仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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迷い龍

 

 

 大地一行がナイトの世界に訪れる半月前。

 

 とあるダムの地下研究施設。

 科学者、最上魁星の手によって秘密裏に作り上げられたこの研究施設には彼の偉業を象徴するマシンがあった。

 

 平行世界移動装置────通称「エニグマ」

 

 この装置を使って最上は平行世界へと渡り、彼の大いなる計画を実行する筈だったが……。

 

 

 人の手を模した形のエニグマ、その小指に該当する部分に蒼炎の塊が直撃する。

 炎上した部品を撒き散らし、装置の至る箇所に伝播していく爆発。その中からフラフラと立ち上がったのは青いサイボーグのような怪人。

 

「私のエニグマが……!? 貴様ら、なんということを!」

 

 自身の生涯をかけた至高の発明品が無残にも崩壊していく様にわなわなと震える青いサイボーグ怪人。

 最上 魁星が変身しているその「カイザー」という怪人は自身の野望を妨げてくれた憎き二人を睨みつけた。

 

「へっ、これでお前の計画もおしまいだな! 観念しやがれ、最上 魁星!」

 

 掌に拳を打ち合わせた青い戦士────仮面ライダークローズ。

 

「エニグマを起動させる前に破壊する────これが俺の勝利の法則だ」

 

 ドリル型の剣を担ぎ、「ビシィッ!」という擬音が聴こえてきそうな指差しポーズを決めるトレンチコートの男────桐生 戦兎。

 

「……なあ、それを言うなら俺達の、だろ?」

 

「なーに言ってんだよ。最上の計画を突き止めたのも、この場所を探し当てたのも、カイザーシステム用の戦術を練ったのも全部この俺でしょうが! お前はただ暴れてただけ〜」

 

「はぁ!? ハザードレベル足りなくて変身できないお前がどーやってあいつをぶっ倒せるんだよ! 一番のMACは俺だろ!」

 

「それを言うならMVPだろ! あーあー、全くこれからフィニッシュって時なのに、筋肉馬鹿と一緒じゃ格好がつかねえなー」

 

「んだと! せめて筋肉つけろ筋肉……あれ、ついてるじゃん」

 

 盛大に爆発炎上する装置や満身創痍のカイザーが目の前にいようと御構いなしに喧嘩を始める二人。

 この二人、決して仲が悪い訳ではなく、この状況で互いに言い合えるのはむしろ相手への信頼感によるものである。

 だが、そのコントに等しいやりとりがカイザーの逆鱗に触れた。

 

「ふざけるなァァッ!」

 

 激昂し、叫んで突撃するカイザー。

 ただ突っ込んでくるだけで戦術も何もあったものではない。迎撃は容易に過ぎた。

 

「お、ほら前向け! 決めるぞ万丈!」

 

「おう!」

 

 二人は一気に戦闘モードへと雰囲気を一変させ、示し合わせたかのようにフィニッシュの準備を行う。

 戦兎はドリル型の剣を銃へと組み替え、突っ込んでくるカイザーを正確無比な射撃で怯ませる。

 それで稼げた時間はほんの僅かではあったものの、クローズにとっては充分だ。

 

 Ready Go! 

 

 自身の変身ベルト──ビルドドライバーのレバーを荒々しく回し、極限まで引き上げた蒼炎のエネルギーは青いドラゴン「クローズドラゴン・ブレイズ」を具現化させる。

 天に轟くドラゴンの雄叫びとその口から溢れる爆熱の炎。

 その両方が跳躍したクローズを乗せて、凄まじい勢いでカイザーへと突撃させた。

 

 ドラゴニックフィニッシュ! 

