仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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アンダーワールド戦、そして……




譲れないもの

 

 二人の金色の異形が剣をぶつけ合っている。片やドラゴン、片やライオンに似た姿をした異形の戦いはドラゴンの姿をした者の優勢となっていた。

 

「ぐあああああッ!?」

 

「古の魔法使い、そんな傷ついた身体で私に勝てると思ったか?」

 

 すでに連戦で消耗していたビーストの動きはダメージを受ける度に鈍くなり、何箇所もの装甲が削りとられている。

 ドレイクの双剣による連撃がビーストの剣を弾き、金色の装甲にまた一つ新たな傷をつけた。

 逆にビーストの攻撃は簡単に回避され、そうしてできた隙を突かれてまた斬撃を食らってしまい、逆にドレイクの金色の鱗は未だに傷一つない状態。ビーストが立っているのもやっとというのは誰が見ても明らかだった。

 

「奇妙な魔法使いがあのゲートのアンダーワールドにいるうちにまとめて始末したいのだが……何故そうまでして邪魔をする? 貴様とてすでに限界のはずだ」

 

「決まってんだろ! 大地の奴が勇気振り絞ってんだから、この俺がへばってられるかってーの!」

 

 満身創痍の身体のビーストは本当ならばとっくに倒れていても不思議ではない。

 しかしどんなにドレイクが強敵であろうと、仁藤は決して倒れはしないと決意していた。

 ついさっきまであんなに怯えた顔をしていた大地が、戦い慣れしていないであろうあの大地が覚悟を決めて戻ってきたのだ。ならば仁藤がここで諦めていい道理はない。

 

(絶望から立ち直ったあいつのために! 俺は絶対に希望を捨てねえ!)

 

「ぉおおおおおおおーッッ!!」

 

 腹の底から雄叫びを上げるビースト。

 あの偉そうなファントムに一撃食らわせるため、残された全ての力を振り絞って、走り出す。

 

「フン、愚かな」

 

 呆れたように双剣を構えるドレイクには相変わらず隙はないように見える。

 だがそれでもやらねばならない。

 

 隙がなければこじ開ければいいのだから────

 

 ドレイクとの距離があと僅かというところまできた時、ビーストは瞬時にダイスサーベルを持ちかえて、勢いよく前方に投合した。

 風を切り裂いて迫る剣はしかし容易に左の剣で弾かれてしまうが、ビーストは構わずにさらに距離を詰める。

 

 それを見たドレイクは侮蔑の意味を含めてフン、と息を吐いた。

 ダイスサーベルへの対処で片方の剣を封じたつもりかもしれないが、素手のビーストなどドレイクにとっては恐れる必要もない。

 

 両者の距離はいよいよゼロとなり、懐に飛び込んだビーストをドレイクの剣が切り裂く──ことはなかった。

 その身を大きく屈めて、接近した勢いのままにドレイクの脇を通過することで、剣先が掠る程度に被害を抑えたビーストは敵の背後に回ることに成功する。

 がら空きとなったその背中にビーストは素早く肘鉄を当て、怯ませたところに渾身のドロップキックを見舞った。

 前方に剣を振るっていた勢いも重なって、その威力以上に吹っ飛ぶドレイク。

 

「……手負いの獣だと、油断し過ぎたか」

 

 だが、ドレイクにとってはその程度のダメージは微々たるもの。

 ビーストにもそんなことはわかっている。それに彼の狙いは今の攻撃そのものではない。

 本当の狙いは攻撃によって生まれる魔法を発動できるほどの大きな隙であり、ビーストは青いリングを指にはめた。

 

「ようやくこいつが使えるぜ!」

 

 ドルフィ! ゴー! ドッドッドッドッ、ドルフィー! 

