……遅れて申し訳ありませんでした。今後もこういったことはあると思いますが、決してエタらせはしないとお約束いたします。
命ある限り書き続ける……それが書き手だろう……!
おかしい、これは絶対におかしい。
ファミレスの、やや硬めのソファに腰掛けている大地は何故自分がこんなところにいるのかと自問自答する。
なにがなんだかわからぬ内に同居人となってしまった万丈 龍我こと仮面ライダークローズ。
早朝から大慌てで飛び出して行った彼の姿に大いなる不安を覚えた大地はレイキバット、ネガタロスに同行を頼んだ。
それでも不安は拭いきれずに後を追うことになったのだが……。
「はふはふ……おいし〜! お兄ちゃんありがとう!」
病院に着いた大地を出迎えたのはひもじそうにお腹をさする昴だった。
昴の視線が近くにあるファミレスの看板にチラチラ引き寄せられていることを認識した次の瞬間には、もうここに座っていたように感じる。
鉄板の上でたっぷりの肉汁を溢れさせるハンバーグ。
それをあちあち、と頬張る昴。
見ていて非常に癒される反面、自分はこの子に甘すぎないかと思わなくもない。元々子供好きだったのか、それとも昴限定なのかはわからないが。
「ほら、気を付けないと洋服に跳ねちゃうわよ。もっとちゃんとエプロン付けな」
「はーい」
そしてもっと不可解なのは隣で昴の口元を拭っている美穂の存在である。
彼女はどうやら大地達が店に入って行くのを見ていたようで、入店から数分と経たぬ内に「私この人達の知り合いですけど?」とでも言うかのように昴の隣に陣取ったのだ。
その流れがびっくりするくらい自然で、大地も一瞬普通に挨拶しかけてしまった。
その持ち前の圧倒的コミュニケーション力で昴もすぐに美穂を受け入れてしまい、他の客には仲睦まじい三人姉弟が早めの昼食をとっているようにしか見えていないだろう。
というか甲斐甲斐しく昴の世話を焼く美穂は本当に姉っぽい。
「……ねえ、あんた。いくら私が美人だからっていつまでも見つめるのはどうなの?」
「お兄ちゃん、お腹痛いの?」
「う、ううん。そんなことないよ」
以前とはえらい態度の変わりようである。
だが、こっちの方が詐欺師ではない彼女本来の性格に近いのだろうな、となんとなく感じた。
などと納得している場合ではない。彼女がライダーとして大地に接触してきたのは分かりきっている。
「昴くんちょっと待っててね……霧島さん、ちょっとこっちへ」
大地は笑顔を取り繕いながら、美穂の腕を引っ張って店の外へ出る。
「何よぉ? まさか本気であたしをどうにかしようってわけ? やーねー、これだから変態は……」
「やって来たのは霧島さんの方でしょう!? それに僕は変態なんかじゃ……」
「女装ライダーが変態じゃなければなんだって言うの。それもセーラー服に猫耳って、上級過ぎるよ?」
それを言われてしまうと閉口してしまう。事実は事実だからだ。
まともな反論も返せず、ちょっぴり涙目になりかけた大地に美穂は軽く吹き出して謝罪をしてきた。
ただしその顔を見る限りでは微塵も悪いと感じていないのだろうが。
「ごめんって。あんたがあんまりにもからかい甲斐があるからさ。一応これでもちゃんとした交渉をしに来たんだよ」
「交渉……あの、ベルトは渡せませんよ?」
「わかってるわよ! そうじゃなくて、ここにいるってことはあんたも病院の騒動を解決しようとしてんでしょ? だったら私と協力しない?」
彼女が提案してきたその内容は大地が予想していたものと概ね合致していた。
他のライダーの撃破と事件の解決。どちらもダークディケイドを味方に付けることでグッと近づける。
しかも美穂にはそれ以上の意義があった。
「あの浅倉……仮面ライダー王蛇は悔しいけど私一人じゃ勝てない。けどあんたと一緒ならきっと倒せる! だから頼む!」
彼女もまた今回の犯人を浅倉だと思っている口だろうか。
真剣に頼み込んでくるその姿勢はとても嘘や冗談などではないとわかるが、大地には気軽に頷くことができなかった。
浅倉を倒す、ということはつまり。
「殺すんですか。浅倉を」
「……? 当然だろ。ライダーなんだから」
何を当たり前のことを、という顔をされても困る。
直接の面識がなくとも浅倉が酷い人間だということは理解できている。放置していれば他の人に危害を及ぼしかねないということも。
だがそれでも浅倉は人間なのだ。どんな相手であっても、人間を殺すことはできない。
怪人を倒し、人間を守ってきた大地には、人間とは殺す対象ではないのだ。
「ライダー同士殺しあうなんて間違ってる〜、なんて青臭いこと言わないでよね? じゃああんたはなんでライダーになったのさ」
「────人を、守りたいから。ずっとそうやってきたから」
それだけの言葉を絞り出すのに、何故か時間を要した。
「信じらんない……。でも、だったら尚更浅倉は放っておかないだろう? せめてアイツを倒すだけでも頼むよ! この通りだ!」
美穂はしつこく食い下がる。
長い髪を垂れて頭を下げる彼女に思い浮かぶのは何故そこまで浅倉に拘るのか、という疑問。
その答えは追求せずとも、彼女自ら語り出した。
「私のお姉ちゃんは浅倉に殺されたんだよ……! イライラしたから、なんて馬鹿げた理由でさ! それだけのことで!
