仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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運命は誰の手に

 

 

 

 大地と別れてからというもの、クローズは苦難の連続であった。

 

 大量の黒影トルーパーに追いかけ回されて。

 入り組み過ぎて“ここは迷路なのでは”、と思えてしまうタワー内部を駆けずり回って。

 スカラーなんたらの喧しいアラームに耳を塞ぎながら目ぼしい場所を虱潰しにしていって。

 

 クローズはようやくレイキバットを探し当てた。

 

「起きろレイキバァー! 朝だぞぉー!」

 

 修理用のカプセルに入っていたレイキバット。外し方がわからずガタガタ揺らすクローズ。

 カプセルから伸びていたコードが数本抜けて、繋がっていたコンピューターの“修理経過率” と示された数字が“83%”で停止した。

 

「んぁ……クローズ──万丈か? お前、どうしてこんなところにいる。大地はどうした」

 

「迎えに来たんだよ。アイツの代わりにな。

 また迷っちまう前にとっととおさらばしようぜ。おら、行くぞ」

 

「ま、待て!」

 

 繋がっていた他のコードもまとめて引っこ抜こうとするクローズを、やや焦ったように制止するレイキバット。

 顔の半分を占める大きな瞳に、自身が繋がれていたコンピューターのモニターを映して暫し押し黙る。

 

「────構わん。行け!」

 

「おっしゃあ!」

 

 去り際に見えた、膨大な数の資料。

 レイキバットは機械特有の超速処理でその内容の一部を解読した。

 

「ここら辺の資料も持ってけ! 全部!」

 

「……」

 

「おい、さっさとやれ。何を呆けてやがる」

 

「いや、ペットが飼い主に似るってマジなんだなって。人使いが荒いとことか」

 

「誰がペットだ! 誰が!」

 

 龍我ではどう足掻いても理解できない、難しい言葉と数値が羅列されただけにしか見えない。

 だがレイキバットにはこれを持ち出すことが如何に重要か、この一瞬で悟ったのだ。

 

(ここに書かれていることが正しいなら、大地は────)

 

 

 

 *

 

 

 

 決戦の舞台となったユグドラシルタワーの屋上はそれなりに広い。

 植物に圧殺されるという摩訶不思議な現象により沈黙したスカラーシステムに囲まれて、さながら闘技場の様相を見せている。

 

 ダークディケイド対セイヴァー。幕を開けた因縁の対決はとてつもない激戦になるかと思われたのだが……。

 

「ハアッ!」

 

 ダークディケイドの重く、そして速いハイキック

 これぞ迷いを捨て去ったが故の威力。

 その一撃をセイヴァーはサイドステップであっさり回避した。

 

「まだまだっ!」

 

 ATTACK RIDE BLAST

 

 着地の勢いを殺しきらぬままに放つディケイドブラスト。

 そんな態勢で撃った照準などブレブレもいいところであったが、多重弾幕でカバーする。

 だがこれもセイヴァーは防ぎきった。

 

 防戦一方のセイヴァー。圧倒的優勢のダークディケイド。

 今の場面のみを切り取ればそう見えるかもしれない。

 しかし、少なくとも大地は自分が押していると全く思えなかった。

 

 ダークディケイドが仕掛ければ、セイヴァーが離れる。

 こちらの攻撃に対処こそすれど、これといった反撃もせずにただ逃げ回っているだけなのだ。

 これでは決戦というよりかは鬼ごっこ、と言った方がまだ適切かもしれない。

 

 さっきまでの脅威的な実力は見る影もなく、ダークディケイドが立ち止まってもセイヴァーは動こうともしない始末。

 戦闘が停止したお陰で、この不可解な動きの理由はなんなのかと考える余裕が生まれ、そして答えに至る。

 

「……狙いはスタミナ切れ?」

 

「まあそういうことだ。お前も知ってる通りダークディケイドは消耗が激しい。真面目に相手してやるより、そっちがくたばるのを待つ方がよっぽど省エネということだ。これなら使い勝手の悪い怪人を一々召喚するまでもない」

 

 それは実にドウマらしい姑息な戦法であった。

 

 大地とドウマならドウマの方がまず強い。

 しかし、ダークディケイドとセイヴァーならダークディケイドの方が圧倒的に強い。

 そしてこのスペック差を誰よりも理解しているのもドウマなのだ。

 

「どうした、まさかこの期に及んで卑怯だとは言うまいな?」

 

「……いや、言わないよ。僕がお前の立場でもきっと同じことをした」

 

 これまでドウマがしてきた所業を考えれば、それこそ今更である。

 実際、ダークディケイド対策としては最適解に近い。こうしている間にも大地の体力はじわじわと、ゆっくり削られている。

 限られた時間を惜しんで、ダークディケイドは勝負に出た。

 

 KAMEN RIDE CHASER

 

 シンゴウアックスを手に取り、DDチェイサーが駆ける。

 直撃すれば斧という武器のイメージを裏切らない威力を発揮してくれるだろうそれに、セイヴァーは一定距離を保つ。

 当たらなければどうということはない。紅の仮面がまるでそう言っているかのようだ。

 

(だから、強引に当てに行く!)

 

 ATTACK RIDE CHASER

 

 発動されるシグナルチェイサー。

 急加速した追跡者が紫銀の疾風となりて走る。

 体力と引き換えに得たこのスピードがあれば、セイヴァーとの距離などあってないようなもの。

 

「覚えておけ。そういう高速移動能力の類は対策されて然るべきだと」

 

 ブラッドオレンジチャージ! 

