アクセルの世界
風都警察署の照井警視がアクセル・ドーパントとなって戦う世界。
鳴海荘吉がスカルになっておらず、左翔太郎も弟子入りしていない。
この世界のドーパントはそれぞれのメモリ専用のドライバーを用いて変身しており、それはアクセルも同じである。
黒vs黒、勃発したドーパント同士の対決。
先手と打ったのは、ジョーカー・ドーパントであった。
切札の記憶によって著しく強化された身体能力、それを発揮した拳がスモッグ・ドーパントの顔面を捉える。
「ゥオラァ! ……あれっ?」
スカッと。
ジョーカー・ドーパントのパンチは顔面を貫通し、その手応えの無さに拍子抜けしたような声を上げる。
スモッグ・ドーパントは欠伸のジェスチャーなんてする始末で、これはどう見ても無傷だろう。
「な、なんだコイツの身体!? 空気殴ってるみてぇだ」
「無駄だって〜。遊びたいならどっか他所行ってな、しっしっ」
「んだとぉ!」
頭に血を上がらせたジョーカー・ドーパントが激しい拳のラッシュを繰り出すも、スモッグ・ドーパントは慌てる素振りさえ見せない。
時折ハイキックなど織り交ぜたりしてはいるが、案の定効果無し。あれでは無駄に体力を消耗し続ける一方だ。
あんな自信満々に登場しておいて、まるで攻撃が通じていないブラックマンにはレイキバットも盛大に溜息を吐いた。隣の荘吉も苦々しい表情を隠そうともしていない。
「知り合いらしいが、どういう関係だ? 探偵の用心棒か、それとも子分? あまり良い関係には見えんが」
「……奴は左翔太郎。街の番人を気取る、ただの未熟な小僧だ。メモリは危険だと言うこっちの忠告も聞く耳持たずで、いつも無鉄砲に飛び込んできやがる。若さ故の、って言葉にも限度があるのをアイツは知らんのさ」
荘吉の探偵としての能力はレイキバットも認めるところであり、そんな彼の人間評もまた信頼に値する。
ジョーカー・ドーパントの動きは実に無駄が多く、すぐに冷静さを失う精神面などを垣間見れば未熟な小僧という呼び方は実にピッタリであった。彼がスモッグ・ドーパントを撃退できるとも考え難い。
「もういいかなぁ〜? オレが用があるのは探偵さんなんだけど」
「いいわけねえだろ! 鳴海のおっさんはめっっっっちゃムカつくけど! テメェみてえなバケモノよか百倍マシなんだよ!」
声を張り上げて放たれるアッパーも、言うまでもなく効いていない。
このままではいけないとようやく理解したのか、ジョーカー・ドーパントは一旦距離を取る。
手早くドライバーを操作し、電子音声が高らかに鳴り響いた。
JOKER! MAXIMUM DRIVE!
