仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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レイキバットを救え!

 

 

 

 大地は急いでいた。

 できる限りの全力疾走で、道を走っていた。

 

 ──どうして? 何処に? 

 

「……遅刻だ遅刻!! 今日はよりによって体育の授業が最初なのに〜!」

 

 そう、自分は学校に向かっている最中なのだ。

 口に出してみた理由はすんなりと馴染んで浸透し、浮かんだ疑問は水風船の如く弾けて消える。

 

 夜更かしして、寝坊して、朝食もそこそこに学校へダッシュ。

 ちょっとダメな、どこにでもいる普通の学生。

 降って湧いたような役割を大地は既に受け入れていた。

 

 通学路を走る最中、信号待ちしていると見知った顔の小学生が挨拶をしてきた。

 

「おはようお兄ちゃん。寝癖ついてるよ?」

 

「あ、おはよう。昴く────」

 

 言葉に詰まる。

 小首を傾げている昴に不自然なところなど一つもない。

 にもかかわらず、大地の胸に湧いた違和感はなんなのだろうか。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、なんでもないよ。お父さんによろしくね!」

 

 三段飛ばしに階段を駆け上がり、人気のない廊下を一瞬で駆け抜けて教室に突入。

 クラスメイトの注目を肌で感じながら、大地は開口一番の謝罪を全力で行った。

 

「すいません遅刻しました! 遅くまで星を見てたせいです! おはようございます!」

 

「おはよう、大地くん。釈明と挨拶を同時にこなすとは器用だね。

 ……うん、まあギリギリセーフってことでいいと思うよ。

 次からは気をつけようね?

 みんなも夜更かしはあんまりしないように。若くて綺麗なお肌が台無しになっちゃうぞ?」

 

「ありがとうございます! イブキ先生!」

 

 担任教師の和泉伊織────生徒からの愛称はイブキ先生。

 そんな彼の爽やかスマイルに女子生徒から黄色い悲鳴が上がり、大地は耳を押さえながら席に着く。

 隣に座る親友──桜井侑斗がぶすっとした顔で話しかけてきた。

 

「お前なぁ……俺があれだけ早く寝ろって忠告してやったのにこのザマかよ。

 お前が先生に目を付けられるのは一向に構わないけど、一緒に見てる俺まで何か言われでもしたらマジで迷惑」

 

「とかなんとか言って、侑斗さんはいつも一緒に見てくれるじゃないですか。

 昨日も色んな星のこと一杯教えてくれたし」

 

「ば、馬鹿言ってんじゃねえ!」

 

 ありふれた日常の朝。

 それから始まるのもいつも通りな学生生活。

 

「ではこれから準備体操を始める。

 両手を大きく広げて、両隣との間隔を十分に取りなさい。

 よし、それでは……イクササーイズ!!」

 

(これ、準備体操の方が疲れるんだけど……)

 

 

 昼休み、大地は弁当を広げようとして鞄を漁る。

 が、ない。どれだけ探しても見つからない。

 

「忘れてきちゃった……ああもう! 僕の馬鹿馬鹿!」

 

 これは昼抜きコースか? 

 午後の授業が地獄になる未来を幻視して溜息を吐いた大地。

 落ち込んだその肩を誰かが叩いた。

 

「大地くん、もしかして……お弁当忘れちゃいました? 

 なら良かったら私のお弁当、一緒に食べてくれませんか? 

 今日はちょっと作り過ぎちゃって」

 

 花崎瑠美──大地のクラスメイト。

 高校の制服を着ている彼女を見た途端、例えようもない違和感が大地の背中を撫でる。

 しかし、その感覚も次の瞬間には無くなった。

 

「瑠美さん……! ありがとう! 命拾いしました!」

 

「ふふ、お弁当抜きは辛いですもんね」

 

「……んぐ!? デェ〜ネ〜ブゥゥゥゥ!! 

 弁当に椎茸入れんなって言ったろぉぉ!!」

 

 

 賑やかな昼から午後の授業、それから放課後。

 ふとした出来事に違和感を抱いては即消滅を繰り返して過ぎ去る時間。

 大地は瑠美と一緒に喫茶店に寄り道する。

 

「また懲りずに来たか、マセガキ共。

 今日こそは学校にチクってやろうか? 

