仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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ナイト編スタート。かと思いきやデート回。どのライダーが登場するのか、楽しみにしていてください。




ナイト編 15RIDERS
鏡の世界


 

 

「合わせ鏡が無限の世界を形作るように、現実における運命も一つではない」

 

 全てが鏡写しになった奇妙な世界。

 ここにおいて普通の人間は生きることを許されない。

 

「同じなのは欲望だけ」

 

 存在できる資格を持つのは蝙蝠の騎士、仮面ライダーナイトを初めとする13人の仮面ライダーのみ。

 

「全ての人間が欲望を背負い、その為に戦っている」

 

 ナイト、ゾルダ、シザース、王蛇、ライア、ガイ、ファム、ベルデ、タイガ、インペラー、オーディン。

 

 そして────

 

「そしてその欲望が背負いきれないほど大きくなった時、人はライダーになる。ライダーの闘いが始まるのだ」

 

 どこかで鏡が割れる音がした。

 

 *

 

 

 悪の組織の大首領、ネガタロスの朝は早い。

 

「おはよう、ドクター瑠美。ジェネラルガイド。レイ大僧正」

 

 まずは部下への挨拶。常日頃から部下とのスキンシップに励むこと。地道な努力が組織の基盤を盤石とする。

 特に初期メンとも言える現在の部下達には幹部としてそれ相応の立場を与えて、こちらからの期待を示すことも忘れない。

 

「おはようございます、ネガさん」

 

「……おい、その大僧正だのドクターだのは何の真似だ」

 

「お前達の階級だ。後々増える部下のためにも立場ははっきりさせておいた方が────」

 

「だからいつ俺達が部下になったんだよ!」

 

 前言撤回。こいつだけはゴミコウモリのままでいい。

 昨日の不遜な態度にもせっかく目を瞑ってやったのに馬鹿な奴だ、とネガタロスは鼻で笑う。鼻どころか、眼以外何も無いことに突っ込んではならない。

 

「さすがはネガタロス。すっかり馴染んでるなあ〜。これで眼魂じゃなけりゃあねえ」

 

「ガイド、こんな奴まで連れて来る必要はあんのか? 怪人だぞ怪人」

 

「別に誰だろうと構わないよ。仕事さえきっちりしてくれるならな」

 

「そういうこった。俺様を弾きたいなら、連れて来た大地に文句を言うんだな」

 

「ぐぬぬ」

 

「……そう言えば大地くんはまだ起きてないんですね。 寝坊でしょうか」

 

 すでに時計の針が8時を過ぎようとしている頃になっても大地が起きてこないのは割と珍しい。いつもなら大体起きている時間なのだ。

 彼らの知る大地の生活習慣などネガタロスには知るよしも無いが、寝坊の理由は知っていた。

 

「おはようございます……ふわぁ……」

 

「おはようございます。夜更かしでもしてたんですか?」

 

「うん……ネガタロスに映画を観させられてて」

 

 そう言って大地が指差したテーブルの上にはDVDが数枚ある。

 ネガタロス直々にチョイスしたその名作の数々は大地との親睦を深めるため……というのは勿論建前で、本音は大地の中に感じるワルを呼び覚ますためである。

 

「ゴッドファーザーにアウトレイジ、ユージュアルサスペクツ……どれも観たことないです」

 

「面白かったしいいんですけど、ネガタロスの好みはわかりやすいというか、なんというか」

 

「今後の参考にしろよ。俺の見立てじゃお前は悪ってやつをほとんどわかってねえ。足元を掬われてからじゃ遅い」

 

 乗っ取った本人が言うと説得力も違う。流石は悪の首領である。

 大きな欠伸混じりの返事をして食卓に向かう大地に満足げに頷き(心の中で)、自身も朝食にありつこうとするも、全く身動きが取れないことを失念していた。

 

「ジェネラルガイド、俺様をテーブルまで運べ。ついでにいくつか尋ねておきたいことがある。資金についてのことなんだが」

 

「はいはい、なんなりと。ネガタロス首領殿」

 

 眼魂になって初めての朝は思っていたよりも悪くない気分だ。

 

 

 *

 

 

 出かける際、大地のポーチにはダークディケイドライバー、メイジドライバー、レイキバットが収納されている。

 そこに新たにネガタロス眼魂が加わった。

 スペース的にはさほど問題は無いが、大地にもたらされる騒音被害は10割くらい増していた。

 

「いいか、このポーチの主は俺だ。てめえは大人しく、静かに、迷惑をかけないようにしろ」

 

「ゴミコウモリ、お前の主人はこの俺だぞ? 最低限の礼節は弁えたらどうだ?」

 

「あ?」

 

「おん?」

 

(二人ともうるさい……)

 

 レイキバットだけならとても静かなのに、どうしてこうなった。

 ガタガタ震えるポーチの中で起こっているであろう惨状を想像してか、瑠美も苦笑いを浮かべている。

 

「大地君も色々と大変ですね。二人とも仲良くすればいいのに」

 

「まあ時期に慣れますよ。きっと、多分……うん」

 

 帰りに安眠用の耳栓を買っておこうと大地は固く誓った。

 

「それで今回はどこから行ってみましょうか。あの大きい蝙蝠を手掛かりとするなら、やっぱり動物園とか?」

 

「うーん……どうせ行くあてが無いんだし、ちょっと行ってみたいところがあるんです」

 

 いつものごとく新しい世界を彷徨っても、その世界のライダーや怪人に遭遇できるかどうかは結局運次第なのだ。

 なら偶には行きたい場所に行ってみるのもアリかもしれない。

 