爆発的に高まったエネルギーが集中した右足から、紫電が弾ける。
跳躍から突き出されるのは、オーソドックスなフォームの飛び蹴り。
扱う者が者なら"ライダーキック"と呼称されるであろう必殺技が、のんびり見上げていたスモッグ・ドーパントの胸部に到達する。
「だから効かな────ぐあああああッッ!?」
一瞬の沈黙を経てから派手に吹っ飛ぶスモッグ・ドーパント。
着地したジョーカー・ドーパントはその様を見届け、此方に向き直る。
腰に手を当ててやや気怠げに構えているのは、まさか決めポーズのつもりなのだろうか。
「決まったな……さぁて、後は警察に突き出してっと」
「何も決まっちゃいねぇ! 相手をよく見てみろ!」
「あぁん?」
荘吉にドヤされに不機嫌そうな反応を返しているが、ムクリと起き上がったスモッグ・ドーパントを認めた途端に驚愕に染まる。
「折角だしヤラレ役の練習もしてみたよ〜。どう? ビックリしたかな?」
「お、俺のマキシマムを喰らってるのにピンピンしてやがる……!? 手加減し過ぎたか!?」
「いや、そもそも喰らってないよ。お芝居だよお芝居。あ、もしかしてドラマとかあんまり見ないタイプ?」
「"風の左平次"なら……って、だー! んなことどうだっていいだろ!」
吹っ飛ぶ姿が少し不自然に見えたのでもしやとは思ったが、真相は敵におちょくられていた、と。
威力だけはそれなりにありそうだったが、言ってしまえばただの強いキック如きが効くならこれまでの攻撃にも多少はダメージがあってもおかしくない。故にレイキバットと荘吉にはこの結果に驚きなど殆ど無かった。
されど収穫がゼロということでもない。
ジョーカー・ドーパントが奮闘している間、冷静に敵を観察することができた。
これまでの情報と照らし合わせれば、スモッグ・ドーパントの特性は簡単に見破れる。
「奴は毒ガスを出すドーパントではない。奴自身が毒ガスになれるんだ」
「なるほど納得だな、ガスならそりゃあ殴りようがない。翔太郎とやらも格闘主体、他に隠している切札でもない限りは詰みだな。
……チッ、ぬか喜びするところだったぜ」
もう出来ることは無いと本人もわかっている筈。にも関わらず、ジョーカー・ドーパントは再度突撃、空を切るだけの拳を振るっている。
スモッグ・ドーパントの方も多少鬱陶しくは感じていそうだが、無視して最初の標的である荘吉へ近づいていく。
翔太郎が駆け付ける直前とまるで同じ状況。
違いは、もう助けなど来ないこと。
と、思われたのだが。
「待たせたなレイキバァッ!!」
蒼炎が凄まじい勢いでスモッグ・ドーパントの目前に落ちる。
飛び散る破片と砂塵に視界を塞がれれば、例えダメージはなくとも足を止めはする。
そうして降臨した蒼き龍戦士は、レイキバットの予想に違わぬ姿形の仮面ライダーであった。
「クローズ、万丈か……!? なんでこんなところにいやがる。瑠美はどうした!」
「瑠美なら置いて来ちまった。 俺は見覚えある野郎を追いかけてたら見失って、そんで今度は近くにレイキバがいたんだよ。なぁ、ところで
「歯車ァ?」
「そうそう、赤いヤツだ。俺が知ってるのは青い方なんだけどよ」
「いや、見ても聞いてもいないが……」
「ならいい!」
なにやら事情がありそうだが、とにかく今度こそ待ち望んだ助けが来た。
頭の出来はさておき、クローズの実力と能力の豊富さであればスモッグ・ドーパントの撃退も可能かもしれない。
怯んでいたスモッグ・ドーパントに殴りかかるジョーカー・ドーパントを見据え、クローズがビートクローザーを構える。
先手必勝。一撃必殺。同時撃破。
ドラゴンボトルと最も相性が良いキーボトルを装填しようとしていたクローズは、まさにそんな考えであるのだろう。
なので、レイキバットは素早く寄ってクローズの顔面に冷気を吹き掛けた。
「待て待て待て! 敵は片方だけだからな。眼が赤くて馬鹿っぽい方は味方だからな? いいな?」