 

「うおりゃあああーッッ!!」

 

「うぐああああっ!?」

 

 必殺爆熱キック、ドラゴニックフィニッシュの壮絶な威力にカイザーはなすすべもなく吹っ飛ばされ、その身体はエニグマの中心にまでめり込んだ。

 彼を燃やす蒼炎は消える気配を見せず、それどころかエニグマにまで燃え広がっていく。

 

「馬鹿な……私のカイザーシステムが、ライダーシステムなどという玩具に……ありえない!」

 

「俺にはどっちのシステムが凄えのかよくわかんねえけどよ。実際こうなったんだから、こいつの『誰かの明日を守る』って想いを背負った俺の方が強いんだろ」

 

「認めん……認めんぞ……ぐっ……」

 

 カイザーはガクリ、と糸が切れた人形のように力尽きた。

 まだ息はあるようだが、もう碌な抵抗はできそうにない。

 誰がどう見ても文句なしの勝利だ。クローズは両手を挙げて「よっしゃー!」と叫んだ。

 

「見たか俺の超最強キック! やっぱ主役は俺だな!」

 

「お前が変身するための『クローズドラゴン』っていうアイテムを使ったのが誰なのか、そのちっぽけな記憶力でよーーーーーく思い出してごらん? さて、後は最上の奴を東都政府に引き渡して終わりだな」

 

 戦兎は呆れたようにして、余韻に浸るクローズの尻を容赦なく足蹴りにする。

 これは「さっさとあいつを引っ張り出して連れて来い」の合図である。

 

「えー、ほっときゃいいだろ。あんな奴」

 

「それで死なれたらどうすんだよ! ほら、行った行った」

 

 クローズは面倒くさそうにしながらも、しっかりカイザーの回収に向かう。なんだかんだ言いつつも相手が死んでしまえばいいとは思っていない。

 そしてカイザーのところまでひとっ飛びして引っ張り出そうとしたクローズの腕を突然カイザーが掴む。

 まだこんな力が残っていたことにクローズは驚いていたが、全身から火花を散らしているカイザーにこれ以上の戦闘続行は不可能だ。ならば彼は何をしようというのか? 

 

「まだだ! まだ私は終わっていない!」

 

「うおっ!?」

 

「エニグマ! 私を……私を平行世界へ!」

 

 エニグマは未だ未完成である。

 しかし、主の願いが通じたのか定かではないが、エニグマは確かに起動しようとしていた。

 クローズの攻撃であらゆる箇所が破損した装置は無理な稼働によってその崩壊が早まり、今にも爆発しそうだ。

 

「な、なんだなんだ!? てめえ何しようってんだ!?」

 

「エニグマァァァァ!!」

 

 だが現実は無情であった。

 不完全な状態で起動したエニグマから溢れ出したエネルギーの奔流がめり込んでいたカイザーにまで流れ、絶叫の後に爆発四散する。

 

 その余波に吹っ飛んだクローズが最後に見たのは崩壊していくエニグマが生み出した時空の穴と、こちらに手を伸ばして叫ぶ相棒の姿だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 俺はプロテインの貴公子、万丈 龍我! 

 

 記憶喪失で自称天才物理学者の怪しいおっさんに託されたベルトとボトルで超最強! マジ強え! な仮面ライダークローズに変身して冤罪を晴らすために東都の街でスマッシュと戦っていた。

 

 そんでいつもみたいに美空からスマッシュの情報聞いて行ったら、最上魁星とかいう変な青い機械野郎と戦う羽目になった。

 

 そっからドカーン! ってなって、やべえ! って俺がズバーン! ってキックしたらズドーンってぶっ潰せた! だけどエ……エ……エゾシカ? って装置がぶっ壊れて気付いたら……スカイウォールの無い世界に来ちまってた。こういうのって確か……そう! パラソルワールドだ! 俺パラソルワールドに来ちまったんだよ! 

 

 そんでどうしよう! ここどこ!? 帰れねえ!! ってなってたとこを城戸さんに拾われて、今はOREジャーナルの新人記者としてなんとかやってけてる。

 なんか鏡の中にいるスマッシュもどきとか、変な仮面ライダーとも戦ってるぜ! おう! 

