仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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また遅くなっちった……。月一更新すら守れないなんて……うう……


セイヴァーの企み

 

 

 自分の無力さを痛感するのはもう何度目になることか。

 

 不幸な出来事から世界を巡る旅に同行してきた瑠美は戦う力を一切持たない。

 絋汰がセイヴァーに攫われ、遠い空に去っていく時でもただ眺めているしかできないのだ。

 大地も、龍我も、レイキバットもいない瑠美なんざ異形の者にとっては吹けば飛ぶ石つぶても同然。そんな自分を恨めしく思ったことは一度や二度じゃ済まない。

 

「……こうしてちゃいけません」

 

 されど、腐っていたってどうにもならないことも瑠美は知っている。

 無力に打ちひしがれるだけの自分はもうとっくに卒業したではないか。

 すぐ側にいたはずのガイドもいつの間にやら姿を消してしまっているが、元々彼はあまり頼れそうにない。

 

「駄目だぞ私。大地くんと龍我さんは今も頑張ってるから。私もできることをやらなくちゃ」

 

 セイヴァーが消えたのはタワーの方角。きっと……いや、確実に大地達と鉢合わせるだろう。

 大地と親しい自分より絋汰を連れて行ったことの不自然さは気掛かりであるものの、そこに考察を重ねることは今の瑠美の仕事ではない。

 

 瑠美は大鍋のカレーを温め直し、白米と一緒にしてテキパキとタッパーに詰め始める。

 さっきの襲撃で鍋の中身がぶちまけられる、なんていう事故が起こらなかったのはまさに不幸中の幸いだ。

 

「向こうが来ないなら、こっちから行けばいい話です」

 

 今の瑠美にできること────やはりそれは苦しんでいる人々に料理を提供することだけ。

 先日の一悶着があってから人々は寄り付かなくなった。

 だが、それだけで炊き出しを諦める理由にはなり得ない。一人一人回ってでも、彼らの空腹を満たしてあげたい。

 

 状況の根本的な解決には到底至らないと知りながら、それでも瑠美は自分にできる範囲で人を助けるのだ。

 

「私、頑張りますから。どうかみんなも無事でいてください」

 

 タッパーが山盛りになったリュックは一般女子大生一人では少々重たい。イメージに違わず、瑠美はこういう力仕事が得意ではなかった。

 けれども瑠美は嫌な顔一つせずに背負い、瓦礫だらけの歩き難い地面をゆっくり歩んでいく。

 

 写真館の仲間たちと絋汰の無事を絶えず祈りながら、彼女の戦いもまた幕を開けたのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 さてここで大地と龍我の今の状況をおさらいしてみよう。

 

 負傷したレイキバットの修理を依頼する代わりに自身の身柄を預けた大地。

 

 まあこれはいいだろう。

 ここはヘルヘイム対策を一手に引き受け、世界を掌握しようとする天下のユグドラシルなのだ。そういうイレギュラーにはそれなりに慣れっこである。

 

 大地が依頼した相手が戦極凌馬であったこと。

 

 これは少し良くなかった。

 その技術力はこの世界では疑う余地もなくトップクラス。比肩しうる者などそうはいない。

 では何が良くなかったのかと言えば、それは彼の人柄と野望にあった。

 

 人類を救う命題を掲げているものの、そんなものは彼の建前に過ぎない。

 ヘルヘイムに眠る禁断の果実──神にも等しい力を手に入れようと画策している彼は自身の利になると見ればユグドラシルをも欺く。

 

 もしも大地が示した友好的な態度を馬鹿正直に報告したとしよう。

 ヘルヘイム対策の新たな有効策を見出そうとする上層部、特に主任の呉島貴虎は協力関係を築こうとするだろう。

 それは凌馬にはとっても面白くない事態だ。

 

 ここまで長々と語ったが、要は何が言いたいのか? 

 それは今の大地達がどうなっているかを見てもらった方が話は早い。

 

 

「施設への無断侵入とここまでの破壊行為。

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 より厳重に隔離が必要がある」

 

 

 倒れ伏す冠、そしてクローズ。

 一切の疲労感も無しに彼らを踏みつけている戦士の複眼がギラリと光る。

 

 斬月・真、呉島貴虎。

 彼と本格的に敵対してしまったことこそ、考え得る限りでも最悪の部類に入る事態なのだ。

 

 ダークディケイドであればまだ対抗できたかもしれない。

 だが、神速の勢いで駆け付けた斬月には悠長にベルトの入れ替えなんてしている暇は無かった。

 結果、レイキバットを探してタワー内部をウロついていた冠とクローズがあっさり瞬殺されてしまったのだから凄まじい戦闘能力である。

 

「つ、強え……なんなんだよこのメロン」

 

「ダークディケイドじゃないとここまで差があるなんて……!」

 

 文字通り手も足も出ずに倒されてしまったダブルライダー。

 大地は斬月と一度交戦して、その強さは肝に命じていたと思っていたが、それは大きな勘違いであったと身をもって思い知る。

 初戦は容易く蹴散らされたが、あれでも手加減されていたのだ。

 

「その身柄、今度こそ完全に拘束させてもらうぞ。

 ────私だ、どうした」

 

 狙いすましたかのようなタイミングで斬月に無線通信が入る。

 敵を前にしてなんと無防備な、と思うかもしれない。しかし、冠やクローズが不審な動きを見せれば即座に斬り捨てられるのは言われなくともわかる。

 

 今は微かな逆転の可能性を信じ、あるかどうかも怪しい隙を伺うしか────

 

