こんなにも心躍る気分になるのはいつ以来だろうか。
油断するとステップでも踏んでしまいそうな自分に苦笑しつつ、まあそれも仕方ないと凌馬は思った。
オーバーロード……もしくはそれ以上の存在と歴史的な対話にこれから挑むのだ。平常心でいられる方がどうかしている。
凌馬が急ぎ足で向かう先は、自身の専用スペースとして宛てがわれたガラス張りの部屋。
お目当ての人物は既に到着しており、監視役のトルーパー達に囲まれて座っている。
「やあ、お待たせしてしまったね。
早速話を……といきたいところだが。
君たち、もう下がっていいよ。ご苦労様」
「しかし我々も呉島主任からプロフェッサーを護衛するようにと────」
「貴虎には私からよろしく伝えておくよ。さ、君たちはとっとと行きたまえ」
戸惑いながら退室していくトルーパー。これで部屋には凌馬と大地の二名のみ、邪魔者はいなくなった。
秘書の耀子はいいとして、それ以外の者──特に貴虎の耳に入れば困ることもある。
「さて、まずは自己紹介といこうか。
私は戦極凌馬、ユグドラシルの研究者だ。
戦極ドライバーやゲネシスドライバーも私の発明でね……いや、わざわざ私を指名して訪ねてきたんだ、そんなことは百も承知か」
「僕は大地と言います。
あなたのことは知人から教えてもらいました。
……なんで知ってるのかは、僕も不思議ですけど」
「ふむ、異世界の人間にも私の名が知れているとは驚きだね」
異世界からの来訪者と聞いてどんな人物かと思っていたが。
なるほど、この大地という青年は駆け引きがあまり得意ではないと見える。
こちらがわざわざ聞かずとも情報を明かしてくれる素直さは凌馬としても大変有り難い。
これなら光実に騙されるのも納得だ。
「それで? 本日はどういった用件で訪ねてきたのかな?
少なくとも君の目線からすると、我々ユグドラシルは敵対者と取られるのが自然のはずだ。
そんな敵の拠点に単身乗り込んでくるほどの大事な用件があるのか、それともよっぽどの自信家なのか……」
「その、誤解をしないで欲しいんです。僕はあなた達と敵対するつもりはありません。
世界を救う為なら協力だってするつもりですよ。それをわかって欲しくて……」
「誤解……ね。確かに不幸なすれ違いはあったようだ。
いいだろう、『ダークディケイドは敵ではない』──私からもそう通達しておこう。
それでまさかとは思うけど、そんなことを言いにわざわざ来たわけではないね?」
「はい。僕の大切な仲間を、レイキバットさんを戦極さんに治してもらいたいんです! お願いします!」
実を言えばこの部屋に入った時点でそんなところだろうと見当はついていた。
これ見よがしに置かれたポーチと、故障した白い蝙蝠型の機械。大地が指したのは後者に違いあるまい。
そこから凌馬がレイキバットに手を伸ばすまでの動作は驚くほど早かった。
異世界の技術の結晶を弄る許可を貰ったからには、溢れる好奇心を押さえつけてはいられないのだ。
「これが異世界のテクノロジーか……! 君は今、これを大切な仲間と表現したね? まさか、このサイズの機械に意思疎通が可能なAIまで搭載しているというのかい? 実に素晴らしい……是非ともこれの開発者と語り明かしてみたいものだよ!
……おお!? この機構は僕のドライバーにもあるライドウェア形成部にも似ている。ということはつまり……これは変身道具でもあるのか! なるほど、自律行動によって変身者のサポートもこなせる理に適った設計になっている。エネルギーの動力源もこの世界には無いものか……いや────」
「あの……戦極さん?」
「おっと、これは失敬。つい我を忘れてしまった。
ざっと見たところ、君のお仲間であるこの蝙蝠くんは機能の大半を司る部分に損傷を受けているらしい。だが修復はそう難しくはないし、材料は我々の世界にある物でも代用できそうだ」
「本当ですか……! ああ、良かった! レイキバットさんに何かあったら本当にどうしようかと……。
戦極さん、是非ともお願いします! レイキバットさんを……!」
半泣きで嘆願してくる青年、という図に若干面食らう凌馬。
いくら高度なAIを搭載していようと所詮は機械に過ぎない蝙蝠にここまでするなど、凌馬には理解し難い。
しかし、それはそれでむしろ好都合とも言える。
「早とちりは困るな。確かにこの蝙蝠くんは私にとっても未知の技術の塊。謂わば宝物庫も同然だ。
そんな物に修復という形で触れるのは願ってもないことだが……申し訳ない。これでも私は多忙の身でね。君のお願いを聞いてあげたいのは山々だけど、資源と時間には限りがある。わかるね?」
「そ、そんな……!? それじゃあレイキバットさんを見殺しにしろってことですか!?
