仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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短いな。しかしびっくり。あとはどうにでもなれ


その男リュウガ

 

 

 巷を騒がせる病院での連続失踪事件。

 マスコミや警察関係者があちこちにいるここは景観も何もあったものでないな、と高級車の窓から溜息を吐く北岡。

 その顔はまるで()()()()()()()()()()()()()()憂鬱そうであった。

 

「それが仕事だって言ってもこんな時は不安を煽るだけ。普段から俺みたいなマスコミの人気者ならともかくとしてよ、慣れない患者にはだいぶ辛いよなあ────こんな状況で他人の心配なんて俺もどうかしてるよ」

 

 病人に同情的な目線な自分を自嘲する北岡。

 深々と腰掛けて目を瞑ったが、夢の中には行けそうにない。最近はグッスリ眠れることも少なくなった。

 一度閉じた目を開くと、こちらを見つめる秘書────由良 吾郎の気遣うような目と視線があった。

 

「令子さんのことですか」

 

「どうしてマスコミってやつは自分から危険に飛び込むんだろうね。いくら仕事でも命あってのものでしょ? 俺には理解できないよ」

 

「でも玲子さんは諦めないんですよね、先生は」

 

「そりゃそうでしょ。危険を顧みずに突撃していく玲子さんも魅力的なんだよ。────お、青だよゴローちゃん」

 

 緩やかに発進した車の揺れは北岡の眠りを妨げないようにする吾郎の心遣いが感じ取れた。

 後部座席にある、北岡の好物でいっぱいの買い物袋もそうだが、この吾郎という秘書は下手すれば本人よりも北岡のことを理解している節がある。

 

 その日その時に北岡が何を望み、何を考えているかをそれとなく察してくれる。

 それはもはや秘書というよりも親友に近い距離感ですらあったが、北岡はそれを好ましく思っていた。

 

「それにしても今日のお帰りは少し早かったですね。いつもは夜まで病院にいるのに」

 

「なんかライダーも増えて複雑になってきてね……ちょっと引いたとこから見てみるのもアリかなってさ」

 

 ここ最近は事件解決のために須藤と組んでその病院に入り浸っていた。

 北岡にしては熱心に調査して、夜遅くになることが多かった帰宅時間だったが今日は珍しく夕方だ。

 

 仮面ライダーアマンダ、大和 奏が事件のあった病院の副院長だとは確かに気になる事項ではあるものの、彼が犯人であると北岡には思えなかった。

 割と大袈裟にカマをかけてみたが、結果はシロ寄りだというのが北岡の見解だ。

 だというのに須藤は言った。

 

『彼が犯人でしょう。私が暴いてみせますよ』

 

 刑事があんな風に確固たる証拠もない段階で犯人を決めつけてかかるのは如何なものだろうか。

 やたらと意気込んで捜査に励む須藤を見ていると、言葉にし難い疑念がぼんやりと燻ってくるのだ。

 確証はないが、前のめりになっていた姿勢をここで改める必要があると北岡は判断した。

 

 ────単純に連日の戦いに疲れてしまった、というのもあるが。

 

「あー、今日はもう考え事はやめだ、やめ。もっと楽しい話をしようよゴローちゃん。例えば今日の夕飯とか、さ」

 

「今朝、先生が和食の気分だと仰っていたので天ぷらにしてみようかと。この前貰った良いワインもありますし」

 

「ワインと天ぷらって合うの? 俺にはどうにも────ゴローちゃん、ちょっと止めて」

 

 ゆったりと流れる景色の中にふと目に留まる人物がいた。

 

 モデル顔負けの美貌とスタイルを惜しげもなく披露して歩んでいるその人物────霧島 美穂。

 

 ちょうど彼女の隣に停車し、その怪訝な顔もガラス越しに「よっ」と手を挙げた北岡を認めた途端にすこぶる不愉快なものへと早変わりした。偶然親しい友人に会ったかのような軽い調子での挨拶でも、美穂に対しては逆効果もいいところだ。

 北岡、美穂共に互いの素性や正体は知っている。当然お互いに向け合う感情も良いものではない。

 北岡から美穂に向ける感情はまた複雑なものだが。

 

「こんな時間にどこへ行く気だ? そっちの方向には病院しか無いぞ」

 

「……あんたのそういう人を馬鹿にした物言い、大っ嫌いなの。とっとと消えて」

 

