原典キャラは多めに出るかもしれません
エキストラ♪ヴァンパイアワールド
「諸君、仮面ライダーイクサについては既に知っているだろう。何?知らない? 仕方ない、ならば教えてやろう。
この俺が所属する『素晴らしき青空の会』で設計および開発された正義のシステムーーーそれがイクサだ。22年という決して短くはない歳月を経て進化し、この現代において最高の戦士である俺が装着することでイクサは完成する。だが……『最高』とは驕りでもあった。詳しくは仮面ライダーキバ 第26話を視聴しなさい」
*
鼻歌を口ずさみながら兎の如く軽やかなステップで街中を進む男がいた。見るからに上機嫌ですれ違う女性にウインクをする彼は周りの人々から見ればかなり異質に映ることだろう。
しかし、彼にとっては他人からの評価などどうでもいいことだ。今重要なのはこれから会いに行く愛すべき運命の女ただ1人だけなのだから。
そんな彼の耳にか細い悲鳴が届いた。
普通なら聞き逃すほどに小さかったが、芸術家として優れた感覚を持っている彼にはしっかりと聞こえていた。ましてやそれが女性の声なら尚更だ。
この世の全ての女性を愛し、守る。そのためならば例え運命の女が待っていたとしても、彼は行き先を変える。
「おいおい、そんな美しいレディーを狙うなよ。化け物と趣味が合うなんて最悪だ」
彼の名は、紅音也。
1986
2008
太陽が燦々と照りつける街中で、人々が思い思いにゆったりとした時間を過ごしている。
何をそんなに急いでいるのか、ギターケースを背負って全力疾走で駆ける男とすれ違った大地は顔から滴り落ちようとする汗を袖で拭った。
今はまさに夏真っ盛りといった気温で、黒いロングカーディガンを羽織った大地の格好はかなり不自然に見えているだろうが、自身の格好がこの暑さに不釣り合いであることを最も実感しているのは他でも無い大地自身である。
「暑い……暑い」
(世界が違うと季節も違うなんて……そういうことぐらい教えてくれてもいいのに)
昨日までいた「ビーストの世界」ではもうすぐ春になるぐらいのやや寒さの残る気温だったはずなのに、今いるこの世界では猛暑としか思えない暑さに襲われている。
今朝起きてからすれ違った人々は皆涼しげなスタイルであったし、やはり世界が異なれば時間軸も異なるのかもしれない。
しかしそれがわかったからといってこの暑さが和らぐわけではない。
起きた時には案の定姿を消していたあの怪しげな男に文句でもぶつけてやろうと考えたところで、赤い旗が視界に入った。
「すいません、ラムネ1本ください」
今時(少なくとも大地の感覚では)珍しく菓子を売っている露店でラムネを購入し、一気に中身をあおった。
キンキンに冷えた炭酸飲料が染み渡り、瓶の中身の半分ほど残して大地は一息ついた。
喉の渇きが満たされると次にすべきことについて自然と考えるようになる。
(これからどうしようか……まさかあの時みたいに怪人と仮面ライダーに遭遇する、なんて都合のいいことあるかなあ)
また通行人に聞いてみようか。
またしてもそんな馬鹿げた方法を思いつくが、案外手がかりは得られるかもしれない。何せ異世界というのは流れる時間すら異なるのだから、何があっても不思議ではないはずだ。
大地は試しにたった今すれ違った自分と同じくらいの少女に聞いてみることにした。
「あのー、ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど」
「? アンケートか何か?」
「いえ、そういうのじゃないんですけど」
可愛らしく小首を傾げた少女を前にして、今更ながらどう質問するのか考えるべきだったと大地は後悔した。
さすがにいきなり「仮面ライダーってご存知ですか?」なんて聞いてしまえば、また前回の二の舞になる可能性が高いし、仮面ライダーという名称が使われていないこともあるのだ。
ひとまず怪人について聞いてみようと口を開こうとするが、その前に少女が話し始めた。
「よくわからないけど、何か聞きたいことがあるのよね? だったらついておいで」
「へ?」
少女は大地の返事も聞かずにその手を取って走り出した。
走る必要があるんだろうか、と妙な違和感を感じはしたが、情報が得られるならそれでもいいとも思い、導かれるままに足を運んだ。
建物の合間を縫うように歩いて、見える風景はどんどん薄暗いものに変わっていき、人通りもない場所に辿り着く。
そこは明かりもない小さな橋の下で普通の人ならば昼間でも避けて通りそうな空間だった。
少し歩いただけでこんなにも雰囲気が変わったことに感心しつつも、大地はようやく足を止めた少女に話を聞こうとする。
「あの……僕が聞きたいのは」
「貴方、結構可愛い顔してるのよね。食べちゃいたいくらい」
「え? えっと、あの」
「その反応もいいわね! さ、じっとしててね?」