 ウチの店で不純異性交遊している奴らがいるってな」

 

「秋山さん……よくそれで喫茶店のウェイターが務まりますね」

 

「余計なお世話だ。

 どうせ紅茶の味なんかわかりはしないんだから、一番高いものを頼め。店の売り上げが上がる」

 

 楽しくお喋りしながら、紅茶を啜る。

 愛想の悪い店員から時折入る茶々も気分を害するほどではない。

 

 瑠美と別れて帰路についた大地は途中でハンカチの落とし物を拾った。

 交番に立ち寄って届けようとしたが。

 

「いいですか! あなたが事件解決に協力してくれているのは承知していますが、それとこれとは別の話なんです。

 いくら詩島さんとはいえ、スピード違反は見過ごせません!」

 

「いいじゃんちょっとぐらい! 同じ警察官だってのに進兄さんよりよっぽど頭が固いね、氷川さんは。

 柔軟性が足りないってよく言われたりしない?」

 

「なっ……! なんですか失礼な! 僕はあくまで職務に忠実なだけで、そりゃあ少しくらい不器用と言われることもありますが────」

 

 なにやら揉めている様子なので日を改めることにした。

 

 

「おうおう大地じゃねえか! ちょっと聞いてくれよ〜、このマヨネーズが俺のプロテインラーメンに変なもん入れやがってよぉ!」

 

「変なもんとはなんだ変なもんとは! マヨネーズは世界で一番偉大な食いもんだし、俺の名前はマヨネーズじゃねえし! 

 ほら筋肉馬鹿、騙されたと思って食ってみろよ〜」

 

「誰が馬鹿だ────うおっ!? これは……!」

 

「おっと皆まで言うな! マヨネーズの魅力に気づいちまったけど、最初に否定しちまったから認め辛いんだろ? 素直じゃねえなぁ」

 

「くっそぉ……全部言い当てられた……!」

 

 喧しいことで有名な近所の青年二人組が道端でギャーギャー喚いているところに遭遇しつつ、大地は帰宅した。

 

「ただい────」

 

 両親の顔を見て、大地は硬直する。

 今度の違和感は消えない。

 大地を笑顔で迎えてくれる筈の両親の顔はモザイクで歪められているのだから。

 

 この明らかな異常がきっかけとなり、これまで見えなくなっていた無数の違和感が再び襲来する。

 

 気付けば大地は自宅のリビングから、何も見えない真っ暗闇の空間に立っていた。

 

「誰も傷付くことのない平和。親しい人に囲まれた平穏。

 もう戦う必要もない、殺されることもない。

 これこそが君の望んだ世界だよ」

 

 若い男の声がどこからともなく聞こえてくる。

 哀しさと穏やかさ。その両方の響きを含んだ声には警戒を抱く気にはならなかった。

 

「望んだ世界……。

 でも、これは現実じゃない」

 

「そうだよ。君の言う通りこれは夢だ。

 けど騙すつもりなんて無かった。

 僕はただ知りたかったんだ。こんなに幸せな世界を夢見る人が、どうして辛い思いをしてまで戦うのか。

 だから改めて問わせてもらう。

 ────君は何故戦い続けるの?」

 

「……どうして、ですかね」

 

 人間を守るため。以前までの自分なら胸を張ってそう答えられた。

 なら今はどうか? 

 誰かを守ろうとすれば、他の人間が敵になる。

 誰かを守ろうと戦えば、インベス──他の人間を殺すことになってしまう。

 

「どんな世界でも人と争いは切り離せない。

 互いに傷付けあって、最後には滅び去る。僕達のように」

 

「あなたは……一体誰なんですか?」

 

 暗闇が徐々に晴れていき、曖昧になっていく世界の輪郭。

 夢からの目覚めが近付いている。

 

「僕は────」

 

 その名を最後まで聞き取ることはできなかった。

 

 

 *

 

 

 

 大地は自室のベッドで目を覚ます。

 寝汗でびっしょりと濡れた身体に巻かれた包帯の蒸れた不快臭に顔を顰め、そして今の自分の状況を不思議に思った。

 最後に覚えているのは、ヘルヘイムの森でネガタロスに身体を渡したこと。それからの記憶は酷く曖昧だ。

 

「目覚めの気分はどうだい、大地? 

 まあ快適には程遠いだろうがね」

 

「ガイド……? それにここは写真館? どうして……」

 

「色々聞きたいことはあるだろうけど、先ずは飯にしろ。

 そんな身体で飯を抜いたらぶっ倒れちゃうぞ? 

