さてと、そろそろか…
「ガリバルディさん、そろそろお時間です。ご協力ありがとう御座いました~!」
皆拍手で彼女を送り出すのだが
「なぁ、ガリバルディ…この後の予定は?」
俺はそう尋ねた
「ん~?姉貴と会う為に、少しでも訓練しようかなってさ」
なるほど、良い心がけだ
「俺も付いて行って良いか?」
俺は逃げたい
「い、いやぁ…提督はホラ、収録があるだろ?」
彼女は顔を逸らしつつ、そう言った
俺には分かる、彼女の気持ちが…
この後の場面のコメントしなくて助かった的な事を考えてる彼女の気持ちがっ!
ズルいぞっ!俺も逃げたいっ!
「逃げてはいけませんよ、司令官」
止めないでくれ青葉っ!
「もぅ、司令官がガリバルディさん連れて来たから予定が押してるんですよ?」
そんな事言われたって…
「もうチャチャっと収録して、パパパっとやって終わりです」
ほんとぉ?
「大丈夫ですって安心してくださいよ~平気平気、平気ですから」
そんな青葉の言葉に乗せられ、収録は続く
「では本日六人…七人目のスペシャルゲストはこの方です!どうぞ~」
青葉の進行に合わせ、拍手でお出迎え
「足柄よ、コメンタリーは得意なの。ふふ、よろしくね」
「よう足柄、お疲れ」
艦隊に最初期から居る足柄である、挨拶も気安い
「えぇ、提督もお疲れ様。大淀もね」
「お疲れ様です、足柄さん」
二人は礼号組だ、俺より更に気安いだろうな
「さぁ!収録開始よっ!」
足柄は勇まし気に叫び、胡坐をかく俺の足に腰を下ろした
「なんでだよ!?」
「えっ?提督の膝に座る決まりなんでしょ?」
そんな決まりは存在しないっ!
「足柄さん降りて下さい、そこに座られては提督がモニターを見る事が出来ません」
大淀が注意をする
「提督、身体をちょっと横に向けて?そうしたら見えるでしょ?」
まぁ、見えるけどさ
「足柄さん降りて下さい、収録中ですよ?」
「何よっ?大淀は役得多かったでしょ?私だって少し位良いじゃない!」
大淀は苦い顔をして黙ってしまった
「さぁ提督、収録は私に任せて!」
その自信は何処から来るのだろうか?
だが、足柄が居てくれれば大丈夫な気がしてくる…不思議なもんだ
では収録再開だ
場面は居酒屋鳳翔の暖簾をくぐり、那智と会話をするシーン
「那智をあの場に連れて来たのは足柄なんだよね?」
「そうよ、那智姉さんには提督とちゃんと接して欲しかったの。提督と話をしたら考えも変わると思ってね」
そうか…足柄は俺を信用してくれていたんだな
「足柄、ありがとな」
後ろから足柄の頭を撫でる
「いいのよ、私は提督の初めての重巡なのよ?もっと頼って欲しいわね」
「今でも十分に頼っているよ」
何と言うか…この子はホントにいい女って感じがするよ
続いてのシーンは、千代田達と合流し宴会が始まった所だ
酒をあまり飲めない俺は、皆にお酌をしていた
「やっぱり、俺も少しはお酒飲めた方がいいのかな?」
そう、足柄に聞いてみる
「そうねぇ…無理はして欲しく無いけれど、一緒に飲めたら私は嬉しいわ」
「そうだよなぁ…よし、少しずつお酒に慣れてみるよ」
皆と一緒にお酒を飲めたらきっと、楽しいと思うんだ
「あら、嬉しいわ。飲めるようになったら誘ってね?約束よ?」
「あぁ、約束な」
と、足柄と話をしていたら
「私も多少嗜むので、お誘い頂けますか?」
おや?
「大淀もお酒飲めるんだな?ちょっと意外だ」
「礼号組の集まりで、少しだけ飲めるようになりました」
あぁ~朝霜も飲めるんだっけ?
あの見た目で酒飲むとか、艦娘じゃ無ければ補導されてるな
「分かった、俺が飲めるようになったら皆で飲もうな?」
大淀がムッとした顔をする
俺、今何か墓穴を掘った気がするな…
「ええそうね、皆で飲みましょう!」
足柄の〆の言葉で次のシーンへ行くとしよう
さて、問題の場面となった
画面には、隼鷹に賭けの内容を聞かされ、逃げ出そうとするも千歳に阻まれ、頭を抱えて項垂れている俺が映る
「この時さぁ、千歳の腕が全く解けなかったんだよねぇ…」
「「………」」
大淀と足柄の二人はなんとも微妙な表情をしている、青葉はニヤニヤしてるよ
「もし千歳が俺を捕まえていなかったらさ、俺はあの場から逃げ出して、夜の海を泳いで近海に居るイ級に突撃するつもりだったんだ」
「さ、流石にそれは、無理があるのでは無いかと…」
おずおずと大淀が進言する
「いや、人間本気になればやれない事は無いさ」
俺は今もここから逃げ出したいのだ
「提督は気にし過ぎよ。男なんだし、健康な証拠じゃない?」
なんだろう…先程から、足柄の理解がある良い女っぷりがヤバい
俺の中で好感度がグングン上がっている
「おやおや、これはこれは…」
大淀が普段は見せない口調で話し出す
「何やらコソコソと、心証を良くしようとする獣の臭いがしますねぇ?」
しれっとした表情でそんな事を言い出した
「な、何よ?私は「提督お聞き下さい」ちょっとっ!」
「当時私と足柄さんを含む数名の艦娘は、別室でこの様子をモニターしていたのです」
あぁ、そうだろうね…足柄が那智を迎えに来るタイミング完璧だったもんね
「その時足柄さんは腹を抱えて笑っていました!」
くそっ!足柄は俺の心を弄んでいたのかっ!?