少女が突然妙なことを言い出した。
にじり寄る少女に若干の畏怖感を感じ、まさかこれが異世界の挨拶なのか?などと一瞬でも考えてしまったが、この威圧感になんとなく大地は既視感を覚えた。
言うなればそれはまるでファントムに襲われた時に近いという嫌な予感。
その予感に突き動かされるように密かに懐の金属に手を当てた瞬間、変化は生じた。
にんまりと微笑む少女の顔にステンドグラスの模様が浮かび上がり、空中に一対の透明な牙が突如として現れたのだ。
あまりに(ファントムも大概だが)現実離れした光景に驚愕し、口を半開きにして硬直してしまった大地。
首筋に迫る牙に対処することもできず、その皮膚を貫かれようとするがーー
「グッ!?」
何かが空気を裂く音と炸裂音、それに続いて飛び散る火花。響いた悲鳴は大地のものではない。
背中から煙を出している少女の表情はさっきとは打って変わって、邪魔をされたことに対する憤怒の色を見せていた。
恐らく背中を撃たれたであろう少女から火花が散ったこともそうだが、それ以上に大地が目を引かれたのは少女の背後に立つその銃弾を放った本人だった。
「そこまでよ! ファンガイア!」
小型の銃を構えるスタイルの良い女性がそう叫んだ。
ファンガイアと呼ばれた少女は怒りに震えてはいるが、銃撃によるダメージは殆どないように見える。
憤怒の叫びと共に少女の口元のステンドグラスは全身に伝播し、人間の姿からファントムに似た、しかし明らかに異なる怪物に変わる。
ステンドグラスが人型の怪物そのものを構成しているかのようなその怪人はどこかパンダを連想させた。
その名はベアーキャットファンガイア。
「これが、この世界の怪人……!?」
「ちょっとぉ……! 久々に良い子見つけたのに邪魔されるなんてサイアク! 引っ込んでてくれない!?」
「ねえ、君! ぼーっとしてないで早く逃げなさい!」
すでに狙いを変えたのか、ベアーキャットファンガイアは大地ではなく、絶え間なく銃弾を浴びせてくる邪魔者の女に飛びかかった。
その剛腕の先に光る鋭利な爪ならば人間の身体など皮膚どころか、骨まで引き裂くことができるだろう。しかし女性もただ者ではないのだろう、鮮やかな身のこなしでベアーキャットファンガイアの腕を躱している。
「てことは…あの女の人がこの世界のライダーなのか?」
しかし女性は銃から鎖を出して怪人に叩きつけたり、銃撃をしたりするもののいつまで経っても変身しようとする仕草すら見せない。
そのことを疑問に思っていると、一向に逃げる様子見せない大地に女性の方も気づいたようだ。
大地に再度逃げるように促すが、それが隙となった。
「ちょっ、君何してんの!? 早く逃げろって言ってんのよ!」
「喚かないでくれるッ!?」
「うっ!?」
怪人の足先がついに女性の銃を叩き落とした。
その衝撃に乗せられて前のめりに倒れた女性の背中に足を乗せ、力を込めて捻るベアーキャットファンガイア。
人間よりも圧倒的に強い力で踏み躙られ、抵抗すら許されない状況に追い込まれても尚女性は諦めずに必死にもがいているが、あのままでは潰されてしまうことは明白だ。
「ふふ……ちゃんと待ってるなんて良い子ね。この雌を潰したらすぐにいただいてあげるから待っててね?」
「はや……く、逃げ……」
「どっちもお断りです!」
もう見てられない。大地はあの女性が仮面ライダーならば情報が得られると観察していた自分の浅はかさを後悔した。
怪人に人が襲われる。それはどの世界でも起こるし、情報がどうだとかそんなことよりも人を助けるために行動するべきだったのだ。
大地はメイジドライバーを腰に巻きつけ、操作を行いながら突撃を開始した。
「変身!」
チェンジ! ナウ
メイジに変身し、その強化された脚力を以ってこちらには見向きもしないベアーキャットファンガイアに迫る。
今にも女性の背中をぶち破ろうとしている怪人に渾身のタックルをぶつけ、女性から引き離す。
女性は咳き込んではいるものの、特に目立った外傷もないようだ。
「あらぁ? 君、イクサだったの? 聞いていた姿とは違うけど」
「イクサ……この世界のライダーは仮面ライダーイクサ。ありがとうございます」
イクサ。確かそんな名前のライダーのカードを見た覚えがある。
「? ま、いいわ。大人しく食べられちゃってねっ!」
「ハァッ!」
ファンガイアとメイジ、両者の巨大な爪がぶつかり合う。
衝撃が、熱が、痛みが爪を通して伝わってくるが、その何れもドレイクとの戦いで経験したものに比べればどうってことはない。
未知の敵を相手にダークディケイドではなくメイジを選択したことへの不安は微かに和らいだ。
だが油断はできない。敵の爪は両腕に備わっているが、こちらの爪は片手だけだ。
案の定がら空きになった腹部にフリーになっている敵の爪が迫っている。
ガキィンッ!!
