仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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ちょっと長め。戦闘も多め





取り戻す希望

 

 この操真晴人と名乗った青年はどうして自分なんかに声をかけたのか、大地には皆目見当もつかなかった。ファントムが自分を狙って来たというのならまだわかるのだが。

 

「いやさ、君があんまりにも沈んでたから気になって」

 

 大地の疑問を察してか、晴人はそう言った。

 

「俺も昔そうやって落ち込んでた時期があってさ、こうほっとけなかったつーか」

 

「……怖いんです。自分がこれからどうなるのか。そう思ってたら何もできなくなったんです」

 

 初対面の晴人に何故こんな話をするのか、それは大地自身にもよくわからない。ただ話を聞いてもらいたかったのか、それとも何かを教えて欲しかったのか。

 

「ふーん……」

 

「困りますよね。いきなりこんなこと言われても」

 

「うん、正直何のことだかてんでわかんねー。けど、何もできなくなるって気持ちはわからなくもないな。俺には誰かの希望を奪っちまうような取り返しのつかない失敗しちゃったことがあった。その時はこれからどうしていいかわかんなくなったよ」

 

 微かな悔いを含んで語る晴人。サッカーで汗を流す少年達を見るその目はどこか懐かしむようであった。

 

「でも気づいたんだ。後悔ばっかしてても何も始まんない、決して前には進めないってさ」

 

「後悔ですか……」

 

 果たして自分はダークディケイドに変身しなかったことを後悔してるのだろうか。少なくとも瑠美を助けられるかもしれなかったことを考えると、胸を締め付けられるような感覚には陥る。

 

「わかりませんね。今の僕にとって、前に進むってことがどういうことかも」

 

「そっか。でもよーく考えてみなよ。今自分が何をしたいのか。それが前に進むってことじゃないのか」

 

 自分が何をしたいのか。

 晴人の言葉のままに思い返してみれば、最初は記憶を取り戻すためにこの世界で行動していた。そこから瑠美や仁藤と出会い、気づけばファントムとの戦いに巻き込まれ、今の状況に陥っている。

 

 だが、本当に自分はダークディケイドを、戦いを恐れていたのだろうか。

 

 戦いを恐れていたならばそもそもドレイクに挑むことはなかった。

 ダークディケイドを恐れていたならばヴァルキリーに襲われた時に咄嗟に変身しようとはしなかった。

 

 そこまで考えるに至って、初めて大地は自覚する。

 

「あぁ……僕は、僕はただ、彼女を守りたかったのか……」

 

 自分を信じてくれたあの人をファントムから守りたいという思いが大地の中には確かにあったのだ。

 瑠美と自分の気持ちを同時に裏切ってしまったということがわかった途端に、どうしようもないほどに感情が押し寄せてくる。

 

 助けられなかった悲しみが、何もしなかった怒りが大地の身体を熱くする。

 

 それは涙という形になって外に現れた。

 

「くうっ……ぁうう……ぁぁ!」

 

 とめどなく目から溢れてくる涙は拭われることもなく、大地の足元の土を濡らし続けた。頭の中に浮かぶのは瑠美の笑顔。

 突然泣き出した大地を横目でチラリと見て、何だか青春っぽいななどと内心思いながらも晴人は何も言わなかった。

 

(今自分がしたいこと……それはきっとこんなところで泣くことじゃない!)

 

 やがて腕で激しく目を擦って無理矢理涙を止めた大地。服の湿りや汚れも意にすることなく、決意と共に立ち上がる。

 そのまま隣の晴人に「ありがとうございました!」と頭を下げて、駆け出して行った。

 

 肌に吹きつける風は強く、未だに先のことははっきりしていない。

 それでも、もう大地には座り込む気にはなれなかった。

 一刻も早く目的地にたどり着くため、大地は走りながらメイジドライバーを取り出した。

 

 チェンジ! ナウ

 

 

 *

 

 

 その頃、瑠美を救出すべく駆けつけた仁藤は待ち構えていたベルゼバブとの戦闘に突入していた。

 ゆっくりと日が暮れていく住宅街の中で互いの剣をぶつけ合う音が幾度となく鳴り響き、火花が散る。

 その戦況はビーストが微かに押していた。

 

