大地たちの来訪から一夜が明けた沢芽市。
重厚な排気音を轟かせる二台のバイクが走るその時を今か今かと待ち望んでいた。
「お弁当は持ちましたよね。水筒は持ちました? ポーチには絆創膏と、あと────」
「お前は大地の母親かっての」
ダークディケイドが跨るマシンディケイダーには瑠美が持たせた荷物が満載されており、さながらピクニックに向かう子供と母親だ。
甲斐甲斐しく世話を焼く瑠美に呆れた龍我が軽くチョップしている。やめてほしい。
「なあミッチ……」
「わかっていますよ。裕也さんは僕がちゃんと探してきますから」
マシンディケイダーの隣、薔薇の意匠を施したバイク──ローズアタッカーに跨る龍玄。
不安げにしている絋汰に力強く頷く姿は彼等の間にある強固な信頼関係が伺える。
ことの発端は昨夜、大地がシェルターに帰還した時にまで遡る。
バロンに変身していた男の素性。そして彼はどこに消えたのか。
その二つを知っていた光実はとある提案をしてきたのだ。
『彼はチームバロンの元リーダー、駆紋戒斗。
まず間違いなく、彼の行き先はヘルヘイムの森でしょうね。
このロックビークルがあれば、自由な行き来が可能ですから』
『ロックビークル……多分、僕でも使えますよ。
その森に行けば、駆紋さんと話ができるんなら……』
『それなら僕と一緒に行きませんか?
ヘルヘイムの森は危険な場所ですが、僕ならある程度の土地勘は効きます。
それに森には行方不明になった裕也さん……僕らのリーダーもいますから、早く探し出して救出しないといけませんし』
完全に未知なる世界の森を一人で探索するなど、危険極まりない行為なのは違いない。
知識に富み、実力も心配いらずの龍玄が同行してくれるのは確かに心強かった。
ロックビークルとやらも使う方法は心得ている。
KAMEN RIDE ZANGETSU
DD斬月への変化に伴い、マシンディケイダーはこれまた特殊な形状のバイク、サクラハリケーンへと変わる。
ダークディケイドが披露したカメンライドに驚いたのであろう龍玄から息を呑む音が聞こえたが、よくある反応故に軽く流す。
「さて、行きましょう。光実さん」
「……そうですね。じゃあ絋汰さんは万丈さん達とシェルターで待っていてください」
微妙な顔で頷く絋汰。その顔色の意味に気付くことなく、二人のライダーはマシンを発進させる。
最高速度に至ると同時、桜と薔薇の花吹雪が寂れた風景に彩りを加えた。
行く手の先、花開いた時空の裂け目から覗く異界の森にいよいよDD斬月は気を引き締める。
花弁がブワっと舞い上がった瞬間、ライダー達はヘルヘイムの森へと突入したのだった。
「ここがヘルヘイムの森……」
一見するとただの森。
しかし、街で見た果実を初め見たこともない植物で満ち溢れている。
漂う空気もどこか異質で、数秒佇むだけで平衡感覚を見失いそうな香りが混じっている。
「僕の見立てだと、駆紋戒斗が出没するエリアはこの先です。
ですがかなり入り組んでいるので、歩いた方が良さそうですね」
「この先に駆紋さんが……。
にしても、よくわかりますね。こんな広い森なのに。
僕一人ならきっと迷ってましたよ」
目印になりそうな物は見当たらず、ひたすらに木しかない森。
重ねて言うが、もしここに一人で来ていたらとゾッとしてしまう。
ここにインベスまで闊歩しているというのだから、つくづく恐ろしい場所である。
「行きましょう。ここにいる時間はなるべく短い方がいい」
「ええ、裕也って人も探さないといけないですしね!」
「……それは、勿論」
急に歯切れの悪くなった龍玄の返答。
何か気を悪くさせてしまったのか、と考えたが思い当たる節などあるはずもなく。
少々居心地の悪さを感じた刹那、DD斬月は視界を巡らせた。
(────ど…….して……の)
「え?」
人影。そして声。どちらも少年らしきものだった。
驚いたDD斬月が視線を戻しても、そこには誰もいない。
先を進む龍玄も何かを聞いた様子はない。
「……疲れてるのかな、僕」
そういえば最近は身体が熱くなることも多い。
精神的な疲れもだいぶ溜まっている。
まともに人を守れない自分が大っぴらに休める資格があるとは思わないが。
DD斬月はメロンの上からポンポンと肩を叩き、駆け足でその後を追いかけた。
*
森へと誘われたライダーを見送った瑠美と龍我、それに絋汰の三人組。
しかし、不思議なことに彼らの足はシェルターとは真逆の方向に向いていた。
どこに隠していたのか、龍我と絋汰は身の丈もありそうなリュックまで背負い込んでいる。
「あの光実って奴にバレたらきっと大目玉食らうぜ」
「ミッチには悪いことをしたと思ってるよ。それでもあのシェルターで指を咥えてなんていられない。
姉ちゃんはたった一人の家族なんだ。こんな場所に放置していられるか!」
「大地くんと光実くんが頑張ってるんです。私たちにもできることをしましょう!