 そして案内板や地図を頼りに大地達が辿り着いたのは、人で賑わう遊園地であった。

 

「遊園地ですか……大地君ってこういうところが好きなイメージはあまり無いのでちょっと意外かも」

 

「どっちかと言えば静かで落ち着いた雰囲気が好みですけど、偶にはね。それにちょっと前に行った時は閉鎖されてたんで、どんな感じなのか気になってたんです」

 

 記憶喪失であるとはいえ、なんとなくその場所に行ったことがあるのかとか、それを食べたことがある、見たことがあるくらいは感覚で判別できている。

 その感覚が正しければ、恐らく大地は遊園地に行った経験が無い。

 以前「G3の世界」で囚われた時に見て以来、それとなく気になっていたのだ。

 

「じゃあ入ってみましょうか。気分転換にはちょうどいいと思います」

 

「チケットにレイキバさん達は含まれませんよね……」

 

 チケット代はそこそこ高かったが、毎回ガイドから支給される経費(本人談)で十分間に合った。なんならあと10回は入れそうなぐらいのお札が財布にある。

 

「このお金ってどこから出てるんでしょう……ガイドさんって働いてる素ぶりもないのに」

 

「あの人については考えるだけ無駄じゃないかなあ」

 

 

 *

 

 

 空がゆっくりと近付いてくる。ガタンゴトンと座席から響いてくる。

 比例して心臓もバックンバックン高鳴る。

 

「ジェットスライガーと同じジェットスライガーと同じジェットスライガーと同じ……」

 

 大地の祈りに等しい呟きは胃が浮くような浮遊感の直後、絶叫へと早変わりする。

 それはジェットコースターにおいて一般的な反応だった。

 

「ウワァァアアアアアアーッ!?」

 

「きゃー!」

 

「「ヌァーッ!?」」

 

 内臓全てを吐き出す勢いで叫ぶ大地。

 ごく普通に楽しんで叫ぶ瑠美。

 ついでにポーチからとんでもない悲鳴まで上がっていたが、それはよしとする。

 

 大地の初めてのジェットコースターは、楽しさよりも恐怖の方が勝ってしまった。

 ゲッソリとした様子でアトラクションから降りる大地とは対照的に、瑠美はスッキリしているらしい。

 

「はー、久々に乗ると刺激的ですね!」

 

「おかしい……戦ってる時より怖かった……」

 

「さ、次はアレ乗りましょう!」

 

 今度は振り子型の船のアトラクション。見るからに絶叫マシンの類である。

 大地は瑠美に腕を引かれながら、絶望感漂わせてしばらく絶叫マシンのフルコースを堪能させられる羽目になった。

 瑠美が満足して昼食の休憩を取る頃にはポーチも静かになっていたという。

 

「ごめんなさい、ついはしゃいじゃって。遊園地なんてほんとに久しぶりで」

 

「僕も楽しかったから大丈夫ですよ。ただ……ちょっと休ませて……」

 

 大地は木製テーブルにぐったりと横たわる。ひんやりとした感触のなんと気持ちいいことか。

 自分ペースで振り回してしまって、瑠美も恥ずかしそうにしている。

 しばらくのんびりとした休憩時間を過ごし、途中でドリンクを乗せたトレーを店員が運んできた。

 

「お待たせしましたー! ご注文のコーラとメロンソーダになります!」

 

「どうも」

 

「いやあ、お客さん達お似合いですね! 遊園地デートなんて憧れちゃうなぁ」

 

「「え」」

 

「あ、失礼しました! それではごゆっくりどうぞ!」

 

 接客態度の良い店員にカップルと勘違いされて、思わずフリーズする二人。

 先ほどまでのほんわかした雰囲気は鳴りを潜め、無言でジュースを啜る。今日は日差しのせいでやたらと暑く感じるし、水分はしっかり取らないといけない。

 

「ぼ、僕達カップルじゃないですよね」

 

「そ、そうですよね。あの店員さんに誤解させちゃいましたね」

 

「ハハハ……」

 

 いつも通り笑おうとしても乾いたものしか出てこない。

 喉がカピカピに乾いてしまっているせいだと断じて一心不乱にジュースを飲む。

 大地は変なことを言われたせいで瑠美をまともに直視できず、少し目線をずらすと、他のテーブル席に座る一組の男女が見えた。

 

「植野さん、あーん」

 

「あーん……うん、美味しいよ美穂さん」

 

「ふふふ」

 

「ははは」

 

 目を覆いたくなるラブラブっぷりである。

 二人とも綺麗な身なりをしていて、まさに大人のカップルといった感じなのだが、あの甘ったるいオーラは学生顔負けと言っていい。

 というかあの美穂、と呼ばれた女性が美人過ぎて、植野という男性がのぼせ上がっている風にも見えなくもないが。

 しかもよく見ると他の席もカップルばかりだ。あの店員が勘違いしたのも仕方ないのかもしれない。

 

「……そろそろ行こうか」

 

「そうですね……」

 

 この世界に来て最初の敗北はカップルであった。

 

 

 *

 

 

 午前中は絶叫マシン三昧だったので、午後は趣向を変えて大人しめのアトラクション巡りに切り替えた。

 メリーゴーランド、コーヒーカップなどなど。瑠美は若干物足りなさそうにしていたが、大地にはこれくらいのテンションが丁度良い。

 

「さて次は……ん? 瑠美さん、あれはなんですか?」

 

 人の往来が少ない道の傍に「ミラーラビリンス」と書かれた看板の建物がある。

 今までのアトラクションは見た目から内容が推察できるものばかりだったから、興味がそそられたのかもしれない。

 

