テニスやバドミントンでは0点を何と呼ぶのでしょうか
朝からやんややんやと賑わいを見せる光写真館。
本日の議題内容は「この世界の仮面ライダーがどこにいるか」とのこと。
「海外で戦ってる」
「もう死んでる」
「ベルトを修理中だったり?」
「長期的な入院もありうるな」
この世界に来てから3ヶ月、未だに仮面ライダーには出会えていない。
ここまで長期間遭遇できていないとなると、何か理由があるのではないかと考えるのが普通であろう。
というか議論を交わしているのは物騒な理由を挙げるレイキバットと、なるべくそうならないような理由を挙げる瑠美ぐらいだが。
「大地くんはどう思います?」
意見を求められた大地はちょっと困ったように笑みを浮かべるだけ。
こういう話題に消極的な大地が珍しいのか、瑠美とレイキバットキバットは互いに顔を見合わせた。
「おい、この話の一番の当事者がそんなんでどうするんだ」
「そうですよ。もしかしたらずっとこの世界から出られないかもしれませんよ?」
「それはそうですけど」
「ケッ、お前が危機感に欠けてちゃ見つかるもんも見つかんねえ。シャキッとしろシャキッと」
叱咤されても大地の曖昧な表情は変わらない。
こんなに言われても特に態度を改めないとは、レイキバットと瑠美にもいよいよ不自然に見えてくる。具合が悪いとか、何か理由でもあるなら納得できるぐらいには。
「どうしたんでしょう、今朝からちょっと変ですけど。朝ご飯に何か混じってたってことは無いんですかね」
「腹でも冷やしたんじゃねえのか」
「……それってレイキバさんのせいだったりしません?」
瑠美達のヒソヒソ話を同じ顔で眺めていた大地であったが、ふと気付いた時には既にいなくなっていた。
*
「あら、大地くんいらっしゃい」
写真館を出た大地が向かった先は、ミルクディッパーであった。
明るく出迎える愛理に、目をピンクマークに染めて眺める男性客達。ここもまた見慣れた光景だ。
何人もの男を虜にしてきた、彼女の笑顔だけには未だ慣れきっていないが。
「良太郎さんの身体は平気そうでしたか? 入院したって聞きましたよ」
「昨日お見舞いに行ってきたの。今回のはだいぶキツそうだったけど、そこまで大きな怪我にはなってなかったみたい。また後でひじきサラダ持っていかないと」
愛理が用意している山盛りのひじきサラダがカウンターの奥に見えた。
あれを食べさせられる良太郎の苦い顔が眼に浮かぶようだ。
「コーヒーをひとつ。いつもので」
今日は絵本を読むことも無く、一杯のブレンドコーヒーをゆっくりと味わった。
口の中に広がる香ばしい苦味を堪能しながら、ずっと通っていた店内を眺める。ここに来るのも、恐らくは今日が最後になるだろうと踏んでいた故に。
「ご馳走さまでした」
去り際に、大地はふとテーブル席に目を向けた。
そこには誰も座っていなかった。
*
大地は、それからあても無くあちこちをぶらついていた。
「うわ、何でこんなにどえらいことになってんだ!?」
「隕石でも落ちたかぁ?」
街外れの河川敷には人だかりができており、土手が大きく抉れていた。
「先日はお買い上げありがとうございます!」
お洒落なブティックの前で見覚えのある店員に挨拶された。
「一人で散歩かい? 寂しいね」
大樹がぬるりと隣に現れた。
「…………」
特に変わったこともない、穏やかな一日。
「いや、海東さんはなんで普通にいるんです。しかもいつの間に」
とはならない。あれだけの事をしでかしておいて、悪びれた様子すらないこの男は一体なんなのか。
「僕の旅の行き先は僕だけが決めるのさ」
「そ、そうですか」
この海東大樹については、もう考えるだけ無駄かもしれない。大地はそう結論づけた。
大樹は当然のごとく大地の隣を歩いており、それは付いてくるというよりかはこの後の行き先がわかっているかのような足取りだった。
「そういえば」
無言の大樹といるのが少し気味が悪くて、大地は話題を捻り出した。
「僕がネガタロスに乗っ取られた時、戦ってくれたらしいですね。その節はお世話になりました」
「いやいや、礼には及ばない。もっとも君がどうしてもお礼をしたいと言うなら止めはしないけどね」
「……あ、ありがとうございました。ハハ……」
しかしまあ話題の続かないことで、すぐにまた無言になってしまった。
そして大地と大樹は写真館の近くにある小さな橋にやってきた。
周囲はすっかり暗くなっていて他の人もおらず、まるでその時を見計らったかのように大地の身体からおびただしい量の砂が溢れ出す。
その砂はイマジンの仮の姿。すなわち、大地の中に潜んでいたネガタロスであった。
「ネガタロス」
「さて、そろそろいいだろう。俺たちの契約を果たそうじゃねえか」
「そのつもりです」
「クク……てっきり反故にするのかと思ってたがな。律儀な男は嫌いじゃねえ、俺様の部下にしてやろうか?」
