仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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お待たせして申し訳ありません。一応クライマックス


約束とネガいを胸に

 

 

「アハハハハハハハ!」

 

 古来より、笑いは伝染するものと言われている。

 楽しい気分の象徴とも言える、笑うという行為はそれを見ている人もなんとなく楽しい気分にさせるという。

 科学的根拠があるとかないとか、大地には知るよしも無いが、瑠美やガイドが笑っていると大地も自然と笑顔になれた。特に面白いことがなくとも、だ。

 

「ハハッ、ハハハハハハ!」

 

 しかし、大地には今も笑い続けるこの男────カイの笑いは心底楽しそうに見える反面、そう思う思考回路が全く理解できない。

 答えは簡単だ。この男が笑うのは自分自身のためだけ、たったそれだけなのだ。

 

「何が……何がおかしいんだ!! 何でそんな風に笑えるんだ!」

 

 カイの笑いは共有されない。理解もされない。

 だからこそカイは人々の時間を消し去るという非道をやりながら笑える。

 だからこそ大地はその笑いに怒り、カイに摑みかかる。

 

「んー? 俺、なんか変なこと言ったか?」

 

「貴方に……ッ! お前に! 時間の重みがわかるのか!?」

 

 守ってきた時間の中にあった幸せそうな人々が大地の脳裏に蘇る。

「守れて良かった」と思えた光景が消されたかもしれない。

 それは侑斗が大き過ぎる代償を払って護ってきた光景でもある。

 

「当たり前だろ? だからこの時間を自分の時間に繋げようとしてんじゃん。てかさ、お前らと言い争うつもりとかてんで無いから」

 

 また大地の心が負の感情に染まっていく。目の前の男を八つ裂きにしてやりたいと強く願ってしまう。

 だが、どんなに激しい怒りを向けても、カイはヘラヘラとした態度を崩さない。そのふざけた態度がまた大地の怒りを煽り、フツフツと滾らせる。

 これ以上その笑顔を直視することに堪えきれず、大地は思い切り殴り飛ばそうとするも、逆にカイのカウンターをもらってしまった。

 その際、袖に大地の血が付着したカイは心底嫌そうな顔をした。

 

「うーわ汚れたし……」

 

 しかし、口を切った痛みでは大地の怒りを上回らない。

 

「イマジンは僕が絶対に止めてみせる……! お前なんかに、みんなが生きてきた時間は消させやしない!」

 

「あっそ。なら精々やってみろよ。────モタモタしてると手遅れになるけど。プフっ、フフフ……!」

 

 肩を震わせて、どこへともなく去っていくカイ。

 もしも大地がダークディケイドになっていたら、衝動に流されてその背中を叩き斬っていただろう。

 

 生身の人間──少なくとも大地はそう認識している──相手でも躊躇なく刃を振るいそうな自分の恐ろしさを自覚して、それでも大地は見て見ぬ振りを決めた。

 

 そして大地は行き場を失った握り拳を撫でて抑えながら、一向に止まる気配のない、世界が崩落していく様に目を向ける。

 こうしている間にも過去はイマジンによって着々と破壊され、現代はカイやイマジンの未来へと繋がろうとしている。それを見過ごすことはできない。

 

「────侑斗、やっぱりゼロライナーは動きそうにない。損傷がかなり酷い」

 

「チケットはあるっていうのに……! そっちはどうにかならないのか!?」

 

「ダークディケイドライバーはまだ制限があって起動しない……イマジン側からすればほんとにグッドタイミングだったんだ」

 

 過去に飛んだイマジンを追うには三つのものが必要となる。

 

 イマジンが契約者の記憶を辿って戻った時間が記されたチケット。

 そのチケットを入れるパス。

 そのパスを入れて目的となる時間へ向かう時の列車。

 

 この内でチケットとパスは揃っているのに、肝心の時の列車──ゼロライナーが走行に耐えうる状態にない。

 デネブが必死に修復を試みているが、あれが直ったときにはもうこの時間は滅茶苦茶に壊されているだろう。

 時間を遡れるライダーに変身できるダークディケイドライバーが使えるまで待つのも同じだ。

 

 もしこれが昨日だったらゼロライナーは使えた。

 イマジンを追って何度も時を遡ってきているのに、今になって切実に時を遡りたいと思ってしまう。

 もはや大地達には人や街が消滅していく光景に唇を噛み締めて見守るしかできやしない。

 

「せめてあの列車に襲撃されなければ……!」

 

 変わり果てたゼロライナーの前で侑斗は、それはもう本当に悔しそうに無念の思いを吐き捨てる。

 諦めたくないと思って、諦めの選択肢が許されないとしても、それでもどうしようもないのだ。途方も無い代償を払い続けてきた戦いがこんな結末で終わることに納得は絶対にできないと、侑斗の表情が物語っている。

 

 大地はそんな侑斗にかける言葉が見つからなかった。

 こんな時に何か知っていそうな大樹もいつの間にやら姿を消している。つくづく彼は何がしたいのかさっぱりわからない。

 

 しかし、大地は落ち込むと同時に侑斗が言った言葉──あの列車──が頭の片隅で引っかかった。

 

 ネガ電王とあの列車、ゼロノスとゼロライナー、それぞれ同じ関係性なのだとしたら……。

 

