結局、俺の住処は六畳一間のユニットバス付プレハブ小屋になった。
あの後業者さんを呼んでもらったんだけど、女子寮からずいぶん離れた所に建てられたぞ。
トイレまで歩いて三分もかかるような場所にだ。織斑先生曰くギリギリのラインらしい。
これじゃあ校舎に住んだ方がマシだろう。
織斑先生と山田先生がものすごい申し訳なさそうな顔してた。だから先生たち悪くないからね?
でも朝弱い俺にとって教室まで15分の道のりは辛いものがあった。
「二日目から遅刻とかシャレにならないな~。」
誰もいない朝の廊下を歩きながら呟く。
別に遅刻したわけじゃない。遅刻になりそうなのだ。残り十数秒で朝の鐘が鳴る。
だが走らない。だが焦らない。間に合う保証はどこにもないけど。まぁ、何とかなるだろう。
教室に入ると全員席に座り隣の人とお喋りなどしていたが、俺が席に着くまでにヒソヒソとするお喋りになっていた。
皆さん、全部聞こえてますよ。
「内海、遅いぞ。五秒前だ。」
「まだ五秒もあったんですね。てっきりあと1、2秒かと思いました。」
五秒もあれば十分。
席に座ると同時に鐘が鳴る。
織斑がこっちをちらちら見てた。鬱陶しいぞ。
休み時間になり、すぐに織斑が来た。
「秋彦・・・さんて、年上だったんっ・・・ですね。教えてくれてもよかったのに。」
「別にいいかなぁーと思って。すぐわかることだし。・・・敬語、言いにくそうだな」
「はは、昨日あんなに話したのにいきなり敬語になるのはちょっと・・・」
織斑が苦笑いになる。
おまえが一人で一方通行で話してただろう。
「その・・・敬語じゃなくてもいいか?」
「あぁ、別にいいよ」
「そっか!よかった!!」
だから笑顔がまぶしいって。ほら、女子が騒いでるよ。ついでに嫉妬の視線を向けるな。この笑顔を間近で見たいのか?見して下さいって言えば織斑なら見してくれそうだけどな。
ペットボトルをカバンから取り出し、コーラを飲みながら考える。
学園生活を満足に、十分に、十全に過ごすにはどうすればいいか。ここでいう満足十分十全とは、俺に誰も危害を加えないことだ。
その環境を作るには、極力、敵、味方を作らないこと。敵は言わずもがな。では味方は何故か?味方を作ることは間接的に敵を作ることになる。例えば、織斑を味方にしたら先ほどの視線の持ち主や、織斑信者どもが敵にあたる。
・・・・すでに敵ができてるよ。どうしてくれんだよ織斑。初っ端から難易度上げやがって。俺はお前の味方になった覚えはないぞ。どうにかして織斑を引きはがさないと。一体どうやって・・・まぁそれは後から考えよう。織斑は極端な例だけど、誰にでも好かれる奴なんていないわけでして・・・つまり中立を保ちましょうということ。それなりの付き合いはさせてもらうよ。
あとは外部からの介入対策なんだけど・・・・どうしたものか。
バンッ!!
「あなた!!聞いていますの!!」
「ん?あぁ・・・ごめん、考え事してた。」
ぱつきんのネエチャン否、金髪の白人さんが俺の机を叩いていた。
いつの間にか話しかけられていたようだ。
「まったく、わたくしの話の最中に考え事をするなんて・・・考えられませんわ。まさか年上だからという理由でいい気になってるんですの?」
「考え事の最中に君が話しかけてきたんだけどなー。」
「あら。「いい気になっている」というのは訂正しないんですわね。」
「まぁ、少なからずそういう気持ちは持ってるからな。あながち間違いじゃないさ。ところで・・・・君だれ?」
「やっぱ秋彦もしらなかたっか。」
「あ、あなたもですの?!これだから世間知らずの男は困りますわ。」
金髪が額に手を当てて大げさに首を横に振る。
織斑以上にめんどくさそうなのが来たな。
「もしかして有名人だった?政治には疎いんだ。許してくれ。」
「秋彦、政治は全く関係ないぞ。」
「いいですわ!!教えて差し上げます!!わたくしはイギリスの代表候補生にしてこのIS学園に主席で合格したセシリア・オルコットですわ!!」
ドーンと効果音が付きそうな勢いで指をさしてきた。
「フーン。主席ってことはやっぱ試験があったんだな。」
そりゃそうか。ISを使うこと以外は他の高校と何ら変わりはないならな。
「あれ?秋彦は受けてないのか?」
「時間がなかったからな。正直、主席がどれくらいすごいのかわからん。東大の主席とかならわかりやすいんだけど・・・」
「そう。でしたら唯一教官を倒したわたくしの凄さがわからないのは仕方ありませんわね。」
フフンッと言いながら歳にしては豊満な胸を張る。もうちょっと下から見たいな。うん・・・実に惜しい。『教官を倒した』ってことはISを使った試験か?
