仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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衝撃ちゃ衝撃





バロン編 問い続ける「戦う理由」
衝撃! フルーツで変身!?


 

「ふぁ〜……おはよぉ〜」

 

 二階から降りてきた龍我の盛大な欠伸がリビングに響いた。

 先に起きて、朝食の準備をしていたガイドと瑠美がその間延びした挨拶に呆れつつも返事をした。

 

「おはようさん。しっかしまた随分と寝坊助だねぇ」

 

「おはようございます。紅茶で良かったですか?」

 

「仕方ねえだろ、昨日あんだけ戦ったんだからクタクタだったんだよ。

 ……あ、俺は朝プロテイン飲むからいいわ」

 

 やはり何と言っても、朝はプロテインに限る。

 大きめのグラスに入れた液体をゴキュゴキュと豪快に飲み干した龍我は、そこでようやく大地の姿が無いことに気付いた。

 時計の針は朝の十時を回った頃。

 自分もそうだが、彼の方がよっぽど寝坊助ではないか。

 

「大地の奴はまだ寝てんのか?

 しゃーねえ、俺が起こしてきてやるよ」

 

「だ、駄目ですよ!

 大地くんは酷い怪我なんです! 絶対安静にしてなきゃ!」

 

 大地の部屋に向かおうとする龍我を、血相を変えた瑠美が引き留める。

 昨夜大地が帰った頃には既に爆睡しており、彼が消えた騒動も龍我は知らなかったのだ。

 そんなに酷い状態なのか、と納得していると、誰かが階段を降りる音がした。

 

「お、おお。悪い……ってあれ?」

 

「……」

 

 大地だ。

 確かに具合は悪そうで青い顔をしているが、言われていたほどの酷い傷があるようにはとても見えない。

 それだけなら瑠美が大袈裟だったのだろう、で済む話なのだが。

 

「……ぉはようごさいます」

 

(暗っ!)

 

 そう、暗い。

 背景に「どよ〜ん」という文字が透けて見えるレベルで暗い。

 知り合いのマスターが入れたクソマズコーヒーより暗い。

 ムカつく敵(スターク)に煽られて落ち込んでる戦兎より暗い。

 

 かける言葉が見つからない龍我、瑠美を尻目に食卓に着く大地。

 つやつやの白米にアサリの味噌汁、漬物、納豆、だし巻き玉子、半身の焼き魚────鼻腔をくすぐる皿の数々を前にして、大地はポツリと呟いた。

 

「……ごちそうさまでした」

 

(一口も食ってねえじゃねえか!)

 

 虚ろな目で腰を上げようとした大地であったが、その肩はガイドが押さえた。

 そして彼の前に置かれた、湯気が香り立つ茶碗。

 その中身はきのこと野菜がふんだんに使われた雑炊であった。

 

「食欲が湧かない時だってあるだろうさ。

 あんまり辛いことがあると、飯が喉を通らなくなるなんてこともある。

 それでも、これぐらいだったら食えるだろう?」

 

「でも……僕は……」

 

「しのごの言わずに食べな。

 うちで暮らして、働くなら俺の飯はしっかり食う。これは大前提だ。

 どんな人間にだって、飯を食う権利はあるんだぞ」

 

「……いただきます」

 

 初めは恐る恐る、やがて掻き込むように雑炊を食べる大地。

 それを合図にして、光写真館の遅めの朝食が始まった。

 

「にしても、ガイドの作る飯はほんと美味いな。

 うちのマスターも見習って欲しいくらいだぜ」

 

「人間何をするにしても、エネルギーがなきゃ話にならん。

 いざという時に力を出す為にも、毎日の食事は欠かしちゃいけないんだよ。

 ────あ、そっちの味噌汁は瑠美ちゃんの自信作ね」

 

「大地くんは鉄分が足りてなさそうなので、アサリがいいんじゃないかと思って……」

 

 一心不乱に食べる大地が話に加わる様子は見せない。

 鉄分がどうのこうのと言われても、さっぱりな龍我には「酷い怪我なんてどこにもねえじゃん」という感想しか無かったが。

 たっぷりの大根おろしが乗っただし巻き玉子をひょい、と口に放り込んで予想通りの美味に顔を綻ばせるものの、一方で思い出さずにはいられない記憶があった。

 