だから私は浅倉を絶対に許さない。アイツを倒して、他のライダーも倒してお姉ちゃんを生き返らせるんだ!」
「お姉さんが……」
所謂復讐というヤツだ。
それが絶対に間違ってるとも正しいとも言えない。言えるだけの自信も根拠もない。
ただ復讐に囚われた悲しい人を思い出しはした。
瞳の奥で激しい怒りの炎を燃やす美穂も、きっと鬼塚と同じなのだろう。
自分自身すら焦がしかねない炎を宿した瞳で射抜く美穂。
いよいよ返答に詰まり、後ずさる大地。
そして短い沈黙を破り、背後から美穂の肩を叩く手があった。
「あらら、そんなガキ相手に熱く語ってもしょーがないでしょ。そーいうことなら俺が協力してあげよっか?」
そう言って現れた男の名を大地は知っていた。
芝浦 淳、仮面ライダーガイ。
相変わらずの軽薄な笑みを浮かべる彼に、大地の中で一抹の不安がよぎった。
*
院内は相変わらず騒々しく、漂う不穏な空気に皆居心地悪そうにしていた。
それは病院のスタッフや刑事たちも例外とはならない。
胃が張り裂けそうになる緊張の真っただ中、一人の医者が小さなダンボールを積んだ荷台をスイスイと押していく。
もしもこの病院が連続失踪事件の現場でもなく、いつも通りであったなら誰かが気づいていたことだろう。
その箱が不自然に振動しながら野太いひそひそ話が聞こえることや、その医者が真っ赤な偽者であるということに。
(どうよ、この俺の変装! これなら誰にも怪しまれずに調べられるってわけよ!)
自信満々なだけあって、龍我の変装クオリティは中々のものだった。
しかし元の世界で脱獄犯の彼が外を出歩く時、変装は必須であったのだが、この世界この状況で変装する必要は全くない。
龍我としては医者の振りをして関係者から話を聞くという寸法なのだろうが……。
(な、なんで変装するんだ? 記者って立場を利用すればいいんじゃねえのか?)
(……あ、つい癖で変装しちまった)
((馬鹿だコイツ……))
初っ端から雲行きが怪しくなってきたが、今更出直す訳にもいかないので医者スタイルで調査続行。
すれ違う人々に爽やかスマイルで対応する姿は普段のガラの悪さが鳴りを潜めているのもあって意外と様になっており、元の世界での苦労が伺える。
だが、いくら緊急時とはいえ見慣れない医者が湧いて出れば違和感を抱く者は当然いる。不審に思い、龍我の肩を叩く者だっている。
今回の場合はそれがこの病院の副院長────大和 奏だったというだけだ。
「……君、そのコスプレはなんのつもりかね」
「うおっ!? ────ハハ、なんのことですか? あ、俺今日からここで働くことになったんで」
「猿芝居は結構。私はこの病院にいるスタッフ、患者の顔は全て把握しているよ。君のような男が新しく入ってくる予定も無かった」
呆れ半分、警戒半分。それが今の奏の表情。
こうもあっさり見破られるとは夢にも思っていなかった龍我は誤魔化そうとしたが、流れ出る滝の汗はどうしようもなかった。
愛想笑いと共に立ち去ろうとするも、台車を足で止められてしまい逃げ道も塞がれてしまう。
「幸いにもここは警官だらけだ。弁明はそっちでするといい」
「ま、待った! 俺は怪しい者じゃねえ! むしろ怪しい奴を探してるだけだ!」
「自覚が足りないな。今この場で最も怪しいのが君なのだよ」
当然といえば当然だが、やはり龍我は頭のおかしいコスプレイヤーとしか思われていない。
異世界でも逮捕され、凶悪犯のレッテルが貼られる未来を想像し、青ざめた顔で必死に誤解を解こうとする龍我。
だが、奏は龍我を引っ張り、強引に物陰へと連行していく。
「いでで!? 耳引っ張んなって! 猿みたいになったらどーすんだよ!」
「今でも大差はないように見受けられるがね」
耳が伸びる、などと喚き散らしても御構い無し。しかもこの医者、割と力が強い。
