ダンジョンに転生者がいるのは間違っているのだろうか 作:黒歴史
「そうだ。ベル君、昨日のあの本を見せてくれよ。今日は昼まで暇なんだ」
「いつつ…はい、いいですよ」
俺のアイアンクローから解放されたベルは頭を抑えながらヘスティア様に本を貸した
「ふぅん、見れば見るほど変わった本だ、な…ぁ?」
表紙をじろじろ見て、何ページ目か目を通したヘスティア様は、途中で動きを止めた。あぁまた何かトラブルが出てきたんだなと感覚でわかった
「……コレは、
「ぐ、ぐりもあっ?」
「それって確か…」
魔法の強制発現書、『魔導』と『神秘』と言う希少な発展アビリティ二種類を極めた者にしか作成できない著述書
要するにLv3以上であり、発展アビリティを極める…つまりはLvが5、6の者がこれを作ったと言ってもあり得る代物である
それを聞いたベルは固まり、石に変わった
「ベル君が魔法を使えるようになったのはこれが理由だね……。ちなみにベル君、この魔道書は一体どういう経緯でここに存在しているんだい?」
「知り合いの人に、借りました……。誰かの落し物らしい、デス……ネ、ネダンハ……」
「【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等、あるいはそれ以上、つまりは2000万とかそれ以上だ。しかも、一回使ったら効果は消えてただのゴミに変わるんだよ。ハァッハッハッハッ!!!
……笑えねぇ」
本当に笑えない。終わった。このファミリアにそんな金などあるわけがない。重苦しい沈黙がホームに落ちる
ヘスティア様はトコトコとベルに近づきポンと手を肩に置き、俺に本を差し出してきた。何をすれば良いか分かった俺は無言で頷き本を持つ
「いいかいベル君。今から本は天高く飛ぶ。どこに落ちようが知った事ではない。落ちた時にはボク達の手元には魔道書なんてない。というか、魔道書なんて最初から持ってなかった。……そういう事にするんだ
というわけでやれぇ!ヤミ君!」
「分かったぁぁぁぁぁあ!!!」
「黒いですよ神様!?何普通に証拠隠滅しようとしてるんですか!?ヤミさんもやめてください!!」
地下室からでて行こうとする俺の足をベルが掴み、そのベルの手をヘスティア様が剥がそうとする
「ベル坊!男にはなぁ!やらなきゃいけねぇ時があるんだ!それは今だぁ!!」
「証拠隠滅する事が男のやらなきゃいけない時なら僕は男じゃなくてもいいです!!!」
「ベル君、下界は綺麗事じゃまかり通らない事がたくさんあるんだ!ボクはこの目で見てきた
住む場所を追い詰められたり、ジャガ丸くんを買えないほどひもじい思いをしたり、廃墟の地下室に閉じ込められたり……とんでもない負債を背負わされたり。世界は理不尽で満ち溢れているんだ」
「それはひとえに神様のせいですっ!」
「「「うわあああああああああああああああああ!!!」」」
……………
ベルの力によって本はベルの手に渡り、三人全員疲れて倒れ伏していると一番最初に回復したベルが口を開いた
「ゼェ、ゼェ……と、とにかくっ、この本を貸してくれちゃった人に、僕、事情を話してきます…」
「ハァ…ハァ…べ、ベル君、寄せっ、君は潔癖すぎるっ…世界は神よりも気まぐれなんだぞ…」
「こんな時に名言生まないでください!?隠したっていつかバレるに決まってるじゃないですか!ヤミさんも行きますよ!」
「なんでだ?!俺が謝る必要ねぇじゃねーか!!借りたのも読んだのもベル坊一人じゃねぇか!?」
そう言うとベルはもじもじとしながら答えた
「その…怒られる時、僕の代わりにヤミさんが怒られるかもしれないなーなんて…」
「ヘスティア様!ベル坊が黒いぞ!下手するさっきの俺達以上の黒さがあります!!」
「ヤミ君…頑張って…ガクッ…」
「ヘスティア様ぁぁぁぁあ!!!」
「シルさんはいますかっ!」
「おおう、少年じゃニャいか。おっはー、ニャ?青年はなんでそこまでへばってるニャ?」
「さっきまで一悶着あってな…とりあえず、シルさん呼んでくれ…」