 

 真下に弓を引くセイヴァー。同心円状に広がる暗赤色の衝撃波がDDチェイサーの装甲で弾ける。

 火花を噴き出し、今にも吹っ飛びそうになる身体より一足先にシンゴウアックスが後方へ飛んで行ってしまった。

 踏ん張りきってなんとか耐えても武器を失ってしまっている。近接格闘が届く距離にもまだ届いていない。

 

 と思いきや。

 

「知ってたよ! 相手は元ダークディケイドなんだから!」

 

 高速移動が対処されることは予測していた。

 敢えて愚直に突っ込み、かつわざと隙を見せる。

 そうして油断させたところを懐に忍ばせていた本命で狙い撃つ。

 シンゴウアックスを手放したのも、大物で注意を引きつける理由があってのこと。

 

 ガン! 

 

 チェイサーのもう一つの専用武器、ブレイクガンナー。

 両者の間にあるのは近距離と中距離の狭間ほどの長さ。流石にこの距離で連射されれば回避はしきれまい。

 しかし、大地はまだ甘かった。

 

「いいや、わかっていないな。そんな見え透いた罠を元ダークディケイドが見抜けないとでも?」

 

 今まさに唸りを上げようとしたブレイクガンナーが、セイヴァーアローの正確な速射によって引き金を引く前に弾き飛ばされる。

 まるで銃を隠し持っていたことを把握していたかのような精密射撃。愕然としてしまうDDチェイサーであったが、驚くようなことでもない。

 わざわざ大振りなシンゴウアックスを構えた時点でドウマは全てを読みきっていたのだ。

 

「多彩な能力だけがダークディケイドの強さではない。それを支える変身者の知識と経験があってこその強さだ。どちらもお前には足りていない」

 

「足りないなら、これから積んでいくだけだ!」

 

「これから? 笑わせるな、お前が変身するのは今日で最後だ!」

 

 シンゴウアックスを拾いに戻ろうとした足先に一発、怯んだところへさらに放たれた一発がカメンライドを解除させる。

 DDチェイサーでの逆転はならず、状況は振り出しへ。

 

 セイヴァーの拘束と消耗の軽減。両方を叶えるライダーがビジョンとなって示される。

 

 KAMEN RIDE G3

 

 ダークディケイドが選んだのは、仮面ライダーG3。

 所持カードではワーストを争う低スペックのG3にカメンライドしたことで、ダークディケイドの体力の消費スピードがグッと下がる。

 だが、消耗が少ないということは即ちスペックが低いことの同義でもあり。

 

 ATTACK RIDE ANTARES

 

 セイヴァーへとワイヤーで放たれたフックは危なげなく躱される。

 ならばと鞭の如くワイヤーをしならせて、中距離攻撃に移行するが、これも当たらない。

 

「戦術が浅はか過ぎる。いや、戦術と呼ぶのもおこがましい。苦し紛れの攻撃だ」

 

 諦めず攻撃の手を緩めないDDG3に嘲笑を付すセイヴァー。

 回避に徹していた足を止め、自らフックに当たる。線香花火のような火花が散って、それで終わり。G3のスペックでは擦り傷にもなりやしない。

 

 DDG3は唯一にして最大の必殺技、GG-02を構えるが、これもセイヴァーアローの一矢に弾かれる。

 

「その省エネ装甲も剥がさせてもらおう」

 

 戦闘が長引くのを嫌ってか、セイヴァーがついに自ら攻めに出る。

 この戦闘が開幕してから初めての攻防交代。対応できるだけの武装はDDG3の手元にない。

 連射されるセイヴァーアローの尽くを自慢の防御力で乗り切り、がむしゃらにライドブッカーを撃ちまくる。その殆どの弾丸は機敏に動くセイヴァーには回避されるか、もしくは弾かれてしまった。

 

 ライドブッカーを剣に変え、剣戟に応じるDDG3。

 互いの剣がどんなに交差を重ねてもセイヴァーを斬れない。

 機敏に攻めるセイヴァーと見比べてしまえば、DDG3はどうしようもない鈍重さで、大地が思うように動くことさえままならないのだ。

 

 しかし斬り付けられる衝撃に血が流れれば流れるほど、大地の思考はクリアになっていく。

 

 落ち着け。これはチャンスだ。

 G3へのカメンライドが解除されれば敵はまた距離を離すだろう。

 

(あっちは二刀流。片方を防御に回す堅実さと、両方で一気に攻め立てる大胆さを絶妙に使い分けてる。

 僕の剣術で、ライドブッカーだけじゃ崩すのはほぼ無理と考えていい)

 

 右から来る弓刃を弾けば、左から来る剣に太腿を斬られる。

 素早く剣先を振り払って牽制すれば、軽く受け流されて胸を突かれる。

 

 G3が防御力に優れていようと限界はある。あと何度斬撃に耐えられるか。

 

「お前では俺に勝てない。結末の決まりきった戦いをすることに何の意味がある?」

 

「ぐっ……」

 

 腕のアーマーをぶつけるように剣を防ぐ。

 しかし至近距離で引かれた弓の接射は防げず、DDG3の左眼に大きく亀裂が走った。

 

「その力は俺自身が生きる為に必要なものだ! お前の下らない正義感なんかよりよっぽど有意義だろう。違うか?」

 

 セイヴァーの乱舞はより速く、より激しく。

 DDG3の胸部装甲の一部が欠けて、右肩のパーツがショートした後脱落した。

 

「……そうだ、違う!」

 

 敗色がどんなに色濃くなろうとも大地は諦めない。

 セイヴァーへの力強い拳と共に言葉を返す。

 一切の脅威にも感じていない、と言わんばかりに剣の軽い払いで拳は逸らされた。

 

「どうしても守りたい人がいる! 生きていて欲しい命がある! そんな尊い者のために、僕はこの力を使う! 