「いやいやいや! それ言う為だけに雪かけたのかよ!? 霜焼けになるだろ! ったく!」
気を取り直して、今度こそぶちかます。
などと考えていそうだったので、キーボトルをはたき落とすレイキバットであった。
「そのボトルじゃ無理だ。奴はガス状の……気体の身体、ただ強い攻撃を放っても当たりゃあしねえ。
そこでだ……お前、吸い込めるボトルを持っているな?」
「お前なぁ……あぁ、コレか。よくわかんねーけど、やってやるよ!」
二度も出鼻を挫かれて勢いは多少削がれていたものの。
キーボトルに代わってクローズが装填するは、掃除機ボトル。
以前、オーディンの羽を吸い込んだような吸引力がビートクローザーの周囲に発生した。
普通の人間なら少しふらつく程度の吸引力でも、ガスの身体ならばどうか。
「なんですこれ……!?」
「ウオオオオッ!! スイコミ斬りィ!」
まるで綿飴のように巻き取られる、ガス状の身体。
剣の周囲を回転するガスは徐々に速さを増していき、暴風と呼ぶに等しい勢いにまで膨れ上がった。
吸い込まれる前に洩らした困惑の呟きは、やがて悲鳴に変わり。
思い切り振り下ろされた剣からガスの塊が放り投げられた。存分にかけられた遠心力に脳を揺さぶられ、地面にぐったりと倒れるスモッグ・ドーパント。
殴ろうとしていた相手が突然吸い込まれる、なんて現象に驚くのはジョーカー・ドーパントである。
「な、なんだお前? ドラゴンのドーパントか?」
「俺はドーパントなんかじゃねえ。仮面ライダークローズだ!」
「仮面……ライダー? なんだそりゃ、暴走族かなんかか?」
なんじゃそりゃ、と言わんばかりのジョーカー・ドーパントを見るに、この世界では「仮面ライダー」の呼び名は無いのだろうとレイキバットは確信する。
多くのライダーを見て、戦ってきた大地は照井竜を、アクセル・ドーパントを仮面ライダーではないと判断していた。
仮面ライダーと呼ばれる者、呼ばれない者。
その基準は未だ不明。仮に大地がこの場にいたとして、あのジョーカー・ドーパントを「仮面ライダージョーカー」と呼ぶのかどうかも。
それがわかった時、アクセル・ドーパントと仮面ライダーアクセルを繋ぐものもはっきりするのか否か────まあ、これは後でいい。
「万丈! さっさとトドメをくれてやれッ!」
「おうよ! ……ってなんでレイキバが指図するんだ!」
言い争いはしても、反目まではしない。
オレンジのフルボトルをシャカシャカ振って、内部に眠るタカの成分を活性化させる。
ボトルをビートクローザーへ装填、グリップエンドを三度引き最高潮に高まるエネルギー。
メガスラッシュ!
スモッグ・ドーパントは未だ立ち上がれず、まず回避はできない。
巨大なオレンジの翼を幻視させる斬撃を今まさに放たん、としたところでクローズを遮るジョーカー・ドーパント。
クローズが剣を振り切る寸前で腕ごと剣を押さえられた結果、メガスラッシュは不発となる。
「何すんだよ! アイツに逃げられちまうだろ!?」
「だからって、
「は……?」
クローズの剣先が落ちる。
"ドーパントを撃破すれば、変身していた人間も命を落とす"──言われた事実を脳内で処理するのに、クローズはしばし時間を要した。
彼の世界におけるドーパント、つまり怪人であるスマッシュは主体的にせよ受動的にせよネビュラガスを投与された人間である。
とある例外を除いて、スマッシュは倒されれば人間に戻っていた。
同じようにドーパントもまた倒せば人間に戻るものだと、思い込むのも無理はない。
(不味いな……こうなると大地と万丈は戦いにくくなる)
"恐れていたことが起こったか"と顔を顰めるのはレイキバット。
ドーパントを撃破すれば、変身していた人間も死ぬ可能性は前々から考慮していた。
正直な話、大地達ほど人間を守る気がないレイキバットにとっては、怪人に変貌して牙を剥いてきた人間を殺めることにそこまで抵抗はない。