「そんなことしたら、また乗っ取る気でしょうに」
彼の言う契約とは、ネガデンライナーを借り受ける条件として掲示した「新しい身体」のことで間違いないだろう。
どう考えても悪人の彼に新しい身体を与えるのは本来褒められたことではないが、例え誰が相手であっても契約を破る気はなかった。
KAMEN RIDE DECADE
ダークディケイドへと変身した大地は一枚のカードを取り出した。
KAMEN RIDE DARK GHOST
ダークディケイドは、昨日ネガタロスも使用したダークゴーストの姿を模り、流れ込んでくる記憶の仕草を見よう見まねでやってみせる。
「こうして、こうやって……」
「……何してる?」
「こう!」
DDダークゴーストが指で印を結んでいる仕草を訝しむネガタロス。
印が完成し、DDダークゴーストが念を送るとネガタロスを形成する砂に彼自身の意思に反した変化が起こり始めた。
鬼の姿を作り上げていた砂が一箇所に集まっていく。
「お、おお……? これは……」
等身大とそう変わらぬサイズを形成していた砂が新たに作り上げたのは、掌に収まるくらいのちっぽけなアイテムだった。
眼球にも似たそれにはネガタロスの顔と「N-NEGTAROS」との表記がされている。
それは「ゴーストの世界」にて霊魂を入れる器として使用されているゴーストアイコン(眼魂)と呼ばれる物で、今のネガタロスは「ネガタロスゴーストアイコン」になったのだ。
「な、なんだこりゃあああーッ!? どうなってやがる、俺様の身体は!? 何故こんなお手頃サイズに!?」
「ネガタロスが欲しがってた新しい身体ですよ。ちゃんとした実体にしました」
「何ぃ……!? グゥ、自由に動かすこともできねえ!」
「多少の不自由はありますが、そこは勘弁してくださいね」
そう言ってダークディケイドはカタカタと小刻みに震えるネガタロスの眼魂を拾い上げる。
掌でコロコロ転がしてみても、ネガタロスはされるがままだ。あれだけプレッシャーを放っていたにも関わらず、こうなってしまえば形無しも同然だった。
「……てめえ、騙したな? ただで済むと思ってんのか?」
「そっちこそ、このままで済むと思ってるんですか?」
眼魂は特殊なアイテムではあるが、強度自体はそこまででもない。
ダークディケイドが今少しでも力を込めれば、容易く粉々にできる。
ほんの少し力をこめるだけで、ネガタロスの眼魂からミシリと嫌な音が鳴った。
「や、やめろ!」
「やめますよ。金輪際悪いことは辞めて、僕に協力すると約束してくれるなら」
「なっ!? 勝利する悪の組織のトップたる俺様が……そんな真似……」
「じゃあさよならですね」
その言葉は大地にしてはやけに冷たく響いた。
そして眼魂から鳴る音もどんどん大きくなっていく。
あと少しでも力を入れればどうなるか、想像に難くない。
「わ、わかった! お前に協力しよう!」
「『ネガタロス様に二言はねえ』、前に言ったことを忘れないでください」
「ぐぬぬ……」
冷え切った声に萎縮したか、すっかり大人しくなったネガタロスはダークディケイドの懐にしまわれた。
これでひとまずネガタロスは一件落着としておくことにする。
そんな一部始終を黙って見学していた大樹はへえ、と感心した声を上げた。
「恐れ入ったよ。精神体のイマジンを騙してゴーストアイコンにするとは、中々考えたじゃないか。君も結構小狡い男らしいね」
「海東さんがそれを言いますか……。僕のはイマジンの契約と同じ、言葉の解釈が違っただけ」
「それにしてはさっきの言い方、ゾッとする感じだったよ。そういう一面もある方が見ていて面白い」
「それもこのベルト頼みですから、僕自身の一面とは言えないかもしれません」
ネガタロスへの脅し、眼魂の作成、どれもダークディケイドライバーから流れる記録を参考にしてやったまでのこと。
ライドブッカーに並ぶライダーカードの数だけ、ダークディケイドには知識がある。
「それがライダーの記録ってやつかい。僕のカードとは少し使用が違うみたいだね」
「僕、この世界に来るまではライダーを記録することにどんな意味があるのか、わかっていませんでした。仁藤さんや名護さん達のカードもお守りぐらいにしか考えてなくて」
突然記憶喪失になってからベルトを渡され、他の世界に来て、気付けば戦いの流れに乗っていた。ライダーを記録することは、その世界のライダーと共に戦う途中で得られる副産物とすら思うくらいに意義が見出せなかった。
自分自身の記憶を取り戻すためではあったが、直接の関連性は無いからこそ余計にそう思ってしまっていた。
「でも、今ならなんとなくわかるんです。ライダーを記録することは、人知れず戦う彼らの生き様を誰かに伝えていくためにやるんだって。例え誰からも忘れられるライダーであったとしても、覚えていられるように」
「────君はまさか覚えているのかい?」
ダークディケイドは一枚のカードを取り出して、大樹に見せつける。