 途端に顔を曇らせた龍我が不思議に見えたのか、瑠美が声をかけてくる。

 

「あれ、喉に詰まっちゃいました?」

 

「……前に話したアイツ──戦兎も玉子が好きでよ。つい思い出しちまった。

 アイツが好きなのはもっと甘ったるい味なんだけど」

 

「心配ですよね、仲のいい友達と離れ離れになっちゃって」

 

「いや、心配なんて────まあ心配だな、アイツは変身できねえから。

 それに俺とアイツは友達じゃなくて……なんて言えばいいんだ、こういうの」

 

「相棒、だろ?」

 

 ガイドの言葉に同意をしそうになったが、途端に気恥ずかしさを覚えた龍我は空の茶碗を差し出して「おかわり!」と誤魔化した。

 これ以上この話題を続けるのもなんとなくむず痒い気がして、別の話題を振ってみる。

 

「そんでよ、結局別の世界で俺たちは何をすりゃいいんだ? 

 前のとこは全然わかんねえまま終わっちまって、城戸さんに挨拶もできなかったけど。

 とりあえず仮面ライダーはいるんだよな?」

 

「はい。それぞれの世界にいる特定のライダーを記録することが条件みたいです。

 具体的にこうする! っていうのは私もまだわからないんですけど……ひとまずその世界のライダーを探してみることからいつも始めてますよ。

 確か残ってるライダーは……っと」

 

 ごそごそ、と瑠美が引っ張り出したメモ帳。

 開いたページには、ライダーの名前らしきカタカナが羅列してあり、その内のいくつかは二重線が引かれている。

 この時もまた「ナイト」に新たな二重線が引かれた。

 

「えーと……あ、ありました。

 カイザ、カリス、ガタック、アクセル、バース、メテオ、バロン、スペクター、ブレイブ、クローズ。

 あと10人ですね」

 

「ほーん……ん? 俺もか?」

 

 龍我と瑠美の視線が一斉にガイドに向く。

 

「そうなるねえ。大地がクローズを記録してくれるならオッケーだから」

 

「マジか! じゃあ一つぶん減って、あと9人じゃん!」

 

「いや、自分の世界に帰るんなら結局変わらないと思うぞ」

 

「……あ、そっか」

 

(あくまで龍我視点で)話がややこしくなってきた。

 元々考えることを得意としない龍我はそれ以上の思考をスパッと打ち切って朝食の残りを搔っ食らうことに集中する。

 まあとりあえずはライダーを探して、敵をぶっ倒せばいいんだろう。

 

「おかわり!」

 

「よく食うな、君は」

 

 最初のどんよりした空気はどこへやら、食卓は次第に普段の和気藹々とした雰囲気を取り戻していく。

 そんな空気の中で食事をする内に、大地もまた少しずつ笑顔を見せていった。

 

 ────少なくとも表面上は。

 

 

 

 *

 

 

 

 朝食を終えて、身支度を整えてから出発する面々。

 まだ見ぬ世界への第一歩を妙にワクワクした面持ちで待つ龍我を横目で見て、大地は何と言うべきか迷ってしまった。

 自分の経験則では、多少の違いこそあれど街並みや風景なんてものはどこも大体一緒なのだ。

 しかも初日は聞き込み調査から始まるのだから、龍我の想像よりはかなり地味な第一歩となるのは間違いない。

 

「よっしゃ、行くぞぉ!」

 

「はい!」

 

 勇ましく出発した龍我と瑠美から一歩遅れて、大地もまた新たな世界の地を踏む。

 

 そこにはいつもと代わり映えしない風景が────。

 

 

「────あれ?」

 

 広がっていなかった。

 

 

 どこを見渡せども、瓦礫、瓦礫、瓦礫。

 局地的に小さく燃える炎や立ち込める黒煙、生暖かい風も加わった風景はまさしく焦土と呼ぶ他ない。

 少なくとも視界の及ぶ範囲には動いているものは何一つなく、人間はおろか動植物でさえ存在していない寂しい世界。

 ありとあらゆる建造物が廃墟と化している中で、たった一つ五体満足で済んでいる光写真館は異質この上ない。

 