しかし、今まで自らの意志で人間を殺そうとはしてこなかった彼らのスタンスは理解している。面倒な、と思いはしても逆らいはしない。
(こうなったら死なないギリギリまで痛め付けてやってから、無理矢理メモリを奪って無力化するしかねえ……一難去ってまた一難とはこのことか)
「ッ! 気を付けろ!」
しばらく静観していた荘吉が警告を飛ばす。
スモッグ・ドーパントが立ち直り、クローズをじっと見つめているのだ。
剣を押さえていたジョーカー・ドーパントと共に慌てて向き直るクローズであったが、スモッグ・ドーパントは構え一つ取らない。ひたすらに、ただ見つめるだけ。
その行動の真意を確かめる前に、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
明らかにこちらに近付いてくるその足音に、全員の視線が集まる。
それは剣を片手に構え、疾走する黒い装甲の戦士。
思わず二度見して、その姿が見間違いでないことを確認してしまう。
ここ数日音信不通だった男が、突然現れればそんな反応をしてしまうのも当然のこと。
「大地ッ!?」
彼はレイキバットとクローズがよく知る人物────仮面ライダーダークディケイドなのだから。
*
同時刻、龍我に置いて行かれてしまった瑠美はというと──。
「はぁ……そろそろ私にもバイクが欲しいです……免許ないですけど……」
地道な調査をしていた彼女らの前に、唐突に現れた"赤い歯車の怪人"。
誘うような仕草をして、何処へと消えたその怪人に見覚えがあるらしい龍我は変身してすぐさま追いかけてしまった。
大地も、レイキバットも、龍我もいなくなり。
途方にくれた瑠美はひとりぼっちでとぼとぼ歩く羽目になっていた。
「こうやって置いてけぼりにされるのも! 慣れてますし! 気にしてませんけど!」
近くに誰もいないのをいいことに、叫んでみたりする瑠美。
本当は滅茶苦茶気にしているんだぞ! せめて移動手段ぐらい用意して欲しい! ──そんな感じの叫びである。
自転車を用意するのは真面目にアリかもしれませんね、と考え始めた瑠美は、ちょうど曲がり角から出てきた少年とぶつかってしまった。
尻餅付いて倒れる、パーカーを着た少年。
慌てて謝りながら手を差し伸べるも、彼は瑠美の背後をじいっと見つめるばかりである。
「それ、君の?」
「それ?」
"それ"が何を指すかわからず、少年がおずおずと指差す背後を振り返ると、そこには青いカブトムシが浮遊しているではないか。
しかもよく見れば、カブトムシは機械でできており、どことなくレイキバットを彷彿とさせるフォルムをしている。
この世界の虫って全部こんな感じなのかな? なんて一瞬考えてしまって、それは違うなと自分で否定した。これまで見てきた限りでも虫は普通であったし、そもそも季節的にカブトムシはいないはずである。
瑠美が恐る恐る覗き込むと、どこかへ飛び去っていくカブトムシ。ポカンと呆気に取られている背後で、少年が早口で呟いていた。
「母さんの作ったメモリガジェットかな? でもビートルのギジメモリは無い筈……興味深いな」
「あの〜……? カブトムシさんのこと知ってるんですか?」
「さっぱりわからない。僕がこんなところを歩いている理由もね。
でも、わからないから面白い……そうは思わない?」
「私はあんまりかも、です。好奇心が強いんですね!」
「そうだね。姉さん達にもよく言われる……というか、怒られるの方が正しいかな。でも気になることは気になるから、しょうがないんだ」
少年はそこまで語って、またブツブツ呟きながら歩き去ってしまう。
あのカブトムシを"メモリガジェット"と呼称したあの少年はどの程度かは不明にせよ、事情通に見えた。
詳しく話を聞いてみれば、有力な手がかりを得られるかもしれない。
今、瑠美が追い掛けるべきは少年か、それともクローズか。
