ダンジョンに転生者がいるのは間違っているのだろうか   作:黒歴史

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第57話祝いの酒に飲みすぎも何もない

 夜を迎えたオラリオは騒がしさを増していた

 酒場や広場から流れてくる陽気な歌声と弾奏。街のあちこちで魔石街灯が発光し、迷宮帰りの冒険者を加えた通りは人込みで溢れかえっている

 そんなオラリオの中でも一層騒々しいのは南のメインストリート。目抜き通りに軒を連ねる店は全て高く、大きく、外館は豪華で派手派手しい。貴族が利用するような高級酒場や賭博場、大劇場など、都市の他の場所ではお目にかかれない施設まで数多く建っている

 そんな大通りから折れた、路地裏の一角

 

「ーーーーそんじゃまぁ、ヴェルフの【ランクアップ】を祝して……」

 

 鳥や獅子など、様々な動物を象った看板が立ち並ぶ酒場の一つで、ヤミ、ベル、リリ、ヴェルフはジョッキとグラスを掲げて重ね合った

 

「「「乾杯!」」」

 

 ガチンと音がすると同時にエールの泡が弾け、ジョッキからお酒が溢れ落ちる

【ファミリア】のエンブレムとも似た、真っ赤な蜂の看板を飾る酒場『焔蜂亭(ひばちてい)』。繁華街の裏の道に佇んでいるこの店は、ヴェルフ行きつけの酒場らしく、一部の鍛治師には人気があるようだ

 路地裏の店だけあり、『豊穣の女主人』よりは少々狭苦しいだろうが、移動に苦労するほどの沢山の丸テーブルや、小汚い店の内装、そしてドワーフを始めとした男達が笑い合う大声でさえも妙に心を浮き立たせる

 小人族の給仕がちょろちょろ動き回る中、ヤミとベルとリリは対面のヴェルフに笑いかける

 

「【ランクアップ】おめでとう、ヴェルフ!」

「これで晴れて上級鍛治師(ハイ・スミス)、ですね」

「ああ……ありがとうな」

「美味いなここの酒」

 

 鍛治師と上級鍛治師とでは中々に違う。1番違うのは主神様と幹部連中に認められた物だけだが【ファミリア】の名を使えると言うこと、これは日本で言うブランド物だ

 しかも、ギルドで【ランクアップ】が発表されるため、ヴェルフの鍛治師としての名は一気に広がるのだ

 

「でもこれで……パーティ解消、だよね?」

 

 ベルが寂しげな声を出す

 ヴェルフが俺達のパーティに入ったのは『鍛治』のアビリティを手に入れるため、上級鍛治師になった時点でその約束は終わってしまっている

 

「そんな捨てられた兎みたいな顔するな」

 

 ジョッキを手で軽く回しながら、ヴェルフは言葉を続ける

 

「お前達は恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」

「えっ……」「おお、マジか」

「マジだ。呼びかけてくれればいつでも飛んで行って、これからもダンジョンにもぐってやる」

 

 だから心配するな、とヴェルフは快活に笑う

 それに続いて俺も笑い出し、目を丸くしていたベルも笑い、目を細めていたリリもまた笑う

 

「それにしても、ヴェルフがパーティに入って……どれくらいだったか?」

「二週間ですよ。でも、確かに【ランクアップ】するのもあっという間でしたね。もうちょっと時間がかかると思っていました」

「お前達と組むまで、それなりに修羅場はくぐってきたつもりだからな確かにここまでくるとは俺も思っていなかったが……『中層』で5回は死にかけたし、な」

「あはは……」

 

 話している間に料理はどんどん運ばれてくる。ハムステーキ、鯛の蒸し焼き…それらをパクパク食べて酒を飲む

 うん、やっぱ美味い『豊穣の女主人』に勝るとも劣らない…代金はあちらが上だし、俺もここを通うか?