「ととととととと!!」

 

 フェンシングのような剣さばきでベルゼバブのガードを崩し、胸部、腹部、肩部とダイスサーベルの剣先で突いていく。

 しかし、ベルゼバブもただやられるだけではない。ダイスサーベルを持つ腕に回し蹴りを見舞い、攻撃が途切れた隙をついて瞬間移動しては、ビーストの側面に現れる。

 ビーストの脇腹を切り裂いたベルゼバブの剣はさらに追撃を加えるべく、脳天に振り下ろされる。

 だが、脇腹への一撃はあまり効果的ではなかったらしく、剣はあっさりと頭上で受け止められた。

 敵の剣をいなしたビーストがそのままベルゼバブの懐に潜り込み、その腹部に剣と膝蹴りを流れるように叩き込めば、相手は後方に倒れていく。

 

 確かな手応えを感じつつ、倒れたベルゼバブへ接近すれば、敵は再び瞬間移動で逃げていった。

 先ほどからこんな調子で戦いが続いており、前座であるベルゼバブに時間と体力が割かれていく現状に仁藤は内心焦っていた。

 

 恐らくこのまま戦い続ければ、先に力尽きるのは魔法を使用していない自分ではなく、ベルゼバブの方である。しかし、自分が押しているとはいえ、ベルゼバブの攻撃も確実にビーストにダメージを与えている。

 ベルゼバブを倒した後に待ち受ける強敵との戦闘を思えば、できるだけ早く決着をつける必要があるのだ。

 もしも大地が協力してくれていればそれも可能なのだが、仁藤には大地を無理矢理戦場に立たせる気などはない。

 自分のように戦わなければならないのならともかく、ただ力を持ってしまっただけの彼の反応は至極当然のものなのだから。

 

「あー! もー! お前なんかに時間を割いてる場合じゃねえんだよっと!」

 

 カメレオ! ゴーッ! カカッ、カッカ、カメレオ! 

 

 もう何度目かもわからないベルゼバブの奇襲を辛うじて躱したビーストはカメレオマントを纏う。

 無駄なことをと嗤いながらビーストの背後に回り込むベルゼバブだったが、すぐにその感情は驚愕へと変わる。

 何故ならば、

 

「なっ、消えただと!?」

 

 ビーストがすでにその姿を消していたからに他ならない。

 

 自分とほぼ同じ戦法を仕掛けられるとは思ってもみなかったベルゼバブは狼狽してしまい、動きを止めてしまう。すぐ近くに潜んでいたビーストにとってはまたとない機会である。

 

「ずおおおおりゃああああッッ!!」

 

 耳を打つ叫び声を認識した瞬間、ベルゼバブの頭部に強烈な圧が加わった。

 ビースト渾身の飛び蹴りがベルゼバブを捉え、その脳を激しく揺さぶったのだ。

 まともな受け身すらとれずに倒れるベルゼバブ。すぐに起き上がろうとするも、脳震盪でも起こしたか、その動きは鈍く未だに地に足をつけたままである。

 トドメを刺す絶好の機会を得たビーストはダイスサーベルのダイスを回転させた。

 

「これでも食らいやがれ!」

 

 ビーストの必殺技であるセイバーストライクが見事にベルゼバブに命中し、その身を爆散させる──

 

 ワン! カメレオ! セイバーストライク! 

 

 ……はずだったのだが。

 

「……んん?」

 

「あらー……」

 

 なんと出現したカメレオン型のエネルギーはたった1匹だけだった。

 

 そもそもセイバーストライクとはダイスの目によって威力が変わるいわば運任せの技であり、1の目は最低の威力である。いくらダメージが蓄積しているとは言っても、それで倒せるほどベルゼバブは甘くない。

 それでもそのカメレオンは懸命にベルゼバブに突撃するが、剣のたった一振りでエネルギーは飛散してしまった。

 

「……」

 

「……」

 

 ビーストとベルゼバブの間で気まずい雰囲気が流れ始めた。

 