周囲の人々にも先輩に怒られる新米の医者としか見られておらず、完全に変装が仇となっていた。
「〜っ! いい加減離せって!」
強引に振り払った龍我だったが、今度は身体を壁に叩きつけられる。
奏はジタバタともがく龍我を鼻で笑いながらも、押さえつける腕の力は一向に弱めない。
それだけで彼の龍我に対する感情が見え隠れしていた。
正しく言うならば龍我、ではなくライダーに対する感情であろうか。
「君達ライダーはいつもいつも……どれだけ私の領土を荒らせば気が済むんだね? ここは戦場でも、モンスターの餌場でもない。何度行ったらわかる」
「それ言われんの一度目だよ! てかあんたもライダーなのか?」
「そういう君もそうだろう。今この病院で変装などという奇行をする人種はライダーくらいだ」
「んだと! 大体な、俺はあんたらとは違うライダーだし、あんただってライダーだろうが! ならここに他のライダーが集まるのは都合が良いんじゃねえのかよ」
東都の平和を守ってきたヒーローであるクローズと殺し合うためのライダーを一緒くたにされるのは我慢ならない。
仮面ライダーという名前は同じなのに、そこにある決定的な違いが龍我にとってはむず痒くもあり、彼らの戦いに介入する理由でもあった。
だが、一緒くたにされたくないのは龍我だけではなかった。
「私はね、ライダーバトルなんて茶番に付き合うつもりはサラサラないのだよ。
モンスターは人を襲う。
私の患者に降りかかるかもしれない脅威を排除したい。
私はそのためだけにライダーとなった。戦うのは勝手だが、私を巻き込まないでもらいたい」
龍我がこの世界に来てからというもの、出会うライダーは皆自らの願いのために戦っていた。
そういう意味ではこの奏も「患者を守る」という願いのために戦っている正真正銘ライダーの一人であろう。
しかし、彼はその願いのために他者を犠牲にする気がない時点で大きく異なっていた。
「それが本当なら……俺はあんたを信じる。少なくとも今回の犯人じゃねえって」
この男は態度こそムカつくが、嘘は言っていない。
龍我は己の直感を信じることにした。
「信じる……? 君は何を言っている」
「冤罪ふっかけるつもりはねえってことだよ」
これで龍我の中から犯人の候補が一人減った。
考えていた計画とは違ったが結果オーライだ。
勝手に納得されて、あまつさえ友好的な態度まで示してくることに奏は毒気が抜かれたようだった。
「うわぁぁぁぁーッ!?」
その時、廊下の奥から響いたのは男の叫びと微かな金属音。
何かを恐れ慄くような迫真の声は勿論のこと、モンスターの出現音まで聞こえては放ってはおけない。
音の出所へ急行する龍我と、それに続く奏。
やはりと言うべきか、そこは鏡のある洗面台であり、腰を抜かしている刑事が一人。
奏が即座に駆け寄り、目立った外傷がないことを確認する。
ぱっと見では他に被害者もおらず、龍我は安堵しつつも鏡の奥を注視────そこにモンスターの影はない。
さらにそこへもう一人の刑事が血相を変えてやって来た。
彼も先の悲鳴を聞きつけたのだろう。
その刑事を認識した奏の顔が少々忌々しそうに歪む。
「どうした! 何があった!」
「す、須藤!」
駆けつけたその刑事、須藤に縋り、アワアワと震えながら彼が指差しているのは鏡。
「バケモノだ! 鏡の中から蜂のバケモノが!」
「蜂……!」
やはりこの刑事はミラーモンスターに襲われた様子。
だがそれ以上に重要なのは「蜂」というワードだ。
その言葉に須藤の顔は険しくなり、奏の仏頂面も崩れ始めた。
龍我には知る由もないが、奏────仮面ライダーアマンダの契約モンスターは蜂型である。
「ついに尻尾を見せてしまいましたね……! 大和 奏! お前こそが今回の事件の犯人だ!」
「馬鹿な……いや、同型のモンスターというだけだ。私ではない」