……なんて、戦えない私が言っても説得力がありませんね」
「そんなことはないさ。一緒に来てくれるだけでもありがたいよ」
後先考えず、やりたいと思う事に突っ走る。
それが葛葉絋汰の良いところでもあり、悪いところでもある。
そんなひたむきな男の頼みに快く頷いた龍我と瑠美で密かに計画し、こうして彼の姉を探しているのだ。
「見つかるといいですね、お姉さん」
「ああ! ……ところでさ、万丈たちは別の世界から来たって言ってたろ?
家族は心配してないのか?」
「家族かぁ……。お袋も親父も10年前に事故で死んじまってからずっと一人だったからよぉ」
「私も小さい時に……」
「す、すまねえ! 無神経なこと聞いちまった! なんて謝ればいいか……!」
両親を早くに失くすという不幸が共通しているとは夢にも思わなかったのだろう。
話題選びを間違えた、と咄嗟に謝る絋汰。
しかし、龍我も瑠美も気を悪くはしていない。
「別に気にしてねえって。てか餓鬼の頃なんて俺全然覚えてねえし!
寂しいって思ったこともあんまねえなー。
へっ、ウジウジすんのも好きじゃねえしよ!」
「悲しい想いは沢山したけど、大地くんからもらった希望のお陰で私は今も楽しく生きてます。
それに私にはもう新しい家族がいますから!
みんなのために戦ってくれる大地くんに龍我さん。
いつも暖かいご飯を作ってくれるガイドさん。
私を守ってくれるレイキバさん。
ちょっぴり怖いネガさんに、新しく仲間になってくれたバイグリさん。
みんながいる写真館が私の家族なんです!」
「家族って……大袈裟なんだよ。俺ら知り合ってまだ二週間も経ってねえし」
嘘偽りない瑠美の本心にむず痒そうな龍我。
小さな瓦礫をボールに見立てて蹴っているが、それが彼なりの照れ隠しなのは側から見ても明らかだった。
「万丈……瑠美……お前らいい奴らだな〜!!」
「うわっ、絋汰お前鼻水出てんぞ!」
そんなこんなで和気藹々としながら、一行は進むのであった。
*
一方、真逆の空気で進むダークディケイドと龍玄。
沈黙を先に破ったのは、ダークディケイドであった。
「光実さんは何の為に戦うんですか」
道無き道を進むのは大した苦ではない。
どちらかと言うと、会話が無い方が居心地は悪く感じる。
静かな雰囲気は大地の好みであるが、この森の静寂具合は度が過ぎている。
先を行く龍玄の背中に、そんな質問を投げかけた理由はそんなところか。つまりは会話に飢えてしまったのだ。
「……決まってるじゃないですか。
舞さんや絋汰さん、チーム鎧武。みんなの居場所を僕は守りたい。
その為だったら、僕は誰とでも戦う覚悟がある」
「もしも……もしもですよ? その相手が同じ人間でも、光実さんは戦えるんですか? 殺してしまうかもしれなくても……!?」
「あなたの言わんとしていることはわかります。
けどね、今の世界、犠牲にする勇気と判断も必要なんです。
そうでなきゃ、いざという時に何も守れない役立たずにしかなれない」
龍玄の口調には確固たる芯が通っている。
こうなる前は高校生だったとはとても思えない。
次の言葉を探すダークディケイドに、龍玄は足を止めないながらも僅かに振り返った。
「意外ですね。多くの世界を巡ってきた大地さんも同じ覚悟で戦ってきたと考えていたんですが」
「それは……!」
「他者を殺さずに済んできたのだとしたら……あなたは幸せ者ですね」
淡々としていた龍玄の言葉も、その時だけは本当に羨ましそうであった。
人間を殺す覚悟。
そんなもの、自分には無縁であると常々考えてきた。
