いよいよ居た堪れない場面となった
母親から忘れられ、栗畑までなんとか堪えて移動している所だ
栗畑に到着した途端、慟哭し始めた哀れなおっさんを皆で鑑賞中
明るくいこうと思っていたが、当時を思い出して少し泣きそうになる
大淀、衣笠に青葉までも神妙な顔をしているのだが、一人元気なヤツが居た
「なぁ明石、今ちょっと真面目な雰囲気だから大人しくしような?」
この子さっきから俺の膝に乗せたお尻を微妙に動かしてるんだよ
「皆さん気分が落ち込んでいるみたいなので、元気になって欲しくて」
それで元気になるのは俺の一部分だけだよっ!
「元気になぁれ、元気になぁれ」
「やめろぅ!」
今、真面目な場面を収録中だからね?
「ハァ…神妙にしていたのが馬鹿らしくなりました」
大淀は溜息を吐き、俺を死んだ魚のような目で見詰めてくる
暗い雰囲気は霧散したが俺は針の筵だ
どうしてこうなった?
別の意味で居た堪れない状況だが収録は続く
栗畑での自殺を諦め、山の麓に向かう俺が映る
「こうやって見ていると、提督の地元ってかなり田舎ですよね?」
「あぁ、そうだね」
珍し気な明石へ返事
「まさか街灯も無い道を歩いて移動するとは…」
「田舎ではこんなもんさ、夜になると真っ暗闇だぞ」
「それにしては足取りはしっかりしてますよね?」
「田舎民は夜目が利くんだよ」
というか、夜目が利かないと夜に外歩けないからさ
さて、首つりの準備が整っていざって場面
川内が瞬く間に俺の隣へ立つ
問答の末、川内と夜戦ごっこだ
「今思えばさ」
「なんでしょう?」
大淀に聞いてみた
「この時、川内は手加減してくれてたんだよな?」
「勿論です」
だよな
「川内が本気になれば、一瞬で俺の首が胴とおさらばするだろうね」
「その様な事は起こりえませんが、本気になれば可能かと」
やはりな
「川内は、俺の鬱憤を受け止めてくれたんだな」
本当に悪い事をした
「川内、この時は酷い事を言ってごめんな」
それと
「憂さ晴らしに付き合ってくれてありがとう。感謝してる」
カメラ目線でお礼を伝える
この夜戦ごっこがあったからこそ、当時の俺は冷静になれたんだ
「川内さんは嬉しそうでしたよ?」
「ん?そうなの?」
「不満をぶつけられると言う事は頼られ、甘えられているとも考えられます」
あぁ…確かに
「相手を嫌っているのでなければ、頼られる事も喜びに繋がるのではありませんか?」
なるほど、そういう考え方もあるかもな
「ここ、良い場面ですよねぇ?」
「えぇ、本当に…」
明石と大淀が頷き合う
「そうか?」
俺と川内が地べたに寝転がって話してる場面の感想らしいが…
「少年漫画のワンシーンみたいで良いですよね」
「夜空を二人で見上げるなんて素敵ですね」
「「えっ?」」
二人の意識の差が現われた
いや、二人の言う事も分からなくは無い
寝転がってる片方が、泥まみれの草臥れたおっさんで無ければな?
次の場面はなんだったかな?と考えていると
「明石さん、そろそろお時間です。ありがとう御座いましたー!」
青葉から、明石サポート終了のお知らせ
「もうですか?提督はまだ私を膝に乗せていたいはずですよ?」
この言い様に苦笑が漏れる
「はいはい、そうだな」
俺の膝に乗り、散々軽口を叩いていた明石
だが、その瞳の色は理知的だ
明石はきっと、暗い雰囲気にならずに済む様に道化を演じてくれたのだろう
「提督、私のサポートいかがでした?」
「あぁ、ウチの明石は最高だ」
そう、素直に伝えた
「えへへ…そうでしょ?」
頬を赤く染め、照れる明石
こりゃまた珍しいモノが見れたな
さて、お次のゲストは誰だろうか?
五十鈴、明石と続いたからね
そろそろ、こう…穏やかな子だと嬉しいのだが
「では三人目のスペシャルゲストはこの方です!どうぞ~」
青葉と共に拍手でお出迎え
ゲストの艦娘が目に入った瞬間、俺は天を仰いだ
「龍田だよ、天龍ちゃんがご迷惑かけてないかなぁ?」
画面の中では、俺の叫び声が響いている
奇遇だな、俺も今悲鳴をあげたくなったよ