それと同時に彼らの背後にある夜空に線路が架かった。
線路の先には何度も見た時空の穴。そこからは和風の汽笛も聞こえてくる。
「だから僕は侑斗さんのことも忘れません。仮面ライダーゼロノスをずっと記録しておきます」
振り返り、ゼロノスのライダーカードを掲げる。
それはゼロノスを記録した証。
「────俺も忘れない、大地のことはな」
見上げた満天の星空に架かった線路を走る緑の列車、ゼロライナー。
その後部デッキに立つ侑斗の手には一筋の黒いラインが刻まれた赤いカード。記録に保存された記憶の証。
ダークディケイドライバーが仮面ライダーゼロノスを記録したことで生み出されたカードがある限り、それを持つ大地の記憶は消えない。
大地の記憶が消えない限り、ゼロノスのカードも消えることはない。
「また会いましょう」
「いつか、未来で────約束だ」
そうしてゼロライナーは天高く昇っていき、夜空を彩る星座の一部となった。
*
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさい。どうでしたか、今日は。ライダーの事、何かわかりました?」
「うん、もうこの世界での仕事は済みました」
「……え、早いですね……」
写真館に帰宅した大地の衝撃発言に瑠美とレイキバットは眼を白黒させている。ガイドだけは唯一ニヤついていたが。
そしてそんな彼らの前でネガタロス眼魂を差し出し、テーブルの上に置いて見せた。
「紹介します。この人はネガタロス。新しい旅の仲間です」
「人……その可愛らしいお眼目が、ですか?」
「ネガタロスだぁ? ヘッ、随分いいカッコになったじゃねえか」
「黙れよキバットバットモドキ! これは仮初めの姿に過ぎねえ」
「んだと!?」
「わ、喋った! あ、私は花崎瑠美って言います。よろしくお願いします」
瑠美は不思議そうに眼魂をつついて、すぐに順応してしまっていた。
レイキバットは眼魂となったネガタロスをせせら笑い、そのまま喧嘩を始めてしまったが、恐らく平気だろうと大地は判断して放置した。
「あのネガタロスを眼魂にして連れてくるなんてなあ。これなら勝手に身体を乗っ取られることもないのかね」
「あの状態にしておけば彼も自由に身動きが取れないみたいなんで、多分大丈夫かと。いざって時はすぐ壊せるし」
「だからってあんな極悪イマジンを連れてくるかねえ。ま、大地なりの考えがあってのことなんだろうからいいけどさ。手綱をちゃんと握れるならな」
それだけ言うと、ガイドは奥へ引っ込んでしまった。
確かに彼の懸念は正しく、いくら自由を封じたとは言っても手元に置いておくにはネガタロスは危険過ぎる。それは大地も理解していた。
だが、多少危険だとしても────
「イマジンだろうがなんだろうが、ここではお前が一番後輩なんだ。俺や瑠美にも敬意を払えよ。俺のことはレイキバットさんと呼べ」
「そっちこそ、『スーパーネガタロス大軍団(未定)』の首領である俺様に敬意を払え。ネガタロス様と呼べよ」
「は?」
「は?」
(……レイキバットさんが僕達に敬意みたいなこと示した覚えはないなあ)
きっと大丈夫だ。きっとなんとかなる。
*
「ゴミコウモリ!」
「クソ鬼!」
電王とキバに敗北したかと思えば、少し違う世界で目覚めて、気付けばこんな眼球にされていた。ネガタロスが歩んだのはまさしく波乱の時間としか言いようがない。
だが最初こそ慌てふためいたものの、今の状況は見た目ほど悪くはないというのがネガタロスの感想であった。
(見るだけでムカつくキバットバットモドキがいるのは一兆歩と一億歩とオマケに一歩譲って我慢できる。身動きが封じられたのも痛いが、現時点でのデメリットはそれぐらいだ)
そもそも死んだはずの自分がこうして命を拾っているだけでも奇跡的なことなのだ。部下と組織を丸ごと失い、ゼロからのスタートになったと考えればいい。
さらに聞けばこの連中、他のライダーの世界を巡っているとのこと。
まだ見ぬ怪人と技術。「スーパーネガタロス大軍団(未定)」を復活させるにはまさにうってつけではないか。
(この写真館もアジトとして使える……それに大地、とか言ったか。命を握られているのは癪だが、こいつは見所がある)
よーく考えてみてほしい。
普通、ネガタロスが毛嫌いする正義の味方なら自身を乗っ取るかもしれないイマジンを眼魂にした時点で容赦なく砕くか、もしくはそのまま封印などするだろう。まかり間違っても仲間に引き入れるなんて暴挙には出ない。
あいにく眼魂の状態だと憑依すらできないが、大地がネガタロスを引き入れた理由はもっと他のところにあると踏んでいた。
(わかるぜ大地。お前……俺様が欲しかったんだろ? 何人が相手になっても強者として君臨できる俺様の力が。それに……こうして捕虜同然の待遇を受け入れているのはお前に微かな悪の素質が見えたからでもあるんだぜ?)