俺がそう言うとキャットピープルのクロエさんだったか?その人が尻尾をニョロニョロ振って笑いかけてくる
「何ニャ、何ニャ?挨拶も忘れてシルを呼べだニャんて、朝っぱらから何をやらかす気「シルさんを呼んでくださいっ!!」ニャア!?わ、わかったニャ!?」
ベルの剣幕と切羽詰まった叫び声に普通じゃないただならないものを感じたのか、慌てて店の中へ駆け込んで行った
すぐにクロエさんは扉から顔だけ出してちょいちょいと手招きしてきた。店の中に入るとシルさんが立っていた
「おはようございます、ベルさんヤミさん。どうかしたんですか?」
「シルさん!」
ベルがシルさんを見てすぐに詰め寄りあらましの説明をした。だが話が進んでいくうちに瞳を丸くし、顔色を変え、終わる頃には目をそらしていた
「……それは大変な事をしてしまいましたね、ベルさん」
「ちょっとシルさーんッ!?何でさも他人事見たいに言ってるんですか!?」
シルさんは手にしているトレイを唇の辺りまで持っていくと、顔の半分を隠し、上目遣いで見つめた
「やっぱり、ダメですか?」
「すっごく可愛いけどダメッ!」
やっぱり魔女だわこの人。さて、どうしようか大金なんて俺達にあるわけないし…
「うっとおしいよ、坊主共。人様の店で朝っぱらから」
「共ってなんだよ共って…俺は何も言ってねーぞ女将さん」
騒ぎを聞きつけてかミアさんが姿を現した。無意識に出ているのか威圧感でベル達の動きが止まってしまう。俺はギリ大丈夫だった
「貸しな」
「アッハイ」
ミアさんに言われ俺は持っていた本を差し出すとミアさんはパラパラと内容を確認する
「確かに魔道書だねぇ……でもま、読んじまったもんは仕方ない。坊主、気にするのは止しな」
「ええっ!?で、でもっ……」
「どうか読んでくださいとばかりに店に置いて行った奴が悪い
誰だって貴重な魔道書を見つけたら、自分のものだと嘘をついてまでそこら辺の冒険者が目を通していたよ
コレはそういうモンさ
手放した時点で持ち主も覚悟はしているさ。坊主だって金の詰まった財布をなくしたら、そっくりそのまま返ってくるなんて思わないだろう?」
説得力のある言葉にベルが納得したところで「じゃあこの本は空に向けて…」と言って投げる構えを取ったがミアさんに「物を粗末にするんじゃないよッ!!」と言ってぶん殴られた
ちなみにこの後いつも通りシルさんからサンドイッチの入ったバスケットを貰った
装備を身に着けていつも通りリリとの集合場所でベルと待った。だが
「リリ、遅いね」
「ああ、また何か面倒な事に巻き込まれそうな気がしてきた…」
「仮に巻き込まれてもヤミさんなら助けるでしょ?」
「当たり前だろ」
そんな話をしながら待っているとある光景が俺達の目に移った。見ると大の大人3人が小さなリリを取り囲んでいる
彼等は凄い形相で何かを言い放っており、リリは必死に頭を横に振っていた
「先行くぞー」
「あ!待って!」
見た瞬間に動いていたベルの言葉を無視、自分の言葉だけを残してその騒ぎの中に入って行った
「ヤミ様?!」
「なんだぁ。お前?邪魔でもする気か?」
男の一人が俺に問いかけてきた。俺はハァッとため息を吐き
「質問は一つずつにしろよな。まぁいいや最初の質問に対してはこのサポーターとパーティを組んでる二人組の一人だ。二つ目の質問は…
『はいそうです』とだけ答えようか」
「は?このチビの……」
「「「…クッ……ハッハッハ!!!」」」
急に男三人が笑い出した。なんだぁ?と首を捻っていると笑いながら男が喋り出した
「ククク……おいガキ。弱いやつを助けてそこらの英雄気取りですかぁ?英雄ごっこならお家に帰ってやりな。今俺達は大人の話をしてんだよ」
「悪いが俺は英雄ごっこしてるんじゃない。パーティのメンバーを助けるために動いてんだ…
別に戦ってもいいが、冒険者同士の争いは禁じられてるからなぁ
それに今戦えば多対一で暴力を振るったってことでお前らの方が厳重な処罰ってのを受けるんじゃあないか?」
「……チッ」
流石に処罰を受けるのは嫌なのか男達は俺に背を向けて歩いて行った