 

 

 

「〜とまあ、わかりやすく話すとこういう訳だ」

 

 

「全然よくわからないです……」

 

「大変だったんですね……」

 

「説明ヘッタクソだな」

 

「お前、あの電王の赤鬼と同じタイプ(馬鹿)か……」

 

「エゾシカじゃなくてエニグマだろ、それ」

 

「首領、もしかしてこの人馬鹿なんですか?」

 

 

 あらすじみたくノリノリで説明されても、わからないものはわからないのだ。

 

 

「せめて筋肉をつけろ筋肉を!」

 

 沸かしたやかんのように顔を赤くしてもわからないものはわからない。

 というか怒るポイントすらよくわからない。

 

 ちゅー。

 ジュースをストローで啜って面々が見守る、青いスカジャンを着た茶髪の男は万丈 龍我、仮面ライダークローズ。

 本来この世界に存在する筈のないこのライダーが何故。そう思い写真館に招いたのだが、彼の要領を得ない説明は余計に困惑を深める結果に終わった。

 

 

 視線を集める万丈がまさにそう見えるからか、まるで猿の見世物だな〜、なんてかなり失礼な感想をガイドが漏らした。

 

「もっと具体的に、かつ詳細に頼みたいんだが。勿論全部だぞ」

 

「しゃーねーな。

 

 ……俺が産まれたのは横浜の産婦人科だった。3203gの元気な赤ん坊で」

 

「お前の出生なんざ聞いてねーよ!」

 

 レイキバットのもっともなツッコミに一同もうんうんと頷く。

 この万丈 龍我、基本的に悪い人物ではないようだが、先の説明からもわかる通り理知的でもない。

 

「端的に言えば馬鹿」

 

「駄目だよネガタロス!」

 

 だからと言ってそんなど直球で悪口を言えばまた怒らせてしまうのは目に見えている。というか初対面の相手に馬鹿馬鹿言われたら誰だって怒る。大地だって怒る。

 

 予想通りの惨状になった場を宥めすかすこと数十分。

 

 龍我、レイキバット、ネガタロスによる三つ巴の口喧嘩は束の間の終戦を迎え、大地は額に流れる汗を拭きながら改めて龍我に尋ねた。

 

「つまりですよ。万丈さんはこことは違う世界の仮面ライダーで、なんらかのキッカケがあってこの世界にやって来てしまった、と。そこまではわかったんですけど、どうしてミラーワールドに入れるんですか?」

 

「ああ、城戸さんの取材に付いていった時にコレ拾ってな。それからなんか頭ん中にキンキン響くようになって、鏡の中にも入れるようになった」

 

 龍我が取り出した「コレ」はナイト達が使う黒いカードデッキに酷似しているものだった。彼らの物と唯一異なるのは紋章が描かれておらず、無地であるという点ぐらいか。

 こういう知識面で頼りになるのはやはり佐野である。

 

「それデッキですよ。まだモンスターとは契約してないブランクですけど、それがあれば一応ミラーワールドには行けるみたいです!」

 

「契約ぅ? どうやってやるんだよ」

 

「中に入ってるでしょ、契約のカード」

 

 言われてブランクデッキから数枚のカードを抜く龍我。

 見るからに貧弱な剣のカード。レイキバットでも叩き壊せそうな盾のカード。

 そしてそれらとは異なる意匠の「CONTRACT」のカード。

 

「こ、こんたー……?」

 

「コントラクト。契約って意味ですね」

 

「お前の世界って義務教育あんのか?」

 

「お……おお……?」

 

 ネガタロスの皮肉すらよくわかっていない龍我は頭のてっぺんに疑問符を浮かべた状態でとりあえず頷いている。

 ……実は大地もコントラクトの意味がわかっていなかったのは黙っておいた。なんなら義務教育とやらもよくわかっていない。

 

「ガイドさん、万丈さんを元の世界に帰す方法はやっぱり……」

 

「うん、俺達と一緒に『クローズの世界』まで行くしかないな。ネガタロスや瑠美ちゃんと同じビジターなら、帰る手段はそれ以外ない」

 

 結局詳しい経緯は有耶無耶になったまま、龍我は瑠美と同じく自分の世界からつまみ出された人間という認識となった。

 残りのブランクカードを照らし合わせても「クローズの世界」にはいずれ行くことになっているはず。ならこの旅に同行することが彼にとっても最良の方法だろう。

 