「釣れないねぇ。これ以上あの病院にライダーが増えても困るんだよ。わかるだろ? 俺、あんまりごちゃごちゃしたやつは好きじゃないんだよ」

 

 北岡の真意と照らし合わせれば、今の言葉は七割方真実である。

 ゾルダの能力は集団相手に真価を発揮するのだが、それはそれとして北岡の好みは少数でのすっきりした戦い。

 ただでさえ複雑に絡み合った今の状況でファムにまで乱入されるのはあまり喜ばしくない。

 それにそういった状況を抜きにしても、北岡としては美穂との戦いはできれば避けたい事情というものがある。

 

「そうはいくもんか! この事件の犯人はきっと浅倉だ……! 違ったとしても戦闘狂のあいつならきっとあそこに来てる。私があの男を倒す!」

 

 ────ほらこれだ。

 

 北岡の胸が鉛を飲み込んだように重くなる。

 

 かつて北岡は浅倉を弁護した過去があった。

 かつて美穂は浅倉に姉を殺害された過去があった。

 

 彼女は浅倉を激しく憎み、同様に北岡も憎んでいる。仕方のないことだ。

 だが、彼女がぶつけてくる憎悪を無視できるほど北岡は冷たくないし、「俺が悪かった」と謝罪できるほど素直な性格もしていない。

 

 彼女は復讐の炎を燃やし、浅倉や北岡を倒そうとするだろう。

 しかし悲しいかな、それで彼女が打倒できるほど浅倉は甘くない。精々返り討ちが関の山だ。

 そうして彼女が虚しく散る様を北岡は鼻で笑って見過ごせない。

 

 

 ここで引き留めることができたらどんなに楽だろうか。

 

 

「……ああそうかい。ま、あんなむさ苦しい病院でもあんたがいれば少しはマシになるかもな。もし気が変わったならこれに乗って帰るって手もあるけど?」

 

「悪いね、私は仕事以外じゃ男の運転する車には乗らないことにしてるの。そうでなくても、あんたと同じ車なんて死んでもごめんだから」

 

 美穂はそう吐き捨てると、病院の方角へさっさと行ってしまった。

 

「先生……」

 

「やめてよ、ゴローちゃん。俺はなんとも思ってないからさ。それより俺お腹空いちゃったよ」

 

 北岡は大袈裟に腹をさする仕草で発進を促し、美穂の方へ振り返らないようにした。

 そんな北岡の人となりを誰より理解している吾郎も「そうっすね」とアクセルを踏む。

 

 サイドミラーに映る彼女をしっかりと見つめていることには決して触れなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 一方、大地と昴は病院内の食堂に来ていた。

 

 大地は父親のことで昴から話を聞いてみたいと思い、どことなく物欲しそうな様子から自然と食堂に足が向いたのだ。

 シンプルでオーソドックスなオムライスにがっつく昴の口周りはケチャップでベタベタになっている。大地が拭おうとすると、昴は「んー」口を突き出す。いつもならこれは父親の役割なのだろう。

 

「昴くん。その……お父さんのことなんだけど」

 

「なーに?」

 

 昴は美味しそうにオムライスを頬張っている。時間が時間なだけに夕飯が入るのか不安になる。

 だが物欲しそうにサンプルを凝視するこの子を見ているとついついご馳走してしまったのだ。この無邪気な少年の笑みを絶やすのはとても罪深い気がしてならない。

 

「最近お父さんは何か変わったことないかな?」

 

「いそがしそうだよ」

 

「そうだな……鏡とか、ガラスを見てたり」

 

「おひげを剃るときに見てるよ!」

 

 近親者に話を聞くという発想は我ながら悪くないと思ったのだが、いかんせん人選に問題があったようだ。

 しかし昴を責めるわけにもいかず、苦笑いしかできない大地。

 外見年齢よりも幼く感じることはあれど、この子がライダーのことを知っているはずもない。

 

 このままオムライスをパクつく昴を眺めていようかと考えていたところで、そういえば彼の母親については何も知らないなと思い出す。

 

「昴くんのお母さんは……」

 

 大地がそこまで言いかけて、昴のスプーンがピタリと静止した。

 失言になるかもしれないと思いかけたのだが、残念ながら遅かったらしい。

 空腹が満たされていく感触に満足そうにしていた昴が瞬時に無表情となってしまった。

 

「もう、いないよ」

 

「あっ、ごめん! ごめんね」

 

