仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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龍騎のサブタイってかなりど直球なイメージ。かと思えばガラスの幸福みたいなサブタイがくる。怖い。




禁断のカメンライド

 

 オリーブオイルと塩胡椒でシンプルに味付けされたトマトのカプレーゼ。

 一口サイズの野菜がゴロゴロ入ったミネストローネ。

 香ばしい揚げ茄子が頂点を飾るシチリアーナ。

 

 本日の光写真館の夕食はトマトづくしであった。

 

「ん〜! 激ウマっすね先輩! 俺、こんなに美味いもん何年ぶりかもわかりませんよ!」

 

 所狭しと並べられた皿をバクバク食い尽くしていくのは大地でも瑠美でもない。

 

「嬉しいこと言ってくれるねえ〜。デザートもあるから、楽しみにしててくれよ」

 

「ありがとうございます! ──あ、これも美味い! ほら、先輩も食べて食べて」

 

「ど、どうも」

 

 佐野満。名刺には仮面ライダーインペラーとある。

 ついさっきこの写真館にやってきて、ちゃっかりご馳走になっているこの男。

 突然の来訪にあたふたしている大地を他所に瑠美とガイドに取り入り、気が付けば一緒に食卓を囲んでいた。

 

「あれ? 先輩全然食べてないじゃないですか! 駄目ですよぉ、ちゃんと食べないと〜」

 

「なんか食欲湧かなくて……」

 

「じゃあこれもらいますね!」

 

 いやどっちだよ。

 鮮やかな手つきで大地の皿から掻っ攫っていく佐野に、大地は心の中でそうツッコんだ。

 

 大地以外の各々もごく自然なスマイルで談笑する瑠美、ご機嫌なガイド、ジト目で睨むレイキバット、沈黙を守るネガタロスと反応は様々である。ちなみに大地はレイキバット寄りであった。

 

「ご馳走様でしたぁ! いやぁ〜悪いっすね、こんな豪華な夕飯にご一緒させてもらっちゃって。しっかし凄いなぁ先輩は。帰ったらご馳走が待ってて、しかもこんな可愛い娘と同棲してるなんて。憧れるよなぁ〜」

 

「あはは……ところで、ここへは何をしに? というかどうして僕のことを?」

 

 放っておくといつまでも喋りそうなので、大地は早めに本題を切り出す。

 背後から感じる蝙蝠と目玉の視線もそれを促している。

 

「あ、ベラベラとすいません。では改めまして、俺こういう者でして、先輩のことはバイト中に見かけました。それで俺どうしても先輩の仲間になりたくて!」

 

 佐野はそう語り、瑠美達にも名刺を配る。

 色んなライダーと出会ってきたが、こうして向こう側から接触してくるのはかなり珍しい。そのためか瑠美達も興味深そうに名刺を眺めている。

 

「仲間ねえ……どうにも胡散臭え野郎だな」

 

「まあまあそう言わずに。俺、役に立ちますよ? 多分先輩ってライダーバトルにはそんなに詳しくないんじゃないかな〜とも思うし」

 

「ほぉ、そりゃまたなんでそう思う」

 

「それはまた追い追い……」

 

 ふむ、と佐野以外の視線がそれぞれで交差する。

 とりあえず話を聞くことに異論はないようだ。

 

「では……あなた達ライダーについて教えてください」

 

「わかりました! じゃあまずは────」

 

 それから始まった佐野の話は驚きの連続だった。

 鏡の向こうの世界、ミラーワールドとそこに住まう人喰いのミラーモンスター。

 そしてモンスターと契約したカードデッキを持つ人間──仮面ライダーだけがそこに侵入できる。

 

 ここまでは大地も把握していたが、問題はこれからだった。

 

「ライダーは俺を含めて13人いて──」

 

「それぞれが人を襲うモンスターと戦っている、と」

 

「いえ! ライダー同士で殺し合います!」

 

 写真館の空気が一気に凍り付いた。

 大地は絶句し、聞き間違いではないかと自身の耳を疑った。

 だが、佐野が浮かべる屈託のない笑みには嘘偽りなど一つもない。

 

「ライダー同士で……!? ど、どうして、モンスターが敵なんじゃ」

 

「そりゃモンスターを見つけたら倒しますけど、基本はライダーの敵はライダーですねー。ていうか、それすらも知らないってことはやっぱり先輩は神崎士郎に選ばれたライダーじゃないんですね」

 

「神崎士郎……?」

 

「俺も詳しくは知らなくってー。その神崎が言うには『ライダーを倒せ。全てのライダーを倒し、最後の一人となった時お前の願いは叶うだろう』って言ってました! ま、俺は良い生活が送れればそれで良いんですけどねー」

 

(だからあのライダー達も……)

 

 これまでの大地の常識だとライダーの敵は怪人だった。

 しかし、この世界ではライダーの敵はライダーだという。それも同じ人間が変身した者同士で殺しあうという。

 そんな内容を、まるで昨日食べた物を思い出すかのように語る佐野が途端に恐ろしく見えてくる。

 

 戦慄し、二の句が継げない大地を見兼ねたネガタロスがこっそり耳打ちをしてきた。

 

(おい、眼魂を押せ)

 

(ネガタロス? 今はそれどころじゃ……)

 

(いいから!)

