仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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後編。こっちは一万字ありません


父と子 後編

 

 

「なんだ……?」

 

「む……?」

 

 エターナルカオスとネバーエンディングヘルの激突が生んだ衝撃によって崩れていく病院。

 鼓膜を叩く崩落音。それは当然のことながら、超速の剣戟を繰り広げていたアマンダ達にも届いていた。

 

 周囲の壁に走っていく亀裂。眼を見張る速度で広がるそれや、パラパラと降ってくる粉塵は当然の明らかな異常が起きていることを彼らに伝えていた。

 

 そして然るのち、足場が崩れて落ちる。

 

 ナイトも、レギオンも、アマンダも。

 全員が等しく落ちていく。

 

「これは……ッ」

 

 刹那の浮遊感が過ぎ去り、降ってきた瓦礫が身体を押し潰そうとしてくる。

 アマンダは咄嗟に剣を素早く躍らせ、細かく刻むことでダメージを最低限のものとした。

 だが、落下そのものを防ぐことはできない。

 

「ガハッ!! ────くっ、何が起こった……!?」

 

 ガランガラン、と耳に反響する鉄骨の音がする。

 装甲を貫通してくる鈍痛に顔を顰めながら、自身と周囲の状況を冷静に考察するアマンダ。

 

 全身打撲、しかし骨折まではしていない。大した被害は被らずに済んだようだが、剣は取り落としてしまったらしい。

 完全な残骸と化した自身の根城に一種の喪失感を覚えるものの、今はそんなことよりももっと優先すべき事項がある。

 昴は、ナイトは、どうなったのであろうか。

 少なくともこの崩落で死んだ、ということはなさそうだが……。

 

 不安定な足場を慎重に進んでいると、灰色の粉塵の先に蹲る影が見えてきた。

 視界がはっきりするよりも前に、小さな背丈と、なによりも咳き込む声によってその正体がわかる。

 

「……けほっ、けほっ……いたい……」

 

「……だいじょ────」

 

 大丈夫か、と声をかけようとして、途中で口を閉ざす。

 父親らしい心配をすることなぞ、なんとおこがましいことか。今から息子を殺すという男には到底許されるものではない。

 

「……お父さん、なの?」

 

 NEEDLE VENT

 

 少しでも会話をすれば、決意が鈍ってしまうかもしれない。

 例え自分の息子であっても、患者に手を出してしまった以上はケジメをつけなくてはならないのだ。

 奏にしてやれるのは、せめて苦しまずに済むよう一撃で済ませてやることだけ。

 

「ごめんなさい、お父さん、ごめんなさい。

 ぼく、どうしていいかわからなくなったの。

 虫さんたち、お腹空いたよ、ご飯が食べたいよ、ってずっと言ってたの。

 止めたかったけど、止められなくて」

 

 故意で無かったのはわかる。昴は優しい子だから。

 それがモンスターであろうと、空腹の訴えを無視することなどできはしなかった。同じ訴えを無視し続けられてきた故に。

 そして契約モンスター達の本能的な意思に流されるようにして、患者を襲わせてしまったのだろう。

 もしも昴がもう少し年齢を重ね、精神を成熟させていればモンスターを制御できていたであろうが……。

 

 無駄な仮定をしてどうする、と頭を振って、アマンダは針を構える。

 余計な躊躇をすれば、却って昴を苦しませてしまう。一突きで終えるべく、狙いを定め────。

 

「ごめんなさい────お父さんに嫌われたくなかったの」

 

 

 ────突けなかった。

 思わず落としてしまった針を拾え、と理性が命じても、アマンダは動けない。

 全身が鉛になったように重くなって、言うことを聞かなくなる。

 こんな土壇場になって、たった一言で。

 しかし、そのたった一言が奏を芯から揺さぶった。

 

 

 

『お父さん、こっちこっち!』

 