「証拠はまだありますよ。ここ数日発生した被害者の殆どがこの病院における迷惑な患者であったらしいですね。邪魔な相手の排除と餌の確保……あなたにとっては一石二鳥だ」
「おいちょっと待てよ! あんたら何の話してんだ?」
一人話に付いていけない龍我。だがもはや龍我の疑問など須藤の耳には入っていない。
彼が露わにした明確な敵意に負けじと睨み返す奏であったが、少なからず動揺はしているようで、その視線には鋭さが欠けていた。
「……失礼する。もし私が犯人であるというなら、その疑いは自分で晴らす」
立ち去ろうとする奏。しかし、出口にはいつの間にやら一人の男が立っていた。
その黒いインナーの男の手にある蝙蝠のデッキを掲げるだけでも、奏を足止めするには十分だった。
「あんたが犯人かどうか……すぐにわかる」
その男、秋山 蓮はデッキを掲げながら、募らせた憤怒を解放するように叫ぶ。
「戦え!」
*
狭い、暗い、むさ苦しい。
そんな不満を堪えてやったのに、速攻で置き去りにされた怒りがレイキバットの中で爆発しかけていた。
龍我が奏に連れ去られたことでレイキバットとネガタロスを収納していたダンボールを乗せた台車は行き場を失い、寂しく放置されている。
レイキバットだけならとっとと飛び去れるのだが、全く信用のおけないネガタロスから目を離すのは絶対にできない。
「おいおい、お前の羽は飾りか? とっとと行っちまえよ」
「そうは行かん。俺が居なくなれば、お前はそこら辺の人間に憑依して逃げられるからな」
「ククク……はて、何のことやら」
「ケッ!」
何故青空の会が誇るライダーシステムを管理する自分がこんな目玉ごときに手を焼かされなければならないのだ。
これでは大地から任された任務もまともにこなせず、ここでうだうだ時間を浪費するばかり。
どうせ大地も瑠美もいないのだ。いっそこの場で眼魂を噛み砕いてやろうかと本気で考え始めた頃。
ゴソゴソ、と。
何者かがダンボールを開く音に、レイキバットは恐る恐る上を見上げた。
「お、お前は……!?」
*
蓮の有無を言わさぬ迫力に逃げ道を塞がれた奏は変身を余儀なくされた。
変身したナイト、シザース、アマンダの三人はミラーワールドに飛び込み、戦闘を開始。
目を丸くしながら腰を抜かしている刑事と共に残された龍我はそんな怒涛の展開に追いつけていなかった。
「わっけわかんねえよ……。なんでこうなっちまったんだ」
鏡の向こう側ではシザースとナイトが二人がかりでアマンダを追い詰めている。
どうやら彼らは奏がこの事件の犯人だと思い込んでいるらしい。
だが、それは間違った考えであると龍我は断言できる。
あれだけの短い会話を交わしただけでも、奏は自分の患者を襲わせるような卑劣な男ではないとわかった。
確固たる根拠があるわけでもない。ただ、信じてみると決めただけだ。
「ここはヒーローらしくやるしかねえってことか」
懐から取り出した青いボトル──ドラゴンフルボトルをシャカシャカと振る龍我。
かつて自分を信じてくれた男を浮かべ、その彼に託されたビルドドライバーを巻く。
呼応してどこからともなく飛来したのは、青いドラゴン型デバイスのクローズドラゴン。
龍我の手に収まったそれは彼の決心に同調するかのように嘶くと同時に、成分が活性化されたドラゴンフルボトルが装填された。
ウェイクアップ! クローズドラゴン!
クローズドラゴンが挿入されたビルドドライバーのレバーを乱暴に回すと、龍我の周囲に透明なパイプが張り巡らされた。
パイプを駆け巡った液体は瞬時に黒いスーツと青いアーマーを形成。その完成を待たずに龍我は拳と掌を打ち合わせ、高らかに叫ぶ。
Are you ready?
「変身!」
Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!