だが、そうやって目を背けた結果が「ナイトの世界」での顛末だ。
(もうあんな思いは二度としたくない……。けどだからって、人を殺すことが正しいとも思えない……)
願わくば、もう人と戦うことがありませんように。
それが決して叶わぬ願いであると大地に教えたのは、肩を掠めた弾丸の存在であった。
「なっ……!?」
「ッ! 危ない大地さん!」
降り注ぐ機銃の嵐。
思考の海に沈んでいたダークディケイドは回避が遅れてしまうが、龍玄が咄嗟に突き飛ばしてくれたお陰で事なきを得た。
頭を戦闘モードに切り替え、木々の合間から抜けてくる弾丸をライドブッカーで斬り払う。
そして射撃が止んだかと思えば、近未来的な駆動音を響かせる数台のホバーバイクが彼等の前に現れた。
タンポポのロックビークル──ダンデライナーの部隊にダークディケイドと龍玄は包囲される。
「やっぱり……! 大地さん、コイツらはユグドラシルです!」
「ユグドラシルだって……? なんで、僕達を!?」
「わかりません。とにかくこっちへ!」
包囲の薄い箇所に突っ込み、駆け抜ける。
追撃の弾丸に身を屈めながら走るダークディケイドと龍玄は、木々が密集していない広場に出た。
当然追ってきたダンデライナーからの機銃掃射は、阻む木々が減った分その激しさを増し、逃げ足を強引に止めた。
逃げることもままならず、立ち往生を余儀なくされたダークディケイド。
苛烈な攻撃はそれだけに留まらず、次の瞬間にはその場に潜んでいた更なる刺客がダークディケイドの前で正体を明らかにした。
「今度はチューリップ!?」
広場に群生していたチューリップがなんの前兆も無しに巨大化し、二足歩行ロボとなって躍りかかってきた。
擬態による隠密行動と立体的な白兵戦を得意とするロックビークルこそ、このチューリップホッパー。
バッタの如き跳躍で繰り出された痛烈な蹴りはダークディケイドを大きく吹っ飛ばす。
「ヤァッ!」
龍玄の援護射撃がチューリップホッパーに迫るも、すぐさま防御形態に移行されてしまう。
傷一つ無いチューリップに戸惑う龍玄。
銃撃が止むと知るや、チューリップホッパーはダークディケイドの周囲を飛び跳ねる。
撹乱されている隙にまたもやダンデライナーの掃射がダークディケイドを撃ち抜く。
「市民と同じライダーなのに、なんて息の合った連携なんだ……!」
二種類のロックビークルに搭乗しているのは黒影トルーパーであるのに、あの市民とは脅威度がまるで違う。
組織を相手にする、ということの恐ろしさをダークディケイドはここにきて実感し始めた。
龍玄も三機ほどのダンデライナーに苦戦しているようだが、合計十機ほどのビークルに襲われている自分と比べれば幾分かマシか。
これだけでも厄介なのに、ユグドラシルの戦力は未だ出揃っていない。
周囲のビークルが一斉に飛び退くと同時、二本の光の矢がダークディケイドの胸部で爆ぜる。
あの宿敵セイヴァーと酷似した弓矢を構え、ビークル部隊を従えている二人のライダー。
しかもよく見れば、その片方は先程使用した斬月によく似ていた。
「大人しく投降しろ。そうすれば命の安全は保証する」
「それとも手荒い方が好みってんなら、喜んで歓迎させてもらうぜ」
夕張メロンのライダー、斬月・真。
さくらんぼのライダー、シグルド。
戦極ドライバーから進化したベルト、ゲネシスドライバーと高出力のエナジーロックシードで変身したユグドラシルの精鋭とも言うべきライダーである。
(こんなに沢山のライダーがどうして急に……!?