「ああ、あれは多分鏡の迷路だと思います。どこもかしこも鏡張りになっていて、一度入ると出るのが大変になっちゃいます」

 

「へぇ〜」

 

「せっかくですし、行ってみましょう!」

 

 いざ鏡の世界へ。目の前に広がったのは、ひたすらに鏡、鏡、鏡。

 その殆どにぽかんとした間抜け顔の大地と瑠美が映っており、なんとも不可思議な光景となっている。

 とりあえず進んでみようとした大地は早速顔をぶつけた。

 

「ふぎっ」

 

「道かと思ったら鏡ですねこれ……」

 

「痛い……」

 

 赤くなった鼻をさすっている今の大地こそ本当に間抜けではないのか。

 優しい瑠美はそんなこと言わないが、ネガタロスなら絶対からかってきたと断言できる。

 

「おいおい鼻赤くしやがってよ、トナカイさんかよ!」

 

「お、ゴミコウモリにしては上手いこと言うじゃねえか。フハハハ!」

 

「……」

 

 もう回復していたらしい。大地が無言でポーチを小突くと、「痛っ」と言う声がハモった。何故こんな時だけ息ピッタリなのか理解に苦しむ。

 コント同然のやりとりにクスクス笑う瑠美が通路一面に映し出されているが、まるで自分が笑われているようで不安になってきた。

 

「──ん?」

 

 そんな瑠美軍団の一人に違和感を覚えた。

 一瞬輪郭が歪んだような。それも人型に。

 

「……気のせいかな」

 

 その鏡とにらめっこしてみたが、しかめ面の自分しか見えない。

 

 そして手探り状態で恐る恐る進む大地達は少し開けた部屋に辿り着いた。

 どうやら行き止まりらしく、扇状に鏡が並んでいる。その全てに大地が映っているのだからなかなか壮観だ。

 

「1、2……大地君が13人いるみたいです」

 

「僕がそんなにいたらもっと戦いも楽になるのに」

 

「戦いより食費が大変そうです」

 

 今この部屋にいる大地は13人。いや、本人を含めれば14人。

 同じ数だけダークディケイドがいると想像すると、冗談にもならないことになりそうなので一人で良かったと心底安心できる。

 そんな取り留めのない思考に時間を割く中、大地と瑠美の鏡像軍団に見知らぬ者が混入していることに気付いた。

 

 鏡だらけの空間に目を丸くして驚いている小さな子供がいる。

 

(もしかして迷子?)

 

「うわぁ〜、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいっぱいいるね!」

 

「そうだねぇ、ここに立てばボクもいっぱいになるよ?」

 

「わっ、ほんとだ!」

 

 鏡で増えた自分の姿に目を輝かせているその子は見ていて微笑ましいが、それよりも保護者を探した方がいいのではないか。

 この出るのも一苦労な迷路で迷子になったのなら骨が折れそうだと思った次の瞬間、またしてもこの鏡部屋に人がやってきた。

 

「ここにいたか、(すばる)

 

「あ、お父さん」

 

 スーツに眼鏡、加えて喋り方もどこか硬い印象のその男性は駆け寄ってきた子供を抱き止めて頭を軽く撫で回す。

 きょとんとしている大地と瑠美を見て事情を察したらしく、深々とお辞儀をしてきた。その姿勢一つとっても律儀な人柄が伺える。

 

「息子がご迷惑をおかけしました」

 

「いえ、ほんとについさっき会っただけなのでお気になさらず」

 

「お父さんもいっぱいだー」

 

 子供と父親も13人に増えた。

 この部屋の人口密度がとんでもないことになろうとしている。

 

「では失礼します。行くぞ昴」

 

「うん。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ばいばーい」

 

 無邪気に手を振る昴という少年を連れ立って父親は去って行く。

 鏡の錯覚にも惑わされずに堂々と進んで行く様は見習いたいくらいだと大地は思った。

 昴にひらひら手を振り返してから、付いていけば出口に辿り着けたのではと思い至ったが、後の祭りである。

 

「親子で遊園地……楽しそうでしたね」

 

「瑠美さん……」

 

 親子が去った道を遠い目で見つめる瑠美の横顔はすこし切ない。

 かつて彼女のアンダーワールドで目撃した彼女の両親との死別する瞬間が大地にもフラッシュバックする。

 もし悲しい思い出を思い起こさせてしまったのなら、悪いことをしてしまった。

 

 だが、瑠美の瞳には悲しみの涙はない。

 大地に向き直り、ほんの僅かの憂いだけ滲ませて微笑む彼女はまるで絵画かと思うほど綺麗で。

 不覚にもドキリと胸が高鳴ってしまった。

 

「大地君にも早く家族の記憶が戻るといいですね」

 

「……そうですね」

 

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

 

 二人は四苦八苦しつつもなんとか出口を見つけ、迷路を攻略した。

 結局初日はライダーに関する情報が皆無に終わってしまったものの、良いリフレッシュにはなった。

 こういう一日で良かったと思える。

 またこういう日が来ればいいなと思える。

 

 そうして迷路から出たところで先ほど見かけたカップルの男女とすれ違った。

 どうやら彼らは迷路に挑戦するようだ。

 

「あの女の人、とっても綺麗ですよね。私でも見惚れちゃいそうです」

 

 確かに「ゼロノスの世界」で美人への耐性をつけていなければ大地も目を奪われていたかもしれない。大地は世界を超えた感謝を愛理へと送った。

 だが、それでも耐性は完璧ではなかったのだろう。そうでなければ前方にいた青年にぶつかる不注意を起こすことなど無かった筈だ。

 

