スカラーシステムに焼き払われてからというもの、沢芽市は絶えず炎と煙に包まれていた。
真夜中でも昼間のような明るさ……とまでは及ばないが、ライフラインの断たれた街で灯りの代わりとなっていたのは相違ない。
日常を奪った象徴とも呼ぶべき炎が生き残った人々を助けているとはまた皮肉な話である。
しかしながら、今宵の街の中心で爛々と燃え上がる炎には悲劇を思い出させるものとは違う。
巨大な網の上で豪快に焼き上がるは、これまた巨大で分厚い肉。
炭火が弾けるパチパチとした音に、溢れ出る肉汁が食欲を存分に刺激してくれる。
コンロを囲む飢えた者達が目をギラつかせ、喉を鳴らした。
この一夜に限り、街はガイド主催のバーベキュー会場に早変わりしていたのだ。
参加者は生き残っていた市民全員。ドライバー持ちかどうかも関係ない。
「──肉よし! 野菜よし! さあ、思う存分食ってくれ!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
一斉に伸びる箸が瞬く間に肉を狩る。
とんでもないペースの消費だが、これに負けないスピードでガイドが新たな肉を網上に投下していく。
コンロの設置から下拵えまで全て一人でこなしたというのに顔色一つ変えないガイドのなんと器用なことか。
「……いや、器用の一言では済まないよね。あれ」
「ガイドさんって基本一人でなんでも作れちゃいますもん。私もたまにお手伝いしてますけど、何年かかってもあの人みたいになれる気がしません」
焼肉で大盛り上がりの人々から少し離れた場所に腰掛けながら、ガイドの人間離れした手捌きに感心している大地と瑠美。
向こうから漂ってくる肉の焼ける良い匂いは大地の空きっ腹にはかなり暴力的であったが、あの飢えた群衆に混ざる気はあまり起きない。
空腹より疲労の方が大きいから────というのは表向きの理由。
ただなんとなく、瑠美との何でもない談笑が今の大地には何より魅力的に思えたから────というのが本当の理由である。
「しかも毎回僕達の好みとか体調まで考慮してるし……超人ってああいう人のことを言うんだなって。
僕ももっと料理習えば、ガイド並みは無理でも瑠美さんと同じくらい上手になれるかな」
「ふふっ、私もそれなりにお料理の腕には自信あるんですよ? この前の半生ちょい焦げパンケーキを作ってるようじゃまだまだですから……って言い過ぎました! ごめんなさい!」
「うぅ……瑠美さんにあんな不出来なもの食わせた僕なんて……」
「作ったことより食べさせたことに落ち込むんですか!?」
側から見ると普通の友人同士のような会話。
だが、こうした会話ですら久々なものだと大地も瑠美も口には出さずとも実感している。
「ナイトの世界」を去る直前辺りからずっと落ち込んでいた大地が、今はこうして自然に笑えていることに瑠美は安堵している。
(でも、まだちょっとだけ辛いことを抱えてるのかもしれません)
他者の感情に対して人一倍目敏い瑠美には大地が何か隠していることがわかってしまう。それが具体的に何なのか、まではわからないにしても。
辛いことは話して欲しい。そう思っても、割と抱え込みがちな大地は中々話してくれないだろう。
だから瑠美は無理に聞き出すよりも、時間をかけて理解していく道を選ぶ。
「私も教えますから、色々覚えていきましょう。まずはパンケーキのリベンジですね!」
「ご指導のほど、よろしくお願い致します。瑠美先生」
「もう、そういう呼び方は恥ずかしいですよ」
笑い合って、何度目かの乾杯でコチンとコップを鳴らす。
ちょっとイイ雰囲気の二人は巨大コンロの炎も相まって、まるでキャンプファイヤーを眺める初々しいカップルのようでもあった。
久方ぶりのご馳走に咽び泣く野郎の雄叫びすら入れない、二人の青春空間。
そんな雰囲気なぞ知ったことかと言わんばかりに、烏龍茶と山盛りの肉を持った龍我が割り込んできた。
「折角の肉だぞ! 肉! お前らも食えよ!」
「「うわっ!?」」
一瞬で消し飛ぶ青春の空気。