 

 新たに青いマントを装備し、何らかの魔法を発動したビーストはドレイクが仕掛けるよりも先に転がっているダイスサーベルを回収した。

 

「貴様の古臭い魔法など通じるか!」

 

 ドレイクはその声に油断の末に攻撃を食らったことに対する怒りを滲ませて、瞬時に距離を詰めた。

 剣を取り戻したビーストにも構わず、双剣を振りかぶる。

 一撃で仕留めるためにやや大振りとなったが、今のビーストに受け止められるはずがない。

 そう思って繰り出した斬撃はドレイクの予想に反して、しっかりと受け止められた。

 

「何ッ!?」

 

「がるるッ!!」

 

 予想を超えた力を見せるビーストへの動揺がまたもや隙となり、ドレイクの剣は弾かれた。

 思わず後ずさったドレイクにハイキックを命中させ、生まれた反動を利用して後方に飛び退くビースト。

 先ほどまでボロボロだったビーストが嘘のような動きをしていることには、さすがのドレイクも驚きを隠せない。

 得意げに胸を張るビーストはドレイクのその反応を予想していたようにも見える。

 

「ありえん! 何故その身体でそこまで動ける!?」

 

「治癒の魔法さ! てめえの言う古臭い魔法だからこそ、できることもあるんだよ」

 

「治癒……そういうことか」

 

 今は失われた古代の治癒の魔法はビーストの傷を癒し、ある程度ではあるが回復してみせたのだ。

 傷ついたビーストに油断したドレイクのおかげで発動できたチャンス。

 ビースト自身の魔力のことを考えれば、そう何度も使える魔法ではないが、大地が戻るまで出し惜しみなどしてはいられない。

 

「まさにピンチはチャンス! さあ、第2ラウンド開始といこうぜっ!」

 

「チッ、面倒な」

 

 自分自身も含めて、みんなを守る。

 

 その譲れない希望のため、ビーストは剣を掲げて駆け出した、

 

 

 *

 

 

 魔力の流れに乗ったダークディケイドが辿り着いた先は普通の病院の一室だった。

 そこにいる医者も、患者も何の変哲もない病室に現れたダークディケイドに気づきもしない……というよりかはいないものとして扱われていた。

 

「花崎さんの記憶の中ってことなのか……?」

 

 仁藤が言うには、ここにいるファントムを倒せばいいはず。

 何か変わったところはないかと病室を見渡してみれば、二つのベッドに横たわる夫婦らしき二人と泣きながら彼らに縋る少女が目に入る。

 

『いや、いや! お願いだから、私を独りにしないで……』

 

 大地が知る瑠美の面影を持つ少女の悲痛な面持ちは、とても今の彼女からは想像もつかない。

 恐らくあの二人は瑠美の両親で、これは瑠美の過去の出来事なのだろう。

 

「家族か……僕にもいるんだよな……多分」

 

 複雑な心境で幼い瑠美を見つめるダークディケイド。

 すると突如としてその光景はひび割れ、世界に亀裂が生じた。

 空間にヒビが入るという現実離れした(大地にとっては今更ではあるが)現象に言葉を失ったダークディケイドは空間を鏡のように砕いて出現したその存在に吹き飛ばされる。

 背後にあった壁を破壊してできた瓦礫を払いのけて、自身を攻撃した主を確認すると、そこにいたのは巨大な蛇としか言えない怪物の頭が覗いていた。

 

 ファントム ピュートーン。

 

「GYAAAAAAAAAッッ!!」

 

「こんなのが花崎さんの中にいたっていうのか……」

 

 醜悪な見た目の怪物があの瑠美の体内で巣食っていたという事実に軽く目眩を覚えながらも、ダークディケイドはこちらを睨むピュートーンに銃撃を浴びせる。

 微かに怯んだピュートーンは、しかしほとんど効いていない様子でこちらに突っ込んできた。

 

「GUOOOOO!!」

 

「うああっ!?」

 

 全長数十メートルはあるんじゃないかと思われるその巨体の体当たりをモロに食らったダークディケイドは病院の外壁を突き破って外に投げ出された。

 受け身も取れずに地面に激突してしまい、全身に加えられた衝撃が肺から空気を押し出した。

 

「ガハァッ!?」

 

(痛い! 怖い!! でも……!)

