仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

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長らくお待たせして申し訳ありません……




怪物……W/ウィズ・ハードボイルド

 

 

 深夜の風都。肌の感覚を奪う冷風が吹く街。

 年中風が止まない街の象徴として相応しい風都タワーの膝下で、海鳴りをBGMとして二つの影が対峙している。

 

 怒りの形相を仮面に押し込む怪物──アクセル・ドーパントに、比較的人間に近いシルエットの怪人。体色も黒一色と、シンプルに過ぎる外見はアクセル・ドーパントと並べば些か見劣りしてしまう。

 しかし、外見から得られる印象のみで相手の実力や危険性を断じる愚行を犯すことなく、両者は静かに睨み合っていた。

 

 先に動いたのは、黒いドーパント。

 

 左へ右へユラユラと不規則な動きを繰り返し、アクセル・ドーパントへ迫る。

 腰を落として構えるアクセル・ドーパントは自身の大剣──エンジンブレードへ銀のメモリを装填した。トリガーを引き、内包された地球の記憶が刃を研ぎ澄ます。

 

 ENGENE! JET! 

 

 赤熱の刃より高速で放たれる斬撃の嵐が黒いドーパントへ殺到する。

 不規則な動きにも惑わされない、アクセル・ドーパントの正確無比な狙いは見事に敵ドーパント貫いたかに思えた、のだが。

 

 どんなにジェットが貫いても、火花や血飛沫を散らせることなく、身体の輪郭がブレるのみ。黒いモヤのような気体がその周囲に漂っている。

 その手応えの無さから己が与えたダメージが皆無であることを悟るアクセル・ドーパント。面倒な、と舌打ちを漏らしながらも相手の能力に算段を付け、冷静に対処法を模索する。

 

「無理だよ〜刑事さん。そんなの時間の無駄無駄」

 

「貴様の三文芝居を聞かされるよりマシな時間だ。その減らず口もすぐに閉じさせてやる」

 

 STEAM! 

 

 エンジンブレードを纏うは、超高熱の蒸気。

 凄まじい熱量に周囲の空気は赤く染まり、シュゥゥと唸りを上げる。

 その光景を前にして僅かにたじろぐ黒いドーパント。表情こそ窺い知れないが、仕草に焦りを隠し切れていない。

 今度は確実に当てる、と駆け出したアクセル・ドーパント。

 

 掲げた刃を振り下ろさんとしたその時、また別の黒い影が両者の間に落ちた。

 

「さぁ────何ッ!?」

 

 ATTACK RIDE SLASH

 

 振り下ろされたエンジンブレードと衝突する多重の斬撃。

 大気を揺るがす衝撃が広がり、その中心部にいたアクセル・ドーパントもまた吹っ飛ばされる。重量感のある音を鳴らして転がるボディを即座に起こしたが、敵のドーパントも乱入者も既に忽然と姿を消していた。

 どんなに見渡せど、暗く荒れ模様の海が広がるばかり。

 

 まんまと逃げられた、ということである。

 

「────ッ!」

 

 アクセル・ドーパントは噴き出す激情のままに大剣をコンクリートに突き刺し、ドライバーからメモリを抜く。

 苛立ちを含んだ息を脱力感と共に吐き、照井竜は禍々しい赤き装甲を解いた。

 先程まで敵がいた箇所を睨み、回顧する。邪魔をした乱入者の見覚えのある姿を、聞き覚えのある電子音声を。

 

 そう、あれはまさしく────。

 

 

 *

 

 

 

 大地が写真館を飛び出して、はや数日が過ぎた。

 瑠美と龍我は照井竜ことアクセル・ドーパントやラジオで聴いた「ブラックマン」の情報を求めて風都のあちこちを練り歩いていたが、得られた情報といえば「怪物を狩る赤い怪人」「怪物に襲われていたところを助けてくれた黒い怪人」という噂話程度。

 風都タワーのてっぺんから、薄暗い裏通りまで探ってみたが、特に有益な情報は得られていない。

 照井竜と直接コンタクトをとることを試みたのだが、風都署まで行っても門前払いを食らって終わった。

 

 そしてそんな日々の中でレイキバットが何をしていたかというと────

 

 