人間の色恋沙汰に疎いレイキバットやネガタロスもこれにはドン引きである。バイオグリーザですら無言で遠慮できそうなのに。
しかも本人には一切の悪気が無いので尚のことタチが悪く、ストッパーとなる相棒がいないのもまた致命的であった。
……とまあここでフォローしておくと、龍我も空気は読めるしデリカシーだってそこまで不足している訳でもない。
これはまだ大地達と出会って日が浅く、しかし今回の旅を経てそれなりの信頼を持った二人への龍我なりの歩み寄りのようなものであったのだ。
「ありがとうございます! わざわざ僕らの為に持ってきてくれたんですね!」
「さ、万丈さんも座ってください」
「おう!」
そして幸か不幸か、大地も瑠美も二人きりの時間が終わってもまるで気にしていない。
互いにちょっぴり意識することはあれど、恋愛には発展していない──そんな二人なのである。
龍我は持ってきた肉をポイポイと紙皿に取り分けて大地達に渡してくれる。少し冷めてしまっているものの、ガイドの焼いた肉はしっかり美味しい。
「お前らいっつもこんなメシ食ってんのかよ? 贅沢にも程があんだろ」
「流石にこんな豪華なご飯は僕達も初めてですって。美味しいのはいつものことですけど」
「俺の世界にもガイドがいればなぁー。毎日美味いメシ食い放題! 羨ましいぞチキショー!」
「そんな人を物みたいに言わなくても……それに元の世界に帰るまでは万丈さんも食べ放題ですから。明日のご飯のリクエストとか、してみます?」
「それじゃ駄目なんだよ! こんなメシに慣れちまったら帰りたくなくなっちまうだろ!」
「え、帰りたくないんですか!?」
「いや、帰りてえ」
「じゃあ……もうちょっと質素なご飯にしてもらうとか?」
「それも嫌だろー」
難しい話である。
「ならどうすればいいんだ」と大真面目に唸り出す大地に「いやいや冗談だから」とツッコミを入れる龍我。
そんなやりとりが面白くて、ぷふっと瑠美が吹き出した。
「ご飯がこんなに美味しく感じるのも、みんなで頑張ったからですよ。
大地君はこの街を守る為に頑張りました。
万丈さんも大地君とレイキバさんを助ける為に頑張りました。
あの人達だってそうです」
「それを言うなら、瑠美も、だろ」
ドライバー持ちと、そうでない市民は完全には和解していないが、こうして食事を共にしている。
もしかすると明日からまたいざこざや対立が起こることだってあるかもしれない。
しかし、瑠美がいなければこのバーベキューだって成立しなかったのだ。彼女がどう謙遜したとしてそれは揺るがない。
「私も変身して戦えれば良いんでしょうけど、無理なものは無理なので。
その分自分にできることをやろうと思っただけで、特別な事は何もしてません。
この街の人達が明日を生きていく為の、ちょっとしたお手伝い。それくらいです」
「自分にできること、かぁ……。
俺なんか世界を巡る旅だとかライダーを記録するって言われても実感湧かねえし、今でも全然ピンと来ねえし」
肉に専念していた箸を止めて、龍我が見つめる先にはいがみ合っていた市民達がいた。
昨日までの関係が嘘のように、身を寄せ合って食事を楽しんでいる。
「でも、アレが俺達が戦った結果だって言うんなら……悪くねえよな」
戦うことに見返りは求めていない。
だが敢えて言うならば、この光景こそが必死に戦ったことへの報酬なのかもしれない。
────ここで終わっていれば綺麗なピリオドを打てたのだが。
「そういえば絋汰さんと光実さんはどうしたんでしょう。二人とも無事でしょうか……」
ふと思い出したような瑠美の一言は、否が応にも大地を追憶させた。
*
それはアルティメットDを撃破した直後のこと。
駆けつけた防護服の集団──ユグドラシルの処理班があれよあれよという間に現場を封鎖してしまった。
気絶した光実もすぐに回収されてしまい、結局話すことも叶わず終い。
その際の扱いが丁重であったことや、森での待ち伏せなどの事実から、光実はユグドラシルと水面下での繋がりがあったのだろうというのがネガタロスの推測である。
多分合ってるんだろうな、と大地も思った。