「……なんだと!? タワーの周囲にインベスではない怪生物の群れ!? 何故事前に察知できなかった! 索敵レーダーはどうなっている!?」

 

 その隙は意外にも、どころか速攻で訪れた。

 隣で這い蹲っているクローズに目配せし、動揺している斬月に蹴りを浴びせる。

 それから跳ねるように起き上がり、怯む斬月から並んで逃走を開始。

 彼から溢れた言葉は気になるものの、まずはレイキバ救出を優先する。

 

 それを許さじとするソニックアローを引き絞る音が凄まじい轟音に掻き消された。

 

「ァアアアアトラアァァス! 中地球!!」

 

「うおおっ!? 今度はなんだよ!」

 

 外壁を破壊し、斬月の前に突っ込んで来たのは巨大な鉄球であった。

 なんだこれは、と困惑の呟きをする暇もなく、ずんぐりした体型の怪人がさらに飛び込んでくる。

 冠、クローズも足を止めて乱入者の次なる行動を身構えつつ観察していた。

 

「武装している……? 貴様、インベスではないな。何者だ」

 

「俺はGODの鉄腕アトラスだ! さては貴様ら、Xライダーの仲間だな? 生かしてはおかぬぞ! アトラス小地球!」

 

 アトラスは先程の物より一回り小さい鉄球を振り回して斬月と対峙する。

 この怪人が言っていたGODなる組織(?)のことなど微塵も知らない冠であったが、この聞いてもいないことまでベラベラ喋るタイプの怪人はもう見慣れていた。

 

「ゴッドだぁ? おい、また変なのが出てきやがったぞ」

 

「GODは僕も知りませんけど、多分これはドウマの仕業で間違いありません。彼が召喚した怪人は大体こんな感じでした!」

 

「こんなのが毎回いたのかよ……」

 

 クローズがこれまで戦ってきたのはスマッシュ、ミラーモンスター、そしてインベスである。

 そのほとんどが人語を解さず、精々唸り声程度しか発さない敵であり、ここまでベラベラ話す怪人というのは中々にカルチャーショックを与えていた。

 

 メロンエナジースカッシュ! 

 

「グアアアアッ!? GODバァンザァァァァイッッ!!」

 

「よわっ!?」

 

 とかなんとか話している間に鉄腕アトラスは呆気なく散った。

 斬月か強過ぎるのもそうだろうが、いくらなんでも弱過ぎやしないだろうか。

 逃げることも忘れて顔を見合わせる冠とクローズ。

 

 だが、異常事態は終わりの時を見せない。

 

「ブゥワッファァァァァッ!!」

 

 爆裂する灼熱の嵐。

 ポッカリと穴が開いていた外壁は粉微塵に消し飛び、その余波に斬月や冠たちも姿勢を崩された。

 各々が武器を振って焦げ臭い煙を払い、かつて壁があった場所を仰ぎ見る。

 

「ブゥワッフォオ!!」

 

「また新手か!」

 

「大砲を背負った牛……?」

 

「俺はタイホウバッファローだ!!」

 

 これまたご丁重に自己紹介をした牛怪人──本人曰くタイホウバッファロー。

 再度タワーへの砲撃を敢行しようとするも、斬月の創世弓がそれを許さない。

 斬月は矢を連続で放ちながら穴からタワーの外へ飛び出していった。

 彼の中での優先順位が冠よりタイホウバッファローに切り替わったということなのだろう。

 

「なんだったんだ。今の」

 

「さぁ……」

 

 喜ぶべきかは微妙だが、今こそがレイキバットを捜索する絶好の機会。

 両者は駆け出して、しかし冠だけがピタリと停止する。

 

「おーい! んなとこでぼーっとしてねえで、あのメロンが戻ってこないうちに早く行くぞ!」

 

「……いえ、やっぱり僕も外に行きます。万丈さんはレイキバットさんをお願いします!」

 

 明確な根拠があるでもなく、理由とするのは妙な胸騒ぎがしただけだ。

 だが、あのドウマが単なる雑魚怪人を放ってそれっきりということがあり得るだろうかと考えてみよう。パーフェクトドラスの件もある。

 ここで選択を誤れば取り返しのつかない事態にだってなるかもしれない。

 

 そして外へ出て行った冠を呆然と見送って、暫し立ち尽くすクローズ。

 このタワーの広さは既に体験した。探し出すのはどこにいるとも知れぬ握り拳大の蝙蝠が一羽。

 

「俺一人でかよぉぉぉ!?」

 

 

 

 *

 

 

 

 斬月・真、それからやや遅れて外へ出た冠を待ち受けていたのはまさに混沌であった。

 大挙してタワーに突撃してくる全身黒タイツの戦闘員達と、それを迎え撃つ黒影トルーパー部隊。

 以前戦ったことがあるショッカー戦闘員はわかるが、それとはまた別の連中も混じっているばかりか、戦闘員同士の小競り合いまで起こっている。

 こんな事態を迎える羽目になったトルーパー部隊も何が何やらわかっておらず、統制すら取れていない。

 

 だが、それも斬月が到着するまでの話だ。

 

「各員持ち場を死守しろ! 敵の正体は不明だが、我々にはタワーを守る責務がある。二人一組になって互いの背中を守れ!」

 

「しゅ、主任! 」

「了解!」

 

 斬月という信頼のおける指揮官の登場にトルーパー部隊の混乱は即座に払拭された。

「流石は主任だ」などと言って安堵している者までいるのは素直に凄いと冠も思った。

 

