平々凡々   作:四識

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久々


七話

早朝、秋彦は難しい顔をして教室へ歩みを進めていた。

一点を見つめてると思えば首をひねり、空を見上げたかと思えば眉を顰めたり。

 

秋彦は昨日の模擬戦でセシリアに対して、罪悪感に似た何とも言えない感情を抱いてしまった。

それが不意打ちに対してなのか、逃げるように降参したことに対してなのか自身でもわからない。

ただ謝らなければならないという思いがあるのは確かだ。

しかし先の通り何に対して謝ればいいのか。

 

秋彦はこの手の感情が大嫌いだ。自分の行動によって人が傷つき、そして"嫌われないか"という考えが付きまとう。その後友好的な態度をとられても"本当は嫌ってるんじゃ・・・"と考え、嫌われるようなことをした自分を嫌悪。そして無限ループ。

名前も知らない他人ならまだしも、セシリアは本音をぶつけるため好感が持ててしまう。

さっさと謝ってこの感情を払拭しないと精神衛生上悪い。ちょっとだけ。

 

あーでもない、こうでもないと謝る理由を見つけられないまま教室の扉の前へ。

 

 

教室に入れば多くの視線と罵声。入学してからの一週間、ようやくなりを潜めてきたのに今度は質も量も増えていた。

 

「うわ、卑怯者が来たよ。」

「よく顔見せれるよね。何考えてんだか。」

「あんなのと同じクラスとかホント恥ずかしいわ。」

 

一夏がまだ来ていないことをいいことに言いたい放題の生徒。

今、内海はそんなものは気にしていない。

教室を見渡し、彼女―セシリア―を見つける。堂々とした眼差しを持ちこちらに向かっている。

お互いの視線が絡み合うがどちらも目を逸らさない。

そして教室の後ろ側―最もスペースのある場所で対峙する。これから喧嘩でも始めそうな雰囲気に周りは静まり返る。

先に口を開いたのは秋彦、だが、

 

「オルコッ「内海さん」はい。」

 

出ばなをくじくかのように秋彦の言葉を遮る。

 

「一つだけ、あなたに言いたいことがあります。」

 

「・・・どうぞ。」

 

恐る恐る先を促す。

 

十中八九、昨日のことに対してなんだろうが。どんな罵倒が出てくるやら。

 

 

「私はあなたが嫌いです。」

 

「うん?」

 

 

予想のななめ上の罵倒だ。

 

「軽薄な態度が嫌いです。悟ったような物腰が嫌いです。コロコロと変わる口調が嫌いです・・・昨日、あのような屈辱を与えたあなたが大嫌いですわ!!」

 

「・・・そう。・・・なんで俺に直接言うんだ?」

 

「・・・・?。あなたに言わずに誰に言うんですか?こんなこと。」

 

「・・・・・・」

 

もっともな意見だ。だが嫌いな人間に嫌いと言える人は極わずか。

実際、秋彦に直接突っかかってきたのは今の所セシリアだけだ。そう考えるとセシリアはやはり感情をぶつける人のようだ。

 

「でも、それ。言う必要ある?」

 

「ありますわ。私に嫌われてることを自覚してもらわないと・・・。話しかけられると耳障りでしてよ。」

 

あなたは嫌われてるから話しかけるなと。もっと言えば関わるなと。随分な言いようである。

しかし、秋彦はそんな言葉を聞いても存外にすがすがしい表情だ。

前述の通り、本音を吐露してくれた方が秋彦にとっては気分がいい。

しかしそんな良い?気分に水を差す輩がいる。

 

「ははは。言われてやんの。」

「やめなよ。泣いちゃうわよ。」

「むしろ自殺しちゃわない?それはそれで面白いけど。」

 

そんな言葉がどこからともなく聞こえる。

 

お前らなぁ

せっかく、色々と波風立たせないように気を使ってるのに・・・・・

 

「・・・・」

 

誰が?俺が。

誰に?そこで毒吐いてるやつらに。

 

 

「あーあ・・・・・めんどくせぇ」

 