 

 ピュートーンの体当たりと落下によるダメージにまたもや大地の中で死への恐怖が徐々に増してくるのを感じ、無理矢理抑えつけるように立ち上がった。

 病院を瓦礫の山に変えたピュートーンはそんなこともお構い無しに、三度ダークディケイド目掛けて突進を開始している。

 しかしいくら巨大とはいえ、所詮は戦略も何もない本能に任せた攻撃に過ぎない。

 辛うじて巨体の突撃を躱し、敵が戻ってくる前にダークディケイドは新たにカードを引いてセットする。

 

 ATTACK RIDE MACHINE DECADER

 

 カードに応じて召喚されたのは、ダークディケイドと同じカラーリングのスクーター型バイク、マシンディケイダー。

 急いでバイクに跨り、こちらに方向転換したピュートーンを背後にしてマシンディケイダーは発進した。

 ピュートーンが発射しているらしき光弾を左へ、右へと躱しながらマシンディケイダーのスピードを加速させていく。

 

 当然ながらバイクの運転経験など大地にはない。だがダークディケイドライバーの中の数々の記憶が大地の運転をサポートしてくれているのだ。

 

 お世辞にも上手いとは言えない運転でなんとかピュートーンから逃げてはいるものの、このままではいつまで経っても倒すことなどできやしない。

 巨大な相手への対抗策を考えながらマシンを走らせていたダークディケイドはいつの間にか後方からの光弾が止んでいることに気づいた。

 まさかと思って背後に振り返ると、そこにいるはずの巨体の姿は消失していた。

 

 逃げられた? いや、それは違った。

 

 ちょこまかと動く獲物に業を煮やしたピュートーンはバイクの進行方向に回りこんでいたのだ。

 進行方向を塞がれ、一旦引き返すべきかと思ったその瞬間、大地の脳裏に一人のライダーが記憶となって示された。

 

(そうか、このライダーなら戦える!)

 

 KAMEN RIDE DELTA

 

 ATTACK RIDE JETSLIGER

 

 白いフォトンストリームのラインがダークディケイドをオレンジの複眼と黒い装甲を持つDDデルタへと変化させた。

 その変化はダークディケイドだけに留まらず、マシンディケイダーさえもデルタに合わせたものとなった。

 元の姿よりも明らかに巨大なマシン、ジェットスライガーは大口を開けて待ち構えていたピュートーンに正面から光弾を叩き込んだ。

 肉が焦げる嫌な音は怒りの咆哮に掻き消され、激情のままにジェットスライガーに突撃してくる。

 

「確かこうやって……おおおッ!?」

 

 記憶の中にあるのと同じように操作すれば、大地が意図した通りジェットスライガーはホイールを回転させて地面にジェットを噴射。ホバー移動に切り替わり、そのまま空中に飛行を開始した。

 しかし搭乗者であるDDデルタにかかるGは相当なもので、マシンに振り落とされないようにするのがやっとというところだ。

 

「とんでもないマシンだ……デルタってライダーはどうやったらこんなの運転できるんだ?」

 

 思わずそんなことを漏らしてしまったが、怒り狂ったピュートーンが下から追いかけてくるのを忘れているわけではない。

 飛来する光弾をなんとか回避して、身体にのしかかるGに耐えながらジェットスライガーに装備されているフォトンミサイルを発射し、さらにDDデルタ自身も小型銃、デルタムーバーから光線を乱射する。マシンに激しく揺さぶられながらの射撃であったため、狙いも何もあったものではないが、それでも無茶苦茶に放たれたレーザーのいくつかはピュートーンに命中し、その身を焦がす。

 そこにフォトンミサイルの群が次々と炸裂し、ピュートーンの巨体は爆発に飲まれて消えていった。

 

「やったのか……?」

 

 ピュートーンの姿が見えなくなったことに安堵したDDデルタ。

 地上に降りようと目を離したその瞬間だった。

 

 爆炎を裂いて現れた巨大な牙がジェットスライガーの機体を捉えたのは。

 

「GYAAAAAAッッ!!」

 

 デルタムーバーとフォトンミサイルによって身体の大部分を黒く焦がしながらも、未だに健在だったピュートーンの牙はしっかりとマシンに食い込み、奇襲に対応できなかったDDデルタはついにマシンから振り落とされてしまう。

 

 この高さから落ちれば、いくらダークディケイドといえど致命的なダメージは避けきれないだろう。

 

