仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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まさかの二分割。長いぜぇ


父と子 前編

 

 

 あるところに昴くんという男の子がいました。

 

 昴くんにはお母さんとお父さんがいましたが、あまり好きではありませんでした。何かと理由を付けては、いつも昴くんをぶってくるからです。

 他にも食べ残しを投げられたり、煙草の先を押し付けられたり……酷い時には革のベルトで打たれたりもしました。

 まともなご飯さえ食べさせてもらえず、狭いアパートの一室にずっと閉じ込められる。そんな毎日の連続が続いて、昴くんはどんどん痩せっぽちになっていきます。

 

 今日はごはんがたべられますように。

 そんな風にお願いしながら、昴くんはその日も部屋の隅で縮こまっていました。

 昴くんのお願いが届いたのか、定かではありません。

 しかし、不思議な不思議な……とっても不思議なことは起きたのです。

 

「誰……? どこから入ってきたの……?」

 

 なんと、昴くんに負けず劣らずのヨレヨレな服を着た男の人が突然現れたのです。

 その人は白い箱を差し出して、こう言いました。

 

「俺が何者か知ったところで、その飢餓は満たされはしない。

 お前の一生はこの地獄で終えることになるだろう。

 だが、お前は抜け出したいと願うなら。

 その手段を、お前にやろう」

 

 男の人が言っていることの半分も昴くんには理解できませんでした。

 ただなんとなく、助けてくれるわけではないとわかりました。

 

「ごはん、食べられるようになるの……?」

 

「……これほどまでに────」

 

 それまで無表情だったその人の顔が、僅かに歪みました。

 ほんの一瞬でしたが、とても辛そうに。

 この人もお腹が空いているのかな、と昴は考えました。

 

「生き延びたければ戦え。ライダーとして」

 

 その人は白い箱を置いて、いなくなりました。

 

 

 それから数日が過ぎて。

 

 渡された白い箱をどうすればいいのかもわからないまま、昴くんの苦痛に満ちた生活は何も変わりませんでした。

 ……いえ、変わったことはありました。

 窓ガラスや鏡に見たこともない、沢山の白い変な虫が見えるようになっていたのです。

 それがシアゴーストと呼ばれるモンスターなのですが、昴くんには知りようもないことでした。

 

「おなか……ごはん……。

 

 ────虫さんも、おなか空いてるの……?」

 

 鏡の向こうから聴こえる鳴き声。

 何故だか、昴くんにはそれが空腹を訴えているように感じました。

 白い箱に入っていたとあるカードのお陰で、虫さんは昴くんを襲うことはありませんでしたが、代わりにお父さんとお母さんはいなくなってしまいました。

 

 そして、それからすぐのことです。

 昴くんは新しいお父さんと出逢いました。

 

 

 

 

 父に従ってレギオンに変身した昴。

 自身の首を狙った剣先を呆けたように見つめていた。

 お父さんが自分を殺そうとしているのだ、と気付きはしたが、抵抗はしない。

 そしてアマンダの迷いなき太刀筋はそのままレギオンの首を刎ねるかに思われたが。

 

「止せぇ!」

 

 ガキン! と鳴った派手な音と共に火花が散った。

 槍と剣がかち合い、レギオンの首は繋がったままで済んだ。

 黒槍の使い手、騎士がレギオンを庇って立つ。

 

「正気か、お前。コイツはお前の息子だろう!?」

 

「秋山蓮……!」

 

 思わぬ邪魔が入ったことに溜息を吐くアマンダ。

 文字通りの横槍に苛立ちを隠そうともしていない。

 

「息子だからこそ、だ。昴は私の手で殺す」

 

「ライダーバトルに興味は無い、と言っていたな。

 あれは嘘だったというわけか」

 

「違う! 君達ライダーのような私欲に駆られた愚かな殺人と一緒にしないでもらおうか! 

 昴の罪の清算。私の理由はそれだけだッ!」

 

 ADVENT

 

 召喚されたバズスティンガー達がナイトに襲いかかる。

 排除を目論むモンスターに対し、ナイトもまたカードを切った。

 

 TRICK VENT

 

 数を増やしたナイトがバズスティンガーを迎え撃つ。

 相変わらず質の面で負けてはいるが、ある程度は持ち堪えられる筈だ。

 モンスターの相手を分身に任せ、ナイトはウイングランサーでアマンダに斬りかかる。

 剣と槍が互いに削り合った。

 

「罪だと? 一体どういうことだ」

 

「昴が契約しているのは白いヤゴ型モンスター。

 あのモンスター達がこの病院に現れるようになったのは、ちょうど事件が発生した頃からだ。君も何度も目にしているだろう?」

 

「だからって、あの子が犯人だと決め付けるのか? 馬鹿馬鹿しいにも程があるな」

 

「────ううん。お父さんが合ってるよ」

 

 レギオンがポツリと呟いた一言に、ナイトの力が一瞬緩む。

 槍を弾かれ、回し蹴りで吹っ飛ばされたナイトは信じられないといった様子でレギオンを見た。

 その肯定が何を表すのか、わからない子でもあるまい。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ……ぼく、どうしたらいいかわからなかったの」

 

「本当に……モンスターに喰わせていたのか? お前が?」

 

「────おなかが空いたって言ってたから……」

 

 モンスターは腹を空かせる。

 ライダーがそれを満たす。

 ごく当然の摂理を言い訳の如く述べる理由を見出せず、ナイトは閉口してしまった。

 

 だが、アマンダは違う。

 レギオンにとって────昴にとっての“空腹”というものがどれほど辛いことなのか、理解していた。

 そして自身の子が抱いているどうしようもない優しさも。

 