 思い付いた手段を試そうとして、大地はポケットを弄るが、ネガ電王の変身に使用したパスケースはどこにもない。

 恐らくはあの列車はネガタロスが管理しているのだろう。だからパスも彼の意に沿わないと使えない。

 

「無い……か。なら……!」

 

 これからやろうとしているのは非常に危険な賭けだ。下手をすればダークディケイドライバーに食われるよりも恐ろしい結果になってもなんらおかしくは無い。

 だが、大地はすぐに決意を固めた。

 怪訝そうに見つめる侑斗に頷き返して、大地は己の胸にそっと手を当てた。目を瞑って神経を研ぎ澄まし、その心中を探索する。

 

 そうして、大地の意識は暗い海の底に沈んでいった。

 

 

 *

 

 

 暗い、暗い闇を手探りで潜り────やがて辿り着いた奥底には黒い鬼がいた。

 

「あなたがネガタロスですね」

 

「あぁん?」

 

 その鬼──ネガタロスと意識の中で対峙する大地。

 一目で悪人とわかる見た目もさることながら、押し潰されるのではと錯覚してしまうプレッシャーが半端なものではない。

 相手に食われまいとなけなしの勇気を引き出して、大地は口を開いた。

 

「ゼロライナーを襲った電車、あなたのものですよね」

 

「……だったら?」

 

「使わせてくだ「断る」……ですよね」

 

 食い気味に断られてしまったが、その程度は想定済みだった。このイマジンは他に輪をかけて相容れない存在であるという認識はやはり正しい。

 自覚していた通り交渉は苦手分野だが、大地は諦めるつもりは無かった。

 

「お願いします。僕達にはどうしても時の列車が必要なんです」

 

「そうなのか……ならますます貸す気が失せた。俺様はな、お前みたいな正義の味方って奴が大嫌いなんだよ」

 

「知ってますよ。あなたに乗っ取られた時、そういう感情が流れ込んできましたから」

 

「だったら何でこんな無駄な時間を費やす? 言っとくが、てめえごときに脅されても俺様は揺らがねえぞ。むしろ俺様が回復したらすぐにでもまた乗っ取ってやる! 命乞いをした方がいいんじゃないか? クハハハハハハハ!」

 

「────ッ」

 

 いけない、相手に呑まれるな。主導権を握らせるな。相手は単なる精神体だ。

 大地は己を鼓舞して、諦めずにこちらの要求を通すための筋道を必死で構築する。

 

「……ギブアンドテイク。たしか、そういう言い回しがありましたよね」

 

「はぁ?」

 

「僕なら、あなたに新しい身体を与えられます」

 

 そう言った瞬間、ネガタロスの目の色が変わった。

 警戒、興味、憎悪……少なくとも彼の中では大地の扱いが「取るに足らないガキ」から「面白いガキ」にまで上がっていた。

 

「貴方は多分僕の中にいないとまともに活動できませんよね。いくら憑依できるとはいえ、そのままだと不便でしょう? えっと……『悪のネガタロスーズ』の結成には」

 

「そんなダセェ学生バンドみてえな名前じゃねえよ!! 『スーパーネガタロス大軍団(未定)』だ!!! 次間違えたらぶっ殺すぞ!! 」

 

「ひっ、ご、ごめんなさい! ……あ、改めて、僕がダークディケイドになればあなたに新しい身体を与えられます。だから」

 

「だからネガデンライナーを使わせろってか。ふむ……」

 

 顎をさするネガタロス。

 答えはほどなくして出された。

 

「いいだろう。今回だけ貸してやる」

 

「本当ですか!」

 

「このネガタロス様に二言はねえ。お前も約束を忘れるなよ」

 

「はい!」

 

 交渉はいささか拍子抜けしてしまうほどあっさり終了してしまった。

 やけに聞き分けのいいネガタロスを不自然に思わなくもないが、ここで余計な一言を付け足して機嫌を損ねてしまうと折角の交渉も台無しになってしまう。相手も背に腹は変えられないのだろうと大地は結論付けた。

 

「じゃあ精々頑張るといい、()()()()()さんよ」

 

 最後にネガタロスが投げかけてきた言葉は、どこか皮肉を言うような物言いであった。

 

 

 *

 

 

 自分の中での対話を終えた大地はゆっくりと目を開いた。

 ふと感じるのは、右手の中の硬い感触。

 自身の深層心理に潜る直前、大地を覗き込んでいた侑斗の眼差しも同じ場所に向いていた。

 

「それ、パスだよな」

 

「条件付きで借りたんです」

 

 正確な使い方は知らずとも、大地は直感的にパスを掲げた。

 するとあの不協和音を鳴らしながら、ゼロライナーを損傷させた根源にして────希望の一手となる時の列車が大地達の目の前に停車した。

 

「ネガデンライナー。僕がこれでイマジンを追います」

 

「……冗談だろ? あのイマジンだってまだお前の中にいるんだぞ。……まさか、そいつから借りたって言うなよな」

 

 こくん、と大地は頷く。途端にその胸倉を掴み上げられ、苛立ちが頂点に達した侑斗のひん剥かれた眼と見つめ合うことになった。

 