 まるで隕石でも衝突したかのような有様に誰もが絶句して、暫しの間佇むことを余儀なくされた。

 

「なんか……異世界って思ってたよりも殺風景なんだな」

 

「いえ、こんな世界は僕達も始めてです」

 

 こうして立ち尽くしていても何も始まらない。

 足元に注意を払いながら、大地達は瓦礫の中を進み始めた。

 全員が動きやすい服装であったことも幸いしてか、なるべく道が拓けている場所を選べばそこまで危険な道のりでは無い。

 

 そうして歩き続けること数十分。早速いくつかのことが判明した。

 

 まず、ここは中々の発展を遂げた都市であったこと。

 あちこちに転がっている割れたガラスや、衣服の切れ端のような人の営みがあった証拠が良い証拠だ。

 瓦礫の中に沈んでいる残骸や、黒ずんだ看板などからもそれが窺える。

 また、それらの残骸からここが「沢芽市」という街だということも分かった。

 

 次に、恐らくこの街のほぼ全域がこのような状態になっていること。

 地平線の彼方にある建物も同じく廃墟化しており、向かったとしても見える風景は変わらないだろう。

 それに全てを見て回ったわけでないものの、こんなに進んでも生きている人間とは一人も会えていない。

 ここで“生きている”、と表現したのは────人と同じ大きさの炭化した影ならばいくつか発見することができた故。

 

 そのあまりにショッキングな光景に、青い顔をした瑠美のためにも一旦休息が必要だった。

 

 

 男手二人に加えレイキバット、バイオグリーザなども総動員して瓦礫を撤去し、座り込めるスペースを確保する。

 ズボンの汚れはこの際仕方あるまい。

 持参した水筒で喉を清めながら、とある方向に集中する一向の視線。

 

「やっぱ怪しいのはアレだよな……」

 

 龍我の呟きには誰もが同意せざるを得ない。

 彼が指した“アレ”とは、すなわち巨大広葉樹のような超高層タワー。

 その上部にある巨大リングもそうだが、あそこまで高い建物は大地も見た事がない。

 ざっと調べてみたところ、街の中心部に座するあの特徴的な建造物だけが一切の損傷も無しに建っている。

 明らかに不自然なあのタワーを、この惨状と無関係と断じることなどできようものか。

 

「このまま徘徊していても埒があかないですし、行くしかないでしょうね。

 でもただでさえこんな惨状なんだから、あのタワーに向かうのも危険かもしれません。

 せめて瑠美さんを写真館に帰してからの方が」

 

「私なら大丈夫です。

 それにここから戻るのも時間がかかります。

 ご迷惑はかけられませんから」

 

 瑠美が同行の意思を曲げる様子はない。

 彼女の言うことにも一理あるが、それでも危険が予測される場所に自衛手段を持たない瑠美を連れて行くのはどうにも気が引ける。

 それにどうしても想像してしまうのだ。最悪の可能性を。

 

 ──もしも、瑠美も守れなかったら。

 

「なんだ、今日の大地はいつにも増して弱腰じゃねえか。

 心配しなくとも、瑠美なら俺が直々に守ってやるよ」

 

「ほら、レイキバさんもこう言ってることですし。ね?」

 

「……はい」

 

 その場は流されて、渋々頷く大地。

 今朝の沈鬱な顔を取り戻した大地を不安そうに見つめる瑠美に気付く余裕は無かった。

 

 そろそろ出発するか、という頃になって龍我の懐からヘンテコな物体が顔を覗かせていることに瑠美が気付いた。

 青紫の植物のようだが、そんな植物は瑠美の知識に存在していない。

 彼女が疑問の声を上げるのは当然であろう。

 

「これか? これはさっき拾ったんだよ。なんか美味そうだったからさ。

 あ〜、丁度腹も減ってきたし、食ってみるかぁ」

 

「あんなに食べてたのにもう……?」

 

