仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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ようやく終わるんだ……ようやく


避けられない迷路

 

 

 

 赤色、黄色、水色……様々な灯りが照らす都市の夜。

 疲れた顔で帰路に着いた人々とは正反対の方向を、瑠美がひた走っていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 

 夜の控えめな蒸し暑さに奪われた体力が汗となって流れ落ちる。

 こんな時間に薄着で、しかも一人で走っている女子大生なんて滅多にお目にかかれるものではなく、奇異な目を向けられるが瑠美は気にも留めない。汗でへばり付いた服の感触は気持ち悪いが、それも些細なことだと割り切っている。

 

 上気した頰に滴る汗を拭いながら、上がった息を整えていると、三人組の男が話しかけてきた。

 

「ねえねえ、こんな時間に一人で何してんの? もしかしてアレ? ダイエット中ってやつ?」

 

「あ、あはは……そ、そういうわけでは……」

 

「恥ずかしがることないって〜。そだ! 俺らも手伝おうか」

 

 リーダー格と思わしき男が軽薄な笑みを浮かべて近付いてくる。

 男が醸し出す遊び人っぽい印象には常時ならともかく、急を要する今では少々鬱陶しいと思わざるを得ない。

 丁重に断ろうとした瑠美であったが、その直前になって男は唐突に立ち止まった。

 自身の肩を抱き寄せてガチガチと歯を鳴らすその様は、極寒に震えているように見えるが……この熱帯夜に近い気温では些か不自然である。しかもよく見れば、背後の二人も似たような有様だ。

 

「さ、さみぃ……。誰か、カイロない?」

 

「夏に持ち歩く奴があるかよ……は、はやく帰ろうぜ」

 

 肌に刺さる寒さに耐えきれず、男達はそそくさと退散していく。

 そんな彼らと入れ替わるようにして、呆れ顔のレイキバットが上から降りてきた。

 

「へっ、お家でミルクでも飲んでいやがれってんだ」

 

「レイキバさん、ありがとうございます! 

 ────それで、大地くんは」

 

「まだ見つからん。東はくまなく探したが収穫無しだ」

 

 そう、彼女達がこうして駆けずり回っているのも大地を探すため。

 

 あの事件が終わってから、大地は帰って来なかったのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 どうやってこの場所に辿り着いたのか、全く覚えが無かった。

 

 瑠美達からそう遠くない場所、同じ港のそばで黄昏れる大地。

 一向に眠る気配の無い街と港を眺めて何度目とも知れない溜息を薄く吐いた。

 乾いた血の香りがする衣服に、やつれきった相貌の組み合わせ。

 今の大地を見れば、多くの人は救急車を呼ぶだろう。

 

「ごめん昴くん……」

 

 食い破られた傷の疼きでも、大地の沈鬱な表情は歪められない。

 痛みに苦しむという行為でさえ、昴を救えなかった自分には許されない。

 大地はそんな自罰的な思考に囚われていた。

 

 もしあの時、王蛇を殺していれば昴を救えたかもしれないのに。

 もしあの時、ネガタロスの邪魔をせずオーディンを殺していれば奏だって救えたかもしれないのに。

 人を殺すことを忌避していなければ、佐野や美穂だって救えたかもしれないのに。

 

 そんな調子で過去の「もしも」を追憶しては、自分を責め立てるの繰り返し。

 

「僕は仮面ライダー失格だ……。

 名護さんや仁藤さんみたいな立派なライダーなら、こんな情け無い結果にならなかったのに……。

 

 ────何がダークディケイドだよ! こんなに沢山のライダーの力を借りておいて、なんで……どうして、昴くんを死なせなきゃいけないんだ……」

 

 大切な人達を死なせたライダーが憎い。

 それよりも弱くて情け無い自分が憎い。

 憎くて、憎くて、悲しかった。

 

「鬼塚さんの時から何も変わってない。

 あの人の言う通り、いつまで経っても僕は弱くて薄っぺらいままだ……」

 

 ライドブッカーから取り出した一枚のカード。

 ただ描かれているだけのリヴォルがこちら恨めしげに睨んでいるように思えてくる。

 カードに記録された鬼塚の怨念に蝕まれ、呪われ、無残に殺される自分を想像して身震いする大地。

 