(恨みとか怒りをぶつけたい訳じゃない。どうしてそんな真似をしたのか、そうする以外に無かったのか、事情を聞いてみたかっただけなのに)
流れで共闘はしたものの、研究者をぶちのめして脱走した大地達をユグドラシルが快く思う筈もない。
レイキバット、ネガタロスらの警告に尻を叩かれて大地と龍我はそそくさと立ち去った。
とりあえずは瑠美との合流。
そして炊き出しが行われていた場所を目指す二人は、シェルターから出てきたらしい絋汰と遭遇する。
「お、大地! 無事だったんだな!」
「絋汰? なんでこんなところにいんだよ、瑠美はどうした!?」
「瑠美さんに何かあったんですか!?」
「なんだって!? おい万丈、それは本当か!?」
三人ともが一斉に喋り出し、途端に会話が大渋滞してしまう。
それぞれの持ち合わせている情報が異なるので仕方ないとも言えるが、もしレイキバットかネガタロスがいなければ、落ち着いて情報交換するに至るには余計な時間がかかっていたに違いない。
「見知らぬ真っ赤なアーマードライダーに無理やり連れ去られて、気付いたらシェルターにいたんだ。しかもさっきまで気絶してたらしくて、何が何だかさっぱりで……。あ、でもソイツ完全に俺狙いだったから瑠美ちゃんは襲われてないぜ」
「そういうことかよ〜……ったく、余計な心配かけさせやがって。その誘拐してきたライダーも今度会ったらタダじゃおかねえ!」
「あの変態鎧武者は俺の顔を撃ちやがったんだ! それ相応の報いは受けさせてやらねえとなぁ! 次こそ決着付けてやれ、大地」
まずドウマで間違いない犯人に怒りを募らせる龍我とレイキバットになんと声をかけるべきか、大地は迷う。
もうそのライダーは倒した────いや、殺したのだ。自身の、この手で。
純粋な人間と言えるかは微妙なのだが、彼は自身を人間と言っていたし、大地もまた人間を殺したと認識している。
事実から、目は背けない。
「……そうですね」
けれども。
"自分が人を殺した"と告白することはできず。
曖昧に笑う返事しかできない大地を、レイキバットは「相変わらずの甘ちゃんだな」としか言わない。
人を殺める痛みには耐えられても、仲間から拒絶されるかもしれない可能性が恐ろしくて堪らなかった。
決意と信念に塗り固めた心の本質はどこまでも臆病のままだった。
臆病で、狡くて、浅ましくて、我ながら軽蔑してしまう。
「そうだ。まだお礼を言ってなかったな。
ありがとな大地。お前の光、俺にもばっちり見えてたぜ」
「光……あぁ、タワーの時の。でもなんでお礼なんて」
「あー……俺、ミッチみたいに頭良くねえから上手く言えねえんだけどさ。あの光を見てると、俺も頑張らなきゃ! って思えたんだ。どんな世界でも、どんな戦いでも諦めない大地を見習わなきゃって。
俺が大地に貰ったのは、そういう"希望"なんだ。
だから改めて言わせてくれ────みんなを守ってくれて、ありがとう」
自己嫌悪に陥りかけた大地は、絋汰のその言葉に僅かながら救われる。
ドウマの命を奪ったのが大地なら、この街を守ったのも大地。
喜びと達成感、罪悪感、嫌悪感、ごちゃ混ぜになっていた感情の蓋が溢れかけた。
「──ごっ」
「ご?」
「ごぢらごぞあびばとうごじゃいまず…………!」
「お、おいおい大丈夫かよ!? なんでそっちが泣くんだって!」
堰を切ったように泣き出す大地にみんな慌てるやら、笑うやらで。
「コイツはとんでもない泣き虫だから気にするな」とフォローになってるんだかなっていないんだかわからないレイキバットの言葉に、誰もが納得したように頷いて。
それでもガイドが呼びに来るまで、大地はずっと泣きっぱなしであった。
*
過去の追憶が一瞬で終わる。
大地はしっとり湿った感情をおくびにも出さず、瑠美に答えた。
「光実さんと葛葉さん、二人とも無事だったよ。大きな怪我もしてないみたい」
「そうですか……ほっとしました。お二人に何かあったら私どうしようかと。せめて最後に挨拶ぐらいはしておきたかったです」
「ええ、葛葉さんも残念がってました」