 誰かを傷付けて自分しか守れないお前には渡さない。渡しちゃいけないんだ!」

 

 反撃はそれだけでは終わらない。

 セイヴァーの斬り上げが迫る直前、DDG3は自身の足元を思い切り蹴っ飛ばす。

 衝撃で舞い上がったのは、先程脱落した右肩のパーツ。微かに散る火花が目眩しの役割も果たし、セイヴァーの顔面に直撃した。

 装甲の一部を武器として扱うという不意打ちまでは彼にも防げなかったのだ。

 

 ダメージなどまるで無く、生まれたのはただ一瞬の隙。

 その隙にDDG3はセイヴァーに組みつき、そして────。

 

 

 

 頭突きをぶちかますゼロノスの姿が脳内で再生された。

 

 

 

「ッツァアッ!」

 

 渾身の頭突きがセイヴァーの脳を揺らす。

 いよいよ亀裂が大きくなり、決壊を始めたG3のマスクを鬱陶しそうに投げ捨てるダークディケイド。

 装甲もパージされて、通常形態に戻ったことで身軽さを取り戻す。

 

 これまでの堅実な戦い方とは一変した泥臭い一撃に後ずさるセイヴァー。

 ダークディケイドが空中回転しながら銃を乱れ撃ち、その退路を断つようにして背後を取る。

 これまた大地らしからぬアクロバティックな動きであった。

 

「その動きは……!?」

 

「お前は僕より強い。それだけは認めるよ」

 

 セイヴァーの顔面を叩く旋風の三連回し蹴り。

 まるで風そのものとなったようなキックにセイヴァーは濁った悲鳴を吐く。

 追い討ち気味に放つ銃は連射ではなく、一発ごとに狙いを定めた射撃。

 

(無闇に連射しないで、一発一発を大切に)

 

 胸、肩、手と狙い撃たれたセイヴァーの箇所から炎が弾ける。

 その衝撃たるや、彼の手にあった弓を溢れ落とさせるほど。

 

 初めてダメージらしいダメージをもぎ取ったキックと精密射撃。これらもまたさっきまでの大地が持ち合わせていなかった技である。

 ゼロノス、マッハ、威吹鬼────記録してきたライダー達の技をダークディケイドのまま使ってみせたのだ。

 

「確かに強いけど……もっと強い人達を僕は沢山知ってる。そんな人達の隣でずっと戦って、記録してきた。

 楽しかった事も、辛かった事も、その記憶は僕の中にずっとあったんだ」

 

 共に戦って、隣で記録してきた生き様はどんな時でも大地の中で息づいている。

 無論、再現度そのものは本人達と雲泥の差だ。しかし、猿真似と切り捨てられるほど拙劣でもない。

 

 記録は、記憶は受け継がれてきたのだ。

 

「カメンライドを介さずに他のライダーの技を再現したとでも言うのか? そんな……そんなことがお前如きにできる訳がない!」

 

 ドウマは、それを認めない。

 

 ドウマは己の技を高めることはできても、大地のように他のライダーの技を吸収することはできなかった。

 限定的であっても自身を超えられた事実がドウマの怒りに火をつける。

 時に感情は力を高める原動力となり、怒りもまたそんな感情の一つ。

 最高潮に達したセイヴァーの剣技の速度に、ダークディケイドは死に物狂いで食らいついていく。

 

「怪人でも助けたいと思った人はいた。

 人間だけど、倒さなきゃいけなかった人もいた。

 相手が誰でも同じだったんだ。そんな簡単なことにも気付けなかったこと────それが僕の弱さ。

 この力を振るう相手をもう見失うことはしない!」

 

「振るう相手を選ぶ必要などあるものか!

 弱いから相手を選ぶ。強ければ迷うこともない。

 全てを捩伏せ、自らを最強まで高める。力とはその為にある!」

 

「そんな強さじゃ……何も救えないじゃないか!」

 

 ライドブッカーの刃先が大橙丸とセイヴァーアローに挟み込まれる。

 そうして止められた刃はセイヴァーが膝を打つことで、ポキリと小気味の良い音を立てて折れた。

 

「ととととっ!」

 

 剣が折れようと、闘志は折れない。

 かつてビーストがそうしたように、折れた剣先をフェンシングのように素早く払い、セイヴァーの二刀流を弾く。

 中々に見事な機転であったが、こんな鈍刀では切れるものも切れない。

 

 ライドブッカーはまだ銃として使える。しかし、ダークディケイドは折れた刃先の方を咄嗟に拾い上げた。

 

「オオオオオーッ!!」

 

 掌が切れるのも厭わず、握りしめた刃先を突き出すダークディケイド。

 セイヴァーは剣と弓を交差させ、刃先を防ごうとする。

 

 そして剣と弓を潜り抜けた刃先がセイヴァーのベルトへ突き立てられた。

 

「ぐおおおおっ!?」

 

「ァァァッ!!」

 

 激しいスパークがベルトから迸る。

 苦しみ、足掻き、暴れるセイヴァー。

 知性をかなぐり捨てて、二つの武器を手放してでもダークディケイドを遠ざけようとする。

 ダークディケイドはさらに刃を捩じ込もうとするも、我を失ったように抵抗するセイヴァーに吹っ飛ばされてしまった。

 

