネガタロスが操っているのだ。これを絶望と言わずして何と言おうか。
「どうした、もう吠えるのは辞めたのか?」
「……ッ」
「これは逃げるが勝ちかな……!」
セイヴァーの選択は徹底抗戦、ディエンドの選択はインビジブルでの逃走。
この場において賢い選択と言えたのは後者なのかもしれないが、ネガタロスはダークディケイドと同規格のカードを使うディエンドには特に警戒していた。ディエンドがカードを装填する瞬間などは特に。
DDダークキバは足元から出現したキバの紋章を飛ばしてディエンドに張り付いたかと思えば、その身体を拘束した。
紋章から激しく溢れ出すエネルギーの奔流はディエンドを掴んで離さず、カードだって使わせはしない。
動けない主人に代わってDDダークキバを打倒せんと走り出したリュウガ、ダークカブトの行く手を遮るはDDエターナル。
ATTACK RIDE FANG
DDエターナルが描いた一筋の線は、切れ味を増したエターナルエッジの斬撃。
まるで獣に食い破られたかのような傷口を空けられたリュウガとダークカブトはガックリと項垂れて消滅してしまった。
そして漸く紋章から解放されたディエンドにDDダークキバ、DDエターナルの両名が襲いかかる。
FORM RIDE DARK GHOST NAPOLEON
ザクロスカッシュ! ブラッドオレンジスカッシュ!
一方セイヴァーが迎え撃つはDDダークゴースト、DDダークドライブの二人である。
セイヴァーアローの刃に溜まったエネルギーを放出した斬撃と、ナポレオン魂と化したDDダークゴーストの斬撃が激しくぶつかり合い、それが新たな衝撃波を生む。
思わず顔を背けたセイヴァーであったが、突如背後に感じた気配が彼を振り向かせた。
「後ろ────ガァァァッ!?」
しかし、常人を遥かに超えたその反応速度であってもDDダークドライブにはスローモーションも同然。
返す刀の一閃は虚しく空を切り、逆にブレードガンナーの唐竹割りが削った赤黒い装甲の破片を飛び散らせた。
しかもブレードガンナーの刃が斬り付けたのは装甲だけに留まらず、そのベルトにすら斬り傷を作っていた。
ベルトに生じた、たった一筋の傷から波及したスパークに身体を焼かれたセイヴァーの喉から絞り出された叫びは怨霊と聞き間違えられてもおかしくはなかった。
そんな声を出してもDDダークゴースト、DDダークドライブは一切の慈悲を覚えない。容赦もしない。
「まだだ……まだ終わらんっっ!!」
生死を分ける刹那、死に物狂いで剣を回避したセイヴァーは咄嗟に出した銀のオーロラに姿を消した。
幽鬼のように揺らめくその影には目もくれず、DDダークドライブ達はゼロノスを追い詰めているDDネガ電王の元へ踵を返す。
結果としてゼロノスは3対1、ディエンドは2対1の絶望的な状況に追い込まれる羽目になってしまった。ゼロノス、ディエンド共に決して弱くはない二人でも碌な抵抗すらできやしない光景は悪夢以外の何物でもない。
DDエターナル、DDダークゴーストの斬撃。DDダークドライブの殴打。DDダークキバのハイキック────全ての攻撃が面白いくらいぶち当たり、やがてゼロノス達は悲鳴すらまともに上げられなくなっていく。
ディエンドの高速移動も、ゼロノスのバルカンも、全て見切られてしまっている。
「まさかこれほどとはね……!」
「あのイマジン、どうしてあのベルトをここまで使いこなせる!? 初めてのはずなのに、はっきり言って大地くんよりも強い!」
ネガタロスが変身したネガ電王とは、元から飛び抜けたスペックの持ち主では無かった。
だが、彼は持ち前の戦闘テクニックによって様々なフォームとスタイルを持つ仮面ライダー電王を圧倒してみせたことがあった。
そんな彼にダークディケイドを与えるとは、まさに水を得た魚となるのも必然なのだ。
「これで終いか……随分と呆気ない終わり方になっちまったな」
いざ意気込んで復讐をしてみれば、その結末がこんな作業感すら感じさせる圧倒的な差のついた戦闘とは。心の萎えを自覚したDDネガ電王が頬杖付いて、どこか淋しげに呟く。
彼の足元で分身達に身体を取り押さえられた二人のライダー、特にゼロノスの姿のなんと情けないことか。しかしダークディケイドの性能とネガタロスの技量が合わさったのだから無理もない話だ。
「青いの、まずはお前の首から貰うぜ」
DDネガ電王はライドブッカーを剣に変えて、その刀身を撫で上げる。
観念したかのように項垂れるディエンドの首は大して魅力的に感じないが、勝つ悪の組織はここで見逃すなんて愚行は犯さない。大抵はその後逆襲されるものだと、彼は知っているからだ。