 隊列の乱れを取り払ったトルーパー部隊の果敢な迎撃により戦闘員達はその数をどんどん減らしていく。

 戦闘員同士の争いが無ければまた違ったかもしれないが、そもそも所属している組織が違う彼らがこうなるのは決まった運命であった。

 

 それに、ドウマが繰り出した本命は戦闘員なんてチャチなものではない。

 

「主任! あの崖の上を! 奴らが怪生物です!」

 

 トルーパーの一人が指差した崖上に浮かぶ多数の影。

 神話を彩った神や英雄、怪物を象った数々の異形にトルーパー達が震え上がる。

 

「イカルス!」

「ユリシーズ!」

「クロノス!」

「ネプチュゥゥン!」

「ジンギスカンコンドル!」

「キクロプス!」

「ケルベロォォス!!」

「アルセイデスゥ!」

「ヘラクレェス!」

「ガマゴエモン!」

「ブロメテス!」

「ァァアキレェス!!」

 

「キングダークの力で蘇ったGOD怪人軍団!

 そしてGODの科学技術を結集して造られたこの俺こと、最強怪人コウモリフランケン!

 どうだXライダー、我々に勝てるかな────ん!? Xライダーがいない!? 誰だ貴様らは!?」

 

 背部に大砲を背負った蝙蝠怪人──コウモリフランケンの素っ頓狂な叫びが虚しく響く。

 彼が統括している怪人軍団の奇怪な鳴き声にも疑問符が混じり始めた。

 

「貴様らこそ何者だ!」

 

 全黒影トルーパーと冠の疑問を代弁する斬月。

 

「だから我らはGODの……」

 

「知れたことを! 我々は偉大なるデストロンの怪人だ!」

 

 またしても突然の名乗りが響く。

 反対側の崖を一斉に向く斬月、冠、トルーパー、ついでにGOD怪人。

 

「ジシャクイノシシィ!」

「クサリガマテントウ!」

「ガマボイラー」

「ドォリルモォグラァァ!!」

「バーナーコォモリ!」

「レンズアリ!」

「ピィッケルシャァァク!」

「ミサイルヤモリ!」

「スプレーネズミ!」

 

「バッフォォ〜! どうだライダー共、この再生怪人軍団と俺の火力で一網打尽に……ぬぬ? V3とダブルライダーはどこへ行った!?」

 

 先程見えたタイホウバッファローもやはり周囲を見渡しては、己が宿敵の姿が見えない不可思議に首を傾げている。

 彼率いる怪人軍団も各々の武器を掲げているものの、誰に向ければいいのか迷っている様子。

 

「ケケケーッ!!」

 

 誰もが困惑している最中、また別の崖上に蠢く無数の影が見え隠れする。

 斬月、冠、トルーパー、ついでにGOD怪人、おまけにデストロン怪人がその後の展開を予想しつつも向き直った。

 

「ムカデラス!」

「カメストーン!」

「アルマジロング!」

「ナメクジラ!」

「ザンブロンゾ〜!」

「エジプタス!!!!!」

「ゴースター!」

「ユニコルノス!」

「カニバブラー!」

「狼男!」

「トドギラー!」

「ドクダリア〜ン」

「地獄サンダー!」

「蜘蛛男!」

「ガマギラー!」

「ドクガンダー!」

「ヤモゲラス!」

「エイキングゥ」

「スノーマン」

「さそり男ォ!」

「イソギンチャックッ!」

「蝙蝠男!」

「トリカブト!」

「ゲバコンドル!」

「カメレオン!」

「アリキメデス!」

「ムササビドォ〜ル!」

「サァラァセェェニアァァンッ!!」

 

 多い、呆れ返るほどに多い。GOD怪人が退屈し始める程度には多くて長い。

 最後に堂々出現したザンジオーなる怪人も案の定「本郷と一文字はどこへ行った!?」と困惑の表情を見せていることは言うまでもない。

 

 ユグドラシルタワーを中心に流れる微妙に淀んだ空気。

 意気揚々と出てきたはいいが手持ち無沙汰になってしまった怪人たち。

 

 そしてコウモリフランケン、タイホウバッファロー、ザンジオーは考えるのをやめた。

 

「「「かかれぇ!!!」」」

 

 一斉号令が曇天を揺らし、バラエティ豊かな再生怪人軍団が身の毛もよだつ奇声を響かせる。

 半ば転落していく勢いで向かってくる恐れ知らずの怪人軍団は数の不利などものともしない。

 そんな異形の進撃に、一企業の社員に過ぎない黒影トルーパーはすっかり萎縮してしまう。

 しかし、彼らを率いるリーダーは違う。仮に敵の数がこの10倍でも物怖じすることはないだろう。

 

「戦える者は構えろ! ここで我々が敗北すればシェルターに住む家族はどうなる? 誰が人類を救う? ユグドラシルに課せられた責務を思い出せ!」

 

 ソニックアローが蝙蝠男を一矢に墜とし、ジシャクイノシシを斬り裂く。

 斬月のまさに一騎当千の活躍ぶりは戦意を手放しかけていたトルーパー達が己を奮い立たせるに足りた。

 敵の群れに突撃した斬月の後に続々と続き、敵味方入り乱れる戦場が展開される。

 それは混戦を通り越して戦争と呼ぶに相応しい状況だった。

 

「孤立は危険だ。最低でも二人一組になれ!」

 

 鋭く飛ばされた指令に従い、トルーパーたちは互いの背中を守り合う。攻めあぐね、怯んだドクダリアンはたちまちのうちに串刺しにされた。

 