「それが罠だって気付かないわけじゃないだろ!? あのネガタロスってイマジンはお前を過去に飛ばしてから身体を乗っ取るつもりなんだよ。誰にも邪魔をされない時間でな!」

 

「そうなる前に決着を付けて戻ってきます! 自分が自分で無くなるのは僕も嫌ですから」

 

「何の根拠があんだよ! ……もういい、俺が行く」

 

 パスを奪い取ろうとする侑斗。パスを握った手を離さない大地。

 互いに譲るつもりはサラサラなく、握力がパスからギリギリと音を鳴らす。

 刹那の引っ張り合いの末、力比べは大地に軍配が上がった。

 

「……そこまでして俺にカードを使わせたくないってか。さっき言ったこと忘れたのか? それじゃあいつまで経ってもお前はこの世界から出られないんだよ!」

 

「それでもカードは使って欲しくありません! どんなに矛盾していようと、その思いは曲げられない。ここで侑斗さんに変身させてゼロノスを記録できたとしても、僕はずっと後悔する!」

 

「その後悔だって忘れる。いつまでも駄々こねてんじゃねえ!」

 

「侑斗さんこそ! 少しは自分に正直になったらどうなんですか。本当はカードを使いたくないって」

 

 息を荒げた口論はそこで一時停止した。

 侑斗は胸倉を掴んでいた手を離して睨んでいるが、その目が泳いだ一瞬を大地は確かに捉えていた。

 

「……適当言うな」

 

「まさか。僕は本気ですよ」

 

 いつだって侑斗はカードを使うことに怯えていなかった。

 忘れ去られていく自分を受け入れていた。戦う決意の方が勝っていた。

 しかし────できれば使いたくないとも思っていたはずだ。

 

「侑斗さんって瑠美さんのことも、僕が写真館に住んでることも知ってましたよね。それでも侑斗さんはわざわざミルクディッパーで僕に接触してきました。特異点の良太郎さんに勘付かれるリスクを冒してまで……

 

 ────それって、忘れられるたびに愛理さんに覚えてもらおうとしたからじゃないんですか?」

 

「それは……っ」

 

 侑斗は大地の言葉を否定しようとして、しかし出来なかった。

「違う」と強く断言しようと開いた口は、それ以上の音を発しないまま閉じられる。

 あくまでも大地の推測に過ぎない言葉であったが、黙って耳を傾ける侑斗の姿がそれを肯定していた。

 

「この前のイマジンに襲われた時、僕が駆けつけるまでそれなりに時間は経ってたのに侑斗さんは変身していませんでした。その理由もギリギリまでカードを使いたくなかったからだとしたら」

 

 侑斗の顔から怒りが去っていく。大地を見つめる眼差しにこもった熱も引いていくようだった。

 

「時間を守る為に自分を消して戦う侑斗さんは本当に強いです。かなり強いです。……でも、『覚えていて欲しい。忘れないでいて欲しい』っていう想いを抱いちゃいけないことってことは無い。その心に従って、僕に任せてくれませんか?」

 

 桜井侑斗は孤独だ。

 今はデネブがいて、大地がいて、それでもいつかは誰からも忘れ去られる孤独がすぐそこにある。

 その孤独と正面から向き合えることこそ、侑斗の持つ()()

 それ自体が間違いだとは大地は思わないが、全面的に肯定するつもりもない。

 だからせめて、孤独を怯える心だけは汲み取ってやりたい。

 

「……人を見透かしたように言いやがって。……信じていいんだな」

 

 その瞬間、ライドブッカーから侑斗と大地の間に一枚のカードが滑り込む。

 掴み取ったそのゼロノスのカードこそ、大地が仮面ライダーゼロノスを────桜井侑斗を記録した証。

 

「約束です。僕は侑斗さんを忘れない」

 

 ネガデンライナーの発進を告げる汽笛が地の底まで届くように低く鳴り響いた。

 

 

 *

 

 

 ────2006年 1月 19日

 

 金色の獅子、レオイマジンとその配下であるレオソルジャーの数人が街を破壊している。

 レオイマジンの吐き出した火球に焼かれる者、ビルの瓦礫に押し潰される者……街はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 逃げ遅れた子供が地べたに座りこんで泣き叫んでいようと、それを気にかける余裕のある者すらいない。そしてその子供を可哀想だと憐れむ慈悲をレオイマジンは持ち合わせていない。

 

「耳障りだ……失せろ!」

 

 子供を火だるまにしようと放たれた火球。しかし、次元を超えてやってきたネガデンライナーがそれを弾いた。

 

「大丈夫!? お母さんは……あ、あっち! 早く逃げて!」

 

 列車から飛び降りた大地は子供を誘導してから、レオイマジンと対峙する。

 破壊活動に勤しんでいたレオソルジャー達も大地を囲み、標的は大地一人に絞られた。この世界に来てからというもの、多勢に無勢な場が多すぎやしないだろうか。

 

「ダークディケイドか。まさか追ってくるとはな」

 

「ちょっと借り物でして。これ以上は僕がさせない」

 

 ダークディケイドのクールタイムはまだ終わっていない。

 だが、怖気付く気持ちは全くなかった。

 

「変身!」

 

 チェンジ! ナウ

 