 よりにもよってこのタイミングで1の目を出してしまった自分の運の悪さを呪うビーストだったが、その堪え難い雰囲気は二人の間に突如飛来した火炎によって打ち砕かれた。

 

「うおっ! あぶねっ!」

 

「ベルゼバブ、何を遊んでいる」

 

「ド、ドレイク様。申し訳ありません!」

 

 火炎を放った主、ドレイクは言葉とは裏腹に愉悦に浸っている様子であった。その傍には両手両足を縛られた瑠美を伴っている。

 

「瑠美ちゃん!」

 

 瑠美を助けださんと疾走を開始するビースト。しかし、ドレイクからしてみればなんら恐れる必要もない突進に過ぎない。

 ドレイクの手の中で生まれた緑色のエネルギー。ビーストに向けて打ち出されたそれは暴風と化して襲いかかる。

 

 あまりにも強い勢いの風はビーストの装甲を削り、身体ごと宙に飛ばしてしまう。

 空中で身動きを封じられたビーストはすぐさまファルコマントを装備して飛翔しようとするが、凄まじい突風の中にいては満足にリングを変えることも困難だった。

 ようやくファルコリングを構えたビーストの前に、いくつもの氷の弾丸が迫る。

 

「しまっ! うわあああああ──っっ!?」

 

 ドレイクが発射した氷の弾丸は正確にビーストを撃ち抜いていた。

 最後の氷がビーストに到達した頃には風も止んでおり、空中に留まる支えを失ったビーストは体勢を変えることすらできずに地面に激突してしまった。

 

「フン、どうやら奇妙な魔法使い君は恐れをなして逃げ出したようだな。警戒するまでもなかったか」

 

「てめえ……! 瑠美ちゃんをどうするつもりだ……」

 

「決まっているだろう? ベルゼバブ!」

 

 ドレイクとビーストの戦いを退屈そうに見ていたベルゼバブはその声に姿勢を正し、指をパチンと鳴らした。

 すると何処に潜んでいたのか、虚ろな目をした人々がビーストの周囲にゆっくりと集まってくる。

 敵の増援か、とビーストは警戒するが、瑠美の叫びがそれを否定した。

 

「美樹さん、志田さん……それにみんなも!?」

 

「そう、彼らは皆、花崎瑠美と親しい仲の人間です」

 

「何……?」

 

 ビーストを中心として集まった人々はどうやら瑠美の知り合いらしいが、何故こんなところにいるのか。その虚ろな目は何かに操られているようにも見える。

 

「花崎瑠美、君は両親が死んでからも随分と多くの人に囲まれている。ここに集めた者達もほんの一部に過ぎない。これから私が消す君と関わりを持つ者達のね。これほど集めるのには苦労させられたが、まあよしとしよう」

 

「まさか……! あのファントム達は囮だってのか!?」

 

「正解! 人々を集める段階で君に気づかれては面倒なのでね。君達を生かしておいたのもゲートの恩人として目の前で葬るためだ」

 

 立て続けに襲ってきたファントム達は不自然に思えたが、まさか囮だったとは。しかし、それではドレイクの行動にも矛盾が残る。

 

「お前らの目的はファントムを増やすことじゃねえのか! ファントム減らしちゃ意味ねえだろ!」

 

「ファントムなどどうでもいい。私が見たいのはゲートが絶望に染まる姿だ! ファントムの誕生はその副産物に過ぎない!」

 

「や、やめてください……お願いですから!」

 

 これからドレイクがやろうとしていることがわかったであろう瑠美は必死にドレイクの足元に縋りついていた。

 その反応こそがドレイクの見たかったものであり、ましてややめる義理などもない。

 

「心配しなくてもいい……君の苦痛はすぐに終わる。生まれ変わった後は私の部下として使って差し上げよう……ベルゼバブ!」

 

 ベルゼバブが腕を上げた瞬間、ゾンビのように佇んでいた人々は一斉にビーストに掴みかかった。恐らくベルゼバブに操られているだけの人々を変身した状態で振り払う訳にもいかず、ビーストは動きを封じられてしまった。

 

「うおおっ!? おい、離せ!? みんな死んじまうぞ!」

 