 個々のスペックが劣る分、トルーパーには連携という武器がある。

 それと比べ、再生怪人はそこそこの強さはあるものの、それも生前の時よりは大幅に劣化したもの。加えて相手をたかが人間と見下し、驕っている始末。これでは斬月どころか少人数のトルーパーさえ倒せないのも納得であろう。

 

 それでもリーダー的立ち位置であるザンジオー、タイホウバッファロー、コウモリフランケンは再生怪人ではないオリジナルであり、トルーパーが束になっても敵わない。

 

 ザンジオーの口から吐き出されたブレスが彼を囲んでいたトルーパー部隊を次々と薙ぎ倒していく。

 アームズを貫通して中身まで焼き尽くしてしまうのでは、と思えるほどの火炎によりザンジオー周囲のトルーパーは運良く回避できた一人を残して全滅してしまった。

 その一人もあっという間にやられてしまった仲間たちの屍を目の当たりにして腰を抜かしてしまう。

 言うまでもなくザンジオーにとっては好都合。ゲゲゲ、と不気味に嘲笑う声が大きな口から漏れている。

 

「やあああッ!」

 

 今にもトドメを刺されそうだったトルーパーの耳に、若々しくも勇ましい叫びが届いた。

 銀に煌めく杖の一振りによってザンジオーは吹っ飛ばされ、九死に一生を得た一人のトルーパー。

 助けてくれたアーマードライダー冠の名も、その理由も彼は知らない。

 

「ど、どうして」

 

「あなた方の組織とは分かり合えなかった。でも、それだけで命を見捨てる理由にはならないから」

 

 凌馬とは敵対する結果となってしまったが、「人類救済を掲げたユグドラシル」という彼の談が嘘だと大地には思えなかった。

 護るべき者の為、必死に抗うトルーパー達と記録してきたライダー。彼らの本質には違いなどない。

 

 庇われた黒影トルーパーの我武者羅なひと突きがザンジオーに一瞬の隙を生み出し、蒼銀杖による怒涛の乱撃が数秒で捩じ込まれる。

 全身を刻まれたザンジオーの爆発を最後まで見届けずに次の敵へ向かう冠。

 

 その間際、小さく────見逃してしまいそうなほどに小さく、助けたトルーパーが頭を下げてきたことで大地の胸が一杯になった。

 

(────)

 

 見返りは求めていなかった。

 だが、助けて良かったとも思った。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 多数の怪人とライダーが乱戦を繰り広げているタワー周辺。

 具体的な命令をされているならまだしも、記憶から再現されただけの再生怪人が皆タワーに向かうとは限らない。

 こうした大人数での大乱戦で戦場からあぶれてしまった者というのはどんな時でもいるものなのである。

 

「小娘、俺の姿を見たな。お前の命は貰った!」

 

「怪人……!」

 

 ここでいうあぶれた者とは、すなわちネプチューンであり。

 彼の真っ黒に濁った瞳に映るのは瑠美であった。

 

 ネプチューンが瑠美を襲って得られるメリットなど一つとして存在しないはずであり、それは彼自身も重々承知している。

 要するに憂さ晴らしとして瑠美を狙っているのだが、どんな理由であれ絶対絶命の危機であることには変わりはない。

 山盛りカレー入りタッパーを内蔵したリュックに背負った女子大生が、銛を構えた魚人風の怪人にどうやって対処しろと言うのか。

 

「どうした、泣き喚いてみろ小娘。貴様が頼りにしているライダー共はどうせ来ないのだ」

 

「私は……」

 

 じりじりとにじり寄る怪人から後退る瑠美。

 何か気を逸らせるものは、と視線を巡らせた矢先に躓いてしまい、その拍子にリュックの肩紐がするりと抜けてしまう。

 地面に投げ出され、タッパーから満杯のカレーぶちまけられた。

 途端に周囲を漂うスパイシーな香りには流石のネプチューンも困惑する。

 

「カレーだとぉ? なんだ小娘、そんなものを大事そうに抱えていたのか。とっとと捨てておけばまだ逃げられたかもしれないものを、馬鹿な奴め」

 

 事情を知らないネプチューンがせせら嗤うのも当然である。

 客観的に見て、これがどれだけ滑稽であるかなんて言われるまでもない。

 しかし、それでも瑠美は言葉を返す。命惜しさに、ではない。

 

「違います……“そんなもの”じゃありません! ここに生きる人達の血となって、肉となる大事な食べ物です! 明日を生きる糧になるものなんです!」

 

「はぁ?」

 

「魚怪人さんが私を嗤うのは結構です! でも、この食べ物だけは絶対に届けなくちゃいけないものなんです! だから通してください!」

 

 説得、と言えるかどうかも怪しい言葉が次々と並び立てられる。

 さっきまでの怯えをどこかに吹っ飛ばしたかのような瑠美の勢いに面食らわずにはいられないネプチューン。

 だが、「魚怪人」と呼ばれたことを思い出し、それが彼の琴線に触れる。

 

「貴様、さっきから勝手なことを言いおって! 貴様のような小娘に魚呼ばわりされて黙っているネプチューン様だと思ってか!」

 

「え、違うんですか? それはごめんなさい!」

 

「今更遅いわ! 死ねぇ!」

 

 迫る海神の槍に瑠美は顔を強張らせる。

 常人に回避できるような速度ではない。

 甘んじて受け入れる他ない、と思われたところへ思いもよらぬ横槍が入る。

 

「てめえが死ねやぁ!」

 