 言われて大地も見てみれば、なるほど確かに美味しそうに見えてくる。

 どうやらそこら辺で生っていた木の実らしいその果実の皮を龍我が剥くと、顔を出したのは透明感のある瑞々しい果実。見ているだけにも関わらず、いよいよ食欲が刺激されてきた。

 ゴクリ、と生唾を飲み込む大地の目前で、その果実は龍我の大口に放り込まれ────

 

 横から発射されたレイキバットの氷柱に撃ち抜かれた。

 

「ああっ!? てめえ何すんだよ!」

 

「正体不明の動植物を食う奴があるか。

 俺のデータにも無い植物なんざそうある物じゃないぞ。

 毒入りだったらどうするんだ」

 

「はぁ? いちいち大袈裟なんだよ……あー、これじゃあもう食えねえし。勿体ねー」

 

 ぐちゃぐちゃになって放り捨てられた果実。

 やはり美味しそうだとは思うが、レイキバットの言い分は尤もである。

 ぶつくさ言いながら先頭を歩き始めた龍我。

 大地は瑠美の背後について、有事の際にはいつでも守れる隊列を組む。

 

 そしてタワーを目指す大地達の目が何か動く物体を捉えた。

 

「あれって……ひ、人です! 生きてる人間ですよ!」

 

 見間違いなどではない。あれはちゃんと生きてる若い男性だ。

 服装こそ多少汚れてはいるものの、怪我を負っている様子もない。

 しかしあたふたと慌てながら走っている姿を見ると、どうやら何かから逃げているらしい。

 

「おい、アイツの後ろから変なのが追っかけてくるぞ」

 

 龍我の言う「変なの」とは、まさしくあの人を追いかけている二体の灰色の怪物のことで違いない。

 ずんぐりむっくりとした体型とヨタヨタした走りは不思議な愛嬌があるが、あの大きい爪なら人の皮膚など薄紙のように裂いてしまえるだろう。

 

「万丈さん!」

 

「おう!」

 

 怪物の脅威を確認するや否や、走り出した大地と龍我。

 落ちているガラス片にデッキを翳しながら、逃げ惑っている青年を守るように躍り出る。

 

「「変身!」」

 

 Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah! 

 

 大地はベルデに、龍我はクローズに変身。それぞれ一体ずつ担当する形で怪物に向け駆け出した。

 背後で目を丸くしている青年の保護には瑠美とレイキバットが向かう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「まさか……アーマードライダー?」

 

「あーまー……え? あなた今、ライダーって……」

 

 青年の発した単語に、今度は瑠美が目を丸くしているが、今まさに始まろうとしている戦闘には関係のないことである。

 

 ベルデ達を敵対者と認識した灰色の怪物が突進してくるが、やはりその速度は先ほどの通り鈍重そのもの。

 回避だろうがカウンターだろうが思いのままにできる。

 

 HOLD VENT

 

「セイッ!」

 

 ベルデは未だに使い慣れない武器の練習も兼ねて、召喚したバイオワインダーを放つ。

 その回転を怪物にぶつけ、手元に手繰り寄せる。これを数度繰り返すと、目の前の怪物がさほど強くない……むしろ自分の知る中では弱い部類であることを察した。

 

 これなら苦戦する事もないか、と思ったところで。

 

 ドラゴニックフィニッシュ! 

 

「これで終わりだぁぁぁッッ!!」

 

 横から吹っ飛んできた、青く炎上した物体。

 あの炎上している物体の正体は、どうやら横でガッツポーズしているクローズに葬られた怪物らしい。

 

 こっちも早めに決めてしまおう。

 そう思いカードを抜いたベルデであったが、そこで怪物の外見に妙な部分があることに気付いた。

 

(……なんで服を着てるんだ?)