ここまでならちょっとしんみりした会話で終わる。
がしかし。
悪戯小僧の顔でニヤける龍我がいることも忘れてはならない。
「そりゃ勿体ないことしたと思うぜ。あの時瑠美もいれば面白いもん観れたのによぉ」
「面白いもの……あ! レイキバさんとネガさんの漫才とか!」
「そんなありふれたレベルじゃねえって! なんとこの大地が急に泣き出して、鼻水もそりゃもうダラッダラの酷え顔で──」
「わー! わー!」
この男、自分が馬鹿呼ばわりされるのは嫌いだが、他人を茶化すのは結構好きである。
まあこれも仲の良い男子高校生同士が会話の弾みで恥ずかしい秘密を暴露するという、本人にとってはよくあるノリに過ぎない。
しかし、当然大地には堪ったものではない。いくら大地でも異性に泣き顔を暴露されて喜ぶ筈もない。
慌てて龍我の口を塞ごうとして、しかし抵抗されるので咄嗟に明後日の方向を指差して注意を逸らす。
「あ! あんなところに赤と青の半分こ人造人間が!」
「うそぉ!? え、どこ!? ────っている訳ねえだろ! 誤魔化し方が雑過ぎんだよ!」
とかなんとか言っても一瞬引っかかっていたのは気の所為だろうか。
この一連のやり取りでまたしても瑠美が吹き出して、その笑いが大地、龍我へと伝染していく。
ちょっとしたことでも面白く思えて、自然と一緒に笑うことができる。
出会い方こそ特殊であったが、普通の友人同士となんら変わりない関係性がそこにはあった。
「くたばり損ねたらしいじゃねえか、ゴミコウモリ」
「それはこっちの台詞だ、目玉」
和気藹々とした雰囲気からは一変して、こちらはギスギスした関係の一羽と一人。
大地達から離れた机にて鎮座しているレイキバットとネガタロスの視線がバチバチと火花を散らす。片方は目そのものだが。
今回の旅を通して龍我と大地達が親密度を上げた一方で、こちらのペアは変わらず犬猿の仲である。
「おい、テメェのチンケな羽で持ってるその紙束はなんだ? 俺様にも見せろ」
レイキバットが見ているのは、ユグドラシルから持ち出してきた資料の一部。
記載されている内容といえば、戦極凌馬が大地に行った検査結果であった。
大地や龍我にはとても理解できない単語と数値が羅列された紙面には凌馬のコメントも書き加えられており、多角的な視点からの考察にはレイキバットとしても大変興味深い。しかし、覗き込もうとするネガタロスはしっかり全身でブロックする。
「誰がお前なんぞに見せるか。プライバシーの侵害ってもんを知らねえのか?」
「イマジンの世界にそんな概念あると思ったか?」
とかなんとか言ってみても、自律行動ができない眼魂がレイキバットの視界妨害を超えられる筈もなく。
黙々と資料を読み込むレイキバットを無言で睨み続けるシュールな空間が数分ほど続いた。
そして資料の半分ほどを読み終えたレイキバットがこんな話題を切り出してきた。
「さっき大地が吸収された時、お前も一緒にいたな。何か妙な事は無かったか? 例えば、大地が変身せずに奇妙な力を使ったりは?」
「例えば、なんて前置きする割にはいやに具体的だな……。はっ、さてはあの駆紋戒斗がアカライダーとかいうセンス皆無の野郎になった時の事を聞きてえんだろう? だが残念だったな。あんな窮屈な場所に囚われてただけで、
「……そうか」
しかし、これはネガタロスの真っ赤な嘘。
大地の叫びと共に突然飛び出したライダーカード。この不可思議な現象も、大地と精神越しに繋がりを持っているネガタロスはしっかり目撃していた。
何故嘘をついたのか、と問われればそこまで大きな理由は無い。
悪の大首領である自身に対して、小賢しくも隠し事をしてくる憎たらしいコウモリへの意趣返しのようなものである。
しかしまあ、嫌い合っているのはお互い様である。
そこまでの内面的事情までは推し量れていないまでも、ネガタロスの言葉は鵜呑みにせず、"恐らく何かしらの現象が起こっていたのだろう"という推測は崩さない。
(バロンからアカライダーへの変身……あれは土壇場で発現したフォームチェンジなんかじゃねえ。となれば引き起こした原因は何だ?