 ネプチューンの槍にも負けない一撃が陰から放たれた。

 槍とハンマーが弾き合い、瑠美の眼前に倒れるひとりの黒影。

 その乱暴な声音から、先日炊き出しで一悶着起こした男が正体であることを瑠美は知った。

 

「オラオラァ! こっちにもいるぜ!」

 

「引っ込め! ヒゲインベス!」

 

 マツボックリ、イチゴにパイナップル、山盛りフルーツが如く続々と駆けつける黒影軍団。

 ベルト持ち──所謂過激派市民に類される者達だけではない。ベルトを持たない、過激派と対立していた“持たざる者”までが瑠美を守るべくして立ちはだかる。

 

「平気か、豚汁の嬢ちゃん?」

 

 そこら中に落ちている瓦礫を投げつけ、黒影を援護する市民達の中から一人の男性が瑠美に手を差し伸べる。

 

「貴方も炊き出しに来てましたよね……どうして?」

 

「いやぁー、なんつーかなぁ。別に示し合わせたってことじゃねえんだけど」

 

 どうしてベルト持ちの人と一緒に戦ってるのか、とか。

 どうしてわざわざ助けに来てくれたのか、とか。

 瑠美が放った「どうして」という疑問には色々な響きが混じっていたが、男性はその全てを把握できていないだろう。

 気恥ずかしそうに頭を掻いて、事の成り行きを説明し始めた。

 

「嬢ちゃんとあの喋るインベスがギャーギャー騒いでるのがたまたま聴こえてよ。俺らはベルトも持ってねえし、ズラかるしかねえと思って……」

 

 男の視線が瑠美のリュック、中身が出てしまったタッパーへと落ちる。

 

「自分が食うわけでもねえのに、こんだけのカレーを持ってきてくれた嬢ちゃん見たら……つい、な。アイツらもそんな感じじゃあねえかなぁ」

 

 かつての歴史がそうだったように、虐げてきた側と虐げられてきた側との間にそびえる壁はそう易々と崩せない。

 ネプチューンという脅威を前に共闘してはいるものの、この戦闘が終わればみんなで仲良しこよし、なんてお伽話もいいところだ。

 綺麗事だけで運ぶ世の中なら、こんな荒廃した街にはなっていない。

 

 しかし、嫌な事ばかりでないのもまた世の中の常。

 

「アンタの豚汁、食いそびれちまったから。

 その……カレー、食わしてくれるかな。今度は……暴れたりしねえから」

 

 ぶっきらぼうに言ってからマンゴーの黒影も再びネプチューンに向かう。

 ユグドラシルのトルーパー部隊よりさらに実力で劣る市民の黒影なら一人一人ではネプチューンに太刀打ちできずとも、日々培ってきた連携で食らいつく。

 

 きっと、この戦闘の後にみんなで食べる瑠美のカレーはいつか彼らのわだかまりを溶かしてくれる糧にもなる。そう信じて、瑠美も瓦礫投げに加わった。

 

 沢芽の未来は未だ真っ暗闇の中。

 だが、今日この日、初めてこの街に光が灯された。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『ロックビークル部隊、機銃掃射を開始します!』

 

 タワー周辺の大混戦にも新たな一石が投じられる。

 ダンデライナーやスイカアームズなどで構成された部隊がようやく出撃し、その圧倒的な火力を存分に奮い始めた。

 それらの部隊を率いるはアーマードライダーシグルド。この場において斬月に次ぐ戦力の持ち主と虎の子の機甲部隊の到着にトルーパー部隊はますます勢い付き、一方の再生怪人軍団は機銃の嵐に慌てふためくのが関の山であった。

 

 向かってきたマッハアキレスを射抜き、斬月と切り結んでいたカマキリ男の腹に前蹴りを捩じ込むシグルド。

 己の右腕とも呼べる救援に喜ぶこともなく、斬月は厳しい叱咤を飛ばした。

 

「遅いぞ、シド! 何をモタモタしていた!」

 

「そうカッカすんなって。これでも急いで駆けつけたんだぜ? 

 プロフェッサーは負傷。タワー内部の侵入者だってまだ野放し。天下のユグドラシルがこのザマじゃお偉方に向ける顔がねえなぁ?」

 

「責任なんぞ後でいくらでも取れる。今はタワー防衛が最優先事項だ」

 

「そりゃあ頼もしいこって!」

 

 斬月とシグルド、それに機甲部隊。

 これだけの戦力が揃った今、再生怪人軍団が勝利を収める可能性は皆無に等しい。

 上空を飛んでいるが故にそのことをいち早く察知し、離脱を図るコウモリフランケン。

 

「逃がすか!」

 

 シルバーオーレ! 

 

 だが、冠の視界に留まったのが運の尽き。

 空高く飛翔するコウモリの翼を確実に捉えるべく、ユグドラシルタワー最上部へと跳躍する冠。

 蒼銀杖が描いた弧にエネルギー塊が浮かび、杖の先が向けられた標的へと一斉に放たれる。銀林檎の砲弾が何発も直撃し、敢え無く炎上したコウモリフランケンは地上にて大爆発を起こした。

 

 タイホウバッファローも既に斬月によって撃破済み。

 これで主力を欠いた再生怪人軍団が掃討されるのも時間の問題だろう。

 ともあれば自分は残る残党は彼らに任せ、レイキバットの救出活動に戻るべき────なのであろうが。

 

「……あのドウマがこれで終わり? 数だけは凄かったけど、これじゃあ────」

 

 

 

 

 

「肩透かしだ、とでも言うか? まあそんなものだ」

 

 ドウマの冷たい囁きが耳元を撫でる。

 