ハイテンションな音声が告げるは、蒼炎を纏いし龍戦士の爆誕。
形成されていたスーツとアーマーが龍我と重なり、さらに黄色のプロテクターが覆い被さる。
変身シークエンスを終えた万丈 龍我のその姿を仮面ライダークローズと呼ぶ。
「っしゃあ! 行くぜ!」
気合は十分。
ミラーワールドへの切符となるデッキとバイクを持ったクローズは勢いのままに姿見へと突っ込んで行く。
無限に続いているのかと錯覚してしまう鏡の道を走り抜けるマシンビルダー。
ミラーワールドに侵入したクローズはマシンごとライダー達の戦闘に割り込み、彼らの武器を跳ね除けた。
「やめろ! コイツは犯人なんかじゃねえよ!」
ここで自身を庇うことが予想外であったアマンダは剣をブラリと垂れ下げて、クローズの熱弁を見守る。
逆に邪魔をされた二人の、特にシザースの憤慨は相当のものだ。
「素人は黙っていなさい! これ以上犠牲者を増やすことは私が許さない!」
「うるせえ! だったら尚更違う奴を殺らせるわけに行くかよ!」
「……馬鹿が」
クローズの直情的な性格をある程度知っていたナイトは呆れたように、それでいて荒々しくカードを挿入した。
NASTY VENT
遥か上空を滑空するダークウイングからソニックブレイカーが放たれる。
脳に突き刺さる超音波のその痛みはライダーであっても耐え得るものではなく、全員が反射的に耳を抑えていた。
「うあああっ!? 耳が痛えッッ!?」
「どけ!」
唯一平気だったナイトは頭を振っているクローズを一息に殴り飛ばし、同じく超音波に苦しんでいるアマンダに飛びかかる。
辛うじて持ち上げた剣はナイトの槍を防ぐには力が足りず、そして遅過ぎた。
「グッ……!? 秋山 蓮、私は犯人ではないし、ライダーバトルに関わるつもりもない! この戦いに意味はない……!」
「そういう言葉はもう聞き飽きた」
ナイトの勢いは緩まない。
急所を狙った突きを幾度となく繰り出し、その度にアマンダが受け流す。
手痛い初撃はもらったものの、アマンダの技量はナイトのそれを上回っており、この程度の攻撃を流すのは造作もないことだった。
だが、技量だけで決まらないのが戦いというもの。
業を煮やしたナイトの意を汲んだダークウイングの甲高い鳴き声が木霊する。その大きな翼の羽ばたきは強烈な突風となってアマンダへと襲いかかった。
身体を吹き飛ばさんとする風の中、辛うじて踏み止まったアマンダであったがその隙は大きく、故にナイトの斬撃が三色の装甲に刻まれてしまった。
それを黙って見守ることもなく、バイクで阻止に動こうとするクローズであったが────
「待て!」
「待つのはあなたの方です!」
ナイトの邪魔はさせじとするシザースがマシンビルダーの行く手を塞ぐ。
構うもんか、と加速するバイクが激突する直前、シザースは既にカードを抜いていた。
GUARD VENT
衝突した両者。もたらされた衝撃に身体は悲鳴を上げ、痺れとなって現れる。
だが、バイクに正面からぶつかってもその程度で済んでいるのはシザースの構えるシェルディフェンスのおかげに他ならない。
突進してきたバイクを盾で正面から受け止め、あまつさえほぼ無傷で済むなどとんでもないことだ。
そんな冗談のような光景に絶句したクローズの顔面をシザースバイザーの一撃が見舞われた。
「悪く思わないでください。私には刑事として、事件を解決する責任があります。それに……あなたもライダーの一人ならアマンダのリタイアは望むところでしょう?」
STRIKE VENT
シザースピンチをガチガチと鳴らす音は警告を示しており。
それに伴って膨れ上がる敵意を肌で感じながらも、クローズは立ち上がる。
硬く握った拳を見れば、クローズの意思は自ずと見えてくる。
「……何故です? 君が彼を助ける義理など無いでしょうに」
「義理だぁ? そんなもんいるかよ」
そう、クローズを動かすのは「義理」だとか「正義感」だとか、そんな堅苦しいものではない。
いつもはカッコつけた振る舞いをして、ふとした拍子に酷くネガティブな顔を晒す。そんな相棒から託されたのは変身アイテムだけではない。
「仮面ライダー」という正義のヒーローの名前。
その名を背負えないことに彼がどれだけの苦悩を抱いたのかまではわからない。それでもこの世界に来て、殺しあうライダー達を知った時から戦うに足るだけの理由にはなった。
「どいつもこいつも『仮面ライダー』って名乗っておいてよ……自分勝手に戦うのが気に入らねえんだよぉぉぉ!!」
ビートクローザー!
虚空に形成されたその剣の名はビートクローザー。
叫びに応えるようにして現れた剣を握り、クローズの突撃が始まった。
全力疾走で駆けるクローズがシザースとの距離を詰めるのは本当にあっという間だ。だがそのスピードにさして驚くこともなく、シザースは冷静に対応する。
理解不能な理屈を掲げるクローズを鼻で笑い、振り下ろされた剣はシェルディフェンスで難なく防御される。
さらに右腕のシザースピンチでクローズの腕をガッチリと挟み、じわじわと力を入れ始めた。
「君の攻撃は分かり易すぎる。これでカードも使えないでしょう」
「要らねえよ!」
ヒッパレー! ヒッパレー!