「ううん、いいの。お母さんは僕のことぶってくるし、今はお父さんいるから」

 

 大地が持ち合わせている知識では、母親が子供に暴力を振るうことは稀のはずだ。

 躾の一環として起こりうることはあるかもしれない。しかし、この感情を無理矢理押さえつけたような無表情はそんな生易しいものではないと見て取れる。

 追及をしてみたい欲求はあるにはあるが、それを昴に直接聞くことがどれだけ不味いことかは大地でも流石にわかる。

 

 何か別の話題を探さねば。しかしあまり露骨過ぎても察されてしまうかもしれない。

 

 そうやって食堂を物色するようにキョロキョロとしていた大地。

 その行為そのものが不自然だと気付いた時には、昴が自身を見上げていた。

 

「うるさいもんね、ここ」

 

 そんな大地の行為を昴は別の原因と思っている。母親のことを口にした時の無表情はすでに過ぎ去り、今の昴はむず痒そうな顔だ。

 例えるなら快眠を耳元を飛ぶ蚊の羽音で邪魔されたような、そんな顔。

 

 だがピークを過ぎた食堂は実に静かなものだ。

 

 

「でもしょうがないもんね。お腹空いてるから」

 

「……?」

 

 その時の昴の顔は不愉快と納得が半々の、大地が初めて見るタイプだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ご満悦な昴を連れて食堂を出た大地。

 モンスターが徘徊する病院内で昴を一人にするのも気が引けたので、昴曰く「パトロール」に付き合うことにした。

 これを子供のお遊戯かと侮れるかと言えばそうでもなく、建物の隅々まで勝手知ったる昴に付いていくのは大地にとっても役に立った。

 内部構造の把握、入院患者や来院客の監視などなど。

 だが、施設を一つ一つ得意げに紹介する昴を見るだけでも大地にはかなり有意義な時間の過ごし方と言えた。

 

 思えばこうした子供とちゃんと向き合うのはこれが初めてだった。

 自分でも意外……とまではいかないが、結構な子供好きなのかもしれない。

 

「久本さん! お身体の具合はいかがですか!」

 

「あら昴ちゃん、今日もお父さんのお手伝い? 良い子だねぇ」

 

「天野さん! 食べすぎはだめ!」

 

「何故俺の隠しポテチを……!?」

 

「高木さん! おつかれさまです!」

 

「ふふ、昴くんもお疲れ様」

 

 そして新たに判明したことだが、昴はこの病院のちょっとしたアイドル扱いを受けていることだ。

 入院患者、看護師、医者、誰もが昴に挨拶されると朗らかな顔を見せる。

 人から好かれやすい体質というものがあるなら、まさしく昴のような子にあるものに違いない。

 

 そうして昴に暖かな視線を向けている大地は少々不審に映ったのか。

 通りすがりの看護師が話しかけてきた。

 

「あら、君は昴くんのお友達?」

 

「友達……え、ええ」

 

 友達というワードに未だ気恥ずかしさと嬉しさを感じてしまう大地の顔が少し赤くなる。

 初々し過ぎる反応がおかしかったのか、看護師はクスリと笑った。

 

「気を悪くしたらごめんなさい。あの子は誰でもすぐに仲良くなっちゃうから」

 

「でしょうね……。昴くん、事件のせいでお父さんが忙しいからこんなに頑張ってるんですよね」

 

「いいえ。それがお父さんのお手伝いをするんだー、っていつもこんな感じなんですよ。最初は職場に子供を連れてきた大和先生を非常識だって言う声もあったんですけど、今じゃすっかりみんなの人気者で。事件で不安になってる患者さんの精神ケアにも一役買ってますからねえ」

 

 確かに、とその言葉に頷かざるを得ない。

 病院内で次々と起こる謎の失踪事件を一番不安に感じているのは患者である彼らなのだ。

 完全に打ち消すことはできずとも、昴の存在が救いになってる人は多いはず。現にライダー同士の抗争で気疲れしていた大地もだいぶ助けられているのだ。

 

 しかし、誰もがそれを快く思うとは限らない。

 腕に包帯を巻いて、昴を睨んでいる年配の男性なんかが良い例だ。

 

「ふん! この病院は餓鬼がお医者さんごっこをする遊び場なのか? なるほど、こりゃ失踪事件を防げねえわけだ!」

 

「おい、こんな子供にそんなこと言ってもしょうがないだろ」

 