 ビーストの言葉にも耳を貸さず、ただ指令に従うだけの人々はビーストという一点に集合している。

 狙いやすい的だと目を細めるドレイクは剣に魔力を充填する。

 その剣が向けられる先など、瑠美には嫌でもわかってしまった。

 

「どうして、こんなことするんですか!? 私が何をしたんですか……!」

 

「君がゲートだから……ただそれだけさ。これから君が生きていく過程で知り合った人間も皆同じ目にあう」

 

 理由がわかっていても、それでも問いかけずにはいられなかった瑠美の悲痛な叫びはその無情な一言で切り捨てられた。

 見る見る間に瑠美の表情が絶望で崩れていくが、そんなものでは足りないのだ。

 故にドレイクは剣に纏った魔力を衝撃波という形で放つ。

 

 生身の人間など容易く切り裂くに違いない斬撃は何者にも阻まれることなく、ビーストと彼を取り囲む集団の目前にまで迫る。

 

 そして衝撃波は爆炎へと変わり、彼等の姿は耳をつんざくような音をたてて、炎の中に消えていった。

 

「いや、嫌……! 独りは……嫌……」

 

 巻き起こった爆風も、身体に当たるアスファルトの小さな破片も今の瑠美には気にならない。

 親しい友人も、命懸けで戦ってくれた恩人も、皆いなくなってしまったのだから。

 

 自分のせいで。

 

「ーッうあ……! ああああああーっ!?」

 

 瑠美が絶望に沈んだ瞬間だった。

 ドクン、と自分の奥底から響くような衝撃が瑠美を貫いた。

 自分の中で何かが暴れている感覚が信じられないほどの苦痛となって襲いかかり、瑠美の身体に紫に光るヒビが入った。

 ヒビはどんどん広がっていき、今にも瑠美を埋め尽くそうとしている。

 

 視界がぼやける。身体から力が抜けていく。

 

 ああ、これが絶望というものなのか。

 

「ははっ、はははははははははは!! その表情だ! それこそが私の見たかったものだよ! 花崎瑠美! 死の恐怖など生温い、本当の孤独への絶望! 君の生涯の幕引きに今、盛大な拍手を送ろう!」

 

 鼓膜を叩く声も乾いた拍手も瑠美の思考に引っかかることはない。

 彼女の心があるのは二度とと這い上がれない深い絶望という名の泥沼。

 不意打ちの如く訪れた悪夢のような出来事に抗う術を知らない彼女は完全に思考を飲み込まれるまでの微かな間、ただ嗚咽を漏らすことしかできない。

 

 爆炎が晴れた先に彼がいなければ。

 

「き、貴様は!?」

 

「ほう……」

 

 まず見えたのは人一人分ほどの大きさの魔法陣だった。

 その背後では衝撃波に引き裂かれたはずの人々、そしてビーストが五体満足の状態で立っている。

 やがて魔法陣が消えた時、そこでバリアを張っていた人物の姿が明らかになる。

 

「尻尾を巻いて逃げ出したかと思ったが……どうやら違ったようだ」

 

「大地、お前……」

 

「花崎さんは死なせない……僕はもう逃げない!」

 

 仮面ライダーメイジとなった大地は新たに抱いた決意をそこに宣言した。

 

 

 *

 

 

 ドレイクの攻撃がビースト達に命中する寸前、駆けつけたメイジはバリアの魔法を発動し、間一髪というところで衝撃波を防いでいたのだ。

 

「今更ノコノコと出てきたところで、この状況を君ごときに変えられると思っているのか? だとしたら勘違いも甚だしい」

 

 ドレイクの言うことは実際正しいと言える。

 瑠美はすでにファントムになる一歩手前、ビーストも身動きが取れず、消耗している。

 ベルゼバブにすら勝てなかったメイジでは確かにこの状況は逆転できないだろう。

 

 そのことを理解しているからこそ、大地は変身を解いてメイジのベルトを外した。

 代わりに取り出したのは漆黒のバックル、ダークディケイドライバー。

 多少の反応を見せるドレイクを見据えて、大地はダークディケイドライバーを腰にあてた。

 