 ──でも、それでいいのかもしれない。

 この世界で朽ち果てて、できるだけ惨めに死ぬ。

 そうすれば少しは贖罪になるだろう。

 

 そんな破滅的な考えを延々と巡らせている大地の耳に、バイクのエンジン音が聞こえた。

 

「……酷い顔だな。

 眺めているとこっちまで吐き気がしそうだ」

 

「……秋山さん。どうしてここが」

 

「たまたまだ。

 ショボくれて海を眺める奴がいるかと思えば、お前だった。

 ……なんだ? まさかとは思うが、心配して探しに来たとでも言って欲しかったのか?」

 

「……秋山さんはすっかり元通りですね」

 

「お前と違ってな」

 

 出会った頃と同じ皮肉たっぷりの態度はなんだか懐かしくもあり、同時に苛立たしくもあった。

 昴くんが死んだというのに、何故この人はこんなにも平然としているのだ。

 嗚呼、本当にこの世界のライダーという奴は……! 

 

(……何を考えてるんだ、僕は。秋山さんに当たるなんて……八つ当たりもいいところじゃないか)

 

「……やはり昴の件は相当堪えているらしいな。なら好都合だ」

 

 ネガティブな感情に支配されがちな頭を振る大地。

 そんな大地をあろうことか蓮は“好都合”と言ってのけた。

 しかも微かに口角を上げるというおまけ付きで。

 

「さっきはたまたまと言ったが……お前に用が無い訳でもない。

 今のお前は正真正銘、俺たちと同じライダー。

 確か……ベルデ、だったか。今のうちに潰しておいた方が良さそうだからな」

 

 蓮が見せつけるようにして取り出したのは、ナイトのカードデッキ。

 しかしモンスターの気配も無ければ、ライダーらしき人影も無い。

 

「あ、秋山さん……?」

 

「俺と戦え、大地」

 

 底冷えする眼光を宿しながら、蓮は淡々と言い放った。

 

 

 

 *

 

 

 

 酷い怪我を負った青年が黄昏れている。

 

 こんな目撃情報を通行人から聞いた瑠美はすぐさまその場所へと急行した。

 

「大地くーん! ……いないみたいですね」

 

 駆けつけた瑠美を待っていたのは、停まっている大型バイク一台たけ。

 大地はおろか、人っ子一人いやしない。

 もう移動してしまったのかもしれない、と考えた瑠美は踵を返す。

 

 ──もし彼女にミラーワールドを見通すことができれば、バイクのミラーに映るライダー達を見つけられただろう。

 瑠美の探し人はまさしくすぐそこにいるというのに、彼女は気づけない。気付けるわけがない。

 

 よって大地とのニアミスは完治されないまま、立ち去ろうとしたが────。

 

「おっと瑠美ちゃん。いいところに来たな」

 

「ガイドさん?」

 

 まず、声がした。

 振り返った瑠美の前で不敵に笑っているガイド。

 さっきはいなかったはずなのに、一体いつやって来たのか? 

 そんな疑問から小首を傾げた瑠美に、ガイドはとあるカードを手渡した。

 

 この世界には存在しない、黒龍が描かれたカードを。

 

「これは……リュウガ?」

 

「それを持ってれば瑠美ちゃんにもミラーワールドが見える。ほら、あそこ」

 

 あそこ、と言われても何の変哲も無いバイクがあるようにしか、瑠美には見えない。

 ……いや、よーく目を凝らしてみると、確かに変わった部分がある。

 

「大地くん!? もしかして、これがミラーワールド……!」

 

 ナイトによって一方的に蹂躙されるベルデ──大地の姿が映っていた。

 驚いて駆け寄るも、瑠美の手はガラスに先へは届かない。

 すぐそこにいる相手に触れられないもどかしさに心を焦がしながら、食い入るように覗き込むことしかできなかった。

 

 そして、音も無く消えたガイドに気付くことも無かった。

 

 

 

 *

 

 

 始まりは、挨拶代わりにもならない軽い斬撃だった。

 防御にせよ回避にせよ、容易に対処できるであろう一撃はすんなりとベルデを吹っ飛ばした。

 相手が地を這っている隙にソードベントを発動しようとするが、まるで覇気を感じさせない構えを見て、ベントインを中断する。

 

 今のコイツが相手ならウイングランサーどころか、カードが必要ないまである。

 

 投げやりな叫びと共に突撃してきたベルデの剣を軽くいなし、足払いをかけるナイト。

 立ち上がる気力も見せないベルデの体たらく。

 これでは戦いにもならん、とナイトは溜息を吐いた。

 

「さっさと立て。それぐらいは待ってやる」

 

「……嫌です。僕らが戦う理由なんて無いじゃないですか」

 

「子供か、お前は」

 

 いや、外見年齢で言うならまだ子供か? 