「……認めよう。そう、いくらでも認めるとも。

 やはり私は親失格だ。

 昴がライダーになることを止められず、気付くことさえできなかった愚か者だ。

 いや、それとも道化か? これではライダー諸君を笑えないな」

 

 己を自嘲するアマンダ。

 鉄仮面を強く押さえて、ミシリと音が鳴った。

 申し訳なさそうに俯くレギオンは未だに呪文の如く「ごめんなさい」を繰り返している。

 

 ライダーという衣が無ければ、「叱る父と叱られる息子」というありふれた光景になっていたはずなのだが。

 

「……許せ、などと言うつもりはない。

 天国なんて世界があるなら、きっとお前はそこに行ける。

 そうなると私は十中八九地獄行きだが……まあ仕方あるまい。

 子を殺した親には相応しいだろう」

 

 アマンダの剣が鈍く輝く。

 最速でレギオンへと至ろうとした剣先は、再度防がれる。

 ナイトのダークバイザーによって。

 

「お前はコイツの父親なんだろ! 

 父親なら……何に代えても子供を守るんじゃないのか!」

 

「……意外だよ、秋山 蓮。

 君がそこまで人情に厚いとは。

 だがね、私は父親である前にこの病院の副院長なのだよ。

 私には患者を守り、そして喰われた患者達の無念を晴らす義務がある。

 例え自分の息子が相手であっても!」

 

 情を捨てた父と情に流された騎士。

 俯く子を前に、両者は一歩も譲ることなく斬り結ぶ。

 

 

 *

 

 

 下の階でそんな戦闘が起こっているとは露知らず。

 ダークディケイド────大地とネガタロスの雄叫びが重なり、ライドブッカーを振り上げる。

 余裕の態度で佇むオーディンが目前に迫った時、剣を振り下ろすかに見えたダークディケイド。

 しかし、その手あったのは剣だけではなかった。

 

 KAMEN RIDE ZANGETSU

 

 頭に被ったメロンのアーマーが展開し、ダークディケイドはDD斬月となる。

 収納されたライドブッカーの代わりに持つ剣と盾──無双セイバーとメロンディフェンダー。

 カメンライドを事前に把握していたらしきオーディンは突然姿を変えたことに驚きもしないが、DD斬月にはむしろ好都合と言える。

 警戒心が無いのなら、初見殺しの技を見切られる心配も要らないのだから。

 

「コイツはちょっとしたご挨拶だ!」

 

 無双セイバーのブライトリガーを引き、エナジーチャンバーにエネルギーが充填される。

 至近距離にまで至ったDD斬月は剣を振ると見せかけ──ムソウマズルから弾丸を連射した。

 

 無双セイバーは優れた剣でありながら、弾丸を放つことも可能とする。

 そんな不条理を初見で見抜けるはずもなく、ましてや剣が当たるような近距離では見てから回避も不可能だろう。

 黄金の装甲に直撃する四発の弾丸を見て、先制はもらったとほくそ笑むDD斬月。

 

 ────次の瞬間、背後から殴られた。

 

「……あ?」

 

 後頭部に広がる痛みより、困惑の方が勝った。

 

 いつのまにか背後にいるオーディン。弾丸が当たった痕跡が一つも無い美麗な装甲。奴が居た場所に舞う金色の羽。

 

 答えを導き出そうとする思考を断ち切るように、DD斬月が再度殴られる。

 一瞬前まで背後にいたはずのオーディン。その裏拳を叩きつけられたのだと気付いた時、同時にこの不可解な事象を見破った。

 

「────瞬間移動だと!?」

 

 よろめきながらも、追撃の三打目はギリギリ盾で防ぐDD斬月。

 その声に滲み出る驚愕はネガタロス史上最大といっていい。

 だがそれも当然だろう。

 何せこのオーディンというライダーは瞬間移動なんて強力無比な能力をカード無しで、しかも無制限に行使できるのだろうから。

 こんなインチキ能力のライダーなど、ダークディケイドの中にも五といない。

 

 DD斬月は吹っ飛びそうになった盾をしっかりと握り直し、踏み込みの一刀を振るう。

 威力ではなく、速度に磨きをかけたその斬撃もやはり金色の羽を裂くしかできない。

 真横から出現したオーディンの凪ぐような打撃にDD斬月の装甲が捲られるほど火花を噴いた。

 

(このメロンライダーじゃ対抗はできねぇ! 

 瞬間移動にも追い付けるような超スピードならあるいは……ん?)

 

 DD斬月の思考に割り込む幾つかの記録のヴィジョン。

 時をかける青いライダーと、永遠を司る白いライダーの記憶。

 そういえばこのベルトにはそんな機能もあったな、と思い出した。確か状況に応じてライダーを指示してくる、だったか。

「このカードを使おう」と大地は提案してきたが、ネガタロスはそれを一蹴する。

 

(ケッ、何が好きで電王のカードなんざ使わなきゃならねえんだ。俺様のやり方で勝つまでよ)

 

 KAMEN RIDE SASWORD

 

 姿は変えども、剣という武器は変えない紫の蠍。

 サソードヤイバーを軽く振ったDDサソードを見ても、オーディンは動じない。

 そんな彼らの背後から二つの攻撃が迫っていた。

 

 SWING VENT

 

 ドラゴニックフィニッシュ! 

 

「ォオオオッラァ!」

 

 青き龍の息吹を乗せたキックと、空気を裂く鞭の一撃が別々の方向から見舞われる。

 しかし、やはりオーディンには当たらない。クローズとライアの同時攻撃を容易く躱し、離れた場所に瞬間移動していた。

 

(今だッ!)

