ダンジョンに転生者がいるのは間違っているのだろうか 作:黒歴史
〜アイズ〜
「ベルさん!?」
一人の影が決河の勢いで店外へと消える。瞬く間の出来事に、酒場にいた大半は何が起きたか把握出来ずにいた
困惑したざわめきがあちらこちらから燻り始める
「あぁン?食い逃げか?」
「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」
周囲と同じ反応をするベート達を尻目に、アイズは一人立ち上がる。鍛え抜かれた動体視力は弾丸のごとく疾走した影の正体を詳細に捉えていた
(あの時の……)
店の出入り口まで進んで、柱に手をつきながら外を見回したが、少年の姿は見えなかった
(ベル……)
少女が叫んだ名前を小降りの唇に乗せる
背中を叩く仲間達の呼び声より、その名前がやけに自分の胸へと響き渡った
「ほいほい、アーイズぅ。何やってるんー?」
「……」
先程の音頭を取っていた女性が背後に立ち、両腕をアイズの腹部に回して来る。息がかかるほど体を密着させ、恥骨をアイズの臀部に押し付けて来た
この
…と一瞬の思考が過ぎりつつも、アイズは困った顔で回された手を取ってひねり、肘鉄、相手が後退したところでその頰っ面へ張り手をかました
「ちょ、めっちゃ乱暴しとるやん……!?表情と行動が全く噛み合ってないよアイズたん……!?」
「変なことしないでください」
もみじのできた頰を抑え涙目になる相手はプルプル震えていたかと思うと、すぐに復活して「クーデレなアイズたん萌えー!!」と叫び出した。非常にそれから目を背けたくなった
「まぁまぁ、そんな顔せんで。ベートと飲みたくなくなったんなら、ミア母ちゃんに頼んで店の外に吊るしてもらうから」
そう言われるがまま中に入るとリヴェリアがベートに何か質問していた
「そういえば、『二人組』と言ったな、もう一人はどうなったのだ?話の内容では生きているのは分かるが…」
リヴェリアの言葉にアイズはハッとしたあの少年がいるのならあの木刀持っていた人もいるかもしれないと、あの少年に謝る機会を与えてくれるかも知れないと
「ああそういえば、そのもう一人は何でミノタウロスを相手にしていたと思う?」
「何で相手していたの?」
「…木刀だ」
「「「……は?」」」
アイズが探す中、ロキを含め話を聞いていた全員が変な声を出す。ベートが話を続ける
「木刀一つでミノタウロスと張ってた。Lv1の雑魚が…だ。木刀は砕けたが、足止めはしっかりとしてたぜ?アイズも見てた
そんでアイズがどうやってそれほどの力をつけたか聞いたら断って、逃げ出しやがった」
「追わなかったの?」
「いや、とっ捕まえる気でいたんだが、力が急に抜けて…そんで俺達二人から逃げやがった」
アイズは店の中をしばらくキョロキョロしていると
(…いた)
見つけた。黒目黒髪の青年、なんだか雰囲気が怒りを表しており、どんどん【ロキ・ファミリア】に向かって歩いている。そしてベートに近づくと声をかけた
「どーも、トマト野郎の仲間で〜す」
全員がその青年には目を向けた。少し沈黙した後、最初に口を開いたのはベートだった
「なんだぁ?お前が出てきたって事はさっき出て行ったのはトマト野郎か!はっ、恥ずかしくなって逃げちまったか!つくづく情けねえ野郎だ!
そんでお前は何しに来た?まさかさっき言葉に文句でも言いに来たか?」
ベートが笑う。それに対して青年は話しだした
「まあそうなんだけど…9割くらいは文句ないな。お前は間違ってない。あいつとは3年くらいの付き合いだが…まあよくドジ踏むし、弱いし、兎だし、臆病だし、今まで甘やかして来たから明日からビシバシ鍛えてやろうと考えてたところだ」
「ハッハッハ」と青年は一人で笑った後、「でもな?」と続ける
「見ての通り俺達は弱小ファミリア、いつも金欠、ダンジョンで稼いでもお前達と比べれば大した金額も稼げてはいない、五千ヴァリス稼げたら喜ぶレベルだ。それでもあいつは毎日めげずにダンジョン潜ってんだよ。自分の事を弱いと自覚してる奴がだ。お前はそんな俺の
「はっ、そんな事か?さっきも言ったがゴミをゴミと言って何が悪い?最終的に悪いのは弱いトマト野郎だろ?
