変身者込みだとナイトですが。
激情の騎士。
ダークバイザーとウイングランサーの二刀流で迫るナイトはその一言でしか言い表しようがない。
その気迫に押されたダークディケイドとインペラーは初動が遅れ、まんまと斬撃をもらってしまう。
「秋山さん、なんで……」
「お前に用は無い!!」
怒涛のごとき乱舞でダークディケイドを斬り刻んだナイトは追撃もそこそこに剣先をインペラーに向ける。
彼の言葉通り、あくまで標的はインペラーに絞られているようだ。
インペラーもガゼルスタッブで応戦するが、ナイトには到底敵わない。
突き出されたガゼルスタッブはあっさり弾かれて宙を舞い、無防備になった胴体に次々と吸い込まれる剣と槍の突き。
一瞬でズタボロにされたインペラーはナイトの勢いにすっかり萎縮してしまい、防御すらままならない。
助けに現れた時の頼もしさは何処へやら、というよりダークディケイドの助けを求めている。
「首領! 首領! これ無理です! 早く、早く来てぇ!」
だがそれで呆れて見捨てる大地ではない。
ダークディケイドはすでに新たなカードを選びとっていた。
KAMEN RIDE SAGA
ダークディケイドが変じたのは、運命のサガ。
DDサガのジャコーダービュートが弧を描き、槍を突き立てようとしていたナイトに巻きついた。
ナイトは怒りの叫びを上げ、阻害してくる鞭を切断しようとするが、運命の鎧は伊達ではないのだ。ナイトの剣ごときではジャコーダービュートはビクともしない。
「どうしたんですか秋山さん! 少し落ち着いてください!」
「うるさい! 行け、ダークウイング!」
マントとなっていたダークウイングが翼を広げて分離し、鞭の拘束が剥がされてしまった。
鼓膜を揺さぶる鳴き声に怯んでしまい、ダークウイングの体当たりによって吹き飛ばされてしまったDDサガ。
邪魔者はパートナーに押し付けて再びインペラーへと向かうナイト。
だが、そこで黙ってやられているDDサガではない。
ATTACK RIDE MOTHER SAGARC
サガの使役するモンスター、マザーサガークがダークウイングを迎え撃つ。
振るわれる無数の触手を掻い潜り、自身より数倍も大きい相手にも臆することなく突貫していくダークウイング。だが、これでDDサガはまたフリーになった。
今度はインペラーに振るおうとした槍に鞭を巻き付けて奪い取るも、それがナイトの逆鱗に触れたらしい。紅の鞭が描く軌跡に黒き槍の一文字が入る。二大モンスターの衝突を背後にして、ナイトが猛然と突きを放つ。
「邪魔をするならお前から倒す!」
「一体何があったんですか!? 佐野さんがライダーだから倒すって言うんですか!」
「それ以外に理由がいるか!」
ジャコーダーロッドでナイトの剣を弾こうとするが、逆に鎧を斬られてしまう。
スペックでは圧倒的にDDサガが優れている。
しかしナイトにはそれを覆すだけの勢いがあった。
今のナイトを取り押さえるなら生半可な姿勢では却ってこちらがやられてしまう。
「僕は秋山さんを倒す気はありません! でも……佐野さんをおめおめとやらせはしない!」
鎧の防御力を信じ、ナイトの槍を甘んじて受けながらロッドでカウンターの突きを放つ。怯んだところへ再び拘束の鞭をしならせる。
DDサガはナイトを縛り付け、説得に移ろうとしたが、ナイトとて同じ手をみすみす食わない。
彼のダークバイザーには既にカードが挿入されていたのだ。
TRICK VENT
シャドーイリュージョン。以前も見たナイトの分身技だ。
ナイトの影から現れた数人の分身が本体を拘束している鞭を斬り裂き、共にDDサガへ突撃する。ゼール軍団がお遊戯に思えてしまうほどに見事な波状攻撃は運命の鎧にも次々と傷を結んでいく。
単体では勿論のこと、数を増やしたところでDDサガとナイトのスペック差はそう簡単には埋まらない。
しかし塵も積もればなんとやら。
運命の鎧を通して届く一つ一つの衝撃は小さくとも、徐々に蓄積されていく痛みは最早無視できるそれではない。その圧倒的なスペックの代償──大地の肉体を蝕む疲労感もそれを手伝っていた。
ナイトとサガの性能を知る者がこの状況を見れば、さぞ驚くことだろう。かくいう大地もその一人である。
(僕がサガを使いこなせていないだけじゃない……今の秋山さんがそれだけ凄いんだ……!)