「くっ!」

 

「遅い」

 

 セイヴァーによる突然の不意打ち。

 しかし、こういったシチュエーションには良くも悪くも慣れっこの大地であるからこそ、身体はすぐに動いた。

 

 短く握り直した杖で斬撃を弾こうとするも、ギリギリ間に合わない。

 銀の鎧を斜めに裂くセイヴァーアローの一閃。

 冠は怯みつつも真後ろに跳び退き、杖が届くか届かないかという距離まで退がる。

 

 セイヴァーの武器は剣と弓の二刀流。

 変身したての冠で、ドウマの高い剣技が存分に活かされる近接戦に興じるのは得策とは言えない。

 

「手数で勝てなくても、やりようはある!」

 

 今度は杖を長く握り、遠心力を武器にした横薙ぎを繰り出す。

 時に突きなども織り交ぜながら、とにかく剣の間合いに詰められないよう意識して冠は立ち回る。

 

 しかし、忘れてはならないのがセイヴァーアロー。そう、弓矢だ。

 

 相手の得意とする距離を嫌うのはセイヴァーとて同じこと。

 蒼銀杖のリーチからさらに離れ、遠距離から一方的に紅き矢を放ってくる。

 冠は杖を左手に持ち替え、ライドブッカーの連射で対抗を試みる。

 しかし悲しいかな、戦場が射撃主体に移ろうとも技量はセイヴァーの方が上であった。

 

「狙いが甘い。いくら武器が優れていても、使い手がお前のようなハンパ者では意味があるまい。宝の持ち腐れ、と言えばわかるか?」

 

「ぐうっ……!」

 

 ライドブッカーの弾丸は明後日の方向へ飛び、セイヴァーアローの矢は冠の肩を焼いた。

 腹立たしいほどに実力差を開いている。大地が不得手とする射撃戦で敵う見込みはやはり無い。

 

 チマチマやるより大技で開く突破口に賭ける、とカッティングブレードに手を掛ける冠。

 必殺技の準備動作を確認し、自身もまた剣と弓矢を構えるセイヴァー。

 

 シルバースカッシュ! 

 ザクロスカッシュ! ブラッドオレンジスカッシュ! 

 

 杖の先端が大きな弧を描き、神々しい三日月の刃が放たれる。

 猛然と進む白銀の刃はしかし、大橙丸による暗色の斬撃に食い止められ、セイヴァーアローの扇状の衝撃波に完全に砕かれた。

 その衝撃波は必殺技を破ってなお余りある勢いで冠の身体を吹き飛ばす。

 全身に波及した痺れと激痛に身を悶え、気付けばセイヴァーの両刀によって地面に組み伏せられてしまった。

 

「そんな付け焼き刃で倒せる相手か? ダークディケイドになったとて、結果は変わらんが」

 

「なんて言う割には、いっつも変な作戦立ててるくせに……!」

 

「クク、なら今度の“変な作戦”もしっかり見届けてもらおう。ちょうど大詰めだ」

 

 剣と弓を押し付けられた首の背後、斬月達のいる辺りから天高く業火が昇った。

 

 

 

 *

 

 

 

 ユグドラシルタワーを包囲した怪人軍団とトルーパー部隊の戦闘が勃発していた裏で、光実はとある報告を受けていた。

 通信先は避難シェルターに待機していた者である。

 事務的な口調で短く会話を済ませると、目の前に立つ存在に向き直った。

 

「────葛葉絋汰の身柄は確かにこちらで預かった。

 あの人がシェルターにいるなら、もう遠慮はいらない。

 さあ暴れておいでよ、ドラス」

 

『ワカったよ、お兄ちゃん! フフ! やっと楽しメるんだネ!』

 

 光実の許可が降りると、嬉しそうに身体を揺らして浮遊するパーフェクトドラス。戦場に飛ぶ速度の速さがいかに退屈を持て余していたかを物語っている。

 彼が向かう先、ドウマが召喚した雑兵による騒乱はもう終息しつつあるが、それも予定通り。むしろこのタイミングだからこそ、ドラスを投入する意味がある。

 度々シェルターを抜け出す絋汰を確保した以上、もう光実にとっての懸念事項はない。

 

 かくして斬月達の前に姿を現したドラスは挨拶がわりの砲撃を発射した。

 ジャイロモードで残党狩りをしていたスイカアームズを一撃で破壊せしめた存在は、解れかけていた部隊の緊張を戻すには十分にすぎた。

 

「なんだぁ? また変なのがおいでなすったぜ」

 

「次から次へと……一体どうなっている」

 

『もう待つのモ飽きちゃっタ! ()()()のお兄ちゃんも良いって言ったし、おじちゃん達、いっぱい遊んデね!』

 

 おぞましい見た目とはミスマッチな言動。見れば見るほど奇妙な異形ではあるが、そんな外見的特徴も先の凄まじい火力と比べれば気にならないだろう。

 己の力を過信している節があるシグルドすら警戒心を崩せなかった。

 

 対峙しているだけでも精神を削り取られるようなプレッシャーが放たれる状況下で、一般隊員には耐えられるはずもなく。

 

「う、うわあああああ!!」

「撃てぇ! 撃てー!」

 

 恐怖に駆られた搭乗員によるチューリップホッパーの機銃が火種となって、機甲部隊の一斉掃射が始まった。

 