 大地は仮面ライダーメイジに変身し、手始めに一番身近なレオソルジャーを蹴り飛ばす。

 その一撃を皮切りにレオソルジャー達は剣を構えて、次々とメイジに迫った。

 スクラッチネイルとライドブッカーで応戦するメイジであったが、過去の例に漏れず袋叩きに近い戦闘になりかけていた。

 

 見た目は雑魚だが侮るべからず。一人一人が一般イマジンにも匹敵しかねないレオソルジャー達はその連携も含めて、それなりの難敵だ。

 

 エクステンド! ナウ

 

 レオソルジャーの包囲網を抜け出すべく、メイジは腕を伸ばして手頃な街灯の上へと登る。ライドブッカーをガンモードにして、追いかけてくるレオソルジャーへと弾丸を乱れ撃ちするが、大した効果は見込めない。

 だが、綺麗に並んでやってくるレオソルジャー達に一つ閃くものがあった。

 

(……あ、いけるかも)

 

「ほ! ほ! ほ! ほ!」

 

 先頭のレオソルジャーへ、ぴょんとひとっ飛び。並んでいる肩から肩を軽快に踏みつけていく。ライダーに肩を踏まれる……というより蹴飛ばされれば当然転ぶ。

 最後のレオソルジャーの肩を踏んづけた後、メイジはリングを翳した。

 

 ヒート! ナウ

 

 ライドブッカーの銃口に集まった魔法の炎が形成するは紅蓮の弾丸。

 薙ぎ払うようにして放たれたメイジシューティングによってレオソルジャー達は残らず焼き払われた。

 

 しかし、前座を終わらせただけでは一息つけない。

 レオイマジンが振り下ろした鈍い金色の棍棒とスクラッチネイルが激しくぶつかり合う音が響いた。

 

「やるな。それなりに楽しめそうだ」

 

「このぉ!」

 

 メイジは棍棒を蹴り上げ、スクラッチネイルを突き出したが、レオイマジンの鈍い光沢を放つ爪に阻まれた。

 巨大な爪と爪が絡み合い、ギリギリと嫌な音を立てて削り合う。しかし、レオイマジンに張り合えるだけの力がメイジには足りない。

 

「だが俺には及ばん!」

 

「がぁっ!?」

 

 あっさりと突き飛ばされたメイジに放たれた火球が弾ける。

 吹っ飛ばされたメイジの変身は解けてしまい、生身を晒す大地。

 二発目の火球がその身体を焼き尽くすその前に、飛び出した白い影が大地の腹部に収まった。

 

「「変身!」」

 

 爆炎を搔き消す吹雪の中から現れた大地の姿は、すでに仮面ライダーレイとなっていた。

 レオイマジンの爪と、レイのギガンティッククローが再度ぶつかりあい、獅子の口からほう、と嘆声が漏れる。衝撃は先ほどより強くとも、腕に伝わる痺れは減っていた。

 

 メイジでは無理でも、レイならレオイマジンのパワーにも対抗できている。

 それでも僅差で力負けしている気がしなくもないが、この程度なら押し切れるとさらに力を込めた。

 

「侑斗さんの記憶も、この時間も、僕が守ってみせる!」

 

 

 *

 

 

 ────2007年 9月 23日

 

 ネガデンライナーが時空の狭間に去り、見送った侑斗はすぐに踵を返していた。ゼロライナーの後始末をデネブに任せ、侑斗は一人で市街地に向かう。

 過去で暴れているイマジンを倒さない限り時間の崩壊は止まらないし、それを止める手段を今の侑斗は持ち合わせていない。

 

「大地……急げよ」

 

 過去で暴れているイマジンを倒せば、今起きている被害はほぼほぼ修復させる。

 今にも瓦礫に押し潰されようとしている男性だってそうだ。最終的には無かったことになって、元どおりになる。

 

 だが、それはあくまで理論上の話。助けたいという感情に従って、侑斗は男性を助け出した。

 震えた礼の声に返事もせず、他に助けるべき相手はいるかと見渡した侑斗の目がとある存在を捉えた。

 

「フヌ、火事場泥棒のようで気が引けるかと思いきや、こうしておおっぴらに遊べるのも趣があって大変よろしいですな。そぉれそれ!」

 

 キツネ型のイマジン──フォックスイマジン。

 自身のフワフワと柔らかそうな毛を数本ちぎり、投げればそれは鋭い槍と化してビル群を貫いて破壊する。

 時間の崩壊とは別に破壊活動をしているのは、どさくさ紛れで契約した人間の望みを曲解して叶えようとしているとか、そんなところだろう。あのカイがやりそうな、悪辣な企みだ。

 侑斗はカードを使おうとしたが、あそこまで覚悟とリスクを背負った大地の存在が思い留まらせた。

 

「フヌゥ? ゼロノスではあーりませんか。遊び相手になってもらえるのですか?」

 

「……クソ!」

 

 ああそうだとも。使わずに済むならそれに越したことはないと常々思っていたことは認めるとも。

 ここはカードを使う場面だとわかっていながら、拳一つで殴りに行ってしまうのが愚かだとわかっているとも。

 