 在りし日の記憶が蘇る。

 たまにある休日、昴を伴って近所の公園にピクニックへ訪れた。

 昴の要望に応えようと思い、不慣れながら作った弁当。お世辞にも美味しいとは言えない不恰好なそれを、とても美味しそうに頬張って……涙を流して……。

 

『美味しい……』

 

 理由はわからなかったが、自分も泣いてしまった。

 真昼間の公園で大小の男が二人揃って涙を零すなど、さぞかし奇妙に見えたことだろう。

 当時はそんな客観視をすることもなく、ただ昴と過ごす時間を噛み締めていた。

 あれが俗に言う、家族の時間……というものか。

 

 

 

 

 やがて視界が晴れていき、仮面を涙で濡らすレギオンが見えてくる。

 

 ────その背後で光る、鋭い爪も。

 

 考える余裕は無かった。

 

「昴!!」

 

 

 *

 

 

 崩壊に巻き込まれ、瓦礫に埋もれたライダー達。

 幸い大した怪我を負うこともなく、一人また一人と這い出てくる彼等。

 それはあのオーディンですら例外ではなく、瓦礫を押し退け土埃で汚れた装甲を晒していた。

 彼を知る者には信じられない光景なのだろうが、それだけあの絶対的な死の光が絶大な威力だったのだ。

 

 しかし、それでも致命傷には至っていない。エターナルカオスとのぶつかり合いは互いに大きく威力を削り合ったのだろう。ともすればダークディケイドも同程度の被害しか受けていないと考えるのが自然だ。

 

「……ヌンッ!」

 

 気合の一声で周囲の煙を開き、視界を明らかにする。

 積み重なった残骸はまるで大災害の後のような惨状だが、そんな有様に対してもオーディンは特に感想を抱かない。

 彼の興味はこのどこかに埋もれているであろうダークディケイドとクローズのみであり、即刻始末せんと歩き出す。

 

 ──否、歩き出そうとした。

 

「行かせねえ……!」

 

 自身の足首を掴む感触と、同じ場所から漏れ出る声に気付くオーディン。

 果たしてそこには、龍の意匠をあしらった見覚えのある青い腕がひょっこり伸びている。

 

(どうやらクローズは私のすぐそばで埋もれていたらしい。

 しかし無意味だ。こうして足首を掴むのが精一杯。奴にはどうすることも────)

 

「手塚ァァァァッ!! やれぇぇぇーッ!」

 

「ッ!?」

 

 クローズの叫びに応える形で、空気を裂いて迫る影が見える。

 事ここに至って、オーディンはようやく自身の危機を悟った。

 自身の中で汗のように噴き出た焦りに自覚しながらも、場を切り抜けられる対処法を模索していく。

 

 瞬間移動──不可。

 盾──不可。

 迎撃──可能。

 

「ハアァァッ!」

 

 金色の嵐がライアのハイドベノンを正面から迎え撃つ。

 だが、その威力を以ってしてもライアの決死の覚悟は撃ち落とせない。

 全身から火花を散らしての突撃が目前に迫って、ついにオーディンと交差する。

 

「神崎士郎ォォ!」

 

「グァアァァァァ!?」

 

 断末魔と共に爆散するオーディンの身体。

 最強のライダーと謳われた戦士のあまりに呆気ない最期であった。

 

 

 *

 

 

 最強のライダーが爆散した時、少し離れた場所で瓦礫がまとめて吹っ飛んだ。

 覚束ない足取りのライダーこそ、ダークディケイドその人である。

 

「……オラァ! オーディンがなんだってんだ! 俺様の勝ちだ! ハハッ、ハハハハ!」

 

 エターナルへのカメンライドに、T2ガイアメモリ26本の同時マキシマム。いくらカード越しであっても、齎された負担は史上最大級と言っても過言では無かった。

 こうしてネガタロスの憑依が維持できているだけでも奇跡に等しい。

 彼の視点ではまだオーディンの生死は確認できていないのだが、死んだと思わなければやってられなかった。

 

「ああックソッ、休憩だ休憩。二分だけ、二分でいい」

 