待ち伏せされてたのか!?)
これほどの大部隊と衝突して無事で済むはずがない。
しかも不信感を抱いているユグドラシルとはいえ、相手は人間。本気で戦えば死者が出る可能性も大いにあり得る。
「落ち着いて話し合いましょう。
僕はあなたがたの組織と事を構えるつもりはありません。
人を探しているだけなんです!」
「だとさ。どうする? 主任殿」
「奴の言葉を鵜呑みにする気はない。
元よりこの森は我々のテリトリーだ。
投降する意思がないのであれば、拘束するまで。行くぞシド!」
「へいへい、そんじゃパパッとやっちゃいますかぁ!」
再開される弾丸の雨あられ。
半ば予想していたが、あちらは聞く耳を持っていないらしい。
これはもう一時退却するが無難か、と考えたのだが。
「大地さ────うわぁっ!?」
龍玄は俊足で接近した斬月に掴まれて、どこかへ連れ去られてしまう。
あっという間の出来事だった。
「光実さん!? くっ!」
「余所見してんじゃねえ! お前はこの俺が始末してやるよ!」
シグルドとビークル部隊に道を塞がれたことで、龍玄とは完全に分断されてしまった。
彼と合流して撤退するには、この連中を突破するしか道はない。
「そこを退いてください!」
「やれるもんならやってみな!」
龍玄を救うべく、ダークディケイドはシグルドが指揮する軍団にたった一人立ち向かって行った。
*
斬月に引き摺られる形で戦場から離れた龍玄。
ほどほどに距離を取った後、龍玄は解放されたが、その際の斬月の手つきは丁重なもの。とても敵に対する態度には見えない。
それでも龍玄は油断なく銃を構える。
「────ここなら会話を盗聴される心配もない」
「────そうだね、兄さん」
しかしそんな会話に随伴して、ブドウ龍砲はスッと降ろされた。
龍玄と斬月の間には険悪さ、緊張感といった雰囲気はほとんど無く、敵対している間柄には見える者は少ないだろう。
それもそのはず。
「ユグドラシルも把握していない未知のアーマードライダー……。
お前の報告通りだな、光実」
斬月の声は親しみが混じっている。
斬月と龍玄、呉島貴虎と呉島光実。
彼等は血の通った兄弟であり、また光実はユグドラシルの構成員でもある。
光実が周囲の人間には決して明かさなかったこの事実、大地が知らなくても仕方のないことだ。
また、大地をヘルヘイムの森に誘ったこと。
ユグドラシルの迎撃ポイントに誘導したこと。
全てが光実の計画の内であった。
「どうやらあの人はいくつもの変身を自在に使い分けられる手段を持っているみたいだ。
戦極ドライバーを使っていた頃の兄さんと同じ姿にも成れることから、ユグドラシルの情報が漏れている可能性もあるよ」
「差し詰めどこかの国──恐らくはユグドラシルの利権を狙う企業が寄越した産業スパイか。
或いはお前が報告したように、本当に別の世界から来たライダーか。
真実は奴自身の口から割り出すとしよう。
光実は一旦本社に戻れ。以後は俺とシドで対処する」
「わかった。
ただ兄さん、くれぐれも油断しないように。
彼の能力は未だに底が見えない。
今後僕らの障害になる可能性を考慮すると、最悪この場で始末した方がいいと僕は思う」
絋汰の恩人でもある大地と表向きは親しく接してきた。
そんな彼を切り捨てる発言に龍玄は何の躊躇いもない。
むしろ“そうすることを望んでいる”と言っても良いかもしれない。
「ふむ……しかし、貴重なデータを得る又とないチャンスをみすみす不意にすることもできん。
奴を始末するのは、あくまでも最後の手段。優先すべきは無力化と拘束だ」