「うわっ」

 

「あっ」

 

 そしてぶつかった拍子に彼のパーカーのポケットから青い板が転げ落ちてしまった。

 虎っぽい金のエンブレムが描かれた青い板。どういった用途の物だろうと興味が湧いた。

 

「ごめんなさい」

 

 慌てて拾おうとした大地の手を跳ね除けて、驚くスピードでそれを拾う青年。

 陰を帯びた視線はそれに触ろうとした行為を咎めるようだった。

 

「気にしてないから、もういいよ」

 

 青年はそう言うと早足にミラーラビリンスの看板を目指して行った。

 

 変な人。口に出すには失礼過ぎる印象を心の中に留めておく。

 

「どうした、女に見惚れてたか?」

 

「ハッ、全身目玉のてめえじゃあるまいし」

 

「あ? やんのか?」

 

「上等だオラァ!」

 

 ポーチを思い切りシェイクしておいた。

 

 気を取り直し、向かう先は土産物店。

 ガイドに土産を買って行こうという二人の意見が一致したのも、人柄の良さ故だ。

 ストラップ、お菓子、ぬいぐるみ、候補は山ほどあれどピンと来る品はあまり無い。大地の1.5倍はあろう大きさを誇るキリンのキャラのぬいぐるみは面白そうだが、置き場所に困るのは目に見えている。

 ここは無難に酒のつまみになりそうな物にしておこう、と両者納得の結論に至った。

 

 もう今日という一日も終わる。

 土産を買って帰り、ガイドの夕飯に舌鼓をうって、明日からの活動を考えながら寝る。やる事といえばそれぐらいだ。

 

「────ッ!?」

 

 それは声と認識していいのかどうかも怪しい、か細い声。

 しかし、大地の耳はその時確かに捉えたのだ。

 

「助けてくれ」と。

 

 瑠美や周囲の人達の耳には拾われなかったその声に居ても立っても居られず、大地は走り出した。

 

「瑠美さんごめん!」

 

 自分にしか聞こえなかったことを疑問に思うより先に「助けなければ」という感情が優先される。

 一心不乱に駆ける大地がやって来たのは、先ほどと同じ「ミラーラビリンス」の看板であった。

 迷わず中に飛び込み、直前の記憶を辿って迷路を進む大地はやがてあの鏡の部屋に行き着いた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 さっきすれ違ったカップルの女性が腕を押さえてもたれかかっている。男性の姿は見えない。

 

 ────否、男性はいた。

 

 男性は鏡に映っているが、その部屋の中にはいない。

 そう、()()()()()()()()

 しかもその背後から白銀の虎を思わせる怪人が男性に掴みかかっている。

 

 鏡の中への侵入と、そこに潜む怪人。その正体について、大地には以前戦いの中で垣間見た記憶に該当する存在があった。

 

「ミラーワールドにミラーモンスター……!」

 

 鏡の世界、ミラーワールドに生息するミラーモンスターがあの男性を引きずり込んで襲っている。

 この推測は恐らく的中しているのだろうが、男性を救うには一刻の猶予もない。

 ダークディケイドライバーを取り出した大地であったが、次の瞬間には真横から思い切り押し退けられてしまった。

 

「あんた邪魔!」

 

「うわっ!?」

 

「「おうふっ!?」」

 

 倒れる大地。下敷きになったポーチから響く二重の野太い悲鳴。

 振り返れば、カップルの女性が鏡の前に立って白い板を翳している。

 一体何を、と言葉にする前に女性に銀のベルトが装着されたことで、大地の目は大きく見開かれた。

 突然出現したベルト、そして女性が纏う雰囲気にも感じる既視感。

 

「まさか……!?」

 

「変身!」

 

 黒いスーツ、白い装甲とマント。

 女性の身体にオーバーラップした姿はまさしく大地が仮面ライダーと認識するに相応しいものだった。

 

 白鳥の騎士、仮面ライダーファム。それが今の彼女の名である。

 

「はっ!」

 

 ファムは勇ましい掛け声と共に鏡へ飛び込む。すると彼女の身体はするりと鏡の中に入ってしまった。その鏡が割れたという訳でも無く、水面の如き波紋が広がっているだけだ。

 

「鏡の中に入ったのか……どうやらこの世界の戦場は鏡の向こう側ってことらしいな」

 

「ほぉ、その悲しくなるぐらい小さな脳ミソでもそこまでは理解できるのか。そんなら俺様の組織の事務処理くらいはこなせるか?」

 

「いちいちうっせぇんだよテメェェ!!」

 

「どっちもだよ!」

 

 大地はダークディケイドライバーだけ取り出したポーチを放り投げ、鏡の前に立つ。

 ミラーワールドに関する最低限の知識は、ゾルダと王蛇の記憶を介して予め把握していた。ここで困惑して無駄な時間を使わずに済むのは幸運だ。

 

「変身!」

 

 KAMEN RIDE DECADE

 

 展開された虚像が重なり、ダークディケイドを降臨させる。

 ダークディケイドは深呼吸して自らを落ち着かせ、鏡の中に足を踏み出した。

 大丈夫、ミラーワールドには行ったことはある。ジェットコースターより怖くはない。

 

 いざ、ミラーワールド。

 

 

 *

 

 

 ミラーワールドとは、鏡を境目にして現実を反転させた世界である。

 故にマシンディケイダーで突入したダークディケイドがまず初めに見えたのは鏡、鏡、鏡、呆れるほどに鏡である。

 

「これじゃあ本当に来れたのかわからないな……」

 