 何事を始めるにも、ちゃんと食べることからだ」

 

 大地が眠っていたベッドの横に座っていたガイドが読んでいた文庫本を閉じる。

「ちょっと待ってな」とだけ言い残して部屋から出て行き、ほどなくして戻ってきた彼の手元にはトレーに乗った小鍋。

 中では柔らかくほぐされた野菜が盛りだくさんのお粥が暖かな湯気を昇らせている。

 

「味はわざわざ保証するまでもないよな?

 なにせこのガイドお手製料理にハズレなし! だもんな」

 

「……いただきます」

 

 ふー、ふー、と冷ましてまずは一口。

 鶏ガラの出汁と野菜の旨味が、痛いぐらいの空腹とボロボロの内臓によく沁み渡る。

 レンゲを口に運ぶペースが徐々に上がっていき、あっという間に完食する大地。

 いつもながらガイドの作るご飯は食べる相手への気配りかよく味に表れている。

 

「ご馳走さまでした。

 ガイドのご飯はやっぱり美味しいですね。

 無性にほっとする味で、帰ってきたって実感できます」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 お礼にディナーのリクエストでも聞いちゃおうかな」

 

「なんでもいいですよ。ここで食べれるなら、なんでも。

 じゃあ……僕は夜まで寝てようかな」

 

 大地は食器を返して、布団に潜り込む。

 しかし、眼はばっちり冴えていて眠気も襲ってこない。

 呆れたような溜息が布団越しに聞こえてきた。

 

「大地、正直に答えな。君は戦いが嫌になったんだろ」

 

「……うん」

 

 ズバリ言い当てられても起き上がる気にはなれない。

 この写真館から出れば、また戦いが待っている。

 インベス、市民、ユグドラシル、ドウマ────誰と戦う道を選んでも、最終的には人間を殺すしかなくなる。

 勿論殺さないように戦うこともできるだろう。

 だが、斬月からの指摘を忘れてはいない。

 

『貴様の攻撃には殺意が圧倒的に足りていない。

 そんな浮ついた攻撃でこの私を倒せるものか』

 

(……無理だ。実力とか、戦法とか、そういうのを考えてもあのライダーには勝てない。

 もっと根っこの部分から駄目なんだ。今のままじゃ前回の二の舞に決まってる……)

 

 布団で閉ざされた暗闇で丸まる大地。

 這い出てくる気配が無いと見るや、ガイドはそれとなく声の調子を変える。より同情的に彼を労わるように。

 だが、それは大地のストライキを許すようなものでは決して無かった。

 

「経緯は聞いてるよ。ドウマも中々悪辣な手を考えるものだよなあ。

 そうやって塞ぎ込むのも、まあ無理はない。

 でもな大地。君が立ち止まると困る奴がいるってことは忘れないでくれ」

 

 ほれ、と布団の中に潜り込んだガイドの腕が何やら硬い物を押し付けてくる。

 するとたちまちの間に少し焦げたような臭いが充満し、大地は思わず顔をしかめる。

 確認しようにも暗くて見えず、仕方なしに布団をめくった。

 そして、己がいかに自己中心的であったのかとすぐに後悔する。

 

「────レイキバットさん」

 

「よォ……みっともねえ姿見せちまったな……。

 へっ、しっかしお前も酷いツラだ。俺に構わず、お前はゆっくり休めや……」

 

 ベッドの上で息も絶え絶えに転がっているレイキバットを見て、大地の声が震えた。

 左半身が焼け焦げてしまい、抉れた表面から火花を散らし続けている。

 いつものような張りのない声も彼の危機的な状態を物語っている。

 このままにしておけば彼は確実に死ぬ。精密機械に疎い大地でも、それは一目瞭然であった。

 

「レイキバットさんを放っておくなんてできませんよ!

 ああもう、どうして僕はこんな大切なことを忘れて……!」

 

 大地はライドブッカーから引っ張り出したカードの束から必死に探すが、レイキバットを治療できそうなライダーは見つからない。

 治癒と言えば真っ先に思い付くドルフィマントやエナジーアイテムでも機械の身体は治せない。

 これだけのライダーの力が揃っていても死にかけの仲間一羽さえ救えないのだ。

 

「もういい大地……。今のお前ならもうレイは要らねえよ。

 魔法も使えねえし、透明にもなれねえ俺の力なんざこの先無くてもいい。お前はもう十分強くなった」

 

「お願いだからそんなこと言わないでください! 

 僕は強くなんかない! レイキバットさんをこんなに苦しい思いをさせて、救うこともできなくて……! 