俺の間違ったとこは何処にある?」
ベートがそう言うと青年は目を冷たくし、言い放った
「いいからさっさと撤回しろよ。ゴミ野郎」
その言葉を聞いてベートの怒りに火がついた
「…今なんつった?」
「うん?怒っているのか?えーと、なんだったか…
…そうそう!『ゴミをゴミと言って何が悪い』…だったな?」
「ちょっと表出ろ!!!」
そう言ってベートが外に足を進め、青年もそれに続く
止まっていたアイズを含めた【ロキ・ファミリア】の全員が慌てだした
「あの人、Lv1ですよね!?助けないと!!」
「フィン、あのままじゃあの青年が死ぬぞ」
「…ロキ」
「やめい、男の勝負に水をさすのは野暮ってやつやろ?ベートも殺しはせんやろうし。それに…なんか面白い事が起きそうな気がすんねん」
ベート達の方は準備が整ったらしい
「一発だけ受けてやる!!!その後お前みたいなLv1の雑魚が俺をゴミと言った事を後悔しやがれ!!!」
「おっそうかそうか。んじゃ、お言葉に甘えて…」
〜ヤミさん〜
数日前の事だ。ワンピースを読んでいた俺はある事を思いつき、試したくなった
「ベル坊、少し試したい事があるから付き合ってくれ」
「うん、良いけど何するの?」
「デコピン」
「…え?」
俺の言葉にベルが頭の上に『?』がつきそうな顔をする
「まあ気持ちは分かるが取りあえずやるぞ?」
「う、うん」
ベルは目を瞑る。俺は何もしていない指でベルにデコピンをした
「…痛いか?」
「…ちょっと痛いけど大丈夫」
「んじゃ次だ」
「うん」
さっきので安心したのかベルは目を開けた状態で待っている。俺はさっきとは違い、デコピンをする指を闇を纏わせデコピンした。するとどうだろう
「イッッッッタァァァァッッッ!!!!」
さっきはなんともないと言っていたベルがおでこを抑えて転げ回っている。数分で治ると涙目になりながら問いかけてきた
「…何したの?」
「ああ、どうやら俺の魔法、冒険者にとって脅威でしかないらしい」
「どう言うこと?」
俺はLv1の拳を握りしめる。ニヤニヤと笑う獣人に許された一撃を喰らわせるために
『「無効化する」ってあったろ?あれは魔法も無効化できるが…』
俺は闇を拳に纏わせる。許された『一撃で終わらせる』ために
『【
その拳を引きしぼり、全力で殴りつけた
『闇で触れて一瞬でも触れている間、【神の恩恵】が消えて、それで得た全てが消える。つまり…』
獣人に当たる普通はLv5がLv1の全力の一撃を受けたところでなんともはいはずだが…
『冒険者に対して俺の
そこはピクリとも動かず気絶したLv5の敗者と当然と言った表情のLv1の勝者がいた。辺りがシィンと静かになる。俺は『フーッ』と息を吐きだした
「あんまり見下して下ばかり見てると極稀にこうなる事があるかもだから、気をつけて…聞いてないか…
…【ロキ・ファミリア】の皆さんすいません。団員一人気絶させてしまいました」
そう言うと小人族の人が答えてくれた
「いいよ。ベートも悪いところはあったんだし、気絶しているベートに変わって非礼を詫びよう」
「いやいいですよ。もうスカッとしましたし、俺はこれで失礼します」
そう言って帰ろうとすると「まてい」と後ろから声がして止められる。振り返ると胸のない女性がいた
「アンタ、名前とどこのファミリアに所属してるか教えてくれるか?」
「…ヤミ・カズヒラ、所属は【ヘスティア・ファミリア】です」
それだけ言って足早にその場を後にすると後ろから『あのドチビの?!アイツ凄いの拾いよったな…』と聞こえた