「なんかよくわかんねえけどよ、お前らと一緒にいれば元いた世界に戻れるんだろ? だったら話は早え、これからよろしく頼むぜ……あとカップ麺ねえか? 腹減っちゃって」

 

「よ、よろしくお願いします……?」

 

 しかし瑠美もそうだったが、突然異世界に放り込まれてもこんな気楽そうにできるのは羨ましい。

 大地はそう思いながら、カップ麺に目を輝かせる龍我を見つめていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 腹を満たした龍我はすやすやと眠りにつき、残る面々も就寝準備に入ろうとした頃。

 帰宅しようとした佐野の一声で眠気は一気に吹っ飛んだ。

 

「あ、モンスター出ました」

 

 まさかと思い、揃って撃退に出たダークディケイドとインペラー。

 二人が目撃したのはあの透明のモンスター、バイオグリーザであった。

 執念深いというか、それとも食い意地が張っているというべきか、このモンスターは未だに瑠美を狙っているようだ。

 

 KAMEN RIDE ETERNAL

 

 瑠美を狙っているモンスターをいつまでも放置してはおけない。

 今回こそは必ず仕留めるという意気込み故にチョイスしたライダーはエターナル。

 バイオグリーザの隠れた姿を暴き出すカードをDDエターナルはドライバーに叩き込んだ。

 

 ATTACK RIDE LUNA

 

 幻想の記憶がDDエターナルに宿り、その力はエターナルエッジへと流れる。

 刃の煌めきは次第に増していき、ついには目を焼き潰さんばかりの激しい光を放った。

 

 降り注ぐ月光が放つ神秘の前ではいかなる小細工も通用しない。

 全身から煙を上げて姿を見せたバイオグリーザもまた例外では無かった。

 相手が苦しみ悶えているその隙にインペラーはカードを抜いていた。

 

「佐野さん!」

 

「了解っす!」

 

 FINAL VENT

 

 発動するドライブディバイダー。狙いは勿論バイオグリーザだ。

 ゼール軍団の猛攻がバイオグリーザの身体を削り取り、残すはインペラーの膝蹴りを決めるだけ。

 さらに念には念を入れ、その右脚に青いフレアを燃やすDDエターナルのキックまでもが繰り出されていた。

 

 しかし、死を目前にして足掻かない動物などいない。それはミラーモンスターとて同じこと。

 

 ゼール軍団の波状攻撃が途切れ、インペラーの膝蹴りとエターナルのキックが炸裂するまでにできたほんの一瞬の間をバイオグリーザは見出した。

 退避と透明化を死に物狂いで同時に行い、それによってダブルライダーは標的を見失ってしまう。バイオグリーザはその顎に炸裂するはずだったダブルキックの回避に見事に成功したのだ。

 

「嘘でしょぉ!? 俺のファイナルベント避けるなんて、あのモンスターどんだけ強いの!?」

 

「佐野さん、モンスターは!?」

 

「……あー、駄目っす。気配も消えたし、また逃げられちゃいました」

 

 ガクン、と首を下に折るDDエターナル。

 二人がかりで、なおかつ切り札と言っても過言ではないライダーを切ったのにこのザマとは失笑モノでしかない。

 大地は気楽そうに肩を叩いてくるインペラーと共にミラーワールドから出て変身を解いた。

 

「まーまー、そんな深刻な顔しないでくださいよぉ。先輩と俺の無敵コンビなら楽勝ですって!」

 

 既に佐野には大地とネガタロスの関係をある程度掻い摘んで話しており、器用にも「先輩」「首領」の呼び名を使い分けている。

 しかし、遜った態度で接してくるのはどっちでも変わらないようで、その対応が新鮮に感じると同時に謎の疲労感まで蓄積してくる。

 そもそも肝心の護衛役である佐野がこんな調子なのだから心配になっているのだが、そこら辺の心情までは察してくれなかったらしい。

 

 ぶらぶらと帰路についた佐野の背中がどことなく嫌な光景に見えてしまう。

 

 ──だからだろうか。

 

「佐野さんは────気楽そうでいいですよね」

 

