うちの鎮守府のラスボスは怖い   作:sikimai

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椅子から立ち上がり、背伸びをする

俺も緊張していたらしい、身体が凝り固まっていた

「いや~司令官、お疲れ様でした」

「あぁ、皆もお疲れ様」

撮影が終わった事で、弛緩した空気が流れる

「所で司令官、実は青葉こんなモノを持ってるんですよねぇ」

青葉の手には映像媒体が握られていた

「何それ?」

「あっ!気になっちゃいます?」

気にして欲しそうに振舞う青葉

「あぁ、気になっちゃうなぁ」

乗せられてやるとしよう

「なんか面白いモノでも映っているのか?」

「実はコレ…栗畑に設置された監視カメラの映像なんです」

青葉はニヤニヤ顔で言う

先程の収録は、俺と大淀が港から転移する場面で終了していた

その先が映っていると、青葉は言ってる訳か…

「へぇ、そうなんだ?」

俺は内心を悟られない様に気を付けつつ、横目で大淀を窺う

大淀は平素の表情を浮かべているが、若干青ざめているように見える

「司令官と大淀さんの密会が赤裸々に映っていましたよ?」

ゴシップ誌の見出しみたいだな?

だが青葉…甘いな

「面白そうだな、皆で見てみようぜ?」

大淀が焦りの表情で俺を見る

大淀、お前は俺の考えが読めるんだろ?

落ち着きなって…大丈夫だよ

「………」

青葉からの返事が無い

更に追撃だ

「どうした?ほら、早く見せてくれよ?」

青葉の表情が苦々しいモノに変わる

やっぱり…これは青葉のブラフだ

収録は終わったはずなのに、衣笠はカメラを構えたままだ

録画中を示すランプも消えていない

という事は…何かを撮影したがっているはずだ

栗畑の映像があるとしたら、普段の青葉ならこんな回りくどい事はしない

おそらく青葉は、俺と大淀の口から何があったのかを聞き出そうとしたのだろう

「ハァ…降参ですよ」

青葉は不貞腐れた表情で、お手上げのポーズをとった

俺の勝ち!何で負けたか、明日まで考えといてください

「ちぇ~青葉つまんないなぁ…」

「残念だったな青葉」

「もう単刀直入に聞きますけど、あの後お二人は何をしていたんですか?」

「メンテ終了まで時間があったから、大淀から当時のネタばらしを受けていたんだよ」

嘘じゃない、全部を話していないだけだ

「何だか普通ですね…」

「隠された秘密とか、暴かれた真実ってさ、案外詰まらないモノだよ?」

大淀に向けてウィンクすると、笑みで応えてくれた

 

収録は全部終了

青葉と衣笠の二人に挨拶をして部屋を出ようした時

「あっ、司令官」

俺に近づいてくる青葉

「どうした?」

「もう、襟が曲がってますよ?」

そう言って、俺の襟を整えてくれた

「あぁ、悪いな」

「身だしなみは大事ですよ?」

「その通りだ、気を付けるよ」

「それにしても…惜しかったですね?」

「何が?」

「最後に面白い話をしてくれたら、ここで青葉から熱い口づけのご褒美があったのに」

「ははっ、そりゃ惜しいコトをしたな、あ~残念残念」

俺の返事がお気に召さないご様子の青葉

「ぐぬぬ…ガッサの口づけもセットです「マジかよっ!?やっちまったぁ!」だから温度差ぁ!」

そんな俺と青葉のじゃれ合いを、大淀と衣笠は微笑まし気に見ていた

 

「青葉、衣笠、今日はお疲れ様、またな」

二人に別れの挨拶をして、大淀と共に部屋を出る

時刻はもう18時となっていた

そろそろ栗畑へ戻らなければ

「じゃあ、港まで行くか」

「はい」

そう言って大淀と港へ歩き出す

何処から転移装置を使っても良いのだけれども

俺が帰る時は何時も港からだった

やはり、何処かへ行く時は港、帰る時も港って感じなのかな?