 それを悟ったDDデルタは記憶が示した二枚のカードを取り出した。

 

 KAMEN RIDE OUJA

 

 ATTACK RIDE ADVENT

 

 メカニカルな外見のデルタとは異なり、鎧を着た蛇のようなライダー、王蛇にカメンライドしたダークディケイドはさらにもう1枚のカードを使う。

 それに応えたのはジェットスライガーのコックピットの液晶から飛び出したそれはピュートーンよりも小さいが、それでも大きい体軀のミラーモンスター、エビルダイバーであった。

 エビルダイバーは無人となったマシンを吐き捨て、宙に投げ出されたDD王蛇に牙を向けるピュートーンに突撃し、狙いを逸らすことに成功する。

 危うく食われるところであったと内心肝を冷やしていたDD王蛇ではあったが、無事にエビルダイバーの背面に着地して事なきを得る。

 懲りずに向かってくるピュートーンを誘導するため、エビルダイバーを地上付近まで移動させる。その最中に撃たれた光弾はベノバイザーで弾き、ライドブッカーの射撃で牽制していけば、少しずつではあるが敵との距離は離れていった。

 

「鏡……鏡……あれでいけるかな」

 

 ATTACK RIDE ADVENT

 

 ATTACK RIDE ADVENT

 

 地上付近でDD王蛇を写す水溜まりを確認し、エビルダイバーから地面に降りたDD王蛇は続けて三枚のカードを装填した。

 先の二枚の効果で銀のサイ型モンスター、メタルゲラスと紫の蛇型モンスター、ベノスネーカーが召喚された。

 DD王蛇を守るように取り囲むミラーモンスター達の雄叫びが誰もいない世界に響き渡る。空気に伝わる振動はDD王蛇にもビリビリと伝わってきた。

 エビルダイバーと合わせて合計三体となったミラーモンスター達は一匹一匹の大きさこそピュートーンには及ばないが、秘めている力はそれに匹敵している。

 本能でそのことを悟ったか、ピュートーンもこちらを睨むだけで近づいてこようとはしない。

 

 ATTACK RIDE UNITEVENT

 

 合体を意味するその音声にミラーモンスター達は集まり、直視できないほどの光を放つ。

 一際強い光が一瞬周囲を覆った瞬間、そこにいるのはミラーモンスター達が一つになった存在だった。

 それこそが王蛇の最強の契約モンスター、ジェノサイダー。

 

「GA……!?」

 

 ジェノサイダーの圧倒的な迫力にたじろぐピュートーン。

 そこにジェノサイダーの口から放たれた強力な酸が降り注ぐ。

 身体に付着した酸はピュートーンの体軀を溶かし、爆発を起こす。

 飛行する体力すら失ったピュートーンは地上に落下するが、それでもまだ辛うじて生きてはいた。

 自身をここまで傷つけた存在への増悪のままに睨みを飛ばすと、そこにいるのはジェノサイダーでもDD王蛇でもなく、太陽を背に高くジャンプしたダークディケイドだった。

 

 FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE

 

「ッツアアアアアア──ッッ!!」

 

 信じてくれた人を守りたい。

 

 譲れない思いを乗せた叫びがアンダーワールド内に木霊した。

 

 ダークディケイドを導くように並ぶ何枚もの金色のカードのエネルギー。

 力を込めて突き出した右足がその一枚一枚を突き破る度に纏うエネルギーを増していく。

 カードでできた道の先、倒れたピュートーンの顔面に全てのカードを通過したダークディケイドのキック、ディメンションキックが突き刺さる。

 一瞬の静寂の後、陥没した頭部で爆発が起こり、連鎖していく。

 爆発の連鎖が瞬く間にピュートーンの全身に広がり、ダークディケイドが地面に着地すると同時に、激しい大爆発がアンダーワールドを赤く照らした。

 

 

 *

 

 

「はぁ……はぁ……やったのか」

 

 ピュートーンの残骸がいまだに燃え盛る炎を見つめて、ダークディケイドはようやく自身の勝利を確信することができた。

 自分よりも遥かに巨大な敵との戦いがダークディケイドにもたらした疲労は大きく、気を抜けば倒れてしまいそうなほどだ。

 だが瑠美と仁藤のためにもここで倒れるわけにいかない。

 まずはこのアンダーワールドから脱出し、現実世界で戦ってくれているはずのビーストに加勢するため、落下したバイクを探し始めた。

 するとジェットスライガーから転落した方角から何やら音が近づいてくることにダークディケイドは気づいた。

 

(まさか、まだファントムが!?)

