治療室に戻ると川内は既に居なかった
川内と相談したい事もあったが仕方ない
ベッドに腰かけ考える
何か目標を持たないとダメだ
鎮守府で出来る事、貢献する事、何かあるはずだ
何か、何かしないと…
短期目標が欲しいな
遠い目標より身近な事をコツコツ積み重ねるんだ
取りあえず、この鎮守府の事を知ろう
眼で見て出来る事を探してみよう
よし、やるとしますか!
鎮守府の地図とか無いのかね?
建物を見ても何かの施設、艦娘の宿舎位しか判別できない
俺が知ってるのは入渠施設、明石の店、間宮位だ
最初の地下室?覚えてねーよ!あの時は必死だったんだ
鎮守府を練り歩く
すれ違う艦娘から挨拶、会釈に応答しつつだ
好意的に、警戒しつつ、事務的に様々な反応だ
ふむ…普通さ、提督が鎮守府に来たらもっとキャーキャー言うもんじゃねーの?
別にハーレムを期待してこっち来た訳じゃないから良いけどさ
少し、ホンの少しだけ期待してたのよ…
仕方ないじゃん、男だもん
まーいいんだが、艦娘の反応はなんなんだろうなぁ
あれは女子高とかの用務員に対する反応とでも言えばいいのか
どういうスタンスで接したら良いのか悩むね
少なくとも上官として対応するのは違うんだろうなぁ
やる事を探し辺りをキョロキョロしつつ徘徊中、背後からの声
「提督…お疲れ様」
ん?誰だろうね
「やぁ、おはよう」
振り返り声の主を確認…初風か
昨日も見てない子だ、こちらでは初対面だな
「提督、行動が不審者同然よ?」
あーそう見えるよねぇ
「悪い、こちらに来て間もないんだ。珍しくてついね?」
「いーけれど、何かお探し?」
「俺に出来る事を探してる」
「ふーん、良いんじゃないかしら?」
「所で初風、何か御用かな?」
「提督に出来る事、一つあるわよ」
「ほぅ、興味があるね」
威圧感を感じる…何だよ?
「私の愚痴を聞く事よっ!」
「付いてきなさい」
と、手を引っ張られ案内されたのはベンチ
「座りなさい」
大人しく従う方がいい、怖いんだよ
「そ、それで何のお話でしょうか?」
駆逐艦相手にメッチャビビってる俺、提督とは…
「提督は私の事が随分と嫌いなようね?」
??なんでそうなる?
「滅相もありません」
「そう?私はこの艦隊で一番の新顔よ」
「はい、存じております」
「艦隊の指揮を執って何年たったのかしら?」
怖い…何が言いたいんだよ?
「若輩の身ですが、1年と1ヵ月になります」
「あら、一周年のお祝いして無かったわね」
「い、いえ、そんな恐縮です」
「そんな事はどうでもいいわ」
じゃあ言うなや!
「私との邂逅に随分時間が掛かったわよね?」
あぁーそういう感じの…
「はい、通常海域での邂逅はなかなか難しく…」
だって初風、面倒な場所に配置されてるじゃん?
「今、通常海域で邂逅可能な艦娘で一番最後にされたんだけど?」
ドロップしないのは俺のせいではないよなぁ…
「北方任務でしか私を狙わないのよねぇ?」
5回って切りが良いし、それ以上はキツイって
「あ号作戦を北方海域全域で消化する位の気概を持てないのかしら?」
無茶言うなっ!羅針盤固定無いんだぞ!
「私に興味が無かったのよね?」
そんな訳ないだろ
「君を狙わないなら北方任務を別のエリアで消化するのではないか?」
「判ってるわよ…」
さっきまでの威勢が無くなっている
「楽しみにしてたのに…」
ん?
「私の提督に会えるのを楽しみにしてたのに…」
あー俺でがっかりって?ほんとゴメン…
「私と邂逅した時の顔、ボーっとしててさ」
見てたの?ドロップするとは思わなかったんだよ
「急にガッツポーズとかしだすし」
嬉しかったんだよ!悪いか!