 一瞬そう考えたが、どうでもいいと切り捨てた。

 倒す相手の年齢など、いちいち考えるまでもない。

 

「理由が欲しいならくれてやる。

 

 ────仮面ライダーだから。戦う理由はそれだけだ。

 それぞれの事情なんざ関係ない。

 ライダーになったその瞬間から、戦い続ける以外に道はない。

 最後の一人になるまで、な」

 

「……だから昴くんが死んだのも、当然のことだって言うんですか?」

 

「ああ」

 

 何を今更、とでも言うかのような短い返事。

 だが、ベルデの感情を爆発させるにはそれだけで十分だった。

 

「そんなわけあるもんか!! 

 あの笑顔がたくさんの患者の安らぎになって、奏さんがあんなに優しい顔を見せて! 

 ライダーになったのだって、きっとお父さんを手伝いたかった──そんな健気な願いだったんだ! 

 そんな子が死んでいい理由なんか認めない!」

 

「やかましい奴め、まだまだ元気があるじゃないか」

 

 速いリズムを刻んだステップの後、ナイトの突きが繰り出される。

 さっきまでの、やる気を欠いていたベルデであれば食らっていたであろう一撃であったが、今回はライドブッカーが弾いた。

 

「認めない、か。

 ならお前はどうする? ありきたりな線なら復讐だが……できそうな相手もいないな。

 バトルに勝ち残って生き返らせるってのもアリか?」

 

 わざと煽るような口調で問いかける。

 なし崩しでライダーになったベルデには、他者を犠牲にしてまで叶えたい願いは無いだろう。

 だが、あれだけ気にかけていた昴の蘇生ならばあるいは、彼が握る刃は人を殺すだけの理由を得られるか。

 

「……できませんよ! 僕には……人を殺せません……! 

 どんな悪人が相手でも、人は守らなきゃいけないから。

 名護さん達だってそう言うに決まってる!」

 

「二言目には守る、守る。口と行動が全く一致していないぞ」

 

「わかってますよ!」

 

 叫び、剣を振るうベルデ。

 ナイトの防御とかち合い、ガキィン! と金属音が大きく鳴り響く。

 その剣からは衝撃こそ伝わるが、やはり重みが足りていない。

 

 まあ、予想はできていた。やはりコイツにはライダーバトルは無理だと。

 

「フッ、無駄話が過ぎたな。とっとと決めさせてもらうぞ」

 

 ナイトの前蹴りが、両手で刃を押し込もうとするベルデの腹を蹴り飛ばす。

 派手に吹き飛び、咳き込むベルデは立ち上がろうとするも、ナイトが肉薄する方が僅かに速い。

 そしてダークバイザーの鋭い剣先が細い首筋に添えられる。

 

 変身した姿が違うという要因があるとはいえ、万能に等しい力を誇っていた男をこうもあっさりと抑えられるとは。

 特にあのドラゴン城を目の当たりにした後だから尚更そう感じてしまう。

 

「……殺さないんですか、僕を」

 

 暗い声音で、それでいて期待するように問うベルデ。

 自ら死を望んでいるかのような発言に、心のどこかで失望する気持ちがあることをナイトは自覚する。

 

 少し腕を動かすだけでベルデの首は刎ねられる。

 だが、敢えてそうすることはなく、ダークバイザーの剣先を鮮緑の胸部に走らせた。

 蚊の鳴くような悲鳴で転がり、しかし反撃に転じることもせずに座り込むベルデには追撃する気すら起きない。

 

(これは思ったよりも重症だな……)

 

 小さく溜息を吐いたナイトはふと視線を逸らし、現実世界に目を向ける。

 そこには固唾を飲んで見守る若い女性がおり、彼女には見覚えがあった。

 確か瑠美という名前だったかと思い出し、そこから連鎖して以前聞いていた情報が記憶の片隅から引っ張り出された。

 