 背中が痛むのも構わず、瓦礫に横たわるダークディケイド。

 いっそこのまま寝てしまおうか、とまで考えるが、自殺行為は流石にできない。

 怠くて仕方ない身体をのっそり起こそうとして、ダークディケイドは────その中の大地は目撃してしまう。

 

 

(あれは……)

 

「昴……」

 

 

 ────レギオンを庇い、背後から刺されてしまったアマンダの姿を。

 

「え……?」

 

 アマンダから滴る血で濡れたレギオンが呆然と呟く。

 そんな彼のマスクを愛おしげにアマンダが撫でる。

 なぞった指の跡が血涙のように垂れていく。

 レギオンが震える手で掴もうとするも、父の腕は力無く滑り落ちていった。

 

 うつ伏せに倒れたアマンダはゆっくりと顔を上げて、レギオンを見つめる。

 物々しい仮面に覆われていても、その目には息子の顔がしっかりと映っていた。

 どこか自嘲したような重い溜息を吐いて、ぼやけた視界に最後の瞬間まで息子を収めようとする。

 

「……すまない」

 

 一言では言い表せない複雑な感情を込めた謝罪。

 その言葉を最後に言ったきり、アマンダは沈黙する。

 三色の装甲が赤一色に塗り染められていき、胸の上下運動も徐々に頻度が疎かになっていく。

 

 闇に沈んでいく意識の中で、奏は己に問いかけた。

 本当にこれで良かったのか? と。

 

(昴……お前と出会えたことがこの結末ならば……。

 絶対に断言できる。

 私に後悔は無かった。

 

 ……後はよろしく頼むよ────)

 

 切り捨てようとした父親である自分。

 だが結局最後に彼を突き動かしたのは、息子への愛情。

 

 暖かな感情を胸に抱いて、大和奏はその生涯に幕を閉じたのだった。

 

 

 *

 

 

(嘘だ……どうして、こんな)

 

 事切れたアマンダ。そんな父にしがみ付いて咽び泣くレギオン。

 

 その一連の流れを、大地は離れたところでただ見ていることしかできなかった。

 そもそも何故あの二人が変身しているのか、といった疑問もある。

 それを浮かべる前に、レギオンの感情を爆発させたような泣き声が大地の心を鋭く刺した。

 

「────ああ、ごめんね。君のお父さんだったんだ。

 でもしょうがないよね。これも必要なことだったんだから。

 君を倒して、僕が病院を救った英雄になるための尊い犠牲になったんだよ」

 

 レギオンを狙い、アマンダを突き刺した張本人──タイガは罪悪感の欠片も無い声音でそう語る。

 不意打ちを得意とする彼は日夜を問わず病院に潜み、その過程で昴と奏の会話も聞いていたのだ。そして虎視眈々とチャンスを窺い、病院倒壊に乗じてレギオン抹殺を実行しようとした。

 

「君みたいな子供までライダーやってるなんて、神崎君も意地が悪いことするよね。

 でも子供さえ犠牲にできるなら……それはやっぱり英雄に相応しい、ってことなんじゃないかな」

 

(何を勝手な……!)

 

 大地の怒りの矛先がタイガに変わりかけたが、未だに身体の主導権を握るネガタロスは動くこともままならない。

 そして誰も止める者がいないまま、タイガの爪先はレギオンを屠るかに思えたのだが──

 

「ぅう……」

 

「────え」

 

 その直前、タイガの腕を白い糸が縛る。

 疑問を呈した彼へと、さらに乱れ飛ぶ無数の糸。

 あっという間に身動きが取れなくなったタイガの周囲には、数えるのが億劫になるほどのシアゴースト達が蠢いている。

 父の亡骸からゆっくりと顔を上げたレギオンの表情は仮面に覆われ読み取れない。しかし、タイガはもがきながら鳥肌を抑えることができなかった。

 

「──して」

 

「お父さんを返してぇ!」

 