 怖くないと言えば嘘になる。

 今にも足が折れてしまいそうだし、冷や汗は止まるところを知らない。

 ダークディケイドに自分を奪われるかもしれない。

 ドレイク達には敵わず、殺されるかもしれない。

 

 けれども大地はすでに気づいてしまったのだ。

 自分が今ここで逃げ出してしまうことの方が、瑠美を死なせてしまう方が何倍も怖いことだと。

 だから戦うしかないのだと。

 

 大地はダークディケイドのカードを構え、ドライバーにセットした。

 

 KAMENRIDE

 

『俺が最強の仮面ライダーだ……』

『希望っていうのはタチの悪い病気だ』

『私を苛立たせるな……』

『アギトは俺1人でいい……』

『さあ! 地獄を楽しみな!』

 

 予感していた通り、ダークディケイドライバーから増悪、殺意といった悪意が記憶となって頭に流れ込んでくる。

 しかもその量は前回よりも多く、大地の精神は黒い感情に支配されようとしていた。

 圧倒的な力を持つ快感、敵を倒す喜び。それらに身を任せればそこにいるのはもう大地と呼べるのか、定かではない。

 でも、それでもいいのではないか。どうせ自分がわからないのなら、いっそこの力に身を任せてしまえば……

 意識を手放しかけた大地はその視界の隅に、今にも散ってしまいそうな瑠美の姿が入り込んだ。

 

(駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!! 彼女を、花崎さんを守るにはそれじゃあ駄目なんだ!!)

 

 闇に沈みかけた意識を必死に繋ぎ止め、大地は流れ込んでくる悪意に染まった記憶に抵抗する。

 たった一瞬の、大地にとっては果てしなく長く感じられた時間の中、強烈な疲労と過負荷が大地の心を蝕む。

 その果てで大地は悪意ではない、ある記憶達に辿り着く。

 

『誰でも運命と戦うことはできるはずです』

『だから僕達が、ヒーローにならなきゃいけないんだ!』

『友よ……心の叫びを聞けぇ!』

『俺は自分の弱さと戦う!!』

『俺は不死身だ……この世に自分の存在を刻みつけるその日まで……永遠に!』

 

 その記憶には決して負の感情など込められていない。

 誰かを守りたいという祈り、自分の弱さと戦う決意が濁った大地の心を洗い流していく。もう惑わされることもない。

 

 記憶の中の彼等がそうしたように、大地も今その言葉を本当の意味で宣言する。

 

「……変身ッ!」

 

 DECADE! 

 

 大地の思いを乗せてダークディケイドライバーは作動した。

 無数のヴィジョンが大地に重なり、人型の虚像を形成する。虚像は漆黒の装甲に変わり、バックルから飛び出した七枚のプレートが顔面に融合すれば、同じく漆黒の仮面が大地の顔を隠した。

 最後に青藍の瞳が発光することで、変身は完了する。

 

 ここにいるのは大地でも、ましてやメイジでもない。

 

 ひとりの希望のために立ち上がった戦士、その名は仮面ライダーダークディケイド。

 

「僕は仮面ライダー……仮面ライダーダークディケイドッ!」

 

 高らかに叫び、両手に握り拳を作るダークディケイド。

 一目で戦い慣れしていないとわかる構えであったが、それでもダークディケイドとなった大地の膨れ上がった威圧感はその場にいる全ての異形に伝わった。

 ベルゼバブは勿論、ドレイクやビーストでさえも。

 しかしそれもほんの一瞬のことであった。

 

「姿を変えたところで、貴様に何ができるというのだ!」

 

 最初に動いたのはベルゼバブだった。

 確かにメイジの時とは段違いの威圧感だが、所詮は自分に何もできずに敗北した雑魚に過ぎない。

 すでにメイジを完封した経験をもつベルゼバブはそう驕っていた。

 だからこそダークディケイドがベルゼバブに狙いをすましていたことも、再び姿を変えたことにも警戒しなかったのだ。

 

 KAMENRIDE ETERNAL

 