 セイヴァーのベルトから絶えず散る火花。

 暴れた際に吹っ飛び、転がっている大橙丸とセイヴァーアロー。

 スタミナこそ消費したものの、目立った傷を負っていないダークディケイド。

 

 大勢は決した。

 

「最後に一つ聞かせて欲しい」

 

 勝利宣言とも聞こえる大地の一言。

 セイヴァーの苛立ちがまた増した。

 

「お前の目的はダークディケイドライバーを手に入れること。今までの企みも全部そこに繋がっていた。

 でも、お前がやってきたことで一つだけはっきりしないことがある。

 瑠美さん──花崎瑠美さんをどうして攫った?」

 

 怪人を召喚し、襲わせる。これはわかる。

 だが、瑠美を元いた世界から拉致したこと。これだけがどうしても彼の目的と結び付かないのだ。

 人質として扱うならまだしも、彼女は一人放り出されていたという。

 世界を股にかけた誘拐なんて手間のかかる真似をした本当の目的とは、一体なんなのか。

 

 果たしてその答えとは────。

 

「何故、だ?」

 

「……え?」

 

「あの女を攫った理由が俺の中に無い……。

 何故俺はそんな真似を? 俺の行動を俺自身で説明できない?

 これではまるで────」

 

 心底不思議で仕方がない、とでも言いたげなセイヴァー。

 不敵に語ることもなければ、意味深に笑うでもなく。

 そのまさかの反応にダークディケイドも戸惑ってしまう。

 そして覚える既視感。

 

 自分の起こした行動を自分で説明できない。

 この戸惑いと困惑を目撃したのは決まってドウマが召喚した怪人絡みの時で。

 

「俺も────そんな、そんなことはありえない!」

 

 辿り着いてしまった残酷な結論をドウマは否定する。

 それを認めてしまうことは、彼自身の否定に繋がってしまうが故。

 

「俺は……俺は! 俺だぁぁぁ!!」

 

「ッ!」

 

 駆け出すセイヴァー。手を伸ばし、前のめりになって一心不乱に走る。

 ダークディケイドから力ずくでベルトを剥ぎ取るつもりなのか、あるいは別の方法があるのか。

 きっと今の彼にはもうダークディケイドライバーしか見えていない。

 ドウマが突然の豹変に至った理由も定かではないが、ダークディケイドはその姿に鬼気迫るものを感じた。

 

 躱そうとする直前、見つけたとある物体。

 先程放り投げられていたセイヴァーアロー。

 地を転がって、弓を拾いながら回避する。

 ダークディケイドは振り返り、なおも向かってくるセイヴァーに黒弓を引いた。

 

 シルバーチャージ! 

 

「ガハッ!?」

 

 突き進む矢の狙いは大地の経験上で最高と言っても良かった。

 セイヴァーの腹部を一閃した輝きはスパークに溶ける。

 

 この白い銀色の光のなんと美しいことか。

 

 しかし、その光を美しいと感じる余裕はセイヴァーには無かった。

 希薄になる自身の存在と、命の危機を感じたから。

 

 そしてダークディケイドは美しいと思うより先にこれからする自らの所業を想像していた。

 想像して、押し潰されそうになった。

 

(僕は、これから、人を、殺す)

 

 声にならない一言一句を噛み締めて、金色のカードを握る。

 “今ならまだ後戻りはできるぞ”と甘い囁きも内から響く。

 “これで本当に正しいのか? ”と省みる声も聞こえる。

 

 大地はその全てを飲み込んで、カードを叩き込んだ。

 

 FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE

 

 跳躍するダークディケイド。

 これから潜り抜ける黄金のゲートの彼方、フラついたセイヴァーが剣を拾い、ベルトを操作する。

 

 ザクロスパーキング! ブラッドオレンジスパーキング! 

 

 右脚に束ねられた黄金のビジョン──ディメンションキック。

 大橙丸から噴出し、カードのゲートを砕破させる焔の斬撃。

 

「ツァァアアアアアアアアアーッ!!」

 

「ヌァアアアアアアアアアアーッ!!」

 

 衝突する最強と最強。

 セイヴァーが放った必殺斬撃はディメンションキックと張り合うどころか、ダークディケイドを焼き尽くそうとする。

 セイヴァーの激情を燃料に黒い炎は勢いを増す。

 対する必殺キックはゲートを潰された所為で中途半端な威力に留まっていた。

 塗り潰されていく右脚の輝き。

 

「消炭になれぇぇぇッ!!」

 

「まだだぁぁぁ!!」

 

 焦がされつつあった足先に更なる輝きが集まる。

 従来の、いやそれ以上の威力を発揮した必殺キックが斬撃を押し返していく。

 

 生きたいと願う炎。

 生かしたいと願う光。

 

 感情の強さに差異はない。

 勝敗を決定付けたのは、きっと大地の心に咲いた瑠美の笑顔だ。

 

「がっ……!?」

 

 ディメンションキックがセイヴァーを蹴り貫く。

 ベルトから溢れるスパークはいよいよ臨界に達し、崩壊を始める。

 ワナワナと震える腕が、着地したダークディケイドの腹部を求めて、虚無を掴んだ。

 文字通り命を乞う仕草に胸がズキリと痛む。

 

「助けてくれ」

 

「……」

 

「俺は、まだ……死にたく、ない」

 

「みんなそうだよ。みんな、生きたかったんだ」

 