 がむしゃらに駆けた侑斗の体重を乗せた重いパンチをフォックスイマジンに叩き込むが、「いてっ」と軽い声が上がっただけ。

 生身でイマジンに勝てはしない、わかりきっていたことだ。

 

「フヌゥ、変身しないとは。つまらんですなあ」

 

「黙ってろ!」

 

 蚊ほどの痛みにもならないとはいえ、相手は黙って殴られてくれるようなお人好しのイマジンではない。

 軽く払われただけで侑斗の身体は吹っ飛ばされてしまう。

 それを鼻で笑い、またしても槍を放つフォックスイマジン。崩れ落ちる瓦礫の山。

 

「────あ」

 

 そして侑斗は見てしまった。その下にいた者──野上愛理を。

 

 必死に逃げる彼女の存在が最後の一押しとして、赤のカードを切らせた。

 

「変身!」

 

 CHARGE AND UP

 

 侑斗の時間が、記憶が錆び付いていく。

 大地や瑠美、愛理、人々の記憶から抜け落ちた記憶を代償にして、侑斗は超人と呼ぶに相応しいスピードで駆け抜ける。

 抱き抱えられ、押し潰されずに済んだ愛理が見上げた顔は赤い電仮面に覆われていた。

 

「怪我は?」

 

「大丈夫。……貴方は……?」

 

 その声も聞いても愛理は思い出さない。誰の声なのか、その主の顔さえ覚えていない。

 

「ならいい、早く逃げろ」

 

 しきりにこちらを気にしながら逃げる愛理に、侑斗は振り返らない。

 もう彼女の中に「桜井侑斗」はいない。それでいいと侑斗は思う。後悔はない。

 

「フヌゥ、 変身しましたか。契約者の『スクープが欲しい』なんて馬鹿げた願いを真面目にやってあげている真っ最中なので、できればそれが済んでからにしてもらいたいのですが……」

 

 これはまた随分と小さい願いに最後のカードを使わされてしまったものだ。半ば呆れ気味に空を見上げて、ゼロノスは囁く。

 

「最後に言っておく────悪いな、大地」

 

 ゼロフォームとなったゼロノスは時間の向こうに消えた友へと、決して届く筈もない謝意を呟いた。

 

 

 *

 

 

 衝撃で砕け散った爪が、戦闘の余波が生み出した陽炎の中に消える。

 レイとレオイマジンの度重なる激突は両者の爪を削り、互いに砕いたのだ。

 自慢の武器の破損に嘆く暇もなく、レイはライドブッカーを、レオイマジンは棍棒を取り回して再び激突する。

 

「大口叩いただけはあるな!」

 

「あなたみたいに火は吐けませんけどね!」

 

「氷なら吐けるぜぇ!」

 

 腰のレイキバットが威勢良く吹いた氷結弾は火球に打ち消され、激しく散った火花が一瞬だけ視界を埋め尽くす。その際、反射的にライドブッカーで守りの構えを取る。

 レイの顔面に突き出された棍棒を剣で受け止められたのは、これまで培った経験のおかげであった。

 

「レイキバットさん!」

 

 棍棒を強く押し返し、掲げた剣に氷の息吹が纏わりつく。

 その様子にただならぬ気配を感じ取ったレオイマジンは火球を放ったが、レイが振り抜いた絶対零度の斬撃は相殺できない。

 

「何!?」

 

 予想以上の威力に驚くレオイマジン。

 そこへ炎すら凍てつかせる斬撃の衝撃波が到達。小規模の爆発を起こした。

 これで撃破できていれば御の字だけれども、爆風に乗ってやってくるプレッシャーは未だ健在だ。

 

「……これでも駄目か」

 

「……みたいですね」

 

 多少のダメージにはなっても、撃破には至っていない。

 メイジでは敗北。ギガンティッククローは破損、魔皇力入り冷気の斬撃も通用せず。レイでこれ以上の火力は発揮できない。

 

 つまりはほぼ手詰まり。

 

「どうした、手品はもう終わりか!」

 

「俺のレイですら力不足か……ふざけたネコがいたもんだ」

 

「俺はライオンだ!」

 

 ダークディケイドは未だ使用不能であり、大地にはこのレオイマジンを打倒しうるだけの手段が無いかに思われたその時。

 その身体の内から声が響いた。

 

(フ……苦戦しているようだな。欠伸が出る戦いをしやがって)

 

 その響きには嘲りと優しさらしきものが同時に含まれていた。

 

(この声は……ネガタロス?)

 

(様をつけろ……まあいい。お前に死なれちゃこっちも困る。手本を見せてやるから、とっとと貸せ)

 

 身体の内側から何かが湧き上がり、意識がぼんやりしてくる。

 覚えのある感覚に不味い、と思う間も無く身体の主導権はネガタロスに握られてしまった。

 

「ちょ、ちょっと!? ────てめえはすっこんでな」

 

 雰囲気も一変し、レイの仮面から発する声にもどこか艶があるものになっていた。

 鬱陶しそうにレイキバットを放り投げることで変身を解除したN大地は銀色のベルトを腰に巻く。

 レイキバットの抗議する声にも耳を傾けず、デンオウベルトが奏でるメロディにだけ身体を任せた。

 

「変身」

 

 NEGA FORM

 