身体ごと捻った腕でビートクローザーのグリップを引くクローズ。
能力の使用にはカードが必要であるという先入観に囚われていたシザースにはその行為の意味も、鳴り響く妙ちきりんな音声も理解できていない。
ミリオンヒット!
その刹那、刀身のメーターに比例して爆発的に膨れ上がったエネルギーが斬撃となり、シェルディフェンスを削り取る。
クローズがカード無しで技を放ったのだと気付いた頃には、盾はその機能を発揮できないほどの無残な形状に変わり果てていた。
そんな盾などクローズには紙切れも同然だと弾き飛ばされ、ガラ空きの顔面にフックと頭突きが立て続けに叩き込まれた。
「ガァッ……! き、きさ────」
さらに駄目押しのドロップキックまでもが炸裂し、シザースはその装甲を凹ませながら吹っ飛んでいく。
廊下の壁に穴を開けて崩れ落ちるシザースを見たクローズは「しゃぁっ!」と一人ガッツポーズをとったかと思えば、即座にしゃがみ込んでしまった。
「痛ってえ〜! 蟹はやっぱ固えなあ……」
.
ふざけているとしか思えない態度が癪に触ったのだろう。
立ち上がったシザースは足元に転がっている、かつて盾だった物を蹴り飛ばした。
盾は失ったが、鋏はまだ健在だ。そのギラリとした輝きをクローズに向けた。
「少々侮り過ぎていたようですね……。いいでしょう、お望み通り公務執行妨害で排除して差し上げます!」
「へっ、上等だ!」
駆け出し、再度激突する二人のライダー。
武器同士が奏でる金属音が二人の叫びと混ざり合い、彼らの戦いはさらにヒートアップしていった。
*
シザースとクローズが激突する横で、発端となった戦いは未だ続いていた。
至近距離で互いに剣を滑らせるナイト、アマンダ。
小さな傷をコツコツ稼ぐやり方では埒が明かないと、彼らは同時に距離を取る。
TRICK VENT
ADVENT
シャドーイリュージョンによる分身。契約モンスターの召喚。
彼らが取った戦法は奇しくも同じ人海戦術であった。
各々がダークバイザーを構えて突撃していくナイト軍団をアマンダと三体のモンスターが迎え撃つ。
量や質は異なれど、統率が取れた動きなのは両者同じ。となれば戦いの明暗を分けるのは質である。
無数に放たれる矢の雨を突破してきたナイト達へ真っ先に飛びかかったのはホーネットだ。
双剣の如く毒針を踊らせ、敵集団のど真ん中で一騎当千の活躍を見せるホーネットによってナイト達の動きに乱れが生じる。
「突き崩せ!」
集団の外側からアマンダ、そしてワスプが分身達を次々と斬り裂いていく。
その数こそ脅威ではあるものの、所詮は鏡が生み出した虚像に過ぎない。アマンダやバズスティンガーの攻撃にそう何度も耐えられる訳もなく、一人また一人と砕けていった。
そしてついにナイトは最後の一人────つまりは本体のみになった。
数的優位を覆され、気付けばアマンダと三体のモンスターに包囲された状態のナイト。
それでも衰えない戦意を剣から読み取ったアマンダは一斉攻撃の指令を下した。
矢、毒針、剣、三つの攻撃が同時に到達し────そして砕け散った。
目の前で破片となって飛び散ったナイトが本体でないことなど、誰の目にも明らかだ。
「これも分身……! しまった!?」
慌てて上空に目を向けるも、翼を広げたナイトは既に目前にまで迫っていた。
「オオオオオオーッ!」
「上か……!」
地面に激突する勢いで飛び込んできた漆黒の翼は瞬く間にバズスティンガーをなぎ倒し、アマンダさえも斬りつける。
例え地上で不利であろうと、空中戦においてナイトの右に出るライダーはいない。アマンダは対空攻撃を試みることすらできない。
そして再び上昇したナイトは切札のカードを抜き、ダークバイザーに装填した。
FINAL VENT
「ハアーッッ!!」
螺旋を描くマントと一体となって突っ込む飛翔斬。
ナイトのファイナルベント、必殺技と呼ぶに相応しい一撃がアマンダを貫かんとする。
食らえば即死は必須であるが、アマンダには一切の焦燥もない。
GUARD VENT
バイザーから告げられた指令に従い、アマンダを取り囲むバズスティンガー達。
アマンダを台風の目として回転を始めたモンスターはやがて三色のの竜巻となる。
ただの肉壁と侮ることなかれ。三体のモンスターによる息を合わせたこの強固な連携を貫ける技はそうはない。
そしてそこへ到達した飛翔斬との凄まじい削り合い。だが、その拮抗は一瞬で終わる。
飛翔斬の失敗という形で。
「ぐあぁッ!?」
「詰めを誤ったな」
吹っ飛び、地面に叩きつけられたナイトの仮面から呻き声が吐き出された。
苦痛を堪えて剣を支えになんとか立ち上がろうとするも、モンスターを従えたアマンダに見下ろされていた。
殆どの手札を切ったナイトと余力を残したアマンダ。勝敗は既に喫していた。
「……何故トドメを刺さない」
「何度も言うが、私はライダーバトルに興味はない。降りかかった火の粉は払うが」
アマンダもバズスティンガーもこれ以上交戦する意思は見せない。
地に膝を着けたナイトに興味を失ったように去っていくアマンダの背中がどうしようもなくイラつかせた。
────巫山戯るな!