……できない。できません! レイキバットさんは僕を庇ってこんな風になったんです! 無理を承知でもう一度考えてください! 僕にできることなら何でも協力しますから!」
(来たっ!)
待ち望んでいた台詞に凌馬の目が輝いた。
「何でもとは……うん、恐れ入ったよ。私の降参だ。君が仲間の為にそこまでする男なら、私も敬意を表して答えよう。
この蝙蝠くんは完璧……いや、それ以上に修復してみせようじゃないか」
「ほ、本当に……? 本当の本当に!? ありがとうござ──」
「ただし!」
ピンと立てる人差し指。会話の主導権は渡さない。
凌馬が最も欲しい物を手に入れる交渉はこれからが本番なのだ。
「君が持つ変身道具……ダークディケイドのベルト。それの解析を私にさせてもらおうじゃないか。
仲間の命と引き換えなら安いものだろう?」
無数の形態を使い分け、その数だけ能力を発揮できる。しかもその能力のどれもが凌馬の作った発明の多くを凌駕しているときたものだ。
未知の技術を解析するという観点ではレイキバットもまた大いにそそるものの、ダークディケイドにはとても及ばない。その解析が叶えば凌馬の研究は飛躍的な進歩を遂げること間違いなしだ。
だが、大地が示した反応は凌馬の予想とは異なっていた。
「ああ……戦極さんも、やっぱりそういうことになるんですね」
この流れを読んでいたかのように独りごちる大地。
凌馬ではなく、どこか遠くを見ているその目に凌馬は思わず困惑してしまった。
さっきまではあんな必死に頼み込んで、土下座までしそうだったというのにこの変貌ぶりは些か不気味でさえある。
「すいません。その頼みだけは頷けません」
「おや……? これは意外な返答だ。つまり君はこの蝙蝠くんを見捨てると?」
「絶対に見捨てません。でもあなたが欲しがるベルトは置いてきたので、渡したくても渡せないんですよ」
「なんだって?」
「だって、置いてきましたから。他のベルトも全部。前にも戦極さんみたいな科学者にベルトを渡して大変なことになったんです。あんなことはもうごめんですから」
以前の「イクサの世界」で起きた事件を大地は鮮明に覚えている。
軽い気持ちで渡したメイジドライバーがきっかけとなり、リヴォルを誕生させてしまった。
鬼塚、小沢、入山────これまで見てきた科学者を思い返せば、戦極凌馬が異世界のテクノロジーを欲する可能性が極めて高いことは想像がつく。
よって大地は予め写真館を出る前に、ネガタロス眼魂含めレイキバット以外のアイテムを全て置いてきたのだ。
しかし、そんな背景事情を知らぬ凌馬には面白くない展開でもある。
お預けを食らった犬……とはまた違うだろうが、ぬか喜びさせられたのは確かだ。
「しかし解せないねぇ……君はこうなることをある程度は読めていた。となれば私が修理の件を撤回することもわかりそうなものじゃないかい? 君はどうやって私に承諾させるつもりなのか……是非聞かせてもらおうじゃないか」
「代わりに差し出すのは僕の身体です。
理由ははっきりしませんけど、僕は普通の人より傷の治りが早い。
流石にダークディケイドライバー並みとまではなりませんが、研究対象にする価値はきっとあると思います」
「君の身体、ねぇ……。まあ興味が無いわけではないが……」
異世界人の身体に興味はあるものの、あくまでそれなり程度。
研究者の血を騒がすのはダークディケイドのテクノロジーしかない。
だが、ここで大地にベルトを取ってこさせるのも難しい。
仮に凌馬が口八丁説得できたとしよう。
大地がまたここに戻ってくる保証はなく、もしくは屁理屈を並べてベルトを取ってこないかもしれない。
そういう無駄な時間の浪費は凌馬の嫌うところでもあるのだ。