 

 ネガタロスの強い物言いに逆らえず、大地はネガタロス眼魂のスイッチを押した。

 すると、大地の身体にネガタロスが憑依──N大地となった。

 どうやら眼魂となっても自由にできないという制限はあるものの、イマジンの憑依能力は健在らしい。

 

「わっ、先輩なんか雰囲気変わりました? 急にワイルドっすね!」

 

「ククク……ああ、お前中々見る目があるじゃねえか。要はだ、ライダーバトルに勝ち残るために俺様に取り入って他のライダーを殲滅しようって魂胆なんだろう? 違うか?」

 

「そ、そんなあ。俺はただ先輩の強さに惚れただけですって! 是非先輩のお側に置いてもらえればなぁ! 俺も強いし、きっとお役に立てますよ! いえ、立ってみせます!」

 

「ほうほう、それはそれは」

 

 自分を熱くアピールする佐野の熱意に押され、目を閉じて塾考の姿勢を見せるN大地。

 だが、それはあくまで表向きの反応である。

 

(……だとよ。大地、案外こいつは使えるかもしれねえ。部下にするにはアリと見た)

 

(部下って……。仲間になってくれるなら頼もしいけど。でもこの人も結局他のライダーを倒そうとしているなら、僕には納得できない)

 

(チッ、甘ちゃんが……だがこいつに関してはその心配は要らないだろうぜ)

 

 内面での対話を一旦打ち切り、N大地は目を開く。

 それに合わせて佐野も佇まいを直した。

 

「佐野、俺はお前をある程度買っている。あの戦闘だけで俺様の強さを見抜き、かつアジトに乗り込んでくる肝の据わり様は気に入った。それにお前が考えている通り、俺様はお前らライダーに関する情報があまりにも不足している」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「だが!!」

 

 身を乗り出して喜ぶ佐野の顔面に掌を突きつける。

 そこにはわかりやすく「NO!」と落書きされていた。

 明らかに了承する流れだったので佐野も困惑の表情である。

 

「戦力と情報……どっちもお前じゃなきゃいけないってこたぁ無い。ライダーはお前を除いてもあと12人いるんだ。もっと強くて賢い奴をこっちからスカウトしに行けばいい」

 

「ええ!? でもさっき俺のこと気に入ってるって言ってくれたじゃないですかぁ!?」

 

「ああ言ったとも。だがそれとこれとじゃ話は別だ。そうだな……おい、ちょっと耳貸せ」

 

 N大地はわざと悩ましげな顔を作り、周りに聞こえぬよう声量を下げる。

 上げて落とすのはネガタロス式勧誘術の基本であり、ここからが彼にとっての本番だった。

 

「あのな……もっともらしいことは言ったが、俺様はやはりお前が欲しい。欲しいが、俺様の趣向だけじゃ他の連中への示しがつかねえ。そこでだ、お前が俺様への絶対服従を誓うなら雇ってやらんでもねえ」

 

「絶対服従っすか!? そ、それはちょっと」

 

「お前にとっても悪い話じゃねえぞ? お前が見込んだように、俺様は残りのライダー全員殲滅できる程度には強え。もしお前が服従を誓うなら他のライダーから守ってやるし、願いだって叶えてやる」

 

 N大地はそこまで言ってから指を鳴らす。

 それを合図に、ガイドがやたら芝居がかかった仕草でアタッシュケースを奥から運んできた。

 

「お前が欲しいのはこれだろう?」

 

 開かれたその中身にギョッとして目が釘付けになる佐野。

 それもそのはず、そかにあるのは喉から手が出るほど欲しがっている大量の諭吉さんが積み重なっているのだから。

 

(なにこの大金!? え、ほんとなにこの大金!?)

 

「ざっと一千万。手付け金だ」

 

「一生服従します先輩!」

 

「俺様のことは首領と呼べ」

 

「はい首領!」

 

「それからお前が握っている情報を包み隠さず教えろ」

 

「はい首領!」

 

「よしよし……ククク」

 

 足元に跪き、残像が出るほどのスピードで頭を下げる佐野を見下ろし、N大地は満足げにニヤつく。

 握手、肩揉み、足揉み、おしぼり、ひたすらN大地に絶対服従の意を見せる佐野の召使いムーブたるや逆に舌を巻く領域に片足を突っ込んでいた。

 

(ほんとにあんなお金どこから……なんでネガタロスも知ってるんですか)

 

(いいか、組織に必要なのは潤沢な資金と手駒にできる部下だ。味方にできそうな奴は味方にしておけ。これぞ悪の組織の鉄則ってやつだ)

 

(悪……?)

 

(なななななな、なんでもない! なんでもないぞうん!)

 

 大慌てで眼魂に帰っていくネガタロス。

 結局大切な部分は彼任せにしてしまったが、有頂天になって騒いでいる佐野はそこまで警戒に値する人物でもないかもしれない。

 明日会う予定のファムともこんな調子で仲良くなれたらいいのに、と大地は思った。

 

「あ、そういえば言い忘れてたことあるんですけど」

 

 考え事でぽけーっとしている大地の肩を未だに揉んでいた佐野が思い出したかのようにポン! と手を鳴らす。

 まあさして深刻な内容でもないだろうと高を括り、軽く聞き流そうとしていたが────

 

「そこの可愛こちゃん、モンスターに狙われてますよ」

 

 

 *

 

 

 それから夜が更け、時刻はすでに0時過ぎ。

 真っ暗闇の部屋でデスクライトの強い光だけが思い詰めた大地の顔を照らしていた。

 机の上には変身道具各種と、ネガタロス眼魂がある。ただしレイキバットだけは護衛のために瑠美の部屋に行っていた。

 