「それでも構わないよ。彼を自由にさせておくのは危険過ぎるからね」
必要な会話を終えて、二人はそれぞれが目的とする方向に向き直る。
斬月は再び戦場へ。龍玄はユグドラシル本社に繋がるクラックへ。
森の中を駆けながら、戦場で孤軍奮闘しているであろうダークディケイドを思い浮かべる龍玄。
彼には絋汰を救ってくれたことの感謝こそあれど、恨みは毛頭ない。
こうして裏切る羽目になったのも、龍玄にとっては必要だったから。それ以外の理由はない。
(大地さん……あなたは確かに絋汰さんの恩人だ。
でもね、あなたの存在は僕には都合が悪いんだ。
もしもユグドラシルに潜入なんかしたら、僕の秘密を暴かれるかもしれない。
────裕也さんを僕が殺したことだって、絶対に知られる訳にはいかない。
あなたに僕の居場所は乱させない。
だから……さようなら)
*
「秋山さん……力を借ります!」
KAMEN RIDE KNIGHT
鏡の虚像を自身に重ねたダークディケイド。
掲げたダークバイザーでチューリップホッパーの蹴りを弾きつつ、その剣を投げつける。
搭乗していた黒影トルーパーは、投合された剣に斬られて落馬し、搭乗者を失ったビークルはバランスを崩して転倒。そのまま爆散した。
ライドブッカーを構えたDDナイトを次に待ち受けていたのは、空中からの制圧射撃。
ATTACK RIDE ADVENT
「う、うわっ!?」
しかし、部隊の先頭を切っていたダンデライナーの液晶画面が突然歪み、その中から巨大な蝙蝠が飛び出してくる。
金切り声を上げるダークウイングの翼に打たれた数台は地面に衝突し、先のチューリップホッパーと同じ末路を辿った。
この仲間の仇を討たんとするダンデライナーがダークウイングに射撃を浴びせ、地上ではチューリップホッパーが再びDDナイトを取り囲む。
しかし、こうした場面においても有効打があるからこそ、ダークディケイドはナイトを選んでいた。
ATTACK RIDE NASTY VENT
「Qyyyyyy!」
ダークディケイドも苦しめられた超音波攻撃は全員に等しく降り注いだ。
鼓膜を掻き乱すような激痛に喘ぐあまり、黒影トルーパー達の多くが操縦桿を手放してしまう。
そうなればビークルがコントロールを失うことも、互いに激突してしまうこともまた必然。
これにてビークル部隊の過半数を無力化できたかと思われたのだが────。
チェリーエナジー!
果実の矢を受けて、無惨にも爆発四散するダークウイング。
装甲の色を失い、急激な脱力感に支配されたDDナイトにも創生弓の刃が飛んで来た。
ソニックアローとライドブッカー、二つの刃が互いにしのぎを削る
「随分と物騒なペットを飼ってるじゃねえか。
あんまり好き勝手されるのはこちらとしても願い下げなんでねえ」
「好き勝手じゃなくて、仕方なくですよ……!」
KAMEN RIDE IBUKI
ブランク体の非力さ故に、シグルドとの鍔迫り合いを押し負けたその時、DDナイトは消える。
残された一陣の風に撫でられたシグルドが怪訝に思うのも束の間、横合いから強烈な回し蹴りが叩き込まれた。
続けざまに二撃、三撃と見舞われる旋風の蹴り。
為すすべもなくシグルドは吹っ飛んだ。
だが、仮にも相手は北欧の勇者と同じ名を冠する戦士。
倒れながら、それでもシグルドは正確無比な狙いの矢を放つ。
「フゥッ────!」
DD威吹鬼の吐息が森に溶ける。
迫る矢は四本。DD威吹鬼は疾風となって前進を選ぶ。
一本目、回避。
二本目、これも回避。
三本目、回避────失敗。右上腕に血の穴が開く。