「今日もいい風が吹きやがる……」

 

 

 わかりやすく黄昏ていた。

 この風都という街は年がら年中風が吹いているが、自身がいるこの「風吹岬」という場所は格別に良い風が通っている。

 大地が写真館を出てからというもの、何かに誘われるかのようにここに辿り着き一日の大半を過ごしていた。

 なにをすることもなく、ただただ思考に耽るだけの一日である。

 

 打ちつける荒波を見下ろす岬の先に羽を下ろし、自身の存在意義について自問自答を繰り返すばかり。

 瑠美達に付いて情報収集と護衛に徹するべきとは理解しているのだが、それでもレイキバットが向かう先はいつもここになってしまうのだ。

 

「我ながら呆れちまうな……これじゃ大地のウジウジを笑えねえ。この俺がまるで人間みたいによ」

 

「悩むのは人間だからか? 俺はそうは思わん。悩み迷えるのは魂を持つからだ」

 

 突然頭上から降りかかる渋い声。

 白い帽子に白いスーツ、全身白づくめの壮年の男。

 これでも人目に付かぬよう崖側に隠れていたのだが、彼はレイキバットがそこにいることを最初から見抜いていたかのようである。

 孤独な雰囲気を纏うこの男は一体何者なのか。

 

「魂だと? 機械のこの俺に?」

 

「バケモノが跋扈するこの街じゃ、魂がある機械なんざそこまで不思議じゃない。

 だが、お前さんも男なら覚えておくことだ。男の仕事の8割は決断、後はオマケみたいなもんだ。そして悩みは決断を鈍らせる、とな」

 

「決断……フッ、覚えておいてやるよ。それで、お前は何者だ?」

 

「俺は鳴海 荘吉。この街を愛するしがない私立探偵だ」

 

 探偵を称するその男、荘吉は懐から出したカメラに青いメモリをセットした。

 

 BAT

 

 カメラが変形した飛行メカ──奇しくもレイキバットと同じ蝙蝠型のバットショットがまるで挨拶でもするようにレイキバットの周囲を飛び回る。

 荘吉がメモリを持っていたことも驚きだが、ガイアメモリとはこのような使い道もあるのか。

 

「ソイツは俺の幼馴染が最近作った道具だ。てっきりソイツのお仲間かと思ったんだが、お前さんはどうやら違うらしい。さりとて変わり種のドーパントにも見えん」

 

「ホォー、探偵ってのは口先だけじゃないらしいな。俺はレイキバット。お前の見立て通り、ドーパントでもメモリでも動く玩具でもねぇ」

 

 探偵なる者は大地達が偶に観賞している映画などで見たことがあったが、実際に目にするのはこれが初めてである。

 しかし、この鳴海荘吉という男と話していて感じる華麗さと激しさは、これまでレイキバットが見てきたどの人物より強い。あるいは照井から感じたそれすら超えるかもしれない。

 この男ともっと話してみたい、とそう思った時には既に彼の目線に合わせた位置に飛び立っていた。

 

「荘吉、お前は探偵で、しかもメモリの事情にも明るいと見た。

 どうだ? 俺の依頼を受けてみる気はないか?」

 

「依頼、ときたか……話してみろ」

 

「赤い鬼の一本角のドーパント、アクセルのメモリを使う男について俺と調査してもらう。あの男の人となり、戦いぶり、そして戦う理由をな。

 俺が認めた男の旅路には、奴の情報がどうしても必要になる。俺だけじゃ……ソイツは手に入らねえ」

 

 今も龍我と二人で地道に調査している瑠美には申し訳ないが、この探偵との行動は活路を開ける。確固たる根拠はないものの、そんな漠然とした予感がレイキバットにはあった。

 そして、自分の中にある迷い──戦力外通告を言い渡された自分の在り方についても答えが出せるのかもしれない、とも。

 

「……照井 竜 警視。異例の昇進をした若手のエリートか。仕事柄、何度か顔を合わせる機会はあったが……。その依頼、受けよう」

 

「アクセルの正体を知っているなら話は早え。しかしいいのか? お前から見て、俺は相当不審に見えるだろうが」

 