「待て」と冷静な判断を促す斬月の叫びは最早届かない。

 高層ビル一つなら一瞬で灰にできそうな集中砲火の真っ只中に立たされることとなったドラスから全身を覆う量の火花が上がる。

 粉塵で姿が視認できなくなってもひたすら撃って、撃ちまくって、“もう死んだだろう”と誰もが判断する量の弾丸を浴びせても、隊員達の手は止まらない。

 部品の一つに至るまで消し炭にしてしまうのでは、と思えてしまうほどであったが、それは希望的観測でしか無かったと思い知る。

 

『ずっとソっちばっかリ撃つのはずるイよね!』

 

 粉塵から声が聞こえた次の瞬間、レーザーと砲撃が同時に飛んでスイカを弾けさせる。

 豪速で飛ぶロケットパンチが上空を旋回していたダンデライナーを撃墜してスクラップにしていく。

 殺虫剤が如く撒かれた消化液が周囲を飛び跳ねていたチューリップホッパーを搭乗員ごと骨も残さず溶かした。

 

 この間、わずか数秒。斬月がソニックアローを放った時には、全てのトルーパーが戦闘不能にされてしまっていた。

 あれだけいた部隊が、実質斬月とシグルドの二人のみになってしまう。

 

「一瞬でこれほどの部隊を……そんな馬鹿な!?」

 

「おいおい、コイツは相当やべえんじゃねえのか……?」

 

 斬月が放った矢は回避行動もさせられず、ドラスの表皮で微かに火花を散らせて終わる。

 まさに絶望的。しかし、先の集中放火のお陰でドラスはその半身を欠落していた。

 これならばまだ勝ち筋はある、と光明を見出した斬月。

 

『あ、結構コワれちゃった。治さなきゃ!』

 

 自分の身体の欠損だというのに、まるでプラモデルが壊れたかのようなニュアンス。

 周囲に散らばっていた怪人の残骸──改造人間の部品がドラスに集められ、その肉体を構成するパーツとなることで傷は完全回復されてしまった。

 これを不死身と呼ばずして何と言うのか。

 

 ケタケタと不気味に笑うドラスに戦慄を隠せない斬月、シグルド。

 そこへザザ、とノイズが走った後に若い声の通信が入った。

 

『兄さん、応答して!』

 

「光実か!? 今どこにいる!」

 

『モニタールーム。そっちの様子は見えてるよ。

 兄さん、シド、今すぐ退避して。その敵は僕ら全員でかかっても勝ち目は薄い。アレを使うしかないよ』

 

 

 

 

 

 ドラスによる蹂躙の一部始終を組み伏せられながら見ていた冠。

 あっさりと壊滅した怪人軍団への疑問が氷解し、ハッと顔を上げた。

 

「そうか! あの怪人たちがあんまり強くなかったのは、予め倒されることで部品になる役割があったから……!」

 

「今日はそれなりに頭が冴えていると見える。

 ユグドラシルのライダーを誘き出すため、と付け加えれば合格だ。

 だが、満点にはまだ足りない」

 

「満点……? まだ何かあるって言うのか」

 

 斬月・真は強い。

 出会ってきたライダーの中でも五本指に入る実力の持ち主だ。

 

 しかし、パーフェクトドラスはまず間違いなくそれ以上である。

 自分がダークディケイドに変身し、かつこの場にいるライダー全員とバロンを加えて共闘が叶ったとしても勝てるビジョンが浮かばない。

 ドラスが本気になればこのユグドラシルタワーなんて瞬きする間に消し飛ばせるだろうし、それを止める手立てはユグドラシルには────。

 

 無い、と断じる直前にタワー上部に設置された巨大リングが見えた。

 

「────あ」

 

 あるではないか。

 パーフェクトドラスも、怪人の残骸諸共吹き飛ばせる最終兵器にして、この街の惨状を生み出した元凶が。

 

「スカラーシステム。

 ユグドラシルに残された手段はそれしかない。

 今頃タワーの連中は胸を撫で下ろしているだろうさ。『ああ、スカラーシステムがあって良かった』とな」

 

「でも街にはまだ人が!」

 

「おお、そうだったな。何せ人口20万の街を一瞬で廃虚に変えてしまうほどの兵器だ。次に発射されれば今度こそ本当のゴーストタウンになる。

 それでユグドラシルが守られるなら、連中にとっては小銭を払う程度の代償だろうが」

 

「小銭……だって……? 人の命をなんだと……!」

 

 大地がどれだけ憤慨しても状況を好転させる材料にはならない。

 セイヴァーが語った悪夢は現実となりつつあり、スカラーシステムの重々しい稼働音が響いてくる。

 徐々に熱を帯びてくる赤い光に大地の不安はどんどん煽られる。

 

 あとどれくらいの猶予があるのかもわからない。確かなのは、このままではあの夢の光景が再び繰り返されてしまうということ。

 

「離して! あなたが欲しいのはダークディケイドライバーだけでしょ!? どうしてこんなことをするんです!」

 

「そうとも、俺が欲しいのはダークディケイドライバーだけ。

 だがお前は手放そうとしない上、ネガタロスや万丈龍我に邪魔をされるからな。邪魔者の一掃と、ついでにお前の心を折れる一石二鳥と言えばわかるか? 」

 

 喚いて足掻く冠をセイヴァーは離さない。

 こうしてる間にもスカラーシステムから響く重厚な音はどんどん大きくなっていく。

 セイヴァーを押し退けようとする力が膨れ上がってくるが、それでもまだ力が足りない。

 

「考えてもみろ。

 お前が素直にダークディケイドライバーを手放していれば、こうなることはなかった。

 あの時、お前が俺を殺せていればこうなることはなかった。

 大地、これはお前が招いた結末だ。この街で僅かに生き残った者はお前の所為で死ぬ羽目になるんだよ」

 