(もしこの機会を逃したらあの男の子と会うことはないかもしれません。あの青いカブトムシも気になりますし……。
でも、ここで万丈さんと別れたら私達はみんなバラバラ。連絡を取り合う手段もないのに、それはとっても不味いですよね……)
瞬きの合間に迷って、また迷って。
結局、瑠美が選んだのはクローズを追う道。
未だ"仮面ライダーアクセル"と出会っていない自分達が全員離れ離れになってしまうことを危惧したが故の選択である。
そうと決まれば、と気合を入れ直し、さっきまで走っていた道を瑠美は駆け出した。
やがて少年が歩き去り、見えなくなった方角にある屋根の上。
そこに佇む緑の人影が見つめてきていることに、瑠美は最後まで気付かなかった。
*
レイキバット達の前に姿を見せたダークディケイドこと大地。
時間にしてみれば数日ぶりの再会。だが、去来した感覚はその実時間以上の重みがあった。
言ってやりたいこと、聞き出したいことは山ほどあれど、何から言えばいいのかわからない。
言葉に詰まったレイキバットがまるで助けを求めるように見た荘吉は、乱入者であるダークディケイドに怪訝な顔をしている。
クローズをその態度からこちらの味方と判別できたのだから、「大地」と呼んで警戒を促さなかった時点で同じく味方であると彼なら考察できそうなものだが……。
そしてレイキバットは、荘吉にダークディケイドのことを説明しようとして、我が眼を疑う羽目となる。
乱入してきたダークディケイドがスモッグ・ドーパントを守るように立ちはだかっているのだから。
「何の真似だよ、大地」
いの一番に口を開いたのは、クローズ。
そんな彼にダークディケイドはライドブッカーを突き付ける。
「このドーパントは殺させない」
きっぱりと。そしてはっきりとそう告げた。
状況が全く飲み込めないジョーカー・ドーパントは、狼狽えているレイキバットやクローズ達を交互に見て不思議がる。
ダークディケイドに守られているスモッグ・ドーパントは、参上した護衛に疑問符一つ浮かべておらず、どこか安心した様子を見せた。
「その訳を聞かせろって言ってんだよ大地ィ!」
今この場にいる者達の中で最も大地との関係が長く、しかし最も会話しづらいと思い込んでいるレイキバットが吼える。
全速力で飛翔してダークディケイドに激しく突っ込んでいく。
かけるべき言葉が見つからないと思った矢先に、まさかの行動に出られてしまい、実質ヤケクソ状態での突撃であった。
猛烈な勢いで飛ぶレイキバットの瞳に、カードを装填するダークディケイドが映る。
KAMEN RIDE LEANGLE
そしてダークディケイドの前方に投影される紫の壁、スピリチア・エレメント。そこへ突っ込む体勢となったレイキバットは無様にも弾かれてしまった。
接近してくる壁を抵抗なく潜り抜けたダークディケイドはDDレンゲルとなり、錫杖型の武器・レンゲルラウザーの刃を展開させる。
ラウザーを手の中で軽く回し、クローズへと駆け出した。
────弾かれたレイキバットには一瞥もくれることなく、素通りして。
「だ、大地……」
その一連の行動が"大地からの拒絶"のようで。
「お前なんかもう要らない」と語っているようで。
かつて自ら「もうお前には自分など必要ない」と言ったのに。
それからしばらく、レイキバットはただ戦場の経過を眺めるだけの機械となった。
ATTACK RIDE SCREW RUSH
高速回転して刺し穿とうとするレンゲルラウザーを、ビートクローザーが弾く。
だが勢いを殺しきれず、胸部装甲を抉られてしまうクローズ。
彼が激痛に呻こうとも、DDレンゲルの執拗な攻めは休まるところを知らない。
クローズとしても反撃したいのは山々であるが、どうにも相手が悪い。
親しみを感じ始めていた相手から一方的に襲いかかられて、剣を振るう腕が鈍る。それは人間として当然のことと言えよう。
「クソッ、いい加減あったまきた!