 純白の身体とは正反対の黒いマントを纏ったライダー、DDエターナルを見ても、ベルゼバブは意に介さない。

 ゲートが絶望した以上、ベルゼバブには手加減をする理由などなかった。

 したがって一撃で仕留めるべく、側面に瞬間移動する。そのまま白い脇腹を貫く刃を突き出したが、あろうことかDDエターナルは自身と剣の間にマントを潜り込ませたのだ。

 

「そんな布切れで防げるものか!」

 

 ベルゼバブの剣はそのマント、エターナルローブを切り裂いてDDエターナルに到達する……はずだった。

 

「馬鹿な!?」

 

「はぁッ!」

 

 なんと剣はエターナルローブを切り裂くどころか、強固な盾となって剣を受け止めたのだ。

 驚きのあまりに剣を持つ力を緩めてしまい、DDエターナルに簡単に弾かれてしまった。

 しかもそれだけに留まらず、DDエターナルは懐から取り出したコンバットナイフでベルゼバブを一閃する。

 食らうはずのなかったカウンターはベルゼバブにダメージ以上の動揺を与え、続けて放たれた前蹴りを受け止めることすらできない。

 胸部に叩き込まれたキックに吹っ飛ばされたベルゼバブは地面に倒れた今でも何が起きたのか把握しきれていない。

 

 ベルゼバブにとっては知り得ぬことだが、仮面ライダーエターナルのエターナルローブとはあらゆる攻撃を無効化する装備である。

 大地がエターナルを選択したのは瞬間移動で不意打ちを狙うベルゼバブに対し、背後及び側面をカバーできるエターナルローブがあるというのが主な理由の一つだ。

 カードの記憶にあるエターナルの巧みな戦闘技術を完全に再現することはできないが、それでもベルゼバブへの有効打としては正解だったようだ。

 

 だがベルゼバブとてそのままやられる訳ではない。

 すぐに瞬間移動によって異空間に逃げ込み、次なる一手を模索する。

 

(どういう魔法かは知らんが、奴のマントは攻撃を弾く。ならば頭上から仕掛ければいい!)

 

 異空間を飛び出したベルゼバブはDDエターナルの頭上に移動していた。

 背後や側面からの出現を警戒してか、DDエターナルは頭上には目も向けていない。

 確実に串刺しにするべく、全体重を乗せた剣の一撃はDDエターナルに気づかれることもないまま頭部に到達するのだ。

 

「死ねぇ!」

 

 ATTACKRIDE ZONE

 

 剣を握る手に伝わったのは確かな感触。

 それは柔らかな肉を貫くものなどではなく、硬いアスファルトに剣先を突き刺したことによるものだ。

 そしてその目に映るのも鮮血ではない。

 

「は?」

 

 DDエターナルはAtoZのT2メモリの力をカードを介して使うことができる。

 ベルゼバブがどこから現れるか予想がつかないDDエターナルはゾーンメモリの力で瞬間移動を繰り返すベルゼバブを強制的に目の前に引きずり出したのだ。

 思わず素っ頓狂な声を出したベルゼバブが隙を晒している間にDDエターナルはカードをセットする。

 

 ATTACKRIDE UNICORN

 

 DDエターナルの行動の全てがベルゼバブには理解できない。

 自分が突き刺したのはDDエターナルのはずだ。何故奴は自分の前に立っているのだ? 

 攻撃しているのは自分のはずだ。何故奴は自分に拳を突き出しているのだ? 

 何故────

 

「グァァァアアッッ!!?」

 

 太い角を幻想させる螺旋状のエネルギーを纏ったコークスクリューパンチに顔面を砕かれたベルゼバブは尽きぬ疑問を抱えたまま、肉体を爆散させたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……あれ、私こんなところで何を」

 

「……キャッ!? 何よあの化け物!?」

 

 ベルゼバブを葬ったDDエターナルの耳に聞いたことない声が届いた。

 見ると、ビーストを取り囲んでいた人々は突然我に帰ったように騒ぎただしていたのだ。恐らく人々を操っていたベルゼバブが死んだことで洗脳が解けたに違いない。

 パニック状態になった人々は瑠美に気づくこともないまま、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 瑠美を絶望させるという目的を達成したドレイクも今更彼等をどうこうするつもりはないようで、静かにDDエターナルを警戒している。