 色めき立つ白の群集。

 レギオンの激情を体現するかのように、シアゴーストの糸はより強くタイガを絞め上げる。

 糸が巻きついていない箇所の方が少ない、というレベルで縛られた身体からミチミチと嫌な音が鳴る。

 

「返してよぉ!」

 

 生まれてこの方、一度も抱いたことのない憎悪と憤怒を喚き散らすレギオン。

 その感情をぶつけてくれるのは契約モンスターである彼等だけ。

 父を喪った子の哀しみは、怒りは、嘆きは止められない。

 

「あああああああッッ!!!」

 

「ぐっ……このっ」

 

 全身の骨という骨を砕かれながら、タイガは群集の中に紛れていく。

 どんな抵抗も意味を成さない、群れなす白き波の中心でその肉は食い散らかされていった。

 

 ────バキバキ、グチャッ、グチャ

 

「おいおい……最近のガキはやることがエグいな」

 

 絶句する大地とは対照的に他人事感満載の感想を呟くネガタロス。

 正直なところ、自分の邪魔をしてくれたタイガの無残な最期は割と胸が空く思いなのだが、そこを口にすればまた大地とグダグダ口論になりそうなのでやめておく。

 

「患者達を襲わせていたのも案外アイツなんじゃねえのか?」

 

(昴くん……まさか、そんなことあるわけないよ)

 

「まあ俺様にはどうでもいいんだが……これはちと不味いな。

 俺達もあの虎野郎みたくオヤツにされちまう」

 

 獲物を早々に食い尽くしたシアゴースト達の次のターゲットは誰か。

 ちょうどすぐそこで身体を休めているダークディケイドなど、さぞうってつけだろう。

 極度に消耗したネガタロスでは数体のモンスターを蹴散らすこともできそうにない。

 

「こりゃあとっととズラかるに限るな。

 あんなガキに殺されるなんざまっぴらごめんよ」

 

(駄目だよ! 昴くんを置いていくなんてできない!)

 

「だったらてめえ一人でやりな。

 俺様は降りさせてもらうぜ」

 

 目の前で父親が殺されたことは気の毒だろうが、そんなものネガタロスの知ったことではない。

 相変わらず駄々をこねる子供のように──というか子供なのだが、泣き喚いているレギオンの周りにどんどん集まっていくシアゴースト。

 ネズミ算方式で増えていくモンスターなんて気色の悪い光景をこれ以上眺めていても碌なことにはなるまい、とダークディケイドは離脱を開始した。

 

 しかし、ネガタロスが思っていたよりも消耗は激しかったようで。

 出っ張っていた瓦礫に足を奪われて転ぶ、などという失態を犯してしまった。

 しまった、と漏らした時には既に足に糸が巻きついている。やはりシアゴーストのお眼鏡に叶ってしまっていたようだ。

 

「虫風情が俺様を食えるわけねえだろ!」

 

 続けて放たれた束ごと、足を縛る糸を剣で切る。

 なおも止む気配の無い糸の放出を斬り裂きながら、周囲を探る。

 そこらへんにわんさか転がっている、手頃なガラス片は──あった。

 

「あばよ!」

 

 現実世界への帰還、吸い込まれる感覚に身を任せる。

 だが、その瞬間に安心してしまった故か、自身へと伸びた糸の一本を躱しきることができなかった。

 

「うお────!?」

 

 全身を襲う虚脱感に驚愕するネガタロス。

 何事かと自身を見やれば──身を守っていたダークディケイドの装甲は消失してしまっていた。

 無限の鏡が連なったトンネルを抜けていく最中、辛うじて見えたのは、掠め取られてしまったダークディケイドライバー。

 

(俺様としたことが……)

 

 完全にやらかした。

 その思考を最後に、ネガタロスの意識は大地の身体から弾き出された。

 

 

 

 *

 

 

「お父さん……! お父さん! うぁあああー!!」

 

 物言わぬ骸となってしまった父に寄り添い、レギオンは泣き続ける。

 その激情に呼応して現在進行形で数を増やしていくシアゴースト達が現実世界に雪崩れ込むのを食い止めようと、ナイトは我武者羅に剣を振るった。

 