 

「何かおっしゃいましたか?」

 

突如、目が半開きになり一切のやる気が霧散した秋彦の異変にセシリアが気づく。

 

「んにゃ・・・別にー」

 

 

そういえばオルコットさんに言うことあったんだ。

 

「話しかけるなとか言われといて悪いんだけど、俺も一言、言いたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「・・・・構いませんわ。」

 

「昨日の試合の件について」

 

 

 

「ごめん。」

 

「は?」

 

「ああ、勘違いしないでくれよ。許して欲しいわけじゃないんだ。俺が謝りたいから謝っただけだから。」

 

ツンデレテンプレセリフそのままだ。

 

「そんなこと別に聞いてませんわよ。ただあなたも謝罪くらいはできるんですのね。」

 

「ははは、ひどい言われようだ。」

 

秋彦は自虐的に笑う。

 

 

 

「それにしても嫌いな人に直接--それも公衆の面前で大嫌い宣言をするとは驚いたよ。流石はオルコットさん。伊達にイギリス代表候補生やってないな。そこらへんの”有象無象”の生徒とは言うことが違うね。」

 

「「「何ですって?」」」

 

”有象無象”と強調して言ったところ、わざとだろう。

 

次いで非難の一斉掃射。一気にクラスが騒がしくなる。

 

 

「あれ?言い過ぎた?みんな沸点低いなー。これが俗に言うヒステリー?」

 

 

ニヤニヤと笑い面白全分で煽る。

”みんな”とは言ってもクラスの2/3程度。

 

「あなた一体何がしたいんですの?」

 

あきれた顔で秋彦に問いかける。

 

「わかんね。意趣返し?それよりも今の彼女ら。どう思う?」

 

次々と汚い言葉で罵る人間が10人強。

 

「・・・・醜いですわね」

 

秋彦にだけ聞こえるようにつぶやく。

 

「やはりオルコットさん。わかってらしゃる。親しみを込めてセシリーと呼ぼう。」

 

「おやめなさい。そんなことよりもこの騒音、早く止めてくださいます?」

 

ちなみに話しかけるなと言っておいて25行で話しかけたのはセシリア。

 

「I got it.」

 

 

そう、かっこつけると大きな声で言った。

 

 

 

「汚い言葉ばかり話す女性のことをー」

 

 

 

「君はどう思うかなー」

 

 

 

「ねぇ。織斑君?」

 

 

教室の最前の-全ての生徒を飛び越えた先に投げかけた。

秋彦以外の生徒が風切音が聞こえそうな速さで後ろを振り返る。

 

 

がそこには誰もいない。誰かが安堵のため息を漏らすのが聞こえた。

 

 

「よかったな。愛しの織斑君には本性を知られずにすんだぞ。」

 

視線を戻せばいつの間にか席に座った秋彦が、冷たい瞳で椅子を揺らしていた。

 

「誰もいないじゃない!」

 

一番野次を飛ばしていた生徒が言った。

 

「嘘だからな。気を付けろ、俺は嘘つきだぞ。」

 

「それでしたらパラドックスが発生してしまいますわよ。」

 

オルコットさんが言及する。

 

「そう。嘘つきのパラドックスだ。俺が嘘つきなら「俺は嘘つきだ」という発現自体が嘘であり、本当は嘘つきではない。嘘つきではないなら「俺は嘘つきだ」と言った発言は正しく、本当は俺は嘘つきである?ここで矛盾が生じる。だがこれは嘘つきの発言は全て嘘だと仮定した場合の話である。嘘つきが真実を50%、嘘を50%の確率で言うのだとしたら真実と嘘、両方を内包するわけだ。ここで皆大好き、猫箱理論が出てくるんだけども、そもそも猫箱理論ていうのは・・・」

 

わけのわからないことを説明しだす。

 

「そんなことはどうでもいいのよ!!」

 

「俺はあれが好きだね。京極堂が干菓子食べてるのに「これは仏舎利だよ」ていうあのシーンがわかりやすい。」

 