「依頼人は大抵訳アリだ。俺からの条件は一つ……調査のやり方は俺に流儀に合わせてもらう。それさえ呑めるんなら、俺から言うことは何もない」

 

「大いに結構! それなら行こうか、華麗に激しく!」

 

 白い探偵に白い蝙蝠、異色の──否、同色のコンビがここに誕生した。

 

 

 *

 

 

 荘吉はどこかへ電話をかけると、手短に何かを告げる。

 誰への電話かと問えば、「今から行く場所で会える」と返された。

 

 要らぬ騒ぎを起こさぬように超低空飛行のレイキバットが着いたのは、普通の図書館。

 そこで待ち受けていたのは、にんまりと笑う、荘吉より少し若く見える男であった。

 

「やぁ荘吉。毎度のことながら、君からの頼み事はいつも唐突だね。もっと前もって連絡してくれって僕いつも言ってるのに。

 だいたいね、前の依頼を終えてまだ一日と経っていないじゃないか。偶には休暇をとって、大阪の娘さんと奥さんに会いに行ったら? 大晦日だって依頼で帰ってないんだろう?」

 

「マツ、お前は最高の相棒だ。だが、俺の家族のことは口にするな。

 亜樹子がどこで聞き耳を立てているかわかったもんじゃない」

 

「ハハ、風都きっての名探偵もこわ〜い娘さんには形無しだ!」

 

 一本取ったぞ、と得意げに笑うマツと、渋い顔付きの荘吉。

 レイキバットには一匹狼のように見えていたこの男も、相棒や家族がいる。

 そう思った途端、大地や瑠美達と共に談笑する自分達の光景が彼ら二人と重なった。

 しかし、ここに来たのは和気藹々とする為ではない。レイキバットは荘吉の足元から強めに先を促した。

 

「おい、さっさと本題に入れ」

 

「わかってるって……え、今誰か喋った?」

 

「さてな、幽霊の声でも聞いたんじゃないか? それで、資料はできてるな」

 

「モチのロンさ! 君の連絡を受けてから急ピッチでね。あ、出来映えについては安心して。いつも通りの……傑作だから」

 

 小気味良く指を鳴らしたマツはタブレットを取り出し、複数の人物写真とその関係性を示す画面を見せた。

 

 照井竜、風都警察署の警視。

 ガイアメモリ犯罪を専門に取り扱う超常犯罪捜査課の設立に貢献し、同課のトップとして現在活躍中。

 父親の照井雄治も優秀な警察官であったが、母親の真由美、妹の春子と共に一年前にドーパントに殺害されており、犯人は依然不明。

 その後様々なメモリ犯罪を検挙していくが、多くの事件関係者が消息不明もしくは死亡している────。

 

「彼、かなりのエリートだけど周りからの評判はあんまりよろしくない。犯人逮捕の為なら後はお構いなしと言わんばかりに違法スレスレの捜査を繰り返すのは序の口、しかも事件関係者が軒並み消えていれば……」

 

「昔ながらの鬼刑事、とも違うか。それで資料はこれだけか?」

 

「まさか。もう一つ耳寄りな情報を仕入れてるよ」

 

 タブレットの画面が新たに示すのは、今朝の新聞記事。その一面を飾る「謎の奇病!? 風都を震撼させる公害か!?」という見出し。

 

「なんでも最近妙な症状で救急搬送される例が増えてるらしい。皮膚は異常なまでに黒ずみ、呼吸器はボロボロで全員意識不明。新興感染症の疑いもあるけど、未だ原因は不明。

 巷じゃバイオテロとか、毒ガス事件とか、噂は色々だけど、この街じゃ真っ先に疑われる原因は……わかるよね?」

 

「新手のドーパント……」

 

 タブレットの画面に食い入る荘吉の答えにマツは満足げに頷く。

 

「被害者の中には道端で突然倒れる人もいたんだけど、その近くで人型の煙が相次いで目撃されてる。警察もメモリ犯罪の面から洗い出そうとしてるみたい」

 

 ここまで説明されて、レイキバットにも合点がいった。

 恐らく、照井が今この毒ガス事件とやらを追っている。単に彼個人のみを調べるのではなく、ドーパント事件に挑む刑事としての彼を記録する──そこまでの事情は明かしていないにせよ、マツという男はこちらの希望通りの調査をしてくれたということだ。