 言ってはならないとわかっている言葉。それを頭では理解しているというのに、ついその内心を吐き出してしまった。

 俯き加減にそう言って、はっと気付いた時にはこちらを驚いたように振り返る佐野がいた。

 

 大地は慌てて謝罪の言葉を述べようとしたが、それよりも先に佐野が謝ってきてしまった。

 

「あー……すいません先輩。俺割と態度に出るタイプなんで、気に障ったなら謝ります」

 

「え……」

 

 棘のある大地の物言いに驚きこそすれ、佐野はそれを当然だと受け取ったのだ。

 そうなると大地も謝罪の言葉を飲み込まざるをえない。

 

「先輩と、それから首領との契約のおかげで俺の願いはもう叶ったようなモンですから。いい生活をしたいと思ってライダーになったはいいけど、他のライダーを殺すのはちょぉーっと気が引けてたんですよ。それが今じゃ先輩達と一緒に正義の味方やれてるなんて、気も楽になっちゃいますって」

 

 佐野がライダーになったキッカケとなる願いは「いい暮らしがしたい」というもの。ネガタロスから高額の報酬を受け取り、部下である限りはそれが持続して支給されるので確かにその願いは叶ったと言える。

 他のライダーよりも常識的な感覚である佐野には殺し合いの渦中に身を投げ出すよりも、今こうして正義の味方をやれてる方が断然マシなのだ。

 

 その言葉を紡ぐ佐野の顔は本当に晴れやかで、デタラメを言っているようにはとても見えない。

 

「だから俺、これでも先輩達には結構感謝してるんすよ? できればこれからも末永く雇ってくれたらありがたいかなぁ〜……なんて」

 

 彼の根底にあるのは結局金だ。それは変わらないし、隠そうともしていない。

 

 だが、大地は彼が極悪人とは思えない。良くも悪くも普通の感覚を持った人なのだ。

 そんなライダーが大地達のおかげで人を殺めずに済んだ。

 

「……ええ、佐野さんさえよければ。これからも一緒に戦ってもらえますか?」

 

「へへっ、任せといてくださいよ!」

 

 その笑顔に乗った軽さも気にならなくなった。

 

 

 

 *

 

 

 なし崩し的に光写真館で一夜を明かした龍我。

 翌朝になって写真館に響き渡ったのは盛大に寝坊してしまった彼の悲鳴だった。

 

「俺取材あるじゃん!! やべぇ! 編集長に怒鳴られる!」

 

 呼び止めようとする大地達に脇目も振らず飛び出した龍我は変わったデザインのスマホを取り出すと、黄色のボトル──ライオンフルボトルをセットした。

 

 ビルドチェンジ! 

 

 桐生 戦兎が開発したスマホ型アイテムであるビルドフォンは通常のスマートフォン機能の他、クローズが使用するフルボトルをセットすることでマシンビルダーという高性能バイクに変形する機能まで兼ね備えている。

 この世界は未だ2002年である故にバイク以外の役割は腐ってしまっているが、それでも今の龍我には欠かせないものだ。

 

 取材先であり、連続失踪事件の現場でもある病院に向かう道すがら、マシンビルダーに乗った龍我の後を小さな物体が追いかけてきた。

 

「待て待てーィ! 俺たちも同行させろ!」

 

「うぉ!? 喋る蝙蝠!?」

 

「レイキバットだ! 昨日挨拶しただろ!」

 

 バイクと並走して羽ばたくレイキバットは小さな袋もぶら下げており、その中からこれまた小さな目玉がひょっこり顔を出している。

 

「それとお前は……確かネガタロスか。なんで俺に付いてくんだよ」

 

「ククク……なに、俺様達はこれから仲間になるんだろう? だったら助け合うのは当然のことだ。俺様の頭脳でサポートしてやろうと思ってな」

 

「わりーけどよ、俺の頭脳担当はもういるんだよ。根暗で恩着せがましい記憶喪失の怪しいおっさんだけど」

 

「なら万丈の世界に帰ってそいつに再会するためにも、尚更協力しないとなぁ。それぐらいのことならお前にも理解できてると思っていたが……」

 