カードが関わっていた時点でダークディケイドライバーに隠された機能を疑うのが最も自然だが……俺の観測ではあの時カード以外の力もバロンに集まっていた。
それに……この資料に記載されているデータはやはり……)
レイキバットの視線が手元の資料と、みんなのドリンクのおかわりを取りに立ち上がった大地の姿を交互に行き来する。
この中身、共有すべきか否か。
(……確固たる証拠はまだない。余計な混乱を生むなんぞ華麗さに欠ける。この目玉に悪用されんとも限らん)
資料を咥え込んだレイキバットが写真館の方角に飛び去っていく。
これらを誰にも見られない場所に隠す必要がある。幸い、今なら写真館は無人状態だ。
持ち出す際に龍我も見てしまってはいるものの、あの土壇場では碌に内容は読めていまい。(彼の推定知能指数を考慮した上での結論なのは言うまでもない)
(だが……俺のことまでは黙っておけねえか)
それに持ち出した資料は大地に関する内容だけではない。
これもまた重要な情報であり、緊急性を要するのはむしろこっちの方だろう。
タワーを脱出する直前、自身が繋がれていたモニターの"修理経過率 83%"という表記をレイキバットはしっかり記録していた。
────レイキバットは完全には修復されていないのだ。
(戦極凌馬という男、かなり用心深い性格してやがる。
まさかエネルギー制御機構の修理を後回しにしていたとは……大地がレイに変身して脱出されるのを危惧していやがったな)
趣味と実益を兼ねてはいたが、それでも凌馬はしっかり仕事をこなしていた。
ドウマに負わされた損傷はほぼ回復し、内蔵機械も元通りになっている──ーレイが使用する魔皇力の制御機構を除いて。
たった一つの機構が無いからなんだと言うのだ、と疑問に思う者もいるかもしれないが、これがまさしくレイキバットにとって大問題なのだ。
魔皇力とはレイのエネルギー源であると同時に、その危険性の証明でもある。
内包している純度やエネルギー量こそ異なれど、再現対象であるキバの鎧だって世界を滅ぼす危険性は秘めているのだ。
仮に魔皇力が暴走でもしてしまえば、レイは木っ端微塵に吹っ飛んでしまうだろう。
そしてそんなレイのシステムを司るのはレイキバットであり。
ここまで列挙された事実を纏め、自身の内部を確認したレイキバットが下した結論は一つ。
(────次にレイに変身すれば、最低でも俺は壊れる。今度こそ完全に)
*
楽しい時間はあっという間に過ぎ去った。
飲んで食って騒いで、たくさん笑った後に待っていたのは後片付けの時間。
片付け担当となったのは「散々迷惑をかけたのだからせめてこれぐらいは」と名乗りを上げた大地。片付けを一人に任せることに瑠美はかなり渋っていたが、最後には土下座までしかねない勢いの大地に折れてもらい先に帰ってもらった。
……大地一人では勝手がわからないので結局ガイドと一緒にやっているのはご愛嬌である。
「炭はこっちのバケツに捨てて、余った食材はこっちの保冷ボックスに頼むよ」
「はーい」
調理のみならず、片付けでもガイドは手際が良い。
作業の大部分を受け持ちながらも、大地ができるだけの範囲の仕事も振り分けてくれている。
これがガイドなりの気遣いと優しさなのだろうと大地は察した。
察したが……わざわざ言葉には出さず、与えられた仕事を順にこなしていく。
ほどなくして後始末も終わり、二人は器材を抱えて帰路に着いた。
「その様子だとまあまあ吹っ切れたってところか?」
「……うん」
気軽に尋ねてくるガイドに、諦めたように頷く大地。
こういう時のガイドとの会話はよく心をほじくり返されたような感覚になってしまう。