そのやかましい金属音はメイジの腹が貫かれた音ではない。
咄嗟に構えたライドブッカーの剣身が爪を受け止めたことで鳴り響いた音だ。
だが碌に構えもせずに出した剣の防御などすぐに突き崩されるに違いない。
すぐさま前蹴りをベアーキャットファンガイアに浴びせてよろめかせ、一歩踏み込む。
そして敵の反撃が来る前に爪と剣を交互に繰り出し、その煌びやかな体表には不釣り合いな傷をつけていった。
「ヤッ!」
「アガァッ!?」
最後に叩き割るように振り下ろした爪の一撃が肩を打ち、オマケとしてその顎を蹴り上げた。
宙を舞ったベアーキャットファンガイアが激突したコンクリートの壁に僅かな亀裂が走り、続けて飛来したライドブッカーの銃撃によって壁は完全に崩落。
ベアーキャットファンガイアは瓦礫と砂塵に埋もれて見えなくなった。
「……や、やっちゃった? やっぱり銃って難しいな……」
本当はベアーキャットファンガイアのみに当てるつもりで撃ったのだが、狙いは外れてしまい壁を破壊してしまったのだ。
ライドブッカーのガンモードは生身で使っても問題ないほどに反動もなく且つ連射もきく。素人の大地から見ても非常に優れた武器といえるだろう。
だがどんなに武器が優れていようと使いこなせなければそれまで。人間サイズの敵に狙って当てるのはまだまだ難しそうだ。
一応他のライダーにカメンライドすればカードの中の記憶である程度補助はできるのだが、それに頼りきりではメイジの時に苦労してしまう。
今回は倒せたから良いものの、当たらない射撃など隙を晒しているだけだ。
銃のことに関しては今後の課題として思考の隅に押しやり、メイジは振り返ってすでに立ち上がっている女性の無事を確かめる。
「怪我はありませんか?病院とか、行った方がいいですか?」
女性は怪訝な面持で若干警戒している様子だった。
無理もないかと思って自分の事情を話そうとした瞬間だった。
「君は……? っ! 危ない!」
「ッ!?」
女性の視線はメイジではなく、その背後に向いていた。
慌てて振り返ると大なり小なりの様々な形の瓦礫が視界を埋め尽くすかの如く吹っ飛んできている。
飛来する瓦礫の合間からチラつく美しい煌めきと怒りの雄叫びからこの瓦礫を発射した主はわかったが、それよりもメイジには次の瞬間に行うべき対処をせねばなるまい。
人知を超えた力で放たれた瓦礫の山は砲弾と言っても差し支えなく、メイジの装甲にもダメージを与えられる威力があるはずだ。
回避ーー否、背後にいる女性がタダでは済まない。
破壊ーー否、剣と爪だけで高速で飛来する瓦礫を破壊しきるのは困難だし、その破片が女性に当たるかもしれない。
防御ーー否、致命傷にはならないだろうが、その隙に敵は襲って………
(それだッ!!)