このライダーバトルに蓮は自分の全てを賭けている。
ライダーでありながらライダーバトルには興味は無い?
恵里の病院を襲っているのは自分ではない?
だからなんだというのだ。例え犯人でなかろうと、バトルに消極的であろうと、ライダーである限りは倒すべき敵なのだ。
そんな相手に情けをかけられた自分が何よりも不甲斐なく感じ、ダークバイザーを握る力が増す。
怒りが力となり、ナイトの身体を半ば弾けるようにして立ち上がらせた。
その無防備な首を一思いに貫き、見逃したことを後悔させてやろう。そんなビジョンを描きながら飛びかかるナイト。
そんなナイトの反撃に気付きながらも、アマンダは緩やかに首を向けるのみ。防御には間に合いそうもない。
このまま首を刺してしまえばナイトの逆転勝利だ。
だが────
「戦っている時からわかっていた。君では私を殺せないと」
ダークバイザーの剣先はアマンダの数センチ前で止まっており────
「戦意は十分。だが殺意は中途半端。あのファイナルベントも殆ど勢い任せだったんだろう」
「……ッ」
そうなるのがわかっていたかのように、アマンダはその剣先を見つめていた。
その視線が自身を見透かしているように感じて、ナイトの言葉が詰まる。剣を進めようと力を込めても、ダークバイザーはアマンダの首に触れることすらできない。
恵里を救う為に12人を犠牲にするつもりだった。覚悟を決めていた。
しかし、現実はそんな覚悟を嘲笑うかのように異なっている。
「何か止むに止まれぬ事情があったことは察する。だが君は止まるべきだ。職業柄、破滅に向かう人を見るのは好ましいと思えない」
「黙れ!」
それ以上言わせてなるものかと剣を叩きつけようとしても、軽く躱されて終わる。
拭いきれない自分の甘さを思い知らされた故か、剣を持つ腕は鉛のように重い。
その重みに負けたのか、もう剣は上がらなかった。
「秋山さん……!? 何をしているんですか!」
顛末を見ていたシザースから驚きと非難の言葉が投げかけられる。
無防備な相手を前に項垂れるナイトを信じられないといった様子で叫ぶが、ナイトは動かない。
小さく舌打ちを漏らすと、シザースはクローズを蹴り飛ばしてからカードを抜いた。
「ならば私が倒すまで!」
FINAL VENT
シザースの契約モンスターであるボルギャンサーが出現すると共に主を高く打ち上げる。
十分な高度を確保し、高速回転し始めたシザースの身体は一つの巨大な砲弾となる。
落下し直撃した相手を打ち砕くファイナルベント、シザースアタックがアマンダへと発動されたが、それを指を咥えて見守るクローズではない。
「やらせるかよ!」
Ready Go! ドラゴニックフィニッシュ!
