深夜、愛車を走らせる秋山 蓮。
下宿先への帰路の途中、蓮の鼓膜を煩わしい耳鳴りが震わせる。
眉をひそめて発信源と思われる建物のガラスの前にやってきた。
ガラスに映ってはいるものの、その場所には立っていない……つまり鏡の中にしかいない人物がそこにはいた。
「神崎……何の用だ」
「秋山 蓮、仮面ライダーナイト。お前に戦いの幕開けを知らせに来た」
そして神崎 士郎が言い放った内容に蓮は驚愕したのだった。
*
同時刻、とある病院
カツン、カツン。
松葉杖をついた男が何かから血相を変えて逃げていた。
引き攣った顔の原因は足の痛みから来るものではなく、その男本人にも正体のわからない何かへの恐怖から来るもの。
カツン、カツン。
暗闇の廊下には松葉杖の音だけが木霊している。
男の後には誰もいない。にもかかわらず、男はしきりに後ろを振り返っては足を動かす。
カツン、カツン。
男にとっての不幸は急ぐあまり松葉杖を足に引っかけてしまったこと。
転んだ拍子に松葉杖を手放してしまい、暗闇の向こうに消えていったが、それにはもはや目もくれずに這って進む。
シュルッ。
その後に聞こえたのは重いものを引き摺る音。
そして病室から消えていた男はこの病院における六人目の行方不明者となった。
*
大地が秋山 蓮、仮面ライダーナイトと遭遇してから早くも三日が経過していた。
しかし、この三日間で大地は佐野以外のライダーを一切見かけていなかった。
蓮を訪ねて花鶏へ行ってみたりもしたが、あいにく不在とのこと。蓮がどこに行ったのか、優衣にも心当たりがないという。
「蓮、大地くんと会った翌日から帰ってこないの。携帯にも出なくて」
大地があちこちを彷徨い歩いてもまるで収穫なし。
優衣に教えてもらった手塚がいそうな場所にも行ってみたが、それらしい人物には出会えなかった。
「13人もいるのに誰とも会えないのはどういうこった? 一夜でライダーバトルに決着着いたのか?」
「まさか、それは無い……よね?」
二日連続で計4人ものライダーに遭遇しておきながら、今度は三日間誰とも会えずじまい。不安だって感じる。
だが、そうやって途方に暮れている時間も長くは続かなかった。
また護衛のために写真館を訪れた佐野から気になる情報をもらったのだ。
『今TVとか新聞で話題になってる病院があって、数日前からそこで何人も神隠しにあったみたいに行方不明になってるらしいです! 多分モンスターかと!』
確かにその犯人はミラーモンスターの可能性が極めて高い。
それにもしかすると蓮か他のライダーとも会えるかもしれない。
そして佐野の案内のもと、大地と瑠美はその病院へとやって来た。
やはり事件が事件てあるためか、病院の入り口にはマスコミによる人だかりができており、正面から入るにも一苦労しそうだ。
よって正面から行くのは大地のみとし、佐野と瑠美は周辺の調査を行うこととなった。
「それにしても凄い人だかりだなぁ……どうやって中に入ろうか」
責任者と思わしき白衣の医者にマスコミ達はマイクやカメラを向けている。
しかしあれはもう押し付けるに等しく、焚かれるフラッシュの眩しさも相まって医者はかなり鬱陶しそうに対応していた。
まずはあの集団を突破して中に入りたいのだが、強引に行けばあの熱気で揉みくちゃにされてしまうだろう。
大地はポーチの住人と知恵を出しあうことにした。
「あそこを突っ切るのは難しいね」
「俺が冷気で追っ払うか? 病院が目の前にあるし、風邪を引いても平気だろうよ」
「俺様はうだうだ群がるマスコミが気に食わねえ。メイジに変身してサクッと片付けちまいな!」
「ネガタロスは却下として……レイキバットさんの案もなんだか危ないし、地道にやるしかないですね」
「「チッ!」」
怒号に近い叫びが飛び交う人混みはまるで津波のようだ。
潜り込める隙間を後ろから探しているうちに、集団から弾き出された男がちょうど大地にぶつかってきた。
そのままもつれ合って倒れ、大地は男の下敷きになる形になる。視界を埋め尽くした水色は彼が着ているジャンパーだ。