 

 ATTACK RIDE CLOCK UP

 

 そこへすかさずDDサソードが発動したカードが、彼を異なる時間の流れへ誘った。

 全てがスローモーションになった世界で、DDサソードはオーディンへと駆けていく。

 手を伸ばせば届く距離にまで近付いても、オーディンは微動だにしていなかった。

 

「今から切り刻まれるってのに、随分と余裕だなぁ?

 ま、聴こえてもいないし、見えてもいないか。

 今のお前の気分を聞いてみたかったが……これで終いだ」

 

 DDサソードが抜いた紋章のカードは事実上の死刑宣告。

 もう少しこの金ピカ間抜け面を眺めていたい気もするが、しかし油断は禁物と己を律した。

 そしてDDサソードはカードを入れようとする。

 

 だがしかし。

 

(駄目だネガタロス! この人が死んじゃう!)

 

 一時的に主導権を握った大地が、その手を止めてしまった。

 

「……ハァ? 今更何言ってやがる。コイツは間違いなく神崎の手先だぞ? 

 大地、まさかお前こんな状況になってもまだ『人間は殺さない』とか言うつもりじゃねえだろうな」

 

(そのまさかだよ。僕は人間は殺さないし、殺させない)

 

 相変わらず青臭い台詞を吐く奴だ、とネガタロスは心の中で吐き捨てる。出会った頃に垣間見たワルの気配は気の所為だったのかもしれない。

 

 しかし、今はそれよりオーディンだ。

 ネガタロスは難なく身体の主導権を奪い返すと、大地の叫びを無視してカードを装填した。

 

 FINAL ATTACK RIDE SA SA SA SASWORD

 

 迸るタキオン粒子と滴る毒液の両方を纏ったサソードヤイバーを腰に構えるDDサソード。

 並居る怪人共を一撃で屠れるだけの威力を宿したその斬撃こそ、サソードのライダースラッシュである。

 その必殺の斬撃が一度のみならず、二度三度と放たれるが────手応えが無い。

 斬り裂かれた筈のオーディンの身体、その一端が羽と散る。

 

「……チッ、間に合わなかったか」

 

 恐らくこちらがクロックアップを発動した時点でオーディンは次の手を打っていたのだろう。

 瞬間移動している最中の相手を斬り裂くことは流石にできない。

 もはや見飽きたと言っていい羽の吹雪を鬱陶しそうに斬り伏せようとしたDDサソードの肩に、そのうちの羽が一枚付着した。

 

 ────そして、爆ぜる。

 

「何ッ!?」

 

 連鎖する爆発。

 オーディンの特殊能力は瞬間移動だけではなく、爆発する羽を散らすこともできるのである。

 

 それらの合わせ技に正面から突っ込んでしまったDDサソードの全身で爆発が連鎖した。

 

「ガアアアアアアアッ!?」

 

 クロックオーバー。

 本来の時間流に引き戻されたDDサソードの膝がガクリと折れた。

 今の攻撃だけで許容量を超えてしまった故に、サソードのカメンライドも強制解除されてしまう。

 

「な、なんだよ今の……」

 

 クロックアップを認識できないクローズ、ライアはただただ混乱していたが、そんな彼らの背後でまたもや羽が散る。

 クローズの後ろを取ったオーディンの手には杖のような武器──ゴルトバイザーが握られていた。

 

 SWORD VENT

 

「……後ろだ! 万丈!」

 

 警告は間に合わない。

 オーディンの振るう双剣──ゴルトセイバーの乱舞がクローズを踊らせる。

 他のライダーのファイナルベントにも匹敵する威力の斬撃を食らったクローズは吹っ飛ばされ、ダークディケイドの隣に身体を滑らせた。

 

「ぐ……強え……!」

 

「万丈! くっ!」

 

 敵わないとは薄々わかりつつ、それでもしならせた鞭を浴びせようとするライア。

 頭部を狙って放った一撃は逆にゴルドセイバーに絡め取られてしまい、即座に切断されてしまう。

 使い物にならなくなったエビルウィップが彼の足元に落ちた。

 

 ライアが次なる一手を打つべくカードを抜いたものの、その動きを制止する声が響いた。

 

「待て、お前達とはまだ戦うべき時ではない」

 

 オーディンが構える双剣の剣先。その片方をライアへ、もう片方をまごついているインペラーへ向けられた。

 何を言ってやがる、と思いながらダークディケイドは次なる言葉に耳を澄ませる。

 

「本来なら私と戦うのは最後の一人だけ。

 お前達は大人しく去ればいい。

 だが……奴らのようなイレギュラーに手を貸すというのなら、脱落と見做す」

 

 脱落。つまりは死。

 なんとも判りやすく、神崎らしい脅しだ。

 ライアの答えは言うまでもない。

 

 COPY VENT

 

 オーディンが持つ双剣の片方をコピーするライア。

 突き付けられた最後通告を切って捨てる行為にオーディンは小さく笑う。

 そしてその視線は残る一人に絞られた。

 自身を貫く無機質な視線が恐ろしく、インペラーは尻餅をついた。

 

「あ、その、お、俺……」

 

 ビクビク怯えている部下に向けて、わかりやすく殺気を放つ。

「お前裏切ったら殺すぞ」と目で語るダークディケイドにインペラーの恐怖は膨れ上がっていく。

 どっちに従っても殺されそう、というのがインペラーの本音。

 だが、無敵と思われていたダークディケイドを赤子のようにあしらうオーディン相手にインペラー如きが何をできるというのか? 