「僕の所為……だって?」

 

 セイヴァーの思わぬ言葉に冠の抵抗する力が弱まる。

 だが、それも一瞬に過ぎない、

 

「ああその通り。……そういえばさっき花崎瑠美を見たぞ。

 可哀想に、あんなに健気に慕う彼女もスカラーシステムの熱と光に焼かれることになる。

 だがまあ安心しろ。どうせ痛みを感じる暇もない」

 

 

 その言葉が決定的なトリガーとなる。

 

 

 この時起こった出来事を形容するなら、まさしく“爆発”であった。

 野獣が如き雄叫びと共にセイヴァーの身体が宙に浮き、投げ飛ばされる。この一連の流れにドウマは驚きのあまり言葉を失う。

 

 冠に変身した大地の力は先の交戦で凡そ把握した。

 セイヴァーの拘束を簡単に振り解けるテクニックも、実力も無いと判断していた。

 ならば何故────冠は片手でセイヴァーを持ち上げ、投げ飛ばすことができたのだ? 今爆発的に膨れ上がった力の源はなんだというのだ? 

 

「オオオオオオオオオーッ!!!」

 

「この光は……!」

 

 セイヴァーを投げ飛ばした後、空を貫く叫びに合わせて冠の懐から黄金の輝きが漏れ始めた。

 革命、創造、破壊────あらゆる事象を起こす理由となり得るような、そんな輝き。

 光の出所であり、冠が懐から取り出した金色の錠前にセイヴァーは眼を奪われる。

 

「お前の勝手な企みなんかで瑠美さんは死なせない。

 彼女も、みんなも! 僕が! 死なせるもんかぁぁーッ!!」

 

 冠が翳した手の中、()()()()()は解錠された。

 

 

 

 

 その時、世界を覆った輝きは目にした者の記憶に凄烈に焼き付いた。

 

 気絶している部下を抱えて離脱を行おうとしている貴虎。

 彼は光の中に、かつて夢見て、今なお捨てきれない理想の救済を見出した。

 

 

 モニター越しに成り行きを見守っていた光実。

 彼は光の中に、楽しかった思い出の日々と居場所、そして大切な人の傍にずっといられる権力を見出した。

 

 

 タワーからそう離れていない場所にいる戒斗。

 彼は光の中に、今ある世界を壊し、嘘も欺瞞も存在しない世界を創り上げる強さを見出した。

 

 

 シェルターの医務室で未だ気絶している絋汰。

 彼にも光は降り注ぎ、全てを守って、全てを救える希望を見出した。

 

 

 そしてカレーを振舞っている瑠美。

 彼女は光の中に、今も懸命に戦い続けているあろう人の姿を見出した。

 

「大地くん……!」

 

 

「さあ、鍵は開けられた。

 大地が使った果実が引き金となって、この戦いもより激しさを増す。黄金の果実に魅せられたお前達の誰が生き残り、誰が選ばれるのか。楽しみにしてるぜ」

 

 どこかの民族衣装のような出で立ちのサガラが光を満足そうに眺めていた。

 

 

 光によって齎されたのはそれだけに留まらない。

 街のあちこちに蔓延っていたヘルヘイムの植物。それらが一斉に動き出し、タワー上部のスカラーシステムをあっという間に侵食してしまったのだ。

 際限を知らず、覆い尽くしてもまだ止まらない侵食の圧力。

 全てのスカラーシステムが沈黙するのにさほど時間は要しなかった。

 

「ありえない……何故こうなる!? こんなことが! あっていいものか!!」

 

 冠がヘルヘイムの植物を操った。

 馬鹿げた話ではあるが、そうとしか説明がつかない。

 

 たった一瞬で全てを覆されてしまったドウマの驚愕と狂乱は計り知れない。

 仮に冠ではなく、ダークディケイドに変身されていたとしてもこうなることはなかったはず。

 己の理解を超えた事象を目の当たりにしてぐちゃぐちゃに掻き乱されるドウマの思考回路。

 

 されど正常な判断が下せるかどうかも怪しい状態であっても。

 存在そのものが擂り潰されそうになっていても。

 

 渇望してやまないそのベルトを見た瞬間、ドウマの意識は全てそちらへ向けられた。

 

 KAMEN RIDE DECADE

 

 戦極ドライバーからダークディケイドライバーへ。

 脱ぎ捨てた白銀の鎧に代わる漆黒の装甲。

 

「ダーク、ディケイド」

 

 迷い悩み、無様に心を折っていた者はもうどこにもいない。

 凛然としたその立ち姿は紛うことなき戦士のもの。

 かつてはドウマ自身がそうであり、今一度求める力。

 

「ネガタロスにも頼らないよ。僕はもう理由から逃げるのをやめたから」

 

 ドウマの企みを阻止した以上、ベルデで離脱することもできた。

 しかし変身が限られたこの状況において、敢えてダークディケイドを選択したこと。

 それは大地にとっての、“本気でドウマを倒す”という意思表示でもあった。

 

「決着だ、ドウマ。お前にはもう誰も傷つけさせやしない」

 

 その日大地は衝動任せでもなく、己の剣に己の意思で初めて純粋な()()を纏わせた。

 

 

 





黄金の果実についてはまた次回。
多分あと2、3話でバロン終わります。
続きもできれば今月中に……できるかなあ……。

大地くんのライダー、どれが好き?

  • メイジ
  • レイ
  • ネガ電王
  • ベルデ
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