うちの鎮守府のラスボスは怖い   作:sikimai

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rec.06

さてさてお次はどの場面だ?

ふむ、俺が鎮守府で出来る事を探している所だ

辺りをキョロキョロしつつ歩く不審者だな、こりゃ

「実はこの時さ、俺凄く落ち込んでたんだよね」

当時を振り返り、思い出した事がある

「そうだったのですか?」

「ふぅん…どうして落ち込んでいたのかしら?」

二人の問いかけに答える

「金剛に会えなかったからさぁ」

その一言で、場の雰囲気が一気に固くなる

「………」

大淀さん、その目は止めて欲しい

「まぁ、聞いてくれよ」

顎をくいっと動かし、続きを話してみろと促す大淀

「俺は当時、艦隊運用で金剛を特別重用していたという訳では無いし、特別酷い扱いをしたとも思っていなかった」

それでな

「金剛から特別好かれているとは思ってなかったが、嫌われているとも思ってなかった」

だけどさ

「あの提督ラブ勢筆頭の金剛がだよ?提督が鎮守府に来て姿も見せないとかさぁ…俺どんだけ嫌われてるんだよって思った訳よ」

金剛に嫌われるなんてさ、もう提督の資格が無いようなもんだろ?

「なるほど…確かに、提督の立場であればお辛いでしょうね」

場の雰囲気も柔らかくなり、大淀も共感を示してくれた

「だからこの時は落ち込んでたけど、初心にかえって皆と信頼関係を作ろうと考えてたのさ」

ゆくゆくは金剛達とも話せるようになりたいと思っていた

「そうでしたか」

よし、大淀も通常運転に戻ったな

「ねぇ提督、普通過ぎて詰まらないわ」

龍田あのな、俺は今四つん這いでお前を背に乗せてるんだよ?

コレ以上俺を笑いモノにしたいのか?

「もっと面白いコメントをしてくれないかしら?」

「お前達好みのコメント出来なくて悪かったなっ!」

こちとら田舎住まいの普通のおっさんなんだよ

 

そろそろじゃないか?青葉にチラチラと視線を送る

視線を向けられた青葉は不思議そうな顔

俺の視線に込められた意味を、わっかんないなぁ?みたいな雰囲気を出している

いやいや青葉、本当は分かってるんだろ?

そろそろゲスト交代の時間じゃないか?

この体勢結構キツイんだぜ?だから、な?

「提督、どうしたのかしら?忙しない動きねぇ?」

「い、いや、どうもしてないさ」

青葉を窺うとニヤニヤしてやがる、この野郎ぅ…

「龍田さん、今暫くお手伝いお願いしますね!」

青葉、お前分かっててやってるよなぁ?

「そうしたいのはやまやまなのだけれど、私少し疲れちゃって…」

「それは大変だ!早く自室に戻って横になるべきだよ!」

龍田の身を案じる姑息な演技だ

「提督が座れって言うから座っているけれど、余り座り心地が良くないのよねぇ…」

もう何処から突っ込んで良いかわかんねーよっ!

何?俺が言い出した事なってんの?マジかよ?

そういえば提督に尊厳なんて無かったな!HAHAHA…ハァ

「と言う訳で、龍田さんお時間です。ありがとう御座いました~!」

拍手をする青葉につられ、龍田は俺の背から立ち上がる

腰を撫でつつ立ち上がる俺に

「提督、おイタは程々にね?」

「あぁ…肝に銘じるよ」

俺に釘を刺し退室する龍田を眺めつつ、腰をさすりながら着席

 

「さて、本日四人目のスペシャルゲストはこの方ですっ!どうぞ~!」

青葉と共に拍手でお出迎え

「陽炎型駆逐艦四番艦親潮、参りました。司令、ご指導ください」

うおっ!まさか親潮が来てくれるとは…

「やぁ親潮、こちらこそよろしく頼む」

この子は真面目で優しい、俺なんかにも気を使ってくれるとても良い子だ

今回は癒し枠かな?勝ったなガハハ

「司令、その…」

「うん、どうした?」

勝者の余裕だろうか?穏やかな気分だよ

「私もその、司令のお背中に座る方がよろしいのでしょうか?先ほど龍田さんがそちらの方が司令はお喜びなると…」

あいつぅぅぅうううううう

立つ鳥跡を濁さずという名台詞(ことわざ)を知らねぇのかよ?