 

 不安を抱くと同時に警戒するダークディケイドだったが、接近してきた物体の正体が判明したためにそれも消え去った。

 

「バイクって無人で走れるんだ……」

 

 そう呟いたダークディケイドの目の前まで走行してきたダークディケイダーはピカピカの新車同然の状態で停車している。

 ダークディケイダーはカメンライドに合わせて変形するばかりか、無人状態での走行を可能とするマシンである。その有用性を確認したダークディケイドはバイクに跨り、アンダーワールドを脱出するべくハンドルを握り、エンジンを始動させる。

 ダークディケイダーを発進させると同時にダークディケイドは光に包まれ、世界を超える。

 

 視界が晴れた先には膝をついているビーストと今にも彼に剣を突き立てんとするドレイクがいた。

 現実世界に戻ったことを確信したダークディケイドはマシンをフルスロットルで加速させて突撃する。

 

「食らえぇぇっ!」

 

「チッ!」

 

 いくらドレイクといえど、咄嗟にバイクを受け止めることはできず、地面を蹴ってその進行方向から逃れた。

 ダークディケイドは膝をついているビーストを庇うように停車したマシンから降りてライドブッカーの銃口を敵に向ける。

 そのまま銃爪を絞って打ち出された複数の弾は一直線にドレイクに殺到するが、射撃の経験がほとんどない大地の射撃では難なく弾かれてしまった。

 ピュートーンのような巨体ならまだしも、普通の大きさの相手にはこんな射撃は有効ではない。

 

(だったらこれで!)

 

 ATTACKRIDE BLAST

 

「ぐおおっ!?」

 

 ブラストのカードの密度を増した弾幕がドレイクのガードをすり抜けて命中する。

 ドレイクの体表は硬く、それほどのダメージには至らなかったが、すでにビーストが体勢を立て直す時間は稼げている。

 

「大地、瑠美ちゃんは!?」

 

「ええ、仁藤さんのおかげで助けられました。後は……あいつを倒すだけです」

 

「じゃ、二人で行くぜ!」

 

「はい!」

 

 仮面ライダーダークディケイドと仮面ライダービースト。

 二人のライダーがそれぞれの剣を構え、ドレイクと対峙する。

 それは襲われた時とほとんど同じ状況だが、大地はもう弱気になることはない。

 護るべき人が、一緒に戦う心強い仲間がいることがわかったのだから、もう逃げるという選択肢など存在しないのだ。

 

「ククッ、まさか魔法使い風情が本気で私に勝てるとでも思っているのか?」

 

「倒します。花崎さんのあんな顔、僕は二度と見たくないから!」

 

「愚かな! お楽しみはこれからだ!」

 

 ドレイクのその叫びが開戦の合図だった。

 正面から駆け出したビーストがドレイクに接近し、その後にダークディケイドが続く。

 それを迎え撃つドレイクは風の魔力を剣に宿らせ、不可視の衝撃波をダークディケイドに放ってきた。

 見えない斬撃への対処など素人の大地にはできるはずもなく、正面からもろに食らってしまった。

 簡単に吹っ飛んだダークディケイドに思わず嘲笑を漏らしたドレイクはすでに消耗しきっているビーストに狙いを定めた。

 

「まずは貴様からだ!」

 

「オラァッ!」

 

 互いの剣が打ち合うが、ビーストから掛かる力はドレイクからすればか弱いもの。少し力を入れれば呆気なく押し返されてしまう。

 それはダークディケイドが加勢するまでに幾度となく繰り返された光景であり、そこからドレイクの追撃が行われるのも同様である。

 

 ────ダークディケイドがいなければの話であるが。

 

 KAMEN RIDE GILS

 

「ゥヴォアアアアアアアアァァァ──ッッ!!」

 