これでは埒があかないと判断し、カメンライドを解除するDDサガ。
通常形態となったダークディケイドは眉間に突き出された槍を弾きながら、カードを発動する。
ATTACK RIDE ILLUSION
「分身には分身だ!」
「何……!?」
分身には分身。シャドーイリュージョンにはディケイドイリュージョンを。
瞬時に同数の分身を備えてきたダークディケイドにナイトは驚きを隠せない。自身の切り札をこうも簡単に模倣されれば当然だろう。
そして戦闘は分身同士が入り乱れる乱戦へ。
斬撃や銃撃が飛び交う中、耐久値を超えたダメージを負った分身が消えていく。
マザーサガークが消失したことで自由となったダークウイングがダークディケイドの分身をまとめて薙ぎ倒したかと思えば、ディケイドブラストがナイトの分身を二、三人ほど撃ち抜いた。
ヒートアップしていく二人の戦いだったが、突如として鳴り響いたピシャリという音がそれを止めた。
「やめろ秋山!」
両者に冷や水を浴びせるようにして現れたピンクのエイを模したライダー。
視線を集めたそのライダーに与えられた名は────ライア。
両者の間に割り込み、これ以上の戦いを許さないという意思を鞭を打つことで示す。
「──手塚」
「そいつらは今日初めてここに訪れた。犯人じゃない。この戦いは無益だ」
そのライダー──仮面ライダーライアがこの戦いに終止符を打った。
*
ダークディケイド達の戦いにライアが割り込んだように、シザースとゾルダ、そしてモンスターとの戦いにも割り込む者がいた。
三色を司るライダー、仮面ライダーアマンダの登場にゾルダ達の緊張感は一気に高まる。
アマンダは黄色のバズスティンガー・ビーと同型の弓を引き、そこから無数の矢を連射した。その圧倒的な弾幕はシアゴーストの群れを寄せ付けない。
ある者は胸を、またある者は頭を貫かれて身体を激しく痙攣させる。そこにトドメを刺すのはワスプの剣とホーネットの毒針だ。
「あのライダー、複数のモンスターと契約してる……?」
「ぽいよね。前に見た時代劇の……あー、なんだっけあれ。とにかく板についた従者っぷりだな」
一歩引いた位置からアマンダの戦闘を評するシザースとゾルダ。
加勢をしてもいいのだが、アマンダがどういった立ち位置で乱入してきたのか不明なうちは傍観に徹するのが最良だと彼らは判断していた。下手に手を出して攻撃されでもしたら堪ったものではない、ライダーはあくまでも敵同士なのだ。
それに観察すればするほどわかる。
「手出しは無用」彼の背中からはそんなメッセージが読み取れた。
SWORD VENT
アマンダは弓矢から、ワスプと同じ剣に持ち替える。後衛をビーに任せ、見惚れるほどに華麗な剣さばきでシアゴーストを仕留めていく。
微かに生じた隙もワスプとホーネットがカバーすることで埋める。
逆に自身の契約モンスターを狙う個体がいれば、アマンダやビーが優先的に倒す。
契約モンスターをいかにして運用するかはライダー次第だ。
だがこうして肩を並べて連携するアマンダはシザースやゾルダから見てもかなり珍しいタイプのライダーだった。
「敵に回すならこれほど厄介な相手もいないな」ゾルダのその言葉にシザースもコクリと頷く。
これほどまでに研ぎ澄まされた連携をただ群れただけのモンスターにどうして崩すことができようか。
最後のシアゴーストの首が斬られるまでにそう時間はかからなかった。不気味に蠢いていた群れが全て物言わぬ骸と化し、白い廊下を埋め尽くしている。
パチ、パチ、と控えめな拍手の音にアマンダは振り向く。
「中々やるじゃないの。初対面……でいいんだよな? 生憎この格好じゃ名刺も出さなくて」
「上っ面だけ取り繕った挨拶は結構。要件だけ言ってもらおうか、北岡弁護士に須藤刑事」
仮面を被った顔を見透かすアマンダの一言。
これにはシザースも黙っていられない。
「こちらの素性を知っているなら話は早い。続きは素顔で話しましょうか」
「……いいだろう」