 

「ご……ご……ごめんなさ……」

 

「佐野ォ……?」

 

 ぎこちない方向転換。

 その先は現実世界に通じる出入り口。

 強めた殺気を浴びて、逃げ出そうとした小さき背中が硬直する。

 

「お、俺は────」

 

 

 *

 

 

 

 恐ろしい二者から同時に脅されたインペラーは、早くも参戦してしまったことを後悔し始めていた。

 ちょっとばかし手強いモンスターをリンチしてパパッと終わらせるつもりで来たのに、気付けばとんでもないライダーと戦う羽目になるなんて。自身の不運を呪いたくてたまらない。

 

(冗談じゃないって! こんなとこはさっさと逃げるに限るよ)

 

 抜き足差し足忍び足。

 出口を目指してゆっくりと歩み始める。

 その一歩を踏む度に、黄金の殺気が弱まり、漆黒の殺気が強まる。

 

 出口の先にある現実世界が見えてきて、少しだけ安堵するインペラー。

 だが、そこに映っていたのは風景だけではない。

 

 病院の外、敷地内で祈るように手を合わせている瑠美がいた。

 すると何故だか、彼女と先ほど交わした会話や、大地との会話が頭に蘇ってきてしまう。

 

『……ええ、佐野さんさえよければ。これからも一緒に戦ってもらえますか?』

 

(無理無理無理! 全然良くない! あんなとんでもない奴となんて戦えないって!)

 

『ま、まあ? この世界にいる間ならバリバリ働いちゃうし? 

 瑠美ちゃんも俺がバッチリ守っちゃうから、泥船に乗ったつもりでいてよ!』

 

(もー金額分は働いたよ! これにて退職ってことで良いですよね!?)

 

 大地に言われて嬉しかった言葉、自分で叩いた大口が脳裏で蘇っては、それに一々反論する。

 正義に燃える熱血漢でもなく、利己的に考えを巡らせる冷血漢とまでもいかず、本当に普通の男が持つただの罪悪感。

 悪いことをするよか、良いことした方が気分は良いと思う気持ち。

 それこそがインペラーを踏み止まらせる最後の防波堤なのだ。

 

 逃げたい気持ち九割、逃げたくない気持ち一割。

 せめぎ合う心を吟味し、ダークディケイドとオーディンが織り成すプレッシャーで串刺しにされながらインペラーはついに結論を出す。

 それはなけなしの勇気を振り絞った、最大限の妥協であった。

 

「俺、危なくなったら即逃げるんで! それで勘弁してください!」

 

 インペラーはそう言って、超高速すり足でダークディケイドの後ろに寄る。

 

 縮こまって、なるべく攻撃は受けないような位置取りで。

 

 それを蛮勇と見るか、それとも情けないと笑うかは意見が分かれることだろう。

 

 だが、彼は逃げなかった。

 

 仮面ライダーインペラーとして、戦場に立つことを選んだのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

「佐野……お前」

 

(佐野さん……)

 

 自身の後ろでビクついているインペラーを意外そうに見るダークディケイド。

 正直言って、もう逃亡は止められないと半ば諦めていたのだが、彼がこうして勇気を見せたことをネガタロスは少々評価し、大地は心から感動していた。

 どう見てもオーディンに対する盾にする気満々の位置取りには呆れつつも、まあ次第点はくれてやる。

 

「……まあいい。そこまで期待はしてないしな」

 

「へへへ……」

 

「────それがお前の答えか?」

 

 オーディンの冷たき問いに、インペラーの肩がビクリと震える。

 そんな彼に向けられた双剣をダークディケイドが遮った。

 

「俺様に断りなく部下を脅そうたあ、いい度胸してるな。

 コイツは冴えない部下だが、それなりに有用だ。

 てめえ如き()()()に手出しはさせねえよ」

 

「しゅ、首領〜!」

 

 それ以上の問答は無用と断じたか、瞬間移動するオーディン。

 視線を巡らせる間もなく、目前で煌めく鋭い剣尖。

 クローズと二人がかりで辛うじて受け止めた双剣はしかし、押し返す前に消える。

 

「全員で円を組め! 互いの背中を守り合えば死角は減る!」

 

 ダークディケイドが放った号令の下、その合理性を理解したライダー達は素早く指示に従う。

 一人離れていたライアの合流を阻むべく出現したオーディンの背中に半透明の青いオーラが衝突。ダメージこそ無いが、オーディンが思わず振り返った先では、そのオーラがダークディケイドを包んでいた。

 

「馬鹿の物真似に頼るのは業腹だが……背に腹は代えられねえか。

 さて、俺様を失望させるなよ……孫!」

 

 KAMEN RIDE NEW DEN-O

 

 未来的な効果音を忙しく鳴らし、変身を完了するDDNEW電王。

 腰に手を添えて重い息を吐く仕草は、その変身が本当に渋々決行したものだと誰が見ても察せられる。

 自身の宿敵たる電王と類似したライダーに変身するという行為はネガタロスにとってそれだけ嫌なことなのだ。

 

 非常に業腹だが、相手はこのネガタロスとダークディケイドが揃ってなお手に余る。

 個人的な感情に足を掬われて勝ちを逃すなど愚の骨頂。となればこの際私怨は一切捨てて、全力でかからねばなるまい。

 

「ウォーミングアップは終わりだ。こっからは、俺様達の勝利へのカウントをぶち刻む!」

 

 ATTACK RIDE MOMOTAKEN URATAZAO KINTAONO RYUUTAJUU

 