 

 先ほどは模様の一種かと思っていたが、よく見れば怪物は人間が着る衣服の切れ端を身につけている。

 何か不思議な習性でもあるのかもしれないが、今は詮索する時ではない。

 

 FINAL VENT

 

 出現したバイオグリーザの長い舌がベルデの足に絡みつき、空中ブランコのような体勢で怪物を掴む。

 空中で回転したベルデは掴んだ怪物を地面に直撃させることで、その脳天を破壊した。

 ベルデの必殺技、デスバニッシュによってこの怪物もまた爆発四散したのだった。

 

 この鮮やかなまでの瞬殺劇。

 これにはいざとなれば加勢するつもりでいたレイキバットも些か拍子抜けしてしまったようだ。

 

「なんだぁ? 奴さん、てんで弱いじゃねえか」

 

「あいつらは低級のインベス。

 もっと手強い上級のインベスだったらヤバかったかもしれない……。

 それにしてもアンタ達、見たことないけどアーマードライダーってことでいいんだよな? ────って、うぇっ!? 蝙蝠が喋ってるぅ!?」

 

「そういう反応はもう見飽きた……」

 

 

 

 *

 

 

 

 戦闘を無事終えたことで、話を聞く余裕ができた。

 変身を解除した大地と龍我も交え、簡単な自己紹介を行う。

 混乱させてしまうかもしれないので、自分達が別の世界から来たという情報は敢えて黙っているが。

 

「さっきは助かったよ。俺は葛葉絋汰。

 ……なあ、もしかしてアンタ達は沢芽市の外から来たアーマードライダーなのか?」

 

 アーマードライダー、という名前は恐らくこの世界で言う仮面ライダーのことなのだろう。

 そう解釈した大地は絋汰の質問に答える。

 

「うーん……外って言えば外、なのかな。

 でもどうしてそう思ったんですか?」

 

「俺、チーム鎧武っていうダンスチームに所属してたからさ。

 その関係でアーマードライダーにはちょっと詳しいんだ。でも、アンタ達の変身したライダーは配信でも見た事がなかったから、もしかしてと思ったんだけど……」

 

 ダンスチームとライダーに何の関係があるかは依然不明のままだが、尋ねるべきことは他にも山ほどある。

 この街の惨状、あの怪物の正体などなど。

 さてどれから聞くべきかと考えたところ、絋汰の方が先に口を開いた。

 

「一応聞いておきたい。

 ここに来るまでの俺の姉ちゃんを見かけなかったか? 

 えっと、髪はこれぐらいで、歳は俺とそんなに変わらなくて……後はそうだな、確かピンク色のパーカーを着てたと思う」

 

「いえ……僕たちもここに来てから初めて会ったのが葛葉さんなので。

 あ、でもお姉さんを探すんだったら僕達も手伝いますよ。

 さっきみたいな怪物……インベスでしたっけ? あんなのがまた出たら危険ですから」

 

「ほんとか!? なんて礼を言ったらいいか……

 せめてロックシードがありゃあ、インベスにも対抗できるのになぁ」

 

 ロックシード。

 この単語には大地は聞き覚えに近い感覚がある。

 確か龍弦と斬月にカメンライドした時、記憶として流れてきた変身アイテムの名前だったか。

 フルーツを模したアイテムという物珍しさから、大地もよく覚えていた。

 それにあのドウマが変身したセイヴァーも同じ規格のアイテムを使っていた筈。

 

 このように知識を持つ大地はともかく、龍我と瑠美にはなんのことやらさっぱりである。

 

「そのロックシードっていうのはなんなんですか?」

 

「え、あんたらアーマードライダーなのにロックシード持ってないのか? 

 ……まあいいか。ロックシードっていうのは────」

 

 

 

「こういうモンだよ!」

 

 突如として響く叫び声に、振り返る大地達。

 やって来たのは、ボロボロの格好をした三人組の男達。

 声の主と思わしき一人が持っているマンゴーを模した錠前こそ、件のロックシードなのだろう。

 しかも彼等の腹部には黒いベルトが巻いてあり、この後の展開をそれとなく予感させる。

 

「お前ら、シェルター組だろ!