「なんであんな大事なこと後回しにするかなあ、あの人は……」

 

「役には立つが、有能ではない。贅沢は言ってられんな」

 

「……確かに僕だけだとミラーワールドは見えても、モンスターの気配は察知できないし……でもネガタロス。もし変なこと考えてるなら────」

 

「ハッハッハッ! まさかそんなこと、この俺様が考えてるわけないだろう?」

 

 盛大に溜息を吐き、大地は机に身を投げ出した。

 息苦しさに顔を横に逃がせば、すぐ隣にあったライドブッカーから適当にカードを抜き出してみる。

 イクサ、ゼロノス、トドロキ、共に戦ってきた心強い仲間たち。

 もしも彼らと殺しあうことになれば……そう考えるだけでもゾッとしてしまう。

 

「僕……この世界では何と戦えばいいんでしょうか」

 

「モンスターなり、ライダーなり別に戦いたい奴と戦えばいいだろうが。今までそうしてきたんじゃねえのか」

 

「だって、この世界のライダーはみんな人間なんですよ? 一歩間違えたら殺してしまうかもしれないのに……」

 

「お前まさか……人間と戦ったことがないのか?」

 

 これまで大地も数え切れない戦闘を経てきたが、その相手の中に人間はいなかった。

 人間は守るべき対象であり、戦うべき相手と認識したことさえない。

 しかし、この世界のライダーを記録するなら共闘しなければならない。ということは必然的に大地も他のライダーと────人間と殺し合う羽目になる。

 もしかしたらタイガとそうなってた可能性だって十分にあったのだ。

 

「何を躊躇ってる? たかが十人程度の人間、ダークディケイドなら楽勝だ。……ああなるほど。人の命は奪えないってか」

 

「当然じゃないですか……僕はネガタロスとは違う。違うんだ。人間を殺すなんてできない」

 

 そう、自分は正義のライダーなのだから。

 人間を殺すなんてことあってはならないのだ。

 

 ────以前抱きかけた殺意と衝動の記憶に大地は蓋をした。

 

 

 *

 

 

 翌日、大地は客の少ない喫茶店でそわそわしながらファムを待っていた。

 向こう側の意図は計りかねるものの、きちんと対話を行うことで生じる利益は無視できるものではない。

 よって言われた待ち合わせに応じるのは満場一致の末であった。

 

『こちらドクター瑠美、それらしい女性はまだ見えません』

 

『こちら首領、ポーチの中は快適だ』

 

「こちら大地、こっちもまだです」

 

 近くの窓から見える物陰には、小型マイクとイヤホンを装備した瑠美と護衛役の佐野が見張りとして潜んでいる。

 ファムに変身していた女性の外見はなんとなく覚えているので、来たら大地にはわかるはずだ。

 

 そして訪れた約束の時間。ちょうどその時に入店してきた客はまさしく昨日の女性であった。

 夏らしい爽やかなスタイルが彼女の美貌を引き立たせ、数少ない客の視線を入れ食い状態にしている。

 大地が軽く手を挙げただけで、彼女は笑顔になり、周りの尖った視線が突き刺さる。

 

(ここってミルクディッパーだったっけ)

 

「ごめんなさい、待った?」

 

『ここは、ついさっき来たところって言いましょう!』

 

「つ、ついさっき来たところです……?」

 

 実際には一時間前から待機していたが、正直に言ってはいけないらしい。

 大地は瑠美のアドバイスに従い、その通りの台詞を言った。

 その返答に安堵の表情を示しており、第一印象としては悪くはない。

 ここで下手な発言をして一触即発、なんて洒落にならないからだ。

 

「じゃあ行こっか」

 

「へ? ここで話をするんじゃ」

 

「ほら、早く早く」

 

 無理矢理立たされて、よろめいた大地の腕に彼女の腕が絡みつき、身体が押し付けられる。

 制汗剤やらシャンプーやらの甘く、嗅ぎ慣れない香りに加えて柔らかい肢体のふにっとした感触。これで平静を装えるほど大地は大人ではない。

 

「あわわわわ……!」

 

『これが噂に聞く思春期ってやつか。全然華麗じゃねえな……激しくもねえし……』

 

『大地くん顔真っ赤っかです! 早く青くして!』

 

(そんな無茶な!)

 

 大地は半ば引きずられる形で喫茶店から連れ出され、身体を押し付けられたままどことも知らぬ目的地へと向かう。

 頭に血が上り詰めて、パクパクと金魚の如く開閉して辛うじて口にできたのは彼女の素性を尋ねることだけだった。

 

「私は霧島 美穂。昨日助けてもらったお礼がしたくて……迷惑だったかしら……?」

 

「そうじゃなくて、あのそのあのもうちょっと距離を」

 

「あぁっ、ごめんなさい! つい……」

 

『こいつ女耐性なさ過ぎじゃねえか?』

 

『押しに弱いのか……』

 

 イヤホン越しに響く呆れ声に反論する余地もなく、大地は心の底から悲しくなった。

 

 それから美穂に連れられて大地が来たのはさっきとは真逆のお洒落なカフェ。

 大地の鼻先にはふわふわクリームと麗しのフルーツが乗ったケーキ。

 

「はい、あ〜ん」

 

「んぐんぐ……美味しいですけどそろそろ話を」

 

「次はこっち、はいあ〜ん」

 

「んぐんぐ……」

 