ミラーワールドを出た三人のライダーは変身を解く。
アマンダの仮面と鎧の奥から見せた、奏の白衣の医者としての姿に須藤は納得したように目を細める。この病院の副院長である奏には捜査の一環で話をしたことがある。有名人である北岡を知っているのは大して不思議でもあるまい。
対する奏は溜息一つ、眼鏡を軽く押し上げるだけ。
「大和副院長……まさか貴方までライダーだったとは」
「知っての通り私は多忙の身だ。君達ライダーと関わるつもりもない。話があるなら手短に頼むよ」
「おいおい、その傍観者の態度が通じると思うわけ? あんただってライダー、ライダーバトルの参加者だろうに」
「私の知ったことか。だが……この病院────私の領土を荒らす者はモンスターでもライダーでも容赦はしない」
感情を出さない平坦な口調は相変わらず。しかし、奏の言葉には刑事の須藤すら怯ませる凄みがあった。
そういった経験を何度もする職業であるからこそわかる。
奏は障害となる者を躊躇なく切れる者なのだと。
だが、その威圧に呑まれてばかりもいられない。
表向きは余裕の態度で北岡はさらに言葉を投げかける。
「この病院で人を襲うモンスターがいて、その犯人はライダー。そしてあんたはここの副院長ときた。偶然にしては出来すぎだとは思わないか?」
「馬鹿馬鹿しい、私はここ数日かなりの数のモンスターを倒してきたが、そのほとんどがさっきの群れた奴らだった。あのモンスターと契約したライダーが犯人だ」
「いるかどうかもわからない奴をでっち上げられてもなあ……。確かにさっきのモンスターの多さは不自然だけどさ、群れるモンスター自体は稀にはいるよ。それに……あんた複数のモンスターと契約してるみたいだが、餌には困ってないのか? ────あいや失敬、ここならその心配もないか。餌、もとい患者なら掃いて捨てるほどいるもなあ」
しつこく攻め立てる北岡。
クロをシロに変えるスーパー弁護士の名に恥じない口の回し。
ベラベラと並べ立てられる言葉の数々に奏の苛立ちはどんどん増してくる。
彼は付き合ってられないと言わんばかりに首を振って踵を返した。
「時間の無駄だな。北岡秀一……悪徳弁護士とはよく言ったものだ」
「その呼び名はイメージダウンするから好きじゃない。スーパー弁護士って呼んでほしいね」
去っていく白衣の背中に軽口をぶつけてみたが返事はなし。
北岡はすっきりしない手応えに肩を竦めた。
*
「手塚 海之だ、よろしく」
所変わって光写真館。
この精悍な顔立ちの男こそがライアの変身者、手塚 海之。
心の奥底まで見透かそうとする瞳に一瞬たじろぐが、大地は差し出された手をおずおずと握り返す。
「今日、俺はとある人物に関する重要な出逢いがあると占いで出た。まさか違う世界のライダーとは予想もしていなかったが」
「とある人物?」
「秋山 蓮だ。知り合いだろ?」
「さっきまでズバズバされてましたけど、そうです」
ハンカチとコインをテーブルに並べ、何やら準備を始める手塚。
一同が見守る中、弾かれた一枚のコインがくるくる回る。
不自然に回転を止めたコインを見た手塚は溜息を吐いた。
「近いうち、秋山には破滅の運命が訪れる」
「破滅……? それって占い師なりの不吉の前兆の言い方だったりします?」
「ああ、かなり不吉だな。わかりやすく言うと死ぬ」
「最上級じゃないですか! ……で、でもただの占いなんですよね」
「いや────俺の占いは当たる」
まるで明日の天気を言うかのようにさらりと言ってのけた。
どうして彼は予見したであろう知人の死をこんな事も無げに言えるのだろうか。
それ以上の言葉を失った大地に代わって、顔を青くしていた瑠美が手塚に尋ねた。
「なら、どうにかしてその占い外さないと!」
「運命はそう簡単に変わらないからこそ運命と呼ぶ。だが……あんたの言う通りだ。変わらないからこそ、運命は変えるべきだ。ライダーバトルの運命も俺は変える、変えてみせる」