しかし、ここで凌馬に妙案が浮かぶ。
(いや……待てよ。確か光実君の報告によれば彼には仲間がいた。それも変身が可能な)
聡明な頭脳が迅速にプランを組み立てる。
不穏な気配はおくびにも出さず、「大地の申し出を了承する否かで悩んでいる」という体を装って。
やがて完成したプランに従い、凌馬は人懐こさそうな笑顔をにぱっと浮かべた。
「どうやら私の負けらしい。君の献身に免じて、その条件を飲むとしよう」
「良かった……! 戦極さん、こんな都合の良い真似をしてしまったことは誤ります。だからレイキバットさんのことはよろしくお願いします!」
「いいとも。その代わり、君の身体は隅々までじっくりと調べさせてもらうよ」
感嘆と安堵の表情に染まった大地と握手をしながら、凌馬は思う。
この男はそれなりの駆け引きはできるようだが、まだまだ子供の域を出ていない。
少なくとも小賢しい光実なんかよりは百倍マシだ。
(フフッ、まあやって来たのは君の意志なんだ。悪く思わないでくれたまえ。精々私の研究の礎となってもらうさ)
*
「お互いにやることが目白押しの生活だ。私がこの蝙蝠くんを診ている間に検査を受けてくるといい」
そんな凌馬の一言で大地は検査室に連れられることになった。
精密機械が叩き出す様々な数値と、それを記録するスタッフを交互に見やりながらしかし何をするわけでもなく、不安な面持ちの大地。
レイキバットを心配して心ここに在らず、といった風か。
そしてそんな大地をモニター越しに観察する男女が一組。
「……へぇ、まさか本当に来ているとはね」
「あら? その様子だと、彼がタワーに来ると知っていたのかしら?」
「湊さん、残念ながらそれは勘違いだよ。もしも僕が事前に把握していたとして、兄さんに報告しない筈がないじゃないか」
「……ふぅん。ま、そういうことにしといてあげましょうか」
耀子はそれきり光実への追及を辞めて、モニターに注視する。
彼女がどれだけの興味を抱いているのか、光実には知るよしもないし、知りたくもない。
だが彼女の洞察力は侮れないものがある。
水面下で手を組んだドウマから教えてもらっていたが故に、光実は大地がタワーに来ていることも知っていたのだ。
あの協定と計画を耀子に知られては後々面倒になる。
しかし、こちらがボロを出さなければ過度に恐れる必要もないだろう。
「それにしても……彼、奇妙な男ね。どの陣営に属することもなく、それでいてどの陣営とも明確に敵対していない。果たして何が目的なのかしら」
「さあね。駆紋戒斗を記録することが目的とは言っていたけど、その記録っていうのが具体的に何を意味するのか、本人すら理解していないようだったよ」
「駆紋戒斗……ふふ、あの男は彼にどんな反応を示すのかしら」
「あの人の考えてることなんて、誰にもわかるわけない」
それは貴女も同じだけどね、と心中で付け加える。
自分の思い通りに動いてくれない馬鹿に考えを割いても時間の無駄でしかない。
(さて、これからどう動くか……)
光実は冷え切った目で大地の観察を続ける。
全ては秘めた己の目的──舞の為に。
*
検査に次ぐ検査の果てに大地がやって来たのは小さな部屋であった。
「申し訳ないが、やはり蝙蝠くんの修理には少しばかり時間を要することになりそうでね。滞在できる部屋はこちらで用意してある。一流ホテル並みとまでは行かないが……まあゆっくりしていくといい」
そう言って通されてはいいものの、最低限の家具があるだけの殺風景な内装といい、厳重なロックがかけられたドアといい、この部屋はどう見ても独房である。
騙された感はあるが、要求を呑んでもらった手前贅沢は言えない。
大地は検査づくめで疲れた身体を硬めのベッドに投げ出し、ほうと一息つく。