「大淀っ!それは秘密だって言ったじゃないっ!?」
「記憶に御座いません」
何処ぞの政治家の様な事を言いやがる
「お、大淀だって…その時笑っていたわっ!」
「私は笑ってなどいません、気分が高揚していただけです」
この艦隊、もうダメじゃないかな?
ダメ提督によるコメンタリー収録はまだまだ続く
場面は宴会が終わり、千代田を抱えて寮へ向かう所だ
「………」
すっかり艦娘不信となった俺は心を閉ざしていた
「そ、その…提督、元気出して?」
ぎこちない笑みを浮かべた足柄が、俺に慰めの言葉を掛ける
「………」
だが、その言葉は俺の心に響かない
「そうだっ!この時那智姉さんが言っていたの」
「…なんて?」
「今なら提督に優しく出来そうだって!」
それは心変わりしたのでは無く、俺を憐れんだだけだ
全く慰めにならない情報をありがとよ!ケッ
やさぐれる俺を見て、流石に不味いと思ったのか大淀も恐縮している
「もぅ…司令官、そろそろ機嫌直して下さいよ」
仕方ないなぁという風に青葉が話しかけてくる
「この収録は艦隊の娯楽なんですから、演者も笑顔でなきゃ見てる方も笑顔になれませんよ?」
まぁ…そうだよな
皆を笑顔にしたくて、この企画を了承したはずだ
気分を変えなければ…
俺はおもむろに、足の間に座る足柄を後ろから強く抱きしめた
「んにゃ!?ちょっと提督、どうしたのよ?」
鳴き声を上げる足柄を無視して、このまま十秒 1,2,3…8,9,10
ふぅ…
「よしっ!続きやるか!」
「提督お待ちください、今の行為は何ですか?」
底冷えする声で大淀が質問してきた
「気分が落ち込んだ時に、誰かを十秒抱きしめると気が楽になると聞いた事がある。だから実践してみた」
「なるほど…それで、効果の程はいかがです?」
「確かに気が楽になったよ、足柄悪かったな」
そう言って、後ろから足柄の頭を撫でる
「い、いいのよ提督。気分転換も必要よね?」
首まで赤く染まった足柄を見る事が出来たので満足、今回はコレで手打ちとしよう
「なるほど、提督を落ち込ませたら…」
不穏な事を呟く大淀は放置
「司令官、この映像が販売されたら大変ですね?」
青葉がニヤニヤしながらそう言った
「何がだよ?」
「司令官の前に来て、落ち込んでると言う艦娘続出ですよ?」
いや、そうはならんやろ
収録は続く、お次の場面は千鳥足で提督室に帰って来た俺が画面に映る
大淀と何やら話し、倒れる様に眠る場面だ
「アレ?俺寝ちゃったの?」
以前、大淀に聞いた話と違うのだが…
「この様に眠ってしまったとお伝えしたら、提督は恐縮されると思いましたので」
なるほど、大淀に気を使わせてしまったな
「記憶が無くなる程に酒を飲むのはもうコリゴリだよ」
「ええそうね、何事も程々がいいわ」
足柄からも賛同を得られた
「足柄も、揚げ物は程々にしような?」
「提督が何を言っているのか…ちょっとよく分からないわ」
まぁ、それでこそ足柄と言えるかもな
場面は進み、俺を抱える大淀と共にベッドに倒れこむシーンだ
抱き合うように倒れこんだ二人は、暫くそのままの状態になっている
「コレ大淀大丈夫だったの?足とか捻ったんじゃないのか?」
画面内で動かない大淀を心配しての発言だったのだが
青葉と足柄が、マジかよコイツ?みたいな表情で俺を見る
「何だよ?」
「い、いえ…なんでも無いの」
頬を引き攣らせた足柄が答える
画面の中の大淀はまだ動かない
「大淀、この時何かあったのか?」
流石に心配になるのだが
「えぇっと…その、アレです。私も気分が落ち込んでいたのではないかと」
「あぁ、なるほどね」
大淀は先程得た知識を、画面の中で実践していた訳か…
いや、流石にソレは無理があるやろ?