クローズドラゴン・ブレイズが放った蒼炎のブレスに乗って跳躍したクローズ。一際強く燃え上がった足を振りかぶりながら突き進む。
一直線に進むシザースアタックに横から接触する瞬間、爆熱の飛び蹴りがシザースという砲弾を蹴り飛ばした。
「ぐぁああッ!?」
派手に吹き飛んだシザースの身体は壁を破壊し、破片の中に転がされた。
多少手加減されたとはいえ、必殺技を横からぶち込まれて無傷でいられるはずもない。メタリックオレンジの装甲は所々が焼け焦げ凹んだ痕がある。
破片を押し退けはしたが、肩で息をしながら壁にもたれかかっているシザースはどう見ても満身創痍だ。
「あぁ悪い、加減ミスっちまったかもしんねえ」
必殺技をかましておいて悪びれるのもおかしな話だが、クローズにはそういった自覚は全く欠けていた。
しかし全力の一撃がその手加減に及ばなかったのは看過できず、シザースは口惜しげにアマンダとクローズを睨む。
「これで諦めたわけではありません……必ずやあなたを倒し、事件を解決してみせる……!」
「……何を言っても無駄か。刑事の視野がここまで狭いとは正直思いもしなかった」
去るシザース。呆れるアマンダ。ストレッチするクローズ。
その誰とも話さず、ナイトはただ項垂れていた。
*
嵐のような時間は過ぎて、夜が訪れた。
あれだけ五月蝿かったマスコミ達も夜になれば数は疎らになり、静寂が支配する暗闇。
その暗闇は人目を偲ぶには最適だった。今まさに小声で会話している二人の男のように。
「どういうことだ須藤! あんなバケモノが本当に出るなんて聞いていないぞ!」
詰め寄るその男は被害者となっていたあの刑事であった。
襟に掴みかかるその様子から、彼は混乱の極みにあるのだろう。
そんな彼に須藤は苦笑し────乱暴に払い除けた。
「中々に迫真の演技でしたよ。
奏や龍我が駆けつける直前、確かにこの刑事はモンスターに襲われていた。
異なる事実があるとすればそれは────彼を襲ったのは蟹のモンスターであり、それも襲う振りであったこと。
全ては須藤が奏に濡れ衣を着せるための芝居だったのだ。
「これで例の件は黙っていてくれるんだよな!? な!?」
「汚職の件ですか? 勿論ですとも」
汚職を見逃す代わりに言うことを聞く。それが須藤が彼に出した条件だった。
土壇場で素晴らしい演技をしてくれたものだと心からの拍手を送る須藤。
顔だけ見れば爽やかであることが不気味で、刑事は引き攣った笑みで返す。
「じゃ、じゃあ俺はこれで────」
「ああ、言い忘れていました」
須藤はその場を後にしようとした刑事を呼び止める。
刑事は振り返ってしまった故に、側にある窓ガラスから歪み出た鋏に気付かない。
「私のモンスターの餌となってくれたこと、ありがとうございます」
かつての同僚が喰われる光景を須藤は眉一つ動かさずに見ていた。
ボルキャンサーのグロテスクな食事を見守るのも彼には慣れたもの。何せここ数日で多くの患者を餌としてきたのだから。
捜査の過程で手に入れた情報があれば、病院の迷惑患者を調べ上げるのも大した苦にはならなかった。
「ああいう最後は迎えたくないものですね……」
ありえない話だが、と付して立ち去ろうとする須藤。
そんな彼からは昼間の真面目な刑事の顔は微塵も見られない。
ボルキャンサーにたらふく餌を与え、適当なライダーに罪を擦りつける────それが須藤の目論見だった。
当初は浅倉にする予定であったが、この病院の副院長がライダーなのは嬉しい誤算だった。
しかしあの青いライダーの邪魔もそうだが、ナイトがあそこまで腰抜けだとは須藤も想定してなかった。
こうなればまた新たな策を講じなければならない。
「……ん?」
カラカラ……という小さな音を須藤の耳が拾った。
音の出所に目を向ければ、そこには台車とダンボール。それを押してきたであろう人はいない。
警戒心を抱き始めた須藤がダンボールを開けようとした時、聞こえる筈のない声がした。
「いいツラしてるじゃねえか。どこに出しても恥ずかしくない立派な悪徳刑事だ」
「誰だッ!?」
即座に飛び退き、周囲に最大限の警戒を張る須藤。
だがどれだけ見渡せども人の気配は全くしない。
「そんなにビビることはねえ。俺様ならこの箱の中さ」
「何……?」
半信半疑でダンボールを開いた須藤は中に小さな目玉らしき物体があることに気付く。
ダンボールや台車をどれだけ調べてもおかしな点は見当たらず、この目玉から声が出ていると見て間違いなさそうだ。
「言っとくがこれはスピーカーでもなんでもねえ。嘆かわしいことに俺様自身の身体なのさ……おっと、名乗るのが遅れたな。俺様はネガタロス。『スーパーネガタロス軍団(未定)』の首領だ」
「……ほう、それはそれは。で、私に何の用だと言うんです」
失笑モノの自己紹介にも平静を崩さずに付き合う。
こんな玩具同然の相手に何を真面目にやっているんだか、と呆れる気持ちもあったが、それ以上にこのネガタロスは油断ならない相手なのだと須藤の本能が告げていた。
「ククク……そう難しい話じゃねえ。スカウトだよ」
ネガタロスが放ったその言葉には流石の須藤も耳を疑わざるを得なかった。
よーやく色々と動き始めました。そして裏切りが早すぎる……やっちゃってくださいよぉ!レイキバさん!