「瑠美さんたちには悪いことしちゃったな……。特に万丈さんにはキツく怒られるだろうし、下手すれば叩かれたりして」
しかし、心配させてしまう不安はあっても彼女らを心配する気持ちは大地にはあまり無かった。
現在の仲間の中だとバイオグリーザに次いで交流が短い龍我であるが、彼への信頼は自分でも驚くほど高い。
それも恐らく彼の言動や立ち振る舞いがとても「仮面ライダーらしい」からであろうか。
病院で見ず知らずの患者達を救おうとしたり、佐野の死に震えたりしつつも、自分のようにウジウジと悩んで戦いを放棄したりもしない。
例え自分がおらずとも、龍我と一緒ならきっと瑠美は大丈夫────自然とそう思えてしまう。
いざとなれば置いてきたダークディケイドライバーを引き継いで、瑠美を元の世界に送り届けることだって任せられる。
そうなれば、もう自分は────。
「ハロ〜! 期待のニュープレイヤー、ダークディケイド。暇そうにしてるから遊びに来たぜ」
その時、陽気な大声が大地を現実に戻した。
ぎょっとして見ると、部屋の小窓からヘッドホンをかけた男が笑顔で立っている。
一見朗らかで人の良さそうな笑みであるが、場所が場所なだけに気を許せそうな相手とは思えない。
ロックを解除して部屋に入ってきた男は我が物顔でソファに腰掛けた。
「だ、誰ですか? 研究員の方……には見えないですけど」
「サガラ、と呼んでくれ。これでも以前の沢芽じゃ人気の配信DJだったんだぜ?
まあそう身構えなくていい。俺はただゲームの新たな乱入者と話がしてみたかっただけだ」
「ゲームって……僕は遊びでこんなことしてるわけじゃ……!」
「そうカッカッするなって。ゲームってのは物の例えで、お前達が覚悟を持って戦ってるのはよーくわかってるとも」
大地は思わず語気を荒げかけるが、サガラの制止に止められる。
正しくはいちいち芝居のかかったサガラの仕草に毒気を抜かれた、の方が正しいか。
ひとまず彼から話を聞いてみるしかなさそうだ。
「そのDJさんが何の話をしに来たんです? 僕、配信のネタになりそうな面白話なんて思いつきませんよ」
「心配には及ばないさ。
インベスゲームが生むスリルと興奮! アーマードライダー達の血湧き肉躍るバトル! うちのサイトで配信していたのはそんな非日常だ。
街はあんな有様になっちまったが、俺が見たいものは今も昔も変わらない。
そうさな……名付けて、ヘルヘイムの森に眠る万能の力を巡る戦国バトルロワイヤル! これが今のゲームってやつだ」
「万能の力にバトルロワイヤル……それじゃまるで──」
ナイトの世界と同じじゃないか、と続くはずの言葉は脳裏によぎった凄惨な記憶に遮られた。
思い出したくない、それでも記憶に刻みつけられたライダーバトル。
あれと同じことがこの世界でも起こっているというのだろうか。
トラウマを刺激された大地の肌が逆立った。
「その果実に関する伝承は数多く存在する。
黄金のリンゴ。不老不死の果実、アンブルシア。そしてアダムとイブが食べた知恵の実。
禁断の果実を手にした者は大いなる力を得るだろう。
しかし、選ばれるのは戦い、勝ち残った最後の一人だけ。
どうだ? 実に魅力的な神話だとは思わないか?」
「その禁断の果実を求めて、みんなが争ってるって言うんですか……?
でも、そんな話は誰も……あ」
そんなに凄いシロモノがあると言われてもにわかには信じ難い。
ライダーでない絋汰は除外するにしても、光実やユグドラシルのライダー達は一言も言及していなかったではないか。
大地はそこまで考えて、しかし戒斗のとある言葉を思い出す。
『目障りな弱者を潰し、世界を壊す。
その為に必要な圧倒的な力を手に入れる!