 

「ご苦労マツ。また何かあれば連絡する」

 

「ご苦労。いい働きだったぜ」

 

「はいはい……あれ? また別の声? 耳鼻科で診てもらった方がいいかな……」

 

 不審に思われようと、礼くらいは言ってもいいだろう。

 

 

 *

 

 

 毒ガス事件、それを追う照井竜の追跡調査。

 手掛かりが決して多くない状況下での調査など、レイキバットには慣れたものである。

 しかし、ここに至ってその認識を改めざるを得ないと、荘吉と行動を共にして強く痛感した。

 

 意識不明で入院している者の関係者からの聞き取りから始まり。

 事件当日の時系列に沿った行動把握。

 現場周辺での目撃情報集め。

 先に見たガジェットを駆使した多角的な調査。

 

 情報の取捨選択と次にするべき行動決定の迅速さ、そして直感にレイキバットは舌を巻くばかりである。

 見立て通り、いやそれ以上の有能っぷりをこの探偵は見せつけてくれたのだ。

 今後の世界でも探偵を雇うべきか? とまで考えて、ここまで有能な男がそういる筈もないと諦めた。

 ならばせめてこの貴重な経験から少しでも自らの糧にするべきだろう。

 

「事件現場はどれもバラバラ。被害者の間にも関係性や共通項はない。だが、現場には例外なく黒い跡が残されていた。

 倒れた被害者から一直線に伸びる影跡……これは事件当日の現場での風向きと一致していた。恐らくこれが毒ガスの微粒子だろう」

 

「風に煽られて飛ばされてるというのか? ならもっと大規模な事件になっているだろうが」

 

「しかしそうはなっていない。このガスの毒性はドーパントからある程度コントロールされている」

 

 現場から現場へ、足を運ぶ度に考察を積み重ねていき。

 

 荘吉とレイキバットは今朝の新聞記事に載っていた被害者の発見現場──未だ警察の現場検証が続く場所へ辿り着いた。

 KEEP OUTのテープによる境界線の向こうは数十人の捜査員が忙しなく動き回り、とても入れる雰囲気はない。

 野次馬に混じって遠巻きに眺めるしかないと思いきや、なんと刑事の一人が荘吉の姿を認めた途端に笑顔で招き入れた。荘吉もまたこともなげにKEEP OUTのテープを潜り、招き入れた刑事に会釈する。他の捜査員達も荘吉の顔は認知しているらしく、その行為を咎める者もいない。

 

「いやー、鳴海の旦那。こんなところで偶然……てな訳ではないですよね」

 

「どうも、刃野刑事。お察しの通り、野暮用で。それで、何か進展は?」

 

「いやはや全くのお手上げですよ。被害者(ガイシャ)はみんな昏睡状態。精密検査でも原因は特定できず。こりゃドーパント絡みと見てまず間違いないでしょうなぁ。旦那の方で、何か発見はありましたかね?」

 

「こっちも足を動かし始めたばかりでなんとも」

 

 刃野、と呼ばれた刑事は荘吉と顔見知りどころかそれなりに勝手知ったる仲のようで、口調ほど畏まった様子はない。

 他の捜査員の反応といい、部外者である荘吉が邪険に扱われないのも彼の能力か、それとも人徳によるものか。

 

 レイキバットは彼らの会話を足元で聴きながら、捜査員の中に照井の姿がないことを確認する。この事件も言ってしまえば仮面ライダーアクセルを記録する為の足掛かりでしかなく、そこに繋がらないのならあまり意味はない。人助けに熱意を燃やす大地や瑠美ならそれでも事件解決に奔走するのだろうが……。

 

「……気付いているか」

 

「あ?」

 

 刃野との会話を切り上げた荘吉が小声で、しかしはっきりとレイキバットに聞こえるように声を掛ける。

 小さいジェスチャーで彼が指し示す先には、捜査現場を物珍しそうに眺める野次馬の群れ。

 あれがなんなんだ、と再度荘吉を見上げれば、眉を潜めてしゃがみ込む。スーツの汚れを拭う仕草を装い、レイキバットに口を寄せた。

 