「おわぁっ!? いって! おい誰だよ俺の足踏んだの! ────ああごめん、大丈夫?」
「大丈夫……ですから、どいてもらえるとありがたいです」
「わ、悪い悪い」
男は慌てて大地を起こし、ペコペコ頭を下げる。
尻が少し痛かったが、それくらいは気にしない。
改めて男を見ると、想像通り彼の手には撮影用カメラ。マスコミ関係者で間違いなさそうだ。
「あの、ここで何かあったんですか?」
「え! あんたテレビ観てないの? この病院で数日前から立て続けに人が消えてるんだよ。俺もその取材に来てるの」
大地はあえて無知を装い、今初めて知ったという風に驚いてみせる。
マスコミ関係者だからこそ掴んでいる情報があるかもしれない。彼から聞き出すのも手だ。
「そうだったンですか!? し、シラなかった! デもスゴいですね、記者なんて、 きっとイロイロ知ってるんだロウな〜」
((棒読みだ……))
しかし大地にはそこまでの器用さがあるわけでもなく。
咄嗟のこと故に仕方ないのだが、目敏い人ならすぐに見破られるレベルのわざとらしい演技にポーチの中では呆れられていた。
「そ、そうか? まあそれほどでも……あるのかなぁ? あるよなぁ、へへ」
「勿論ですよ! ……えっと」
「ん? ────あ、俺、『OREジャーナル』の城戸真司! よろしく!」
幸いにもこの真司という記者はこちらを怪しむどころか、照れて鼻を擦ったり、茶髪の髪をわしゃわしゃさせている。
こんな反応をされると却ってこちらの罪悪感が増してきてしまう。
しかしその感情は表に出さず、大地は笑顔を保って事件について尋ねた。
「ここ最近連続失踪事件が頻発してるだろ? 今回の事件もその一つかと思いきや、ちょっと事情が異なるみたいでさ。最初の失踪が起こった翌日に、こないだ脱走した強盗殺人鬼の浅倉 威が近くで目撃されてるんだ」
連続失踪事件とは、恐らくミラーモンスターに襲われた被害者のことを指しているのだろう。ミラーワールドを視認できない一般人からしたら神隠しにあったも同然。
この事件も佐野が睨んだ通りモンスターの仕業なら浅倉とやらは偶然居合わせただけにも思えるが、まだ断定はできない。
「そんなわけで俺たちマスコミの他にも被害者の家族とか、警察とか、色んな人がここに押し掛けてる。俺も編集長にどやされ──んんっ! な、なんとか手掛かり掴めないかと思って来たんだけど、もうごった返しが酷いのなんの。一緒に来た新人ともはぐれちゃってさ……あいつ急にいなくなるんだから。怒られるのは俺なのに!」
後半はほぼ愚痴になってはいるものの、真司の情報はかなり有用だと言える。
少なくともこの病院を根城にしているモンスターがいることは確かだ。これ以上犠牲者が増えることは見過ごしておけない。
「大体あいつには先輩への敬意ってのが足りてないんだよ。そんなんだから俺まで揃って馬鹿コンビとか呼ばれるんだっつーの! それに────」
「あの〜、僕そろそろ……」
「えっ? あ、ああ、それじゃ。 ……あれ? 俺何の話してたんだっけ……ってそうだ取材だ取材! また編集長にどやされる!」
(忙しそうな人だなあ)
それから真司と別れて、人混みを突破した大地はようやく病院に入ることができた。
人でごった返しているのは中も変わらず、探索にはこれまた苦労しそうである。
人々の大半は不安そうな顔で、捜査中と思われる警察官の存在感がそれに拍車をかけていた。
真剣な表情の警官が側にいれば多くの人々はなんとなく不安を覚える。実害が出ているなら尚更というもの。
そんな病院全体に広がる息苦しさに大地は無意識のうちに首元を緩めた。
「入ったはいいが、どこから調べる? こんだけ人が多いとすると守るにはちと骨だな」
「まずはライダーを探してみます。これだけの騒ぎです、きっと他のライダーもここに来てるはず。もしできるなら協力したい」
「そんな臭い正義面したお人好しがお前以外にいるとは思えないがな」