 独特な環境音だけが響き渡る空間でそう独りごちる。

 言ってしまえばあの迷路もミラーワールドのような空間だったので、あまり実感が湧かないのだ。

 しかしだからと言ってあの男性を忘れた訳でもなく、迷路なぞ知ったことかと鏡ごと壁をぶち抜いて駆け抜ける。

 反転した看板の文字を見てようやくここが鏡の向こう側だと思えた。

 

 だが、全部が全部現実世界を反転させた訳でもなく、遊園地にいた人間は誰もいない。この世界において普通の人間は存在できない。

 唯一その資格がある戦士こそ、仮面ライダー。ダークディケイドの目の前で睨み合っている二人もその内だ。

 

 片方はファム。あの美穂と呼ばれていた女性が変身したライダー。

 

「もう片方も知らないライダーだ……」

 

 虎を連想させる仮面に白銀の装甲に身を包むそのライダーはタイガという名前であった。

 その背後に控えるモンスターもこれまた虎であり、先の男性を襲っていたミラーモンスターだ。

 

 大地の持ち合わせている知識によると、確かこの世界のライダーはミラーモンスターと契約して力を発揮する筈。つまりあの虎のモンスター、デストワイルダーはタイガの意思によって男性を襲ったことになる。

 

 そして最も気にしていた、襲われていた男性はタイガの足元に散らばる血に塗れた衣服がその安否を証明していた。

 

「どうして……どうしてあの人を襲ったんですか」

 

「……あれ? 君はライダー……でいいのかな?」

 

「答えてください!」

 

 仮面ライダーが人を襲わせた事実に身を震わせるダークディケイド。

 しかし、タイガは襲われた男性を今まで失念していたかのように「あぁ、そういえば」と足元の衣服を拾った。

 

「この人には悪いことをしちゃったかな。ほんとは彼女を襲わせるつもりだったのに、この人が身代わりになっちゃって。こういうの、無謀って言うんだよね」

 

「なら、なんで彼女を……同じ仮面ライダーなのに」

 

「霧島美穂、彼女は英雄に相応しくないから」

 

「……はい?」

 

「仮面ライダーは英雄でないと。誰も彼にも良い顔して、ちやほやされて、人を騙すライダーなんていちゃいけないでしょ?」

 

 するとそこまで黙っていたファムが口を開いた。

 

「あんた、頭おかしいんじゃないの? 第一同じライダーにとやかく言われる筋合いないわよ」

 

「ほらね。こういうライダーはいて欲しくないなあ」

 

「二人とも何の話をしているんですか……」

 

 謎の理想を押し付けようとするタイガ。

 パートナーの男性が喰われたことに悲しむ様子がまるでないファム。

 どちらのライダーもダークディケイドはまるで理解できない。

 そんな彼らもこれ以上は言葉よりも闘争を選んだ。

 

 SWORD VENT

 

 STRIKE VENT

 

 ベルトのカードデッキからカードを引き抜き、ファムは腰の剣──ブランバイザーへ、タイガは取り出した斧──デストバイザーへ装填した。

 彼らは奇しくもダークディケイドと同じくカードで武器を召喚し、互いの武器がぶつかり合う。

 

 ファムが振るうは薙刀──ウイングスラッシャー。

 タイガが振るうは爪──デストクロー。

 ファムは薙刀を振り回し、流線的な斬撃を繰り出す。初めに腹部、次に脚、と装甲の薄い箇所を狙って振るい続ける。

 対するタイガはデストクローで時に防御、時に攻撃して対抗する。

 

「どうなってんの、これ……何でライダー同士でこんな」

 

 ダークディケイドそっちのけで戦うファムとタイガにますます困惑は深まる。

 人を襲うモンスターと戦うライダーを援護するべく来たはずが、ライダー同士の戦いを見せつけられている。それが当たり前だと言わんばかりに。

 これまでもライダー同士の戦闘に発展したことはあったが、それは本当にごく稀のことだ。

 

「ハアアッ!」

 

「うあっ!?」

 

 考えてる間にもタイガは徐々にファムを追い詰めていく。

 デストクローの大振りな攻撃が白い装甲に黒い焦げ跡を作り、痛々しい悲鳴を上げさせる。そうやってファムが苦痛を示す度にタイガの勢いは増すばかりだ。

 このまま呑気に見守っていてはファムが殺されてしまうかもしれない。

 

 ダークディケイドはタイガを暫定的に悪と見なし、ファムに加勢する決心を固めた。

 だが、その矢先に彼の首筋に息苦しさのある不快感が宿る。

 直後、走り出そうとした方向とは逆に強烈な力で身体が引っ張られた。

 

「ガアッ!? ゴホッゴホッ!」

 

 常人だったら既に首をへし折られていてもおかしくはない。

 唾液混じりの咳をしつつ、首元を触るとそこには白い糸が巻かれていた。

 なおもダークディケイドを引っ張ろうとする糸を手繰り寄せた先にはヤゴに似た一匹のモンスターの姿がある。口から出した糸をダークディケイドの首に巻きつけていたのだ。

 

「wゥブ、wゥブ、wゥブ」

 

「またミラーモンスターか!」

 

 不気味な鳴き声を上げてダークディケイドを捕食しようするモンスター、シアゴースト。

 人間を餌とするモンスター達にとってダークディケイドもまた捕食対象になり得る。

 しかし、そこではいそうですかと喰われてやる筋合いはない。

 

「フンッッ!!」

 

 首元の糸を掴み、力任せに引き千切る。

 それなりに強靭ではあったが、この程度なら少し力を込めるだけで十分であった。

 ダークディケイドはさらに千切れた糸からシアゴーストを逆に引き寄せ、強烈な前蹴りを喰らわせてやる。

 