バリア! ナウ
瓦礫の砲弾がメイジに激突する一瞬前にメイジを丸々覆い尽くすほどの大きさの魔法陣のバリアがそれらを全て受け止めた。
魔法陣に隠れて視認はできないが、瓦礫を挟んだ先からベアーキャットファンガイアが猛烈な勢いで接近してきているのは徐々に大きくなる足音から確実。
ヒート! ナウ
新たに発動したヒートの魔法が生み出した超高温の火炎が魔法陣に張り付いた瓦礫を包み、激しく燃え上がる。
魔法でできた炎であるからか、瓦礫は燃えこそすれメイジ自身にその熱は感じられない。
そしてメイジは魔法陣に手を添え、前方へ射出するイメージをしながら微かに力を込めた。
するとそのイメージの通りに勢い良く射出された炎の瓦礫は次々とベアーキャットファンガイアに衝突していく。
メイジに向かって突進中であったベアーキャットファンガイアは自分から炎の砲弾に突っ込んでいく形となり、目も眩むような火花を激しく散らしながらもんどりうって地面に倒れてしまった。
(できた……!)
メイジにとっては単なる思いつきではあったが、それが思った以上の効果を生んだことに少なからず喜びを覚えた。
しかしここで油断してはまたさっきの二の舞になるだけ。今度こそトドメを刺す。
イエス! キックストライク! アンダースタン?
大ダメージを負って悶絶している敵に一気に接近したメイジは橙色のエネルギーを纏った右足を思いきり振り上げる。
「ッツアア!」
踵落としという形で放ったストライクメイジがベアーキャットファンガイアの硬い体表に振り下ろされ、微かな反発すら押し込むように貫通する。
身体を蹴り抜かれたベアーキャットファンガイアの身体が一際強い輝きを放った直後、本当のガラスのように粉々に砕け散った。
メイジは右足に纏わり付いたベアーキャットファンガイアの死体(?)とも呼べるガラス片を払って、その変身を解除した。
さっきまで生命の塊だったガラス片はどういう原理か、音も立てずに消滅していく。その過程を不思議そうに観察する大地の耳にカチャ、と金属の音が届いた。
「動くな!」
どうやらあの女性に銃を向けられているらしい。さすがに生身で撃たれれば大地は死ぬしかない。
心臓を撃ち抜かれる想像をしてしまい、その恐れから叫びたくなる自分を抑えてなるべく落ち着いて女性の次の言葉を待つ。
「君、本当になんなの? まさかキバ?」
「キ、キバ?……いいえ、僕は大地です。あの、僕は貴方を助けたくて、その、襲う気はありません」
キバという単語に当然ながら大地は聞き覚えはない。
「……そうね。どう見てもキバとは違うし、信じるわ」
「あ、ありがとうございます」
もう大丈夫だろうと思い、恐る恐る女性に向き直る大地。
そしてまじまじと女性を見れば、さっきまで怪人と戦っていたとは思えないほど綺麗な人だとわかった。そのスタイルの良さを遺憾なく発揮する服は所々汚れているし、手にはかすり傷がついているが、怪人と生身で戦闘してその程度で済んでいるのだからとんでもなくタフな人だ。
「君、大地って名前なのよね? 大地君のこと聞かせて欲しいんだけど、この後時間はあるかしら?」
「大丈夫です。それに今の僕の時間はそれ以外に使いようがありませんから」
「それでここに連れてきたわけか」
ここは喫茶店「カフェ・マル・ダムール」。
昼下がりのこの時間で店内にいるのは大地を除くと先程の女性、麻生恵と大地と向かい合って座る渋い表情の男性、嶋護。
そして店の柱にもたれかかって一際強い警戒の視線を向ける男、名護啓介。
他には店のマスター、木戸明が愛犬のブルマンと戯れているぐらいで他に客はいない。
もしもコーヒーを飲む目的でこの店を訪れたならばその静かすぎず、煩すぎずのちょうどいい雰囲気を大地は気に入っていたかもしれない。
しかしこの名護と嶋から向けられる強烈な警戒と疑いの中ではとてもじゃないがコーヒーなど喉を通らない。
「異世界からの来訪者……にわかには信じられんな」
「おまけに君は記憶がない。随分と都合がいい話だ」
「と言われても……僕もこれ以上説明のしようがないんです」
恵に連れられてやってきたはいいが、彼等「素晴らしき青空の会」には大地の話はやはりそう簡単に信じてもらえるものではないようだ。
この世界の怪人であるファンガイアと戦う組織が「素晴らしき青空の会」であり、その会長の嶋とメンバーの名護、恵のことは恵から教えてもらえた。