「だからっ!」

 

ガラッ

 

「なんだ?怒鳴り声が聞こえたけどなんかあったのか?」

 

「お、織斑君。おはよ~」

 

おはようと挨拶が飛び交う。

そんな光景を秋彦はわかりやすいと思い眺める。

事態はとりあえず収束した。

 

 

「ねぇ~ねぇ~、ウツミン。」

 

「・・・ぅん!?俺か?えーと・・・」

 

「布仏本音だよ~。内海だからウツミンって呼んでいい~?」

 

「布仏・・・袈裟?...え?あー別に構わないよ。ところで何か用かな?」

 

「あんなこと言って大丈夫~?これから過ごしにくくならない~?」

 

「元々過ごしやすい環境でもなかったし。心配してくれるのかい?本音さん」

 

「えへへ~。」

 

小恥ずかしいのか、幼い子供の用に照れる。

秋彦の胸には何か暖かい感情で満たされていく。

 

秋彦はいつぶりかになる言葉と、最上の笑顔で純度100%の感謝を本音に示した。

 

 

 

「ありがとう。」

 

本音は綺麗だと思った。秋彦は一夏のように特別、顔の作りが良いわけではない。それでも本音が今まで見た中では最上級の笑顔の一つだろう。いつも笑っている本音はここぞという時に最高の笑顔を作ることのできる彼を少しだけ、うらやましく思った。

 

「えへへ~。どいたしまして~。」

 

「ほら、鐘が鳴りそうだよ。」

 

「ほんとだ~。それじゃあまたね~。」

 

本音はダボダボの袖を振り、秋彦は手首だけを振る。

 

――――ちょっと本音!?何してるの!?

――――え?ウツミンとお喋りしてんだよ~。

――――変な事されなかった!?卑猥な事言われなかった!?ぐへへ~お嬢ちゃん良い体してんじゃねぇか~とか言われたんでしょ!?

――――ええ~。ウツミンはいい人だよ~

 

 

 

本音さん、ええ子や。IS学園生徒の最後の良心だ。本音さんのためなら俺・・・死ねる!!おい、ちょろいとか言ったな。いいぞ、もっと言ってくれ。

 

 

 

 

 

 

それにしても

 

 

秋彦は窓から青い、青い空を見上げ呆ける。

 

 

俺のキャラぶれぶれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、秋彦は学園内を探索していた。入学から漸く暇が出来た彼は娯楽を探すために100%オレンジジュース片手に歩き回る。探索といっても散歩しながら、部屋を覗き込んだりぐるっと部屋を一周したりして感じを掴む程度だ。

 

教員室、資料室、図書室、購買、食堂の裏方、保健室、体育館、倉庫、アリーナ。余すところ無く散策する。

そして今は整備室前。

 

「お邪魔しまーす。」

 

許可なく、容赦なく入室する。今まで入室に許可など取ったことはない。

 

「よくわからん機材しか置いてないな。」

 

いくつかのブースを見て行き、部屋で唯一明かりのついたブースの前にたどり着く。そこにはISの前でキーボードを打つ少女が一人いた。

 

「こうしてみるとISって結構でかいな。」

 

思ったことを口にしてみる。その声が聞こえたのか少女が振り返る。

 

「誰?」

 

「誰でしょう?」

 

 

 

「男・・・おりむ」

「はぁ~~~」

 

突如、盛大にため息をつき座り込む。

 

「心外だ。あんな他者を一切顧みないような奴と間違えるな。首吊って死ぬぞ。」

 

秋彦は心底不満な様子で目じりを下げる。

 

「え?あの・・・ごめんなさい。」

 

そこまで思うものなんだろうか。

 

 

 

「ところで何してるの?プログラミング?」

 

「・・・そんなところ。」

 

今の作業を説明しようと思ったが、自分は一応は代表候補生。必要があるのかはわからないが、隠せるなら隠しといたほうがいいだろう。

 

「ふーん。」

 

ズズッとストローでジュースを飲む。

 

 