『大地くん、鼻にクリーム付いてますよ!』

 

 次に連れてこられたのは水族館。

 遊園地と同じく、ここも大地が訪れた記憶はない。

 そのためイルカやペンギンなどの珍しい生き物にはしゃいでしまっていた。

 

「あれがペンギン……!」

 

「知らなかったの……!?」

 

 休む間も無くショッピングモール。

 ここではブティックを片っ端から巡り、着せ替え人形と化した大地がいた。

 

「素材がいいからなんでも似合うわね!」

 

「霧島さんこそ……あとそろそろ話をするにはいい時間かと」

 

「もうちょっといいじゃない。さ、次はこれ!」

 

「まだ続くのこれ……」

 

 疲れから出た声は無視され、大地は数枚の服と一緒に試着室に放り込まれた。

 監視している瑠美達からも仲睦まじいカップルにしか見えず、あの霧島美穂がどういった考えなのか見当もつかない。

 

「案外首領に一目惚れしちゃった、とかだったりして!」

 

「昨日デートしてた異性がいるのに……? それはそれで凄い移り気ですけど。それに同じライダーの佐野さんだったら霧島さんのこと知らないんですか?」

 

「俺、ライダーに成りたての初心者なもんで。へへへ、すいません」

 

「はぁー……」

 

 茂みに潜んで顔だけ出し、双眼鏡片手にそんな会話を繰り広げていた瑠美と佐野は本人達こそ気付かないが、非常に目立っていた。

 だからこそ彼らの背後に大型バイクが停まったことも、運転手である黒のインナーを来た男が珍獣を見る目をしていたことも気付きはしなかった。

 

 男は暑さで頭がやられたに違いないと瑠美達を鼻で笑い、ふと彼らの視線の先を見やると目を微かに見開いた。

 

「あの女、まさか……」

 

 

 *

 

 

 綺麗な女性とのスキンシップはあると言えばあった。

 スーパーモデルの麻生恵、美人店主の野上愛理──それでもここまで密着して、しかもエネルギッシュに連れ回されるなんてことはなかった。

 少々気疲れして項垂れるのも仕方がないことだと大地は自分に言い訳した。

 

「ごめんなさい、私のせいで……。これお水」

 

「どうも……」

 

 大地と美穂は噴水がある広場のベンチに二人で腰掛けている。

 やはり距離は近いので美穂の匂いが鼻をくすぐり、次第に頭までクラクラしてきた。

 ペットボトルの中身を飲み干して、今度こそ会話を切り出そうとした矢先に腕に押し付けられた「ふにゅう」という擬音付きの感触に頭の中がまとめて吹っ飛ばされてしまった。

 

「ちょっと、このままでもいいかな……お願い」

 

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

「私ね、ライダーになってからずっと心細かったの。周りは敵だらけ。恋人も殺されて……でも君は助けてくれた。君みたいなライダー初めて」

 

 美穂の頭が大地の肩に乗っかり、良い匂いが強まる。

 しかしこの時ばかりは美穂の匂いよりも、のしかかる美穂の軽さの方が気になった。

 こんなにも軽い女性がライダーをやっている。その事実の方が大地にはよほど重く感じてしまう。

 

「少なくとも僕の知るライダーはみんな同じことをしてました。何も特別なことじゃない」

 

「そうね……ライダーがみんな君みたいな人なら良かったのに。でもありがとね」

 

 美穂が顔を埋めた腕がしっとりとした湿気を帯びてくる。

 何を言うにも気まずくなる気がして、大地は黙って彼女を待つ。

 腰に回された腕に身体は震え、その艶かしい手付きは思考回路をショートさせようとしていた。

 

「もうちょっとこのままでいさせて……」

 

 よって大地は気付かない。彼女の手がポーチと、その中身にまで伸びている事に。

 

「お、なんだこの手。ガブリ!」

 

 だが彼女も気付かない。ポーチの中にいるレイキバットに。

 

「いったぁ!? なんか噛まれたんだけど! あんたポーチの中に虫でも飼ってるの!? 痕になったらどうしてくれるのよ〜」

 

「「ギャハハハハハハハハハ!」」

 

 赤くなった手を押さえる美穂にポーチからゲラゲラ響く笑い声。

 唯一飲み込めていないのは眼をぱちくりさせている大地だけ。

 しかし彼女が大地の隙を突いてポーチに手を突っ込んでいたことは状況から判断できた。

 

「霧島さん……?」

 

 美穂は苦笑いを返すばかりで、大地の疑惑はどんどん色濃くなっていく。

 そして彼らの座るベンチを見下ろす風にして現れた黒いインナーの男がその答えを示した。

 

「お前はその女に騙されたんだ。残念だったな、女なら他を当たれ」

 

「……え? 騙されてたんですか、僕」

 

「……馬鹿が」

 

 呆れ顔をした黒インナーの男は一旦大地を無視した。

 美穂を睨むその横顔は全体的に鋭く、周りを寄せ付けない雰囲気がある。

 そして男を見上げる美穂はまるで威嚇する猫に似ていて、その表情の変化に大地は付いていけない。

 

「結婚詐欺師にも不景気はあるらしいな。なにせこんなガキにまで手を出す始末ときた」

 

「あんた……秋山蓮! ナイトか!」

 

「だがその様子じゃ俺が手を出すまでもなく失敗したな。そろそろ転職したらどうだ?」

 

「ふん! あんたこそこんな真昼間から私を尾けるなんて、よっぽど暇なんじゃないか」

 