「そういえば手塚が言っていたが……あのバイオグリーザは瑠美って娘を狙っていたらしいな。

 だが、お前が死ねばその契約は解除される。晴れて自由の身になったバイオグリーザは心置きなくあの娘を食うだろう」

 

「え────」

 

「どうせ食われるんだ。俺のダークウイングの餌にしてもいいかもな」

 

 ナイトの視線に誘導されて、瑠美を見つけるベルデ。

 そしてナイトは自らの契約モンスターに命令を飛ばした。

 

「行け、ダークウイング」

 

 どこからともなく飛来した蝙蝠の羽ばたき。

 現実世界へ飛び越えるのに数秒とかからないスピードで飛翔する影。

 逃げる術を持たぬ瑠美がこれからどうなるか、それは火を見るよりも明らかで────。

 

「────ァァアアアアッ!」

 

 絶叫、後に疾走。

 放棄しかけていた気力を掻き集めたベルデが跳ねるように駆け出す。

 足をバネにした跳躍でダークウイングを捕捉し、オーバーヘッドキックを叩き込んだ。

 着地した彼が向かう先は、現実への出口。

 

「とっとと出て行け。二度と顔を見せるな」

 

 ナイトの言葉が、世界の狭間を抜ける間際でベルデの背中に投げかけれた。

 現実に帰還した刹那、ベルデは鏡に映るナイトに振り返るも、すぐに瑠美の手を取って去っていく。

 

「そうだ、それでいい。お前にはこのバトルは──世界は似合わん」

 

 ここまでお膳立てしてやれば、もう大地は戻ってこないだろう。

 達者な口を持たない自分にしては上手く事を運べたと褒めてやりたいものだ。

 もしこの場に北岡でもいればとんだ甘ちゃんだ、と笑い飛ばされるんだろうが、案外悪い気分でもない。

 

(これでまた一人減ったな)

 

 現実に帰還し、変身を解いた蓮。

 自身もまた帰路につくために、バイクに跨ったが、そこでふと思い出したかのように顔を上げた。

 大地が去った方向を見ても、彼はもう消えている。だが────

 

「言い忘れたが、これで借りは返した」

 

 蓮は受取手が不在の言葉を最後に残す。

 そして彼の乗ったバイクは大地とは真逆の方向に走り去っていった。

 

 

 *

 

 

 

 変身を解いた大地は彼女の手を引きながら走る。

 嗚咽を漏らしながら走る大地に並々ならぬ事情を察したか、瑠美は何も言わずについてきてくれている。

 

(秋山さん……)

 

 さっきナイトが発した台詞を思い出して、奥歯を噛み締める大地。

 “出て行け”と。確かに彼はそう言った。

 倒す、倒すと言っていたくせに口と行動が一致していないのはどっちだ、と言いたくなる。

 

 蓮が戦いを仕掛けた本当の理由。それはこの世界を去る口実を与えるためだったのだ。

 あのダークウイングにしたって、本気で瑠美を襲わせる気ならあんななんの工夫もない飛び蹴りで撃墜できるものか。

 それに蓮という男が何の罪もない人を殺められるような悪漢ではないと、この目で見て確信している。

 

 守りたい人の為に、叶えたい願いの為に戦う彼もまた大地が見てきた者達と同じ仮面ライダーだったのだ。

 騎士の仮面に隠れた彼の気遣いを悟って、その上で大地は逃げることを選んだ。

 蓮に甘えた、と言う方が正しい表現であろう自身の行為に悔恨、悲哀、ごちゃ混ぜになった感情が激しく渦を巻く。

 これ以上この世界にいれば、また誰かを失うであろう恐怖と、人を殺めてしまうであろう予感。その両方から大地は逃げる。

 

 

 改めて得た蓮への認識が記録のピリオドを打ち、ポーチにあるライドブッカーから二枚のカードが飛び出してくる。

 片方は言うまでもなくナイトのカード。そしてもう一つは────。

 

(昴くん……!)