 隠しても無駄だぜ? その綺麗な身なりで一目瞭然だからな!」

 

 言われてみて初めて気付いたが、確かに絋汰と男達では服装の汚れ具合にだいぶ差異がある。

 そこそこの汚れのみな絋汰と、あちこちに穴が空いて傷だらけの男達。

 だがシェルター組とはなんだろう、と顔を見合わせる大地達であったが、察しがついた者はいない。

 しかし、シェルター組と呼ばれた絋汰だけは顔を青ざめており、詰め寄ってくる男達から辛そうに顔を背けた。

 

「ユグドラシルの安全なシェルターでぬくぬくと平和な毎日を過ごすのはさぞ気持ちが良いことだろうよぉ。

 何せインベスに襲われる危険も、食糧不足の心配もしなくて済むんだからなぁ!」

 

 男は額に青筋を浮かばせながら絋汰の胸倉を掴む。

 彼の放つ怒気は相当なもので、止めに入ろうとした大地と龍我も思わず躊躇ってしまうほど。

 その怒気を最も間近で当てられている絋汰は今にも泣き出しそうになりがら、絞り出すように声を発した。

 

「……アンタ達が怒る気持ちはよくわかるし、俺だってこんなことおかしいって思ってる。

 俺を痛めつけて気が済むんなら、いくらでもそうしてくれて構わない。

 けど、一つだけ頼みがある。

 もし知ってるんなら……俺の姉ちゃん──葛葉晶の居場所を教えてくれ! 頼む!」

 

 縋り付いて懇願する絋汰に驚き、少しだけ毒気を抜かれた男。

 だが、怒り一色だった顔に新たに加わったのは果てしなく意地の悪そうな笑み。

 男の醸し出す湿った雰囲気に大地は嫌悪感が湧いた。

 

「そうさなぁ……そこまで言うんだったら教えてやらんこともねえな」

 

 男の返答に絋汰の表情がパッと輝く。

 しかし、次の瞬間には振り抜かれた男の拳が絋汰を吹っ飛ばしていた。

 呆気に取られている大地達を嘲笑うかの如く、男はロックシードを構えた。

 見れば、他の男達もマツボックリの錠前を手にしている。

 

「ただし教えるのはお前らが死んだ後だがな!」

 

 マンゴー! マツボックリ! 

 

 ロックオン! 

 

 彼らのロックシードが開錠すると、それぞれの頭上に空間の裂け目が生じる。

 チャックのように開いた裂け目から出現する果実型の物体。

 ロックシードが腰部のベルトにセットされることで、彼らの出陣を知らせるように法螺貝の音が軽快に鳴り響く。

 

「「「変身」」」

 

 ソイヤッ! マンゴーアームズ! Fight of Hammer! 

 

 ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃インザシャドウ! 

 

 彼らの頭に落ちた果実が開いたかと思えば、その身は堅牢な鎧が包んでいた。

 男達が変身した、足軽を連想させる黒いライダー。その名を黒影という。

 

 この世界に準えて言えば────アーマードライダー黒影。

 

「さあ、こいつらに俺達の苦しみを味あわせてやれ!」

 

 マンゴーを象ったハンマー、マンゴーパニッシャーを担いだ黒影を皮切りに襲いかかってくる三人のライダー。

 その狙いが絋汰であることは勿論、傍観者になりかけていた大地達も含まれていた。

 

 今更の話になるが、ライダーが繰り出す攻撃を生身で食らえばただでは済まない。

 それがわかっていながら、黒影達は容赦なく槍やハンマーを突き出してくるのだ。

 

「おわっ!? この忍者野郎、いきなり何すんだよ!」

 

「やめてくれ! 俺はともかく、この人達は何の関係もないんだ!」

 

 槍──影松の鋭い突きを辛うじて回避しながら、カウンターの拳を叩き込む龍我。

 最初の威勢こそ良かったが、襲ってくる黒影の練度は大したものではないらしい。

 それなりの場数を踏んでいることもあって、龍我なら変身せずともなんとかなるだろう。

 連中を必死に説得しようとしている絋汰も意外に運動神経が良いのか、ハンマーの鈍い振りはなんとか躱せている。

 

 だが、瑠美ではこうはいかない。

 

「やめろぉぉ!」

 

 大地は瑠美に迫った影松の穂先を蹴り上げ、槍の持ち主にハイキックをぶち込む。

 重厚な音を立てて転がる黒影を見据え、取り出したメイジドライバー。

 彼らにも複雑な事情があることはわかるが、それで瑠美を襲っていい理由にはならない。

 

(こんな人たちに瑠美さんを殺させるもんか……!)