 が、それもほんの数秒しか保たない。

 

「ぐあっ!」

 

 ミラーワールドに溢れかえった無数のシアゴーストはそれこそ、周囲一帯を白一色に染める勢いだった。

 一匹一匹はそこまで強くないのだが、いかんせん数が多過ぎる。

 ナイトはその勢いに押し流されるようにしてミラーワールドから弾き出されてしまったのだ。

 

「あのモンスター……一体どれだけいるんだ」

 

 蓮もこの病院では何度か遭遇していたが、これほどの数とは。

 だが、同時に納得もいく。

 昴の意思はどうあれ、あの数のモンスターの餌を賄うなど普通では無理だ。むしろ襲われた患者がそこまで多くないのは、昴のお陰と見て間違いない。

 

 そして今も鏡の向こうで蠢いている大群。昴というストッパーが消えたとなれば、奴らは手当たり次第に人を食い始める。病室で眠る彼女がその毒牙に抗うなど……。

 

「恵里……!」

 

 デッキを握りしめた蓮が再度鏡に突入しようとする。

 だが、聞き覚えのある名前が彼を引き留めた。

 

「手塚さん!」

 

「……手塚?」

 

 女性の声だ。

 ふと気になって、声が聞こえた方へと赴く蓮。

 

 少し歩くと、何やら人集りができている。

 掻き分けて進んでみると、そこはまさしく死屍累々という現場になっていた。

 

 気絶している手塚。

 彼ほどでは無いにせよ、ダメージによって座り込んでしまっている大地と龍我。

 特に怪我が酷く、火傷の痕が散見される手塚は通りがかった医師に安否を確認され、ストレッチャーで運ばれていった。

 

「秋山さん……」

 

「お前らどうした。何があった」

 

「……僕らは多分平気です。それより、昴くんを助けに行かないと……!」

 

 大地は歯を食いしばって立ち上がり、しかし倒れてしまう。

 袖の隙間からボトボト血が落ちているところを見れば、彼もまた重症だとわかる。

 

「その身体じゃ無理だ。あの子供は……俺が倒してやる」

 

 父親である奏が死んだ今、もうあの子は誰の言葉も聞く耳を持たないだろう。

 今すぐにでも倒さねば、この病院どころか周辺住民をも食い尽くしたとして何らおかしくはないのだ。

 

 そして突き出したナイトのデッキは、横から大地に掴まれてしまう。

 

「やめてください……! 昴くんは僕が止めますから! あの子は何も悪いことをしてないじゃないですか!」

 

「甘ちゃんもここまでくると救いようがないな! 

 いいか? この病院で人を襲っていたモンスターと契約していたのはあの子だ! 

 そんな相手に、お前に何ができる?」

 

 デッキを掴む手が緩む。

 昴が犯人だったと知って流石にショックを受けたか、大地の表情はわかりやすく青ざめた。

 その手を払い除けて変身しようすれば、またしてもデッキを掴まれてしまう。

 

「いい加減にしろ!」

 

「嫌です! 昴くんが犯人でも、僕が見捨てていい訳あるもんか! 

 本当に昴くんが犯人なんだとしたら……きっと、ずっと苦しんでいたはずです! あの子を……お父さんを失って、今も泣いてるあの子を! 

 僕が助けなきゃいけないんです!」

 

「綺麗事ばかりほざくな! じゃあ何か、ここの人間が残らず食い尽くされてもお前は構わないと?」

 

「そんなことない! 

 霧島さんも、佐野さんも……僕は守らなきゃいけない人を守れなかった! 昴くんのお父さんだってそうです! 

 今度こそ誰一人も死なせやしない……死なせちゃいけないんだ!」

 

 そこまで言い切った大地の顔には、もう迷いはない。

 デッキを掴む手がいよいよ怪力を帯びてきて、蓮はその顔を驚きに染める。

 

(コイツ、こんな怪我をしておいてなんて力を……ん?)