 セイヴァーが崩れ落ち、ダークディケイドの背後で起こる大爆発。

 これこそが元ダークディケイドが辿った旅の終着点。

 

 ……そして、大地が初めて人を殺した瞬間であった。

 

 

 

 *

 

 

 

 スカラーシステムの停止により、生き残っていた沢芽市民が皆殺しにされる事態は免れた。

 だが、それで万事解決とはならず。

 パーフェクトドラスを葬れる最後の手段を失ったユグドラシルは、それでもタワー防衛の為に徹底抗戦を余儀なくされていた。

 

 斬月・真とシグルド、残された戦力はこの二人だけ。

 ドラスの特性や実力を考慮すると、援軍は送らない方がいい。

 トルーパーでは犠牲者を徒に増やすのがオチ。ビークル部隊の火力は頼りになるが、敵の回復パーツを与えてはプラマイゼロだ。

 

 貴虎のこの見立ては間違っていなかったのだが、斬月とシグルドだけで妥当し得る相手かと問われればそれもノーと答える他ない。

 

 メロンエナジー! 

 チェリーエナジー! 

 

 息を合わせたダブルソニックボレー。

 上級インベスですらオーバーキルな合体技が炸裂しようとドラスは涼しい顔である。

 

『あーあ。おじちゃん達とアソぶのも飽きてキちゃっタなあ』

 

 ドラスは積極的に攻撃はせず、遊びのつもりで戦っていた。

 すぐに終わってしまってはつまらないから。

 相手の抵抗を楽しみにしているから。

 理由はそんなところである。

 

「余裕綽々ってか? 俺達も随分舐められたもんだ」

 

「今は耐えろ。奴の弱点を見つけるしか、俺たちに勝機はない!」

 

 ドラスのあらゆる箇所に矢を撃ち込みながら、斬月達はひたすら弱点を探し続ける。

 表皮に微かな焦げ跡を付けるだけの鬱陶しい攻撃しかできない相手にドラスは退屈で仕方ない様子だ。

 

 これ以上は遊びにもならない。もうひと思いに蒸発させてしまおうか。

 肩のレーザー発射口の狙いを定めるドラス。

 しかし、突如飛来した黄色の矢がそれを妨害した。

 

『?』

 

 襲撃者の正体を確かめようとして、さらに二発の矢が弾ける。

 どちらもレーザー発射口を狙ったもの。既に発射態勢に入っていた発射口は連続で叩き込まれたエネルギーと反応し、沈黙してしまった。

 武器のみを潰す正確な攻撃に初めて動揺を見せたドラス。

 そこへ薔薇の竜巻を伴った衝撃が鋼鉄の身体を吹っ飛ばした。

 

「騒ぎを聞きつけて来てみれば、やはり貴様の仕業だったか──ドラスッ!」

 

 ローズアタッカーを駆るバロン・レモンエナジーアームズ。

 ユグドラシルに属さない彼の参戦に驚嘆の声を上げる斬月に振り返りもせず、ソニックアローの連射を緩めない。

 尤もドラスとドウマへのリベンジを果たそうとしていた戒斗が結果的に斬月とシグルドを助けてしまっただけなのだが。

 

『なんだ、こノ前のお兄ちゃんか。今度はモッと楽しませてくれルのかな?』

 

「ほざけ。どうせあのドウマも近くにいるのだろう? 貴様らを倒すのはこの俺だ!」

 

 初戦では辛酸を舐める羽目になったが、わざわざ二の轍を踏む戒斗ではない。

 ゲネシスドライバーの装備に加え、今回はローズアタッカーで機動力を大幅に上げて挑んでいるのだ。

 

 たかがバイクと侮ることなかれ。

 ことバイクの扱いに関しては右に出る者はいない、と言い張れる戒斗の騎乗テクニックが最大限に発揮されているのだ。消化液だろうが尻尾だろうが簡単に当てられはしない。

 縦横無尽に駆け巡るマシンからの一方的な射撃はダメージこそ無いが、ドラスの苛立ちは刺激された。

 

「確かに貴様のボディは脅威だ。だが、それを操る精神は未熟。

 パターンさえ見極めれば攻略は容易い!」

 

 ドラスの身体スペックは圧倒的だ。その脅威的なまでの力を乱雑にぶつけるだけで勝ててしまうほどに。

 だが、そんな単調な攻撃は癖を生んでしまっていた。

 尻尾を伸ばす直前の微弱な仕草であったり、ロケットパンチを放つ前に必ず腕を挙げる動作であったり、と。

 黄金ジャガーと戦闘している最中であっても戒斗は抜け目なくドラスを観察しており、そういった癖を既に見抜いていたのだ。

 

 事前に何をするかわかっていれば回避できる確率はグッと上がる。

 だとしても当たれば致命打必至の攻撃をスレスレのところで躱し続ける、という行為を平然と行える戒斗もおかしいのだが、それはそれとして。

 

「次はその右腕を貰うぞ!」

 

 レモンエナジースカッシュ! 

 

 当たれば一発アウトの消化液をやはりスレスレで躱し、すれ違い様にバロンの斬撃がドラスの右腕を刻む。

 これも強力な必殺技には違いないのだが、切断には至らず。ドラス側の攻撃は一撃必殺クラスなのに、バロン側は必殺技でようやくダメージになるかという絶望的な火力差。

 それでも浅くはない裂傷にはなった。

 

 バロンは乱れ飛ぶ反撃を回避しつつ、ソニックアローの矢を右腕の傷へこれでもかと放つ。

 塵も積もれば山となる、という言葉があるように傷口は少しずつ広げられていく。

 

 マツボックリチャージ! 