それが、俺の戦いだ』
世界を壊せるほどの圧倒的な力。それこそが禁断の果実であり、戒斗がヘルヘイムで探し求めているものだとすれば。
「果実は誰にでも分け隔てなく与えられるものじゃない。
知っていても秘匿する奴はいるさ。むしろ、蹴落としを狙うならそれが普通ってもんだ。
世界を思うがままに塗り替えられる力なんて、欲しがらない奴がどうかしてる。
どうだ? お前も欲しくなってきたんじゃないか?」
例えばゴブリン族が滅ぶことなく、鬼塚が復讐に囚われることもない世界。
例えばライダーなんか存在せず、奏と昴が普通の親子として暮らせる世界。
例えば夢で見たような平穏の日々。
「たられば」を言い出せばキリがない。しかし、そんな世界を望む心はいつだってすぐそばにあった。
「禁断の果実があればあの夢を現実にできる……? 僕の記憶を戻すことさえできるのか……?」
「ああできるとも! ありとあらゆる願いを叶える力がお前の手に宿るんだ。不可能という文字はお前の辞書から消える」
サガラの胡散臭さを疑う気持ちが少しずつ消えていく。
それとは正反対に、存在さえ不確かな果実を求める欲が増していく。
だが────その過程で待ち受けるであろう戦いを想像して、大地の顔からサッと血の気が引いた。
「嫌だ……僕は要らない! 力なんてもう要らない!
また僕が戦えば、誰かを殺すかもしれないのに……!」
「おいおい、今まで散々怪人の命を奪っておいて今更怖気付いたなんて言うんじゃないだろうな?
俺から言わせりゃ、怪人だろうが人間だろうか生きてるってことに代わりはない。どうして人間だけを特別視するっていうんだい」
「どうしてって、そんなの……! そんなの……あれ?
────どうしてだっけ」
これまでの大地なら当たり前に言い返せていたかもしれない。
それなのに、大地が絞り出せたのはなんとも空虚な疑問。
人間なら守って当然だと言ってやりたくても、ここ最近に見て感じてきた人への憎悪が邪魔をする。
アギトを部品として扱った入山や、快楽から他者を殺した芝浦、弱い親子を足蹴にした市民など────彼らも守りたいと心の底から思っていただろうか?
完全に自分の世界に入ってしまった大地に、サガラはやれやれ顔で呆れながら立ち上がる。
「まあいいさ。これで種は植えた。
お前という樹が果たしてどんな答えを実らすのか、楽しみにしてるぜ」
最初から誰もいなかったかのように忽然と姿を消してしまうサガラ。
それからしばらく大地は陰鬱な顔を伏せて、自問自答の迷宮から抜け出せないまま長い時を過ごした。
*
ヘルヘイムの森において、地球のような天気の概念はない。
雨や雪が降ることもなく、昼夜の入れ替わりも存在しない。
沢芽市がちょうど夜になった頃でも、まるで変わらない空模様を見せていた。
そんなほの青い空を横切るいくつかの影。
まるで何者かから逃げるように飛ぶ翼を、真下から屹立した光が照らす。
「────逃がさん」
レモンエナジー!
バロンが狙い放ったソニックボレーに貫かれた人型の蝙蝠が二つ。
炎上しながら落下していくそれらはそれぞれ暗黒秘密結社のコウモリ怪人、ゲドンの獣人吸血コウモリという名であったが、バロンの知るところではない。
後方を追飛行していた怪人が撃墜されて、先頭を飛んでいた鷲のような怪人が慌てて振り返る。
「ヌゥッ!? おのれ仮面ライダーめ! よくも我が部下を!」
「先に仕掛けてきたのは貴様らの方だろう。集団で、それも不意打ちをしておきながらおめおめと逃げ出すことなど、この俺が許さん」
「クワーッッ! 砂漠の死神とまで呼ばれたこの荒ワシ師団長様を侮辱したこと、後悔するがいい!」
怪声を上げて、翼を持つ戦闘員と共に急降下してくるは、デルザー軍団の荒ワシ師団長。
弓矢を持つ相手からの逃亡は困難と判断したか、それとも簡単な挑発に乗ってしまったのかは定かではない。
どちらにせよバロンがすべきことは変わらない。
「セィッ!」
ソニックアローの黄色い閃光によって一人、また一人と落とされていく戦闘員。
しかし、肝心の荒ワシ師団長には一発として命中していない。
バロンの狙いはかなり正確なのだが、荒ワシの飛行精度はそれを上回っているということだ。
「師団長」なんて大層な階級を名乗れる程度の実力はあるらしい。
「見たかライダーバロン! この俺を捉えることは誰にもできぬのだ!」
嘲笑う荒ワシ。
あと数秒と経たずに猛スピードで突撃され、粉砕されるバロンの姿が目に浮かぶようだ、と大きな嘴から汚い笑いが漏れた。
そうした油断があったが故に、バロンが赤いロックシードをセットしたことにも気づけていない。
ロックオン! イチゴチャージ!