だが、これだけいる人からデッキを持った者を探し出すのだって難しい。
鏡になりそうなものがある場所を重点的に巡ってみたが、それらしい人は見つからない。
大地は廊下の壁に寄りかかってポーチと作戦会議を開く。
「いないなあ……」
「変身もしてないのに見分けられるわけねえだろ……」
「俺様ならワルのオーラは感じ取れるぜ。この病院にはそういうワルがわんさかいるに違いねえ。────お、今ガム噛んでるあのガキなんか良い例だな」
ネガタロスが指した(と思われる)青年がちょうど大地の前を通りかかった。
くっちゃくっちゃというガムの不快な音を隠そうともせず、周囲のしかめ面も知らん顔。年齢は瑠美と差は無さそうだが、態度はえらく不遜だ。しかも極めつけにはその場にガムを吐き捨てる始末。
これはネガタロスの言うワルというよりも、ただの不良と言った方が適切ではないだろうか。
しかし、場が場なので見過ごすのも気が引ける大地は彼に注意をしようとするが、その前に彼の前に立ちはだかる者がいた。
「ねえ! ポイ捨てしちゃいけないんだよ! 病院はきれいにしてください!」
それは大地や青年の半分ほどしかない背丈の少年。
自分の手が汚れるのも構わずに拾ったガムを青年に差し出しているその少年をどこかで見た覚えが大地にはあった。
記憶を探り、そして思い出す。
その少年は、大地が遊園地の迷路で出会ったあの昴という男の子であった。
「あ? なによガキ」
「病院はね、きれいにしないといけないの! ひろってください!」
「あぁ〜うっざ。いいからどけよ」
青年は煩わしそうに先を行こうとするが、その都度昴が小さなだけ身体で道を塞ぐ。
それは青年の我慢の限界を迎え、ついに昴は押し飛ばされてしまった。
痛みにうずくまった昴を鼻で笑い、周囲の咎める視線にも構わずにそのまま進もうとする青年。
だが、今度は大地がその前を塞いだ。
「ちょっと、謝ってくださいよ。正しいのはこの子の方でしょう」
「さっきからなんなんだよまったく。はいはい俺が悪うございました。これで満足? 俺忙しいんだよね」
「だから僕じゃなくて、この子に謝ってと言ってるんです!」
「じゃあお宅から代わりにやっといてよ。よろしく〜」
その態度についてどうこう言うつもりはないが、幼い少年を突き飛ばした行為だけは大地は許せなかった。
通り過ぎようとする青年の肩を掴み、強引にこちらへ向かせる。
「何、この手。怒ってるんだ? 俺とやろうってわけ?」
「……」
燻っていた怒りがじわじわと湧き上がる実感がある。
肩を掴む力もどんどん増してくる。
青年と大地の視線がいよいよ火花を散らし始めた時、その間に割り込む者がいた。
格好からして刑事だろうか。
「ここは病院です。揉め事とは感心しませんね」
「あれ、誰かと思えば須藤さんじゃん。あんたが代わりに戦うってこと?」
「芝浦、私はあなたと戦いに来たわけじゃありません。もっともこの連続失踪事件の重要参考人として連行して欲しいというならやぶさかではありませんがね」
「ご冗談。証拠は無いし、俺には超優秀な弁護士がいるから」
「それは俺のことかな? 芝浦の坊ちゃん」
今度割り込んで来たのは、また別の男。一目で高級とわかるスーツを着ている整った顔の人物だ。
芝浦は須藤の隣に立った彼を見上げて「北岡」と呼んだ。
「超優秀という至極当然なお墨付きをもらったからには俺も頑張って弁護しないとな。有罪を勝ち取るために、ね」
「へぇー、あんたも来てるんだ? でもわかるよ。こんなお祭り状態、ライダーなら遊ばないと損だもんね」
芝浦が発した言葉に耳を寄せる大地。
彼は今たしかに「ライダー」と言った。
まさかとは思うが、この三人ともライダーだというのか。
「お前みたいな道楽者と善良な市民の俺を一緒にするなって。俺達は事態収拾で動いてるだけ」
「俺達……ってことはあんたら手を組んだんだ。まあ弁護士と刑事なら納得のコンビってやつ?」
北岡と須藤、芝浦。一触即発の空気の中、先に白旗を上げたのは芝浦だった。