「これから忙しくなる。そのために来た」

 

 蓮と呼ばれた男と美穂がデッキを取り出し、見せつける。

 二人は同時に走り出し、我に帰った大地もその後を追う。

 男は蝙蝠のエンブレムが描かれたデッキを持っていた。それが意味することは察しが悪い大地にも自ずと見えてくる。

 この世界のライダーはカードデッキで変身する。つまりはあの男も。

 

 人の目が少ない裏路地のゴミ捨て場にまでやってきた二人は割れたガラス片にデッキを翳す。

 

「「変身!」」

 

 装着されたVバックルにデッキが叩き込まれ、二人の身体に重なった鏡像が実態として彼らを包んだ。

 

 美穂はやはり以前と同じ仮面ライダーファムに。

 

 そして蓮が変身したのは蝙蝠の仮面を付けた黒衣の騎士。

 西洋の騎士を連想させるその姿には大地も見覚えがあった。

 それも大地が集めるべきブランクカードの一つに。

 

「やっぱり、仮面ライダー……ナイト!」

 

 腰のホルスターから一振りの剣、ダークバイザーを引き抜いて迷わずガラス片────その向こうの世界、ミラーワールドへと飛び込む。

 ファムも同じ動作で同じガラス片に入り、一人残された大地もまたダークディケイドライバーを取り出した。

 

 突然の開戦であるが故に理解は追いついていない。人間と戦う覚悟だってできていない。

 それでもここで彼らが殺しあう光景を黙って観戦していることなど、大地には決してできない。

 

「変身!」

 

 KAMEN RIDE DECADE

 

 

 *

 

 

 ミラーワールドに突入したマシンディケイダーが不気味なほどの静けさが漂う世界に排気音を轟かせる。

 最速で駆けつけ、停車した隣にはナイト達のバイク──ライドシューターが二台。

 鼓膜を揺るがす剣戟音と電子音声の出所を探れば、もうすでに戦いは始まっていた。

 

 SWORD VENT

 

 SWORD VENT

 

 音声は同じだが、二人が召喚した武器の形状は異なっていた。

 ファムが構えるは薙刀のウイングスラッシャー、しかしナイトが構えたのは長柄の槍、ウイングランサー。

 見た目から想像される大きさと重さを感じさせないナイトの太刀筋からは荒削りながらも鋭く光るものが見られた。

 スピードとパワーを兼ね備えたナイトの斬撃はファムの攻撃も、防御も何の苦もなく弾いてしまう。

 

「やめてください!」

 

 豪速の突きがファムを貫く直前、彼らの間に割り込んだダークディケイドが両者の剣先を叩き下ろした。

 警戒──猜疑──ダークディケイドを二つの思惑が挟む。

 特に完全に未知の存在を目にしたナイトの警戒心と敵意は肌に突き刺さるかと錯覚するほどだ。

 

「あんた、どうして……」

 

「何だお前は。ライダーなのか? カードデッキはどうした」

 

「僕は……ってそんなことより! 戦いをやめてください! ライダー同士で殺し合うなんてどうかしてます!」

 

「どうかしてる、か。……ああ、そうかもな。ダークウイング!」

 

 ADVENT

 

 ナイトは自身の契約モンスターであるダークウイングを召喚し、ダークディケイドにけしかける。

 上空から凄まじい速度で飛来したダークウイングの翼に打たれてダークディケイドとファムは吹っ飛ばされた。

 巨大な翼による突風、目で追うのがやっとなスピードの体当たりでダークディケイドを翻弄した後、ダークウイングはナイトの背部と一体化して翼となった。

 

 そして上空に舞い上がったナイトに対抗するべく、ファムも召喚のカードを引き抜く。

 

 ADVENT

 

「来い、ブランウイング!」

 

 ブランウイングは白き翼となり、ファムも空へと上がる。

 白と黒。異なる翼が真っ向から対峙し、激しい空中戦が巻き起こった。

 ぶつかり合う剣の火花が雨となって降り注ぎ、それを全身で浴びながらダークディケイドは追いかけようとしたが────

 

「ガァッ!? これは……銃撃!?」

 

「hhhhhh……!」

 

 肩に走った高熱の痛みに阻害されてしまった。

 ダークディケイドの頭上に位置するビルの屋上からの狙撃によるものだ。

 赤く光る三つ目のキツネザル型ミラーモンスター、デッドリマーが不気味に笑い、再び拳銃を撃ってくる。

 あの目がレーザーサイトとなって狙いを定めているらしく、寸分の狂いもない狙撃がまたしてもダークディケイドの肩を撃ち抜いた。狭い裏路地では回避もままならない。

 

 恐ろしい激痛。しかし、ライドブッカーは辛うじて落とさない。

 

「グハァッ!? くっ、このぉ!」

 

 ATTACK RIDE BLAST

 

 三度放たれた銃弾を砕く弾幕。

 ディケイドブラストはさらにデッドリマー本体にまで到達し、屋上から落とすことに成功する。

 この調子でとっとと撃破まで持ち込みたかったが、敵の動きは素早い。

 あっちかと思えばこっちへ、こっちかと思えばそっちへ。壁を這いずり回るデッドリマーは並みのスピードではない。この狭い裏路地でも俊敏性が落ちることは期待できず、手こずることが予想された。

 

 しかし、それに勝るとも劣らない跳躍力を備えた影がデッドリマーの先に回り込み、鋭い蹴りで壁から叩き落とした。

 