「この世界でも色々あったが、バロンの記録は無事完了した。レイキバットは直ったし、ドウマも倒した。終わり良ければ全て良し! ……とまではいかないかな?」
「……やっぱりガイドはなんでもお見通し、ですか」
「ガイドってそういうもんだしな」
ドウマを殺した件について、仲間には黙っていた大地だったが、このガイドにだけは知られていてもおかしくはないとも思っていた。
実際これまでにも何度か明らかにその場に居合わせていたかのように大地達の状況を彼は把握していた。今回だけ例外になるなんて都合の良い話は期待していない。
「その、頼みがあります。このことは瑠美さん達には」
「わかってるわかってる。後ろめたいから黙ってて欲しいんだろ? お望みとあらばそうしようじゃないの。あ、その網は捨てちゃってね」
「……ありがとうございます。でも、いいんですか」
「んー?」
「ドウマが前のダークディケイドなんだったら、こんな風に一緒に旅をしていたんですよね? 僕らには敵だったけど、それでもガイドにとって仲間だったはずです。
僕が憎いとか、それとも悲しいとかガイドは思わないんですか?」
「んー……」
ガイドの視線が、少し下向きになる。
瓦礫だらけの道ではなく、自身の内面を探るかのように。
そんな仕草に大地はかなり驚いた。何故かと言えば、彼の人間らしい仕草がとても珍しく見えたのだから。
しかし、顔を上げた時にはいつもと変わらぬ飄々とした男に戻っていた。
「そういう湿っぽい感想はあんまりだなー。アイツ付き合い悪かったし。それにドウマはもう死んでたようなもんだから、今更悲しんでやるのもちょっと悪いと思うし」
「……はい?」
「いやいやこっちの話。それよりも今の俺は嬉しいって感想の方が強いよ。君や瑠美ちゃんとの旅がここで終わりになったりしたら俺としても残念だったからね」
ケラケラとガイドが笑う。
確かに今の彼から悲哀など感じられない。
大地が知る中では、唯一の知り合いであるガイドがこんな反応の時点でもうドウマの死を悼む者は誰もいない。
なんだかそれが大地には悲しかった。例え許せぬ敵であろうが。
それから写真館に帰るまで、ひたすらガイドのうんちく話が続いた。
「タラバガニは生物学上ではカニじゃない」とか。
「コアラの赤ん坊は母親の糞を食べる」とか。
「スワローテイルファンガイアの真名は"禁欲家と左足だけの靴下"」とか。
生き物の話尽くしだったが、どれも面白く、長い帰り道に退屈はしなかった。
そんなこともあって、皆が寝静まった写真館に帰ってきた時大地は"ただいま"を言おうとして盛大に欠伸をしてしまう。時刻は深夜0時きっかりだった。
「はいお疲れさん。大地もさっさと寝て、また明日に備えてくれ」
「むにゃ……でもまだコンロとか仕舞わないと」
「そっちは俺がやっとくからさ。ほら、それに明日からまた大変なんだぞ」
そう言ったガイドの人差し指が示すのは、暗闇でも存在感抜群の背景ロール。
よーく目を凝らしてみると、描かれている絵は既に変わっている。
そこに描かれているのは闇夜にそびえ立つ巨大な風車と、そちらに背を向ける深紅の戦士。
「次の世界……」
「そういうこった。さ、寝ろ寝ろ」
ガイドが促す理由もわかるが、自分で片付けを買った出たからには最後までやり通しておきたい。
しかし自身の家に帰ってきたと認識して安心してしまったのか、凄まじい睡魔が現在進行形で大地の足をベッドへと誘ってくるのだ。この誘惑はパーフェクトドラスより手強い。
また、明日から始まるであろう新たなる戦いの予感まで重なってはとうとう抗えきれず、大地は引き込まれるようにして自室に戻っていく。
「じゃあお言葉に甘えて……おやすみなさい」
「おうおやすみ。良い夢見ろよ」