 

 忘れもしない、仮面ライダーレギオンが描かれたもの。

 それを見た途端に、より大粒となった涙が輝く宝石の如く流れていく。

 もう堪え切れない、と思った時には濁った声を喉から吐いていた。

 人目も憚らず、顔をぐちゃぐちゃにして咽び泣く大地。

 

「大地くん……」

 

 そんな彼の背後で、瑠美は初めて見る彼の姿に少なからずショックを受けていた。

 傍にいると言っておきながら、彼の苦しみの一欠片でさえ理解してやれない自分はなんと無力なことか。

 瑠美はぐっと唇を噛み締めて、せめてその手を離さないように握る力を強めた。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ナイトの記録は完了し、大地と瑠美も帰宅した。

 これにて「ナイトの世界」での旅は終わり、また次の世界での戦いが始まる。

 

「これで七人目。

 順調だ……大地、君を選んだのはやはり正解だった。

 しかもネガ電王に続いてベルデまで記録してくれるとは流石に予想外だったよ」

 

 住人達が寝静まった光写真館のリビングで、明かりもつけずにそう独りごちる影──ガイド。

 影と表現したのは、この暗闇ではそう見る他にないため。故に今の彼がどんな表情をしているのか、伺い知ることもできない。

 そんな視界の効かない真っ暗闇の空間であるにも関わらず、彼の目は背景ロールをしっかりと見据えていた。

 

 そこに描かれているのは異界の植物で生い茂った森と、黄色いアーマー。

 

騎士(ナイト)から騎士(バロン)へ。

 我ながら粋な計らいじゃないか。

 健気に準備して待ってる輩もいることだしな」

 

 ガイドの言及した輩とやらがどのような人物を指すのか、問い質す者はいない。

 ただその声は期待に満ち溢れた弾みを微かに含んでおり、彼の心境をそれとなく示している。

 

 しかし、影が天井──上の階を見上げた瞬間に纏っていた陽気な雰囲気は雲散した。

 そこに位置するのは大地の部屋であり、泣き疲れて眠る彼をまるで透視しているかのように影は語り出す。

 

「もうだいぶ参ってるみたいだが……まだまだリタイアされちゃ困るんだよなぁ。

 ライダーバトルの洗礼はちとキツかったんだろうけど、こんなモノはまだまだ序の口なんだから。

 けどまあ、これで潰れるようならまた次を探せばいい。

 だから精々頑張ってくれよ?

 君ならもしかすれば────()()()()()()にだってなれるかもしれない」

 

 そう言ってガイドが取り出したのは、丁度ダークディケイドライバーと同じほどのサイズをした端末。

 これまたダークディケイドと同じカラーリングのアイテムは影と混ざり、そして消えた。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 この世界の戦いの果てに誰が勝ち残り、誰が願いを叶えるのか。

 それは未だに先の見えない出来事であり、誰も与り知らぬ未来の話である。

 

 だがしかし、ここではないどこかの時間。ライダーもモンスターもいない世界。

 

 ぶっきらぼうで、なおかつ無愛想な黒コートの男がいた。

 人が良さそうで、しかし誰もが馬鹿と認める水色ジャンパーの男がいた。

 とある喫茶店の店先にて、互いを凝視しながらいがみ合う両者。

 店から出た黒コートと店に入ろうとする水色ジャンパーで、互いの道を塞ぎあってしまっている。

 

「……どけ」

 

「どけって……あんたこそ!」

 

 一歩も譲らぬ両者。

 溜息を吐いて、道を避けて進もうとするも、何故か二人の足は被ってしまう。

 やや乱暴に退かされた水色ジャンパーの男は、相手への既視感を拭いきれないままに店内へ入って行く。

 

 ────あいつ……どこかで会ったような? 

 

 だが、そんな疑問は口に出される機会を得ないまま彼の中で忘れ去られていくことだろう。

 黒コートの男も特に何も言わず、バイクに跨って発進させようとするが────。

 

「あそこのハンバーグ、美味しかったね!」

 

「ああ。また行こう。今度はオムライスも付けて」

 

「でもそんなに食べ切れるかなぁ」

 

「お父さんと昴で半分ずつ食べればいいさ」

 

「うん!」

 

 仲睦まじい親子が彼の前を通り過ぎた。

 満天の笑顔を咲かせる息子の手は、微笑を浮かべている父としっかり繋がれている。

 そんなごくごく普通の光景に目を細めた男は今度こそバイクで走り去った。

 

 

 





ハードモード突入……かもしれない。

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