「hhhhhhhhhh!?」

 

「いよっと! お待たせ首領!」

 

 ドリル状に唸る二本の角を生やしたレイヨウ型のライダー、インペラー。

 佐野満が変身したライダーである。

 

「佐野さん!」

 

「へへっ、やっぱり俺を仲間にして正解だったでしょ? こいつは俺に任せてよ!」

 

 そう言うが否や、インペラーは先ほども見せた跳躍でデッドリマーに接近。自慢の脚力はそのまま破壊力へと転じ、デッドリマーの顔面を蹴り砕いた。

 さらに逃げられないよう、その身体を踏み付けて押さえながら右膝のガゼルバイザーにカードを挿入する。

 

 FINAL VENT

 

 視界を潰されて悶えているうちに思い切り蹴り上げられたデッドリマー。

 手足をジタバタさせているところへビルの屋上から飛び降りて壁を走る無数の影────インペラーの契約モンスターであるギガゼール軍団が引き裂いていく。

 ギガゼール、メガゼール、オメガゼール、ネガゼール、マガゼール。打つ、蹴る、殴る、斬る。

 

「ハァァァァーッ!!」

 

 そしてギガゼール軍団と入れ替わるようにして跳躍したインペラーの飛び膝蹴りがデッドリマーの頭部に直撃。

 インペラーの必殺技、ドライブディバイダーの威力は凄まじく、デッドリマーは顔面だけでなく全身を弾けさせたのだった。

 

「ふぅぅ〜! どうだった首領? 俺も結構やるでしょ?」

 

「はい! ありがとうございます! 次は────ガッ!?」

 

「うおっ!?」

 

 ダークディケイド、続いてインペラーから火花が飛び散る。

 またしても訪れた衝撃が攻撃によるものなのは明らかだが、今度は銃撃ではない。

 

 攻撃が見えないのだ。

 

 何の攻撃なのかも、誰がやっているのかもわからない。自分達が狙われているということ以外は。

 

「うがぁっ!? この攻撃、一体!?」

 

「ゴホッ!? ああこれっ、多分瑠美ちゃん狙ってるモンスターの気配かも!」

 

「これが!? でもどこにも見えない…………透明になってる?」

 

 目に見えない攻撃。それを仕掛けている者もまた目に見えないのだとしたら。

 脳裏に閃く推理が正しいのかをはっきりさせるべく、ダークディケイドは一枚のカードを選び取った。

 

 KAMEN RIDE BEAST

 

 ATTACK RIDE BUFFA MANTLE

 

「佐野さん跳んで!」

 

 金色の魔法陣から出でたDDビーストはその肩にバッファマントをなびかせて、自身の足元をとびきり強く叩いた。

 DDビーストを中心に広がる衝撃波。

 そして目には見えないが、何かが倒れたような音だけが聞こえた。

 

 眼を凝らせば、そこには人型に歪んだ透明の影が確かに存在している。

 影は徐々に色を帯びていき、カメレオンに似たモンスターの姿を浮かび上がらせた。

 

 ──バイオグリーザ。

 それがこのモンスターに与えられた名前である。

 

「やっぱり!」

 

「透明になれるモンスターぁ!? 反則でしょそれ!」

 

「じゃ佐野さん、後はよろしくお願いします!」

 

「へ? そりゃないよ首領!」

 

 姿さえ見えれば後はインペラーに任せても平気だろう。

 そう判断を下してDDビーストは未だに空中で斬り結んでいるナイトとファムの元に向かう。

 

 ATTACK RIDE FALCO MANTLE

 

 空中という戦場においてもやはり劣勢なのはファムの方だった。

 剣技もさる事ながら、ダークウイングという翼を完全に我が物としているナイト。

 黒と白の翼が交差すれば、その度にファムが斬られる。後数回でその翼が捥がれるだろう。

 

 ファルコマントで飛行し、ナイトにしがみついて妨害するDDビースト。

 咄嗟に振るわれたダークバイザーとダイスサーベルが数度斬り合い、互いに剣先を向け合う形で距離を取った。

 

「お前────さっきのライダーか? 姿を変えられるのか」

 

「もうやめてください! あなたにどうしても頼みたいことがあるんです!」

 

 聞く耳持たんとナイトはカードを挿入。その姿が一瞬ぶれた。

 

 TRICK VENT

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

 ナイトが発動したカードはトリックベント──シャドーイリュージョンという分身能力。

 瞬時に頭数を増やしたナイトの立体的な攻勢はDDビーストでは捌き切れない。

 上からの剣を防いでも、同時に横から振るわれた剣がマントをスッパリ裂く。そうして飛行能力を失ったDDビーストは落下してしまった。

 

「うわああああっ!?」

 

 昨日のジェットコースターを思い出して胃がきゅっと縮む感覚。しかし、アトラクションなら地面に激突してしまうことはあるまい。

 DDビーストはあくまで冷静にカードを選ぶ。

 

 KAMEN RIDE NADESHIKO

 

 ATTACK RIDE ROCKET

 

 地面を目前にして、宇宙からDDビーストに神秘のエネルギ──ーコズミックエナジーが降り注ぐ。

 DDなでしこへとカメンライドしたことで腕に装備されたオレンジのロケットモジュールと背部のジェットパックを噴射、激突を回避して再び上空へと舞い上がる。

 

「……う、ウチュウキター! ……これ言わなきゃいけないのかなあ」

 