「2対1は流石に不利だし、今日のとこはやめとくよ。あんたら相手にするならそれ相応の準備をしないとね」
「遺書か、それとも司法手続きの準備か? ま、いずれにせよとっとと尻尾を巻いて帰んなよ。お前は病院よりもゲーセンがお似合いだからさ」
「言ってくれんじゃん。じゃあ続きはまた今度ってことで」
さして悔しがる様子も見せずに芝浦は去って行き、北岡と須藤もやれやれといった風に去ろうとする。
彼らがライダーだというなら話を聞くのが自然のはず。だが、大地はそれよりも昴を選んだ。
「怪我はない? 昴くんだったよね?」
「うん……あ、鏡のお兄ちゃん? お兄ちゃんも患者さんなの? 痛いとこはお父さんが治してくれるよー」
「お父さん、ここのお医者さんなの?」
「うん! ここはね、お父さんのお城なの! みーんなお父さんの患者さんだからぼくもお手伝いするんだ!」
なるほど、と大地は合点がいった。
昴の父はここに勤める医者で、さっきの行動も父を思ってのことだったのだ。
怖い思いをしたはずなのに愛らしく笑う昴はきっと日頃から患者の心を癒す役割を果たしている。
現に昴の無邪気な破顔は大地を温かい気持ちにさせてくれた。
「昴、何をしている」
「お父さん!」
昴の迎えに現れた父親。
今日は白衣を着ており、やはり彼が医者なのだと確信できる。
彼の眼鏡が大地と昴を交互に見比べて、「ああ」と納得したような声が上がった。
「先日遊園地でお会いしましたね。また昴がお世話になっているとは……ご迷惑をおかけしました。私の名前は
奏は見た目通りの真面目な人物らしく、礼をする仕草ひとつとってもきっちりしている。
しかし完全な堅物とまではいかないのは、彼の足に抱きついた昴を撫でる手が証明していた。
「副院長……!」
「ね? お父さんはすごいし、えらいんだよ。みんなのヒーローなんだ!」
まるで自分のことのように胸を張る昴はやはり微笑ましい。
顔は憮然としているが、奏も満更ではない様子。
「よしなさい昴。……失礼ですが、当院へは何の御用でしょうか?」
「────ええっと、知人の見舞いに」
「……そうですか」
「────ッ!?」
大地の答えを聞いた瞬間、奏の瞳が鋭く光る。
思わずギョッとしてしまった大地に一歩踏み出した奏であったが、それを引き止めたのはしがみついていた昴であった。
「お父さんー、おひるー」
「……そうだな。時間もあまりない、急ごうか。……それではこれで」
口角をほんの僅かに緩ませた奏は良き父親にしか見えない。
今のは見間違いだ。大地はそう思うことにした。
だが。
「君、名前は」
すれ違い様で奏は大地の耳元に囁く。
「大地ですけど……」
「大地君、か。覚えておこう」
奏はそれだけ言って、昴と手を繋ぐ。
大小二つの背中から大地は何故だか目が離せなかった。
*
レイキバットの尾行のおかげで大地は労せずして須藤と北岡に追いつくことができた。
二人はロビーに設置された自販機の前で何やら話しこんでおり、どこか深刻そうだ。
「ん? 君はさっきの……。まさか芝浦を本気で訴えに来たわけじゃないよな?」
「僕はこういうものなんですけど」
大地が掲げたベルトに、須藤と北岡は顔を見合わせた。
「……もしかして、ライダー? カードデッキじゃないの?」
「ちょっと訳ありでして。お二人に話を聞かせて欲しいんです。戦うつもりはありません」
まずはこちらに戦いの意志がないことを示す。
また以前のようなライダーバトルに発展するのはもうごめんこうむりたい。
二人、特に北岡は怪しむ態度を崩すことは無かったが、それでも情報交換には応じてくれた。
須藤 雅史、仮面ライダーシザース。
大地の見立て通り刑事で、物腰の柔らかい紳士的な態度が好印象だった。
北岡 秀一、仮面ライダーゾルダ。
彼は凄腕の弁護士とのことで、浅倉の弁護を担当したこともあるらしい。だが、そのシニカルな笑みは大地の思い描く正義の弁護士像とは少々異なっていた。
「────で、さっきのあいつは芝浦 淳。仮面ライダーガイ。まあいけ好かないガキだよ。それにしても別の世界からやって来た、ねえ。嘘ならもうちょいマシなやつ考えたらどうだよ」