「遺言があれば聞いてやろう」
「流石、悪の組織の頭目までくれば気が利くじゃないか」
「ネガタロス大首領と呼べ。──言いたいことはそれだけか?」
「まさか。その大首領様にそのベルトについて一つイイコトを教えて差し上げようと思ってね」
「ほう」
見え見えの時間稼ぎ。しかし、DDネガ電王は興味を示した。
その興味はディエンドがこれから話す内容より「時間稼ぎをしてまで何をしようというのか」という風であった。
だが慢心、油断をしたわけでもなく、ディエンドが何か妙なことを仕掛けた際には即座に捻り潰すため分身にはファイナルアタックライドを発動できるようにさせておいた。
「君はその身体の持ち主よりもそのベルトを使いこなせているみたいだけど……そのベルトについての知識は足りているのかな?」
「頭に流れ込んでくる妙な記憶のことか?」
カメンライドしたライダーの記憶はネガタロス自身にも見えていた。
しかしこの場にいない存在など特に気にも留めていない。
「ダークキバ、ダークドライブ、ダークゴースト、エターナル……強力な布陣を取り揃えたのは感心したさ。後はこの分身達がどこまで保つかだね」
「何……?」
不敵に笑うディエンドに嫌な予感を感じたDDネガ電王はその首を切り落とそうと剣を持ち上げた。
後は腕を振り下ろすだけでディエンドの命運は尽きる。
DDネガ電王の胸に銃口が突きつけられていなければ、であるが。
「残念♪」
ディエンドのゼロ距離射撃に吹き飛んだDDネガ電王。まず考えたのは、何故ディエンドが自由に動けたのかという疑問。
しかし、DDネガ電王の視界には取り押さえていたはずの分身がどこにも見えないという奇妙な事象が発生していた。しかもよくよく見れば、ゼロノスを押さえていたDDダークゴースト達まで消滅しているではないか。
そして困惑を示したDDネガ電王は突如として身体が地面に引っ張られるような、強烈な負担がのしかかってきたことを自覚した。
「そのベルト、使う能力が強ければ強いほどかかる負担は大きいらしいよ? 知っておいて損はない、イイコトだろう?」
「巫山戯るな!」
分身が消えようと、傷ついたライダー二人如きに負けるなどとDDネガ電王は考えていない。
しかし徐々に増していく身体の重みは彼の片膝を折らせて、体力を大幅に奪っていく。意識まで朦朧としていく自分自身に、DDネガ電王はここでようやく……遅過ぎた焦りを覚えた。
それと同時に襲いかかる極度の疲労のせいでその手から剣が滑り落ち、身体が平衡感覚を失って倒れる。
「嘘だ……俺様がこんな……ガァァァ!!」
苦痛の叫びに混じって、煙を上げたダークディケイドライバーが地面に落ちる。
そして迎えた結果は大き過ぎた負担による強制変身解除。
ディケイドイリュージョンに複数カメンライドの重ね掛けなど、大地が思い付いても実行しなかった禁断の戦法の代償は短時間での変身解除────訪れたのは面白味に欠けると言われても仕方ない淡泊な結末だった。
*
「大地! しっかりしろ! おい!」
「……ぅうん」
ペチペチと頰をはたかれて、沈んでいた意識が微睡みから引き上げられる。
ゆっくりと目を開けた大地が見たのは、こちらを心配そうに覗き込む侑斗とデネブ、退屈そうに明後日の方角を見つめる大樹の三人であった。
「侑斗さん、デネブさん、海東さん……僕、何がどうなったのかさっぱりで……」
「ワルタロスとかいうイマジンに乗っ取られてたんだ! でも、大地くんが無事でほんっっっとうに良かった!」
「馬鹿、ネガタロスだろ! ったく、手間かけさせやがって」
イマジン、ネガタロス……それらのワードが、覚醒してきた脳内にぼやけた映像を導く。
それは仮面ライダーネガ電王となって猛威を振るった記憶。
それは仮面ライダーダークディケイドとなって全てを粉砕しかけた記憶。
そしてそこには言うまでもなく────大地を救おうと奮闘するゼロノスの姿。
全身の汗腺という汗腺からどっと吹き出した冷や汗が見る見る間に大地の服を湿らせた。
「────僕は、僕は……ッ!!」
その時感じた罪悪感は大地の中では間違いなく過去最大であった。
頭を抱えてうずくまろうとした大地であったが、その肩を侑斗に掴まれて支えられる。彼の表情には大地を責める意思など欠片も無かった。
「やめろ。俺が自分で決めたんだから、後悔なんてすんな。お前に落ち度があったとも思ってねえし……それよりお前のカードはどうした」
大地は言われて思い出し、ライドブッカーを確認する。
ネガ電王のカードこそ追加されているものの、ゼロノスのカードは依然としてブランクのままだ。大地、侑斗、デネブの溜息が重なった。