「最前列にいる野球帽を目深に被った男だ。さっきからずっと捜査員を観察している。それも一人一人じっくりと、丁寧に」

 

 テープに張り付くように、それでいて身を乗り出すまではせず、ただボーッとしているようにも見える野球帽の男。

 確かに言われてみれば、その視線は常に捜査員達に釘付けになっているとわかる。

 

「……確かに妙だが、わざわざ怪しむには理由が足りなくないか? 好奇心に駆られて眺めている、と言われたらそれまでだろう」

 

「理由なら足りてるさ。アイツの帽子は似合わねぇ」

 

「あぁん? 何言ってやがる」

 

「男の目元の冷たさと優しさを隠すのが帽子の役割だ。だが……奴が目元を隠しているのは違う。あのドロドロに濁った目と顔を隠す為のものだ。仕事柄、ああいう目の奴は嫌になるほど見てきたが、メモリに手を出すのはそんな輩ばかりでな。

 ────ま、端的に言えば探偵の勘だ」

 

「ここまで来ておいて勘任せか? だが……それがお前の流儀なら言うことはねぇ。名探偵のお手並み拝見といこうか」

 

 ひとしきり観察をした後、男は現場から去って行く。

 アイコンタクトを交わし、男を追う荘吉とレイキバット。

 男はこちらの尾行に気付く様子はなく、故に追いつくのは簡単であった。

 荘吉に声を掛けられた男は、ぼんやりとした雰囲気を纏って振り返り、こちらを警戒もしていない。

 

「ちょいと失礼。少し話を聞かせてもらいたい」

 

「え? ……あぁ、あなたはさっき現場にいましたね。刑事さん──には見えませんが」

 

「その通り、俺は探偵だ。そういうアンタは何故さっきの現場に? 野次馬にしちゃ、現場そのものにまるで興味を示さず、ひたすら捜査員だけを観ていたようだったが」

 

「へぇ、流石は探偵さん。よく人を観ているんですね……僕もね、人間観察はよくするんですけど、まだまだ勉強が足りないらしい。

 探偵……探偵かぁ。うん、いい勉強になりそうだ」

 

 こちら側の質問には答えず、うんうんと頷くばかりの男。

 その仕草に嫌なものを感じた荘吉が微かに身構えた途端、男は気味の悪い笑顔をニンマリと浮かべた。

 

「今のは僕にもわかりましたよ! 探偵さん、僕を警戒してますよね? いい、そういうのすごくいいですよ探偵さん! 僅かな動きで心情を演出するって、中々できることじゃない!」

 

 ついさっきまでとは別人のような変わりようである。

 それこそ、これまでの世界で見てきた怪人達にも引けを取らない狂気を曝け出してきたような。

 故に、男が徐ろに紫のメモリとドライバーを取り出すのも、殆ど驚きはなかった。

 

 隠れていた足元から飛び出し、メモリを狙って氷結弾を放つレイキバット。

 それとほぼ同時に荘吉も男のドライバーを叩き落とすべく、鋭い蹴りを放つが────。

 

「おっと危ない!」

 

「なっ……」

 

 男はレイキバットと荘吉、それぞれの攻撃をギリギリで回避して素早いバックステップで距離を取る。

 人は見かけによらないと言うが、それにしても並外れた反射神経である。この至近距離であれば自身か荘吉、どちらかの攻撃で男のメモリ使用を妨げられると踏んでいたが、読みが甘かったと言う他ない。せめて龍我と合流していれば、と己の判断の甘さを呪うレイキバット。

 

「今のはヒヤッとしましたね。ボクサーの人から勉強していて正解でした。それでは改めて、しっかり学ばさせてください!」

 

 SMOG

 

 気色悪い満面の笑みが黒一色に塗り潰されていく。

 そうして男が変じたのは全身真っ黒の人型怪人──スモッグ・ドーパント。

 これまでの言動やスモッグというワードからも、このドーパントこそが一連の事件の犯人であると見て違いあるまい。

 

「これでも喰らえってんだ!」

 

 SPIDER

 STAG

 