 四枚のカードによる連続アタックライド。

 剣、釣り竿、大斧、銃と多様な武器が召喚され、DDNEW電王を囲んで突き刺さる。

 さらにそこへマチェーテディという大剣が加わり、DDNEW電王が握るデンガッシャーとライドブッカーも合わせて七種もの武器を取り揃えた。

 武器とライダーで構成された円陣の中、感覚を研ぎ澄ましてオーディンを待ち構える。

 

「右かッ!」

 

 反射神経を総動員して捉えたオーディンに突き出すデンガッシャー。

 空を突いたその剣は即座に地面に突き刺され、クローズを斬りつけようとしたオーディンを狙い撃つリュウタガン。

 ビートクローザーの斬撃をいなし、インペラーの前に現れた所へ豪速で打たれるウラタザオ。

 正面から迫る双剣を防ぐは、マチェーテディとモモタケン。

 

 武器を目まぐるしく持ち替えて、神出鬼没なオーディンに対応するという荒唐無稽なテクニック。

 この人間離れした技もネガタロスが大地に憑依して、かつダークディケイドに変身することでようやく発揮できる。

 

「名付けて、地獄の七重奏(ヘルズセプテット)!」

 

「カッコつけてる場合か!」

 

 クローズが突っ込むように、実際のところかなりギリギリなのだが。

 オーディンが攻めあぐねている、という形にしているだけでもかなりの快挙と言って差し支えない。

 

 そうして神経を擦り減らす、終わりの見えない極限の攻防を続ける中で先に痺れを切らしたのはオーディンの方であった。

 

「ハアッ!」

 

 一旦距離を置いたオーディンが手をかざす。

 すると鉄壁の陣形の上から飽きるほどに見た黄金の羽が降り注いできた。

 それが先ほどの爆発する羽だと直感で理解したライダー達はすぐに武器を頭上で構えるも、多くの羽が彼らの装甲で弾けた。

 

「ぐっ……これほどとは」

 

「しゅ、首領。俺もう逃げていいすか?」

 

「早えよ! ったく、やはりあの羽は厄介に過ぎるな……! 

 アレをどうにかするカードは……」

 

「……あ、そうだ」

 

 絶大なダメージに悶えるライダー達。

 高度な連携を捩じ伏せる圧倒的な実力差にネガタロスでさえ戦慄していたが、クローズだけは異なる反応を見せていた。

 まるで何か妙案を思い出した、という風に懐を探り出して青緑色のボトルを取り出している。

 

「万丈、ソイツで行けるか?」

 

「前に戦兎から教えられたやり方なら多分絶対できるぜ」

 

「……よし、全員立て!」

 

 ライダー達は再び立ち上がり、円陣を組む。

 性懲りも無く同じ体勢で待ち構える者達を見て、オーディンの鼻が鳴る。大方、愚かとかなんだとか思っているのだろう。

 

「万策尽きたようだな。ならばお前達はこれで脱落だ。ハッ!」

 

 再度降り注ぐ羽の雨。

 クローズは待ってましたとボトルを振って、ビートクローザーに装填した。

 

 スペシャルチューン! ヒッパレー! 

 

 スマッシュスラッシュ! 

 

 掲げた剣を大きく振り回すクローズ。

 一見何も起こっていないかに思われたが、変化はすぐに訪れる。

 回した剣から不可視の渦が生まれ、なんと宙を舞っていた羽が纏めて吸い込まれていくではないか。

 クローズ以外の全員が目にしたその光景にとある既視感を覚えた。

 

()()()()()()()()()()()

 

「スイコミ斬りィィ!!」

 

「馬鹿な……ムッ!?」

 

 斬撃と共に吸い込んだ羽が嵐となって放出され、オーディンに殺到していく。

 自身の技をまさかこんな形で返されるとは予想だにしなかったオーディンは大きく動揺してしまい、瞬間移動やガードベントの発動もできないまま羽の暴風に曝されてしまった。

 神速の勢いで振るう双剣の風圧が微かに羽を散らしたが、それでも掃除機フルボトルによって凝縮された密度をほんの少し削っただけに過ぎない。

 そしてついに到達した羽の嵐に、オーディンの全身で吹き荒れる。

 

「グアアア……ッ!?」

 

 全身から火花を噴いて悲鳴を上げるオーディン。

 戦闘が始まって以降、ようやくダメージと呼べるようなものを与えることができたのだ。

 しかし、喜んでばかりもいられない。同じ手が二度通用するとも限らないのだ。

 

 DDNEW電王はふらついたオーディンに伸縮したウラタザオを巻き付け、瞬間移動を封じようと試みる。

 的確なコントロールで弧を描いた釣り針は見事に金の装甲にかかり、その胴体も竿に縛られる。

 しかし悲しいかな、所詮は釣り竿。オーディンが少し力を込めればすぐに解けてしまう程度の拘束でしかない。

 

 DDNEW電王の目論見を理解したライアが真っ先に駆け出し、遅れてクローズも追いかける。

 竿を寸断しようとした双剣、右をライアのゴルドセイバー、左をクローズのビートクローザーが上から斬り伏せることでその拘束をより強固なものとした。長持ちはしないだろうが、短時間ならその場に縫い付けることはできる。

 

 かくして、ライダー三人によって封じられたオーディンの瞬間移動。

 勝機を狙うならば、ここが最大のチャンスであることは疑いようもない。

 そしてそのチャンスを委ねるべき相手は、言葉無き連携に一人付随できなかった故に棒立ちしていたインペラーを置いて他にいまい。

 

「決めろ佐野ォォォーッ!!」

 