当面の目標は決まった。
仲間の勧誘。
ちゃんとした肉体を手に入れる。
大地の懐柔。
ついでにレイキバットをスクラップにする。
そして────ダークディケイドライバーを手中に収める。
どれも簡単ではないが、だからこそやり甲斐がある。
(そのためにも、まずはネガデンライナーとパスの所有権はこっちにあるとわからせておかなきゃな)
「おい、パスを返しな。あれはあくまで貸しただけだぞ」
「え……ああ、はい」
言われてたった今思い出したかのように大地はポーチを弄る。
眼魂のままでどうやってパスを管理するんだ、という当然の疑問は未だに自身の姿に慣れないネガタロスの頭から欠落していた。
────しかし、待てども待てどもパスは出てこない。
「何してる、早くパス返せ」
「……あの、すいません」
「あ?」
「パス、無いです」
「……あ?」
「パス、無くなってます」
*
大地のポーチから消えたネガ電王のパス。
原因は紛失などの大地の過失によるものではなかった。
その行方は。
「彼も脇が甘いよねえ。僕は徹頭徹尾お宝のために行動しているのにさ」
海東大樹の手の中である。
せっかく盗んだゼロライナーがクラッシュした時は内心途方に暮れたが、その直後にネガデンライナーが現れた瞬間に大樹の照準は改めて定まった。
時の列車は大樹が欲するお宝の中でもレア中のレア。しかもネガデンライナーなんて滅多にお目にかかれないシロモノを逃す手はない。
故に大樹はネガタロスを打倒し、大地からパスを盗む隙を窺っていたのだ。
「さて、そろそろかな」
大樹の歩む先に、世界を跨ぐオーロラが出現する。
その向こうに広がっているのは、時空を超えて過去と未来を知ろしめす時の王者がいる世界。
「君も寂しくやってるんだろう? 仕方ない、僕が行ってあげるよ────士」
*
またしてもしてやられたことに気付かない大地はしきりに首を傾げてポーチを漁っているが、出てくるはずもない。
パスとネガデンライナーを失ってすっかり意気消沈してしまったネガタロスには申し訳なく思う反面、彼に持たせておくには危険過ぎる物だったので安堵もしていた。
「いいじゃねえか、どうせ変身手段はまだまだあるんだ。こんな奴の持ち物なんざロクでもねえモンに決まってる」
「黙れゴミコウモリ! お前は組織のしたっぱ確定だからな!」
「うるせえクソ鬼! 誰がいつお前の部下になったんだよ!」
「強いのは俺様の方だろうが。あんな雑魚どもに手間取る時点でレイとかいうライダーもたかが知れてるなぁ!?」
「おー言うじゃねえか。だったら今この場でてめえをぶっ壊してやろうかぁん!?」
放っておいたら永遠に喧嘩し続けるのではないかとも思えるこの一羽と一人。
賑やかなのは嫌いじゃないが、口の悪い者同士の口喧嘩とはここまで酷いものなのか。
瑠美ですら苦笑いしている。
「喧嘩するほど仲が良い……ってわけでもなさそうですね」
「やっぱり失敗だったかなあ……」
早くも自身の行いをちょっぴり後悔し始めた大地を他所に、レイキバットとネガタロスの小競り合いはヒートアップしていく。
レイキバットの羽がネガタロスを打ち、悲鳴と共に飛んでいく眼魂が背景ロールの鎖に直撃した。
降りてきた背景ロールには、闇屋を飛翔する巨大な蝙蝠が描かれていた。
「お、コウモリ仲間か? 真っ黒で薄汚え奴だな」
「お前も黒だろうが!」
これにてゼロノス編終了になります。
Q:なんで大地の記憶は残っていたの?
A:ゼロノスをカードに記録したため、それが永久機関となってゼロノスカードも最後の一枚が消えずに残りました。
フワッとしててわかりにくいけど、電王の設定ってこんな感じじゃないですかね? 駄目?
次回更新は今月中を心がけます。多分史上最長の世界になるかも。
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