「なっ、なんだこれは!?」
驚くのも無理はない。
放たれたのはたった一発の矢。
その筈が、次の瞬間には無数のクナイに分裂して荒ワシの視界を埋め尽くしたではないか。
数えるのが億劫になるクナイに、荒ワシは咄嗟に盾を構える。
「おのれぇぇぇ!! だがこの程度で俺は落とせんぞ!!」
ロックオン! キウイチャージ!
クナイ弾幕を突破した荒ワシを撃輪の刃が刻む。
今度こそ命中してしまい、後は落ちるだけの荒ワシ師団長。
ギェー! と悲鳴を上げて自由落下する相手にトドメの一撃を放とうとするバロン。
彼はゲネシスドライバーのレバーを押し込まんと手にかけるが、痺れを伴った痛みがその動作を阻害する。
「ぐっ、こんな時に……!」
だが、耐えられない痛みではない。
構わずレバーを押し込もうとした時、バロンを更なる衝撃が襲う。
荒ワシが苦し紛れに放った斧の一投であり、バロンの必殺技はこれにて完全に不発となってしまった。
まさかあんなお粗末な攻撃とも言えないような一撃で命拾いするとは思わなかった荒ワシもポカンとしてしまったが、それも一瞬。
「ヘッヘッヘ、油断したなライダー。今トドメをくれてやろう!」
荒ワシは即座に立ち直り、バロン目掛けて一直線。
その生意気な首を落とさんと高速の超低空飛行で突き進む。
自身のスペックで出せる限界の速度で迎撃される前に仕留めようという魂胆だ。
また矢が飛んできたら回避すらできない速度だが、バロンが弓を放つ前に到達できると荒ワシは確信していた。
ピーチエナジー!
だからこそ、バロンの背後から飛んできた桃色の矢に正面から突っ込む羽目になってしまったのだが。
「な、なんだと!? 仮面ライダーがもう一人!?」
「オーバーロード……ではなさそうね」
桃状のエネルギーの檻に閉じ込められ、その場に縫い付けられた荒ワシから驚愕の声が飛ぶ。
バロンの背後でソニックアローを構えるは、耀子が変じた桃色のアーマードライダー、マリカ。
思わぬ援軍に大慌ての荒ワシには頭上へ跳躍したバロンへの対応などできようものか。
レモンエナジースパーキング!