「まあいいじゃないですか北岡さん。それで大地くん、君は戦うつもりはないと言いましたが、この事件を解決するにはそうも言ってられませんよ」
「と言うと?」
「この近辺で目撃されている浅倉 威。奴は仮面ライダー王蛇であり、同時に今回の事件の犯人ではないかと我々は考えています」
この世界のライダーは多いだけあって様々な人がいるが、まさか凶悪犯までもがライダーになっていようとは。
つくづくこれまでの常識を覆される世界だ。
しかし、モンスターの可能性もあるのに何故北岡と須藤は王蛇が犯人だと断定できているのか、それが大地には不思議だ。
「ライダーと言っても中身は普通の人間。契約モンスターで積極的に人を襲わせる輩なんてそうはいない。でもあの浅倉ならやりかねないんだよ、そういう奴だからさ」
「じゃあ北岡さんと須藤さんは二人を捕まえるためにライダーになったんですか?」
「私はそうですが……」
ライダーが善人であって欲しい。大地のそんな想いから発した疑問だったのだが、頷いたのは須藤のみ。
残念ながら北岡は誰かの為に、なんて殊勝な性格はしていないし今回も利害が一致しているから組んでいるだけに過ぎない。
「須藤刑事が他より信用できるからってのもデカいが、俺は普通なら誰かと組んだりしないのよ。変に情が湧いても困るからな。ビジネスパートナーってとこが妥当なとこよ」
「浅倉を逮捕さえできるなら私は構いません。なんならリタイアしたっていい」
「ライダーがみんなあなたみたいな人なら俺も楽に勝ち残れるんだけどなあ。……ま、そういうわけだ。今回限定なら君とも組んでもいいけど?」
手を組む発案は意外にも北岡からもたらされた。
彼が大地の思い描いたような正義のライダーではないことは残念ではあるが、それでも争わずに済むならそれに越したことはない。
王蛇がどれほどの実力を誇るにせよ、佐野も含めた計四人のライダーで倒せないことはあるまい。
「わかりました。事件解決のためにお二人と一緒に戦わせてください!」
「こちらこそよろしくお願いします。ただ……注意して欲しいのはここには我々以外にも多くのライダーが来ているということです。さっきの芝浦 淳が良い例でしょう。この期に乗じて漁夫の利を狙う者もいるはず」
「……気をつけます」
大地がどうあろうとも、この事件に関われば恐らくライダーバトルには巻き込まれてしまう。そんな確信めいた予感に身震いした。
そして大地の予感に触発されたかのように鳴り始めたのは鏡へ誘う警笛。
大地には聞き取れないその音の存在を、北岡と須藤が同時に駆け出したことで認識できた。
男子トイレに血相を変えて駆け込んだ男三人というのは些か異様な光景であり、より異様となるのは鏡にデッキを掲げてベルトを巻いたことである。
「「「変身!」」」
彼らは変身し、鏡の中に潜り込む。
その直後、眼を細めた奏がトイレに入り、じっと鏡を睨んでいた。
*
ミラーワールドに突入したダークディケイド、シザース、ゾルダ。
各々が武器を構え、病院の廊下に所狭しとひしめき合うシアゴーストへ攻撃を開始した。
「このモンスター、遊園地にもいたやつか!」
「またこいつらかよ! この病院で安売りでもされてんのか?」
ゾルダとシザースも戦った経験がある様子だ。
つまりここにいる全員が敵の特性は理解しているはず。
アドバイスは無用として、ダークディケイドは自分の戦いに集中する。
ATTACK RIDE BLAST
SHOOT VENT
STRIKE VENT
ディケイドブラストの射撃、ギガランチャーの砲撃がシアゴーストの前方集団をまとめて消し飛ばし、反撃の糸をシザースの鋏──シザースピンチが斬り裂いた。
その勢いのままに飛び込んだシザースは手当たり次第にモンスターの首を断っていき、ゾルダも大砲を捨てて持ち替えた拳銃──ギガバイザーで援護射撃を行う。
KAMEN RIDE ZERONOS