 

 貫通力に重きを置いたソニックボレーに、ようやく右腕は貫かれた。

 弾け飛んでショートした右腕はもうロケットパンチとして使うことは叶うまい。

 

 残る武器は伸縮自在の尻尾、全てを溶かす左腕、超加速の脚。

 

 ここまでやってしまえば、斬月とシグルドにもバロンの戦法は理解できた。

 

「そうか……駆紋戒斗は奴の武器だけを狙って攻撃している。

 攻め手さえ潰せれば勝機はあるということか」

 

「おいおいもう忘れちまったのか?

 どんなに身体をぶっ壊そうが再生されちまえば元も子もねえだろ」

 

「だが、今はこれ以外に突破口は見つからん! 駆紋戒斗を援護するぞ!」

 

 新たに援護射撃も加わり、バロンが回避する分の負担が少しだけ減った。

 そして右腕と同じ要領で尻尾にレモンエナジースカッシュを炸裂させる。

 右腕と比べれば強度はそこまででも無かった故か、尻尾はあっさり切断された。

 

 そうして一撃必殺にも及ぶ攻撃の数々を阻止され、一方的に射られ続けることに嫌気が差したドラス。

 こうなってくるともう彼には楽しくない。

 

『オニごっこはもうイいや』

 

 ドラスの輪郭がブレて、加速する。

 歪んだ心の模倣が生み出したスピードはクロックアップにさえ追い付ける。時速245kmのバイクを追い越すことなどお茶の子さいさいなのだ。

 バイクの進路を遮る、得意顔のドラス。

 鋼の豪腕がローズアタッカーのフロント部を握り潰した。

 

 バイクが爆散し、宙に投げ出されたバロン。

 だがバロンはこの展開を予想しており、既に次の布石を打っていた。

 天と地がひっくり返った視点になりながら、踏ん張りのきかない空中でも弓矢を引いて牽制し、そして錠前を開く。

 

 ロックビークル──ダンデライナーがバロンを空へ運んだ。

 追ってドラスも浮遊するが、空に上がればもう超加速の脚は活かせない。

 

『こんなに僕を傷つけタのは凄イけど、こレで勝っタなんて思ってないよネ? 僕を一回倒せても、マた治せばいいんだもん』

 

「そういえばそうだったな。確かロックシードがエネルギー源だったか」

 

 ロックシードを吸収してエネルギーチャージの時間を省ける、というのもこのパーフェクトドラスの強みの一つ。

 ヘルヘイムなら言うまでもなく、侵食された世界ではそこら中に転がっている果実一つでほぼ全快できるのだから恐ろしい。

 が、今回ばかりはその特性が裏目に出る羽目となる。

 

「貴様の補給源となる果実……一体どこにあるんだろうな?」

 

『……ッ!?』

 

 

 そこら中に実っていた果実は、ドラスの攻撃で粗方焼き尽くされてしまった訳だが。

 

 

『お兄ちゃん、まサか、これを狙って走り回ってイたの』

 

「フン、今頃気付いたか。だがもう遅い!」

 

 いかにパーフェクトドラスが最強でも、動力源が無ければ鉄でできた木偶の坊と変わらない。

 そもそもの話、ドラスはスカラーシステムが発動した時点で今回の役目を終える筈であったのだ。その後はヘルヘイムでゆっくり補給を済ませば良かった。

 駆け巡るバイクを狙った攻撃で僅かに残っていた果実もほぼ消し飛ばされている。

 完璧の名を冠した自信と油断──ーが招いた────あるいは、戒斗が目論んだ通りにドラスは武器の大半と補給路を失ったのだ。

 

 しかし、ここまでハンデを背負ってもドラスはライダーよりまだ強い。

 左腕一本でもバロンや斬月、シグルドを捻り潰せてしまうだろう。

 その戦力差を理解していてなおここが最大の勝機であると見出したバロンはダンデライナーの舵を着る。向かう先は、もちろんドラス。

 

「そろそろ決着をつけるぞ、ドラスッ!!」

 

 レモンエナジースカッシュ! 

 

 極限まで搾り取ったエネルギーを刃に乗せて、バロンが飛ぶ。

 対し、ドラスは広範囲に消化液を振り撒く。さながら消化液で出来たシールドといったところか。

 そんな触れれば死ぬシールドにもバロンは怯まない。

 万全の状況ならまだしも、今のドラスができる選択はそう多くなく、対処と予測はそう難しくない。

 

 バロンの手元から飛び出した物体が自らシールドに突っ込み、無残にも溶かされる。

 だが、その分消化液の面に孔が生じた。

 

「チューリップビークルを盾にしたのか……!」

 

 貴重なロックビークルを使い捨てる奇想天外な発想。

 驚いてばかりもいられない、と斬月はすぐに弓を引く。

 チューリップホッパーの形に空いた孔、その先に存在するドラスの左腕。

 ここで狙いを外すようなら呉島の名が廃る。

 

 メロンエナジー! 