「俺も倒したぞ、教官」
「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないか?」
「つまり・・・わたくしだけではないと?そんな」
キーンコーンカーンコーン
オルコットさんの言葉遮るようにチャイムが鳴る。チャイム、なかなかいい仕事をする。
「またあとできますわ!!」
「大歓迎」
「しねぇよ、っと俺も座らないとな。」
おう、お前は二度と来んな。
今日の放課後はなにをしようか。学園内でも探索しようかなー。
「はい!織斑君がいいと思います!!」
「はいはい!!私も!」
「お、俺!?」
いや、待て、早まるな。無暗に出歩かない方がいいな。どうせオルコットさんみたいな人が絡んでくる。・・・気軽に外も出歩けない。世知辛い世の中だ。
「他にいないのか?いないなら織斑で決定だ。」
「待ってください!納得がいきませんわ!!」
んーーーならどうする。・・・・ひきこもるか?あの何もない六畳一間の空間に?・・・ないな。却下。
「そのようなことは認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに一年間そのような屈辱を味わえといいますの!?」
「実力から言えばクラス唯一の代表候補性のわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
あの部屋は寝るためだけにあるようなものだからな。時間ギリギリまで学校にいたい。そっちの方が便利だ。主にトイレとか、トイレとか。
「そもそも文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い屈辱で―」
「イギリスだって世界一飯のまずい国で何年覇者だよ?」
「な…わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にしてきたのはそっちだろ。」
となると、時間の潰せる人目のつかない所といえば図書館だろう。これ定番。
「決闘ですわ!」
「ああ。四の五の言うより手っ取り早い」
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら早速ハンデのお願いかしら?」
そういえばISの練習ってしていいのだろうか?やっぱ予約とかいるのかなー。とりあえず保留。
「いやあ…俺がどのくらいつけたらいいのかって」
「織斑君、それ本気で言ってるのー?」
「男が女より強かったって言うのは昔の話だよ?」
「今女と男が戦争したら三日で男が負けるんだよー。」
「・・・じゃあ、ハンデはいい」
放課後は図書館で時間を潰して飯食って帰って寝る。よし、これでいこう。
「ついでに、そこで我関せずに徹しているあなたも自分の立場をわからせてあげますわ。」
「・・・・・・・ん?何か言った?」
頬杖をついている顔を少しだけオルコットさんに向ける。
「ですから!あなたのその態度を改めてさしあげると言っているのです!!」
何をそんなに怒っているんだ。織斑とオルコットさんだけが立っていることを考えると・・・またやらかしたのか。いや俺が無視してしまったせいか。
「えぇーーめんどくさいな。」
「このセシリア・オルコット自らあなたを矯正してさしあげるのに何て言い草。」
・・・ん?セシリア・オルコット自ら?ってことはISを使うのか?つまり模擬戦か。話聞いてなかったからわからん。ISは操縦してみたい。メカに乗るのは漢の浪漫だ。
「だが断る」
うん。言ってみたかっただけです。
「なぜですか!?」
だって代表決めで模擬戦とか絶対目立つだろ。
「俺は君と”試合”をする義務も権利もない。いや、権利は一応あるのかな?ともかく、別にやらなくてもいいなら俺はやらない方を選ぶ。」
なによりもめんどくさい。そんなこと言えない絶対に言えない。
あぁ、でも次に言われることが予想できててしまう。
「そう・・・そこまでおっしゃるなら・・・・わたくしはあなたをクラス代表に推薦いたしますわ!!」
「なっ、なんだってー!!(棒)」
織斑の昼食の誘いを粗雑に蹴り、外のベンチでカツサンドをほおばる。
織斑とオルコットさんの二人と模擬戦をすることなったのだけれど。
イギリス代表候補生セシリア・オルコット。IS搭乗時間300時間以上。専用機:第三世代型『BLUE TEARS』ブルーティアーズ。タイプ:中距離射撃型。主兵装:六七口径特殊レーザーライフル『STAR LIGHT MK.Ⅲ』 近接兵装:近接ショートブレード 『インターセプター』特殊兵装:自立機動兵器『ブルーティアーズ』。
世界初IS男性適合者 織斑一夏。IS搭乗時間30分未満。搭乗機:不明。戦型:不明、しかし幼少期に剣道場に通っていたため近接の可能性大。実力は未知数、ただしIS世界最強織斑千冬の弟のため化ける可能性大。
○oogle先生が教えてくれた情報をまとめてみた。ここに俺の情報を入れるなら、
世界二番目IS男性適合者 内海 秋彦。IS搭乗時間・・・8秒!!搭乗機:なし。戦型:オールマイティ・オールレンジ。
起動した瞬間に連れてかれたから10秒も乗ってない。戦型の欄はゲームでもこんな感じだったからだ。オルコットさんには勝てない。『だろう』ではない。断定である。織斑は・・・わからない。でもおそらく負けるだろう。理由はまた後日。
練習期間は1週間。織斑だけに勝てる見込みは5~15%ってところ。手を抜くつもりは毛頭ないさ。誰が何と言おうと俺のやり方で試合う。つまらない意地だけども、これだけは捨てられない。
よし、放課後の訓練機使用許可はとった。図書館で時間を潰す予定だったけど、まぁいいさ。
カツサンドの包装を丸めて隅のゴミ箱に投げる。これが入ったら誰かにIS操縦を教えてもらおう。うん、それがいい。
丸められたビニールはパリパリと音を立てながら放物線をなぞる。
さて、願いましては