手塚の口調は相変わらず冷めたままだ。
けれど、彼の表情は信じるに値する真剣さを帯びている。
「占いはまだイマイチ信じられません……でも手塚さんは信じたい。あなたがライダーバトルを止めたいと言うのなら」
──否、理屈は抜きにしても信じたいと大地は思ったのだ。
この世界で初めて出会えたライダーらしいライダーを。
そんな大地の想いなど手塚には知るよしもないが、彼もまた大地を信じようと思った。
互いに共鳴した想いが再び、それも今度は強く二人の手を握り合わせた。
*
大地と手塚は揃って再び渦中となっている病院へ向かった。
佐野が負傷してしまったため、彼は瑠美と一緒に写真館に待機だ。
相変わらず人の多い院内で比較的空いている場所を見つけ、現時点で二人が持っている情報を照らし合わせる。
「今回の事件は俺も以前から調査を重ねていてな。速やかに解決ができればきっと秋山も……」
「さっきもそうでしたけど、秋山さんはどうしてああなってるんですか? なんかこう……すごい焦ってる風で、らしくないというか」
蓮とまともに会話を交わしたのはあれで二度目になるが、花鶏の時とは別人だった。
あそこまで豹変するに至ったのは理由があるに違いないと大地は考えていた。
「らしくない、か……。あれも立派な秋山さ。むしろあそこまで情熱的になれなきゃライダーにはなってない。だが、今回はそれが致命的なんだ。奴は冷静さを失い、病院に近づくライダーを手当たり次第に倒そうとしている」
「そんなこと続けてたら確かに破滅するかも……。でも何が秋山さんをそこまで駆り立てるんですか? この前はもっと余裕がありそうだったのに」
「……奴の願いに関することは俺の口からは言えない。だがこの件の解決が奴を破滅から救うことになるのは間違いないはずなんだ。一緒に犯人のライダーを見つけ出してくれ」
その手塚の言葉に大地はおや、と気になった。
彼は犯人がライダーだと断定したのだ。野良モンスターの線だってあるにも関わらず。
もしや彼も浅倉──仮面ライダー王蛇が犯人だと考えているのだろうか。
手塚はそんな風に不思議に思った大地の表情を読み解いた。
「神崎 士郎。奴が事件のことを俺に知らせてきたんだ。この病院にいるとあるライダーが犯人だ、と言ってな。多分秋山や他のライダーにも同じことを言って回ってる」
「なるほど。じゃあやっぱり浅倉が?」
「それはどうだろうな。浅倉が第一候補には相違ないが、これだけライダーが密集してるなら他の奴が犯人の可能性だって十分あり得る。秋山が手当たり次第に勝負を仕掛けているのもそれが理由だ」
犯行現場は病院内。可能性のある被疑者は13人のライダー。
そしてそれだけのライダーがこの場に集結している。
互いが敵同士であるこのライダーバトル、漁夫の利を狙う者だっているだろう。
穏便に事が済むとはとても思えない。
「今はまだ静かなものだが、恐らくライダー達はこの機に他のライダーを蹴落とそうと狙っている。そんな緊張状態がいつまでも続くわけがない。何かの拍子で大規模なバトルに発展してしまう」
ここまで言われると大地にも手塚が危惧しているところが見えてきた。
ライダーがひしめき合っているこの病院で無差別に戦いを仕掛けているナイトの行動は非常に不味いのだ。
「さしずめこの病院はライダーの火薬庫。秋山さんがその導火線に火をつけてしまうかもしれない……ってことですか」
「ユニークな表現だな」
するべき話も済み、いよいよ動き出そうという時になって手塚は提案をしてきた。
曰く、「これだけ広い院内なら手分けした方が都合が良い」とのこと。
それには大地も一理あった。
手塚は入院患者を見張ると言って上階へ向かい、大地は来客が多いロビーを中心に見回ることになった。
時間もそれなりに経過したが、院内にはまだまだ人は多い。
その一人一人をじっくりと見回して、さながら不審者と化していた大地。
その肩を後ろからガッチリ掴まれた。