 N大地を包むスーツ、オーラアーマー、電仮面。全てが重なりし姿、仮面ライダーネガ電王が降臨した。

 未だに喚くレイキバットへ、しっしっと手をやりながら、ネガ電王は悠々とネガデンガッシャーを組み立てている。

 

「お前、何をしている? 貴様のようなイマジンなぞ知らんが」

 

「だったらその耳をかっぽじってよーく聞いておけ。俺様はネガタロス、勝利する悪の化身!」

 

「あ、ああ……?」

 

 見知らぬイマジンがいて、なおかつ敵対されていることにレオイマジンは困惑を隠せない。

 そうやって自身の存在感にたじろいでいる様はネガ電王の目には中々愉快に映ったものだが、それよりも今はさっさと終わらせる方が優先する。

 

「……どうやらただの馬鹿らしいな。その身体共々、俺が消してやろう」

 

「何か勘違いしているな。倒されるのはてめえだぜ?」

 

 不敵に言い放ったネガ電王はガンモードに組み立てたネガデンガッシャーで射撃を行う。

 腕をだらんと構え、喧しい発砲音と共に放たれた弾丸はレオイマジンに着弾する寸前で棍棒に弾かれた。

 少しずつ角度を変えて、上から下から射撃を続けるが、レオイマジンが振り回す棍棒は突破できない。

 

 そうして徐々に両者の距離は詰まりつつあり、ネガ電王は舌打ちだけして身を翻した。

 

「腰抜けが! 逃がすか!」

 

 射撃が通じないだけで逃げるとは、なんとまあ臆病な奴だ。

 そんな感想を抱いたレオイマジンは一目散に逃げ出したネガ電王の後を追うが、高架線のトンネルでさっと振り返って再び射撃が飛来してくる。

 不意打ちのつもりだったのかもしれないが、突然の発砲にも対応できるだけの反射神経がレオイマジンにはある。

 だが、数発叩き落として接近しようとした時、ネガ電王は突然天井に向けて発砲し始めた。

 

 側から見れば錯乱したようにも見えるその行為の意図は、視界を隠す舞い上がった灰燼が証明してくれた。

 轟音を立てて降り注ぐ破片も入り混じり、ネガ電王の姿は隠された。

 

「目眩しなど通じん!」

 

 しかし、それも下らぬ小細工だと一笑されるレベルの作戦。

 レオイマジンの一振りだけで埃は吹き飛び、一瞬で視界はクリアになった。

 

 当然、拳を振り上げて飛びかかってきたネガ電王の姿も。

 

「ガッ!?」

 

 棍棒で胸を打たれたネガ電王はあえなく倒れ、レオイマジンに踏みつけられてしまう。

 あれだけ大層な言葉を並べた割には、拍子抜けするほどに呆気ない幕切れだ。しかし油断はせぬ、と棍棒を叩きつけようとして、レオイマジンは気づく。

 

「俺様の銃がどこにもない……そう思ってないか?」

 

 図星だった。その通り、ネガ電王の両手はフリー。ネガデンガッシャーがどこにも見当たらない。

 そもそも視界を隠した時点で射撃せずに飛びかかってきたこと自体不自然だったのだ。

 

 堪えきれずに笑いを零すネガ電王の不穏な雰囲気にレオイマジンがようやく気付いた時、何かの落下音がした。

 

「お探しのブツはこれだろう?」

 

 ネガ電王の手にするりと収まったのは、ネガデンガッシャー。しかもフルチャージされた状態というオマケ付きで。

 眼前で充填された赤い球状のエネルギー弾を認識した途端、レオイマジンの全身から冷や汗が噴き出た。

 

「まさか、さっきの射撃は目眩しだけではなく──!?」

 

 灰燼はネガ電王がパスを翳す仕草を隠した。

 破片が降り注ぐ音、天井を撃つ音が『FULL CHARGE』という音声を隠した。

 ただそれだけのこと。

 

「追い詰めたと思ったら、追い詰められていた……今どんな気分だ?」

 

「ま、待て────」

 

 その答えごと、レオイマジンの頭部はネガワイルドショットに飲まれた。

 

 

 

 *

 

 

 現代にて戦闘を続けるゼロノスとフォックスイマジン。

 フォックスイマジンの武器は彼が生成する無数の槍、対するゼロノスはゼロフォームの優れた俊敏性を活かして駆けずり回る。

 空間に敷き詰められた槍の雨あられ、その隙間を縫うボウガンの矢。弾幕勝負では話にならない。

 

「そぉれそれ! そぉれそれ!」

 

 接近戦に持ち込めばこの槍はなんとかなるかもしれないが、それにはあの弾幕を掻い潜って前進せねばならない。

 強引に近寄ろうにも、その前に串刺しになるに決まってる。

 

「あぁクソ! めんどくせぇ!」

 

 FULL CHARGE

 

 痺れを切らしたゼロノスはグランドストライクを放ち、槍の雨に穴を抉じ開ける。牽制の射撃をしつつ、穴を潜り抜けた。その手にあるゼロガッシャーはすでにサーベルモードだ。

 

「フヌヌッ!?」

 

「折れろォ!」

 