 吹っ飛ぶシアゴースト。その姿を見送りながらカードの装填を行う。

 

 KAMEN RIDE G3

 

 ダークディケイドの上からさらに重ね着をする形で変身したのは、DD G3。右腕にはGA-04 アンタレスを装備済みである。

 シアゴーストが起き上がった瞬間に合わせて射出されたアンカーユニットが敵を巻き付き、ワイヤーで完全に固定した。

 

「こっちは急いでるんです!」

 

 FINAL ATTACK RIDE G G G G3

 

「wゥブゥゥーッ!?」

 

 GG-02 デストロイヤーが火を吹き、シアゴーストの頭部で炸裂した。

 シアゴーストの不快感を与える鳴き声は苦悶の声へと変わり、ほどなくしてその身体は爆発四散。

 不意を突かれても、今の大地ならこの程度の相手を瞬殺するなど造作もないことなのだ。

 

「次は────」

 

 DDG3はGG-02をリロードし、照準を構え直した。

 

 

 *

 

 

 デストクローの爪先に斬り裂かれ、ファムの装甲にまた傷痕が付けられる。

 その行為に伴って甲高い悲鳴を上げてしまうが、それでもファム──霧島美穂の戦意は衰えるところを知らない。

 

 始まりは()()に勤しんでいる最中に突然の奇襲。逃げ遅れたか、それとも蛮勇を見せたかったのか、お気に入りだった相手は哀れにもモンスターの胃袋行き。

 それだけでも非常にムカッ腹が立つというのに、このタイガというライダーは戦闘ですらファムを苛つかせる。

 

 見るからに強力な契約モンスターを従え、本人のパワー、スペックも中々に高い。

 手数だけならファムが上回っているが、それ以外の全てで劣っていては話にならない。

 現にファムが刻まれたダメージは既に撤退を視野に入れなければならないレベルに達しているのに、タイガに刻めたのは細かい傷だけ。あの虎の仮面に隠れた涼しい表情が透けて見えるようだ。

 

「やっぱり君はライダーに相応しくないね。英雄はもっと強くないと」

 

「うるさい!」

 

 極め付けはこの理解不能の言動。

 だが、美穂が抱える願いのためにもこんな奴に負けるわけにはいかないのだ。

 そんな想いを込めた斬撃もデストクローに容易く阻まれてしまった。

 跳ね除けられ、ふらついたファムをまたしても爪が斬り裂く。この戦闘が始まって以来、見飽きるほどに繰り返された光景。

 

「ハッ!」

 

「くっ、前が……」

 

 しかし、ファムは諦めない。

 倒れると見せかけてマントを翻し、一瞬だけタイガの視界を封じる。

 何度も通じるものではない単純な小細工に過ぎないが、その一度で準備は完了していた。

 白鳥の紋章が描かれたカードをデッキから引き抜き、ブランバイザーに装填するという準備を。

 

 狙うは一発逆転。

 

 FINAL VENT

 

 必殺技の発動を知らせる音声が鳴り響き、タイガに警戒心を抱かせる。

 そして彼の背後に飛来したのは巨大な白鳥のモンスター、ブランウイング。ファムの契約モンスターである。

 ブランウイングとファムの両方を警戒するタイガを挟み撃ちにする陣形になっていた。

 

 勝った、とファムは内心ほくそ笑む。

 ブランウイングが羽ばたけば凄まじい暴風が発生し、タイガはなすすべも無く吹き飛ばされる。

 そうしてファムの元に無防備な状態でやってきたところをウイングスラッシャーで首を刎ねるなり、胴体を真っ二つにするなりしてやればよい。

 これこそがファムのファイナルベント、ミスティースラッシュ。問答無用で相手を葬り去る最大の一撃。

 

 そして今まさにブランウイングが羽ばたこうと────

 

 

 

 FREEZE VENT

 

 

 ────したところで、その身体は完全に凍結した。

 当然タイガを吹き飛ばす暴風も発生していない。

 

「何だって!?」

 

「今のはちょっと焦ったかも。でも……君じゃ英雄には勝てない」

 

 FINAL VENT

 

 ファムのファイナルベントは不発に終わり、タイガのファイナルベントが発動された。

 切札をいとも簡単に潰された驚きと焦りが咄嗟の判断力を鈍らせ、結果ファムは飛びかかってきたデストワイルダーを回避することができなかった。

 

「ぐぁぁあああーっ!?」

 

 デストワイルダーの爪がガッチリと食い込み、仰向けになったファムを引きずりながら深々と腰を落として待ち構えるタイガの元に運んでいく。

 抵抗を試みようにも、ライダーを凌駕するパワーの持ち主であるデストワイルダーの握力からはちょっとやそっとじゃ抜け出せない。背部装甲から火花が溢れ出る勢いの中ではまともな思考も溶けつつあった。

 もたらされる摩擦熱と激痛が刈り取ろうとする意識を必死に繫ぎ止めるのがやっとだ。

 

(お姉ちゃん……!)

 

「やめろぉー!」

 

 しかし、タイガのファイナルベントであるクリスタルブレイクもまた不発に終わることになる。

 ファムを運んでいたデストワイルダーをとてつもない威力の砲弾が襲ったために。

 解放されたファムが辛うじて認識できたのは、ジャキン! と何かが装填される音のみだった。

 

「うわぁっ!?」

 

 予期せぬ横槍に狼狽したタイガにも砲弾は炸裂した。

 何が起きたのかもわからないファムは自身の身体が微かに抱き起こされる感触に疑問を覚える。

 

「遅くなってすいません!」

 

「あんたさっきのライダー……なの?」

 

 目の前にいるのは銀と青のメカみたいなライダーだが、ベルトだけはあの黒いライダーと同じだった。

 まさか自分を助けた? 何故? 