「もっと早く迎えに来てよっ!」
ちょ、泣きそうな顔やめてよ…
駆逐艦を泣かせたなんて話が広まったらヤバいんだって
今でも俺の評価低いのに…いやもう地の底に落ちてるよな
よし、評価とかもうどうでもいいや
「ちょっと!何するのよっ!」
俺は初風を抱っこした
赤ん坊をあやす時にするあれだ
片手で太ももの辺りを支え、片手で背中を優しくポンポン叩く
親戚の子供をあやした時の事を思い出してやってみた
「うぅ…」
「迎えに行くの遅くなってごめんな、これからは皆一緒にいるから、もう大丈夫だからな?」
初風は暫く俺にだっこされ続けた
「それじゃ、またね提督」
赤みの引かぬ顔で視線を向けずに言う
そのままそそくさと歩き出す初風
「またな初風」
初風の背に声を掛け俺は散策に戻る
駆逐艦でも大人びて見える初風だが意外と幼さもあるもんだ
身体は大きくてもその精神まで同じでは無いって事かねぇ?
まぁ、考えてみれば邂逅した瞬間に生まれた存在だ
この艦隊の皆は初期艦、報酬艦を除けば生後1年前後って事になる
そりゃ赤ん坊ってのも間違いじゃないかもな
散策をするもめぼしい発見は無く、良い考えにも至れず…
「腹が…減った…」
最後にご飯を食べたのは昨日の朝食、そりゃ腹も減るよ
あぁ、もう母の味噌汁は食べられないのか…
「提督、こちらでしたか」
良いタイミングだね、監視でもされてるのかな?
「ここで使えるお金をお持ちしました、どうぞ」
大淀から財布を受け取る、がま口か…
「無駄遣いは控えて下さいね」
お前は俺の母親かっ!
あーもう、母を思い出し泣きそうになる
今は考えるな
「ありがとうな、大淀」
「お気になさらず」
「でも、鎮守府でお金使う場所ってあるの?明石の店と自販機以外で」
「食堂での食事は艦隊所属者は無料です」
ふむふむ
「朝昼夜の食事以外で何か食べたい場合は朝から夕方までは間宮へ、夜は居酒屋鳳翔へ行かれて下さい」
「間宮と居酒屋鳳翔は有料って訳ね、了解」
「では食堂へ案内します」
歩き出す大淀
絶対俺の事監視してるよな?
食堂の場所はすぐに判った、間宮の裏だ
大淀が言うには間宮と食堂は併設されていて調理場は兼用なのだとか
なるほど、両施設に食事を配れるのね
ピークは過ぎたであろう朝の食堂へ入る
俺が入って来たのがわかったのだろう
艦娘達の喧噪が一斉に止む…つれぇ
こういうの一番心に来る、本当に悲しい
俺は気にしない振りをして注文をする事にした
どうやらこの食堂は間宮、伊良湖の他に瑞穂、秋津洲が手伝っているようだ
引き攣った笑顔の間宮に朝定食を頼み受け取る
少ない人数で食堂を回す知恵なのか注文して受け取るまでが早い
お膳を持ち空いた席を探そうと辺りを見回す
俺を見ていた艦娘達は一斉に視線を外した
頬を染め下を向く者、明後日の方向へ顔を向ける者
そんな状態で相席を提案する程俺のメンタルは強くない
窓際の空いた席へ座り朝食を頂く事にしよう
「失礼します」
答えも聞かず正面に座る大淀
いいけどね、寧ろちょっと嬉しいよ
アウェイ感全開のこの場では特に
食事が済みお茶で一服
美味かった、空腹補正が入ってるだろうが
補正無しでもかなり美味い
流石間宮だ!美味いご飯はテンション上がるぜ
「提督、新聞をお読みになりますか?」
「あるの?是非読ませてくれ」
これが噂の青葉通信ってやつか?
むこうの新聞程厚くは無いが鎮守府内の新聞だと考えると十分だよな
どれどれ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【早朝から淫行!?提督直々の触診検査!?】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あおばぁあああああああああああああっ!!」
目の前の大淀は勿論とても良い笑顔だった