 駆紋さんの言った弱者と、何も違わないんです……!」

 

「もっと自分に自信を持て……。

 お前の優しさは弱さなんかじゃねえ……ちとナイーブ過ぎるのが玉に傷ってだけ……クソ、目が霞んできやがった」

 

 もうレイキバットは長く保ちそうにない。

 ダークディケイドでは治せない、となれば頼みの綱はやはりガイドしかいないが────。

 

「すまない。俺には無理だな」

 

 大地から縋り付く目線を貰ったガイドからの短い返答に、大地の心が潰れる。

 だって、彼の否定はレイキバットの命を諦めるも同義であったから。

 

「まあ話は最後まで聞けって。俺には、って言ったろ? 治せそうな人間に心当たりならある。

 この世界のライダーシステムを開発した男。彼ならあるいは……」

 

「そ、その人のことを教えてください! 僕が頼みに行きます!」

 

「────名前は戦極凌馬。ユグドラシルの天才科学者。

 一筋縄でいく相手じゃないが……どうするのかは君次第だ。

 俺はあくまでガイドするだけ」

 

「十分です!」

 

 大地はあまり負担にならないようレイキバットを柔らかなタオルで慎重に包んでからポーチに入れる。

 その際、一瞬だけ思考を巡らせてポーチの中身を見つめる。

 

(……)

 

 写真館を飛び出して向かう先はユグドラシルタワー。

 大地は朝焼けに照らされ、瓦礫だらけの街へ駆け出した。

 

 どれだけ戦う意思を削がれようと、親しい人が危機にあれば動かずにはいられない。

 しかし、その心は未だに潰れたままであった。

 

 

 

 *

 

 

 

「トイレ〜……トイレ〜……どっかに無事なトイレはねえのかよ〜! 

 避難所で行っとけば良かったぁ……」

 

 ライフラインなどとっくのとうに消滅した沢芽の街で便所を探す男が一人。

 モジモジと内股をさすりながら、龍我は街を彷徨っていた。

 昨日と同じように瑠美、絋汰と共に生き残った市民に食糧を届ける道中で催してしまった龍我は一旦別行動を取っていたのだ。

 小学生じゃないんだから、なんて言いたげな彼女達のジト目は中々忘れられそうもない。

 トイレ探しを諦めてその辺で済ませるという選択肢もあるにはあるのだが、いくら荒廃した街でもそれは憚られる。

 

「……あれ、大地か? アイツ一人で何やってんだ?」

 

 そんな時、龍我は偶然にも大地が駆けていく姿を目撃する。

 街の中心部に座すユグドラシルタワー目指して一直線。

 あんな瓦礫だらけの地面でよく転ばねえなと感心までしかけて、はてと顎を摩る龍我。

 

「アイツって昨日なんたらの森で光実とはぐれて、それっきりだったよな? 

 なんだよ、無事だったなら早く連絡寄越せばいいのに」

 

 それも光実の真っ赤な嘘なのだが、龍我には確かめる術もない。

 ともかく呼び止めようとした刹那、ちょっとした躊躇が龍我の中で首をもたげた。

 

 生まれてこのかた騙されては利用されの繰り返し。それが万丈龍我という男の人生であった。

 戦兎や美空、マスターに紗羽さんとの出会いでかなり改善されたとはいえ他人に対する心の壁は未だ取り払えずにいた。

 出会って間もない大地たち────彼らが良い連中とはわかるし信頼が微塵もないわけではないものの、ネガタロスにまんまと利用されたこともある。

 つまり、「仲間」と呼ぶにはちょっぴり悩んでしまう。今の龍我と大地たちの距離間を表すなら、そうなるだろう。

 

(まあ、アイツなら大丈夫か。変身アイテムだっていっぱいあるし、けっこー強えし。

 わざわざ声かけなくても勝手になんかやるだろ)

 

 こうして龍我は大地を見送り、彼らが会話を交わす機会は失われた。

 

 

 

 *

 

 

 

 ヘルヘイム対策の陣頭に立つユグドラシル、その最前線である沢芽のユグドラシルタワーでは連日連夜会議が開かれている。

 インベスやクラックの出現頻度。

 市民への戦極ドライバーの支給実験の経過報告。

 議題はそういったものが大半を占めていたが、今日の内容は少々異なっていた。

 

 会議室のスクリーンに映された戦闘記録映像を黙して観る面々。

 戦闘に参加しており、ターゲットの脅威のほどを最も実感していた貴虎が手元の資料をばさりと放る。

 ダークディケイドの推定スペック、能力、変身者の情報────現段階で知り得る全てが記載されている筈の資料は信じられないほどに薄っぺらい。

 ユグドラシルの情報網をもってしても、それが限度ということなのだ。

 