 

「これで、腕は獲った!」

 

 斬月のソニックボレーが撃ち貫いた左腕。

 その傷に重ねたレモンエナジースカッシュが最後の武器を破壊する。

 

 武器は無し、両腕まで捥がれたドラス。

 普通の怪人ならまずここで終わっている。

 その終わりが果てしなく遠いからこそのネオ生命体。

 事実上追い詰められたにも関わらず、ドラスがここから勝ちを捥ぎ取る手段などいくらでもある。

 

 ミシリッ、と嫌な音がした。

 

「がぁあッ!?」

 

『腕は獲ッタ! なんちゃって! ハハ、ハハハハ!』

 

 ドラスが繰り出したサマーソルトキック。

 これを防ぐべく、咄嗟に振り上げたバロンの右腕から鳴った音であった。

 骨の一本や二本、簡単に砕いてしまう凶悪な蹴り。腕に直撃させたのはドラスなりの意趣返しなのかもしれない。

 

 ありえない方向に曲がりかけた右腕はなんとも痛々しい。

 機械の腕とは違う、正真正銘生身の腕なのだ。

 言葉に表すのも生易しい痛みに現在進行形で襲われているこの腕、下手に動かせば一生不動になるのが自然とさえ思える。

 

 しかれども、バロンが腕を下げる理由にはならなかった。

 

「ぐぅっ……! これしきの痛みで……! 俺を仕留められると思うなぁ!!」

 

 続いて左腕を砕こうと迫る鋼のキック。

 バロンはそれにぶつけるように車体を捻り、同時にドライバーのレバーを押し込んだ。この動作でまた腕が悲鳴を上げたが、声として現れはしない。

 

 レモンエナジースカッシュ! 

 

 ドラスの蹴りによってダンデライナーがバラバラにされた時、バロンは上に跳んでいた。

 ドラス本体とダンデライナーの破片、その両方に斬撃を浴びせる。

 衝撃波は動力部にあたる部品を斬り刻み、爆発。巻き起こった爆風にドラスは少し目を逸らした。

 

 レモンエナジースパーキング! 

 

 こんな短時間で4度も必殺技を発動した過負荷により軋むゲネシスドライバー。

 高高度からの重力と爆風の推進力を味方に付けたバロンの左脚が爛々と燃える。

 必殺キック──キャバリエンドがドラスに深く突き刺さった。

 

『グアァァァァッ!!?』

 

「オオオオオオオオッッ!!」

 

 流星となったバロンのキックはまさしく絶大。

 あのパーフェクトドラスの頑強なボディが溶かされるほどの威力と高熱だ。抵抗もままならず、耳障りな叫びを上げるのが精一杯といった具合である。

 そこまでの威力を発揮するとなれば、バロンにもそれ相応の反動がのし掛かる。

 地上に衝突するまでにバロンが燃え尽きてもおかしくない。

 

 ドラスが滅ぶのが先か。

 それともバロンが滅ぶのが先か。

 

「これで終わりだ……セイィィィィィィッッ!!」

 

 衝突の衝撃が巨大なクレーターを生み出し、暴風を巻き起こす。

 斬月やシグルドも立っているのがやっと、という状態。

 そんなクレーターの中心部にて膝を突く影が一つ。

 

 勝ったのは────バロンだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 ドラスのボディは撃滅された。

 だが、メガヘクスのコアを取り込んだドラスなら、何かのパーツでまた新たなボディを生み出せる。

 

(まだだ、まだ終わりじゃない。奴は再生して恐らくまた現れる。だが、補給路は断った。弱体化していれば対処も容易のはず)

 

 奇跡的にもバロンの変身は未だに維持できていた。

 しかし、戒斗の戦意はあってもゲネシスドライバーはもう限界だろう。

 再生したドラスを確実に叩くためにも、ここは一度戦極ドライバーに変えるのが得策か。

 そんなことを考えながら油断なく周囲に注意を張り巡らせているバロン。

 

 

『やアお兄ちゃん。さっきのはすごかったね! ダークディケイドでもないノに僕を一回倒せるなんて! もっと遊んでみたくナっちゃった!』

 

 果実が無ければ補給はできない。補給をしなければドラスは著しく弱体化する。戒斗の戦略は間違いなく正しかった。

 

 たった一つの誤算を除けば。

 

 

 

『だからおじちゃんの錠前をもらウね!』

 

「シド!? 後ろだ!」

 

 それは、エネルギーが枯渇していようと、傷付いたライダーよりはパーフェクトドラスの方がまだ強いということ。

 

 再生したボディがシグルドの背後から接近、そして殴打。

 顔面をしこたま殴られて気絶したシドのドライバーからチェリーエナジーロックシードが奪いとられ、ドラスのボディに吸収される。

 

 この間、僅か数秒。

 

「シドが一瞬で……!?」

 

「チッ!」

 

 別に果実を取らずともいい。

 ライダーのロックシードだって立派なエネルギー源だ。

 これでパーフェクトドラスは完全回復を遂げる。

 

 それでも回復の直後ならあるいは、と万に一つの望みを乗せたソニックアローの矢はドラスの残像を虚しく射抜く。

 超加速を発動したのだとバロンが理解した時、飛蝗に似たおぞましい顔面が目前にまで来ていた。

 

『えいっ』

 

 叩き込まれた神速のパンチからは鈍痛のみならず、脱力感を伴う衝撃が迸る。

 瓦礫に背中を打ち付けるまで吹っ飛び続け、しかし血を吐く叫びを上げながらもバロンは立ち上がろうとした。

 だが、傷付き果てた身体は彼の意志に従ってはくれない。

 膝に手を置いて、尚も立ち上がろうとして、そしてバロンは────戒斗は気付いた。

 

 かつてゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシードだったものの残骸。

 血塗れになって生身を晒している己の腕。

 この身を包んでいたバロンの変身は既に解除されてしまっていたのだ。

 

『バナナのお兄ちゃんモすごく頑張ったよ! でモ、僕の強さには敵わなカっタね!』

 

 レーザーの光がドラスの肩に集まっていく。

 その気になれば即座に放てるのに、わざわざチャージ時間を設けているのも戒斗の恐怖を煽るためだろう。

 万物を焼き尽くす光が今にも解放されようとしているが、戒斗は目を背けない。戒斗は恐れない。

 

「強さだと……? 笑わせるな!