 記憶に従って叫ぶDDなでしこ。

 少し目を離した隙にまたもや姿を変えていたことに驚きつつもナイトは分身と共に一斉に迎え撃つ。

 

 ATTACK RIDE RADAR

 

 しかし、ただ空を飛ぶために仮面ライダーなでしこをチョイスしたわけではない。

 左腕に装備したレーダーモジュールは直接の攻撃こそできないものの、索敵や通信、解析能力に優れた武装である。

 向かってくるナイトの分身達を瞬時に解析した。

 

「あれが本体か!」

 

 レーダーモジュールを解除した左手に剣を。右腕のロケットには更なる出力を。

 突撃し、剣を振るうDDなでしこによってナイトの分身達は一人、また一人と消滅していく。

 ロケットの推進力を上乗せした斬撃は分身程度なら一撃で粉砕できるのだ。

 

 そうして最後の分身を斬り裂き、本体のナイトとDDなでしこ、それに傷付いたファムだけが空に残った。

 倒すのは分身のみに留めたのは必要以上の交戦意思が無いことを示すためであったが、ナイトにはその意図を察するよりも新たな変身の方が目に付いてしまう。

 

「またか。どれだけ姿を変えれば気が────お前」

 

「────あんた」

 

 滞空しているDDなでしこをまじまじと見て、黙り込むナイトとファム。

 その視線と無言の間に嫌な予感がしたのも束の間、彼らは同時に口を開く。

 

 だが何を言われようと、彼らの交戦は止める。DDなでしこはそう決めていた。

 

 ……いたのだが。

 

 

 

「「女装してるのか!?」」

 

 

「────じょ、女装……ええっと」

 

 女装。それは男性が女性の格好をすることである。

 以前、道ですれ違った人がどう見ても男性なのに女性の服とマイクをしていたので不思議に思ったことがあった。

 

 つまり、今自分はその人と同じように見られているというのか。

 

 ふと今の自分を見直してみると、膨らんだ胸元にセーラー服っぽい装甲、足はヒール。おまけに頭にはネコミミ。

 客観的に観ても女性、主観的に観ても女性だ。

 なでしこをチョイスした時は無我夢中で気付かなかったが、今になって無性に恥ずかしくなってきてしまった。

 

「違うんです! これはそういう仕様なんです! 事故なんです!」

 

「きゃっ!? 来ないでよ! あんた割と可愛めの顔だったけど、それは無理があるでしょ!」

 

「こっちに寄るな! 変態が感染る!」

 

「そんなぁ〜……」

 

 誤解を解こうと近寄れば、蝿を追い払うような仕草で払われる。

 ファムはオーバーに、ナイトはドン引きで離れていく。

 仮面越しに突き刺さる視線が痛すぎた。

 あんまりな言われようと扱いに涙ぐんでも、一切同情はされない。

 

「女装した変態ライダーの乱入」というハプニングのおかげでナイト達の戦意は消え失せたらしく、示し合わせたようにミラーワールドを脱出していった。

 

 これにて一応戦いを止める目的は達成できたのだが、大地の心には深い傷痕が残されたのだった。

 

「首領、俺もその格好はちょっと……」

 

「見てたなら佐野さんから説明してくださいよ……」

 

「あとあのモンスターにも逃げられちゃいました! すいません!」

 

「……」

 

 

 

 *

 

 

 

 異常性癖持ちの変態扱いされるなんて初めての体験に心を深く抉られた大地であったが、落ち込んでばかりもいられない。

 引き続き瑠美の護衛をしてもらうために佐野とは一旦別れ、ミラーワールドから出て美穂かナイトの変身者────秋山 蓮を探す。

 

「いたぞ大地! あそこのバイクだ!」

 

「ありがとうレイキバットさん!」

 

 大地は、大型バイクに跨って今にも発進しようとしているフルフェイスの男に駆け寄った。

 あの孤独な狼にも等しい目元の男は間違いなくあの秋山蓮という男だ。

 

「待って! 待ってください!」

 

「お前さっきの……そうか、お前がさっきの女装ライダーか。失せろ。バイクにも触るな」

 

「あぅ……」

 

 それから大地が知っているあらゆる言葉を並び立てて、恥も外聞もなく身振り手振りで説明して、ようやく蓮に話を聞いてもらえることになった。

 

 蓮が話し合う場所として連れてきたのは喫茶店「花鶏(あとり)

 

 蓮は客が誰一人としていない店内を我が物顔で案内し、適当な席に座る。

 大地が若い女性店員をちらりと窺えば、愛想良く「どうぞ」と言ってもらえた。どうやら蓮とは顔見知りらしい。

 

「それで? 女装ライダーが一体何を話すって?」

 

「いやだから女装は誤解で────」

 

「わかったわかった。早く要件を言え変態」

 

 誤解は解けていない気がする。

 しかしそれはそれとして、大地は自分の事情を説明する。

 

 異世界から来たライダーであること。

 ライダーを記録する旅をしていること。

 ライダーバトルに参加するつもりはないこと。

 

 それらの話を必死に説明していたが、その最中にも蓮は腕を組んで眉ひとつ動かさない。侑斗をさらにツンと尖らせた感じの態度だと大地は思った。

 

「──というわけなんです」

 

「なるほどな、よくわかった。病院まで送っていってやる。頭の方がいいか? それとも女装癖を治すか? 治せるかは知らんが」

 

「……やっぱり信じてくれませんか。僕、嘘ついてないのに」

 