「ええっ、俺すか!? そんな急に────いよしっ! 決めちゃいますかぁ!」

 

 FINAL VENT

 

 突然の大役に戸惑い、しかし腹を括って必殺技を発動するインペラー。

 跋扈する無数のゼール軍団が背後から主を飛び越え、縛られたオーディンへと一斉に群がる。

 レイヨウ型モンスターが波打つ濁流の中で、ゼール達が打ち、突き、斬る。

 インペラー自身の技量が不足している故か、細かな調整が効かない所為でクローズとライアにもその牙は剥かれる羽目になったのだが、彼らは離脱よりも耐えることを選んだ。

 

 必死に喰らいつくライアとクローズ。

 細い釣り竿一本でふん縛るDDNEW電王。

 その全てが自身への期待に繋がっているのだと理解した時、インペラーの心にこれまで感じたことのなかった高揚があった。

 

「ハァァァ……!」

 

 豊かな生活を夢見て、ひたすら損得勘定だけで生きてきた。

 だが、せめて今だけは、この瞬間だけは。

 大地達の言う“真っ当な仮面ライダー”になってみるのもいいかもしれない、と。

 インペラーはそう思いながら、地面を強く蹴った。

 

「ヤァァァァーッ!!」

 

 かつてないほどの気合いを声にして張り上げる。

 そしてインペラー全身全霊をかけた膝蹴りが山吹に光る胸部装甲に亀裂を走らせる。破片を撒き散らして吹っ飛ぶオーディンの身体。

 こうして、5000APもの威力のドライブディバイダーが炸裂したのだった。

 

「ハァハァ……や、やった! 首領〜! 俺やりました〜!」

 

 自分の大金星が信じられないといった様子ではしゃぐインペラー。

 よほど嬉しかったのだろうか、クローズとハイタッチまでしている始末。

 NEW電王のカメンライドを解除したダークディケイドはおめでたい奴だ、と漏らして軽くデコピンする。

 

「まーだ終わってねえよ。お前、蹴り込みが浅かったぞ」

 

「え……」

 

 ほれ、と顎で指し示せば、そこにはしっかりと立ちあがるオーディンの姿。

 インペラーは喜色を瞬時に飛散させて、ダークディケイドの背に隠れた。自身のファイナルベントが効かなかったのは中々堪えたらしい。

 だが、彼の与えたダメージはしっかり刻まれており、先ほどまでの余裕は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「ど、どうやらお前達を甘く見ていたらしい。

 その力、やはり始末するしかない」

 

「どうやってやるってんだ? そんな身体でまだ俺様達に勝てると思ってるなら、底抜けの馬鹿だな。

 言っとくが、お前に次なんてないんだぜ」

 

 ダークディケイドの言う通り、大きく亀裂が走っている胸部を初めとしてあらゆる箇所が傷付いているオーディンの勝ち目はかなり低くなっている。

 にも関わらず、オーディンには焦りというものがない。それが一層不気味であった。

 

「私だけにはある。お前達には無い。ただそれだけのことだ」

 

 虚空より出でたゴルトバイザーに一枚のカードが装填された。

 

 

 そこに描かれていたのは────。

 

 

 TIME VENT

 

 

 ────時間だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ────ドスッ。

 

 

 鈍い音がした。

 

 

 どこからこんな音が、と見渡そうとして、妙な物体が目の前にあることに気付く。

 

 

 真っ赤に汚れた刃。滴り落ちる鮮血。

 

 

 それは、自分の腹から突き出ていた。

 

 

「……グフッ」

 

 

「どうして」と呟こうとして、血の塊を吐き出した。

 

 

 貫いていた刃が勢いよく引き抜かれ、途端に身体から力が抜ける。

 同時に砕かれていたデッキの破片が散らばり、生身の身体を晒す。

 そんな彼の名前を呼ぶ声が響いた。

 

 

「────佐野ォ!!」

 

 こうして仮面ライダーインペラー、佐野満は地に伏すこととなった。

 彼に致命打を負わせた下手人であり、一連の流れを唯一把握しているオーディンは刃を濡らす血を払い落としている。

 

「マジかよ……今、何が起こったっていうんだよ……!」

 

 クローズ、そしてライアが呆然とするのも無理はない。

 何せクローズが放った斬撃をまるで予め知っていたかのように防ぎ、あっという間にインペラーの背後に瞬間移動。そのまま刺し貫いてしまったのだから。

 

「しゅりょお……」

 

 血溜まりに沈んだ佐野がわなわなと震える腕を持ち上げる。

 流れ出る血の量からしてもう手遅れだ。

 しかしダークディケイドの万能を駆使すれば、まだ助かる余地はある。そう信じて、助けの手を伸ばす。

 

「……」

 

「助けてぇ……首領、先輩……」

 

 回復はおろか、何のアクションも起こす気配が無いダークディケイド。

 うわごとのように助けを求める佐野に駆け寄るでもなく、微かに首を振った。

 

「ご苦労だった、佐野」

 

 その身体の内でどんなに大地が叫ぼうと、ネガタロスは聞く耳を持たない。

 今のダークディケイドはクロックアップに大量の武器召喚まで行使したのだ。もはや戦力として扱えない者の救助と、回復で失う体力を天秤にかけた結果、非情な決断を下した。

 

「あ……ああ、い、嫌だ、首領! せんぱぁい! たすけ、助けてぇ……!」

 

 最後にそれを理解してしまったのだろう。

 佐野は必死に助けを乞い続け──その腕が消えかけていく。

 このミラーワールドにおいて、生身の人間が存在することは許されない。佐野とてそれは理解している。

 