 

「うぅん……君、なんなの。どうして僕の邪魔をするのかな。君もライダーなら彼女を助ける理由なんて無いよね」

 

 不本意ながらタイガと全く同意見である。

 だが、DDG3は毅然として否定した。

 

「同じライダーだから助けたんです。それ以外に理由はいらない」

 

「君……もしかしておかしくなったんじゃない?」

 

(あんたが言うなっ!)

 

 思わずツッコんでしまったが、このライダーも奇妙な点ではいい勝負だろう。

 しかしこのライダーがどんな思惑であろうと、このままタイガと潰しあってくれるのであればファムとしては万々歳なのも事実。よってここは下手な発言は挟まず、か弱い女を演じるのが得策に違いない。

 

「ぐっ……くぅ、ハァハァ……!」

 

 なるべく同情と庇護欲を引き立たせるように、それでいて自然に苦しむ。こういう演技はお茶の子さいさいなのだ(実際めちゃくちゃ痛いので、あながち演技とも言い切れないが)。

 

「貴方達がどうして戦うのかはよくわからないですけど……これ以上は見過ごせません!」

 

「じゃあ君から倒さなきゃいけないみたいだね」

 

 案の定ファムを守る位置取りで立ちはだかったDDG3はタイガと対峙することとなった。

 後は頃合いを見て逃げ出せばどうとでもなる。

 

 ────ファムの思惑、一触即発の雰囲気、その両方を打ち砕く襲撃が起こらなければ。

 

「wゥブ、wゥブ! wゥ、wゥ」

「wゥwゥwゥ、wゥブ、wゥブ」

「wゥ……wゥ……wゥ! wゥ! wゥ!」

 

「なっ、なにこいつら!?」

 

「まだこんなにいたのか!?」

 

 一体どこに隠れていたのか、ヤゴ型モンスターの大群が周囲から続々とやってきたのだ。一匹、二匹……その数は瞬く間に十匹にも膨れ上がり、ライダー三人を包囲した。

 徒党を組んだシアゴースト達は一斉に糸を吐き出し、手始めにライダーの一人を捕食しようとする。標的に最適なのは最も傷付き、弱っている者。

 

 捕縛される、とファムが思った瞬間に彼女は横に押し出された。

 

「危ない!」

 

 ファムを守るためにその身を差し出したDDG3。装甲のあらゆる箇所に糸が絡みついた。

 完全に身動きを封じられ、後は喰い殺されるのを待つばかりのその姿が自分になるかもしれなかった事実に背筋が凍る。

 一対一ならまだしも、あれだけの数のモンスターにたかられればライダーでもひとたまりもない。

 

(ま、悪く思わないでよね。これはライダーバトルなんだから)

 

 自身を庇った者を見捨てて逃げることに米粒ほどの罪悪感はある。

 しかし、ファイナルベントを使いブランウイングをも封じられた今のファムにはどうすることもできないのだ。

 引かれる後ろ髪を振り払って、撤退を選ぶ。

 

「G3システム、離脱!」

 

「「「wゥブ!?」」」

 

 G3の緊急離脱機能を発動し、絡み付いていた糸ごとDDG3の装甲はパージされた。

 一瞬にして束縛を脱したダークディケイドに驚き、足を止めるファム。

 そんな彼女に構わず、ダークディケイドは新たにカードを叩き込んでいた。

 

 KAMEN RIDE RYUGEN

 

(はっ? こいつブドウ被ったの!? てか何回変身できるのよ!?)

 

 とんでもないサイズのブドウを頭から被った衝撃ビジュアルに気を取られてしまったが、真に驚くべきはまたしても姿を変えたダークディケイド──今の姿はDD龍玄という──のことだ。

 一回姿を変えただけでも驚きなのに、二回、いやもっとできると考えていいかもしれない。

 

「喰らえっ!」

 

 ファムが呆気に取られている間にも、DD龍玄のブドウ龍砲による射撃がシアゴースト達を次々と撃ち抜いていく。

 狙いが甘いせいか、多少の撃ち漏らしはあれどそういう相手には接近して格闘戦を仕掛けている。

 パワー、スピード、テクニック、スペック。このライダーの何もかもがファムはおろか、タイガすら軽く凌駕しているのは明らかだ。

 

 それでも数に勝るシアゴースト達は急いで距離を取り、再びDD龍玄を取り囲む。

 もう一度糸で絡め取るつもりなのだろうが、そうなることは織り込み済みらしく、DD龍玄はそれに合わせてカードを装填した。

 

 FORM RIDE RYUGEN KIWI

 

 DD龍玄は基本形態であるブドウアームズからキウイアームズへとアームズチェンジを行い、それに伴って武器も輪切りのキウイを模した二対の刃、キウイ激輪に変化した。

 一見取り回しの悪い武器に見えなくもないが、円形に包囲されたDD龍玄にはこれが最適解であった。

 

 FINAL ATTACK RIDE RYU RYU RYU RYUGEN

 

「ッツアァ!!」

 

 キウイオーレと同等のエネルギーを乗せて投合されたキウイ激輪。回転し、遠心方向に突き進む。

 放たれた糸を引き裂かれ、取り囲んでいたシアゴーストは全て斬り捨てられて爆裂した。

 

 圧倒的。彼の強さはその一言に尽きる。

 