 ネガタロスの言うことはもっともであるとは思うが、それでも龍我はあまり気乗りがしなかった。

 あれよあれよという間に彼らの旅に同行することになってはいるものの、イコール彼らを信用することにはならない。

 

 元の世界にいた時から龍我は騙されることがやたらと多かった。

 冤罪を吹っかけられ、「ファウスト」とかいう組織に人体実験され、挙句の果てには恋人を殺されてしまった。

 今でこそそこそこ改善されたが、数ヶ月前の龍我は狂犬と呼ばれるほどあちこちに噛み付いていたのだ。見るからに大人しくて人の良さそうな大地、瑠美はまあいいとしても、悪人のオーラがバリバリ出ている目玉を無条件で信用できる方がどうかしている。

 

「この目玉オバケが信用ならんのは俺も同感だ。だが瑠美を狙うモンスターが未だ生きている以上、この世界に長居をしていられないのも確かだ。俺達の目的は一致してるんだよ」

 

「ん……仕方ねえ」

 

 蝙蝠にもあまりいい思い出はないが、ひとまず手を組むしかなさそうである。

 龍我はレイキバットも袋に入れて肩にかけようとしたが、白い翼はそれに待ったをかけた。

 

「その前に一つだけ聞かせろ。万丈、お前この世界ではなんで戦ってるんだ? この世界で何が起ころうとお前には関係ないだろ」

 

「今聞くことかよそれー。俺、運転中だぞ」

 

「得体の知れない相手を怪しむのはお互い様だ」

 

 小さい図体のくせして偉そうな蝙蝠である。

 しかしまあ隠しておくようなことでもない。

 

「別に何か考えがあったわけでもねえ。ただ誰かが襲われているのを見過ごすのは気分が悪いし、この世界の仮面ライダーが気に入らねえ。それだけだよ」

 

 龍我のいた世界では仮面ライダーは自分ただ一人だった。

 このスカイウォールのない世界で自分の他にも多数のライダーがいることには大層驚かされたが、今ではモヤモヤと苛立ちで一杯だ。

 ビルドドライバーとクローズドラゴンを託してきた相棒が毎日毎晩、耳にタコができるぐらい「仮面ライダーが如何なる存在であるか」を言ってきたせいか、自分勝手に戦うライダー達には違和感を抱いてしまう。

 

「ほお」

 

「ほお……ってそれだけかよ。なんか言えよ」

 

「いや、シンプルでいい。華麗さは無いが、激しさはあるな」

 

「わけわかんねえ……まあいいけどよ。俺はこれから仕事なんだから、お前らは大人しくしてろよ?」

 

 レイキバット的判断基準が初対面で理解されるはずもない。

 龍我は物理学を詳しく説明されたような顔をしながら、今度こそ収まったレイキバットごと袋を肩にかけた。

 

 

 

 

「ほんっとにすいませんでした城戸さん!」

 

「万丈くんさあ、頑張ってるのはいいけどもっとちゃんとしてくれよな。また編集長にどやされるぞ〜?」

 

 今日も今日とて人で溢れる病院の前にはマスコミが一杯だ。昨夜もまた一人、新たに失踪してしまった患者がいるという。

 

 そんな喧騒から少し離れたところで龍我は必死に頭を下げている。

 それをこれ以上ないくらいの「やれやれ」な様子で対応しているのが、彼の先輩記者でありこの世界で拾ってもらった城戸 真司その人であった。

 

 最初こそ異世界に迷い込んでしまった不幸を嘆き途方にくれていた龍我だったが、時間の流れは止まらない。特に空腹は深刻な問題だ。

 龍我が所持していたなけなしの金ですらこの世界では使えなかった。もし真司に拾われて働き口を紹介してもらっていなかったら今頃は絶対に野垂れ死していた。

 

「城戸くんも偉くなったわね。万丈くんが入社してからも怒鳴られた回数は貴方の方が多いじゃない」

 

 そして真司の隣で呆れた物言いをしているのは真司の先輩である桃井 令子。

 彼女もまた取材のためここに訪れており、そそっかしい真司や万丈とはこれまで別行動をとっていたのだ。

 