 もう金などどうでもいい。

 生きたい。死にたくない。

 そう願って愚直に伸ばした手は誰にも届くことはなく。

 

「先輩! 先輩! 俺、死にたくないです! 何でもしますから! タダ働きでも何でも!」

 

 大地はどうにか身体の主導権を取り返そうとするが、ネガタロスも頑なであった。

 貴重な部下であるのは認めるが、自分を犠牲にして助けることもしない。悪の組織とはそういうものだ。

 

「掴まれ、佐野!」

 

 居ても立っても居られなかったクローズが佐野に手を伸ばす。

 まずはここから出して、それから治療をすれば万に一つぐらいは助かる可能性があるかもしれない。そう考えたのだろう。

 

 だが、間に合うことは無かった。

 

「嫌だ……! 嫌だ! うわぁぁァァァァァ────」

 

 全身が粒子状と化していく感覚に悶え、絶叫する佐野。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ! こんな最後を望んでライダーになったはずじゃないのに! 

 

(ああ……なんでこうなるんだよ……)

 

 腕の感覚はもうない。

 いや、腕どころか全身に残っている感覚の方が少ない。

 できることなんて、走馬灯となって駆け巡る己の半生を振り返ることぐらいだ。

 

(俺はただ……幸せになりたかっただけなのに────)

 

 そこで佐野の思考は途切れた。

 余すことなく粒子となり、断末魔がプツリと止まる。

 佐野の存在が跡形も無く消える。

 

 こうして、ひたすら自分の幸せを願い奔走した男は悲劇の最期を遂げた。

 手に入れたはずの勝利と、暖かな感情すら時間に塗り潰されて。

 

 

 

 *

 

 

 

(……そんな、また)

 

 命の灯が消えていく。

 大地の心に爪痕を刻む叫びを上げて、佐野は消滅してしまった。

 インペラーは、佐野満は死んだのだ。

 

(そんな……そんな……!)

 

「貴重な部下をやってくれたな……この落とし前は高くつくぜ」

 

 身体の内で大地の嘆きが、悲しみが広がる。

 佐野と関わった時間は長くない。それでも、あのどこか憎めない彼とはもう何も話せないのだ。

 理由はどうあれ、自分と共に戦うと言ってくれた人なのに。

 

 その悲しみはやがて怒りへと変わり。

 ダークディケイドの力が漲っていく。

 その程度こそ違えど、オーディンへの怒りがシンクロしたダークディケイドが選んだカードは今の感情を示すのに相応しい強力なライダー。

 

 KAMEN RIDE ETERNAL

 

 風に靡くマントをはためかせ、変身を遂げた白き悪魔が手元のナイフを構えた。

 通算四度目のカメンライドでゴッソリ体力が削られていく感覚が過ぎる。

 しかし、もう出し惜しみはしていられない。

 

 ATTACK RIDE ZONE

 

 カードを通して流れ込む地球の記憶が更なる能力をその身に宿したDDエターナル。

 姿を搔き消し、瞬時にオーディンの目前にワープして袈裟斬りを繰り出す。

 不死鳥の装甲を焦がす一閃に、ようやく焦りの声を漏らしたオーディンは即座に瞬間移動。が、DDエターナルも同じ能力でそれを追う。

 

 刃が交差するほどに、大地の怒りが燃え上がる。

 佐野が消える瞬間の光景が頭の中にこびりつき、その炎を際限無く増大させる。

 

(逃がさない! 絶対に……報いを受けさせる!!

 同じ目に……もっと酷い目に!)

 

 避けていた殺意の感情がすんなりと浸透していく。

 その感覚に大地は何ら疑問を持つことさえせず、そのドス黒い波動に身を任せた。

 憑依しているネガタロスをも蝕もうとする波動だ。それは────なんと心地良いものか。

 

「ククク……クハ、クハハハ! そうだ、この感覚だ! 

 佐野ォ、お前の犠牲は無駄じゃなかったぜ!」

 

 繰り返される瞬間移動は容赦なくDDエターナルの体力を削ぎ落としていくのだが──不思議なことに、その身体はどんどん軽くなっていくようであった。

 大地が怒り、猛るほど一撃はより鋭く、重くなる。

 そうだ、これこそがネガタロスの求めていた力なのだ! 

 

「ゼェアッ!」

 

「無駄だッ!」

 

 喉元を狙った刺突は双剣の交差に阻まれ、右腕がガッチリとホールドされてしまう。

 エターナルエッジを固定する力は強く、引き抜くのは困難。ならば強引に押し通るまで。

 空いている左手でライドブッカーを叩くと、無数のカードが散らばった。

 それは「A」「C」「J」「X」など……アルファベットを刻んだカード達。散乱したそれらを横目に確認して、狙い通りだとDDエターナルは薄く笑い、マントを脱ぎ捨てた。

 

 ATTACK RIDE ROCKET UNICORN

 

 おや、と当惑するライアの声がした。

 散らばったカードが自動的にドライバーに収まったのだ。

 それこそ、まるでワープしたかのように。

 

 そして推進力と貫通力を爆増させたエッジがオーディンの仮面を貫こうとして、その寸前で逃げられる。

 

 舌打ちと共に消えるDDエターナルを追うようにして、またカードが消えた。

 

 ATTACK RIDE FANG METAL VIOLENCE

 

 屋上という狭いフィールドで縦横無尽にワープしては、ナイフと双剣が斬り結ぶ。

 武器のランクで言えば、エターナルエッジを上回る筈のゴルトセイバー。

 しかし、その刀身はあっさりと砕けてしまう。噛み砕かれた、と表現するのが正しいだろうか。

 剣としての役割を果たせなくなった得物を捨て、オーディンは素早く距離を取る。

 