 

 相変わらずこちらを射殺さんばかりの殺気を漂わせるこのファントムはベルゼバブのようにはいかないだろう。

 

 いつでも攻撃を防げるようにマントに手をかけたDDエターナルの隣に、ようやく解放されたビーストが並び立つ。

 

「助かったぜ、大地」

 

「仁藤さん、さっきはすいませんでした。僕は」

 

「皆まで言うな。まずはあいつを倒して瑠美ちゃんを助けるぞ」

 

 このダークディケイドという鎧に身を包んでなおドレイクという存在は恐ろしい。

 それでも大地にはさっきほどの恐怖はない。ビーストという心強い仲間がいるのだから。

 

 今なら仁藤が言っていた言葉も理解できる。

 仁藤攻介という男はどんなに絶望を突きつけられようと、自分を含めた皆を絶対に守ろうとする仮面ライダーなのだと。

 

 大地がそう思った刹那、ライドブッカーからとあるカードが飛び出した。

 

「ん? これは……」

 

 そこにあるのはビーストが描かれたカード。それも先程までのぼやけたシルエットではなく、正真正銘仮面ライダービーストを記録したカードだ。

 

「仁藤さん、僕も貴方のように戦います。明日の自分よりも、今の自分がやりたいことのために! だから貴方も、花崎さんも死なせはしません!」

 

「大地……わかった! 一緒にあいつを食ってやろうぜ!」

 

「いや、僕は食べないんですけど」

 

「あぁそれと、ほれ」

 

 そう言ってビーストは懐から何かを取り出して、DDエターナルに投げ渡した。

 突然渡されたそれを取り落としそうになりつつ、なんとか受け止めた。

 それはビーストの顔を模したリングであり、これを渡したビーストの意図が大地には読めなかった。

 

「あの金ピカは俺が抑えるから、お前はそれで瑠美ちゃんを助けてやってくれ。瑠美ちゃんのアンダーワールドの中のファントムを倒すんだ」

 

「でも、それだと仁藤さんが」

 

「もうあんなやろーには負けねえよ。だから早く行け!」

 

 その言葉を最後にビーストは気合いの叫びをあげて、ドレイクに突貫して行った。

 傷ついた仁藤のことは心配だが、今は彼の言う通り瑠美を助けることが先決なのは確かだ。

 

 エターナルの変身を解除して、瑠美の傍に腰を下ろすダークディケイド。

 しかし、ダークディケイドの姿のままではこの指輪は使えない。

 どうしたものかと思った瞬間、リングはダークディケイドの手の中で光を放ち始めた。

 その光が収まった時、そこにあるのはリングとは全く異なるもの。

 

「リングが……カードに?」

 

 不可解な出来事ではあるが、迷っている暇はない。

 このカードでなんとかなるはずという予感に従ってドライバーにそのカードをセットするダークディケイド。

 横たわっている瑠美を励ますようにその手を取り、優しく声をかけた。

 初めて出会った自分に彼女がしてくれたように。

 

「花崎さん、約束します。僕が貴方の希望を守ります」

 

 ATTACKRIDE ENGAGE

 

「大地……さん……」

 

 声を出すのもやっとらしい瑠美の姿は見ていて辛かった。

 エンゲージリングの効果で瑠美の精神世界、アンダーワールドへの扉が開かれたことを確認したダークディケイドは彼女の笑顔を胸に、その扉を潜り抜ける。

 

 例えその先に何が待ち受けていようと、決して逃げ出しはしない。

 

 抱いた決意に背中を押されながら、大地は瑠美の中の魔力の奔流に身を任せて突き進んで行った。

 

 

 

 




仮面ライダーダークディケイド

変身者が記録したライダーに変身する能力を持つ。
しかし、強い意思がなければ、変身者はカードに込められた記憶に飲み込まれてしまう。
また一度変身した後、再度の変身にはクールタイムを必要とする。

アタックライド エンゲージ

ビーストエンゲージリングが変化したカード。
その効果はエンゲージの魔法と同一のもの。

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