 

 チェンジ! ナウ

 

 スクラッチネイルの裏拳が瑠美を襲った黒影をさらに吹っ飛ばした。

 メイジとなった大地は間髪入れることなく、リングを指に通す。

 

 フレキシブル! ナウ

 

 龍我と絋汰に襲いかかっている二人に伸びるメイジの腕。

 絡めとられた二人の黒影を、先に吹っ飛ばした一人の方へ纏めて投げ飛ばす。

 これで頭を冷やしてくれればいいのだが、彼らの低い雄叫びを聞く限りでは望み薄か。

 むしろ今の攻撃で頭に血が昇ってしまったようで、その怨嗟は収まるところを知らない。

 

「てめぇぇ〜……! ドライバー持ちかよ! さてはユグドラシルのライダーか!」

 

「ユグドラシル……?」

 

 またしても知らない単語が飛び出してきた。

 しかし今度は考える余裕も無い。

 黒影達がぶつけてくる、怨霊の如く燃え上がる負の感情に対してメイジには既視感と怖気が走ったのだ。

 

 忘れたくても忘れられない感覚。これでは前回のライダーバトルとなんら変わらないではないか。

 どうして自分はこの世界でも同じライダーと、しかも人間同士で戦っているのだ? 

 

 トラウマとも呼べる真新しい記憶が呼び起こされれば、もうメイジは戦えない。

 言葉と動きを失ったメイジなど、黒影からすれば格好の獲物に違いない。

 

「大地、何ぼさっとしてんだ!」

 

 龍我の声でようやく我に帰るも、今のメイジは愚鈍としか言えない。

 目の前の相手はもう既に必殺技の準備を終えていたのだ。

 

「死ねぇ!」

 

 マンゴースパーキング! 

 

 爆発的に増大したエネルギーにより、凄まじい推進力を与えられたマンゴーパニッシャーがミサイルのように放たれる。

 咄嗟に腕を交差させた程度の防御では威力の減衰だって叶わない。

 戦意が衰えた刹那を狙われた所為も合わさって、吹っ飛ばされたメイジの変身は解けてしまっていた。

 

「うぐぁ……!」

 

 倒れた背中に尖った破片が食い込み、その鋭い痛みから悲鳴が漏れる。

 そんな痛々しい叫びに擽られて、膨れ上がる黒影達の加虐心を肌で感じながら、自身の中に潜んでいた声が首をもたげてきたことを自覚する大地。

 

 ────こんな連中、倒してしまえばいいじゃないか。

 

(駄目だ……相手は人間なんだから……!)

 

 ────そうやって逃げた結果がどうなったか。忘れてはいないだろう? 

 

(……!)

 

「……なんだぁ? その目は」

 

 大地を正面から見据えていた黒影がそんなことを言った。

 彼の声に微かな怯えがあったことは、恐らく本人でさえも気付いていない。

 

 無意識にダークディケイドライバーを握る大地。

 仕方ねえ、とぼやきながら前に出る龍我。

 さらにその前に出て、土下座までしようとする絋汰。

 

 だが、それで止まる黒影達でもあるまい。戦闘はこのまま泥沼化することも予測されたが────。

 

「絋汰さん、伏せて!」

 

 響いた声は若い青年のようだった。

 頭上を通過していく幾多もの弾丸に驚くのも束の間、視界に飛び込んできた紫と緑の背中に大地は目を見開く。

 轟く紫龍の息吹に撃ち抜かれた黒影から絋汰を守るように立ちはだかったそのライダーを、大地はよく知っていた。

 

「仮面ライダー龍玄……!」

 

「ミッチ!」

 

「何してくれてんだテメェェェ!」

 

 装甲から煙を上げながら、叫ぶ黒影。

 先の銃撃は牽制程度の威力しか無かった故か、火に油を注いでしまった龍玄はしかし一切怯む様子も見せずに、ブドウ龍砲による射撃を続ける。

 マツボックリの方はそれで十分牽制になったのだが、マンゴーのより強固な装甲には大したダメージは通っていないのか、雄叫びと共に突貫してくる足を止められない。

 

 ブドウ龍砲がさして効果が無いと知るや、龍玄はすぐさま自身のブドウロックシードを解除する。

 代わりに開錠したロックシードからは、「パイン」と音声が鳴った。

 

 ハイィーッ! パインアームズ! 粉砕デストロイ! 