 レイキバットが氷結弾を連射する横で、荘吉の腕時計型ガジェットと携帯電話型ガジェットが敵へ突撃する。

 それぞれスパイダーショック、スタッグフォンと呼ばれるガジェット達はドーパントに対しても牽制にはなる道具であるのだが、果たして期待された効果は得られない。レイキバットの氷結弾、スタッグフォンの突撃、スパイダーショックの糸による拘束、いずれもスモッグ・ドーパントの身体をするりと透過してしまったのである。

 

「へぇ〜、まるで探偵七つ道具みたいですね。でもオレには効かないんですよ。ヘヘッ、不死身なんで」

 

「ならコイツはどうかな?」

 

 BAT

 

 続けて荘吉が放ったバットショットもスモッグ・ドーパントへ突撃────と見せかけて、眼前にて激しくフラッシュを焚いた。

 これには堪らんと慌てて腕を振るうドーパントであったが、視界を潰されてはまともに当てることも叶わない。 

 

 視線が交差し、頷き合って逃走を開始するレイキバットと荘吉。

 スモッグ・ドーパントもすぐに我を取り戻し、後を追いかけてくる。

 優れた身のこなしがあるとはいえ、荘吉は所詮ただの人間。土地勘を活かし、狭い裏路地や曲がり角を利用して撒こうとしたのだが、超人たるドーパントには早々に追いつかれてしまう。

 前方は行き止まり、背後にはドーパント。完全な袋小路に追い込まれてしまったのだ。

 

「油断も隙もないなぁ。ますます気に入ったよ探偵さん」

 

「……荘吉、ここを切り抜ける秘策はあるか? 変身できるメモリは?」

 

「これまで身一つでなんとかしてきたもんでな。怪物になる小箱なんざ必要としてこなかった」

 

「よく生きてたもんだ……」

 

 本当の本当に最後の手段があるにはある。

 荘吉をレイに変身させれば、この敵を退けることも可能ではあるだろう。

 しかし、魔皇力の制御が不安定な今のレイキバットでは良くて自壊、最悪荘吉ごと木っ端微塵。これで危機を切り抜けたなどと言えるものか。さらに言えば、例え自分が本調子であってもただの人間である荘吉がレイに変身すればやはり無事では済むはずもないが。

 

「……どうやらコイツの狙いは俺一人らしい。俺が惹きつけている内にお前さんはその翼で逃げな」

 

「何を言ってやがる! この俺だけおめおめ逃げ帰れって言うのか!? ただの人間に守られるほど落ちぶれちゃいねえぞ!」

 

「自分を頼ってきてくれた依頼人は命懸けで守り抜く。それが探偵ってもんさ。お前が何者であろうと、俺の依頼人だということに変わりはない」

 

「カッコつけやがって……!」

 

 嗚呼、またしても自分は役に立たぬのか。

 大地や万丈であれば、敵を撃退できた。

 ネガタロスであれば、荘吉に憑依して危機を切り抜けることもできたかもしれない。

 

 囮となるべく駆け出す荘吉の背中を呼び止める言葉を見つけられぬまま、歯噛みするレイキバット。

 華麗さも、激しさもない自身への苛立ちと鬱憤、積もりに積もった怒りが小さな身体を震わせる。

 屈辱に塗れたままに羽ばたこうとして────ふと、かつて見た光景が脳裏を過った。

 

 大地と初めて出会った場所、最初の戦いで大地の窮地に駆けつけた名護啓介。

 変身を封じられた絶望的状況下で、それでも喰らい付く彼の姿を。

 そして自身と出会う直前、ハンミョウ獣人に生身で立ち向かった大地の姿を。

 

(チッ、俺としたことがどうかしちまってたぜ。変身がさせられない? 関係ねぇ、いつだって俺はこの身体でやり合ってきた!)