そこへ大剣を振り回すDDゼロノスも加わり、糸を裂きつつ前衛のシザースに加勢した。
一度の斬撃で数匹まとめて斬り伏せて、それでも大群の終わりは見えてこない。
むしろその数は増えていく一方で、気付けばDDゼロノス側が押されていく。
「前にも増して多いねえ、こういうのは俺がスカッと決めちゃいますか!」
「我々まで消し飛ばないなら名案ですがね!」
「だよなあ」
後退を余儀なくされたライダー達の背中と行き止まりの壁との距離はどんどん無くなっていく。
あと少しもすればこの白い波に呑まれ、ライダー達は骨の髄までむしゃぶりつかれるだろう。
「僕に任せてください!」
ATTACK RIDE SAISYO NI ITTEOKU
アルタイルフォームからベガフォームへとフォームチェンジしたDDゼロノス。
姿を変えたことに目を見張るゾルダとシザースの前で、DDゼロノスは勢いつけて右腕を突き出した。
握り拳から親指をピンッと出す。
「最初に言っておく!」
──特に何も起こらない。
ゾルダも、シザースも、シアゴーストでさえも一瞬固まった。
「……あれ? これだけ? つ、続きは? あれ? デネブさん?」
「何やってんだあいつ」
「さあ……」
おかしいなあ、と首を傾げながらゼロガッシャーをボウガンモードへ。
我に返ったように襲いかかってくるシアゴーストを見据え、金色のカードを装填した。
FINAL ATTACK RIDE ZE ZE ZE ZERONOS
「ッツアアア!」
DDゼロノスはV字に光るエネルギーの矢、グランドストライクを連続で放つ。
廊下の端から端まで突き進む矢に貫かれたシアゴースト達は次々と爆散していき、魑魅魍魎で埋め尽くされていた廊下は元の綺麗な姿を取り戻した。
……V字状に大きく開けられた壁の穴に目を瞑れば。
「おー、見かけによらず結構やるもんだねぇ。にしても、こんだけ多いとなると案外浅倉じゃなくてこいつらが犯人かもなあ」
「どうでしょうか、これだけのモンスターが無差別に襲っていれば被害はもっと大きくなっているでしょう。やはり犯人は浅倉で間違いありません」
「かもな。それに誰が相手になってもこいつが味方なら気も楽だけど」
「……そうですね。それは確かに」
あれだけの数を相手に大した消耗もなく片付けることができたのは、ダークディケイドのおかげなのは疑う余地もない。
それがシザースとゾルダのこの戦いで得た共通認識となった。
「──ッ! まだ終わってません!」
「何?」
帰還する流れを断ち切るDDゼロノスの声。
一掃されたと思われた廊下の向こうから不気味な鳴き声が響き、蠢く影が見え隠れする。
「「「wゥブ! wゥ、wゥブ!」」」
「まだいるのか!?」
遊園地の分も合わせてもう30は撃破しているのに、あのモンスターの数は際限を知らない。
無限に湧いてくると言われても信じてしまいそうになる勢いなのだ。もしやミラーワールドのどこかにあのモンスターの集落でもあるのかもしれない。
「もうこれは逃げるが勝ち……とはいかないか」
「ここが病院じゃなければ見過ごす手もあったんでしょうが……」
「やるしかありません!」
果敢にも突っ込んでいき、片っ端から斬っていくダークディケイド。
姿こそ通常形態に戻ってはいるものの、その戦意は衰えるところを知らない。
そうして突っ込んで行ったダークディケイドは複数のシアゴーストと絡み合い、やがて壁に激突。グランドストライクによって脆くなっていた壁はその衝撃で倒壊し、モンスター諸共ダークディケイドは病院外へ落下していった。
新たに現れた大群のうち半分がそれを追って行ったが、残りはゾルダ達に標的を定めているらしい。
ひしめきあって押し寄せてくるモンスターの群れを前にして、ゾルダは軽いデジャブに襲われた。
「若い奴は活きがあっていいねえ。俺らももう一踏ん張りやりますか」
「ええ!」
ダークディケイドに負けじとゾルダ、シザースもカードを引き抜く。
押し寄せる大群とライダーの接敵まで、あと数秒。