「──以上が昨日の戦闘記録の全容だ。

 ダークディケイドと名乗る未知のアーマードライダー……我々が把握できている情報はこの映像と、光実の話が全てと言っていい。

 奴の消息は現在不明のままだ」

 

「あんなバケモン地味た能力のガキが野放したぁ、恐ろしくて夜も寝てられねえ。

 アンタが取り逃がすヘマなんてしなきゃ、今頃取っ捕まえてただろうに」

 

「まあその辺にしておきたまえ、シド。

 この映像だと君は終始翻弄されていた。私の目にはそのように映っていたが?」

 

「おっと、手厳しいねえプロフェッサー凌馬」

 

 呆れ顔で貴虎の責任を追及しようとするシドに、これまた呆れ顔をした白衣の男が口を挟む。

 彼こそが戦極ドライバーの開発者であり、ユグドラシル随一の頭脳を持つ男。

 名を戦極凌馬という。

 

「シドの味方をするわけじゃないけど、初戦で捕縛できなかったのは確かに痛いよね。

 今後は彼も警戒を強めるだろうし、そう簡単には行かないと思う」

 

「だろうな。だがダークディケイドだけに人員を割くわけにもいかん。

 光実は引き続きシェルターでの情報収集及び接触を試みろ。

 もし次の交戦があった場合には湊にも出てもらう。

 各員、何かしらの情報を手に入れたら即時私に知らせろ。どんな些細なものでも構わん」

 

「了解しました、呉島主任」

 

 凌馬の専属秘書である湊耀子が頷き、それに続いて光実も小さく首を振って了解の意を示す。

 声は上げないながら、シドも異を唱えはしない。

 だが、凌馬だけは違った。

 口をすぼめてペンを鼻先に乗せ、子供のような仕草で資料を眺めている彼は何の返事もしない。

 

「どうした凌馬。何か不服か?」

 

「私がそんな風に見えるのかい? フフ……そりゃあそうさ。

 私は研究者だ。 ダークディケイドは確かに圧倒的だが、そのテクノロジーを解析できれば我々は更なる技術的進歩を遂げられるかもしれない。そう考えるのが自然だろう? 

 他の作業を一時中断し、人員を割いてでも確保を優先すべきだ。

 多少のリスクはあるだろうが、それだけの価値が彼にはある」

 

「お前の言い分にも一理はある。しかし、今ここで我々がしくじれば取り返しのつかない事態になる可能性だってあるんだ。

 戦極ドライバーが配給された市民の観測に、クラックの調査、どれもおざなりにはできん。

 お前にもそれはわかる筈だ」

 

「……そうだね。すまない貴虎。

 私としたことが、自分の欲求を抑えられなかったようだ」

 

 あっさり引き下がる凌馬。

 いかにも「反省してます」と言わんばかりの表情に貴虎もそれ以上の言及はしなかった。

 

 ────凌馬の本心など、この場にいる貴虎以外の全員は把握していたが。

 

 会議はこれにて終了。

 凌馬は部屋を退室し、耀子もその後ろに続く。

 

「やれやれ、相変わらずつまらない男だね。

 もう終わったも同然の街なんか捨て置いて、興味深い研究材料を捕まえる方がよっぽど先のあることなのに。

 そう思わないかい、湊くん」

 

「ええ、それは────失礼します、プロフェッサー」

 

 相槌を打とうとした耀子に内線が入る。

 その内容を耳にした途端、彼女は驚愕の色に顔を染めた。

 ただならぬ彼女の様子に凌馬も怪訝そうな顔になる。

 

「大変ですプロフェッサー。

 ただ今の報告によると……ダークディケイドの変身者がこのタワーにやって来たようです。

 しかも貴方への面会を求めているとのことです」

 

「何だって……!?」

 

 

 

 *

 

 

 

 同時刻、大地がタワーにやって来たとは未だに知らない光実。

 会議室を出て貴虎とも別れ、今は一人で歩いている。

 人っ子一人いない廊下を足早に歩く彼の胸中はあまり穏やかではなかった。

 

(まさか兄さんとシドの二人掛かりで取り逃がすなんて……彼のことを少し甘く見ていたかな。

 彼は絋汰さんにも負けないお人好しだけど、あの場で消えた僕を怪しむかもしれない。

 ボロを出した覚えはないけど、万が一ということもある)