 響き渡るは理性など感じさせないほどの空気を震撼させる雄叫び。

 徐々に大きくなるその声と足音にドレイクは警戒を余儀なくされる。

 本能の爆発とも言うべきその雄叫びの主はビーストでも、当然ドレイクでもない。

 

 猛然とした勢いで迫り来る緑の異形、DDギルスのものに他ならない。

 

 ドレイクが振り返った瞬間、DDギルスのボディブローが脇腹に突き刺さる。強固な鱗など意味をなさないほどにその強烈な一撃にドレイクの身体に今まで味わったどのものよりも遥かに強い痛みが駆け巡る。

 

(何だ!? このパワーは!?)

 

「ヴォアアアア!」

 

 腹腔に響く衝撃が止まない内に顔面に重い拳が叩き込まれることで、一瞬意識を刈り取られたドレイクは 反撃の機会すらも失うことになる。

 辛うじて持ち上げた剣もその規格外のパワーの前にあっさりと叩き折られてしまい、折られた剣は離れた場所に投げ捨てられた。

 得物を失った動揺を隠せないドレイクの顔面を再び殴りつけながら、野太い雄叫びを上げるDDギルス。

 それが勝鬨のようにも聞こえ、ドレイクの苛立ちは頂点に達した。

 その瞬間、DDギルスの周囲で空気の乾燥を感じ取ったが、気のせいだと無視して腕を振り上げた。

 

「舐めるなぁッ!!」

 

 怒りの波動が炎となり、ドレイクの周囲で爆発する。拳を振りかぶっていたDDギルスはその身を焼き尽くさんとする圧倒的な熱量に動きを封じられてしまった。

 ギルスは幾多のライダーの中でも攻撃力に優れる反面、低過ぎると言っても過言ではない防御力の持ち主である。となればただでさえ強力な熱量のダメージはより絶大な威力となってDDギルスを蝕んでいく。

 

「グワァアアアアッ!?」

 

「消し炭となるがいい!」

 

 さらに炎を生み出したドレイクはそのエネルギーを掌に集中させることで燃え盛る火球を作り出す。

 それがダークディケイドの致命打になり得る攻撃であることを察したDDギルスは炎の中からなんとか抜け出そうとするが、すでにDDギルス目掛けて火球は放たれていた。

 

(あれは本当に不味い……! カードも間に合わない!)

 

 万事休すかと思われたその時だった。

 

「させるかよぉぉぉッ!」

 

 バ、バ、ババババッファ! 

 

 なんとバッファマントを装備したビーストがその突進力に任せて炎の中に突入してきたのだ。

 驚くDDギルスに火球が直撃する寸前にビーストの勢い任せの体当たりがDDギルスに当たり、火球は誰も存在しない空間を貫いていった。

 ビーストの体当たりも中々の痛みだが、あの攻撃を食らっていればこの程度では済んでいないだろうと考えた大地は溜め込んだ息を吐き出した。

 危機は脱したが、戦いはまだ続いている。

 

「ハァ!」

 

 ドレイクはさらに炎を纏った人一人分ほどの大きさの岩石をビーストとDDギルス目掛けて落下させてきた。

 ビーストを庇うように前に出たDDギルスはその時すでに次のカードをバックルに叩き込んでいた。

 

 KAMEN RIDE SORCERER

 

 頭上に出現した金色の魔方陣が落下する岩石に対するバリアの役割を果たし、その攻撃を凌ぎきる。

 その魔方陣がDDギルスの足元にまで下ることで、金色の魔法使いDDソーサラーが君臨した。

 

「その姿は……!?」

 

「すげー! お前も金ピカになれんのか! チョーイイな!」

 

「仁藤さん! 行きますよ」

 

「んあ? あ、おう!」

 

 仮面ライダーソーサラーの長斧、ディースハルバードを召喚しながらDDソーサラーと遅れてビーストは敵の放つ岩石の衝撃波を掻い潜っていく。

 やがて長斧のリーチ内に辿り着いたDDソーサラーは衝撃波を繰り出すためにこちらに向けてくる腕に容赦なくディースハルバードを叩きつける。

 