 

 その時、新たな警告音が蓮の耳朶を打った。

 シアゴーストのものではない、もっと別の────。

 

 蓮が視線を張り巡らせたところ、瑠美の背後にある姿見が不自然に歪む瞬間を偶然見た。

 その視線が自分ではなく、瑠美に向いていることを察知した大地も釣られて振り返る。

 大地が駆け出し、蓮が叫ぶ。

 

「避けろ!」

 

「きゃっ……って、大地くん!?」

 

 突き飛ばされた瑠美が悲鳴をあげたが、襲撃を避けることはできた。

 代わりに捕らわれたのは──突き飛ばした大地。

 よくよく凝視してみると、彼の首に不可視の“何か”が巻き付いていることがわかる。

 視認できない“何か”に絞められた大地は見る見る内に血の気が引いていき、息苦しさに悶えた。

 その正体が瑠美をずっとストーキングしていたバイオグリーザのものであるのだが、蓮には知る由もなかった。

 

「世話の焼ける!」と言って、助けようとした蓮と龍我であったが、他ならぬ大地がそれを制止する。

 

「だ、大丈夫です……!」

 

「お前、ベルトはどうした」

 

「さ、さっきミラーワールドで失くしちゃって……」

 

「何やってんだよ……ほら、とっとと首出せ」

 

 呆れて助けようとする龍我を、やはり制止する大地。

 止めたその手は大きく広げられ、何かを要求しているようだった。

 こんな時に何を、と龍我は困惑する。

 

「万丈さん……デッキを、ぼ、僕にください! 

 きっと、コイツは瑠美さんをずっと狙っていたモンスターです! 僕が契約します!」

 

「はぁ!? なんでわざわざそんなことすんだよ! 

 だったら俺が行けば済む話じゃねえか」

 

「い、言ったで……しょ? 僕が昴くんを、た、た、助けなきゃいけないから……ガァァ……!」

 

 このまま問答をしていれば、先に大地の首がへし折れるか、窒息するか、はたまた引き摺り込まれて喰われるのがオチだ。

 そうなる未来を察して、龍我も「ああもう!」と叫び、彼にブランクデッキを投げた。

 

 キャッチした、と思いきや、鏡に取り込まれる大地の身体。

 

「「大地!」」

 

 思わず、といった様子で鏡を覗き込む蓮と龍我。

 捕らわれたトンネルの向こう、苦しみ踠きながらも大地は受け取ったデッキから目当てのカードを抜き取っていた。

 そのカードを、蓮は知っている。

 

「“味方にできそうな奴は味方にしておけ”だよね。

 だから、君も力を貸してもらうよ! 

 瑠美さんだってもう襲わせない!」

 

 透明の舌を伝った先にいるであろう見えないモンスターに対し、大地は契約のカードを向ける。

 契約は絶対。それを破る時はどちらかが死ぬ時。

 抗いようもない縛りがモンスターから力を引き出した。

 世界の狭間を抜ける時特有の浮遊感とは別に、身体に不思議な感覚が彼を包み込む。

 とは言っても、ある意味親しみ慣れた感覚であることは確かであった。

 

「────変身!」

 

 オーバーラップした虚像が色を宿して、大地を新たな姿へと変貌させる。

 全身が灰色の、どことなく弱々しい戦士。

 しかし、それも本当の姿へ至るまでの一環であり、ベルトに収まったデッキから順に鮮やかな緑へと彩られていく。

 

 この姿こそ大地が手に入れた第五の変身────仮面ライダーベルデ。

 

 透明化を解除したカメレオンのモンスター、バイオグリーザが新たな主人に付き従うようにして低く唸る。

 

「今行くよ……昴くん!」

 

 大地──仮面ライダーベルデは多数のモンスターがひしめく病院跡地へ勇ましく駆け出した。

 

 




オーディンよっわwwライダーバトル辞めるわww

次回更新は遅くて来月上旬。

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