やられっぱなしでいられるかよ!」
とはいえ、大地と龍我の付き合いはまだまだ浅い。
よって、クローズの我慢が限界を迎えるのにもあまり時間はかからずに済んだ。
紙一重でレンゲルラウザーの一突きを躱し、捩じ込むように放った怒りのアッパー。
吹っ飛んだDDレンゲルを取り押さえる為に、クローズは走り始めた。
見守っていたジョーカー・ドーパントもとりあえずその後に続く。それが素性の知れない者同士であろうがなかろうが、傍観に徹していられる性格でもない彼は、荘吉を守ろうとしていたクローズこそが味方と判断したのだろう。
ATTACK RIDE BRIZZARD
だが、DDレンゲルは拘束されるまで待ってはくれない。
力が解放されたカテゴリー6のカード、ブリザードポーラーがDDレンゲルの装甲を通して宿る。
翳した手から吹き荒ぶ、超局地的な暴風雪が向かってくる二人に襲いかかった。
「うおおっ!?」
たちまちの内に氷漬けとなりかけるクローズ。
我武者羅に振るった剣の風圧が吹雪をある程度防ぎ、全身が凍り付くまでには至らなかったものの、決して小さくないダメージを負った。
「足が……動かねえ!?」
ジョーカー・ドーパントへの吹雪はクローズと比べると、勢いそのものがかなり抑えられていた。
凍結させたのは脚部だけで、それ以外の箇所には一切当てていない。ジョーカー・ドーパントの身動きを封じることのみに焦点を絞った、そんな攻撃。
そして、仮面ライダーレイにも匹敵する凍結能力を見せたDDレンゲルの姿に、レイキバットの奥底で声が木霊した。
『お前はもう要らねえんだよ。戦力外、お荷物、要するにクビだ』
大地に憑依したネガタロスに言われたことが、まるで大地本人に言われたように聞こえてくる。
「────」
KAMEN RIDE SKULL
ダークディケイドがレンゲルから仮面ライダースカルを象った姿に変わる。
傷の有無を除けば荘吉と瓜二つの帽子を被った黒いライダー、DDスカル。クローズにスカルマグナムの銃口が向き、躊躇なく引き金が引かれた。
微かに震えていた膝を撃ち抜いて足を折らせ、握りが甘くなっていた指を撃って剣を落とす。
猛吹雪に曝され、弱っている仲間を無言で容赦なく狙うその姿に優しき男の面影は見えない。
「大地……どうしちまったんだよ、お前……」
*
荘吉が、レイキバットをそっと拾う。
一方的に撃たれるばかりのクローズは倒れ、動かなくなったところでようやくDDスカルは銃撃を止めた。
その成り行きを眺めながら、スモッグ・ドーパントはまたしても荘吉を狙おうとしていたが、DDスカルの腕がそれを制す。彼の無言の圧力に、スモッグ・ドーパントは察したように頷いた。
「そうですかぁ……アレがクローズですかあ。
はいはい、そういう契約ですもんねぇ」
渋々近寄って、クローズに触れるスモッグ・ドーパント。
この間、クローズはまだ動けない。
そして、人型だったスモッグ・ドーパントの身体が揺らぎ、完全なガス状となってクローズに纏わりつき、どんどん浸透していく。
装甲を難なく透過し、その下の龍我の皮膚から、鼻から、口から染み渡る。
繰り返される痙攣、濁った咳き込み。
そしてふっと静かになったかと思えば──にわかに起き上がったクローズは、笑い出す。
それはもう別人が変身しているかの如く。
「探偵さんの演技練習をするつもりだったのに、変身ヒーローになっちゃいましたか。でもこれも経験経験……フフフ」
万丈龍我を知らずともわかる、この異様な変わりよう。
ガスになれるドーパント。
意識不明の被害者達が異常をきたしているのは主に呼吸器系統。
そして、このクローズ。
ここまでピースが出揃えば、荘吉にはスモッグ・ドーパントの能力の全貌が見えた。
「奴はガスになることで相手の身体を乗っ取れる。これまでの被害者達は全員奴に乗っ取られ、用済みとなったら捨てられた……。
後は奴が人を乗っ取る目的と、そんな野郎を庇う大地という人物の思惑……。それに照井警視、か」
ウォーミングアップのつもりか、シャドーボクシングをしているクローズの動きにぎこちなさはない。
乗っ取られたクローズにはもう身体の支配権はないと見ていいだろう。