 ATTACK RIDE PAPPETEER QUEEN LUNA TRIGGER

 

 “当たれば問答無用で相手を従わせる”というインチキもいい所な弾丸がエッジから放たれる。

 変幻自在な弾道を描いて迫るそれらは、召喚されたゴルトシールドで難なく弾かれてしまった。

 そしてDDエターナルが距離を詰めるよりも早く、またしても放たれた羽の大群が襲いかかってきた。

 

「チィッ……!」

 

 ATTACK RIDE OCEAN WEATHER

 

 DDエターナルを守るように小規模な津波が起こり、羽は一つ残らず飲み込まれる。

 それから間髪入れずにナイフの袈裟斬りが放つ雷撃波。敵の盾ごと寸断しようと放たれるも、ゴルトシールドには傷一つ無い。

 ならば壊れるまで斬りつけるまで、と第二波を放とうとするが。

 

 STEAL VENT

 

 振り抜く寸前、エッジはオーディンに奪われてしまった。

 自身の与り知らぬ武器に一切の興味も示すこともなく、屋上から投げ捨てられしまう。

 

 ATTACK RIDE CYCLONE HEAT JOKER

 

 だが、たかだか武器一つ失った程度でこのDDエターナルは終わらない。

 拳に蒼炎、疾風、烈火を纏わせ、オーディンへとラッシュを仕掛ける。

 飛躍させた身体能力で以って放つコンビネーションパンチは脅威的であったが、それすらもオーディンは的確にブロックしてしまう。

 

「オオオオオオオオーッ!」

 

 互いに一歩も譲らない、激しい一進一退。

 彼等が力を発揮する度にその余波が周囲に散らされ、コンクリートを粉微塵に変える。

 これほどまでに凄まじい戦闘になってしまっては、もうクローズとライアが援護に向かう余地は無い。むしろ巻き込まれないようにするのがやっとだ。

 

「あの野郎〜! あんな凄えのがあるなら、最初から使えよ! 

 そうしてたらあの佐野だって……助かったかもしんねえのに」

 

「恐らく、あの姿は体力の消費が激しいんだろう。

 見ろ、動きのキレが少しずつ落ちてきている」

 

 ライアの指摘は正しかった。

 致命的な隙に繋がることはまだ無いものの、DDエターナルの拳は徐々に鈍ってきている。

 しかもその消耗は彼が能力を使うほどに肥大していっているようであった。このまま持久戦にもつれ込めばどちらが負けるのか、嫌でも想像がつく。

 

「ならヤベェじゃねえか!」

 

「奴も理解しているだろうさ。だからこそ、決着を急ぐ」

 

 ライアの言う通り、決着の時はすぐそこまで迫っていた。

 

 DDエターナルが攻め、オーディンが弾くという構図が、いつのまにか反転している。そしてついにオーディンの裏拳が直撃し、微かに吹っ飛ばされてしまう。

 DDエターナルは最早小技でダメージを稼ぐことも叶わないか、と舌を打って、残り全てのカードをベルトに注ぎ込む。

 

 ACCEL BIRD DUMMY GENE ICEAGE KEY NASCA SKULL XTREME YESTERDAY

 

 FINAL ATTACK RIDE E E E ETERNAL

 

 地球の記憶から一気に引き出される緑白色のエネルギー。

 余りにも強大過ぎる力によって身体の芯が震えてくる。一歩間違えれば、自分自身が弾け飛んでもおかしくない。

 全身に溢れるA to Z──26枚分の記憶はやがて右脚へと流れていく。

 

 複眼を輝かせて、腰を深く落とすDDエターナル。

 その体勢を見て、オーディンもまた生半可な攻撃では対処できないと判断。決着を付けるためのカードをゴルトバイザーに装填する。

 

 FINAL VENT

 

 絢爛たる羽ばたきで君臨したゴルトフェニックスとオーディンが一体化し、目も眩む光輝が放たれる。

 奇しくも敵と同じ名を冠するファイナルベント──エターナルカオス。

 相対するは、これもまた絶対的な死を齎す妖光のマキシマムドライブ──ネバーエンディングヘル。

 どちらとも街一つを消し飛ばす程度なら訳ない威力を誇る、最強クラスの必殺技である。

 

「ハッ!」

 

「……ッ!」

 

 ほぼ同時に両者が飛び立ち、持てる限りの全力を込める。

 発せられる熱はあまりに高く、コンクリートだって溶かすほどで。

 その全てを解き放つような光同士の激突は病院そのものを揺るがした。

 

 半ば観戦者と化していたクローズ達をも吹き飛ばし、それでもなお飽き足らずに周囲の物体を蒸発させていく熱波。

 互いを染め上げ、消滅させようと食い潰し合う光の衝突。

 この世の終わりさえ予感させるような地獄絵図の中心部、蒼炎と緑光が入り混じる右脚を一際強く輝かせて、DDエターナルが叫ぶ。

 

「カードの数が違うんだよ……! 消し飛べェェッ!!」

 

 視界が眩しさに埋め尽くされ、衝撃が世界を包んだ。

 連日の戦闘で戦場となっていた病院がその衝撃に耐え得るはずもなく。

 雄叫びと閃光が止み、訪れた一瞬の静寂の後。

 

 様々な思惑が渦巻いていた建物は崩壊という結末を迎えた。

 

 




続きはすぐ上げます。

なんだかんだ史上最強の敵ですね、オーディン。
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