さてと、港へ到着だ

「じゃあ大淀、また今度な」

「はい、お気をつけて」

よし、挨拶も済んだ

転移装置作動、ポチっとな

 

 

ふぅ…栗畑到着っと

転移の感覚は未だに慣れない

膝に手を突き、息を整えていると

「提督」

おや?大淀か?

「今日はここまで見送りしてくれるのか?」

何時もは鎮守府でお別れなんだけど

「………」

彼女は複雑な表情をしていた

「どうしたんだ?」

「提督、失礼します」

大淀はそう言って、俺の首に腕を回した

「大淀?どうした?」

「動かないで下さい」

「…分かった」

大淀は頻りに手を動かし、何かを探しているようだった

そして何かを掴み、俺から離れる

「提督、こちらを」

大淀が見せて来た掌には、黒く小さな物体が載っていた

「ナニコレ?」

「録音型の盗聴器のようです…青葉さんの悪あがきと言った所でしょうか?」

青葉…お前は転んでもただでは起きないな

ここまで来ると感心するよ

「青葉、残念だったな?」

盗聴器に向かって声を掛ける

「大淀、コレ青葉に返しておいて」

「了解しました」

「ありがとう、助かったよ」

「お気になさらず…」

 

大淀は未だに神妙な顔をしていた

盗聴器を外す為だけに、ココに来たという訳では無いらしい

「………」

俺は、大淀が何かを言い出すまで待っていた

「提督、その…」

大淀は酷く不安気な表情をしている

「どうした?」

「去年の催しの事なのですが…」

うん

「私達は提督にとても酷い事をしました」

あぁ

「言葉もきつく、対応も酷かったはずです」

そうかもな?

「どうしてあの時、私達を嫌わずにいて下さったのですか?」

………

「それがどうしても、分からないのです」

「川内と夜戦ごっこをした後に、俺は地面に寝転がっていただろ?」

「はい」

「あの時に気づいた…というか信じたんだ」

「何を…でしょうか?」

「ウチの艦隊の子達が理由も無く、こんな酷い事をするはずが無いってさ」

「………」

「だから、俺は皆を嫌いになった事は一度も無いよ」

「…ふふっ」

「理由を知りたかったんだけどさ、気づいたのは最後だったって訳」

「そうでしたか…」

「納得出来た?」

「はい、胸のつかえが下りました」

大淀は先程までの表情とは打って変わって、穏やかな笑みを浮かべている

安心出来たようで何よりだ

 

「提督、本日は大変お疲れ様でした」

「大淀もお疲れ、今日明日明後日とお休みだから、ゆっくりしてくれ」

「はい、それではこれで失礼し…」

大淀はハッとした表情を浮かべ、挨拶の途中で言葉を止める

「どうした?」

「提督、艦隊はお休みを頂いていますよね?」

「そうだな、ゆっくり休んでほしい」

「つまり私は、このまま鎮守府へ戻っても暇を持て余してしまいますね?」

…えっ?

「提督、私は暇を持て余しています。どう思われますか?」

大淀は良い笑顔でそんな事を聞いてくる

お前は、本当に…

「えーっと…今日は喋りっぱなしで、喉が疲れたな」

「そうですね」

「大淀、もし時間があるのなら、何か冷たい物でも食べに行かないか?打ち上げって事で」

「はい、お供します」

彼女は満面の笑みでそう答えた

 

お前は、本当に…困ったヤツだよ

 

だけどまぁ…仕方ないよな?

 

美女の笑顔には逆らえぬのだ…男ってヤツはな

 

 

 

                            おしまい




これにて裏話シリーズは終了です。
ここまでお付き合い頂けた皆さま
誤字報告をして下さった方
評価、感想を書いて下さった方々へ、心よりお礼申し上げます。
ありがとう御座いました

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