四本目、被弾。左膝にも穴が開く。
「へっ、ザマァねえ……何ッ!?」
だが、血と肉が弾けて混ざったグロテスクな傷もすぐに治る。
極限まで鍛え抜かれた鬼の肉体は、その治癒力も超人的なのだ。
開けた風穴が瞬時に塞がる、なんて目を疑う光景に狼狽するシグルド。
さらに加速したDD威吹鬼の飛び膝蹴りがまんまチェリーな胸部を叩いた。
「ガァッ!?」
それはなんの特異な力を纏っていない、至って普通の蹴りだった。
しかし、これは身体スペックだけなら最上位に位置する鬼の蹴りなのだ。それだけでも他のライダーの必殺技に匹敵する一撃に、シグルドが倒れるのも無理はない。
シグルドは反撃することさえ忘れ、胸の鈍痛に呻く。
そんな彼を見下ろすDD威吹鬼が追撃を仕掛ける気配はない。
「あぁ……?」
「言ったでしょう。あなた達と戦いに来たんじゃない、と。
話がしたいのなら、また来ますから」
「ああそうかい。悪いが、こっちには引き下がる理由は無いんだよ!」
「ですよねー……」
ソニックアローの刃に光が灯され、エネルギーの斬撃が放たれる。
それは不意打ちの如く飛んできた一撃であったが、DD威吹鬼は難なく躱す。
悲しいかな、こういった問答とその結末に慣れてしまっているのだ。
乱れ飛ぶ赤い矢は止むところを知らず、回避はできても徒らに時間が浪費されるばかり。
攫われた龍玄も不安なので、早めに離脱したいDD威吹鬼にはあまりよろしくない状況である。
「じゃあこっちで!」
KAMEN RIDE BEAST
矢を弾く金色の魔法陣。
潜った鬼は獅子の魔法使いに早変わり。
ダイスサーベルを構える威風の佇まいには、シグルドも思わず弓を引く手を止めた。
「が、がるるっ!」
「なんだぁ? また変わったのか?」
「もうちょっと変わります!」
ATTACK RIDE CHAMELEO MANTLE
DDビーストは肩のカメレオマントを翻すと共に、サーベルのダイスを回す。
ファイブ! カメレオ! セイバーストライク!
五発分の魔力が充填された剣を振りかぶるDDビースト。
直接当てる必要はない。これを目眩しとして、その隙にカメレオマントの能力で離脱し、龍玄を探しに行けばいい。
身構えるシグルド。
一気に解き放とうとしたセイバーストライク。
「ハァァ……ッ!?」
メロンエナジースカッシュ!
────耳朶を打つ音声により、DDビーストは剣を背後に振るった。
しかし、緑白色の三日月──強烈な斬撃によって解き放たれたカメレオンは一匹残らず消し飛ばされ、黄金の装甲をも飲み込んだ。
夥しい量の火花を散らして吹っ飛ぶDDビースト。
「何を遊んでいる、シド。
油断するなと再三言った筈だが」
森の闇を裂いて現れたのは、斬月・真。
彼が連れ去った龍玄の姿はどこにもない。
これが意味するところはつまり……。
「遊んでたのはアンタの方だろうに、よく言うぜ。
こっちが身を粉にしてキリキリ働いてるってのに、まさか上司が呑気にやってるとは思わねえだろ?」
「フン、減らず口はよく叩く」
「ちょ、ちょっと……ちょっと待って!
光実さんをどうしたんですか!?」
「貴様には関係のないことだろう。
────行くぞ!」
斬月はソニックアローを構えて、疾走を開始する。
敵のベルト、武器共にシグルドと同じ装備。
であれば対処はしやすいとDDビーストは考えたものの、その思惑はすぐに改めることになる。
ヒュッと手元が掻き消えた一瞬の後、突き出された弓刃。
怖気と反射神経に従った身体が辛うじて剣を持ち上げてくれていた。
「ほう……」
(速い……いや、それだけじゃない!)