マグナバイザー、シザースバイザーにカードが入る。
そして装填しようとするも、二人の間を何かがすり抜けた。
SHOOT VENT
一匹の頭を刺し貫いた矢も、鳴り響いた電子音声もシザースやゾルダのものではない。
三匹の蜂型モンスター、バズスティンガー。
黄の弓矢、ビー。
赤の毒針、ホーネット。
青の剣、ワスプ。
そして彼らを従えるライダーがそこにはいた。
「……また掃除をしないといけないな」
赤青黄の三色を力としてその身に宿す、仮面ライダーアマンダ──大和 奏の怒りを滲ませた呟きが零れた。
*
シアゴーストの大群の半分を受け持ったダークディケイド。
その戦場は病院内から病院外へ。
半分になっていたその数がさらに半分になった頃になって、戦いの天秤をダークディケイド側に傾けさせるイベントが起こった。
ADVENT
ダークディケイドを囲んでいたシアゴーストをさらに囲う集団。
それはインペラーの契約モンスター、ギガゼールの率いる軍団であった。
彼らは白い包囲を突き崩してダークディケイドを救い、集団戦へと移行する。
本能のままに群れて暴れ回るシアゴースト達とある程度統率のとれたゼール軍団。どちらが優勢かは言うまでもない。
そしてゼール軍団を召喚した主、インペラーが爽快とダークディケイドのもとに駆けつけた。
「お待たせしました! へへっ、やっぱり首領には俺が付いてないと。ですよね?」
「佐野さん! 瑠美さんを狙ってたモンスターは!?」
「何匹か護衛に置いときました! 多分この前から警戒してるのか、隠れたまんまだから平気だと思います。よーし、俺も頑張っちゃいますかぁ!」
もとより優勢だった上にインペラーの加勢がダークディケイドの勝利を完全なものにした。
包囲する側だったシアゴーストは瞬く間に数を減らしていき、いつの間にかゼール軍団に包囲される側になってしまった。
残るはあと数匹。一気に片付けるべく、必殺のカードを抜いたダークディケイド。
FINAL VENT
しかし、ダークディケイドの聴覚は確かにその音声を拾った。そこに遥か上空から飛来する一本の槍。
とてつもない勢いで迫る槍は黒いドリルのようでもあり、あれに貫かれてしまえば最後、命の保証はできそうにない。
「危なっ!?」
「うわあっ!?」
慌てて飛び退くダークディケイドとインペラー、それにゼール軍団であったが、うち何匹かは退避が間に合わずにシアゴースト諸共貫かれて爆散してしまった。
仲間とも呼べる彼らの死に唇を噛むが、悲しみに暮れる間もなく爆炎から彼は姿を見せた。
蝙蝠の翼をマントにしたそのライダーを見間違えるはずもない。
あれは紛れもなく────
「ナイト……秋山さん!」
呼びかけに応える言葉はなく、ナイトはただ佇んでいるだけ。
さっきのドリルも彼のファイナルベント──飛翔斬だと理解はできた。
だが何故だろうか。彼の背中に漂うオーラから嫌な予感しか感じられないのは。
インペラーもそれを薄々感じとったか、お調子者な口調は鳴りを潜めて成り行きを見守っている。
そしてゆっくりと空気が張り詰めていく中、ついにナイトの仮面から言葉が発せられた。
「戦え……」
その声は聞き取るにはあまりに小さく、しかしあまりに大きな意思が込められていた。
「戦え……!」
ナイトの仮面の奥、青き複眼がダークディケイドとインペラーを貫く。
「俺と戦えぇぇ!!」
魂を震わせる叫びと共に、ウイングランサーを振りかざしたナイトがダークディケイド達へと駆け出した。
仮面ライダーアマンダ。
大和 奏が三匹のバズスティンガーと契約した蜂型ライダー。
それぞれの武器を扱う他、ガードベントによる防御やアドベントによる集団戦など多彩な戦術で敵を追い詰める。
ファイナルベントはバズスティンガー達との連携で放つトルクインパクト。
……というわけで本作三人目となるオリジナルライダーの登場でした。あれ? なんか数合わないような……
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