隣のDDスカルも満足そうに頷いていた。仲間が乗っ取られた心配をしている素振りは見せていない。
荘吉の手の中のレイキバットはそんな彼を怒鳴ることもなく、虚ろな目でぐったりするだけである。
さて、後はどうやって逃げるかだが。
荘吉は大地とは面識なし、クローズを正気に戻す手立ても持たない。
ともすればレイキバットと翔太郎を連れて逃げる他ないのだが、スモッグ・ドーパントが見逃してくれるとは楽観的に過ぎるだろう。
しかし、荘吉が手を打つ前に、異変が起こる。
クローズが前触れもなしに蹲ったのだ。
「な、な、な、なにこ、れ、れ」
身体の主導権を握るスモッグ・ドーパントにも予想外の事態が起こっているらしい。
マスクの口に該当する部分を押さえて、乾嘔まで。
飲み屋街で稀に見る度が過ぎた酔っ払いか、はたまた胃腸を悪くした重病人を思い出す姿にはDDスカルも困惑していた。
「こ、こ、こ、この身体……気持ち、わ、わる…………
────うおぇぇぇぇ!!」
吐瀉物の代わりに吐き出された、大量の黒いガス。
即座に人型になり、それから生身の人間の姿に戻ってのたうち回っている。
顔を真っ青にして身体中を掻き毟る、スモッグメモリのユーザーらしい青年。
その隣で寝惚けた様子で起き上がったクローズはどうにもシュールな光景であった。
「んぁ……?」
何が何やら、と後頭部を掻いているクローズからは特に異常は見受けられない。
乗っ取った側の方がダメージが大きいとは奇妙な話である。
「……エボルトの遺伝子が邪魔したか」
この不可思議な現象に何故か検討がついているらしいのがDDスカル。
もしもエボルトの遺伝子、この言葉の意味を知っている者が他にいればまた違った展開を見せたかもしれないが、そうはならなかった。
もがきっぱなしの男を担ぎ上げたDDスカルが足元に発砲する。
派手に巻き上げる火花と煙。それがこちらを害す攻撃ではなく、目眩しを目的とした発砲であることに疑う余地はない。
となれば、煙が晴れた頃にはDDスカルとスモッグメモリのユーザーである男が姿を消していることに、何を驚くことがあろうか。
「大地……」
それからしばらく経っても、DDスカルがいた場所をレイキバットは見つめ続けていた。
*
ほどなくして。
ジョーカー・ドーパントを包んでいた氷は溶けた。
変身後に引きずる凍傷なども翔太郎には無く。
極短時間とはいえ乗っ取られていたクローズが変身を解いても、他の被害者達のような外見からわかる症状はなさそうである。
物理的な被害はほぼ皆無と言って等しい。
今ここで憂慮すべきは、精神面に負った傷。
それを理解しながら、荘吉は敢えて消沈しているレイキバットにこれからの方針を問うた。
辛いだろうが、それでも問わねばならない。
彼は自身の依頼人なのだから。
「あのドーパントを追えば、また仲間と戦うことになるやもしれん。照井警視を調査するなら、また別の切り口を探した方が賢明……とまでは言えんが。お前さんには選ぶ権利がある」
レイキバットがここまでショックを受ける事情を、荘吉は知らない。
依頼人である彼が戦うと言えば、その手助けを。
戦わないと言えば、他の手段を示す。
レイキバットに求めるのは、彼自身の決断。
「……決まってるだろうが。奴を、大地を追う。
こんなふざけた真似をした理由を、凍らせてでも吐かせてやるよ。
最初のの依頼から遠回りになるが、嫌とは言わせんぞ、探偵」
虚ろだったレイキバットの目に、微かだが光が戻る。
完全復活にはまだ程遠いにせよ、闘志は確実に滾っている。
身体は小さくとも、ハートは中々タフらしい。
荘吉はその答えを気に入って、しかしわざわざ口に出すもせず、口元を微かに緩める。
「承った。なら早速動くとしよう。まずは華麗に、それから激しく……だったな?」
「ッ! ────フッ、なら先に言っておいてやる。その流儀は俺の専売特許だとな!」
スモッグ・ドーパント
とある男性がスモッグメモリとスモッグドライバーで変身した怪人。
身体は常にガスの形状であり、通常攻撃はまず通用しない。
また、相手に取り付いて乗っ取ることも可能である。
大地くんのライダー、どれが好き?
-
メイジ
-
レイ
-
ネガ電王
-
ベルデ