「君、ちょっと話を……って大地くん。無事だったんですね、良かった!」
「須藤さん!」
肩を掴んだのは先ほど知り合ったシザース、須藤だった。
さっきの戦闘で離れ離れになってからそれっきりだったので、安否を確かめられたことを大地は素直に喜ぶ。
須藤も顔を綻ばせたが、すぐに顔を引き締め直した。
「大地くん、君にも話しておきましょう。新たなライダー、アマンダのことを」
「このタイミングで話すってことは、まさか事件に関係してる?」
「ええ……その正体は大和 奏。この病院の副院長です」
「────え?」
須藤の話す内容はその一部始終が大地を震撼させた。
複数の蜂型モンスターを従えるアマンダはシアゴースト達を蹴散らし、シザースとゾルダに警告を残した。
『私の領土に手を出すな』と。
アマンダは自分の正体を明かした後、そのまま立ち去ったという。
正体を明かしたのは自信の表れである、と須藤は推察した。
「大和副院長はここを『私の領土』と言っていた。私はその言葉をモンスターの餌場として解釈しました。複数のモンスターを養うにはこの病院は彼にとって都合が良いのでしょうね」
「……いや、それはちょっと飛躍し過ぎなんじゃないですか? 単に自分の職場を守りたかっただけかも」
浮かび上がった犯人と思わしき相手を庇うような発言に須藤は片眉を吊り上げた。
彼からすれば大地は自分の意見に賛同して当然のものと考えていたのかもしれない。
だが、大地にはどうしてもあの奏が自身の患者を生贄にするほどの残酷な人物とは思えなかったのだ。
何か一つでも間違えれば戦いに発展し、取り返しのつかない事態になる。それだけは避けたかった。
「大地くん、君はライダーという者がわかっていない。ですが君の若さでは無理もないことだ。ここは私に任せてください」
「……でも」
「ではこれで失礼します。また会いましょう」
足早に去る須藤。
彼は浅倉よりも奏が犯人だと考えている……というよりもすでに決めつけているようにも見えるが、やはりそれは同じライダーだからなのか。
ライダーの固有名詞は同じなのに、つくづく理解の及ばない世界に来てしまったとは思う。
それでも大地は奏の父親としての姿を信じることにした。
「あ! またお兄ちゃんだ!」
そして噂をすればなんとやら。
大地に声をかけてきたのは、嬉しそうに駆け寄ってきた昴だった。
ぼすん、と足に仕掛けてきた柔らかいアタックにどう反応すればいいのか大地は戸惑う。
先と変わらない眩しいくらいの満天の笑顔は大地を歓迎していた。
「お兄ちゃんはさっきとあわせて二回目のごらーいんだからお父さんのおとくいさまなんだよ」
「ごらー……? ああ、ご来院ね。昴くんは何してるの?」
「さいきん、お父さんは大変そうだからお手伝いなの。ゴミを拾ったり……えーと、えーと……いっぱいやってるよ!」
全体的にどんよりと湿った空気が流れる中でこの少年の周囲だけは澄んでいるようだった。
もしも彼が事件に巻き込まれるようなことがあれば、それは嫌だなと大地は思ってしまった。
*
同時刻、病院。
とある入院患者が眠り続ける一室に吹き抜けたそよ風が蓮の頰をくすぐった。
ふんわりと捲られたカーテン越しに侵入してくる雑多な騒音はマスコミのものだろう。
蓮は彼女の静かな眠りに相応しくない騒音をシャットアウトするために窓に手をかけ、そこでふと手を止めた。
これだけ騒々しい音なら彼女も起きるかもしれない。
そして目を細めてから、鬱陶しそうに蓮に文句を言うのだ。閉めるのはそうなってからでもいい。
「────恵里」
しかし、それは全て蓮の悲しい幻想でしかない。
彼女──小川 恵里はその程度の外的要因では目を覚まさない。
意識不明で眠り続ける恵里を救うには現代の医療では不可能と言われている。
蓮が再び恋人と言葉を交わすならば、それこそ奇跡にも等しいことを起こさない限りは無理なのだ。
「恵里」
無駄と知りつつも彼女の手を握って祈らずにはいられない。蓮の命の鼓動を、温もりを受け渡すように。