しかし恵以外の2人には仁藤や瑠美のようにすんなり信用してもらえないのは予想していたとはいえ、堪えるものがあった。
「もー! 嶋さんも名護君も彼のことを疑いすぎよ! 私のことを助けてくれたのよ?」
「それだけで彼を信用する君の方こそどうかしてる。俺には適当なことを言って青空の会に潜りこもうとするファンガイアのスパイとしか考えられないな」
「そんな……僕はただこの世界の仮面ライダー、イクサのことを知りたいだけなんです」
イクサと言った瞬間、名護の目がますます険しくなった。
名護は大地を睨みつけながら懐からスタンガンのような機械を取り出し、大地に見せつけた。
「イクサのことを知っている……やはりファンガイア!」
「ち、違いますって! さっきファンガイアがイクサって言ってたのを聞いただけで、それにイクサのカードがあったからそれを思い出したってだけなんです!」
今にも変身しそうな名護を何とか説得しようとする大地は必死に理由を並べたてる。
その中で大地の放った単語の1つに嶋が反応した。
「イクサのカード? どういうことだ」
「僕は仮面ライダーを記録して、それをカードにできるんです。ええっと……あ、これを見てください!」
重苦しい雰囲気の中ではっきりとした敵意まで向けられた焦りのせいか、ライドブッカーからカードを取り出そうとした大地はその中身をテーブルの上や下に思いきりぶちまけてしまった。
幸いにもコーヒーに濡れることはなかったが、すでに軽くパニック状態の大地はあたふたするばかりだ。
見兼ねた名護達がカードを拾い集めるが、嶋はある2枚のカードを手にとった瞬間、目の色を変えた。
そのことにも気づかないで慌ててカードを拾っていた大地はようやくイクサのカードを見つけた。
「これは……!」
「あ、ありました! このカードが……あれ?」
「嶋さん、どうかしたんですか」
「カメンライド サイガ」のカードを大地に手渡した名護がカードを見つめたまま黙りこくった嶋に話しかける。
我に返った嶋はカードを大地に差し出しながら尋ねる。
「大地君、君はこのカードをどこで?」
「え? それは……」
嶋が差し出したのは「カメンライド サガ」「カメンライド ダークキバ」の2枚。
どちらも最初から入っていたカードで、いつ入手されたものなのかは大地も知り得ぬことだった。
「わかりません。渡された時には最初から入っていたので……」
「そうか……」
「嶋さん? 今のカードがどうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
嶋は恵からの疑問を雑に対応して、それから黙り込んで見定めるように不安げな大地を見つめている。
名護も、恵も嶋の次の言葉を待って一言も話さない。
自分の行動が何か気に障ったのかもしれないと思い、大地はより一層渋い表情の嶋の視線から逃げるように下を向いている。
やがて嶋は眉間に皺を寄せたまま、口を開いた。
「彼のことは信頼できるかもしれない」
「本当ですか!? よかったわね大地君!」
まるで自分のことのように喜ぶ恵とは正反対に名護は抗議の声をあげた。
「何故彼を信頼できると? 納得のできる説明をしてください、嶋さん!」
「私の目が信頼できないというのか、名護君」
「そうよ、名護君。嶋さんが言うんだから間違いないじゃない」
「……」
何だかよくわからないが、信じてもらえたらしい。
未だに猜疑心を抱えたままの名護は不安ではあるが、頼み事をするタイミングは今だろう。
「信じてもらえたならよかったです……それとお願いがあるんですけど」
「言ってみなさい」
「その、僕を鍛えてくれませんか?」
それは青空の会がファンガイアと戦う組織だと聞いた時から密かに考えていたことだった。
ダークディケイドとしてはともかく、今の大地は戦士としては余りにも弱い。
今後、ベルゼバブやドレイクのような強敵と出会わないとは思えず、今までのようにうまく切り抜けられるとも限らない。
巻き込まれる形で戦う羽目になった仁藤とは異なり、生身でもある程度戦えるほどの戦士を有したこの組織に鍛えてもらえば、あるいはそれなりに力をつけることも可能ではないか。
そんな期待を込めた眼差しで大地は嶋や名護達に頭を下げた。
「いいだろう。仮面ライダーという名称ではないが、同じライダーシステムを使う名護君が適任だ。構わないな? 名護君」
「……ええ」
「うむ。大地君、すまないが今日のところはお引き取り願いたい。また明日、ここに来てもらえるか?」