「うるせえ! 俺はな、みんなが思ってることを代弁してやってるだけなんだよ」

 

 不安になればなるほど負の感情も増す。

 周囲の声に貸す耳なく喚く男性に昴の表情が曇り、悲しみの色が浮かぶ。

 流石に見ていられず一歩乗り出した大地だったが、その前に昴が喚く男性に手を差し出した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……これあげるから嫌いにならないでください」

 

 昴の手にあるのは、一粒の飴玉。

 渡されたお菓子と半泣きの昴を交互に見て男性もばつが悪そうに謝罪する。

 無邪気な子供が転じて泣き顔となって喜ぶ者などそうはいない。

 

「……いや、悪いな坊主」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「……昴くん、向こうに行こっか」

 

 男性が不安に思う気持ちは大いに理解できるが、昴に非は一つもない。

 だが、大地は昴の気持ちも汲んだ上で小さい手を引いてその場から連れ出すことにした。

 あからさまに落ち込んで沈んでしまった昴は見ているこちらも胸が痛む。

 

 大地は病院を出て、未だに昴の目からポロポロ零している雫をハンカチで拭う。

 こういった経験に乏しい故に昴の涙を止める方法を台地は知らない。

 だから優しく拭って、優しく頭を撫でる。それ以上のことはできない。

 

 その間も昴は壊れたレコーダーのように同じフレーズを繰り返していた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 少し舌足らずなところがある昴だが、何度も何度も繰り返されるその言葉だけは奇妙に聞こえるほど流暢で、大地の不安を煽る。

「ごめんなさい」だけを言い慣れてしまっている少年。それが何を意味するのかを大地はまだ知らない。

 ただ痛々しさすら感じさせる姿をこれ以上見ないように、そしてその言葉を止めるために昴を抱きしめていた。

 

 強く、優しく。

 

「大丈夫だよ。昴くんは良い子だよ。たとえ誰が何を言おうと、僕はそれをわかってる。ここにいる皆もそう。それでも昴くんをいじめる人がいたら僕が守る」

 

 頭を撫でて、背中をさすって、できることは全部して。

 耳元でぶつぶつ繰り返されていた「ごめんなさい」は鳴りやんだ。

 

 安堵の息をつく大地。

 

 

「……ほんと? ぼく、お父さんに捨てられない?」

 

「──捨て、る? お父さんが、昴くんを?」

 

 

 しかし、昴が言ったその一言に心を大きく揺さぶられる。

 向き合った瞳には若干の濁り──恐怖が垣間見えた。

 その言葉の意味を問いただそうとした大地の視界に何か動くものが入り込んだ。

 

 カーブミラー。歪んだ鏡面。這い出てくるヤゴのモンスター。

 

「ッ危ない!」

 

 迂闊だった。モンスターの気配を察知できないことをもっと深刻に考えるべきだったのだ。

 大地はそうやって悔やみながら昴を庇い、その結果自身の首に糸が巻き付いた。

 獲物を引きずり込もうとするシアゴーストの力は凄まじく、首がねじ切れるのではないかというほどだ。

 呼吸を阻害されて次第に朦朧としていく意識の中で大地は辛うじてポーチを開く。

 

「ガブリッ! よし嚙み切ったぞ!」

 

「ゲホッ! ゲホッ! レ、レイキバットさん、変身を!」

 

 顔面コウモリに目を丸くしている昴を守るべく、咳き込みながらもレイキバットを掴む大地。

 

 

 

 いざ変身しようとしたその時、大地は確かにその耳に捉えた。

 

「変身!」

 

 ドラゴンの雄叫びを。

 

 

 そして目の前で噴き上がった青い炎がカーブミラー越しにシアゴーストを焼いた。

 突然のことにぎょっとした次の瞬間、躍り出た影が大地達を守るようにして立っていた。

 黒いスーツ、ドラゴンを連想させる意匠のこのライダーがシアゴーストを焼いた青い炎の主なのは明らかだった。

 

 そのドラゴンのライダーを見て、大地にはピンとくるものがある。

 

 

「あなたが……仮面ライダーリュウガ……!」

 

 

「そうだ、俺はリュウガ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈(ばんじょう) 龍我(りゅうが)だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん?」

 

 思っていたのと何か違うな。

 そんな感想を他所にその戦士────仮面ライダークローズはモンスターがひしめくミラーワールドへと突入した。

 

 

 





その時、不思議なことが起こった?

次回は10月中で。
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