斬月はこちらの剣を掬い上げて、さらに刃を振り下ろす。
流れるような動きで、面白いくらいに次々と斬られるダークディケイド。
ビーストの鎧はもうすでに限界を迎えており、黒い装甲には裂傷のような傷跡が刻まれている。
洗練され、無駄を徹底して省かれた動き。
単調に攻めるのではなく、絶妙な緩急をつけてテンポを悟らせないテクニック。
このライダー……斬月の強さとはすなわち、“巧さ”である。
「うりゃああっ!」
一方的な展開を避けたいダークディケイドは、強引にドロップキックを繰り出す。
斬月が取った防御の構えを足場とし、蹴っ飛ばして後退。これで距離は空けられた。
立ち上がる時間も惜しいと、ダークディケイドは倒れながらカードを装填する。
KAMEN RIDE MACH
ATTACK RIDE KAKSARN
斬月の頭上より滝のように降り注ぐ拡散弾。
火花と土埃で視界を曇らせ、そこへすかさずゼンリンシューターからの光輪をぶち込む。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「忘れてませんって!」
ATTACK RIDE KIKERN
DDマッハの背中を貫かんとした矢を魔獣の弾丸が噛み砕き、そのままシグルドに纏わりつく。
所狭しと暴れる黒い巨体にシグルドが苦戦を強いられている間に、DDマッハは次なるカードをセットしていた。
FINAL ATTACK RIDE MA MA MA MACH
未だに晴れない土埃──斬月の影にゼンリンシューターの銃口が鈍く輝く。
シグナルバイクの幻影を象った必殺射撃が正面から突っ込み、爆発。
カクサーン、光輪、ヒットマッハーの三連撃を立て続けに当てたのだ。これならさしもの斬月も……。
「────こんなものか」
「効いてない……!? 今のが!?」
残念ながら、本人は余裕綽々で健在。
思わず二度見して唖然とするDDマッハ。
だが、斬月にしてみればわざわざ驚くほどの芸当ではない。
視界を封じられた土埃の中、彼は風圧と電子音声を頼りに攻撃の方向を探り当て、その都度対処していただけのこと。
拡散弾は扇状の衝撃波で防ぎ。
光輪は紙一重で回避し。
ヒットマッハーに対しては、矢と斬撃で威力を減衰させ被害を限りなく減らしていた。
こうして箇条書きにしてみると簡単に見えるが、これだけの技巧を短時間で実行できるライダーはそうはいないだろう。
しかし、DDマッハが繰り出したのも腐っても必殺技。
斬月がほぼ無傷で済んでいる理由はまた別にあった。
「効かなくて当然だ。
貴様の攻撃には殺意が圧倒的に足りていない。
そんな浮ついた攻撃でこの私を倒せるものか」
「と、当然ですよ!
僕たちが殺し合う理由なんてない! ましてや人間相手に……!」
「理由か……そんな大義名分などなくとも殺し合うのが人間だ。
戦いとは殺るか、殺られるか。
戦場で無駄な感情や迷いを持ち込んだ者など、真っ先に食われる。
そんなことにも気付かずに、よく今日まで生きてこれたものだ」
「そ、それは……」
前回の愛憎渦巻くライダーバトルは記憶に焼きついている。
斬月の言葉を裏打ちしているのは、他でもない自分自身の経験なのだ。
「無駄口が過ぎたな……ハッ!」
束の間の会話は打ち切られた。
緑の軌跡を残す疾走が迫る中、DDマッハの初動は完全に出遅れてしまった。
足元に炸裂する赤みを帯びた矢がDDマッハの動きを制限し、接敵までの対応を許さない。
斬月の言葉という靄がかかった思考では碌に考えることさえままならず、袈裟斬りを甘んじて受け入れる結果となってしまった。
身を裂かれる激痛に耐え切れず悲鳴を上げるDDマッハ。
つんのめった純白のボディを、斬月の斬り上げが宙に浮かべた。
「ぐああっ……!?」
内臓を揺らす浮遊感に慌てている猶予はない。
斬月の掌にはもうドライバーから外したメロンエナジーロックシードが輝いているのだから。
ロックオン
桁違いのエネルギーを集めたソニックアローが強く光る。
一足先にDDマッハを射るレーザーポインターは斬月の狙いを完璧に補った。
「終わりだ」
メロンエナジー!