 

 ブドウからパインの鎧へ換装した龍玄。

 アームズチェンジに伴って、パインアイアンという鎖鉄球の武装を備え、マンゴーアームズを迎え撃つ。

 互いに同程度のパワーであるなら、勝敗を分けるのは使い手の技量。

 一直線にハンマーを振り下ろすだけの芸がない黒影に対し、多角的に攻める龍玄の鉄球。

 こうして見ればわかるが、自分たちと比較しても遜色ないレベルで龍玄の経験値は高い。

 

 その予想に違わず、数度の衝突の後、パインアイアンの描いた弧の激龍が黒影に炸裂した。

 

「がぁぁっ!」

 

 強烈な一撃を叩き込まれたことで、保てなくなった黒影の変身。

 中身の男は憎悪と苦痛で彩られた顔を龍玄に向けるものの、足元に鉄球を叩きつけられた途端に恐怖一色に染まった。

 

「わざわざ言わなくてもわかるよね? 

 さあ、もう行って」

 

 這々の体で逃げ出して行く背中を見送ってから、龍玄も変身を解く。

 声からして若い男という印象を受けていたが、果たしてそのイメージ通りの青年が変身者であった。

 輪郭の整った女性的な顔つきは、絋汰を認めた瞬間に柔らかな笑みを咲かせた。

 絋汰はその対照的で、喜びとは掛け離れた態度であったが。

 

(悪戯がバレた子供みたいだ……)

 

「絋汰さん! 良かった、無事だったんですね。

 駄目じゃないですか。勝手に抜け出しちゃ」

 

「あ、ああ……悪いなミッチ、心配かけて」

 

 それで、と言葉を紡いだ青年の視線が大地、龍我、瑠美の順で一巡りする。

 

「あなた達は一体……?」

 

 その目が一瞬鋭くなったのは気の所為だろうか。

 

 

 

 *

 

 

 

 同時刻、異界の森にて。

 

 彼は複数の異形の怪人達と対峙していた。

 

 手始めに、目も眩む閃光を走らせる。

 

「グォォォッ!?」

 

 白い猛牛のような怪人が爆発四散した。

 

「グリンシャ!?」

 

 仲間の死に驚く孔雀に似た緑の怪人。

 ほどなくして、何らかの存在が繰り出した鋭い尻尾によってその顔面に風穴を開けられた。

 仲間の変わり果てた姿に怯えた緑の亀に似た怪人も、猛スピードで迫る火の玉に周囲の草木ごと焼き払われる。

 

 瞬く間に仲間を失い、己の不利を悟った赤い怪人。

 尚も抗おうという意志は見せるものの、彼の本能が告げているのだ。

 目の前の存在には決して勝てないと。

 

「ッ!」

 

 マントを翻して逃げる赤の怪人を追おうとした影であったが、その道を遮る刃。

 しかし、その赤黒い刃の主が敵ではないと理解しているが故に、赤い怪人だけは逃げ果せることができた。

 

「深追いは無用だ。テストならこれで十分だろう?」

 

 赤黒い鎧武者の如き戦士の名はセイヴァー。

 この世界の仮面ライダーと同じシステムを使いながら、その実別の世界からやって来たというややこしい存在。

 だが、ややこしさという点なら自分の方が遥かに勝っているだろうとも思う。

 

 複数の存在が混ざり合った自分の身体。以前の古いボディは想像も及ばないパワーが漲っている事実に、自然と声が弾んだ。

 

「そうだね! おじちゃん!」

 

 幼い口調に釣り合わぬ金属質の物騒なボディを揺らしながら、笑い続ける彼。

 不気味以外の何物でもないその存在に満足したようなセイヴァーの笑いが重なり、酷く耳障りな不協和音が焦土と化した森の奥で奏でられた。

 

 

 

 




最後の怪人は誰だクイズ!


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