「セィィィィイッッ!!」
「ギェェェエェエーッ!?」
バロンの必殺キック、キャバリエンドの炸裂によって荒ワシ師団長は爆発四散。着地と同時に膝をついたバロンはそのまま倒れ込むように変身を解除した。
あちこちに血の滲んだ痛々しい身体を引きずって、大木に背を預ける戒斗の顔は苦痛に歪んでいる。火傷痕のある腕なんて特に酷く、弓矢を引けていたのが不思議に思えるほどだ。
見かねた耀子がハンカチを差し出すも、彼はその手を跳ね除けた。
「あんな相手に梃子摺るなんてあなたらしくないと思ったら……納得ね。むしろそんな傷でよく戦えたものだわ。あなた、命が惜しくないの?」
「貴様には関係ない。この借りもいずれ返す」
「楽しみにしておくわ。それで? さっきの奴は一体なんなの?」
黙りこくる戒斗。
彼が素直に情報を吐く人柄でないと理解していた耀子には予想の範疇である。
「助けてあげた借りを返すなら今じゃないかしら? あなた、借りは作らない主義でしょ」
意地の悪い笑みを浮かべる耀子に戒斗は大きく舌打ちする。
屁理屈をこねて突っぱねることもできるが、そういう欺瞞は戒斗が最も毛嫌いするものの一つでもある。
「俺に消えて欲しい奴からの刺客だろうな。見たこともない赤いアーマードライダーに変身していたが、この世界の人間ではない。
まあ、本命は俺ではなくもう一人いる異世界のライダーだろうがな」
「異世界のアーマードライダー……まさかダークディケイドとクローズ以外にもいたとはね。できればあなたが見て聞いた生の情報をプロフェッサーに報告して欲しいのだけれど」
「断る。そこまでお前達に協力する義理はない。わかったらとっとと失せろ」
話は終わった。この女と必要以上に関わるつもりはないとして、戒斗は足早に去ろうとする。
「待ちなさい。あなたも知ってるとは思うけど、あの大地っていう子。今はユグドラシルタワーにいるわよ。と言ってもほぼ軟禁に近い形だけれど」
「だからどうした。アイツがどうなろうと俺には関係ない。第一、そんなことを俺に教えて何の得がある?」
「お生憎様。私は損得だけで動くような女じゃないの。
ただ気になるのよ。彼、あなたの目にはどんな風に映ったのか」
耀子の真意は戒斗の目を持ってしても読めない。
あの張り付いているように見える笑顔の裏には、凌馬ですら把握しきれないものがあるのかもしれない。
しかし、それを知ろうとするだけの興味も戒斗には無かった。もののついでに答えてやるぐらいはいいだろう。
「特に見所もない男、そこら中に掃いて捨てるほどいる弱者。
あのベルトだけは大したものだが、あれでは宝の持ち腐れだな。
どうだ、これで満足か?」
「ええ。概ねあなたが正しいと思うわ。
けれど……最初は取るに足らないと思っていた男が思わぬ価値を見せることもある。
案外似た者同士なんじゃないかしら? なんだかんだ言いながら、誰かを助けてしまうところなんて、特にね」
そう言った耀子の視線は意味ありげに戒斗の腕を見つめる。
赤黒く変色した痛々しい傷痕。
傷だらけになった戒斗の身体でも特に酷い傷ができた理由を耀子は知っていた。
「もういいか? お前の下らん話はもううんざりだ」
これ以上この女の戯言に付き合っても仕方ない。
戒斗は今度こそ本当に立ち去り、道無き道を行く。
この深い森の何処かにいるであろう敵はまだまだ多い。
インベス、オーバーロード、パーフェクトドラス、セイヴァー、謎の黒いライダー。
耀子に言われたからという訳でもないが、ドラス戦の傷も考えると休息と補給はした方がいいかもしれない。
あんな怪鳥ごときに遅れを取るようでは、ドラスの打倒など夢のまた夢だ。
「力が必要だ。もっと強い力が……!」
貪欲に強さに手を伸ばすこの男がどこに向かうのか、今はまだ誰にもわからなかった。
既視感のある展開。レイキバさんはどうなってしまうのか?
コウモリ怪人
BLACKに登場。かなり序盤から登場し続けており、なんでもかんでも仕事をやらされる過労死怪人。その死に様はほんとに過労死っぽい。
獣人吸血コウモリ
アマゾンに登場。こいつも序盤のコウモリ怪人。アマゾンキックとかいうレア技で倒された。
荒ワシ師団長
ストロンガーに登場。昭和でも屈指の知名度を誇るデルザー軍団の一員。同時期に登場した鋼鉄参謀と比べるとどうにも弱っちく感じてしまう。ドウマ、渾身の人選ミス。
そんなこんなでバロン編ももうすぐ終盤戦。次回更新はできれば5月中に
大地くんのライダー、どれが好き?
-
メイジ
-
レイ
-
ネガ電王
-
ベルデ