一条の光がDDマッハを撃ち貫いた刹那。
濁音混じりに吐かれた咳。
たなびくマフラーが暗赤色に染まる。
────そして周囲は閃光と大爆発に包まれた。
*
ソニックボレーの直撃が生み出した大爆発から、ボロ雑巾のような物体がドサリと落下してきた。
血と煤で赤黒くなってはいるものの、タイヤのパーツや白いボディから、それがズタボロにされたDDマッハなのだとわかる。
ダメージが蓄積し過ぎたせいか、シグルドにまとわりついていた魔獣も消滅。
自陣営の勝利を確信したシグルドは帽子を押さえるような仕草と共に一息ついた。
「ふぃ〜……やっぱおっそろしい強さだよ。
全くもってアンタを敵には回したくねえなぁ」
「馬鹿げたことを……。早く奴を拘束するぞ。
まだ息は────構えろシド!」
ATTACK RIDE TOMARLE
死んだように横たわっていたはずのDDマッハがガバッと起き上がった。
撃ち出されたのは、シグナルトマーレの弾丸。
一瞬で身構えた斬月と、油断しきっていたシグルドは「STOP」の標識に飲まれ、手足を固められる。
ダメージは皆無だが、発揮された拘束力は抜群。
息つく間もなく、DDマッハはさらにカードを叩き込む。
ATTACK RIDE MACH
それは、ほんの一瞬の逃走だった。
消えた、と錯覚してしまうスピードで逃げ去られた事実に気付いた時にはもう遅い。
残された血の足跡を見て、斬月たちはようやく己らの失態を悟ったのであった。
「しまった……!」
*
走った。
無我夢中で、何度も転びながら走った。
血反吐を撒き散らし、ハイドラグーンに食い破られた傷口まで開いても構わず走り続けた。
だがどれだけ走っても、さっきの斬月の言葉からは逃げられなかった。
(違う……僕の戦いはこんなものじゃない!
人が怪人に襲われて、その怪人をライダーが倒す。
これまでずっとそうしてきたのに……どうして、どうして人間と戦わなきゃならない!
どうして人間同士で殺し合うんだ!)
『理由か……そんな大義名分などなくとも殺し合うのが人間だ』
違うと言ってやりたい。
しかし、斬月が正しいと思う自分も心のどこかにいる。
面白いから、人を殺したライダーがいた。
イライラしたから、人を殺したライダーがいた。
激情が赴くままに、人を喰わせたライダーがいた。
恐れ。妬み。理由として扱うには不十分なものばかり。
しかし、不十分とはあくまで大地の主観でしかなく、当人たちには十分な理由なのだ。
(それがおかしいんだよ!
理由もなしに人を殺すなんて……。そもそも、理由があったとしても人を殺すなんて、絶対おかしい!
そんな理不尽、認めたくないよ!)
もう大地には何もわからない。
人の悪意を直視できない。
心の痛みに耐えられない。
声にならない叫びを吐きながら、走ることしかできない。
光実の安否さえ、この時は頭から抜け落ちている。
このまま走っていても、答えが見つかるはずなんてないのに。
「────あっ」
散漫になった注意力は愚鈍なミスを生む。
足を踏み外して転落、なんて普段なら絶対しないようなミスを。
多量出血と、ダメージの蓄積、そして激突の衝撃。
これらの要因が全て重なれば、ダークディケイドの装甲が消失するのも至極当然の結果である。
大地はガクンと首を折り、茂みに身体を沈めた。
薄れゆく意識を保とうと抵抗するが、そんな努力も睡魔には容易く打ち破られる。
そして意識を手放す直前、最後の瞬間。
「……なんだ、貴様は」
こちらに呼びかける声の主を認識してから、大地は瞳を閉じた。
その人物こそ────探し求めていた、駆紋戒斗その人である。
流石は呉島主任だ!
大地くんのライダー、どれが好き?
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メイジ
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レイ
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ネガ電王
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ベルデ