「え、えぇ!? 気のせいですよ玲子さん! なあ万丈くん?」

 

「言われてみればそんな気がするなぁ」

 

「そ、そんなぁ〜……」

 

 怒られていたというのにのほほんと答える龍我。

 ショックを受けて頭を抱え込む真司。

 二人のやりとりはまるで漫才のようで、仏頂面だった令子をクスリと笑わせる。

 この二人、基本的に似た者同士な上にどっちも馬鹿なので見ていて飽きないのだ。仕事の効率が大幅に下がるのが悩みどころではあるが。

 

「さ、全員揃ったことだし、報告会に移りましょ。何か進展はあったかしら」

 

「俺の方はさっぱりっす。浅倉って野郎も見かけねえ」

 

 病院に現れたモンスター退治のパトロールも同時にこなしていた龍我は取材にあまり取り組めていなかった。

 だがド新人のレッテルを貼られていることが幸いしたか、令子は咎める様子もない。

 

「俺も全然進展なしです。ここは広いわ、人も多いわでもう大変で」

 

 ライダーのような事情を持たない真司も収穫はなし。申し訳なさそうに頭髪を掻いている。

 あんなに龍我に先輩風を吹かせておいてこのざまなのだから、令子は呆れるしかない。

 

「城戸くんねぇ……まあいいわ。私も大したことは掴めていないもの。面倒なナンパさえなければ……」

 

「うぇ!? 令子さんナンパされてたんですか! 一体どこのどいつです!」

 

「そっちはどうでもいいわよ」

 

 令子は手帳を開き、日ごとに纏めた行方不明者のリストを龍我達に見せる。

 被害者の年齢、性別、職業、どれも一見するとバラバラであるが、令子はリストの一部分をペンで囲んだ。

 

「事件発生の二日後からの行方不明者にはある共通点があったの。彼らはみんなこの病院でちょっとした揉め事を起こしていたみたい。例えば……スタッフに怒鳴る、他の患者と喧嘩するとか」

 

「マジすか! それって大発見じゃないですか! なあ万丈くん!」

 

「そうっすね城戸さん! なら犯人もだいぶ絞れるし!」

 

 龍我と真司はたったひとつの情報だけでまるで真相を解明したかのごとく得意になり、肩を組んで大喜びし始めた。

 一人の時でも大層な馬鹿なのに、二人になるとさらに馬鹿になる。これを編集長の大久保は「馬鹿の相乗効果」と名付けていた。

 

「ちょっと! そんな簡単に決めつけないの! ていうか犯人って何よ!」

 

「……あー、そのー、なんとなく! ハハ、ハハハハハハ!」

 

 この事件の犯人がモンスターだと察知している龍我にとっては本当に大発見でもあったのだが、ライダーのことを知らない他の二人にはそんなことはない。

 

 焦った龍我は不器用な愛想笑いで誤魔化すと、そのまま病院内に走って行った。

 

「じゃ、じゃあ俺引き続き調べてきます!」

 

「あ、ちょっと万丈くん!?」

 

 ガサゴソと不自然に動く袋をぶら下げて猛ダッシュしていった龍我はもう既に追いつける距離にはいない。

 こういう風に勝手な行動をされるのももう何度目だろうか。令子は盛大に溜息を吐いた。

 

「すいません令子さん。万丈くんも悪い奴ではないんだけども、落ち着きが無いんですよねぇ〜」

 

 それは真司なりのフォローのつもりらしいが、令子には「あんたが言うな」という言葉を飲み込むのに精一杯だった。

 

 

 

 

 





・万丈龍我
みなさんご存知仮面ライダークローズ。エニグマの暴走によってこの世界に飛ばされてきた。
ハザードレベルが足りず、ビルドに変身できなかった桐生戦兎からビルドドライバーとクローズドラゴンを託されており、時期としては東都でスマッシュやらナイトローグやらブラッドスタークやらと戦っていた頃。
ビートクローザーやビルドフォン、東都ボトルも所有している。



まだまだ続くぞナイト編。多分このナイト編が一番長いと思います

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