「俺も一時期挑戦したな。挫折したけど。if文とwhile文を分ける意味がわからん。」

 

「それは基礎の基礎。」

 

「・・・手伝おうか?」

 

「え!?」

 

少女は豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「ねじの開け閉め位できるかなーと思って。」

 

「今の作業でねじは使わない。」

 

「ミリねじとインチねじの違いって何?」

 

「・・・・・」

 

「冗談だよ。」

 

少女はふと疑問に思った。

 

「なんで?」

 

「うん?」

 

「初対面の人にそんなことできるの?」

 

少女―更識簪―は出会ってから五分も経ってない人に手伝いを申し出る事なんて、とてもじゃないができない。

 

「んー君って俺のこと嫌ってない数少ない希少人物みたいだから、ここで誠意を見せておこうと下心がここにあるからね。きっと君の中で俺の株はうなぎのぼりに違いない。だろ?」

 

「それはない。」

 

ガクッと項垂れる。

 

 

随分と忙しい人だ。

 

 

 

「まぁいいや。知り合いくらいに留めてくれれば重畳だ。」

 

「それくらいなら・・・・」

 

秋彦は納得したように、うん!と頷き、立ち上がる。

 

 

 

「でも声はかけないでね。」

 

「え?」

 

 

「下手したら君もハブられるかもしれないからね。」

 

 

頭でその言葉を噛み砕き、なるほどと思う

 

 

「それじゃあ、縁があったら。」

 

足早に整備室を出ていく。

出来るだけ、他の人に見られないように秋彦なりの配慮だろう。

 

 

 

簪は彼に対して違和感を感じた。彼の嫌われ振りは四組にも届いている。事あるごとに織斑一夏と比べられ、罵倒されいじめられる。まだ一週間ほどの短い時間だが、多少塞ぎ込んでも仕方がないと思う。だが簪から見て彼はそんな陰りを少しも感じさせなかった。隠しているのか、何とも思ってないのか。

そして少しの好感。

――――心外だ。あんな他者を一切顧みないような奴と間違えるな。首吊って死ぬぞ。

あの言葉は織斑一夏を嫌ってる事を意味する。敵の敵は味方のような感覚だ。その感情には共感できる彼女はいくら嫌われているとわ言っても、彼を悪い人とは思えなかった。

 

 

 

 

 

「あれが二人目の男性適合者、内海秋彦。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よっしゃあぁぁぁぁっぁ!!最後は射撃場だぁぁぁぁ!!俺のソードカトラス捌きを見せてやるぜぇぇぇぇ!!

何?学内に持ち主がいるだって?何を馬鹿な・・・・。

 

 

 

ところで、あの子名前なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。てっきり全く動かせないものだと思ってたよ。」

 

「まぁEランクの女性など今まで見たことがないですからな。」

 

「データ上は?」

 

「稼働率7.8パーセント。これはひどいわね。」

 

「使い物にはならないかね?」

 

「これならそこらの女性を攫って来たほうがマシです。」

 

「つまり戦力的には価値がないと。」

 

「政治的価値も極わずか、サンプルデータの価値しかない。つまらないなー。」

 

「彼の周りの環境から引き込むことは容易いが、得るものが少なすぎますな。」

 

「それは現時点では、だ。」

 

「確かに一人目が死んだりしたら、二人目だけだからねー。」

 

「準備はしておくべきかと・・・」

 

 

 

「では二人目がISに搭乗した際のデータは引き続き取得してくれ。」

 

 

「では本題の一人目の織斑一夏について・・・」

 

 

 

 

 

 

 




――――猫箱理論
     あれって元々は「見てみないとわからない」ていう哲学的観点じゃなくて「生きてる状態と死んでる状態が重なってる」っていう量子力学的観点みたい。・・・合ってる?

――――嘘つきのパラドックス
     迷宮兄弟を思い出す。

――――これは仏舎利だよ。
     京極夏彦 姑獲鳥の夏より

――――ソードカトラス
     トゥーハンド。中の人ネタ


無駄に書いてる気がするから次からスリムに行こう。
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