 ぶつかった大剣と槍。パキン、と小気味の良い音を立てて槍が真っ二つに折れた。

 折れても再び生成すれば済む話だと構えた槍も再びゼロガッシャーに叩き折られ、その繰り返しによって折れた破片がいくつも転がった。

 やがて槍の生成がゼロガッシャーの乱舞に追いつかなくなり、フォックスイマジンの脳天にその刃が叩きつけられた。頭部に食い込んだ刃の激痛からひねり出された絶叫は思わず耳を押さえたくなるほど。

 

 FULL CHARGE

 

 その絶叫すらも、脳天から身体を真っ二つにされてしまえば自然と鳴り止む。

 二つに割られた身体はスプレンデッドエンドの威力に耐え切れず、爆発。こうして、フォックスイマジンは葬り去られたかに思えたのだが────。

 

「フヌ、フヌ……ギャァアアアアアアアアアアア!!」

 

「何!?」

 

 かつてイマジンだった残骸からゼロノスに覆い被さるようにして、巨大な影が落ちる。

 30メートルにも及ぶその黒い四足獣の名は、ギガンデス・ヘル。イマジンを形作るイメージが暴走した形態である。

 この姿になったが最後、イマジンには眼に映る物全てを破壊することしかできない。

 

「こんな時に……! デネブ、ゼロライナーは!?」

 

(ぜぇんぜん駄目だ! 修理するとこだらけでもー大変!)

 

「そっちは一旦置いとけ! すぐこっちに来い!」

 

 この相手はゼロライナーがなければまともに戦うことも難しい。

 しかし、放っておけば等身大の時よりも甚大な被害を出すのは火を見るよりも明らかだ。

 周囲への被害を減らすべく、ゼロノスはボウガンでその横っ面で焼こうとするが、成果は煩わしそうに首を振らせただけであった。

 

「くっ、これじゃ俺も野上の悪運笑えないな……!」

 

 こうも悪いことが重なると、笑えてすらくる。そう思いながら、ゼロノスは矢を放つ。

 効果無しとわかっていても、ボウガンを撃つ手を止めることはできない。

 チクチクと刺さる矢をいい加減鬱陶しいと感じたのか、ギガンデスは太い前足をゼロノス目掛けて振り下ろし、コンクリートをも砕く衝撃波で吹き飛ばした。

 

 その衝撃で肺から空気が押し出されて、鈍痛がじわじわと広がる。

 相手が前足を振るっただけでこの有様になるとは。サイズの差とは侮れないものである。

 

 吹き飛ばされ、仰向けに倒れたゼロノス。自然と上を見上げる形になり、その視界の隅に青いプレートがチラチラ映る。

 見るだけでムカムカしてくるその戦士こそ、今ゼロノスが吹っ飛ばされている原因とも呼べる人物だ。

 

「大丈夫かい? 見事なやられっぷりじゃないか」

 

「誰のせいでこうなってると思ってやがる……!」

 

「さてね。思い当たる節はないかな」

 

 倒れているゼロノスを上から覗き込んでくる青い戦士────確か、名前はディエンドだったか。

 人の列車を盗んでおいて、白々しく軽口を叩いてくるのが妙に腹立たしい。

 

「何の用だ。今はお前みたいな強盗に構ってる暇ないんだよ」

 

「強盗とは心外だね。せめてトレジャーハンターと呼んでくれないかな?」

 

「どうでもいいんだよ! もう、どけ!」

 

「おお、怖い怖い。せっかく手伝ってあげようとしてるのに、その言い草はないだろう」

 

「はぁ!? お前何言ってんだ?」

 

 人から盗んでおいて、今度は手伝うなどと言われても普通の人間なら信用はしない。いや、デネブなら「ありがとう! 助かる!」とか言いそうだが、それは置いておく。

 

「……どういう風の吹きまわしだ」

 

「別に大したことじゃないさ。僕はお宝が欲しいだけだよ」

 

 信用はできない。しかし、贅沢を言ってられる状況でもあるまい。

 

「足、引っ張んなよ」

 

「どうかな」

 

 仮初めの同盟は成立した。

 するとディエンドはそうなることがわかっていたかのように、予めカードを装填していたネオディエンドライバーからライダーを召喚する。

 

 KAMEN RIDE HIBIKI

 

 KAMEN RIDE FAIZ

 

 紫の鬼ライダー、響鬼と赤色の救世主、ファイズ。

 ディエンドが召喚したライダー二人はシュッと崩れた敬礼をしたり、怠そうにスナップをしたりしていたが、その背後に銃口が向けられていた。

 

 FINAL FORM RIDE HI HI HI HIBIKI FA FA FA FAIZ

 

 金色の光に撃ち抜かれ、項垂れる響鬼とファイズに変化が訪れた。

 響鬼の身体は角ばった紅い鷹、ヒビキアカネタカに。

 ファイズの身体は銀色の大砲、ファイズブラスターに。

 

 これこそが対象のライダーを武器やメカに強制的に変形させる能力、ファイナルフォームライド。

 

「ほんっと、なんでもアリかよ……」

 

「じゃ、楽しくやろうか」

 

 人体の構成をおもいっきし無視した変形に背筋が凍るが、深く考えたら負けだろう。

 飛翔したヒビキアカネタカがギガンデスに体当たりを仕掛け、ディエンドもファイズブラスターで砲撃を行っている。

 ゼロノスも指を咥えて見ているつもりはなく、焼け石に水と知りながらもボウガンで援護射撃を開始しようとした。

 