 

 光実からしてみれば大地は不確定要素。特大の核弾頭のようなものだ。

 ユグドラシルの最強戦力たる貴虎とも渡り合える戦闘能力の持ち主ならば、タワーの防衛を突破して光実が秘匿している情報などを暴いてしまうかもしれない。

 上手く利用できれば多大な利益をもたらしてくれるだろうが、こちらの身を滅ぼしかねない。そんな人物を野放しにしておくことそのものが光実に極度のストレスを与えていた。

 

(もしも裕也さんや、プロジェクトアークのことを絋汰さん達に知られたら……どうなるかなんて考えるまでもない。

 大地さんは危険過ぎる。どうにかして早急に始末をつけないと……!)

 

 

「歳の割に合わない顔だ。苦労しているな、呉島光実」

 

「誰だッ!?」

 

 突如響く、心を見透かしたような声に驚き振り向く光実。

 視界の端、廊下の曲がり角に揺らめいた紅い影を光実は見逃さない。

 すぐさま追いかけて、辿り着いた先は使われていない小部屋だった。

 光実がその部屋に入ると同時に照明が点いて、壁にもたれかかる黒コートの男を照らした。

 

「誰だ、アンタ。ユグドラシルの人間には見えないけど、どうやってここに侵入した」

 

「フ、そう警戒しなくてもいい。俺は君に不利益を与えるような人間ではないからな。

 俺の事はドウマと呼んでくれ。諸君が苦戦しているダークディケイドの対処について、助太刀をしたい」

 

「そんな言葉を信じられると思う? アンタはただの侵入者だ。排除させてもらうよ」

 

 光実はそう言って、戦極ドライバーとブドウロックシードを構えるが、いつまで待っても変身はしない。

 対するドウマは肩を竦めて光実の挙動を見守るだけ。

 

「……どうした? 排除したいなら変身すればいい。もしくは誰か呼ぶという方法もあるな」

 

「……」

 

「君はまだ迷っている。俺という存在に利用価値があるか否か。

 時間はたっぷりあるんだ、俺の話を聞いてからその回る頭でよ〜く考えてみるといい」

 

 ドウマは語り出す。

 ダークディケイドとその仲間達の排除を完璧に実行できるその計画を。

 値踏みをするような目の光実はそれまで黙って耳を傾けていたが、彼の話が終盤に差し掛かった辺りでついに口を出した。

 

「なるほどね、確かにアンタの計画は良く出来てる。

 でも肝心な部分が抜けてるよね? これを成し遂げるにはとてつもない戦力が必要になる。少なくとも兄さん達では対処できないほど、途方も無い力が。

 アンタにはそれがあるのか?」

 

「無論だ」

 

 待ってましたと言わんばかりにドウマがパチンと指を鳴らす。

 すると彼の背後に現れた灰色のオーロラから人型の影が排出される。

 金属特有の光沢を放つボディは明らかに人間ではないが、アーマードライダーやインベスにも見えない。

 

『よろシくネ! お兄ちゃん!』

 

「パーフェクトドラス。駆紋戒斗と大地の両名を圧倒できる彼がいれば、事足りるだろう。

 ……どうだ? まだ何か質問は?」

 

「待て、僕はまだアンタに賛同するとは一言も……!」

 

「すると君はこんな魅力的な提案を蹴ると? 

 まあいい。君の秘密を守る手段が他にあればいいがな」

 

「……くっ」

 

 ドウマが語った計画に乗れば、光実にも少なからずリスクは降りかかる。安易に乗ってしまえば、捨て駒として使い潰されることだって十分考えられる。

 しかし、本当は光実もわかっているのだ。彼の提案を受け入れる以外、現段階で大地を確実に排除する方法はないのだと。

 斬月・真とシグルドで倒しきれなかった相手に今更マリカが加わったところでどうにかなるとは到底思えない。

 

「わかった。ただし条件がある。開始のタイミングは僕が合図した時だ。それが飲めないなら────」

 

「構わん。これにて同盟締結だ」

 

 黒コートの隙間から白く骨ばった手が差し出される。

 光実もそれに応じて、力無い握手がブラブラと揺れる。

 生きているかどうかも怪しい、そんな腕を見ていると光実には目の前の男がまるで幽霊のように見えて仕方がなかった。

 

 

 

大地くんのライダー、どれが好き?

  • メイジ
  • レイ
  • ネガ電王
  • ベルデ
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