「ライダーになるのはどこか頭のネジが外れた奴ばかりだ。悪徳弁護士に凶悪脱獄犯、いけすかない占い師に結婚詐欺師。だが妄想を熱弁する変態には敵わないな」

 

「ライダーがおかしな人ばかりなのは同意かも……。でも! 僕には秋山さんの記録が必要なんです! お願いですから一緒にいさせてください!」

 

「断る。変態が側にいたら俺まで変に見られる」

 

 取りつく島もないとはまさにこのこと。

 こちらを疑う反応は珍しくもなんともないが、ここまではっきり拒絶されるのは剛以来のこと。しかも蓮の場合、どこかからかっているようでもあるのがまたやり辛い。

 どうしたものかと悩む大地に思わぬ助け舟が出された。

 

「やめなよ蓮。この人困ってるじゃん」

 

「別に構いやしない」

 

 蓮と大地のやりとりをずっと見守っていた女性店員だった。

 彼女は肩をすくめた蓮の横に座り、大地を覗き込んできた。

 

「ごめんなさい、蓮が意地悪言って」

 

「事実だ」

 

「蓮! ……それで、やっぱり君も仮面ライダーなの?」

 

「ええ……もしかしてあなたも?」

 

「ううん、私は違うんだけどね。────私の名前は神崎優衣。神崎士郎の妹なの」

 

「神崎士郎の!?」

 

 ライダーの事情をある程度知っているかと思えば、まさかの首謀者の妹だったとは。

 そんな驚きから思わず席を立ち上がってしまった大地であったが、それを見越していた優衣は苦笑を浮かべた。

 

「お兄ちゃんを知ってるんだね。ってことは、君もデッキをもらったの?」

 

「い、いいえ。僕は少し事情が違くて……」

 

 蓮とほぼ同じ説明を繰り返す大地。

 優衣の反応は芳しくなかったが、半信半疑なので蓮よりかはマシに違いない。

 

「別の世界かぁ……。ちょっと実感湧かないけど、ミラーワールドも似たようなものだし……」

 

「優衣。こんな奴の話、まともに付き合うだけ無駄だ。大方そう言って油断させたところを狙うって寸法だろう。その手には乗らん、とっとと帰れ」

 

「あっ、蓮!? ────もう、気を悪くさせてごめんね。蓮も悪い人じゃないんだけど……」

 

「個性的な人には慣れてるんで、まあ……」

 

 むしろ仮面ライダーなんて大体変な人だった。

 しかしこうまで難しそうな相手だといっそ「ナイトの世界」ではなく「インペラーの世界」だったら楽なのにな、と大地は心で呟いた。

 

 だが、とりあえず面識は持てたので良しとしようか。

 

「じゃあ僕はこれで」

 

「待って、これだけ聞かせて欲しいの。

 

 ────君はライダーバトルに反対、なんだよね?」

 

「はい。それは間違いないです」

 

 大地は立ち去ろうとして問いかけられた質問にきっぱり答える。

 すると優衣は胸を撫で下ろして安堵の息を吐いた。

 そんな彼女がライダーバトルの首謀者の妹など、今でも信じられないことだ。

 

「それなら君の力になってくれそうなライダーに二人心当たりがあるの。一人は手塚海之さん、仮面ライダーライア。彼もライダーバトルを止めようとしている」

 

 ライダーバトルを止めようとしているライダー、ライア。

 詳しい素性は会ってみないと何とも言えないが、このバトルを否定するライダー────つまりは期待していたライダーらしいライダーが存在していたことに大地は安心を覚えた。

 職業は占い師とのことで、普段いそうな場所も教えてもらった。

 

「それでもう一人なんだけど……ごめんなさい。このライダーは私もよく知らないの。他のライダーと積極的に戦わないってことと、記者をやってるってこと、後は「リュウガ」って名乗ってたことくらいしか……」

 

(リュウガ……仮面ライダーリュウガ?)

 

 これまた大地の知らぬライダーである。

 しかも情報が極めて断片的過ぎて特定も困難だ。だが貴重な情報であることに変わりはない。

 大地は結衣に丁重に礼を述べて、今度こそ店を出ようとしたが、奥に引っ込んでいた蓮の声が背中から響いた。

 

「おい、そのリュウガって奴とは一度話したことがあるから教えてやる。あいつは────

 

 

 ────馬鹿だ。どうだ、参考になったか?」

 

「……ええ、とっても」

 

 仮面ライダーリュウガ。馬鹿。覚えておこう。

 

 

 

 

 

 これが「ナイトの世界」における始まりだった。

 

 ミラーワールド、ライダーバトル。

 しかし、これはほんの序章に過ぎなかったのだ。

 

 やがて全てのライダーを巻き込むであろう重大な事件が起こる。

 その鍵を握るライダーは今まさに誕生していたのだ。

 

 白いボディとそれを覆う重厚な鎧の戦士、レギオン。

 

 仮面ライダーレギオンが降り立ったのはとある病院のミラーワールド。

 レギオンから鏡を挟んだ向こう側には女性──小川恵里が眠り続けていた。

 

 




ネガの加入でレイキバットまで馬鹿っぽくなってないか?
そんな話。

前回と今回が所謂ナイト編 序章なのでした。
龍騎がいなければ、その代わりのライダーがいるよね。

……あれ? でもリュウガって……


と意味深なことは置いておいて。

次回更新は今月中になります。感想、評価はどしどし送ってくれると嬉しいかも。嬉しいです
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