「がハァッ!?」

 

「そらよっ!」

 

 黄金の鱗を切り裂いたその一撃に悶えるドレイクにさらにビーストの剣までもが突き刺さり、ドレイクの口から初めて悲鳴というものが発せられた。

 双剣が残っているならまだしも、素手で2人のライダーの異なるリーチからの攻撃を捌くのは至難の技であり、長斧を握る腕にも確かな手応えが伝わってくる。

 ビーストの剣を受け止めたドレイクにまた一太刀加えようとするDDソーサラーはそこで周囲の大気が微かに乱れるのを感じた。

 

(これはさっきと同じ)

 

 恐らくこれからくる攻撃は先ほどのような属性を纏った攻撃。今あのような技を使われれば、その中心部にいる自分達はひとたまりもないに違いない。

 思い直したDDソーサラーはすぐに武器を引っ込め、カードを装填する。

 その行動よりも一瞬早くドレイクを中心とした竜巻が発生したのだが、

 

 ATTACK RIDE REFLECT

 

 ビースト達を竜巻から阻む魔法陣は魔力の突風を確実に無力化していた。

 

「ダラァッ!」

 

 その魔法陣にビーストのドロップキックが蹴り込まれ、突風の魔力を内包したそれがドレイクに密着し、爆発する。溜めた魔力をそのまま跳ね返され、ドレイクはいよいよ膝をつく。

 この隙を逃す手などあるはずがない。

 

「これで!」

 

「メインディッシュだ!」

 

 FINAL ATTACK RIDE SO SO SO SORCERER

 

 キックストライク! ゴーッ! 

 

 宙に跳躍したビーストと地上で構えを取るDDソーサラー。

 燃えるリングをくぐる度に、また足に魔力の輝きが迸る度にエネルギーが充填されていく。

 跳躍したDDソーサラーとリングをくぐるビーストの高度が同じになると共に、その叫びも重なった。

 

「ッツアアアアアア──ッッ!!」

 

「うおりゃあぁぁぁぁッッ!!」

 

 ストライクビーストとストライクソーサラー。黄金の魔法使い達が繰り出したダブルライダーキックが撃墜せんと放たれた炎も、雷撃も、全てを突き破って進んでいく。

 そして2つの蹴りはほぼ同時にドレイクの胸板に炸裂。並大抵の攻撃では傷つかない光り輝く鱗を粉微塵に変え、貫通する。

 

「馬鹿な……この、私が……!?」

 

 ダブルライダーキックが貫通した箇所に生まれた亀裂は瞬く間に全身に広がっていく光景にドレイクは信じられないものを見る思いしか浮かばない。

 

 何故、魔法使いごときに敗北したというのか。

 

 亀裂から漏れる光の奔流に視界は埋め尽くされ、ドレイクの思考はそこで停止した。

 

「ギャァァァァ──ッッ!?」

 

 光が炎を彩り、ビーストに喰われた魔力を除いてドレイクは跡形もなく爆散した。

 彼が答えを得ることは、もう永遠に無いだろう。

 

 

 *

 

 

「ドレイクが敗れるとはな」

 

 仮面ライダー達とファントムの決着を観察していた影、白い魔法使いはある種の警戒を含めて呟く。

 ダークディケイドはあの傲慢ではあるが、確かな実力を誇っていたファントムを破るほどの力を秘めていた。

 ようやく見つけ出した魔法使いを手中に収められないのは白い魔法使いにとって痛手ではある。

 だが完全に未知数の実力の相手に仕掛けるのはそれ以上の損失を被る可能性もあった。

 

「……まだ焦る必要はない。魔法使いの魔力は把握した。面倒な奴にこだわる必要もあるまい」

 

 故に白い魔法使いは大地を手中に収めることを諦め、暗闇の中に去っていった。

 

 

 




ファントム ピュートーン

花崎瑠美のアンダーワールドに潜んでいた巨大なファントム。
口から吐き出す火球や体当たりが主な攻撃方法で、知能は低い。
本作オリジナルの怪人。


アンダーワールド戦は予算を気にしなくてよさそうな戦闘にしてみました。これも文章だからこそできる戦闘ですよね。
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