「はい! 急な申し出を受けてもらってありがとうございます! それでは失礼します!」
怪人とライダー、それにライダーが所属する組織との接触と自身の訓練。
怖いぐらいに自分の都合良く事態が運び、すっかり不安が消えた大地は丁重に礼を告げ、会計を済ませて店を出て行った。
暫しの静寂。嶋のコーヒーを啜る音とブルマンの息遣いだけがその場で聞こえる音だ。
大地が去ったことを確認した名護はおもむろに口を開いた。
「嶋さん、本気で彼を信用すると言うのですか」
「半信半疑、ってところだな。だが少なくともただのファンガイアではないだろう。名護君には彼の監視を頼みたい」
「ちょっと待ってください嶋さん! 大地君を騙したんですか!?」
抗議の声をあげたのは恵だ。
実際に命を救われたぶん、大地に対する感情は強いのかもしれない。
しかしそれも戦士にとっては不要なものでしかないと名護は断定した。
「落ち着きなさい。もし彼が本当に信用できるとわかればそれで済むことだ。この俺が見極めよう」
「名護君だけに任せてたらどうなるかわかったもんじゃないわよ。私も行くわ」
「それは駄目だ。恵君には別の仕事をやってもらいたい。鬼塚君の護衛だ」
鬼塚。その名を聞いた途端に恵の表情は微かな緊張を伴ったものへと変わる。
この仕事は恵にとって何らかの事情で拒否できるほど軽い仕事ではなく、怪しげな恩人より優先されるものではない。
恵の沈黙を肯定と受け取り、嶋はコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「頼んだぞ。これは青空の会の、いや人類の未来を大きく左右するかもしれない」
「ただいま」
「おかえり!」
大地が帰宅した時にはすでにガイドが夕飯を盛り付けていた。
相変わらず自分が帰宅するタイミングぴったりで料理を完成させているが、まさかこの男はどこかで監視でもしているのだろうか。
「今日は麻婆豆腐を作ってみたんだ。山椒はお好みでかけてくれ」
「毎回毎回、まるで僕が帰ってくる時間がわかってるみたいですね」
「別に、ただ大地が腹を空かせているだろう時間を考えて作ってるだけだよ?」
「…そういうことにしておきます」
例え彼が監視していたとしても構わないと大地は思った。
利用されていようが何だろうが今の自分にはどうしようもないし、案外ちょっと胡散臭いだけの人かもしれない。
食卓につき、いただきますの声が重なった。
まずはよそった麻婆豆腐に山椒をほんの少しかけて白米に乗せて頬張ってみる。やはり美味い。
「どうだった?このイクサの世界は」
「仮面ライダーイクサにも、彼が所属する組織にも会えました。明日はイクサの名護さんに鍛えてもらうつもりです」
「素晴らしき青空の会だな。ま、精々利用されないように気をつけてくれよ?」
「どの口が言うんですか?」
「ははは」
他愛もない会話をしながら奇妙な関係の2人の奇妙な晩餐は続く。
粗方皿を開けたところで、満腹になった腹をさすって頰を緩めた大地に温かい烏龍茶の入ったカップを前に出した。
火傷しないようにふーふーと息をかけていると、おもむろにガイドが神妙な表情で語り出した。
「人間とファンガイア……この世界にはそれ以外の存在もいる。君の敵はファンガイアだけとは限らない。注意を怠るなよ」
「それってこの世界にもファントムがいるって事ですか!?ってあちち!」
驚いた所為ですこし茶をテーブルこぼしてしまった。
慌てて布巾を探すが、どこにあるのかわからずにただオロオロと狼狽するばかりの大地を見かねてガイドはどこからか取り出した真っ白な布巾を差し出した。
「そういうことじゃない。ファンガイアとは別の魔族…レジェンドルガ、ドラン、ウルフェンなど多くの種族がこの世界にはいるってだけだ。まあ人間以外のほとんどの種族はファンガイアに滅ぼされているし、遭遇することはあまり無いかもしれないがなー」
「く、詳しいんですね」
「ガイドってのは普通は旅先をことを知ってるもんだろ」
まず異世界のガイドって時点で普通ではないのだが、言うだけ無駄だと流石に大地もわかってきた。
そんな苦笑いを返す大地にガイドはただ陽気に笑うだけだった。
ベアーキャットファンガイア。真名は「点と点が結ばれる暗闇の絨毯」
パンダのような姿をもつファンガイア。好みの男性を見つけてはそのライフエナジーを貪るを繰り返しており、以前から青空の会に目をつけられていた。