 

 自らを奮起し、羽ばたきかけた身を翻す。

 レイキバットは荘吉を飛び越し、スモッグ・ドーパントへ氷結弾を連射する。

 何か呼びかけてきたような気がしたが、いちいち振り返る真似はしない。

 狙うは顔面一点。精度を絞った氷結弾はやはり貫通し、ダメージには至らない。それでもレイキバットは突撃を止めない。

 

「ウオオオオ!!」

 

 武器は氷結弾だけにあらず。

 絶対零度の息吹を吹きかけて、敵を凍結させる。それが叶わずとも、動きを阻害するぐらいはできるかもしれないという希望的観測の元に放たれた息吹。

 しかし意外や意外、レイキバットの息吹を吹きかけられたスモッグ・ドーパントは凍結こそしなかったが、明らかに悶えていた。

 

 まるで身体を掻き毟るかのような動きで苦しむスモッグ・ドーパント。

 予想外の効果に困惑しながら、絶えず冷気を吐き続けるレイキバット。

 何故効果があるのか、考察の余地はあるものの今は後回しにする他ない。

 

「ぐっ……邪魔しないでもらえるかな!」

 

「ヌァッ!?」

 

 だが、レイキバットの奮闘もドーパントが振るった腕一本に叩き払われて終わってしまう。

 吹っ飛ばされたレイキバットはあわや壁に激突、というところで荘吉にキャッチされて事なきを得た。

 それなりの痛手は負わせられたが、状況は変わらず。荘吉の手の中でレイキバットは自嘲気味に笑った。

 

「結局このザマか……目玉野郎に笑われても文句言えねぇ」

 

「笑わせやしないさ。誰にもな」

 

 荘吉の目はまだ死んでいない。打開の道を冷静に模索している。

 そんな彼を嘲笑うように身体を震わせ、歩み寄るスモッグ・ドーパント。

 

 万事休す────かに思われた、まさにその時。

 

 

「待ちな、小悪党。今時親父狩りなんて流行らねえっての」

 

 

 スモッグ・ドーパントの背後に一人の青年が立つ。

 芝居がかかった風にハネのある茶髪を撫で上げ、不敵に笑う青年にレイキバットのみならず、ドーパントでさえも首を傾げた。

 ただ荘吉だけはその人物を知っているらしく、その顔をさらに渋くして溜息をついていたが。

 

「なんなのキミ? サインなら後にしてもらいたいなぁ」

 

「バケモンのサインなんてこっちから願い下げだ。待ってな()()()()()()()! こんな奴すぐにとっちめてやっから!」

 

「あの馬鹿野郎……まだ懲りてねえのか」

 

 恐らく助けに来たであろう彼はやはり荘吉の知り合いらしい。喜ぶどころか、妙に呆れた様子なのが気がかりだが。

 そんな荘吉の溜息にも気付かず、あるいは気付いていてもスルーした青年は見せつけるように黒いドライバーとメモリを掲げる。

 まさかとは思ったが、この男もメモリを所持していた。

 

「へぇ、キミもドーパントなんだ! でもオレに何の用?」

 

「ドーパント? 違うな。俺はそんなバケモノ共と同じにすんじゃねえよ。その耳かっぽじって聞きな、この俺こそが風都を守る万人────」

 

 JOKER! 

 

 切札の記憶を起動させる音声が響き度り、青年の身体が漆黒のボディに包まれていく。

 全身を黒く染めたその異形はどこかスモッグ・ドーパントにも似ていたが、大きな違いとして真っ赤な複眼が燃えていた。

 

「人呼んで、ブラックマン!」

 

 ビシッとポーズをキメる黒い怪人────ブラックマン、又の名をジョーカー・ドーパント。

 当初から探していた都市伝説の一つが拳を固め、スモッグ・ドーパントへ向けて意気揚々と駆け出した。

 

 

 *

 

 

 そのすぐ付近にある屋根の上にて。

 

 レイキバット達を見下ろしていた一つのシルエット。風の街に相応しく、銀のマフラーが首元からはためき、右腕には緑の疾風を纏わせている。

 

「────」

 

 ボソボソと、誰かに語りかけるように呟く。

 眼下の異形達を順に見つめるは、その真っ赤な複眼。

 ジョーカー・ドーパントとスモッグ・ドーパント、最後にレイキバットを見つめると、右腕を軽く払って疾風を掻き消した。

 

「……」

 

 やがてその全身はより大きな疾風に抱かれ、遥か上空へ消えていった。

 






約1年ぶりの更新でした。読者の皆様には改めてお詫び申し上げます。

次回更新は未定ですが、なるべく早めにします!
感想、評価はいつでもお待ちしております。

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