 強さとはそれに見合うだけの意志が伴ってこそ意味がある!

 貴様はただ与えられた玩具ではしゃいでるだけの子供だ! 

 そんな奴に俺は負けん!」

 

 戒斗は叫び、戦極ドライバーを腰に巻く。

 今更バナナアームズやマンゴーアームズになったところでドラスのレーザーの前では一瞬で消炭にされるだろうが。

 きっと彼は最後の一秒まで抗うことをやめたりはしない。

 

「世界を壊し、創り変える力!

 俺が信じてきた強さで掴み取るまでは! 俺は────!」

 

 斬月が必死に矢を放っているものの、そんな蚊の刺すような痛みでドラスは揺るがない。

 戒斗が避けようとするなら、即刻レーザーで撃ち抜かれるのも明白。

 

 

 駆紋戒斗はここで死ぬ。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 戒斗が絶体絶命の危機に直面している瞬間を、ダークディケイドは目撃していた。

 助けようと思っても、そんな自分が今いるのはドウマとの激闘を制したタワーの屋上。

 レーザーが放たれるまでの一瞬で、パーフェクトドラスを妨害できるだけのカードがダークディケイドにはない。

 

 またしても目の前で誰かを死なせてしまうのか。そんな歯痒い思いに駆られたダークディケイドの懐から強い輝きが放たれる。

 

 サガラから託されたもう一つのロックシード。手に持っただけで魂を震わせるような神秘性を宿す金色。

 ここと極めて近い世界で神を称した存在が所持していた錠前と酷似しているが、本質的に異なる物。

 故にこれを安易に手放せば恐ろしい事態になる予感があった。

 

「────駆紋さん! これを!!」

 

 大地が見てきた駆紋戒斗といえば、弱者を踏みにじる言動にナックルを惨殺したりと────正直物騒で、理解できるところなどこれっぽっちもない。

 だが、大地はあの幻想の中で垣間見た戒斗の強さを、舞を守ったバロンの強さを信じたかった。

 信じられない理由がいくつあっても、信じたい理由が一つだけでもあれば信じる。大地とはそういう男である。

 

 黄金の錠前はダークディケイドから離れ、戒斗の手に渡った。

 

「この錠前は……そうか、そういうことか!」

 

 土壇場で手に入れた力に、なんらかの確信を得た戒斗。

 そこへ放たれる、心臓を正確に狙ったレーザー。

 空気を焦がす死の臭いが目前に迫ったその時。

 

 まるで獰猛な獣のように、戒斗は笑みを零していた。

 

「駆紋さぁぁん!!」

 

 たっぷりチャージしたレーザーの威力はとてつもない爆炎と閃光を生んだ。

 光の渦に消えた戒斗を見て、ダークディケイドは思わず叫ぶ。

 まさか間に合わなかったのか。脳裏に最悪の結末が過ぎる。

 

『ハッ、ハッ、ハッ。いいウォーミングアップだっタよ!』

 

 嗤うドラス。呆然とする斬月。

 だが、その機械的な声がピタリと止んでしまった。

 それぞれの反応が共通の疑心に変わる。

 何かがおかしい。戒斗を飲み込んだ光がいつまで経っても消えないのだ。それどころか光は柱となってどんどん屹立していくではないか。

 

 荘厳なる黄金色の輝きはやがて人型に集約され──そして降臨する。

 あのドラスが矮小に見えてしまうほどの輝きが一本の剣に収められた。

 黄金に彩られた林檎の装甲は騎士を思わせるその姿は確かにバロンであるが、これまでと同じバロンではない。

 

 これまでのアームズチェンジとは根本からして異なる形態変化──言うなればバロンが到達した(きわみ)

 IFの歴史が産み落とした、黄金の果実に祝福された奇跡の証。

 何人にも屈服しない(Never Surrender)。その為の力。

 

 その黄金のバロンが放つ、とても同一人物とは思えぬ威光にドラスは問い掛ける。

 

『だぁれ?』

 

 だが、その答えは決まりきったもので。

 

 カモン! ゴールデンアームズ! Sword of Origin! 

 

「──バロンだ」

 

 掲げた剣の先に稲妻が落ち、刃が火花散らす。

 裂帛の気合が繰り出す斬撃はレーザー発射に移ろうとしていたドラスの上半身を著しく削る。

 あわや切断寸前、というところで斬撃はようやく止まったが、たった一撃でここまでされた驚愕たるや言葉を失うほど。

 理性をかなぐり捨てた雄叫びを響かせて駆けるドラスを見据えて、バロンは重々しく剣と盾を構える。

 

「来い。貴様がいかに弱いか……俺が教えてやろう!」

 

 





仮面ライダーバロン・ゴールデンアームズ

この世界におけるバロンの最強形態。
使用しているロックシードは金メッキではなく、本物の黄金の果実。この世界での極ロックシードと似て異なるもの。
気になる能力はまた次回で。

大地くんのライダー、どれが好き?

  • メイジ
  • レイ
  • ネガ電王
  • ベルデ
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