 

「ベルは【ランクアップ】しなかったのか?」

「うん、僕はまだ」

「Lv1と2じゃ強さが違う。その代わりに必要な【経験値(エクセリア)】も違うからな」

「最後の戦闘に限っては、ほぼリュー様の総取りでしょうからね」

 

 最後の戦闘……ゴライアスとの決戦

 直接ゴライアスと戦闘した者、召喚されたモンスターの大群を受け持ってくれた人達の数の合計は五百人に登る

 集団戦の法則により、手に入れる【経験値】は分配される

 その中でもゴライアスを食い止めるため命懸けで近接戦闘を仕掛け続けていたアスフィさんとリューさん…とりわけリューさんの活躍は著しく評価されたはずだ

 俺は途中気絶したり、吹っ飛ばされたり……まあでも

 

「俺はr「……結局、なんだったんだ、あのゴライアスは?」

 

 俺が口を開いた瞬間にヴェルフが言及する。例の事件を振り返るためにベル達は自然と顔を寄せ合い始めた

 …大事なことだから話すのをやめにして俺もそれに加わる

 

異常事態(イレギュラー)としか言いようがありませんが……間違いなく前代未聞でしょう、安全階層(セーフティポイント)に階層主が生まれ落ちるなんて」

「能力も普通の階層主より上だったんだろう?上級冒険者が虫みたいに吹っ飛んでたぞ。あんな事がこれからも続くようなら、命がいくつあっても足りない」

「そう、だよね……」

「大丈夫。あんな異常事態なんてそうそうないって……多分」

 

 うーん。中層で死にかけた事とゴライアスの件があるから完全にないと否定しきれないのが怖いところだ

 

「ま、これ以上話してもしょうがないか……世間の方は今どうなっているんだ?」

 

 空気を入れ替えるようにヴェルフが言葉を投げかける

 事件の後始末や現在の状況について、情報交換を始めた

 

「ギルドが真っ先に箝口令を敷きましたから、都市や冒険者の間で目立った混乱はないみたいですね。詳細を知っているのは、当事者であるリリ達だけでしょう」

「絶対口外するな、って徹底されたし……」

「『罰則(ペナルティ)も厭わない』、おお怖え怖え」

「18階層の『リヴィラの街』は既に機能を取り戻しているそうです。ダンジョンもあれから変わった動きはなく、平常通りだと」

 

 盗賊業をやっていたこともあり情報には敏感なのか、リリがほとんどの現状報告をしていく

 

「そういえば、お二人は大丈夫なのですか?ギルドに言いがかりをつけられて、罰則を課せられたと聞きましたが?」

「あー、うん……」

「つーかその情報まで持ってるって凄いな

 まぁ簡単に罰則の内容を言うと、罰金だ」

 

 本当に簡単にそう言うとリリが質問を一つ

 

「罰金の額はおいくらだったんですか?」

「【ファミリア】の資産の半分だ。ヘルメス様達には同情しかないな」

 

 数十万ほどで済んだ俺達の【ヘスティア・ファミリア】と違い、【ヘルメス・ファミリア】には蓄えがあったらしく、俺達とは桁が違いすぎる金額を請求された。真っ白になって燃え尽きていたヘルメス様の顔が全然頭から離れない

 

「リリ……大丈夫?」

 

 ベルの声を聞きハッと戻ってくるとリリを見る

 …様子がおかしい?なんかこう…心ここに在らずみたいな…

 指摘されたリリは「すいません。ぼーっとしていました」とすぐに明るく元気に笑う

 

「ベル様も、ヤミ様も、先日の事件で随分株が上がったことだと思います。少なくともあの階層主攻略(たたかい)に参加した冒険者達には、認めてもらったのではないでしょうか?」

「う、うん……」

 

 話題をそらされた。それはベルもヴェルフも気づいており、リリの顔を凝視している

 何かがあったのだろうが…今探っても何も出ないだろう

 そう思って酒をまた飲むと大声が上がる

 

「ーー何だ何だ、どこぞの『兎』が一丁前に有名になったなんて聞こえてくるぞ!」

 

 声の主は真横に陣取っていた冒険者の方から、六人がけのテーブルに座っているうちの小人族(パルゥム)が杯を片手に叫んでいる

 

新人(ルーキー)は怖い者なしでいいご身分だなぁ!嘘もインチキもやりたい放題だ、オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」

 

 騒々しかった酒場はその幼い少年のような声に響き渡る

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