本当に血が通っているのかと疑いたくなる白さと彼女が嫌う乾燥が混ざった恵里の手に、ゴツゴツとした自身の手は酷く不釣り合いに映る。
もし彼女が今目を覚ませば付着している血に仰天して、また眠ってしまうかもしれない。
看護師志望のくせして変な奴だと笑ったのはいつのことだったか。
「そうやってずっとセンチメンタルに浸っててくれるなら俺も苦労しないんだがな」
「……出て行け」
病室のドアに背を預けて腕組みしている男に振り返りもせず、蓮は拒絶の言葉を吐き捨てた。
この手塚はいつも付きまとって訳のわからない事を言っては蓮の心を見透かそうとしてくるいけ好かないタイプだ。
その上ライダーのくせにライダーバトルを否定して止めようとしている。今回の事件だってあの大地あたりとつるんで奔走しているのだろう。
「改めて言っておく。今回の件は俺に任せて、お前はここで彼女を守れ。このままじゃ他のライダーに潰されるとお前もわかっているはずだ」
現在この病院内には多くのライダーが漁夫の利を狙い、舌舐めずりして闊歩している。即席の徒党を組んでいる者だっているだろう。
そんな状況下で誰も彼も噛み付く狂犬がいれば真っ先に美味しい獲物として狙われやすい。
だが、それがなんだというのだ。
この病院に近付いたライダーは全員犯人の可能性がある────即ち全員倒す。蓮が取るべき行動はそれしかない。
犯人のライダーが何を考えているのかなど知ったことではないが、眠ったままの恵里がモンスターに襲われればどうなるかは嫌でもわかる。
「お前の手は借りんと何度言わせれば気が済むんだ? なんならお前から倒してもいいんだぞ?」
蓮がカードデッキを取り出しても手塚は顔色一つ変えようとしない。
こいつはいつもそうだ、どんな状況でも冷静に対処しようとする。脅しに等しい行為をされても、だ。それがまた蓮を苛立たせる。
「確かにお前も考えているように今回の犯人はライダーの誰かの可能性が高い。だが、さっきのように目に付くライダー全員を倒そうとするのは極端過ぎる。そんなやり方で上手くいくと本気で思っているつもりか?」
「どのみち全員倒すことに変わりはない。先にやるか、後にやるか、それだけのことだ。わかったらとっとと失せろ!」
ここで手塚を倒さないのは、明らかに犯人ではないから、蓮の他に恵里や優衣を守れる唯一のライダーだからだ。
蓮は誰に言うでもなく、心の中でそう繰り返す。
「お前ってやつは……! お前がそうやって戦えば戦うほど神崎士郎の思う壺なんだぞ! お前だけじゃない、最終的には全てのライダーに破滅が待っている!」
「上等だ。それで恵里が救われるなら……破滅でもなんでも受けて立ってやる」
この問答は無意味だ。
ライダーになったあの日から蓮はどんな犠牲も厭わないと決めた。
むしろ自分の命で恵里を救えるなら安いものとすら思っている。
手塚は恵里を諦めろと言い、蓮はそれを絶対に聞き入れない。
病室で睨み合う二人。それを打ち破ったのは鏡の警告だった。
「またモンスター!? 一体どうなってるんだこの病院は!」
いくらなんでも異常過ぎる頻度だ。やはり普通ではない。
蓮はチラリとだけ恵里を一瞥し、病室を出て行こうとする。
その行く手を手塚が阻む。
「どけ」
「俺が行く。お前はここにいろ」
「言ったはずだ、お前の手は借りんと」
「秋山!」
蓮は止まらない。立ち止まっている時間など恵里には残されていないのだから。
恵里に新たな命を。その為の戦いはまだ終わっていない。
「へー。イイコト聞いちゃった」
病室のミラーワールドに隠れていた銀色のライダー、ガイに二人は気付く事はなかった。
彼の新しい玩具を見つけた子供のような喜色を含んだ呟きにも。
まだまだ続くぞナイト編。
どんどんややこしくなってまいりました。ライダーが多いと書く方も大変ですね。
次回更新は近日中ですが、短めです。この話とセットのような感じで。感想、評価はいつでもお待ちしております