「まだ、やりますか」

 

 キウイを被るなんて馬鹿みたいな格好をしているのに、武器を構えるDD龍玄には冗談では済まない威圧が放たれている。

 その言葉を向けられたタイガが微かに息を呑む音が聞こえた。

 

「やめておこうかな。そろそろ時間切れだし」

 

 後退り、離れていくタイガ。

 見せつけてきたその手は確かに粒子化が始まっていた。

 ミラーワールドに存在できる制限時間が迫っていることは本当だが、それは彼が撤退を選ぶ言い訳のようにも聞こえる。それだけでもファムは少しだけスッキリした気持ちになれた。

 

「ふぅ……貴女は大丈夫ですか? 怪我とか」

 

(こいつは──)

 

 さっきの黒い姿に戻り、差し伸べられた手を見て一瞬思考する。

 声音からして若い男が変身しているらしい。そういえばさっき変身する時に可愛い童顔の男の子がいたっけな。

 

 ファムはおずおずとその手を取り────一気に自分の元に引き寄せた。

 

「うわっ、何を────」

 

「────」

 

 耳元に顔を近づけ、ぼそぼそと囁く。

 住所と日時、たったそれだけの情報を。

 何が何やらわかっていない様子のダークディケイドをやんわりと押し退け、ファムは足早に去る。

 

 日を改めよう、勝負はそれからだ。

 

 

 *

 

 

「────ってなことがあったんです」

 

「瑠美ちゃんとのデート放っぽり出してナンパされるとは、大地も色を知ってきたなあ」

 

「どうしてそうなるんですか……」

 

 夜の光写真館にて、大地はその日の出来事をガイドに報告していた。

 初日でこの世界のライダー二人、怪人に遭遇できたのはかなりの収穫だったと胸を張って言えるはずなのに、言いようもない不安がある。

 あわよくばガイドから何か聞き出せないかと期待もしていたが、この様子だと無駄に終わりそうだ。

 

「あーそうだ。ミラーワールドには問題なく入れたか?」

 

「……そういえばダークディケイドのままで入れました」

 

「ゾルダと王蛇のカードがカードデッキの役割を果たしているんだろうな。この世界はミラーワールドとの距離が他の世界よりも近いってのが主な理由かな」

 

 細かい理屈は置いておいて、要はミラーワールドに入れる。それだけわかっていれば十分だ。ただメイジ、レイだとマシンディケイダーが使えないので結局無理そうだが。

 

「てかさ、大地も結構ちゃっかりしてきたな。さりげなく瑠美ちゃんとデートなんかしちゃって」

 

「デートって。普通に遊園地行っただけなのに」

 

「男女二人で遊園地行ってデートじゃないと思う奴はいないぞ」

 

「……ほんと?」

 

 実際には喧しい目玉と蝙蝠もいたのだが、まあそれは除外するとして。

 こんな風にデートだと断言されてしまうと途端に気恥ずかしさで顔が熱くなってくる。

 リビングでレイキバットと戯れている瑠美はどう思っているのだろうか。聞いてみたいような、みたくないような。

 

 ガイドにニヤニヤされながら悶々と考え込んでいる時、入口のベルが大地の耳朶を打った。

 

「ごめんくださーい」

 

「今行きまーす!」

 

 珍しく客が来たらしい。

 しかし内装こそちゃんとスタジオになってはいるが、写真館として業務できるかどうかかなり怪しいこの場所に来た客はかなり可哀想だ。

 

 いきなり謝り倒す腹で大地が行くと、そこにはオレンジのシャツを着た長身の男が立っていた。

 

「あ、どうも先輩! さっきはご利用ありがとうございました!」

 

「へ? あの、どちら様ですか?」

 

「やだなあ、さっき遊園地で会ったじゃないですか〜。カワイイ彼女まで連れて」

 

 ニコニコと愛想よく笑う男の顔を凝視してみると、確かに見覚えがある気がする。

 

「あ! 僕と瑠美さんをカップルって言った人!」

 

「そうですそうです! 覚えてもらって光栄です、先輩!」

 

「え、僕先輩だったんですか!?」

 

「そりゃあもう!」

 

 ひたすら大地をヨイショしてくるが、この男は一体何の用があってここにやってきたのだろう。

 そんな疑問が徐々に強くなり、それが顔に出たのか、男も懐から何かを取り出して自己紹介してきた。

 

「あ、申し遅れてすいません! 自分こういう者なんですけど」

 

「あ、ご丁寧にありがとうございます」

 

 男が差し出してきたのは一枚の名刺。

 読み上げる声が自然と口に出ていた。

 

「佐野 満、仮面ライダーインペラー……ああ、仮面ライダー……仮面ライダー!?」

 

「はい! よろしくお願いします、先輩!」

 

 その男、佐野 満は名刺片手に目を白黒させている大地に改めてお辞儀をした。

 

 

 

 

 そして玄関でそんなことが起こっているとはつゆ知らず、レイキバットと談笑する瑠美。

 

「ネガさんともっと仲良くしませんか? ずっと怒ってると身体に毒ですよ」

 

「生憎そんな機能はない。あんなクソッタレと仲良くできる方がどうかしているぞ」

 

「ふふ、そんなこと言って、お互いにちょっと歩み寄れば簡単なのに」

 

 瑠美の背後にある窓ガラスが微かに歪んだ。

 

 まるで、何者かが鏡の向こうにいるかのように。

 

 




長い、長いぞ。

まずはライダー三人。後どれくらい出ますかね。決まってますけど。

次回更新は未定です。そんなに空かないと思います。

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