大地の溜息は「カードを使わせてしまったのに」という罪悪感から来るもので、侑斗の溜息は「チャンスがあと一回になってしまった」という焦燥から来るもの。ついでにデネブのは「侑斗の記憶があと一回の変身で消えてしまう」という悲しみだった。
そうして暗い面持ちで落ち込む一同であったが、そんな雰囲気は御構い無しに大樹が声をかけてきた、
「どんより中に申し訳ないけど、一ついいかな? あのネガタロスとかいうイマジンはどうなったかわかっているのかい」
大地は目を瞑り、己の内側を覗く。ぼんやりとだが、自分とは違う何者かの存在を確かに感じた。
まともに実体を維持できない、精神体となっているネガタロスは大地の奥底で息を潜めている。
「……多分、まだ僕の中にいます。ダークディケイドの反動がかなり堪えたみたいです」
「その割には憑依されていた君はピンピンしてるみたいだけど?」
そう、大樹が言うようにダークディケイドには強制変身解除されるほどの負荷がかかっていたはずなのに、大地が割りかし平気そうにしているのは不自然なのだ。
その疑問は大地本人も感じていたし、同時にその答えも持っていた。
「なんとなく感じます……ダークディケイドライバーは僕じゃなくて、あくまでネガタロスを変身させていただけなんです。だからその負荷もネガタロスだけにしかない」
「……それはまた随分とおかしな話じゃないか。精神に憑依していたイマジンだけがピンポイントで負担をかけられたなんて……」
「自分でもそう思いますよ。でも僕全然疲れてないし、そうじゃないと説明つきませんよね」
大地はそう言って、未だに煙を上げているダークディケイドライバーに目を向けた。
あれだけの戦火に曝されながら芸術的ですらある黒色は少しも損なわれていない。
これまでもそう感じたことはあったが、今日ほどこのベルトが不気味だと実感したことは無かった。
大地に憑依していたネガタロスのみを判別して、変身の制限すらネガタロスのもの。そこには無機質とは程遠い、明確な意思があのベルトに宿っているようにすら思えてくる。
誰もが口を噤む重苦しい雰囲気の中、大地はとりあえずベルトを拾おうとする。
その時、ヒュッと風を裂く音がしてダークディケイドライバーの横に一枚のカードが突き刺さった。
それは大地も何度か使用した時を超えるためのチケットであり、そこには金色のライオン型イマジンと「2006-01-19」の日付が記されていた。
チケットを投げてきたと思われる人物に集中する一同の視線。
しかし、歴戦の戦士達から圧を向けられた彼はただつまらなそうに溜息を吐いただけだった。
「あーあ、あいつ、あんだけ威張っておいてこのざま。結局失敗とかほんっと白けるよなぁ。俺、そういう顔してるだろ?」
「貴方は……?」
「俺? カイだよ、カイ。あれ、言ってなかったっけ?」
「初対面ですけど……」
キョトンとしたカイの顔は大地には本当に見覚えがない。どこか薄ら寒いオーラと穏やかさが同居しているこんな不気味な男などそうはいない。
しかしカイの方は大地の反応を気にせず、悪戯小僧のような笑顔を浮かべた。
「まあいっか。ほら、そろそろ始まるころだ」
────パチン。
カイが指を鳴らした瞬間、崩壊は始まった。
家も、ビル街も消滅していく。それは破壊された、というよりも最初から無かったかのように。
人々も例外ではない。存在した痕跡ごと消えていく。
「これは……イマジンが過去で暴れてる!?」
「あぁ……ああ、そんな……」
さっきまで幸せそうにしていた家族が一瞬で消えた。
さっきまで笑いあっていた友人同士が一瞬で消えた。
大地は人々が生きていた時間が消えていく光景を直視させられて、何も告げられない。
「お前らがドンパチやってる間にイマジンを過去に送っといた。そのチケットの日付にな〜。行きたきゃ行けば?」
「お前!」
激昂した侑斗に胸倉を掴まれて、カイの笑顔はますます深まる。
そうして怒れば怒るほど吐き気を催す笑顔はより嫌らしくなっていく。
そして「あ、そっかぁ」と思い出したようにポカンと開いた口からまた飛び出す笑い声。
「お前ら、もう時の列車無いもんなぁ! お前らも散々邪魔してくれちゃったけどさ、それももう終わり! この時間はもうすぐ俺らのものになるって気がするよ────俺、そういう顔してるだろ? アハ、アハハハハハ!!」
カイの弾けた笑いが木霊しているこの瞬間も、街は音もなく消滅していく。
まもなく、時の運行はイマジンの未来へ進もうとしていた。
次回更新はなるべく早めにします