「いや、俺はそんな特殊な趣味は無いよ」

癒し枠の親潮を使って置き土産とはな…流石だよ

「龍田の冗談だよ、さて親潮何処に座る?椅子でも良いし膝でも良いぞ、なんなら肩車でもするか?」

冗談めかして聞いてみた

「それでしたら、司令のお膝に…」

「おぅ、おいでおいで」

膝をポンポン叩いて親潮を呼んだ

「し、失礼しますっ!」

静かに俺の膝に腰を下ろす親潮だったが

「親潮、緊張してるのか?気楽にいこうな?」

親潮はガッチガチに固まってる、真面目な子だからなぁ

「は、はいっ!頑張ります!」

リラックスしろと言っても難しいだろうな

「親潮、頼りにしてる。よろしくな」

そう言って頭を撫でる

収録しながら、彼女の緊張を解きほぐしていこう

 

収録再開だ、場面は初風と出会いベンチで会話するシーン

初風に気圧される情けない提督が画面に映っている

我ながら情けない姿に涙が出そうだ…

「そういえば親潮、初風はもう艦隊に馴染んでくれたかな?」

「ご配慮くださりありがとうございます、初風も皆さんに良くして頂いて大分慣れた頃合いかと」

「それは何よりだ」

それはそうと、一向に会話に入ってこない大淀を窺う

何故か微笑ましいモノを見る顔をしていた…何だよ?

「私は艦娘ですので詳しくはありませんが、お二人を見いてるとその…親子の様で」

クスクス笑いながらそんな事を言いやがる

俺はまだそんな歳じゃ…いや、そろそろそんな歳かもしれない

早くに子供が出来ていたら、親潮位の娘が居たかもと考えると微妙に凹む

青葉も声を殺して笑ってるし、ったくよぅ…

「そ、そういうのはいいから。画面見ろ画面を」

焦る俺を見て、親潮までクスクス笑い出す

 

場面は初風と別れ、空腹の俺を大淀が食堂まで案内するシーンだ

「この時、親潮は何をしていたんだ?」

「この時間は確か…二水戦に編入され、近海の哨戒に出ておりました」

うお、マジか?

「そんな事してたのか?親潮、大変だったな」

「司令の身に万が一があってはならないと、皆さん気を張っていました」

うわぁ…俺滅茶苦茶大事にされてたんだなぁ

お父さん、ちょっと泣きそうだよ

「そうか、ありがとうな。皆のお蔭で無事に過ごせたよ」

お礼を言いつつ親潮の頭を撫でる

「その…恐縮です」

まだまだ緊張が解けない様子の親潮

「あっ!そういえばさ、初風と俺が話したのはイレギュラーだったんだよな?」

以前、その事で皆が驚いたって聞いたのを思い出した

「…えぇ、そうですね」

顔を背けて返事をする大淀

えっ?コレ聞かない方が良かった?

「本来の予定では、大淀さんが司令官を連れて鎮守府内を案内していたはず…なのですが」

青葉からの補足情報だ

「大方、眼鏡が変わった事を司令官に気付いて貰えた事が嬉しくて、忘れちゃったのでは?」

と、青葉は予想しているみたいだけど

大淀は顔を背けたまま

「…誰しもミスはあります」

どうやらビンゴのようだ

大淀も五十鈴の事をとやかく言えないって訳だ

「意外です…大淀さんでも失敗する事があるのですね」

親潮は珍し気に大淀を見つめる

「親潮実はな、大淀は真面目そうに見えるけど結構お茶目なんだ」

「そうなのですか?」

「あぁ、そうなんだ」

これまた意外だと、親潮は頷いている

「提督、嘘を広めるのはお止め下さい。私は至って真面目に任務を熟しております」

「悪い悪い、その通りだよ」

これ位にしておこう、大淀にもなりたい自分像があるはずだ

それに…これ以上やると龍田に怒られそうで怖い

 

場面は進み、食堂でのシーン

画面には、食後に青葉の新聞を読んで叫ぶ俺が映っている

「青葉、差別は良くないな。ちゃんと俺の顔にもモザイクを入れるべきだ」

「何言ってるんですかぁ、この鎮守府に男性は司令官お一人ですよ?皆分かるに決まってます」

「そりゃそうだろうけどさぁ、報道のマナーってヤツがあるだろ?」

「だからちゃんと目線を入れてるじゃないですか?」

「平等にしろって言ってんだよっ!」

「艦隊の長である司令官と艦娘を同等に扱うなど恐れ多くて、青葉にはとてもとても…」

コイツはホントに…ああ言えばこう言うヤツだ

青葉に口で勝てる気がしない、もういいよっ!

「この時からなんです…」

大淀は神妙な顔をしていた

「うん?何かあった?」

「この時から提督が慌てられたり、落ち込んでいらっしゃると、その…」

照れた様な表情で大淀が言う

「心の奥が温かくなるのです」

君は病気なんだ、今すぐ治療しなければならないんだ!

「自分でも不思議なのですが…ふふっ」

そんな良い顔で言われてもさぁ…俺ドン引きだよ?

ほら見ろよ、親潮だって「分かりますっ!」親潮さんっ!?

「分かります!小動物の様で愛らしいですよね?」

ちょっと親潮、待ってくれ!

君までそっちに行ってしまったら、俺は孤立無援だよ?

「分かりますか親潮さん?貴方の様な同好の士に会えるとは…嬉しいですね」

顔を綻ばせる大淀に

「はいっ!私も嬉しいですっ!」

テンションが上がる親潮

二人はあそこが良い、ここも良いですよと会話に花を咲かせている

親潮待ってくれ、お父さんを見捨てないで…

 

 

 


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