確かにこの世界では悪夢ばっか見てたな、と思ったのが眠る直前の最後の思考であった。
*
「これで終わりっと」
最後のコンロが倉庫に仕舞われた。
巨大コンロを一人で片付けたにも関わらずガイドには全く疲れた様子がない。
なんなら汗の一雫もないおでこをそれっぽく拭い、とりあえず一服と煙草を取り出したところで「そういえば」と独り言を呟き始めた。
「君もお疲れさん、ドウマ」
この場にはもうガイド以外誰もいない。
あるのは、ガイドが掲げている焼け焦げた道具だけ。
ドウマが怪人召喚に使用されていた、カードを読み込ませる機械である。
そしてもう一つ、ガイドは一枚のカードを取り出した。
「KAMEN RIDE SAVIOR」と書かれたカードを。
「まさか最後の最後まで気付けなかったとは、ちょっと意外だったよ。つくづく便利だねぇ、
ムネモシュネ。
それはギリシャ神話における記憶を司る女神の名であり、とある科学者が開発し、それに因んで名付けた装置である。
その機能とは、使用者に都合良く相手の記憶を書き換え、望んだ通りの人間へと仕立て上げるというとんでもないもの。仮面ライダーだろうが怪人だろうが例外なくムネモシュネには抗えない。
何故そんな装置の名前をガイドが出すのか?
その答えこそ、ドウマが最後の瞬間に導き出してしまった自身の正体に繋がっていた。
「この機械──『メモリードライバー』は記憶を元にして怪人を召喚する。記録から再現された怪人はオリジナルと瓜二つだ……
改造人間、グロンギ、オルフェノク……どの怪人もあまりに再現度が高く、その際で自分が召喚された幻でしかないと知ることさえできない。
だが、逆にその機能を知っていたのであれば召喚された直後に気付くことはできるだろう。
もし仮にドウマが同じ手段で召喚されたとしたら、即座に見抜き、召喚者に反旗を翻すのは間違いない。
しかし、それも記憶が正常であるという前提が成り立ってこそのもの。
そう、つまりドウマは。
ムネモシュネによって"ダークディケイドライバーを奪えば生き返れる"と偽の記憶を植え付けられ。
"自身がガイドに召喚された"という記憶は消され。
"ダークディケイドに立ちはだかる壁役"として都合良く用意されたでしか無かったのだ。
「流石、かつて俺が見込んだ男だよ。君のお陰で大地はレイやネガ電王まで記録できた。しかも彼の精神的成長の土台にまでなってくれるなんて。その最後には夜中じゃなければ拍手を贈りたい気分だよ」
メモリードライバーは既に機能を停止しており、もう起動はできない。
さして惜しむこともなくゴミ袋に入れられたそれは他のゴミと混ざって見えなくなった。
後に残ったセイヴァーとカイジンライドカードも懐にしまって、ふぅーと煙草を吸うガイド。
妖しく漂う煙と、喫煙する音が無人のリビングでしばし続いた。
メモリードライバー
ドウマが使っていたカイジンライド用の機械。
腕に装着してカードを読み込ませ、怪人を召喚!(DX玩具CM風に)
ドウマはこれで怪人を召喚していたが、彼もまたその怪人と同じ存在だったことには最後まで気付かなかった。
ドウマが使用していたものは壊れてしまっており現在使用不可。
ムネモシュネ
「仮面ライダー バトライド・ウォー」より登場。
鳥籠と呼ばれる空間に仮面ライダーを閉じ込め、彼らの記憶を好き放題に弄って洗脳しようとしていた。
さらには対象者の記憶からアイテム、他のライダー、怪人まで複製できるトンデモ発明。
これを開発、運用していたのがほぼ一人だってんだから凄い。
さて次回からはまたしても衝撃展開の連続。振り切られないようにご注意下さい。
大地くんのライダー、どれが好き?
-
メイジ
-
レイ
-
ネガ電王
-
ベルデ