 だが、その時になって待ち望んでいた救援がやってきた。

 

「侑斗〜! お待たせ〜!」

 

「デネブ! よし、来い!」

 

 大急ぎで駆け付けたデネブがその声に応え、『デネビックバスター』という銃へと変形した。

 イマジンの身体を丸ごと武器にしたこの銃は威力、連射力共にゼロガッシャーを軽く凌駕する。これならあのデカブツにもダメージが与えられるはずだ。

 

「改めて見ると、これもあのトンデモ変形と大差ないな」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。行くぞ!」

 

 デネビックバスターを手にしたゼロノスも改めて戦列に参加し、ファイズブラスター、ヒビキアカネタカも加えた集中砲火が始まった。

 どれもサイズの規格ではギガンデスにはとても及ばないが、威力は例外なく高火力で、あれほど堅固だった巨躯に次々と傷を刻んでいく。

 これには激しく抵抗し、前足や首を凄まじい勢いで振り回してゼロノス達を吹っ飛ばそうとする。

 しかし、その度にヒビキアカネタカが体当たりで態勢を崩したり、ファイズブラスターが逆にギガンデスを吹っ飛ばしたりした。

 

 鉛玉、フォトンブラッド、火球に撃たれ続けて、戦意が衰えたどころかすっかり萎縮してしまったギガンデスは威嚇の雄叫びだけ上げて、その場から逃げ出そうとしていた。

 

「ここで逃がすと厄介なことになりそうだ」

 

「そう思うならなんとかしろ!」

 

「やれやれ、特別サービスにしておくよ」

 

 FINAL ATTACK RIDE HI HI HI HIBIKI

 

 逃げようとするギガンデスの正面に回り込んだヒビキアカネタカはまたもや変形した。

 ヒビキオンゲキコと呼ばれるその形態はギガンデスの顔面に張り付く事でその巨躯を拘束することに成功する。

 巨大魔化魍をも封じることが可能な拘束はギガンデスの身動きの一切を許さない。

 

 FINAL ATTACK RIDE FA FA FA FAIZ

 

 FULL CHARGE

 

 そしてギガンデスに突き刺さる赤い円錐、デネビックバスターに収束する高出力エネルギー。

 

「はあーッ!」

 

「うおりゃぁあああ!!」

 

 ファイズブラスターからはディエンドフォトンが、デネビックバスターからはバスターノヴァが、二つの銃から放たれた強烈なビームがギガンデスを包む。

 見惚れてしまうような美しい光の奔流に身体も、叫びも、思考も、ギガンデスの何もかもが飲み込まれていく。

 圧倒的な熱量に溶かされ、原型を留めていない肉塊になった頃になってようやく大爆発が起こった。

 

「……あっちも上手くいったらしいな」

 

 瓦礫となっていたビル群が時間を巻き戻すようにして修復されていく。

 天にも登る勢いの爆炎が残っていた肉片を焼き尽くし、フォックスイマジンの存在を消滅させたのとちょうど同じタイミングだ。

 ビルだけではなく、消滅していた人々もみんな元通りとなっていく。

 

 修復された時間では誰も何があったのかも認識していない。イマジンが出した被害ごと消滅したから。

 火事による煙もない青空には、過去から帰還したネガデンライナーが走っていた。

 

(侑斗、それって最後のカード……)

 

「……」

 

 ゼロノスは、最後の変身を解除した。

 

 

 *

 

 

 

 

 翌日。

 

 

「起きたか、大地」

 

「おはよう、レイキバットさん」

 

 コーヒーと紅茶、それにパンの香ばしい匂いが鼻腔を通じて、寝ぼけ頭に空腹を思い出させる。

 口笛を吹きながらスープの味を見るガイド、ゆったりと配膳する瑠美。

 

 それはいつもと変わらない、光写真館の朝の光景。

 

「おはようございます、大地くん。今朝の紅茶はシャルドネダージリンになってます」

 

「シャルドネ?」

 

「白ぶどうのやつです。スッキリしてて美味しいですよ」

 

「へー」

 

 もうすぐ10月に差しかかろうというのに、外にはまだ暑さが残っている。こんな日にはアイスティーが美味しく感じるに違いない。

 大地も配膳に混ざり、皿を並べていく中でふと背景ロールに目が行った。

 そこに描かれた絵は砂漠を走る緑の列車のまま、約3ヶ月前から変わっていない。

 

「それにしても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界の仮面ライダーには、まだ会えませんね。一体どこにいるんでしょうか?」

 

「もうとっくにくたばってたりするんじゃねえか?」

 

「もう、レイキバさん。縁起の悪いこと言っちゃ駄目ですよ。ね? 大地くん」

 

 

「……そうだね」

 

 大地は、曖昧な笑いを返した。

 

 





フォックスイマジン。

「スクープが欲しい」という願いで契約したイマジン。「ならビル倒壊の瞬間でも撮っとけ」という勝手な解釈で暴れまわっていた。
モチーフは「星の王子さま」に登場したキツネ。


次回、ゼロノス編ラスト。
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